幼なじみのパンツを食べたいだけの人生でした。   作:Y=

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疲れたよパトラッシュ……






 

「……すうっ……ふぅっ…………」

 

 寝苦しいのだろうか、わずかに荒れた鼻呼吸が聴覚に届き、パンツの福音に破壊されなかった唯一の感覚器が、脳に最後の警告を送ってきた。

 つい先刻この部屋に入ったときには寸とも感じなかった異常な緊張感が、視野をぐにゃりと曲げていく。

 

 ナオに手を出すなんて、正気じゃない。

 いくらパンツを食べたいからと言って、一番の親友を裏切ってまで手を伸ばすパンツが、どこに存在するというのか。

 

 いや、それは違うと、砂漠をさまよう亡霊の声が聞こえた。

 俺は、パンツを食べたいんじゃない。

 ナオのパンツを食べたかったんだ。

 

 インターネットで閲覧した女性用下着に興奮しなかったのは何故か。

 あれらは、ただのパンツだったからだ。

 

 ベランダで、ナオのブラジャーや靴下、その他の衣類に目を向けなかったのは何故か。

 俺は、ナオのパンツ、ただそれだけが食べたかったのだ。

 

 他の衣類には付着しにくい膣分泌物質が欲しかったとか、より強いナオのフェロモンをより効率良く取り込みたかったとか、そんな陳腐で卑小で即物的な理由ではなく、純粋にパンツを食べたかった。

 

 例えナオのパンツを食べたとして、すぐに洗って太陽光で殺菌してしまえば、完全犯罪の完成だ、俺の行いは俺以外の誰かが知るところではなくなる。

 自分のパンツを食べられたと気付けば、ナオだって深く傷つくだろう。

 二度と口をきいてもらえないことは想像に難くない。

 

 だから俺は、ベランダに干されていたナオのパンツを、彼女に知られないように頬張り貪るようにしゃぶって味わい尽くしたのだ。

 

 では、目の前で寝ているナオの、今現在穿いているはずのパンツを欲する理由は?

 すさまじく非合理的、穿いているパンツを脱がされれば、さしものナオも目を覚ますはずだ。

  

 足りてない?

 欲求不満?

 

 一体何が、俺をナオの生パンツへと駆り立てるというのだ。

 

「…………」

 

 ベッドの側に立って、改めてナオの寝顔をじっと見つめる。

 右頬を枕にうずめて、掛け布団の端を体の下に巻き込んで、気持ちよさそうに午睡を味わう彼女は、本当に無防備で愛らしかった。

 

 パンツの中で、気色悪い粘液の感触が暴れ回っている。

 整理できない巨大な欲求のうねりが胸の中で渦巻き、激しい奔流となって俺の全てを洗い流していく。

 受験のこととか、人間としてのプライドとか、今日やる予定だった勉強の計画とか、罪悪感とか、自分への怒り、失望、来るべき衝撃への期待感、バレてしまうかもしれないことへの背徳的な興奮、必要か否かに関わらず、自分の中から大切なモノがどんどんと抜け落ちていって、それらを頑張って思い出そうとしても形にならない。

 

 ナオの足元、布団の端へと腕が伸びる。

 側頭部が熱くなる。

 心臓の音がうるさい。

 

 体の外へと漏れ出てしまうほどに強くナオの生パンツを食べたいと思うのは、一体何故なのだろう。

 そもそも、何故ナオのパンツを食べたいと思うのだ。

 どんな奇特な小説にも映画にも、親友のパンツを食べたくなる人間など出てきたことはないだろう。

 

 こう考えてみたらどうか。

 俺はナオのことが好きだったのだ。

 異性として好きだったのだ。

 何年も思い出を共有しながら過ごしてきて、ナオとどうこうなろうなんて思ったこともなかったが、俺はこうも強烈にナオのことを意識し、ナオのパンツを、ナオに最も近い『場所』を欲している。

 だから、ナオのパンツを食べたいと思うのだ。

 でなければ、友達のパンツを食べようとは思わないはずだ。

 その証拠に、クラスメートの『タケムラシンジ』のドピンク・トランクスを食べたいかと問われれば全力で否定するだろうし、ダブルスの相棒である『ハネダイオリ』のもっさり・ブリーフをしゃぶる想像などすれば、昼飯のチャーハンが今にも逆流しそうになる。

 

 いや、確かに俺はナオのことが好きだが、それはナオのパンツを食べたい理由にならない。

 少なくとも、先ほどのパンツ・テイスティングの際の射精を考えれば、この衝動は性欲に因るものであるはずだ。

 

 何故、こんなにも愛しいのだろう。

 

 愛と性欲の違いが分からない。

 

 ナオに対して抱く愛しさも、ナオのパンツに対して感じる愛しさも、それが愛なのか性欲なのか判断つかない。

 自分の中で何となく形作られていた『愛』の抽象が、どこまでも掴み所のないドロドロとしたものに変わってしまって、まるで精液のようだ。

 

