そして大洗に来た新戦車は…
大洗女子学園とゲルダム高校の戦いは佳境を迎えようとしていた。
「あれは…」
自らの近くに着弾させた戦車の姿を見て将美は信じられないという声をあげた。
「さ、38t軽戦車だと!?」
砂丘から砲撃を行ったのはかつて復活した大洗戦車隊初期の1輌、チェコスロバキア製軽戦車38tであった。
「バカな!大洗の38tはヘッツァーに改造されたはずだ!」
将美の言うとおり大洗は昨年の戦車道全国大会決勝の際にヘッツァー改造キットを購入し無理矢理改造した。しかし砲塔と主砲やその他の備品は大切に保管されていたのだ。
「今です!」
38tという予想外の乱入車輌に驚いた敵車輌の隙を華は見逃さなかった。Ⅳ号の75ミリ砲がⅢ号を捉えた。
ドォン!
『ゲルダム高校、Ⅲ号戦車N型行動不能!』
虚を突かれた一撃。これでスペック差はあれど2対2となった。
「こっちも喰らえ!」
新チームのコブラさんチームのリーダーであり車長である赤城烈和の気迫と共に主砲が放たれる。
「筑波さん、38tの登場に相手さん方は驚いてるみたいですね。」
「大洗の切り札である10輌目がいるとは思いもしないでしょう。」
大洗の観客席ではこの38t復活に関わった2人の男が試合の模様を見つつ話をしていた。
「嬉しいもんですね。自分の手掛けたものが活躍するのをこの目で観れることは。」
そう言って画面に表示されたシークレット枠の戦車、38tを見つめるのは戦車ショップ大洗女子学園艦店の店長代理筑波洋である。
「私もお手伝いをしたかいがあるというものです。」
そう言うのは大洗に戦車パーツなどを卸している業者の津辻練馬であった。かつて大洗を廃校に追い込んだ学園艦教育局の辻漣太のそっくりさんである。そのためか試合が始まった頃は大洗応援席にちらほらいる大洗の生徒からはヒソヒソとされていた。
『38t復活計画書』
これが生徒会へ提出されたのは5月の半ばのことであった。
「38t軽戦車?」
たずねてきた戦車隊長のみほと優花里から渡された書類を生徒会長がペラペラとめくる。
「はい、昨年改造を施したヘッツァーの前身車輌であります。」
「それを復活させるとはどういうことですか?ヘッツァーを元に戻すので?」
それだったらわざわざ生徒会の許可は必要ではない。会長は机の前に立つ2人に上目使いで問う。
「いいえ、実は38tの車体を新しく購入したいんです。」
「…詳しく聴きましょう。」
みほと優花里の説明が始まった。まず現在戦車倉庫で保管している38tの砲塔と以前自走砲改造した際のパーツに150ミリ砲、そして4月に発見されたセンチネルと共に保管されていた備品で規格の合う戦車がないために使用できないものを下取りに出そうと大洗女子学園の戦車ショップ店長に見積りの相談をしたのだが…
「優花里ちゃん、それだったらいっそ38tの車体を買わない?」
そう返してきたのは戦車ショップの店長代理である洋であった。
「車体でありますか?」
思わぬ提案に優花里が聞き返す。
「うん、グリーレのパーツに150ミリ砲と使わない備品、これだけあれば下取り額が結構なものになるし車体を買うなら断然戦車買うより安いよ。」
そう言いながら戦車関連パーツのカタログ等で洋は説明する。確かにいつもの業者を介して下取りすれば安価で戦車が1輌確保できる。
「なんなら口利きしてもいいし整備手伝うよ。」
「店長代理!本当でありますか!?」
優花里はこの提案に飛び付いた。
説明を聴いた生徒会長の了承ももらい38t軽戦車の復活が正式なものとして動き出した。またこれは極秘の計画として一部のメンバーにのみ通達され自動車部ではなくこの話を持ち込んできた戦車ショップの店長代理である洋と協力してくれた卸し業者の練馬の手によって進められ、新チームの乗った大洗10輌目のシークレット車輌として登録しここぞと言うときの切り札にされたのである。
大洗のメンバー、そしてその復活に携わった人達の期待を受けた38t軽戦車が応えようと果敢に敵車輌へと突撃を敢行した。先ほどの攻撃は命中したもののさすがにティーガーにはかすり傷程度にしかならなかった。
「煙幕用意!」
