それとコメントにてたいへん失礼をいたしておりました。
名前#任意の文字列様、4月にいただきましたコメントの返信をした際に名前を間違えておりましたことを改めて謝罪させていただきます。半年も気付かず気分を悪くされたことでしょう。申し訳ありませんでした。
『祝・大洗女子学園・戦車道全国大会一回戦突破!』
昨年使われた垂れ幕が再び屋上から吊るされ大洗女子学園の勝利を宣伝していた。登校してきた生徒達は口々に
「さすが、うちの戦車隊」「今年も良いとこまで行くかな?」「あ~やっぱり戦車道とっとけば良かった」という具合に校門を通過する。
「本日も特に異常なし…。」
校門脇に立つ風紀委員であり戦車隊の一員である佐上円香ことサド香は手元の用紙に書き込みながら周囲を見回す。遅刻魔の麻子も最近は朝練習等もあり遅刻はしていない。
「あと15分…。」
愛用の腕時計で門を閉める時間を確認していると…。
「のりこ、今からでも遅くないかもよ。」
「でも…」
そんな彼女の近くで話をする2人の生徒がいた。思わずのりこと言う名前に同じ戦車道メンバーの磯辺典子かと思いそちらを向くが…
「?」
「良いの?いつまでも負け犬呼ばわりされてて!?」
「…私には…もともと何も取り柄なんか無いし…。」
そこにいたのはバレー部の典子では無かった。赤みがかった髪を肩まで伸ばし、黄色いバンダナを着けたどちらかと言えば磯辺典子と同じバレー部のメンバーである近藤妙子に似た"のりこ"は友人とおぼしきハイビスカスの髪留めを頭頂部に着けてお団子にして後ろに髪を長く垂らした女子生徒に何やら説得されている様であった。
「根性だけは頼りなんじゃ無かったの!?」
「私は根性なんて無いし…戦車なんか…。」
友人からの言葉に強い調子でのりこは背を向けと発言した。
「私は戦車なんか乗りたくない!!」
「のりこ!!」
駆けていく2人の女生徒の背中を見ながらサド香は呟いた。
「戦車に乗りたくないか…。」
「2年F組高屋のりこ、昨年度10月より沖縄県中央女子高等学校通称『オキジョ』から大洗女子学園に転校。なお選択必修科目は書道。」
戦車道ブリーフィング室にて生徒会から拝借してきた資料を読みあげるサド香。
「サド香、この生徒がどうかしたの?」
横からそれを見るのは現風紀委員長のゴモヨ。興味があるのか室内にいたみほ、優花里、カエサル、梓も集まった。
「いえ、そうではありません。」
そこでサド香は今朝のことを話した。
「もしかすると戦車道に関わったことがあるのかなと…。」
「オキジョと言えば戦車道よりもむしろタンカスロン(強襲戦車競技)の方が有名ですね。」
優花里が顎に左手をあてながら言うとカエサルが尋ねる。
「タンカスロン?我々も昨年参加したあの小型軽戦車や豆戦車だけで行う野良試合?(リボンの武者)」
「はい!!BC自由学園などと並ぶ西日本におけるタンカスロンの5本の指には入ります!」
「ひょっとするともとはそちらの方なのかもしれませんね。」
優花里の返答に続き梓が発言する。
「でも戦車道やりたくないって言ってるってことは…」
「もしかすると私と同じ…」
「西住殿…。」
のりこの発言を黒森峰から来た頃の自分と重ねたみほに優花里が声をかける。彼女は少し考え発言した。
「少し調べてみましょう。」
その夜、熊本県黒森峰女学園学生寮
「オキジョにツテがあるかですって?何よ藪から棒に。」
黒森峰女学園戦車道隊長逸見エリカは自室でベッドに腰掛けながら電話を受けていた。ちなみにいつもの制服やパンツァージャケット姿ではなく黒の半袖シャツに同色のショートパンツ姿である。
『ごめんなさい、前にエリカさんがそれっぽいこと言ってたから。』
「よく覚えてたわね。まぁ良いわ、2、3日以内に連絡するから。1つ貸しよ。」
相手は大洗のみほからだった。以前は顔を見ればみほに恨み節をぶつけていたエリカであったが昨年の戦車道全国大会と黒森峰訪問(ドラマCD)、北海道決戦を経て今ではかつてのような良き友人、良きライバルと言える仲に戻っていた。
『うん、ありがとうエリカさん。試合頑張ってね。』
「それはお互い様よ、次はあなたこそ聖グロ相手にするんだから気を抜かないことね。それじゃ。」
『うん、お休みなさい。』