 そんなどうでもいいことを考えているうちに、俺の指先はナオの掛け布団に触れていた。

 

 その一瞬で、頭の中でぐるぐると蠢いていた思考すべてが虚空に置き換わった。

 

 俺は生まれたての赤子のごとき純白な心持ちで、クリーム色の卵巣を掴んだ。

 この中にうずくまっているのは、犯すべからざる神聖なナオ(パンツ)だ。

 

「ん……」

 

 瞬間、ナオが寝返りを打ってうつ伏せになり、剥がされかけた肌色のヴェールをさらに巻き込んだ。

 白いうなじにかかる黒髪、僅かに覗いた華奢な足、()の色が見せる穢れない艶やかさに、俺はハッとした。

 ふたまた試験管を初めて目にした時に感じた、エロスのメタファーに対する感動と興奮にも似た何かが胸を突いたのだ。

  

 ああ、分かった。

 パンツは真理なんだよ。

 パンツを食らわば嚥下まで。

 

 これは性欲ではない。『()()()()』だ。

 

 微妙に脚に絡んだ掛け布団は、そっと捲りあげることなど到底不可能に見える。

 だから何だというのか。

 俺には、実在よりもずっと厚い掛け布団の下に、ナオの()()太ももと、小さく魅力的な臀部を包む絹の宝物が見えるのだ。

 もはや思いとどまる理由などどこにもなかった。

 

 布団を握る手にくっと力を込め、ほっそりとしたふくらはぎを露わにさせる。 

 

「……んっ……!」

 

 この部屋は暖房で少し暖かいが、布団から出た足が寒いのだろう、ナオはモゾモゾと体を動かし、布団を蓑虫のように巻いていく。

 まるで俺の蛮行に気付いて、そうはさせまいと抵抗しているかのようだ。

 そのヒメコスモスの花のようないじらしさに、心臓がきゅうきゅうと締め付けられるような愛しさと幸福感を感じる。

 だが、そのささやかな抵抗は俺のパンツへの情熱に薪をくべただけだ。

 

「……んっ……んっ…………!」

 

 布団を挟み込んだ膝は、相当な力を入れているように感じた。

 ベッドに乗り込んで、無理矢理に引き離してしまう。

 もう何があろうと知ったことか。

 

 明確な将来像もなく、大人に言われたことをこなすだけの自分に空虚さを感じることが何度もあった。

 ひたむきに目の前の課題をこなしているとき、ふと、自分は一体何のためにこんなことをしているのかという雑念に襲われたこともある。

 なんという些事だろうか。

 俺の十八年間は、今日この日のためにあったのだと、今ならはっきりと分かる。

 素晴らしい感動だった。

 どんなことがあっても、この俺の口腔内には、一分の後に我が人生が詰め込まれるのだ。

 なんという幸福か。

 

 布団を引き剥がす。

 ついにはナオの腕が伸びてきて布団を押さえ始めた。

 知ったことか。

 撫でたくなるような滑らかな膝も、余分な脂肪がなく揉みしだきたくなる太ももも、今の俺には目の保養でしかない。

 

「……ぁっ……だ、だめ……」

 

 うるさい、天使俺はすでに堕ちた、もはや慈悲などない。

 オーガズムを導け。

 

 さあ、年貢の納め時だ。

 視姦()ろ。

 脱がせ。

 食むのだ。

 命よりも尊きナオの生パンツとご対面——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………待て。

 

 ズボンはどこだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、ナオのパンツはそこに存在した。

 そこに鎮座するのが当然のように、神霊宿るがごとく神聖さを纏ったまま、例のリボン・ショーツはそこにあった。

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 ナオの秘部を守るべき天使の羽衣は本来の役目を忘れ、代わりに彼女の細い太ももが挟み、幼くも成熟したヴァキナにあてられていたのは。

 

 

 俺が履いてきたランニングシューズだった。

 

 

 少し汚れてボロくなった緑色の蛍光ランニングシューズ、一ヶ月に一度洗いながら三年間大切に使ってきた毎朝の相棒、受験期も朝のランニングは欠かしたことがなかった、受験が終わったら洗おうとここ三ヶ月は洗っていない、最近は近所へ出歩くときもコイツを履いていた、ついでに今日の天気は快晴、絶好のパンツ日和だ。

 

 だが、俺のランニングシューズはテカテカと濡れていた。

 

 純粋無垢たるパンツ欲に満たされていた脳は理解不能を導き続け、そして、一分の後に俺はすべてを悟った。

 

 

 

 

 




伏線回収もちゃんとやったし、まあ安πなオチですね。
妥協したつもりはないのに、さらなる高みの存在を感じている自分がいる……。
高次元にたどり着くための発想力が足りない誰か助けて

そんな感じで、そっと完結させました。
今読み返してみてもワケの分からないことが多くてびっくりしてます。
      E j a c u l a t e ! !
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