それと今回は奥さんとなっているキャラクターの本来の世界の出来事がクロスオーバーしてるので少しややこしいですがご勘弁下さい。
4月半ばの土曜日。戦車道履修生達が夕方に染まる戦車倉庫からぞろぞろと出てくる。今日の訓練も無事終わり各々が明日の休日の過ごし方を考え、相談する。
「ねぇねぇ、明日どこ行こっか?」
「皆でセンタッキー行かない?」
「こないだ行ったじゃん?74アイスにしよーよ?」
「いっそ連絡船で上陸しない?」
「それよりこれから映画見よーよ!「さよならジュピター」と「復活の日」、今日の夜届くんだー!」
「…(ぼ~っ)」
「図書館でドイツ機甲戦術の研究しないか?」
「いやいや、ここはかつての歴史から学ぶべし。動乱の幕末ぜよ。」
「いや、それならば戦国こそうってつけ。合戦に学ぼうではないか!!」
「それじゃあいっそみんな戦術シミュレーションゲームでも…」
「「「それだ!」」」
「よしっ気合い入れて明日はスポーツセンターだ!」
「「「はい!!キャプテン!!」」」
「寄り道はほどほどにですよ~!」
「休日の過ごし方も節度を持ってくださ~い。」
「皆様の風紀委員で~す!」
「トラブル起こしたらきびしいペナルティ課しますよ!」
と言った具合である。
「では私達はここで。」
「参加できないのが残念です。」
帰り支度を完了して生徒用の玄関を出たあんこうチームの5人は校門で別れることになった。
「また来週ね!」
「華さん、優花里さん、さようなら。」
「お疲れ…。」
優花里と華がそこから離れていく。みほと沙織、麻子の3人はそのまま校門である人物を待っていた。
「ごめんごめん遅くなって。」
やって来たのは教官の羽村葵であった。いつもの迷彩戦闘服やスーツ仕様の礼服ではなくラフな私服である。
「慌てなくても大丈夫ですよ。」
「私達そんな待ってませんから!」
「うむ。」
3人の返事に葵は少しホッとした表情をして口を開いた。
「じゃあ行こうか。」
「ただいま!」
葵がそう言いながら扉を開くと玄関へ向かって小さな影がとたとたと駆けてきた。
「パパ!!おかえりなさ~い!!」
「ただいま~!」
鞄と少々大きめの紙袋を上がり口に置いて走ってきた愛娘晴香(はるか)を抱き上げる。
「あなた。おかえりなさい。」
娘に続いて出てきたのは緑のロングヘアーの少々背の低めの女性、葵の妻そして晴香の母、見晴である。
「見晴、ただいま。」
「パパ!!今日がなんの日かおぼえてる?」
抱き上げられた晴香が問いかけると葵は微笑で返す。
「勿論、晴香の5歳の誕生日だ。誕生日おめでとう。」
「うれしい!!パパ大好き!!」
実は先日から似たようなことを度々晴香は繰り返している。これでは忘れる方が難しいだろう。
「ははっ、じゃあ早速パパからプレゼントだ。」
「!!なになに!?」
プレゼントと言う言葉に興奮する晴香を下ろす。
「はい、これ。」
そう言って先ほど上がり口に置いた紙袋を渡す。晴香は急いで袋をとじているテープを剥がして中のものを引っ張り出した。
「!!かわいい!」
出てきたのは地元大洗のゆるキャラ『アライッペ』のぬいぐるみ。
「パパありがとう!!」
ぬいぐるみを抱えて笑顔の娘を見て葵はジーンと来ていた。贈る方にとっても誕生日は楽しみなのだ。
「それだけじゃないんだぞ晴香。もうひとつすごいプレゼントがあるぞ。」
そう言って葵は半開きのドアを開けて…。
「入っておいで。」
と外へ呼び掛ける。
「お邪魔します。」
「こんばんは。」
「失礼します。」
みほ、沙織、麻子の3人が入ってくる。
「…」
3人の姿を認めた晴香はしばし動かなくなった。両目を見開いて目の前の事態が信じられないかのようである。
「こんばんは。」
晴香の前に立ったみほが少しかがんで挨拶すると晴香は彼女の膝に飛び付いた。
「本物のみほお姉ちゃんだ!!」
「はわっ!?」
嬉しさを全身でアピールする晴香。一方のみほは突然の事態に驚く。他の4人はただその姿を笑顔で見ていた。
「本当にありがとうございます。」
「いいえ、こちらこそ招待していただいてありがとうございます。」
ひとしきり晴香が騒いだ後、改めて葵は妻と娘をみほ達に紹介して2人にもみほ達を紹介した。と言っても2人はよく知っていたし何よりも晴香は大洗女子戦車道の大ファンだった。
「♪」