しかし目的は当てることだけではない。キューポラから身を乗り出して叫んだ烈和は用意された発煙筒数本を一気に点火して周辺にばら蒔いた。間もなく辺り一面煙に包まれ完全にお互いどこにいるのかが分からなくなってしまった。
「おのれ!小癪な!」
周囲を見回して将美はすぐに判断を下し自分の車輌と僚機のⅢ号に指示を出した。
「前進だ!煙幕を突破しろ!」
とにかくも脱出が先決だ。しかし…
「なっ!?」
「わっ!?」
なんと左側からさらに煙幕を投下していた38tが突っ込んできた。向こうも驚きの声を上げスピードを下げる。しかし…
「小森!そのまま前進だ!」
なんと38tはそのまま体当たりを仕掛けてきた。間髪入れず37ミリ戦車砲が火を噴く。
ガキィィィンッ
だが多少の傷をつけるにとどまった。至近距離とはいえ上向きで放った37ミリ砲ではティーガーの砲塔側面装甲80ミリを破ることは出来なかったのだ。
「隊長!近すぎて主砲がっ!」
しかし密着されてしまったがためにティーガーも主砲を向けても撃破出来ない状態だった。
「落ち着け!後退して…」
一旦下がりいまだ漂っている煙幕に逃げ込もうと将美は判断した。もし前に出て敵に履帯でもやられたら万事休すである。その時だった。
「!Ⅳ号!!」
振り返った将美の正面に煙幕を突っ切ったⅣ号が姿を現した。すぐさま砲塔を回すが間に合うわけもなかった。
「撃て!」
「てぇっ!!」
みほの指示を受け華が引き金を引いたとき、同じく煙幕を突破したⅢ号が同時に主砲を放つ。Ⅳ号の主砲弾はティーガーの車体後部を直撃し、Ⅲ号はⅣ号の左側のシュルツェンを吹き飛ばした。
『ゲルダム高校フラッグ車、行動不能!よって、大洗女子学園の勝利!!』
ジャッジの声が響き、目の前でパタパタと翻る白旗を見つめながら将美はなぜⅣ号がすぐ近くに現れたのかを悟った。
「あの38tの砲撃か…」
「やった~!勝った~!やっぱり華は最高の砲手だよ~!」
「五十鈴どの、見事な一撃でした!!」
飛び出した先にいたティーガーの弱点を的確に砲撃した華。
「いえ、麻子さんの操縦のお陰です。」
Ⅳ号をベストの位置へと飛び出させた麻子。
「いや、西住さんが敵の位置を耳で捉えたお陰だ。」
そして38tの砲撃から敵の居る位置を正確に判断して指示を出したみほ。
「ううん!皆の団結のお陰だよ!優花里さんも絶えず装填を続けてくれたし、沙織さんはコブラさんチームの報告もきちんと伝えてくれたから。」
Ⅳ号の中であんこうチームはお互いを称え合う。誰かが欠けてもこれはなし得なかったであろう。一時は危機に陥ったが諦めないチームワークが大洗に勝利をもたらしたのだ。
『西住隊長、やりました!』
通信が来たところでみほはキューポラから外へと顔を覗かせると横に今回の殊勲者とも言うべきコブラさんチームの38t軽戦車が来ていた。
「コブラさんチーム、あなた達が今回の試合のMVPです!本当にありがとうございました!」
「西住隊長、本当ですか!?」
「フォッフォッフォッ…」
「照れてまうなぁ~」
リーダーの烈和はみほの称賛に嬉しそうに聞き返し、砲手の春田聖は不敵に笑う。操縦手の小森欄も嬉しそうに頭を掻きながら笑う。大洗新チームのデビュー戦は充分過ぎる戦果を上げたのであった。
一方のゲルダム高校隊長車輌では…
「隊長、申し訳ありませんでした。」
ティーガーの操縦手が車長席に座る将美に謝罪する。彼女が「自分の腕が未熟で…」と続けたところで将美が遮った。
「君達は充分ベストを尽くしてくれた。これ以上何も望まないよ。」
そう言って愛用のヘルメットを外し髪を指で梳かした。
「しかし、隊長はこの大会のために誰よりも努力されてました。」
「そうですよ。大好きな深夜番組も観ないで自分達のために…」
今度は砲手と装填手が口を開いた。通信手はうつむき言葉を選んでいるように見受けられる。
「はっはっはっ、皆ありがとう。」
軽く笑って将美は続けた。
「私個人の結果は出せなかったが、皆の気持ちはよくわかった。それだけでもこの試合、充分意味があった!」
そして今一度メンバーの顔を見て言う。自分達に残されたこの試合で為すべきことを…。
「さぁ行こう!戦車道は礼に始まり礼に終わる。皆で大洗を称え礼を示そう。」
将美はキューポラから這い出して背伸びをする。彼女は遠くに運営の回収車の姿を認めたのであった。
