今回はブラックプリンス導入の一場面と大洗の動き、そしてペコの考えるシーンが中心で本格的な激突は次回です…
梓とペコはそれぞれに何を想い試合に臨んでいるのかを描写したつもりです。
第64回戦車道高校生全国大会二回戦、大洗女子学園対聖グロリアーナは新隊長オレンジペコの指揮する聖グロの新兵器ブラックプリンス歩兵戦車によって大洗隊長車輌の撃破という波乱の幕開けが演出されてしまった。
多くの観客詰めかける応援スペース脇、テーブルつきの席に陣取っている4人の少女がスクリーンへと食い入っている。
「まさか大洗の隊長車輌をいきなり仕留めるとは。」
まず1人目は大洗と第一回戦で激突したゲルダム高校の黒部将美隊長だった。今日は見学なのでパンツァージャケットではなく青と黄色が基調とされた制服である。
「クロムウェルにブラックプリンス、あれだけの車輌を揃えるあたり聖グロはそれだけ必死ということね。」
それに返すのはサンダースの隊長アリサだった。腕を組み画面に表示されるⅣ号撃破の表示に目を向けて将美に続く。
「うちのにーちゃん隊長も大洗は隊長車輌メンバーが一番厄介だと言ってましたね。これで大洗は万事休すでしょうか?」
そして周囲に質問する3人目の人物、その声を聴いたアリサは少し顔をしかめてしまう。初対面の人物相手には少々失礼かもしれないがアリサはその声に何か刺激されてしまうものがあった。
グレーのふわふわロングヘアーを太い三つ編みにした低身長寄りの少女。その服装は濃緑色の上着に赤いタートルネック、すなわちプラウダ高校の代物である。
「だとしたらわざわざ見に来たのに早くも勝負ありということですね。」
笑って言ってのける彼女の名前はタチアナ・ヤコブレフ。プラウダ高校の新たな留学生、つまりクラーラの後輩にあたる。高身長だったクラーラとは正反対に近く可愛らしさがあるが射撃の腕前は現隊長のニーナ(愛称にーちゃん隊長)いわく『ノンナさんに迫るかもしれない』と言われている。ちなみに彼女の従姉妹も同じく低身長でロシアの『白百合』という通り名で通じる戦車道選手だそうな。
そして残るはサンダース新入生の雁淵ひかりである。
「アリサ隊長…どうなんでしょうか?」
アリサの隣に座るひかりが不安げにアリサへと質問する。姉の孝美いわく『天性のものがある』とも評されたみほが撃破されてしまったことは彼女にとっても衝撃的だった。彼女と共に苦難を乗り越えてきた大洗のメンバーの受けた衝撃はそれ以上であろう。だからこそ聖グロとしては大洗攻略のためになんとしてもみほは序盤で仕留めておきたかったのだ。
「私はまだだと思うわ。とくに…」
ひかりにそう返しながらアリサは大画面に映るⅣ号の表示から別の1輌へと視線を送る。
「Ⅳ号には及ばないけど、副隊長の乗るラビットチームもなかなかのくせ者よ。」
「その通りですわ。」
アリサの意見に同調するかのように後ろから声をかける人物がいた4人が振り向くとそこには…
「あら、エクレールじゃないの。」
アリサが名を呼んだ相手はマジノ女学院の隊長エクレールであった。彼女も大洗の試合を見学に来ていたらしい。彼女達マジノ女学院は第二回戦でプラウダに敗北して今大会はベスト8で終えた。つまり…
「マジノ女学院の隊長さんですね。先日はどうも。」
「あなたはプラウダのスターリンの車長だったかしら。」
彼女とタチアナは面識があったのだ。
「まさか雪の煙幕でこちらを撹乱してくるとは思いませんでした。」
「長所も時に強敵になりうることがある。雪がつねに自分達の味方だと思わないことですわね。」
雪原というプラウダにとって有利な状況でエクレール達は知恵をしぼって戦いを挑んだが力及ばずスターリン重戦車にフラッグを撃破されたのだ。
「エクレール、君はまだ大洗が負けたとは思わんようだな。」