携帯を切って室内の壁掛けカレンダーに目をやる。みほ達も自分達も次の試合が着実に近づいていることを改めてエリカは考えた。黒森峰の次の相手は継続高校。総合的には黒森峰が有利だが油断ならない相手である。
2日後、大洗女子学園戦車道のもとに逸見エリカからのファックスが送られてきた。
『高屋のりこに関する報告』
高屋のりこ
年齢16歳、大阪府出身、12歳のときに沖縄へ引っ越す。父親は海上自衛隊の故高屋勇造海将。15歳、沖縄中央女子高等学校入学、タンカスロン部に入部するが7月に退部し10月に大洗女子学園に転校する。なお当初は9月の転校予定であったが廃校騒動(劇場版)のため10月までずれ込んだ。
「たった3ヶ月で退部して夏休み明けに転校…。」
「何かあるのは間違いないな。」
「それなんですけど…」
カエサルとエルヴィンの発言を挟みみほは続けた。
なお退部の理由は本人の意思であるが部内での虐め等。主任監督兼コーチの抜擢により6月より隊長車輌の砲手担当になるもこの頃より、上級生を中心に彼女への風当たりが強くなりついには練習試合中に味方に罠にはめられ隊長車輌脱落の上敗北の全責任を押し付けられる。
「ひどい!」
「あんまりじゃないか!!」
梓とカエサルが続けて声をあげる。実際ひどい話だ。
「隊長のパートナーに選ばれたやっかみだな。」
冷静に意見を出すのは冷泉麻子。さらに持論を上乗せする。
「それにもしかすると親のコネを使ったと思われたんじゃなかろうか。」
「あり得ますね。オキジョはなかなか位の高い学校でもあります。」
優花里が麻子の発言を補足する意見を出す。他人との軋轢や不和はチーム戦にとっては致命傷。一致団結を基本理念にしている大洗にとっては無縁なことだが出る杭や気に入らないものを打つというのはよくあることでもある。実際みほは黒森峰に入学した当初はそういう扱いも受けたりしたものであった。
なお第三者機関は動かなかったものの学校では虐めを認定し問題を起こした生徒達は直ちに退部及び一部退学、タンカスロンも2ヶ月間の活動停止となる。報告書の最後を読み上げた時、室内には思い空気が立ち込めていた。
翌日の朝、いつもの時間に目覚めたのりこはいつものようにジャージの上下にランニングシューズ、タオルを首にかけたジョギングスタイルで街中を走る。
『1.2 1.2 1.2』
頭の中でリズムをとりながら駆けて行く。タンカスロンをやめても完全に毎朝の日課としてしみついて止められなかった。
「おはよう!!」
やがてとある十字路で人に出会う。
「磯辺先輩、おはようございます。」
その人物は大洗女子学園3年生、バレー部キャプテン磯辺典子であった。彼女に限らずのりこはたまに朝バレー部の面々とは出会うことがままある。2人ののりこは並走してジョギングを続ける。
「暑くなってきて走るのもなかなかにしんどいね。」
「そうですね。あ、そう言えば先輩、戦車道おめでとうございます。見てましたが本当に凄かったですね。」
世間話に華を咲かせながら坂道を登る。
「いやいや、私達の八九式は敵を倒してないよ。」
「でも昨年から偵察や囮に活躍してるじゃ無いですか。」
「まぁそこは根性だよ!」
「根性…。」
それは自分の一番の取り柄だったこと。父と母、そして尊敬する先輩、コーチ、ボーイフレンドからも賞賛されたもの。
『お前の根性は素晴らしい。だがそれだけでは勝つことはできん!お前に抜けているのは努力だ!』
『のりこならできるよ。いつものど根性見せてくれよ。俺応援してるからさ。』
恩師とボーイフレンドからの言葉が頭によぎる。時おり思い出してしまう辛い記憶だった。
「バレーも戦車道もやってみる気はない?」
典子の言葉で意識が現在に戻ってきたのりこは横に首を振った。
「…私は…そういうのは…。」
「そっか…。」
実に残念だった。仮メンバーではあるがコブラさんチームの赤城烈和も加えていよいよメンバーの数が揃いかけている現状で高屋のりこは有望株だと典子は睨んでいる。しかし本人の意思で拒否されていてはどうにもならない。ため息を呑み込み気を引き締めて典子は走ることに集中するのだった。
「遅れてすみません。」
その日の戦車道の練習に典子は担任から頼まれごとをされたので少し遅れてしまった。事前にたまたま通りかかった歴女チーム7人に伝えたので問題は無かったのだが戦車道倉庫に入るとみほ、梓、エルヴィン、カエサル、サド香が寄ってきた。