「やった~!あんこうが勝ったー!!」
応援席にいた晴香は両腕を振り上げて大洗の勝利を喜ぶ。
「なっ?言った通りだろ?」
同じテーブルについた見晴に片目を瞑りいたずらした様なちょっと子供っぽい表情で語りかける葵。ホッとした様な感じで見晴は答えた。
「ほんとに、あなたの言う通りね。」
そう言いながら画面に釘付けになって拍手をする娘に視線を向ける。
「いつかはこの子もあそこへ行くのかしらね?」
娘のことが少し心配なのであろうか?しかし親としては娘を応援したいのもまた本心であった。
「まだ先のことだけど…俺は晴香を応援したいな。」
そう言いながら葵はテーブルに置かれた見晴の右手に自分の左手を重ねる。
「大丈夫さ。俺もついてるから。」
夫の真っ直ぐな視線と意見を受けて、見晴は静かにうなずいた。
「大洗ばんざーい!あんこう最高だぜー!!」
一方では橋下団長以下大洗応援団がいつの間にやら合流してきた教官補佐や整備の立花藤兵衛らと共に声を張り上げて大洗の勝利を祝っていた。
「これも一枚…」
そして一文字隼人はそんな彼らの姿もカメラに収める。その姿を横で見ていた風見志郎は再びスクリーンへと向き直る。そこには激闘を乗り越えた大洗メンバーの笑顔が大きく映し出されていた。
『『ありがとうございました!』』
試合が終わり両校のメンバーが一堂に会して挨拶を交わしていた。『礼に始まり礼に終わる』。戦車道の礼儀であった。
「完敗です。砂漠戦で有利な状況で我々は大洗に翻弄されっぱなしでした。まだまだ未熟者です。」
「いえ、ゲルダムも強かったです。38tがいなかったら、あんこうはやられてました。」
試合が終わり互いに握手をしながら将美とみほはお高いを称賛する。
「それにフラフラ作戦をコピーされたことにも皆動揺しましたし…」
振り返ると大洗にとって一時期フラッグ車輌が孤立する危機にあったのも事実だった。もしも38tを近くで行動させていなかったらⅣ号はⅢ突が到着する前にやられてしまったであろう。
「ゲルダム高校は強敵でした。」
「西住さん…」
みほの素直な一言に将美は揺れ動く。
「ミホーシャ!サミーシャ!」
そんな彼女らに声がかけられた。その場にいた一同が顔を向けるとそこにいたのは…
「カチューシャさん、ノンナさん。」
プラウダ高校の前隊長カチューシャと彼女を肩車した前副隊長のノンナであった。みほが声をかけるとカチューシャは下ろされて2人でゆっくりと歩いてきた。
「サミーシャ、久しぶりね!」
みほと将美の横までやって来て腕を組んで意気高く語りかけるカチューシャ。将美は少しうつむき加減で口を開いた。
「…カチューシャ先輩。」
「よくやったわ!ミホーシャを相手にあそこまでやり抜くなんて。」
消沈気味な将美を称えるカチューシャは続けて言った。
「もうすっかりいっぱしの隊長ね!冬の大会が今から楽しみだわ。」
「…」
「約束おぼえてるわよね?」
言葉を返せず固まる将美に続けて問いかけるカチューシャ。すぐに彼女は返事をした。
「勿論です!忘れたことはありません!」
「約束は果たされたわ。次は必ず勝ちなさい。」
カチューシャがいつかみほにしたように右手を差し出した。
「…はいっ!」
「大学で待ってるからね!カチューシャをがっかりさせないでよ!」
尊敬する先輩からの言葉を受けて頷く将美の瞳からは一筋の涙が零れた。彼女は両手でカチューシャの手を握り答える。自らの行ってきたことが間違ってはいなかったことがこれほど嬉しいことだとは思いもしなかったことだろう。
そしてその姿を見たノンナが拍手を始め、その輪はやがて大洗、ゲルダムのメンバー全員へと拡がって行ったのであった。
「さすがみほさんですわね。」
少し離れたところでそんな彼女らを見ている人物がいた。すっかり陽が落ちて涼しくなったことで必要の無くなった麦わら帽子を抱えてほほえみながら彼女は続ける。
「でも…次はどうかしら?」
聖グロリアーナ女学院の前隊長ダージリンはそう続けると背を向けて歩き出した。
数日後…ワッフル学園と聖グロリアーナ女学院の試合は聖グロに軍配が上がった。大洗と聖グロ、公式戦では初対戦となる因縁浅からぬこの対戦カードは両校のチームはもとより、多くの関係者や他校のチームも一段と注目したのであった。