いったん話が止まったタイミングで将美が問う。
「M3チームの去年の戦いぶりを私達は身を持って体験しましたの。」
去年の大会前の練習試合、大洗対マジノ戦後半で孤立したⅣ号とエクレールとの一騎討ちの間、残りの2チームはM3、38Tを相手にしていた。後にみほから教えられたがあのときは彼女が指示も出せずに2チームで作戦を立案し決行したとのこと。しかもそれを牽引したのは副隊長の梓だったそうだ。初の聖グロ戦では素人も同然に逃げ出したチームとはとても思えず、その後の全国大会や北海道でも確実に実力を上げていることが伺えた。
「あのウサギチームも絶対に油断なりませんわ。」
エクレールは一同に確信を持って言ったのだった。
「さすがオレンジペコさん、見事に大洗の隊長を仕留めましたね。」
そしてこちらは聖グロ側のサポーター席、今回の演出に一役買ったダージリンにそう言葉をかけるのはキリマンジァロ。西グロでブラックプリンスを扱ってきた経験が敬愛するダージリンに認められ見事にオレンジペコが使いこなしたことでかなり上機嫌であった。
「大洗は今まで隊長車輌だけはどの試合でも最後まで生き残ってきましたがこれで戦力・士気ともに半減といったところですわね。」
静かに返すダージリンは一口紅茶をすすりキリマンジァロとは反対側に座る人物へと視線を向ける。その人物は両手を頭の上に組み背もたれに深く背中を預けていた。
「さすがブラックプリンス、17ポンド砲の音は聴いてて実に爽快だねぇ!」
こちらの女性の手元にはテーブルに似合わぬ瓶コーラが置かれており髪は橙がかった薄めの金髪ロングのストレートにてっぺんに癖のあるアホ毛がトレードマークで深く青い瞳から外国人であることがわかる。白シャツ白ズボンに革ジャケットで赤いスカーフを首に巻いている。そしてとにかく周囲の目を引くのはそのバスト。ドンッという擬音が実にしっくり来そうなボリュームである。一見するとサンダース関係のアメリカ人に思えるがどっこい、彼女はれっきとしたイギリス人である。
「ウィルマさん、今回のご協力改めてお礼を言わせていただきますわ。」
ダージリンの礼にウィルマと呼ばれた女性が右手を挙げて笑って返す。
「かったいこと言いっこなしよダージリン。だいたいマチルダばっかり使ってて勝てるほど甘い相手ばっかでも無いでしょうに。ほんとにあの学校の派閥は見えてないわねぇ。」
なかなか辛辣な私見を述べる彼女はウィルマ・ビショップ。英国系のダージリンの大学に本場イギリスからやって来た留学生である。イギリスの高校戦車道ではエース、というよりは纏め役として活躍してきた選手である。彼女のいたチームは欧州国際交流戦でも高い成績を修めておりその筋では一目置かれている人物でもあった。
余談であるが高校戦車道ではプラウダ以外サンダースとマジノ、黒森峰にも留学生は来ていたりする。
卒業後も何かと後輩を気遣うダージリンはある時ウィルマ自身の興味本意もあって聖グロの練習を見学させたことがあった。
「チャーチルは良いとしてもマチルダⅡとクルセイダーしかここには無いの?クロムウェルがただの置物なんて勿体無いじゃない!」
しかしそこで飛び出して来たのはダメ出しのオンパレードと言わんばかりの感想だった。
「伝統伝統と言い続けて勝てるなら子供でもできるわ。精神論で通る世の中はとっくの昔の事だって分からないのかねぇ。」
トドメの一撃とも言える言葉を飛び出させウィルマは愛用の帽子を目深に被る。この日同じく見学OG会のメンバー数名は何か言いたげだったが相手が相手であるため誰も発言できなかった。そもそもこの辛辣な意見を聞かせることが目的ではあったのだが…
「後輩を優勝させたいなら見直すべきね。少なくとも私のいた学校ではこれは無いな。」