「磯辺さん。」
「紗希から聞いたんですが高屋のりこさんと一緒にトレーニングしてるんですか?」
入ってきて早々、待っていたみほと梓に質問される。どうやら自分がトレーニングしているところをよく朝に散歩をしている丸山紗希に見られていたらしい。
「ん?朝のジョギングをたまに一緒にしてるけど…。」
「実は…」
「そうか、だからスポーツとか戦車道とか敬遠してたのか。」
みほ達からのりこの事情を聴いた典子は納得した。彼女の受けた仕打ちがトラウマとなっていたと確信する。
「何度か勧誘してみたけど、どうにもやりたくないって。」
「あの…」
典子がそう言った時、1人の女子生徒が倉庫の扉を開いて入ってきた。一同が目を向けるとサド香が口を開いた。
「あなた、たしか高屋さんと一緒にいた。」
「すいません、私良波しゅりと言います…。」
「何か?」
「あの…そののりこのことで…」
「私、沖縄出身なんです。中学の時にこっちへ来まして。同じ沖縄から来たのりこに声をかけて、友達になりました。」
「それで先日、九州に学園艦が入港したときに一緒に上陸したんです。でもその時…」
『久しぶりねぇ全滅娘!!』
『少しは反省したかしら?』
『あんたにはなに一つ才能なんて無いのよ。』
『おかげでどれだけ私達が迷惑を掛けられたことか。』
『負け犬は負け犬らしくおとなしくしてなさいよ。』
「突然罵声を浴びせられて…のりこに聴いてみたら前の学校の先輩達だったって…」
「なんて奴等だ。」
「戦車道の風上にも置けんな。」
しゅりの話に先日にも増して憤りを見せるカエサルにエルヴィンが続く。
「自分達のしたことに何も気付いていないどころか虐めた相手を罵るなんて!」
「風紀違反も良いところです!」
典子は友人の受けた仕打ちに拳を握り、サド香は河島桃から譲り受けた片眼鏡を外して目を瞑る。みほはそんな中で少しうつむきつつしゅりに問いかけた。
「それで…高屋さんは?」
「言われた通りだって…自分が悪いんだって…」
しゅりの言葉にその場にいた全員が何も言うことができなかった。
「でも…」
しゅりの続く言葉に皆が顔をあげて聞き入る。
「その時ののりこは…悔しそうに見えたんです。すぐにいつもの表情に戻しましたけど。でも本当は戦車に乗りたいんじゃないかって思ったんです。」
付き合った時間はまだ短いかもしれないが、しゅりは確かにそう思ったのだ。のりこは元来負けず嫌いで、本当は見返してやりたいのでは無かろうかと…。その時だった。
「話は聴いた。」
「羽村教官!!」
いつの間にか教官の羽村葵が入り口に立っていた。そしてその場にいたメンバー達に自分の考えを話す。
「その高屋さんのコーチをしていた人に心当たりがある。ちょっと連絡をとってみるから今日の練習は筑波達の指示に従ってくれ。」
「失礼します。」
さらに翌日のこと、葵はのりこを教官室へと呼び出した。
「急に呼び出して申し訳ない。高屋のりこさんですね。」
机に座っていた葵が立ち上がって出迎える。
「自分は戦車道教官の羽村です。楽にしてください。」
そう言って以前みほと優花里と話をした時のテーブルの椅子をすすめる。彼女は少し躊躇したがすすめられるままに座ると葵も対面に座った。
「早速ですが、あなたは沖縄女子中央高等学校でタンカスロンをしてましたね?」
「…はい。」
勧誘されるのだろうか…どうやって断ろう。
「部活や選択科目には口出ししません。あなたの好きなものを始めれば良いです。ところで…」
前置きをしたうえで少し間を置いて続けた。
「天野…いや、大田浩一郎という方を知っていますか?」
「!?」
「やはり…」
その名前を聴かされたのりこは両目を見開いて驚いた。
「コーチのことをご存じなんですか!?」
慌てたように問うのりこに葵は頷いて答えた。
「はい、今は東京におられます。」
「東京に…」
「高屋さん、彼に会って下さい。」
「えっ…。」
思わぬ人物の名前と葵の言葉に意図を掴みかねたのりこは固まってしまう。
「お願いします。」
葵はそんな彼女に頭を下げる。
「コーチに…何があったんですか?」
少し間を置いて口から出た言葉は少し震えていた。
「それは直接本人の口から聞くべきです。もしお会いするなら、あなたを案内しましょう。」
