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大洗陣営を迎え撃つべく市街地へと突入したゲルダム高校戦車隊は隊長黒部将美の指揮のもと、一気に逆転を決めるべく用意した『F作戦』を遂行していた。
「各員、予定通りに展開したか?」
将美の搭乗したティーガーⅠから各車へと通信を開く。現在ティーガーⅠは街の北側の出入り口にⅢ号戦車L型1輌を伴い待機していた。
「各車榴弾装填、発砲準備完了。」
「各車発砲!」
通信手からの報告に将美はただちに砲撃を命じた。ただし狙ったのは敵車輌ではない…。
「ん?」
「今のは…」
二手に分かれた大洗前衛隊の最前を偵察のため全速で進むカメさんチームのメンバーはその砲撃音を耳にした。武蔵と十兵衛が同時に声を出した。
「こちら前衛偵察隊のカメ、砲撃音を確認!」
武蔵が咽頭マイクに叫びただちに全車輌にカメさんチームから報告が飛んだ。
「了解、各車警戒しつつ進撃を続行してください。」
前衛隊の指揮をとる副隊長澤梓が応え指示を送る。現在彼女はアヒルさん、カモさん、カバさんを従えて進撃していた。
「何を発砲?」
「うーん…街を破壊してどこかで潜むつもりとか?」
大野あやの疑問に山郷あゆみが応えるが今はまだ判断材料が少ないので何とも言えない。街に潜んでいることは確実であろうが果たしてどんな作戦で待ち構えているのだろうか…。
間もなく前衛隊は石やレンガ造りの砂漠のゴーストタウンへとたどり着いた。
『前衛隊、市街地へ到着。これよりウサギとカモ、カメとアヒルに分かれて索敵にかかります。』
『我らカバチームは入り口で待機する。』
敵の発砲から間もなく前衛隊は街へと到達した。入り口周辺を警戒するも敵の姿は認められずこれより突入にかかる。また万一に備えてカバさんチームは入り口付近で待機することとなった。
「了解です。重ねて言いますがくらぐれも注意して下さい。絶えず周囲に気を配り、お互いの背中をガードを忘れないように。」
敵の奇襲に備えるようにみほは指示を出して自らが率いる二輌と共に街を迂回する。目指すのは前衛隊が入った入り口と反対側だ。
市街地の大通りから少し細めの道へとゆっくりと進むM3と八九式の2輌。それぞれのハッチから身を乗り出した梓と典子が周囲を警戒。またいつ敵に後ろをとられても良いように典子は発煙筒も用意していた。
「…敵影なし。」
「ネガティブ。」
まず街のいくつかのブロックに分けて探索を行うことにした前衛隊はウサギとアヒル、カモとカメでタッグを組んでそれぞれ南西、南東部分で行動している。
「敵発見ならず…」
「敵はいずこ…」
南東部を中心に捜索する方でも同じように武蔵とサド香が警戒を厳にしていた。そんな中で2手に分かれたグループはあることに気づいた。
「こちらカメ、街の東部入り口は瓦礫で塞がれている。」
「こちらウサギ、西部の街入り口通行不能です。」
どちらもほぼ同じタイミングで発見した。もしやさっきの砲撃はこれが目的だったのか。入り口を制限して叩く手かとも思ったがそれだったら入り口で待ち伏せするだろうし閉じ込めるつもりならⅣ号は外にいるからとくに問題にはならない。
「一端中央に集合してください。」
さらに時間をかけた探索の末、敵発見に至らなかったことから残る街の北部に潜んでいることは明白となった。梓は一旦前衛隊全車両を集合させることにしたが実は既にゲルダム陣営は大洗の動向を掴んでいたのである。
『敵車輌M3、B1、八九式、ヘッツァー、中央広場に集結。』
味方の偵察員からの報告を受けた将美は相手が予想通りの作戦にはまったことを確信した。
「よしっ!ではこれよりF作戦第2段階へ!Ⅳ号ザイドリッツ、パンツァーフォー!」
逆転するチャンスはここしかない。間もなく待機していたⅣ号が敵の集結している中央へと走った。
「敵Ⅳ号発見!」
街の中央へと大洗前衛隊が集合したその時、ついに敵車輌が姿を現した。
「追撃します!」
梓が発見を報告して追撃を宣言。すかさずカメさんとカモさんが続く。
「後方警戒は私達に任せて下さい!」
『ウサギチーム、我らカバチームはこのまま待機する。』