とにかくも実力持ちの第三者意見が予想以上の力を発揮したことがダージリンの説得を後押ししてめでたく聖グロ戦車隊はクロムウェルとブラックプリンスを扱えることになったのであった。
「しかしほんとのところ、まだダージリンは勝てたとは思ってないんでしょう?」
少しいたずらっ気のあるニヤリとした表情で聞いてきたウィルマにダージリンは正直に返す。
「…そうね。」
並べられた菓子からクッキーの小袋をひとつ、実にそれだけでも優雅な振る舞いと言えそうな所作を見せて手に取り続ける。
「確かにみほさんは大洗の中心です。ペコの考えた通り彼女の存在は大洗の原動力でありアキレス腱と言える。」
小袋を開きチョコクッキーを取り出してつまみ上げる。
「でも最後の最後まで勝負事とは分からないもの。第二次大戦のヴィレル・ボカージュしかり、不利な状況で勝利してきた人達もいます。そして何より彼女たちと私たちはそれを自らの手で昨年証明したも同じなのですから。」
昨年の大会における大洗女子の奮戦と大学選抜チームとの北海道決戦。数は同数といえども言わば寄せ集めと言われても仕方ないような高校生連合チームの快挙がダージリンの言わんとする事実であった。
「それに大洗の副隊長のチームは昨年我が校との練習試合で逃げ出して撃破されました。しかしその少し後、エクレールさん率いるマジノ女学院との戦いで逃げることなく、みほさんに頼らずに作戦を立てルノーを撃破する活躍も見せてます。」
先ほどのエクレール同様に実際に見学に行った時の彼女達の成長ぶりを見たダージリンはかなりの実力を持っているのではと見抜きつつあった。それは大会で確信へと変わる。
「さらにその後には黒森峰のエレファントを仕留め、ヤークトティーガーを刺し違えで撃破、ローズヒップとの一騎討ちでも彼女を撃破寸前に追い込んでいます。」
昨年決勝戦でのウサギさんチームの活躍もさることながら聖グロへ潜入した際のM3グラント強奪事件(戦車道のススメ)での彼女達の戦いぶりには素直に感嘆したものだ。
「決して油断ならないと?」
一通り話をして2つに割ったクッキーを静かに咀嚼するのを待ち、しばらく黙っていたキリマンジァロが質問する。完全に口内からクッキーを消し去ったダージリンは両目をうっとりとさせながら静かに答えるのだった。
「このあとのペコと澤さんの戦いぶり、じっくりと拝見させていただきますわ。」
そして手に取ったカップの紅茶へ静かに口つけるのだった。
(ああ…カントリーマアム…幸せ…)
先ほど口にした菓子の感想は己の中でだけ述べながら…
あんこうチーム撃破、それは大洗陣営に衝撃を与えるには充分すぎた。
ともかくもこの事態を収集つけるべく一旦退くこととなりエルヴィンの号令一下総員が後退したが敵は追撃して来なかったため立て続けの被害は免れることができた。。
「どうするべきか…」
コブラさんチームを除き一旦下がって北側の山でエルヴィンと梓、2人の副隊長と各チームのリーダーが中心に集まり作戦を練る大洗陣営。しかしメンバーはいずれも暗く精彩を欠いていた。何せ序盤であんこうチームが離脱することなど前代未聞の事態だったからだ。
「ここは敵の後方に回って背後を突く作戦で。」
「いや、敵はおそらくこっちを一気に蹂躙にかかるだろう。残るもう1輌のクロムウェルとクルセイダーに周囲を警戒させて容易に背後はとらせないつもりでいるはずだ。」
武蔵の提案はすぐにカエサルによって即却下された。厚い装甲による防御と行進間射撃に定評のある聖グロだ。生半可な策では思うつぼである。
「なによりあのブラックプリンスはかなり始末に悪い。正面装甲なんて厚さ150ミリを超えている。我々のⅢ突やレオポンのアハトアハトでも後方か側面を余程接近しないと撃破は難しい。」
「それだけではありませんぞ。あの主砲はファイアフライやセンチュリオンと同じ17ポンド砲、かなりの高火力だにゃー。」
