…が、正直納得できたかは疑問であります。たぶん改訂するでしょう。やっぱり思ったことを文章で表現するのはむずかしいですね。
『こちらデアフリンガー、敵を発見。ポイント0052、センチネルとヘッツァーを確認。』
試合開始から数十分…ゲルダム高校の偵察車輌が大洗の戦車を発見した。
「やはり丘陵地帯へと向かうか…となるとⅢ突が後続しているかな…。」
高地から敵車輌を狙い撃ちにする作戦と見た将美の読みが的中した。昨年の黒森峰女学園との決勝戦序盤。大洗の戦車6輌は高地に陣取って戦った。こうして数輌を仕留め、ヘッツァーのおちょくり作戦で足並み乱れた黒森峰は大洗の突破を許し更に優位なゲリラ戦を行える市街地へと場所を移され、切り札である超重戦車マウスも本隊と合流する前に撃破されてしまった。
黒森峰と同じドイツ製の戦車を主力としているゲルダム学園相手なら同じような戦法をとってくる可能性が高いと考えた将美はその読みが的中しほくそ笑んだ。まずは脚の速いヘッツァーとセンチネルで高地を確保して長砲身での砲撃を見舞う。だが今回はその手は使えない。開始する際のくじ運はゲルダム陣営に味方しており市街地も高地も大洗より近い状況なのだ。
『敵車輌新たに確認、M3リーです。』
「M3?」
しかし続く報告に将美は首をかしげた。
「威力偵察か?」
長砲身による狙撃と読んでいたがⅢ突ではなくM3が来ている。これはおかしい。こちらへの偵察かそれとも陣地を造り防御戦術に出るつもりか。どちらにしても大洗の戦術とは思えない。
『どうしますか?』
「一旦待機。シェーア、シュペーはどうか?」
下手に手出しをさせずに他の車輌へ訊ねるが…。
『敵影なし。』
『こちらも同じく。』
その他の報告からは敵の存在は確認されず。
「南西からセンチネル、ヘッツァー、M3が北上中…残る6輌今だ見つからず…」
改めて地図に情報を書き込んでさらに検討を重ねる。他の敵集団が向かっているとの情報も確認されていない。
「丘陵地帯を占拠するにしてはおかしい…」
たった3輌で占拠しての戦いなど現状で得策とは言い難い。
「となると…相手の狙いは狙撃地点の確保に見せかけた挟み撃ちか!」
挟み撃ち作戦と判断した将美はただちに指示を出す。敵のおおよその位置を策定して偵察隊の向かう先を指定する。間もなく網にかかるだろうと考えつつ彼女は更に考えを巡らせた。挟み撃ちからの更なる一手を敵が用意している可能性もあるからだ。
「ともかく相手は決して油断ならん…。」
口酸っぱく繰り返す将美。彼女は大洗との戦いが決まったあの日のことを思い出す。
「お待たせしました。」
高校戦車道全国大会マッチング抽選会の行われた後のちょうどみほ、優花里、梓が戦車喫茶ルクレールに居た頃。将美は都内でとある人物に会っていた。
「いえ、時間通りです。久し振りですね、サミーシャ。」
「ノンナさん、わざわざすいません。」
約束した駅前にて将美を待っていたのはプラウダ高校前副隊長のノンナであった。半袖シャツに薄手のカーディガンを羽織ったロングスカート姿でいつものポーカーフェイスで将美に続けて口を開く。
「いえ、カチューシャにも頼まれましたから構いませんよ。」
それだけ言うとノンナはスタスタと歩き出した。将美はその左後ろに続く。これから2人で遅めの昼食をとる予定だ。
「ではここにしましょう…」
しばし歩いたところでノンナが案内したのは半地下の洋食屋であった。
「いらっしゃいませ!洋食のねこやへようこそ!!」
すぐさま自分たちと同世代くらいの変わったデザインの髪飾りを着けたウェイトレスが明るく出迎える。
「2人です。」
「かしこまりました!お好きなお席へどうぞ!」
昼時を過ぎた店内には空きテーブルが多いため案内は省略された様だ。斜め後ろに控える将美を促そうと振り返るノンナ。
「…」
「どうしました?」
するとなぜか不思議そうな表情で将美は左手を顎にあてていた。
「いえ、なんだか今のウェイトレスの声が…なんとなくノンナさんに似てたような…」
「?…そうですか…」
将美の言葉に小首をかしげつつ適当なテーブルに2人で座る。すぐに先ほどのウェイトレスが水を運んできたところで2人は料理を注文した。ノンナは先ほどの将美の指摘が気になったのか少し警戒気味であった。
