今回は大洗女子学園戦車道の公式応援団発足のエピソードです。みほ達は出てこず橋下団長の回想が大半を占めてます。
5月の連休で行われた大洗女子学園と知波単学園の練習試合会場。観客向けに設営された屋台村の端っこにて
「鉄板ナポリタンおかわり!!あとミックスピザももう一切れ!!」
大洗にて開店していたアンツィオ高校の屋台にて設置されたテーブルに1人の男が居座って次々とメニューを食べては注文していく。
「お兄さん、もうこれくらいにしといたらどうですか?いくらなんでも食べ過ぎですよ~。」
売り子をしているアンツィオ高校戦車道新入生本城玲奈ことボンゴレはあきれ半分で言う。このお客1人で通算鉄板ナポリタン4杯、ミックスピザ、アンチョビピザ各2切れ、ミニガーリックトースト1本、ラザニア2杯、イタリアンソーセージ7本を平らげていた。
「いやぁ、大洗が勝ったしあんこう音頭の太鼓を叩いたら腹減っちまってよぉ。やっぱ応援のあとの飯は最高だしな!」
そんな風に言うのは大洗応援団の橋下団長であった。さすがにプロレスラーであるうえその中でも大食漢である彼のその食べっぷりは衆目を引く。
「ただいま~って団長!!またこんなに食ってんすか!?」
各校の集まりから帰ってきたペパロニがこの状況に驚き呆れる。
「よぉドゥーチェペパロニ、相変わらず旨いねぇこのナポリタン!!」
そう言って5杯目を口に運んでいく。
「あの団長さん。」
水のおかわりを届けにきたカルパッチョが横に立って以前から思っていたことを口にした。
「どうして応援団を発足させたんですか?」
「ん?」
カルパッチョの質問に一旦フォークを止めて隣に立った彼女を見上げる。
「聞いたところによると団長さんが角谷会長さんに掛け合って発足させたとか。」
「その通りだ。あれは去年のことだが…」
とくに秘密にすることでも無いので橋下団長は話始めた。
「レスラーは仲良しこよしじゃやってけねぇってよ…。」
そう聞かされ、自分の家を訪ねてきた客人がしょんぼりとしている姿を見て橋下は彼の名を呼ぶ。
「越野…。」
「すまねぇ橋下…お前とアメリカで一旗上げるつもりだったのによ…。」
相手は越野洋正。橋下とは同期の親友でありお互い闘魂四天王という二つ名を持つライバルでもある。
「何言ってんだ!お前は世界に認められてんだぞ。しっかりしろ。」
「…」
橋下のエールに越野は顔を上げる。
「俺らのことなら心配すんな。こっちは日本で頑張ってアメリカ野郎共を見返してやんだよ!」
「橋下…」
親友のねぎらいに笑顔を見せる越野。だがそれは少々無理矢理感の拭えないものであった。
「はぁ…。」
親友の手前ああは言ったものの橋下はショックだった。思えば共にプロレス道場の門を叩き、友として時にライバルとして歩み戦い苛め合いながらキャリアを重ね、気づけば闘魂四天王などと呼ばれている自分達がいた。そしてここに来て長年の夢だった海外進出、マジソンのリングに立つ日が現実になろうとしていたのだが…。
『俺達は越野だけを指名する。他のはいらない。レスラーは仲良しこよしでやってけるものじゃないぜ。』
アメリカ側からの言葉に越野は落ち込んでしまった。彼は自分に声がかかるやいなや橋下達も連れていきたいと申し出たのだが相手は越野だけを選んだ。長年の苦楽を共にした親友達を置いて行くことと友情に熱い越野は渡米を躊躇してしまったのだ。また橋下にしてみれば自分はまだアメリカ側の歯牙にもかけられないような人間であり、越野に劣っているということでもある。
