新チーム命名です!
練習試合が決定し、大洗女子学園戦車道一同は更なる訓練に励んでいた。特に新入生達は時間の許す限り戦車に向かい各機構のチェック、動かしかたのおさらい、素早く反撃に出るためのイメトレなど余念が無かった。
「では私達のチームのマークはペンギンさんで決定!!」
練習試合を数日後に控えた放課後、スナックアミーゴにて戦車道新入生で砲手鞍馬由岐の嬉しげな声が響く。同じテーブルにつく3人の仲間が小さく拍手した。なお店内には他にお客はいない。
「見た目は少し丸みがあってで可愛いけれど一度スピードに乗れば翔ぶがごとく、そして見た目には分からないハンターの嘴。センチネルにぴったりだわ!」
続いて野島椿がそう言う。彼女もまたセンチネルのチーム名の決定を喜んでいた。
ちなみにセンチネルのスペックは…。
全長6.32m
全幅2.77m
重量約28t
正面装甲65㎜側面装甲45㎜
最高時速43㎞
主砲57㎜6ポンド50口径砲
聖グロリアーナで使用されている巡航戦車クルセイダーは…。
全長5.98m
全幅2.64m
重量約20t
最高時速45㎞(ただしリミッターを使用している場合)
主砲57㎜6ポンド43口径砲
装甲50mm
「それでは我らがセンチネルとペンギンさんチームの活躍を願って乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
車長である明日香澄の音頭で各々が注文したジュースのグラスを持って乾杯をする。実にほほえましい光景だ。
「おめでとう!これはわしからの気持ちだ。アミーゴ特製ピザサンド。」
そう言ってテーブルの真ん中に大皿をマスターの立花藤兵衛が置いた。特製のトーストサンドに付け合わせのクラッカーとピクルスのスライスなどが並べられている。そして鼻腔をくすぐる香りが4人の食欲を掻き立てる。
「良いんですか?立花さん。」
「構わん構わん。」
澄の質問に笑顔で答える藤兵衛。
「マスターほんまええ人やなぁ。いただきまーす!」
篠真厘はそう言うなり早速一つを手にとってぱくり。
「んん~!」
香ばしく軽くトーストされたパンに特製のトマトソースととろけたチーズの絶妙な風味、そしてスライスされたソーセージの旨味とピーマンのアクセントが口一杯にひろがって真厘はチーズ並みにとろけた顔になった。他のメンバーも手にとって食べれば皆美味しい美味しいと続く。
「ところで立花さん。」
「ん?」
4人の食べっぷりに満足そうな藤兵衛に由岐が質問した。
「立花さんが学校に来てる間はお店どうしてるんですか?」
「ああ、今のところ留守中は店を閉めてる。」
「ええっ!?」
「うそっ!?」
事も無げに言う藤兵衛に驚く面々。
「なぁに、心配するこたない。俺は整備が出来れば文句はないしキチンと給料もでるんだからな。」
腰に手を当てて自慢げに言ってのける。
「それに、戦車をいじくるのがたまらなく楽しいんだよ。」
「立花さん…。」
優しい目で語りかける藤兵衛。4人は彼が心底戦車が好きなことが分かった。
ここで真厘が思い出した様に言う。
「マスター、うちの教官が頼みに来たんやろ?」
「ああ、そうだ。そもそも…。」
藤兵衛は一拍の間をとって続けた。
「わしと羽村は知り合いだったからな。」
「「「「えっ!」」」」
思いもよらない一言であった。
「あいつが霞目基地に赴任してきた時に俺はそこの整備士だったんだ。」
先日のこと、みほと優花里は月江おばあさんからアミーゴのマスターのことを教えられ協力をあおげないかとまず羽村葵教官と生徒会長に相談した。生徒会長には断る理由はないと言われ高い額は出せないが水準並みの給料は出してくれるように手配することを約束してくれた。一方の葵は異論はないが自分に説得させて欲しいと言い出した。その時みほと優花里は葵とアミーゴのマスターが知り合いだと教えられた。
「お願いします!立花さん!力を貸してください!!」
訓練の指導を終えた葵はアミーゴのカウンターに手をついて藤兵衛に頭を下げていた。突然の再会、そして頼りにされていることが藤兵衛には嬉しかったが…。
「葵、わしはもう引退した身だ。今更だよ。」
気持ちとは裏腹な言葉が出てしまう。しかし…
「そんなことはありません!僕は立花さんだからこそ整備を託したいんです!お願いします!一生のお願いです!どうか…この通り!!」
再び頭を下げる葵の姿は藤兵衛の胸を打った。