エルヴィンの発言に続くねこにゃーの言葉で一同に嫌な緊張が伝播していく中典子が声をあげた。
「では私たちが囮になって相手を…」
「それもダメだ。相手は囮や分断作戦を警戒しているだろう。現に昨年の大洗エキシビジョンではふらふら作戦を警戒して足並み揃えてⅣ号を追撃していた。」
ちょこまか動き回れる八九式や脚の速いセンチネルで囮となり撹乱するのも現実的ではない。アヒルさんチームは昨年の黒森峰戦で見事にやってのけたがエキシビジョンでは聖グロ・プラウダ連合が集団戦法に徹したことでこれを封じている。
「相手を倒す方法があるとするならそれは奇策しかない。しかし相手はおそらく我々の先手を読んでいる。これまでとは違う戦法が必要だ。」
これまで考えられたような作戦では駄目であることを確認させられて全員が意気消沈してしまう。
『私達…ここで終わっちゃうのかな…まだ2戦目で…皆まだまだこれからだよ…』
エルヴィンと同じく副隊長である梓は拳を握りしめて悔やんだ。自分達に憧れてきてくれた新入生達をもっと高みへ連れていけなかったこと…みほから預かったチームを導くことができなかったこと…この場で副隊長でありながら無力である自分…
『西住隊長、ごめんなさい。』
両目を閉じて心の中でみほに謝る梓。その時だった。
『皆も歌ってください!私が踊りますから!』
梓の脳裏に浮かぶのは昨年の準決勝プラウダ戦。教会へ追い詰められた大洗チームの士気を上げるべくみほが突然あんこう音頭を踊り始めたシーンであった。
『そうだ…あの時私達はかなり追い詰められてた…でも…西住隊長は…』
決してみほは諦めなかった。それがやがてあんこうチームへ、そしてメンバーに次々と伝播し逆転への原動力となったのだ。
梓はみほが示してくれた道を忘れかけた自分を恥じ、覚悟を決めた。右腕を大きく振り上げて…
意気消沈する全員の耳に聴き慣れたあの歌が届いた。驚く一同が目を向けた先、そこには梓があのあんこう音頭を歌って踊る姿があった。
「あ、梓、どうしたの?」
突如の奇行に驚くチームメイトの山郷あゆみに梓は返す。
「きっと今ここに西住隊長がいたらこうする!私は西住隊長の分も闘うって決めたの!だから皆、力を貸して!」
そう言いながらも必死にあんこう音頭を踊る梓。彼女の言わんとしていることが周囲へと拡がっていく。やがてその隣にチームメイトの紗希が、優季が、あゆみが、あやが、桂里奈が加わる。
「私だって副隊長であり先輩だ!皆行くぞ!」
「根性だ!踊って踊って逆転行くぞ!」
続いてエルヴィンと典子が煽りカバさん、アヒルさんが踊り出せば今回からの新メンバー、もう1人ののり子(アリクイさん臨時装填手)としゅり(レオポンさん臨時通信手)が加わる。
「風紀委員だからって手は抜きません!」
「僕たちも負けないにゃ~」
「おぅおぅおぅ!ここはひとつ即席あんこう祭りでぇい!」
ゴモ代、ねこにゃーがチームメイトを引き連れ続けばレオポンからは柳原まろんが引っ張って次々と参加する。
「あたしらのあんこう音頭、日本じゃあ二番目さ!一番は誰かって?西住隊長達さ!」
「関西ノリ、よう見とくんやでぇ!」
「いついかなる時も真剣勝負!それこそがサムライ!」
「てやんでぇ!祭りだ祭りだぁ!」
建子が、真凛が、十兵衛が、まろんが、一年生メンバーが負けじとばかりに大声あげて踊り歌い舞う。決してやけくそではない。これこそ彼女達の勝利への雄叫び、鬨(とき)の声に他ならなかった。
「あんこう音頭いっくよ~!」
「よっしゃ!ここ一番だ!おめえら!お嬢ちゃんに負けるようじゃレスラー失格だ!」
『うっす!!!!』
一方で観客席の応援スペースでも大洗応援団によるあんこう音頭が開始された。驚きは並んだメンバーの中央でまるでレスラー達を率いるように位置しているのがなんと教官の愛娘、羽村晴香だったことだ。ご丁寧に応援団に用意してもらった子供用の法被を羽織って小さな身体を左へ右へ踊り舞う。
