見慣れた町をただ歩く。十七歳の秋のことだった。
俺は、中学に通っていた頃はそこまで悪さをする様な奴じゃなかったと思っている。
だけど、高校に入ったらもう何もかもが敵に見えた。だから、皆に舐められない様に俺は悪さを繰り返していた。…まあ、当然のことながら、停学。一回目だったし、停学の間は勉強とかいう嫌な事も強制はされていない。もちろん、テストも無いから楽だった。
何日かして、学校から連絡があった。停学期間が終わったらしい。
でも、学校に行ったら行ったで、他の生徒は俺を避けた。俺は、皆に舐められないように尖って見せた。そんなこんなで、二回目の停学。まぁそれも楽でいいし。三回停学になったら退学と聞かされ、親はもうカンカンだった。
その日から、俺は部屋にこもり、日々を過ごした。停学期間が終わっても、部屋から出てこない俺を見て、親は最初はずっと怒っていたが、もう諦めてしばらく経った。
ある日、親がいない日に家のチャイムが鳴った。俺はそんな音を無視し続けたが、何回もチャイムが鳴り続くしつこさに参ってしまった。
渋々インターホンに出ると、女の声がした。
「…なんだよ。」
俺の隣のクラスの新人教師だった。
「あんたが出てくるまで来る。」
と言い、その日はすぐに新人教師は帰った。
俺が出てくるまでとか、嘘だろうな。どうせいつかは来なくなるんだろう。
その時はそう思っていた。しかし、新人教師は本当に毎日来ては俺に小うるさく説教してみせた。
「意気地なしだ」とか「このままだと退学だ」とか、ほかにも好き勝手に言われた。でもそんなことは俺が一番わかってるよ!そんなことを毎日そいつが来ては聞かされる。毎日勢いが全く緩む気配も無い。もしかしたらこのままだと地獄まで着いて来られそうだった。
俺は、その勢いで「もうわかったから、明日から顔出すよ」と、つい言った。
その時の新人教師の笑顔が一番俺に効いたような気がした。
久々に行った学校。でも来たら来たで厄介な日々だった。今まで学校に行ってなかった分のツケが響いてしまった。
赤点が何個もあり、どちらにしても進級は厳しそうだ。
…居心地が悪い。皆俺を相手にせず、それぞれのしたい事をしていた。
でも、あいつがやってくる放課後。ただそれだけが俺の学校に行く理由と言っても過言ではなかったのかもしれない。
新人教師のあいつは、受け持ち外の教科も補修もしてくれた。毎日、俺とあいつは日が暮れるまで教室に居残った。まあ、段取りが良いとは言えなかったが、あいつの俺に対する必死な目から逃げられなかった。だから、俺もついつられて頑張った。あの時のあいつにはすごく感謝しているよ。
そのおかげで俺は進級することができた。俺は新学期をむかえた。
…でも、どこにもあいつが居なかった。
噂によると、だいぶ遠くの街に急に決まった“異動”らしい。
俺は、不思議に思い、色んな先生に聞き出そうとしたが、なかなか答えてくれる奴は居なかった。そこで一番知っていそうな教頭を捕まえて、俺はやっと聞き出すことができた。
「挨拶もなしでなんであいつは辞めたんだ?!」
すると、思いもよらない回答が返ってきた。どうやら、俺の面倒を見すぎて関係を疑われたらしい。
「ふざけんな!」
怒声が校舎に響く。あいつは今どこにいるんだ?!
…でもどのツラ下げて会いに行ける?やり場のないこの気持ちは風に消えた。
見慣れない街をただ歩く。俺がハタチの秋。俺が進学とか笑える話。あれから少しだけどツレも出来た。…実はささやかな夢も出来た。
そんなある日、電車で俺は寝過ごし、知らない駅で降りた。終電も逃し、タクシーを乗る羽目になってしまった。…最悪だ。俺のバイトで稼いだ金が少し消える。
そんなふてくされた俺の目に飛び込んできたのは嘘みたいな運命だった。
少し髪が伸びたあいつがいた。と思えば向こうも気がついた。もう会えないと思っていたもんだから、物凄く嬉しかった。積もる話が止まらない。でも俺が伝えたいのはこんな言葉じゃないんだ。
俺は意を決して勇気を出した。
その時、彼女に迎えが来た。
少し俺より年上の男。その男の胸には彼女に良く似た子ども。
「出会って二年、籍も入れたんだ」
そう言って彼女ははにかんだ。俺の知らない笑顔を見て、出かかった言葉を押し殺した。
…最後に「ありがとう」だけ伝え、その場を離れた。俺は何年かぶりに涙が出た。
この涙の二つ目の意味は俺だけ知ってりゃ、それでいいや。
十七歳のあの時の思い出と一緒に。
END
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!