「先ほど二ーナの方から連絡を受けました。」
「はい、相手としては最高だと思います。」
「手強いですよ。」
「のぞむところです。」
ノンナからの言葉に握りこぶしをつくって応える将美。既に彼女にはファイトが溢れ始めている。普段はクールに己を律しているが初出場の大会で昨年の優勝校と戦えるとあって戦意旺盛であった。
「カチューシャ先輩との約束、大洗を倒して必ずや果たしてみせましょう。」
彼女の脳裏に思い出すのはかつてカチューシャと交わした約束だった。
『カチューシャをびっくりさせるような戦車乗りになってまた戦いましょ!』
『はい!先輩もお元気で。』
そんな言葉を交わす将美とカチューシャ。かつて戦車道東北ジュニアユースの二軍メンバーだった将美はエースであったカチューシャに気に入られていた。九州代表との試合ではカチューシャから自身の車輌の砲手に抜擢され敵車輌3輌の撃破に貢献するなど活躍を見せた。だがこの日、彼女とカチューシャの2人は別れなければならなかった。
『いい?絶対に戦車道を続けなさい。そうすれば必ず会えるから。』
『カチューシャ先輩!ありがとうございました!』
試合が終わり夕陽に染まる試合会場で将美はカチューシャを肩車して2人で泣きながらロシア民謡の『カチューシャ』を唄った。そして数日後、彼女は鳥取へと引っ越して行ったのだった。
「プラウダの面々も意気高く今度の大会に臨んでいます。昨年の全国大会での敗北、そして冬の優勝記念杯、プラウダは雪辱を果たす前に敗れました…。」
記憶を辿っていた将美を現実に引き戻すノンナの言葉。そこには微かな悔しさが含まれていた。
大洗女子学園優勝記念杯記録
優勝・黒森峰女学院
準優勝・聖グロリアーナ女学院
第三位・サンダース大学付属高校
第四位・大洗女子学園
ベスト8プラウダ高校
アンツィオ高校
継続高校
西呉王子グローナ学園
準々決勝にてプラウダはサンダースと山岳ステージで激突。プラウダが連携を崩した一瞬の隙を突いたサンダースのファイヤフライによってカチューシャのフラッグ車は撃破されプラウダは大洗への公式戦による最初の雪辱の機会を逸してしまったのだ。
「新参校だからって舐めて貰いたくはありません。ゲルダム高校は決して生半可な気持ちで参加してるわけではありません!」
「…楽しみにしています。私もカチューシャも。」
そしてしばし無言で2人は料理を待った。
「お待たせしました!オムライスとミニコロッケのセット、ビーフストロガノフのセットです!」
「ありがとう。」
「…どうも。」
料理を運んできたウェイトレスへと素直に礼を述べる将美とノンナ。パンのおかわりがサービスであることを伝えるとウェイトレスは他のテーブルの客に呼ばれて行った。それを見届けて2人はスプーンを手にそれぞれのメイン料理を一口…。2人は頷いて自らの選択が正しかったことを認識した。
ノンナと会ったときのことを思い出す将美。別れ際にもう一度彼女は言った、『決して油断するな』。不利な状況からの逆転こそ大洗の得意技である。
「全員決して単独行動は避けよ。お互いの位置を絶えず意識して安易な誘いに乗るな。」
何度も言ってきた注意を促して将美は今一度己を引き締めた。
『こちらすずしろ小隊澤です、丘陵地帯見えました。』
「了解、敵が潜んでいるはずですから注意してください。あくまで目的は挟み撃ちだと敵に思わせて、絶えず後方に注意して逃げ道の確保を忘れないで下さい。」
現在分かれて作戦行動をとっている仲間からの報告を沙織が伝えみほが返す。報告してきたのは臨時編成のすずしろ小隊、進撃して来るであろう敵の左翼をつく形になる様に進む大洗陣営の3輌、センチネル、ヘッツァー、M3リーによって編成されている。指揮をまかされたのは副隊長澤梓である。
『こちらなずな小隊エルヴィン、予定通りに進撃中。』
一方では敵の右翼をつく形でⅢ突と八九式が進撃している。こちらはもう1人の副隊長エルヴィンが指揮を執っている。
「間もなく敵と遭遇するはずです。敵はおそらくフラッグの私達アンコウチーム、火力の強いレオポンさん、カバさんに目をつけているはずですからとくに注意を。」
そして一拍の休みを挟んでみほは言い放つ。
「うずまき作戦まもなく第2段階へ移行です!」