「それっ!それっ!そぅれぃ!!」
彼女の後ろに立った橋下団長の掛け声も交えつつ晴香と応援団によるあんこう音頭も熱を上げていく。
「がんばれぇ!!」
両腕を組んで左右に腰振り大声で応援する晴香、その姿はすかさず居合わせた一文字隼人がカメラにおさめていくのだった。
「始まったわね。」
テーブル席で戦況を見ていたダージリンは微笑み浮かべてそう言った。
「何だあれ?急にひょうきんなこと始めたな!」
思いがけないダンスの開始に興味津々なウィルマ。彼女は根っからのイベント好きなのだ。いつしか左手の指で音頭に合わせたようにカタカタとリズムを取り始めた。
「ダージリン様…あれは…」
かたや同じテーブルにつくキリマンジァロは驚きの表情をダージリンへと向けると確信したと言わんばかりに彼女は返してきた。
「大洗の反撃の狼煙だわ。」
そう言いながら先ほどとは違う抹茶味のカントリーマアムをしっかりとダージリンは掴み取っていた。
「この作戦はどこかひとつの崩れでも失敗する可能性があります。しかし、現状で私達にこれ以上の作戦は用意できません。」
あんこう音頭を終えて各戦車へと帰還したメンバーに梓が伝える。
「各自の役割をキチンと把握して、立ち回ることが求められる。これは今までに無い戦法だからな。」
続けてエルヴィンも闘志をみなぎらせて伝える。先ほどは梓の活躍でメンバーに士気を取り戻せたのだから今度は自分の番だと意気込んでいる様だ。
「ふっふっふっ、武士(もののふ)の血が騒ぐわ、南無八幡台菩薩。」
「必ず敵を引っ張り混みます。レオポンは万全です!」
フラッグを務めるカメさんチームの武蔵は気合い充分に返し、レオポンの車長を務める今年からの新メンバー和住媛萌(わずみ・ひめ)も自信満々に返す。彼女はツチヤが操縦を担当するためリーダーではないが車長のポジションに就いている。整備スキルはツチヤと立花のおやっさんお墨付きも持つ期待の人物だ。
「皆踏ん張りどころだよ。なんとしても敵に一杯喰わせよう!」
ペンギンさんチームでは車長の澄がメンバーに声をかける。車長としての姿は練習試合に第一回戦と場数を踏んでなかなかに様になりつつあった。
「大丈夫、こんな言葉を知ってる?『劣勢と敗北は必ずしも繋がらない…』」
そこで声をあげる砲手の鞍馬由岐。スコープに顔をあてたまま誰かのような言葉を放つ。隣で装填を務める真凛が質問する。
「それ誰の言葉なん?」
「デューク・東郷、またの名をゴルゴ13。」
そう発言した彼女の顔がスコープから離れた。するといつの間にやらその眉毛部分にどこかで見たような着脱式の太眉が装着されており、車内で笑い声が響くのだった。
「こちらコブラ、敵主力は現在森林地帯手前で待機中の模様。ブラックプリンスを中心に警戒体制を敷いています。」
今回のためにわざわざ森林迷彩へとカラーリングを変更したうえに即席の枝葉で擬装、パーソナルマークもカバーをかけて隠したコブラチームが危険を承知で敵情の偵察に努めていた。
車長席からこっそりと頭を出して双眼鏡を覗く赤城烈和が報告しつつ愛用の時計を確認する。既にⅣ号撃破から結構な時間が経とうとしていた。
「!!」
双眼鏡の中で突如聖グロ陣営が動き始めた。クルセイダーとクロムウェルが先に立ち山岳地帯を目指す。
「動き始めました。」
『よし!コブラさんチーム、偵察は一旦終了だ。ただちに山岳地帯の東側へ向かってくれ。指定ポイントはV1地点だ。』
「了解!春田!パンツァー・フォー!!」
烈和の指令に春田聖がエンジン全開で発進。少し回り込む様にしてポイントへと向かうコブラさんチーム。敵に見つからないための考えであり少々時間をかけてしまうが相手は歩兵戦車に合わせて進軍しておりこちらは飛ばせば時速43キロにはなるのだから充分先回りは可能であった。