憧れのみほをダイニングへも引っ張りテーブルにつく。晴香の左隣にみほが座り、右隣に見晴、さらにその隣には葵が座り麻子、沙織と続いてテーブルを囲む。今日の主役たる晴香はとてもごきげんであった。
「それにしても…。」
改めて葵はテーブルの上を見回した。
「見晴、ちょっと作りすぎじゃないか?」
継ぎ板をたしたテーブルの上には晴香の好物を中心に様々なご馳走が並んでいた。切り分けた巻き寿司に鳥の唐揚げと添えられたマッシュポテト、色合い鮮やかなサラダなどの定番がところ狭しと並ぶ。
「華さんがいたら凄く喜んでたね。」
「足りるかなぁ?」
みほと沙織の噂のために華がくしゃみをしたかは定かではない。
「だって大事な日にお客様が来るなら張り切らないと。」
そう言いつつも少し見晴は顔を赤らめている。どうやら多少は調子に乗りすぎて作りすぎた感は否めないらしい。
「パパ、ママ、早く食べようよぉ。」
待ちきれないと言わんばかりに今日の主役たる晴香がせかす。
「そうだな。でも…」
「その前に…。」
そう言って葵と見晴はビールの入ったグラスをを手に取る。両親の意図を感じた晴香も手元のジュースのコップを持ち、みほ達も続く。
「晴香、誕生日おめでとう!」
「「「「おめでとう!」」」」
葵が音頭をとって皆で乾杯する。その中心にいる晴香はおそらく今日一番の笑顔だったろう。
あれだけあった料理もパーティとあってはスピーディーに無くなった。最後のケーキまで食べ終えて、葵は晴香とお風呂に向かった。
「見晴さん。」
「うん?」
残った女性陣でお茶を飲んでいると沙織が見晴に訊ねてきた。
「羽村教官とは恋愛結婚されたんですよね?」
「えっ、うん…。まぁ…。」
「どんなお付き合いされてたんですか?」
真剣な顔で更なる質問を浴びせる。所謂恋ばなというやつか…。
「どんなって…。」
「お願いします!私戦車道だけじゃなくてモテ道も目指してるんです!だから経験のある人にじっくり聞いてみたかったんです!」
見晴が若干言いよどむが沙織は土下座せんばかりの勢いで頼み込んできた。
「さ、沙織さん…。見晴さん困ってるよ。」
「そうだぞ沙織、教官のプライベートなことだ。」
「…ごめんなさい。」
左右の2人に諌められて沙織は熱くなりすぎたことを謝った。その様子に微笑みながら見晴は答えた。
「ふふ、教えてあげても良いよ。」
「えっ?」
「私があの人と地元の高校で出会ったの。その学校にはある一本の樹があってね…。」
『こんにちは!』
『こ、こんにちは。』
桜の花びらが舞う入学式の日、自分達の出身校のシンボルとも言える古木の前で見晴は葵に出会った。彼に見つめられた瞬間のまるで全身に電気が走ったかのような感覚を彼女は今でもおぼえていた。
目を閉じればその時からの様々な出来事も思い出せる。
「それから私は目立つように髪型をアレンジしたり、彼とわざとぶつかって気を引こうとしたりしてね。そして3年の春に初めてデートをしたの。」
春の中央公園、満開の桜並木を2人並んで歩いた。夏の海、売り子のお姉さんに無理矢理持たされ真っ赤になったスプーンが2つ刺さったかき氷。秋の学校、文化祭で2人一緒に校内を巡りめぐった。冬のパーティ、友人のクリスマスパーティに呼ばれて満天の星空を2人で見上げた。
「2人でバルコニーから眺めた星空はとても綺麗だったわ。」
ひとしきりの思い出を語り見晴は目を閉じた。
「そして忘れもしない翌日に卒業式を控えた2月末の日曜日、彼は私の友達を元気づけようとマラソンに挑戦したの。毎朝同級生に付き合ってもらってジョギングして、スポーツセンターにも通って、私も付き合ったりしたわ…。でも…」
3年生の2月、バレンタインデーを過ぎた頃に葵はマラソンに挑戦することになった。きっかけは見晴の友人美樹原めぐみの相談だった。自分がこの3年間を何もせず過ごしてきたことを悔やんでいたらしいのだが葵も見晴もそんなことないと言っても自分は何も形に残せていないと彼女は言い張る。そこで葵は今からでも何かを始めて残せばいいことを体現すると言ってマラソンを始めた。
見晴としては彼の言うことに賛成であり応援もした。しかし日がたつにつれて見晴は辛さが増していった。めぐみのために走るのは彼の優しさであると分かっていても少し気になってしまう。毎朝マラソンの特訓に同級生の清川望が付き合っているのも、幼馴染みの藤崎詩織や友人の虹野沙希が毎朝サポートしているのも、放課後に鏡魅羅とダンスやエアロビで鍛えていることも正直気に入らなかった。