「喜ぶべきなんだろうがな…。」
自社ジムの休憩中も思い出してしまう。いかんいかんと頭を左右に振っていると。
「やるなぁ!大洗女子がついにベスト4だぞ!」
「最初に出場したって聞いたときは一戦超えられればと思ってたが…。」
休憩中に何やら雑誌を見て話す若手を近くに認めた橋下は気分転換に話し掛けてみた。
「何話してんだ?」
「社長、戦車道ですよ!」
そう言いながら雑誌を勧める若手。橋下は受け取って表紙を見てみた。『週刊戦車の極・高校生全国大会特別号』とある。
「戦車道?女の子の武道がどうかしたのか?」
はっきり言って橋下には戦車道は女の子のすることくらいしか知識がなかった。
「地元の大洗女子学園が全国大会準決勝進出したんですよ!」
雑誌を渡した方とは別の若手が握りこぶしを作って返答する。正しくはここはひたちなか市なので隣なのだが…。件の学校について書かれた記事を見てさらに質問する。
「大洗女子学園…強いのか?」
「強いどころか今年発足した素人同然の集まりですよ。戦車もバラバラで数も揃ってないのに強豪サンダース大付属や中堅どころのアンツィオ高校相手に勝利したんです!!」
「ふむ…。」
若手の説明を受けてさらに記事を読み込んでみる。
「面白そうだな。」
自然とこぼれたその言葉に2人の若手は訊ねた。
「社長、行ってみますか?」
「面白いですよ!」
雑誌を閉じて2人に返しながら聞く。
「試合を?」
「はい!今度の準決勝は興業休みに重なるんで何人かで観に行くんですよ。」
「そうだな…気晴らしに行ってみるか。」
暗い考えに支配されるのはよろしくない。たまには他のスポーツでも見て気分を紛らわしてみようと思う橋下であった。
戦車道全国大会準決勝戦、雪原を舞台にした大洗女子学園対プラウダ高校の戦いは膠着状態になっていた。
「もうだめだ…。」
「完全に包囲されて劣勢どころじゃないぞ…。」
雪の降るなか傘をさしてカイロや即席湯タンポで暖をとる若手レスラーの諦めの声を橋下は聞いた。今大洗女子は市街地の教会に籠城している。プラウダお得意の包囲殲滅戦術に絡めとられてしまったのだ。プラウダは三時間の猶予を与えて大洗女子に降伏を迫っている。
「…」
橋下はスクリーンに映し出された戦車の配置を見ながら考えていた。
『相手は包囲の一部をわざと薄くしてる。』
素人目にもわかる配置の隙間。大半の人たちはそこが狙い目と思うだろう。
「罠だ…。」
リングの上で修羅場を度々経験してきた橋下にはわかった。相手はあそこに誘っているのだ。
「たぶんプラウダは誘い込んで砲火の餌食にするつもりだ。」
もはや大勢決したかと意気消沈する大洗側の観客達。すると画面に映されていた教会正面の入り口に大洗のメンバーが何やら妙な動きで集まり始めた。
「あれは…」
橋下は驚いた。
「あんこう音頭だ。」
彼女達は地元大洗名物あんこう音頭を踊り始めた。笑顔で自分達で唄いながら腕振り腰振り躍り舞う。気でも狂ったかと最初は思ったが彼女達の表情はとても力強く輝いていた。観客達にも分かった。彼女達の士気はまだ衰えていない、最後まで戦うつもりだと…。
「相手の隙を狙うなら…」
橋下が呟いたその時、大洗戦車隊が籠城していた教会の正面から一斉に飛び出してきた。敵のフラッグを狙っての破れかぶれか…。いや違う!!