「…」
『高屋!!お前の取り柄は根性だ!決して折れない不屈の根性だ!ここに努力が重なればお前はさらに強くなれる!』
『良いか!?お前はただの小さな火にすぎん。しかしだ!!お前がパートナーと完璧に息をあわせて立ち回れば、2人の火は一つとなり、炎となるのだ!!何者にも負けない炎に!!』
大田浩一郎、かつてのりこを戦車教官として指導した人物。厳しい人だったが的確な指導と教練はのりこ達にとてもありがたいものであった。自分が辞めた頃には一身上の都合のためと一切会うことが出来なくなってしまった恩師に再会出来るかもしれない。のりこの答えはひとつだった。
「…会います。会わせて下さい!」
「ここです。」
「ここは…」
後日…葵はのりこを連れて東京都内のとある大学病院へと来ていた。
「今は御結婚された天野先輩は昨年7月に倒れて入院、12月にこの病院に転院されました。」
2人で受付へと向かい面会手続きを済ませてエレベーターに乗る。2人を乗せたエレベーターは6階で止まった。
「自分が陸上自衛隊の戦車学校に入ったとき、天野先輩は一期先輩でした。」
エレベーターを降りて左へ歩き出す。のりこは少し後ろをついていくと角部屋の前で止まった。少しの間をおいてノックし扉を開ける。
「失礼します。」
「…羽村か。」
そこは個室だった。リクライニングさせたベッドに背を預けて窓を向いていた大柄な男性が葵に顔を向ける。黒髪に少しこけた頬、そして開くことの無い右目を持つこの人物こそ高屋のりこの沖縄時代のコーチ、天野浩一郎(旧姓大田)である。
「天野先輩、御加減どうですか?」
語りかけつつベッド脇に立つ葵。久しぶりの後輩の訪問に少し表情を崩して微笑む天野。
「今日は気分がいい。さっき中庭を少し散歩してきた。」
そう言って脇に置かれた杖を見やり体力の衰えは情けないものだと呟く。
「そうですか。先輩、今日はお客さんがいるんです。」
「客?」
あまり馴染みのない言葉に怪訝に思いつつ天野は入り口に目を向けて…
「!?」
「コーチ、お久しぶりです。」
そこにいた人物に左目を大きく見開いたのであった。
「高屋…。」
のりこは葵の横に立って驚愕の表情を見せる天野に相対する。
「…」
曇り顔の彼女は言葉を発せられず少しうつむき加減になった。暫くそのままで沈黙する両者だったが…
「…すまなかった。俺が不甲斐ないばっかりに…。」
ふいに天野が口を開いて彼女に謝罪した。
「えっ…。」
驚いたのりこが顔を上げて見ればかつて鬼コーチと言われた彼が悔しげに顔を歪めて左目から一筋の涙を流していた。
「俺がもっとしっかりしていれば…こんな病気なんかにやられて現場を離れさえしなければ…お前を指導して、誰にもお前を落ちこぼれなんて言わせはしなかったというのに…。」
右の掌を強く震えるほどに握りしめて呻くように呟き続ける。
「お前のお父さんに顔向けできん…。」
そしてさらなる告白にのりこは驚いた。なぜここで自らの父のことが出てくると言うのか。彼女は問いかける。
「コーチは…お父さんと?」
「3年前の高屋海上護衛艦隊司令と嵐山現防衛大臣の会食に俺も参加させていただいた。」
すぐに天野は答える。自らとのりこの父との接点を。
「あの時高屋司令官は俺と嵐山さんを庇って自爆テロに巻き込まれた。」
高屋勇蔵…のりこの父であり海上自衛隊次期幕僚長とも言われた優秀な人物であった。陸海合同による中東某国へ親善派遣の際、一団を狙ったテロリストが行った自爆テロに巻き込まれ殉職。間一髪彼の咄嗟の判断で同行していた嵐山大臣と付き添っていた大田浩一郎は助かったのだ。
「コーチ…」
今のりこは初めて浩一郎がなぜ自分に目をかけてくれたのか、そして辛い特訓を強いてきたのかを知った。
「それから1年後に自分が病におかされていることを知った。」
そう言うと彼は少し前のめりになっていた身体をリクライニングさせたベッドに預けて眼を瞑った。
「俺は白血病だ…そう長くはない…。」
「!?」
静かな彼の告白にのりこは驚きを隠せなかった。
「最後にこの命を賭けて、君を立派な戦車乗りにすることが高屋さんへの恩返しだと信じたのだ…しかし…」
一層悔しそうに顔を歪ませ、浩一郎は謝罪を続けた。
「俺は恩返しどころかお前を追い込んだ。俺は…」
「違います!」