一方ではアヒルさんが殿を務めカバさんは待機。敵に背後をとられるなどの挟み撃ちを警戒しての判断である。
敵のⅣ号を追う前衛隊は街の北側へと進路をとった。
敵発見の報告を受けたあんこうチームのⅣ号内部…
「敵のⅣ号が1輌のみということは街の中で他の車輌が潜んでのゲリラ戦術が妥当ですね。」
優花里が持論を述べる。そうなるとさながら自分達が知波単との練習試合で決行した『いらいら作戦』に近い作戦となる。ならば周囲を警戒厳として決して敵に分断されないことが重要だ。
『こちら前衛隊の澤です。敵戦車は街の北側へと…あっ!』
「ウサギさんチーム、どうしました?」
『敵のⅣ号さらに2輌発見、街の北側出入り口前に陣取ってます。追いかけていたⅣ号と合流して計3輌!』
「北側に3輌を配置…。」
「まさか引き付けての挟み撃ちとか?」
その報告にすぐみほが手元の地図に書き込み沙織が考えを口にする。なるほど行動範囲の限られる街中の通りで挟み撃ちというのも考えられる。しかしフラッグのいないグループに仕掛けたところで貴重な戦力を消耗するばかりであるからその公算は薄いだろう。
依然として残るティーガーとⅢ号はどこにいるのかわからない…。
『これより交戦します!』
「気をつけて無理せず戦って下さい。こちらも反対側の街の入り口へ…」
その時だった。
ズドォォォンッ
「砲撃!」
みほの耳にあまりに聞き慣れたドイツ製アハト・アハト砲の轟音が届いた。
「8時の方向砂丘上にティーガー視認!」
『大洗女子学園巡航戦車センチネル、行動不能!』
隣を走っていたセンチネルが狙い撃たれた。すぐにみほがキューポラから身を乗り出して振り返りティーガーを見据えた。
『こちらペンギンチーム、すいません。背後を突かれました。』
ペンギンさんチームのリーダー澄からやられたと報告が届いた。
梓率いる前衛隊はⅣ号と交戦し、突破を試みようとしていた。
『カバチーム、これより隊長車輌の支援に向かう!』
ひとまず街の反対側にいたカバさんチームが全速で支援に向かう。前衛隊の方があんこう、レオポンに近い位置に居るが街を戻っていては時間がかかりすぎる。敵を撃破した方が早いと判断を下したのだ。
「喰らえ!」
気迫をこめて発射するヘッツァーの砲弾が出口に陣取った左手のⅣ号を仕留めた。
『ゲルダム高校Ⅳ号戦車G型、行動不能!』
「よし!早く突破して支援に行こう!」
まず1輌を仕留め次へと狙いを定める。が…
「狙いにくい…」
倒した敵車輌が邪魔をして狙えない。そして一同は気がつく。これでは敵を倒しても敵の戦車が道を塞いでしまって突破できないのではないかと。急がないと孤立したフラッグが危ない。
「梓、ひょっとしてこれは…」
「あゆみもそう思う?」
さらに二年生以上のメンバーにはこの状況にデジャブを感じた。
「…ふらふら作戦。」
めったに喋る事の無い紗希の呟きが答えだった。
対大洗のためにゲルダム高校の用意した起死回生の作戦。それは昨年の全国大会で大洗が黒森峰女学園に仕掛けた『ふらふら作戦』である。街へと誘い込みゲリラ戦術による反撃に見せ掛けフラッグを孤立させる作戦。そのための用意を隊長黒部以下全員が周到に行っていた。まず4つある街の大きな出入り口を砲撃で2つ寸断してⅣ号で敵を追撃させつつ陣容を把握。あんこうがいれば街の外へと誘い出し孤立させる。そのため高い建物3つに偵察員として隊員を配置、徹底した監視のもとで作戦を遂行させたのだ。彼女らにとって幸運だったのはあんこうを含む小隊が外周を通るルートをとったことだった。期せずして敵のフラッグを孤立させやすい状況が作られたのである。
「いかんぞ!このままではフラッグが討ち取られてしまう!」
Ⅲ突の車長席上ハッチから愛用のゴーグルを着用したエルヴィンが叫ぶ。救援に急ぎ向かうカバさんチームは焦っていた。今みほたちは2対3の戦いを強いられている。あんこうもレオポンも大洗の中では主力中の主力だが相手は砂漠戦を得意としているのは明白。敵は街の内部にいると踏んだことが完全に裏目に出てしまった。
「真理音!とにかく敵を近づけるな!」
「了解!」
「これでも喰らえってんだ!」