「仕方ねぇな。」
そう一言呟くとガバッと葵は頭を上げた。
「こんな錆び付いた腕でも良いのか?」
再確認するように訊ねるが葵の口からは肯定以外の言葉が出るはずも無かった。
「いえ、立花さんは錆び付いてなんていません!よろしくお願いします!」
「よし、そうと決まれば早速明日学園を訪ねるとしようか。」
「ありがとうございます!」
またも頭を下げる葵の姿に藤兵衛は苦笑いしかできなかった。
「知りませんでした。」
椿がそんなことがあったのかと驚いてそう言うと藤兵衛は一旦カウンターへと戻りながら話を続けた。
「驚いたのはわしも同じさ。まさか葵の奴が大洗に来るなんてな。」
そして喉が渇いたのか冷蔵庫から作り置きしていたアイスコーヒーを取り出してグラスに注ぐ。
「何だか運命的ですね。」
「ふむ…。ま、縁があったと言うことだな。」
澄の感想に返して藤兵衛はグラスのアイスコーヒーを半分ほど飲んだ。よく冷えて苦味と酸味が程好い味わいであった。そしてグラスを置いて斜め上を見つめて思い返す。
「正直わしが戦車の整備士を続けたがってたことを気づいてたんだろうな。」
ありがたいことだと思う藤兵衛。そんな彼に椿が手を上げて質問する。
「あの…失礼かもしれませんがちょっと良いですか?」
「ん?答えられることなら別に構わんが。」
「立花さんは何故自衛隊を辞められたんですか?」
藤兵衛の許可を貰って聞いてみる。どうやら他のメンバーも気になったらしく藤兵衛へと視線を向ける。
「…それはな…。」
『整備員が機械の気持ちを分からんで務まるわけ無かろうが!』
整備員のツナギ姿の藤兵衛は右手にスパナを持って格納庫で若い整備員に向かってそう言い放った。
『わかんねぇものはわかんねぇよ!立花さんは時代遅れなんだ!』
一方の若いのは藤兵衛に強い調子で返す。周囲には何人かの同僚達が集まりなんとか2人を宥めようとしているが…。
『何を言うか!』
『もうそんな時代じゃ無いんですよ!』
『言ったな!こいつ!!』
その言い方についに藤兵衛の怒りが爆発した。勢い任せに左手でパンチを繰り出した。思いがけない一撃が若い整備員の頬に命中して相手は尻餅をついた。
『半人前の癖に何分かった口聞いてやがる!お前なんか整備士失格だ!』
藤兵衛は右手に持ったスパナを床に叩きつけた。
「とまぁ若いのと揉めてぶん殴っちまったってわけさ。しかも殴った若いのはとある政治家の親戚でな。」
立花がかつて経験した修羅場に4人は息を飲んだ。同じにこれだけ真剣に機械を愛した人になんてことを言うのだろうとも思った。
「わしは機械に頼りすぎるなと言うつもりだったんだが、どうにも上手くいかなくてな。そこでそんなトラブルを起こしたんだ。辞めるには充分だったよ。」
そして一服のパイプに火をつける。ちなみにカウンター上には喚起せんのファンがあり彼女達に煙が向くことはない。
「そもそも引退したら小さな喫茶店でもやって好きなバイクでも弄るのが夢だったんだ。それが少し早くなっただけだ。」
それだけ言うとパイプをくわえ直した。
「…立花さん。ごめんなさい!」
慌てて椿が立ち上がって頭を下げた。
「いや、良いんだ。とっくの昔話だ。」
そんな彼女に苦笑いで返すと今度は由岐が口を開いた。。
「でも立花さんは正しいと思います。」
「うちもや。立花さんは正しい!!」
由岐の考えに真厘が同調して続いた。
「うちも大工の家系やから分かる!手軽に頼ってばかりやったらあかんのや!死んだお爺が言うてた、『家にせよ何にせよ結局は人の手で創るもんや。それは機械だけで創れるもんではない』って。」
その言葉に澄が、椿が、由岐が頷く。
「…皆、ありがとう!」
藤兵衛は正直嬉しかった。自分を頼りにしてくれてこんなにも言ってくれることがとても心地よく感じた。
「よし、嬉しいこと言ってくれたお礼だ!飲み物もサンドイッチもサービスだ!どんどんおかわりして良いぞ!」
その言葉に4人の目が輝いた。いの一番に澄が両手を上げた。
「やった~!」
「マスター大好き!!」
「立花さん男前やでぇ!!」
「そうと決まれば行ってみよ~!」
椿、真厘、由岐と続く。
アミーゴはその日閉店まで店内が明るい笑いに溢れていた。
予定していました番外編「お祝いです!」は本編の次話投稿に合わせます。
今回の舞台になっているスナック・アミーゴは「仮面ライダー」に登場する立花藤兵衛が営むお店です。