「自分では気づいてなかったけど、周りの皆に私は嫉妬してたの…。そのくせ自分から彼のために朝や放課後に付き合えなかった。意気地無しだったのね…。」
見晴には何も無かった。望や魅羅みたいに彼とトレーニングするような体力も根性も、詩織や沙希みたいに恥ずかしがらずに彼を支えることも出来なかった。ほんの少し勇気がほしかった…。
『葵君…ごめんなさい!』
『見晴!!』
放課後に彼と並んで歩く帰り道。見晴は彼に別れを告げた。もう辛い想いをしたくなかった。彼ならすぐに誰にでもお似合いの存在になれる。自分が彼を独占するなどあり得ない。そう思っていた。しかし…
『葵君…。』
部屋で1人になれば思い出すのは彼のことばかり。捨てようと思いつつ捨てれずに引き出しにしまった彼とのツーショット写真を取り出しては涙を浮かべる毎日。自分から手放しておきながら見晴はそれをねだってしまっていた。もしも…彼が許してくれるなら…。
『見晴?あれからも俺はトレーニング続けてるよ。マラソン大会いよいよ明日なんだ。出来れば見に来てほしい。最初は美樹原さんを元気づけようと思ってたけど、それよりも今は見晴に来て応援してほしいって思ってるんだ。俺は見晴じゃないと駄目なんだ。他の子と親しくして君を傷つけてしまったことは謝る…。ごめん…。ただ俺は今も見晴が好きだ!!』
マラソン大会前日の留守電は見晴に勇気を与えた
翌日、マラソン大会会場
『頑張って!』
聞き慣れた声に葵はスタート地点近くから応援スタンドを見る。
『見晴…。』
ほどなくして見晴の姿を見つけた。いつものコアラヘアーにコート姿の彼女が両手を口元に構えて大声を張り上げる。
『葵君!!頑張って!』
『見晴!!ありがとう!』
彼女のエールに手を振り大声で返す葵。
『大好きだよ!!』
『俺もだ!!』
2人には他の人も、何もかもが目に入っていなかった。ただ遠目に見えるお互いの姿に向かって思いの丈を叫んでいた。
「それから卒業式の日に私は彼に改めて告白したの。」
「見晴さんから告白したんですか?」
沙織が訊ねると見晴は頷いて続けた。
「うん、私の学校には卒業式の日に女の子から告白するおまじないみたいな習慣があったの。」
『あなたとたった3年の思い出になって別れたくない。これからもずっと一緒にいたい。』
あの日出会った伝説の樹の下で想いを伝えた見晴。葵は優しく彼女を抱き締めて答えた。
「…」
「…」
「…」
「そして高校卒業して正式なカップルになったの。でも彼は九州へ行っちゃった。」
そう言ってアルバムを閉じる。その表紙を2度、3度と撫でて見晴は続けた。
「でも帰ってきたら真っ先に私のところに来てくれたし、頻繁に連絡もとってた。だから寂しくはあったけど彼はいつでも私のことを想っていてくれたのが嬉しかったわ。」
正直な言葉が3人に染み込んでいくとみほが口を開いた。
「…良いお話ですね。」
「みぽりん…。」
素直な感想が出た。少し心配そうに沙織と麻子はみほを見た。
「私は何度も聴かされたよ。見晴さんのことを。葵さん本当に好きな人がいるんだなって分かった。」
おそらくみほは葵に好意を持っていたのだろう。彼を愛している見晴、そしていつも一緒にいる沙織と麻子には容易にそれが感じられた。みほはどこか寂しげな表情で少し俯く。過去は過去と割りきったつもりでもそうはいかないのが人間である。
「みほさん。実はあの人と私はね、お互い高校よりもずっと昔に一度会ってたの。」
「えっ?」
見晴の思わぬ言葉にみほは顔を上げる。
「まだ幼稚園くらいかな?デパートで私は迷子になって泣いてたら、1人の男の子が私を迷子センターにつれて行ってくれてね。」
見晴は話しながら居間を出ていくとすぐに何かを持って戻ってきた。
「そしてその時、お互いの宝物だったこの髪留めとバッジを交換したの。卒業式の日にこれを見せあってね。」
見晴の手にあったのは掠れて何が描かれていたのかわからない子供用の髪留めと辛うじてヒーローの絵が残っていたバッジであった。
「私達はきっとそういう運命だったの。そしてそれは誰しもがありうることだと思うわ。」
それを握りしめて胸の辺りにまで持ってきて見晴は両目を閉じた。
「あなたにも、沙織さんにも、麻子さんにもきっと…。」
見晴がそこまで言い切った時、脱衣所から葵の声が聞こえてきた。
「見晴!上がったよ~!」
「は~い!」
その言葉に反応して見晴は脱衣所へ娘を迎えに行く。残された居間で沙織が声をあげた。