レオポンチームのリーダーツチヤは必死に操縦してⅣ号を敵からカバーしつつ指示する。砲手の理音も懸命に砲塔を旋回させ装填手の柳原まろんが悪態つきつつ砲弾をぶちこむ。直後に響くはポルシェ・ティーガーのすさまじい砲撃音だ。
「まずは敵ポルシェ・ティーガーの履帯を狙え。Ⅳ号の動きも絶えず確認して機動力を奪うのだ。」
一方のゲルダムフラッグ車輌では冷静に将美はⅢ号へと指示を下す。無理に撃ち取るのではなくポルシェ・ティーガーの脚を不随にして確実にⅣ号を仕留めにかかる手で行くようだ。街にいる仲間の情報ではⅢ突がこちらに向かってきているがまだ時間はかかる。今こそゲルダム逆転のチャンスであった。
『隊長!ポルシェ・ティーガー履帯破壊!』
Ⅲ号シェーアからの報告でついにポルシェ・ティーガーの脚を封じたことを確認した。
「よしっ!一気に攻めるぞ!敵のⅣ号を狙え!ポルシェ・ティーガーはこちらが仕留める!」
動けなくなったポルシェ・ティーガーの息の根を止めるべくティーガーⅠが狙いをつけた。
ドォォン
ティーガーⅠの主砲が火を噴いた。しかし…
「うおぉぉぉぉっ!!」
ツチヤはただではやられなかった。残る片方の履帯を無理矢理EPSで超加速した状態で回したのだ。信地旋回の形でポルシェ・ティーガーはギリギリでティーガーⅠの砲撃を回避。
「当たれぇ!!」
返す刀でこちらの主砲をお見舞いする。ティーガー対ティーガーの戦いは…
『大洗女子学園、ポルシェ・ティーガー行動不能!』
ゲルダムのティーガーⅠが征した。ポルシェ・ティーガーの放った砲弾は信地旋回を停止した際に足下の砂が傾いたために狙いがずれて弾かれてしまい反撃を喰らったのだ。
「チクショー!」
ポルシェ・ティーガーの車内にまろんの悔しさのこもった声が響いた
あんこうの支援に向かうカバさんチーム
「レオポンもやられたか!」
「いかん!おりょう急げ!」
「これが精一杯ぜよ!!」
レオポンチーム撃破の報せにあせるカエサル。急かすエルヴィンだがおりょうは全速であると返す。左衛門佐はいつでも撃てる様に静かに集中してはいるがその手には嫌な汗が滲み始めていた。
応援席では…
「あんこう負けるな~!」
必死に腕を振り上げて応援する羽村晴香、隣に座る見晴も手を組んで祈るようにモニターを見つめる。葵はと言うと腕を組み真剣な眼差しで静かに見据えていた。
そしてティーガーⅠの車内では将美が勝利を確信して愛用の指揮棒を振るった。
「よしっ、残るはフラッグのⅣ号だ!すぐに仕留めるぞ!」
ついに大洗を追い詰めた。Ⅳ号は機敏に動いてⅢ号2輌と巧みに組み合っていたがティーガーⅠも加わるこの状況。敗北は時間の問題だった。
その時だった。
ドンッ
突如将美の乗るティーガーⅠの近くに砲弾が着弾し砂が舞い上がった。
「なんだ!?」
明らかにⅣ号でもましてや撃破されたポルシェ・ティーガーでもセンチネルでもない砲撃。着弾の規模からして小~中口径と思われることからⅢ突でもない。それ以前にⅢ突が到着するにはまだ時間がかかるはず。
「あれは!?」
そしてキューポラから身を乗り出した将美は街とは反対側の先ほど自らが陣取った砂丘とは違う砂丘にたたずむ1輌の戦車を発見した。その姿は砂漠用の迷彩が施され、側面には首をもたげて舌を出したコブラのイラストが描かれていた。
「大洗秘密部隊、コブラチーム見参!」
車長兼通信手兼装填手赤城烈和が気迫をこめて宣言し砲弾を装填する。砲手の春田聖がくわえた楊枝を噛み締めてスコープに集中し操縦手の小森欄に指示する。
「小森、もっと寄れ。こいつで確実に仕留めるには極力近寄り弱点を突くしか無い。」
「まかしとき!」
「俺はあれにかかる。一発撃ったら敵とあんこうの間を駆け抜けろ!」
そう言うなり烈和が車長席の周りでごそごそとする。
「突撃ぃぃぃ!」
大洗の思わぬ戦力が乱入した大洗とゲルダムの戦いはついに佳境を迎えるのであった…。
ちょっと短いです。たぶんまた加筆するような気がします。新チームと戦車については次回ご紹介します。
次回予告
ゲルダムと大洗ついに決着の時。カチューシャは将美に何を伝えるのか?そして会場には不適に笑う人物がいた。
次回『切り札と約束です!』