すると突然彼女が強く遮った。
「コーチは…コーチは私の恩人です。」
今度はのりこがその心に思っていたことを話す番だった。
「コーチのおかげで私は戦車乗りに必要なことを学べました。技術ばかりを求めて足掻いていた私に道を示してくれました。」
「…」
「そして脚も悪いのに、雨の日も風の日も私のトレーニングに付き合って下さいました。」
2人には沖縄の海を見、潮風を受け駆けた日々が思い出された。
「コーチ…ありがとうございました。」
深く頭を下げるかつての教え子の姿に天野は言葉を失い、彼女の名を小さく呟いた。
「高屋…」
「コーチ…見ていてください!」
そして頭を上げた彼女の瞳には熱く燃えたぎるような強い意思が感じられた。
「必ず…必ず私は立派な戦車乗りになります!」
「!?」
彼女の闘志に火がついたことに驚きつつ、天野は自らの病衣の袖で頬の涙を拭うとかつての指導者としての威厳をこめつつ返した。
「…よく言ったぞ高屋!!それでこそお前だ!」
「はい!!コーチに教わった『努力と根性』を糧に戦います!」
「うむ、羽村。」
呼び掛けに葵は頷いて応える。
「まかせて下さい。先輩の教え子、しっかりとお預かりします。」
「お前なら安心だ。この通り、よろしく頼む。」
天野は頭を下げてのりこを葵に託した。葵とのりこはこの時思った。必ずこの大会で勝利して天野に捧げようと…。
そして翌週、戦車道の時間に倉庫前の広場でメンバー全員が揃うなか、葵が新しく参加する2人の生徒を紹介する。
「紹介しよう、新しい履修生として本日より加わる…」
「高屋のりこです!!」
「良波しゅりです!」
「「よろしくお願いします!」」
紹介された2人は名を名乗ると声を合わせて頭を下げた。同じく頭を下げてメンバーが応え、お互いに顔を上げると戦車隊長であるみほが歩み出てきた。
「隊長の西住みほです。改めて今日からよろしくお願いします。」
そう言って右手を差し出す。かつてサンダースと戦った時のケイの握手を彷彿とさせる姿だった。そしてのりことしゅりは自らの右手でみほに応えた。
「とりあえず高屋さんはカメさんチーム、良波さんはコブラさんチームに入ってくれ、ポジションは2人とも装填手からだ。」
「「はい!」」
葵から指示を受けたのりこはすぐにメンバーのある人物のもとへと向かった。
「磯辺先輩!」
「高屋、よく来たね!期待してるよ!」
「ありがとうございます!」
自らを度々誘ってくれたも典子に礼を述べて続けた。
「それと…お願いがあるんですが…」
「ん?」
「あの…戦車道大会が終わったら、私をバレー部に入部させてください!」
思っても見なかったことだった。驚く典子にバレー部のメンバー、そして他の履修生達の視線が集まってくる。
「!?本当に!」
「はいっ!!」
「「「キャプテン!!」」」
のりこの力強い返答に取り囲むような後輩の自らを呼ぶ言葉。この瞬間典子は待ち焦がれた日がついにやって来たことに歓喜したのであった。
「よしっ!!バレー部復活に向けて、戦車道大会を勝ち抜くぞ!」
右腕を上に突きだした典子に応えるように佐々木、河西、近藤の3人も続く。そんな姿を見ながらのりこは自らの頭に括りつけた青鉢巻きの長い端を指でつまんだ。
(スミス…私…もう一度頑張ってみる。)
この鉢巻きを自分に渡し、大田コーチと同じく自分を応援してくれた人の姿を思い浮かべる。自らを責める彼女を支えてくれようとした彼は不慮の事故でこの世を去ってしまったがのりこは今新たな仲間を得てこの鉢巻きを着けて記憶の中に生き続ける彼に再び笑いかけることができたことがとても嬉しかったのだった。
思ったよりも長くなりました。そして今回では初登場ののりことしゅり、そして逸見エリカとみほのちょっとした交流も描いてみました。
次回の投稿ものんびりペースになってしまうと思いますがよろしければお付き合いお願いいたします。
ところで今年の夏に友人がこの作品で名前だけ紹介したのりこの元ネタ『トップをねらえ!』にも少し影響した映画『さよならジュピター』を購入したらしいんですがね。僕は一回観れば充分でした。
次回予告
ついに迎えた聖グロリアーナとの対決のとき。思わぬ再会した少女にみほは何を伝えるのか?動き出した驚威の戦車の姿と不適に笑うオレンジペコ。
次回『聖グロリターンマッチです!』