「素敵~!これよ!これこそ運命の出逢いなのよ!」
「まっ、確かに誰かさんみたいにすぐ惚れたのなんだの言って自滅したりすぐ人の事情に首を突っ込もうとするよりは確かにドラマチックな話だ。」
「麻子!その言い方ひどいよ!」
「真実だ…。」
「まぁまぁ。」
沙織と麻子のやり取りをなだめるみほ。しかしこれは麻子から幼馴染みへの心配の裏返しである。お互いそれは分かっている…はずだ。
「ごめんなさいね。晴香の我が儘に付き合っていただいて。」
「いいえ、迷惑だなんて。」
その後、そろそろ帰宅をと言葉を出したら晴香がみほお姉ちゃん帰らないでとぐずりだした。宥める一同だったが結局晴香は折れずみほは泊まることになった。
そして晴香の部屋で2人は並んで布団を敷き眠ることになった。
「晴香、みほさんを困らせたらダメよ。」
「はーい♪」
母の言葉にプレゼントされたアライッペのぬいぐるみを抱いて上機嫌で返す晴香。その様子に思わずみほは微笑んだ。
「それじゃお休みなさい。」
「ママ、お休みなさい。」
「お休みなさい。」
見晴が電気を消して部屋を出ていく。布団に入ってみほは晴香の方に体を向けた。
「晴香ちゃん、いつも1人で寝てるの?」
「うん!」
自分の時はどうだっただろうかと思い出してみる。姉と並んで寝て、時々一緒の布団だったような気もする。
「みほお姉ちゃん。」
「何?」
「戦車って楽しい?」
晴香の質問は今のみほなら答えは1つだった。
「うん!楽しい。晴香ちゃんは戦車好き?」
「うん!!わたしも大きくなったら戦車乗るの!!」
晴香の夢は戦車道をすることの様だ。
「そうなんだ。」
「お姉ちゃん、また戦車乗ってテレビ出る?」
「うん、もう少ししたらね。」
月末か来月頭には練習試合を控え、6月には今年の戦車道全国大会の抽選会がある。7月からはいよいよ大会が始まる。今年は大きく大洗はクローズアップされることだろう。しかしそれにおごる者はいない。皆昨年以上の激闘が待ち受けていると覚悟しているのだ。
「晴香、応援してあげるね!」
「本当?ありがとう!」
一旦真剣な表情を見せて大会への覚悟を自覚したみほはただ戦車に憧れる昔の自分のような晴香によって笑顔に戻る。
「お姉ちゃん、わたし戦車乗れるかな?」
「うん、きっと乗れるよ。私が乗せてあげる」
「本当に!?」
みほが放った一言にガバッと起き上がった晴香が再度訊ねる。
「うん、約束したげる。きっと晴香ちゃんを戦車に乗せてあげるね。」
「やった~!」
すると晴香はベッドから降りてみほの隣にやってきた。
「じゃ、指切りしよ♪」
小指を立ててみほの前につきだすと、みほが笑顔の二つ返事をした。
「うん」
「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った!!」」
小指を絡め合わせて声を揃える。こんな約束お姉ちゃんとよくしたなぁなどと思い出しながらいつか必ずと心に誓う。
「えへへ…。お姉ちゃん。」
「ん?」
しばし離れた小指を嬉しそうに眺めた晴香は問いかけた。
「一緒に寝ていい?」
「良いよ。はい。」
「ありがとう!」
みほが自分の布団を少しめくると晴香は自分のベッドから枕とアライッペのぬいぐるみを抱えて飛び込んだ。
「お休みなさい♪」
「お休み…。」
頭もとにアライッペを置いて枕を並べる2人。晴香はしばらく嬉しそうにしていたがはしゃぎすぎたためかすぐに寝息をたて始めた。
それを隣で自分にもしも小さい妹がいたらこんな感じだろうかと思い、少しだけ姉の気持ちが分かったかもしれないなどと感じつつみほも眠りに落ちた
今回登場の羽村葵の奥さんと娘さん。羽村見晴はKONAMIの恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」のヒロインの1人、館林見晴です。もともとは自分が他サイトで書いていた葵と見晴の小説を流用していることでこうなりました。ちなみに見晴の回想後半に登場するエピソードは「ときめきメモリアル・旅立ちの詩」がモデルになってます。監督はなんとメタルギアの小島秀夫さんです。
それと話の冒頭で登場した映画「さよならジュピター」と「復活の日」は実在する映画です。
次回は本編に戻って知波単との決着と大会の抽選会を考えております。来月前半投稿予定で合わせてキャラの紹介も用意しております。