「Ⅲ号2輌で敵小隊追撃開始!」
「よし、残るⅢ号ゲーベンとⅣ号ティルピッツを進出、奴等は挟み撃ちに見せかけた側面からの一撃離脱戦法を狙っている。」
各隊列を若干変更しつつ進撃していたゲルダム陣営がついに敵の配置を突き止めた。将美の戦略眼は大洗の作戦を見事に暴いたのである。
「こちらエルヴィン!!Ⅳ号が向かってきた!どうやら読まれていたらしい!」
『了解です。無理せず逃げてください。』
エルヴィン率いるチームが発見され逃げに移る。しかしこれこそが狙いなのだ。
「これで敵は三方向に分断された。」
「うまく捕捉できれば一気に決するぞ!」
カエサルと左衛門佐の言葉におりょうがニヤリとする。
「動き出したな。」
「三方向に散りつつ敵と各個に交戦。」
「問題は敵のフラッグ車をどこで補足するか。」
一方でこちらはカメさんチームの歴女トリオ。こっちも敵の追撃をかわしつつ作戦を進める。
「ここ一番!皆、しっかりⅢ突を守り抜くよ!」
Ⅲ突の後ろを走る八九式の車内では車長磯辺典子が声をあげていた。
「いいな!煙幕は最後の武器だ!根性で行くよ!」
「「「はい!キャプテン!」」」
後方機銃で応戦しつつ気合いを入れるあけび、妙子、忍。
大洗渾身の一撃『うずまき作戦』は着実に進められつつあった。
「敵は一定の方向へ移動しているな…。」
それからしばらく…。ゲルダムの各チームは大洗を追って走り続けていた。
「これはもしや…」
一旦落ち着いて地図上に自軍の最新の位置関係を整理する。現在3つに別れたゲルダム高校の勢力を示す青の付箋を貼りつけ相手の大洗を示す赤の付箋を貼る。そしてペンで相手の動きとこちらの動きを書き込むと…。
「これは…まるで渦のようだが…」
砂漠の荒野に円が浮かび上がる。
「まさか…」
さらに彼女は少し前に送られた味方からの位置情報を比べていく。
『うずまき作戦』、正面からぶつかることが困難なドイツ戦車相手に絞り出したみほ達の新しい作戦。練習試合で行ったイライラ作戦を発展させ待ち伏せではなく機動作戦として立案した戦法である。部隊を複数に分けて敵をそれぞれに引き付ける。そして渦を巻くように全部隊が開けた地帯を走る。つまり全ての部隊がアタッカーであり囮なのだ。そして徐々に輪を縮小させていくとどうなるか…。
「敵の背後をついたぞ!よく狙え!!」
前を走る部隊を追う敵に追い付けば背後をとれる。
作戦を実行する側も大変なリスクが発生するが上手くいけば敵を前後で挟み撃つことが出来るのだ。
『ゲルダム高校、Ⅳ号戦車G型行動不能!!』
『ゲルダム高校、Ⅲ号戦車N型行動不能!!』
ともあれ大洗の狙いはみごとに的中した。有利に思われたゲルダムは一気に窮地へたたされてしまっていた。
「いかん!総員離脱!!煙幕展開!!」
すぐさま各車へ指示を出す。一刻の猶予もならない。すぐにこの渦から脱出しなければ…。
『隊長!!自分が食い止めます!』
副隊長の乗るもう1輌のティーガーⅠが将美の命令に背いて敵に向かおうとする。
「ティーガー2号車!!勝手な行動は許さん!我に続け!!」
『このままではフラッグ車が危険です!Ⅳ号を引き連れて逃げて下さい!』
将美からの命令にも拒否を返す。確かにこのままでは敵に追撃されてしまうのは目に見えた。
「…わかった。すまない。」
「煙幕!総員停止後散開!」
みほの指示にⅣ号、ルノー、三式は急停車するとすぐさま散開した。煙幕に無闇に突っ込むのは得策ではない。またみほには予感がした。戦車に乗り続けてきた彼女だから感じるものが…。
「いた!」
みほがそう言うと煙幕の中から巨大なシルエットが飛び出した。
「ティーガーを視認!各個に攻撃!」
敵のティーガーはまず飛び出した先にいたカモさんチームのルノーを狙ってきた。88㎜砲が空気を切り裂くような砲声と衝撃を発する。
「なんのこれしき!反撃して下さい!」
ティーガーの砲撃に怯まずルノーが車長のサド香の指示で反撃する。車体に砲撃を受けたが流石に車体正面60㎜の装甲を斜めからはティーガーでも貫通出来なかった。
「パゾ美撃ちま~す。」
「マゾ江も撃ちま~す。」
お返しとばかりにこちらも主砲、副砲を一発ずつ見舞う。合わせて反対側からは…。
「喰らえ!」