そして少し時間を遡った5月後半の聖グロリアーナ戦車倉庫…ここには隊長のオレンジペコ、副隊長となったルクリリとローズヒップが集まり整備班によって最終チェックが行われていた車輌に注目していた。
「これが…」
今まで扱ってきたマチルダⅡと比較してその存在感に圧倒され言葉が詰まってしまったルクリリに目の前の車輌から目を離すことなくオレンジペコは言い放った。
「ブラックプリンス、別名『スーパーチャーチル』です。」
ダークグリーンに彩られた大口径砲を備えた重々しいその姿。高さは抑えられているものの全長と重量、そして見た目の威圧感は重戦車と言っても通用することだろう。
「すごいですわ~!なんて頼りになりそうな戦車でしょう!」
ローズヒップが戦車の周りを回ってそんな声を上げる。チャーチルよりも一回り大きいその姿は今まで関わってきた戦車とは一味も二味も違って見える。
歩兵戦車ブラックプリンス
全長約8.8メートル
重量51トン
最高速力時速19キロ
正面装甲152ミリ
主砲オードナンスQF17ポンド砲登載
聖グロリアーナがほこる歩兵戦車チャーチルを強化した最後の歩兵戦車である。速力は装甲や主砲の強化のために犠牲になっているものの登坂能力や不整地での走行は安定しており、また正面装甲はティーガーⅠやチャーチルの約1.5倍、主砲は連合軍で最も優秀とされたオードナンスQF17ポンド砲を採用。まさに最後にして最強の歩兵戦車である。
「しかしOG会もよく了承してくれましたね。」
「ダージリン様が方々で話を通してくれました。それにOG会も大洗を強敵であると認めています。」
ルクリリの発言にオレンジペコが答える。聖グロリアーナ女学院ではOG会にて派閥が存在していて主にチャーチル派、クルセイダー派、マチルダ派の三派にわかれており、使用する車輌は彼女らの意見が大きく反映される。その他後援のために資金提供なども行われているために行われていることでもあるが聖グロの前隊長ダージリンは卒業を前にOG会に訴えたのだ。
「大洗をはじめ次期大会はこれまで以上の激戦が予想されます。面子に拘り続けることは聖グロリアーナの勝利を阻害することに疑う余地はありません。」
ダージリンはOG会の幹部を前にこう切り出した。実際公式戦では対戦したことのない大洗だが練習試合ではⅣ号との至近距離からの撃ち合いを制し、エキジビションマッチではプラウダのカチューシャが盾になったことで勝利した。ギリギリではあるが勝利をおさめてきた聖グロリアーナだが大洗で開催された冬季鍋選抜大会では引き分けとなっている。
「皆様はこんな言葉をご存じでしょうか?『誇りは気高いが…過剰になれば傲慢だ…』。」
こうしてダージリンの説得を受けたOG会はこれまでにない戦車の導入に同意したのである。
「大洗のみならず各校強力になっているとみて間違いは無いでしょう。そのためにも…」
そう言うとオレンジペコは振り返った。そこには数歩下がるように控える人物がいた。
「よろしくご指導お願いいたします。キリマンジァロ様。」
名を呼ばれた人物、西呉王子グローナ学園前隊長キリマンジァロは畏まって返答した。
「聖グロリアーナのお力になれるならこのキリマンジァロ、喜んでお引き受けいたしますわ。」
かつて自身が乗っていたブラックプリンスの扱い方を教えるためにダージリンが呼んだ助っ人であった。大洗がセンチネルと38tを用意したように、聖グロもまた大幅な強化を施した戦力を整え来るべき大洗との戦いに備えていたのである。
新戦車は復活した38tでした。なおここで改めて本作の生徒会のメンバーは華、優花里、沙織ではないことを明記しておきます。
そして次の相手は聖グロリアーナ、それも最強の歩兵戦車ブラックプリンスも登場します。そこでリトルアーミー2からキリマンジァロの登場と相成りました。自分はブラックプリンスが一番好きな戦車です。しかし次回はまだ聖グロとの戦いではありません。
次回予告
見事白星を飾った大洗、意気高く次なる敵との戦いに備えるが一人の女子生徒がメンバーの目に留まる。新たなメンバー登場か?
次回『2人の"のりこ"です!』