「お茶もキチンといただきましたし、あとはゆっくりと仕上げと参りましょう。」
聖グロ陣営では敵の隊長車を仕留める作戦が図に当たり全員が手応えを感じた。しかし勢いだけで熱くなってはいけない。いついかなる時も優雅に冷静に、それを忘れぬように一旦メンバーに茶を配り自らも落ち着く。ローズヒップが早くも離脱を余儀なくされたが完全に流れを掴んでいるのはこちらであった。
「全車ゆっくりと山地へと移動、麓に到着後機動部隊を散開させ偵察を行います。」
静かに発言して全車へと動きを伝える。高速の機動部隊と低速の主力をキチンと分けてそれぞれを活かす聖グロ得意の戦法だ。
「黒森峰戦のように高地からの砲撃を見舞うつもりでしょうがそうはいきません。我々のチャーチルやブラックプリンスの正面装甲はそう簡単には破れん!逆に高台に陣取った敵を引き付けつつ機動部隊を回り込ませ側面ないし後背を脅かす!」
気合い一閃ルクリリも車長席からハッチを開けて直に周囲を見る。統率の完璧な聖グロリアーナ戦車隊の雄姿が並び彼女を奮い立たせる。ルクリリもまた副隊長としてこの闘いを挑んでいるのだ。
「梓さん、あなたはどうするおつもりでしょうか?」
そんな中でふとペコが口にしたのは梓の名前だった。初めて会ったのは練習試合のとき、と言ってもお互いの名前すら把握しないままであったが。それからマジノ戦にサンダース戦と見学し着実に力をつけていく姿をペコは認めた。
そして決勝の黒森峰戦ではエレファントにヤークトティーガーといった重駆逐戦車を相討ちとなったが仕留めてみせた姿には心から驚かされた。いつしかペコは自分と同い年であれほどに実力を伸ばしていく梓に惹かれていたのだ。かつてダージリンがみほと初めて砲火を交わしたときに素晴らしいライバルを見つけたと発言したが今ペコにとって梓がそれだった。
「ローズヒップさんの借りは私が返します。」
梓達がグラントを強奪した時、クルセイダーで追撃したローズヒップを彼女たちは撃破寸前に持ち込んだ。更にアッサムによる情報から聴いたところによるとサンダース高校においてみほ達の乗るⅣ号に梓達がM4シャーマンで闘いを挑み一歩も譲らなかったとのこと。
「梓さん、いざ勝負です。」
柔らかな笑顔を見せて発言するペコ。しかしその内心では自らにふさわしいライバルとの闘いを前にした熱い想いが渦巻いていたのだった。
続く
今回はみほにならって士気を盛り立てた梓と彼女をライバルとして見始めたペコでありました。
レオポンチームから登場の和住媛萌はアニメ『ハイスクール・フリート』のメンバーのひとりです。実は知波単戦で名前だけ登場してましたが改めて明確な登場とさせました。まろんを差し置いての車長ポジションについては改めてご説明を…
ダージリン、キリマンジァロと共に登場したウィルマ・ビショップは『ストライク・ウィッチーズ』のメンバーになります。ブリタニア(イギリス)出身でアニメのメンバー、リーネの姉でありOVA、劇場版に登場したガリア空軍のアメリー・ブランシャールの元チームメイトです。バルクホルン、孝美と共にストパンお姉ちゃんキャラのひとりですね。
そしてプラウダの新留学生タチアナ・ヤコブレフは水島監督作品『SHIROBAKO』内で登場するアニメ『第三飛行少女隊』のメンバーでロシア出身、宇津木優季、篠川香音役の山岡ゆりさんが演じてます。ちなみに同作の主人公春夏秋冬ありあを演じてるのはカチューシャ役の金元寿子さんで、メンバーのひとりクリスティーネを玉田、フリント役の米澤円さんが演じてます。
次回予告
ついに砲火を交わす両軍。大洗乾坤一擲の大勝負、ドタバタ作戦決行!!ブラックプリンス攻略の糸口は見えるのか?
次回『次の世代です!』