チヌからの75ミリをもらう。完全なる十字砲火(クロスファイヤ)に捕らえられた。ちなみにⅣ号はチヌの後方に位置しておりティーガーから守られている。
「さすがにティーガー、厚いにゃ。」
ねこにゃーが呟く。2発の75㎜砲弾と1発の47㎜砲弾を受けたが白旗は上がらない。しかし本命はルノー、チヌではない。
「ここだ!」
追撃を諦め引き返し、いまだに燻る煙幕を突っ切ったレオポンチームのポルシェティーガーがゲルダム高校のティーガーの真後ろに出現した。ツチヤとみほの計算通りの場所、砲手の掌に力が入る。
「ファイヤー!」
練習試合より参加している自動車部新入生安藤理音のスコープがティーガーの後部を捕らえていた。
『ゲルダム高校、ティーガーⅠ行動不能!』
敵の副隊長を仕留めた。しかし…
『大洗女子学園、三式中戦車行動不能!』
ギリギリで発射されたティーガーの砲弾をアリクイさんチームが喰らってしまった。正面装甲50ミリの三式チヌであるが同レベルの列強戦車に比べて被弾に弱いのが難であることを物語った一幕であった。
「西住隊長、ごめんにゃ~。」
「公式戦でまた早々とやられてしまうとは…くやしいもも…。」
「…無念。」
アリクイさんチームの面々は意気消沈してしまった。
ともあれこれで4輌の敵戦車を仕留めたことになる。対して大洗はいまだに8輌が健在だ。
『こちらカバ。すまない、隊長車のティーガーを取り逃した。』
一方で敵の隊長車集団を引き返してレオポンと挟み撃とうとしていたエルヴィンからも敵に逃げられたと報告が来た。
「アリクイさんチーム、よくやってくれました。チヌがいなかったらⅣ号がやられていたかもしれません。カバさんチームも無理はしなくて大丈夫です。フラッグは仕留められずとも一気に有利になりました。全車集合します。Ⅳ号のもとへ集まって下さい!」
みほの指示に残る全員が了解と応える。
「こちらの残りはⅢ号2輌にⅣ号3輌、そしてティーガーか…。」
一方でゲルダム陣営が街へと向かいつつある中で隊長の将美が考えを纏めようとしていた。無論のこと彼女も完全に不利な状況で試合を捨てるようなことはしない。覚悟を決めた砂漠のゲルダム軍団は決して動揺などしないのだ。
「全員に告げる。これよりF作戦で敵を分断する。Ⅳ号はそれぞれ街のポイントX、Y、Zにそれぞれ用意して待機せよ。Ⅲ号は我に続け。」
街が見えてくる。砂漠に相応しい石や煉瓦などで造られたゴーストタウン。どのような状況にも対処するべく様々な作戦とシミュレーション、研究を重ねた彼女達の起死回生を狙う戦いの始まりだった。
「大洗よ、ゲリラ戦術はお前達だけのものではないぞ。」
間もなく集合した大洗陣営は各チームのリーダーと副隊長がⅣ号のもとへと集まり地図を拡げて次なる行動を確認していた。
「敵の進路から予想するに…この街へ向かった公算が高いな。」
エルヴィンの指摘に皆も頷く。半数近くに減った戦力を補うために街へ入りこちらを迎え撃つ算段をたてるのは定石と言えよう。
「ここは隊を分けましょう。ウサギさん、アヒルさん、カメさん、カモさんが先行して街へ入って下さい。カバさんは前衛の最後尾へついて入り口で待機、あんこう、レオポンさん、ペンギンさんは迂回して街の反対側から進撃します。」
ペンを走らせ各自の動きを書き込んでいく。再び三隊に別れて機動力を活かして街に攻めこむ作戦が決定された。
「梓ちゃんは前衛隊を、エルヴィンさんは待機しつつ補佐をお願いします。」
「はい!任せて下さい。」
「心得た!」
2人の頼れる副隊長の返答にみほは一層気を引き締めた。
「ではこれより追撃を行います。それから万一に備えて…」
みほの更なる一手が語られた後、大洗戦車隊は次なる決戦場の市街地へ向けて進撃を開始した。
今回先手を征した大洗。舞台は街へと移りますが果たして将美のF作戦とは何なのか?走るⅢ突、吼えるポルシェ・ティーガー。
次回『逆襲のゲルダム軍団です!』
今回は前哨戦と共に将美とカチューシャの過去に言及しました。これが彼女の信念です。そしてカチューシャはこの戦いを見届けて…
なお抽選会の日にカチューシャではなくノンナが会うのは約束を果たしてから会いたいという将美を思ってのカチューシャなりの配慮とノンナの声優さんネタにしたかったからです。