「一番厚い中央だ!」
彼にはわかった。絶対有利に立つ相手を効果的に攻める方法、それは敵の技を破り隙を作ること。プロレスのリングでも自信満々の得意技を破るのは容易ではないが破れば一気にこちらに試合が傾く。大洗女子の作戦は理にかなっていた。
「やった!!」
「包囲網を破った!」
見事敵の中央を突破して大洗戦車隊は包囲網からの脱出に成功し何人かの観客が色めき立つ。だが…。
「まだだ!!」
橋下が力強く言う。敵はすぐに態勢を立て直して追撃に移る。大洗女子の正念場はここからであった。
そこからは怒濤の展開だった。38t軽戦車が敵に単身突撃を敢行。多数の敵を走行不能に陥れ時間を稼いだ。続いてⅣ号とⅢ突が街へと引き返し敵のフラッグ車を追撃する。次々やられる大洗女子戦車隊。そして紙一重の差で大洗は先にプラウダのフラッグ車を仕留め勝利した。
「これだ…これだ!!」
試合を見届けた橋下にある考えがよぎった。もしかすると彼女達なら迷っている俺達に道を示してくれるかもしれない。そう思った橋下は帰宅後すぐに越野に連絡をとった。
戦車道の聖地、富士演習場。真夏の太陽が照りつけるここに橋下は越野を招待していた。始めは慣れない場所とスポーツに少し怪訝に思っていた越野だったがすぐに彼も凄まじい砲撃戦を繰り広げるその戦いぶりに引き込まれていった。
「ヤバイぞ!」
「何てこった!」
スクリーンに映し出された映像に2人が声を上げる。戦車道全国大会決勝戦、大洗女子学園対黒森峰女学園の試合中盤。なんとか籠城していた高地を脱出した大洗戦車隊は追手を振り切って市街地へと向かっていた。その途中にある川でアクシデントが起こった。
「まずいぞ、傾いてる。」
「黒森峰が迫ってきているぞ。」
観客席から何人かが声を上げる。川を渡っている最中にウサギさんチームのM3リーがエンストしてしまったのだ。川の流れが徐々に戦車を傾かせていく。このままでは横転してしまう。また敵の戦車が追ってきている。普通ならフラッグ車輌だけでもここから逃げるべきだ。
「あっ!?」
誰かが声をあげた。隊長車輌から出てきた人物がロープを体にくくりつけてM3リー目掛けてジャンプしていく。
「隊長だ!」
「助ける気か!?」
勝負のかかったこの場面で彼女は仲間を助けることを選んだ。それは敵が向かってきている現状、勝利を放棄することになりかねない。だが隊長の独断ではなくそれは全員の総意であることがすぐにわかった。旋回砲塔を持つ戦車が後方へと砲を向けて砲撃を開始、隊長を援護している。全員が仲間を救おうとしているのが伝わってきた。
『隊長には指1本触れさせないぞ!』
『ここは守り抜くよ!』
『ひるむな!撃ち続けろ!』
そんな声が観客席にいた橋下達の耳に聞こえてくるようだった。もう彼らを止めることは出来なかった。
「頑張れ!撃ち負けるな!」
「もう少しだ!!踏ん張れ!!」
橋下と越野が立ち上がりスクリーンに向かって大声を上げる。例え彼女達には届くことのない声援でも、声を上げずにはいられなかった。たまらず周りにいた仲間のレスラー達も声を張り上げ、その輪は大洗応援席全体へと拡がって行った。
「やった!脱出したぞ!!」
誰かが叫ぶ。大洗戦車隊はM3リーの救出に成功した。応援の叫びが歓喜と拍手に変わる。街へとなだれ込む大洗戦車隊を見届け全員が再び着席した。
「良いぞ。ここで敵を迎え撃てば…。」
橋下は呟く。圧倒的不利な戦力で格上に挑むのなら少しでも有利に戦える場所へと敵を誘い込むのは得策と言える。越野もそれに頷いてスクリーンに再び釘付けとなる。
それからも大洗は激闘を繰り広げ応援席を沸かした。マウスにルノーとⅢ突が立て続けに撃破されたときは運も尽きたかと思われたがヘッツァーの捨て身の作戦でこれを撃破したときには再び歓声が上がった。続いて市街戦では多数の敵を引き付ける八九式と強敵重駆逐戦車に挑むM3リーの戦いぶりに皆手に汗握った。もちろん橋下達も声を張り上げ応援を続けた。
そして最終局面のⅣ号とティーガーの一騎討ち。皆固唾を飲んで画面を見ていた。ポルシェティーガーが撃破され黒森峰の車輌が攻め込んでくる。時間はない。
「次で決まるぞ…。」
今度は越野の呟きに橋下が頷く。
その直後、先に動いたのはⅣ号だった。
『大洗女子学園の勝利!!』
「やったーーー!」
「大洗ばんざーーーい!!」
勝利のアナウンスに沸き返る応援席で橋下と越野は両手を振り上げて歓喜の声をあげた。
「そして越野は渡米した。必ずマジソンで戦うことを約束してな。」
そこまで話して橋下団長は水を一口飲んだ。隣に立つカルパッチョ、同じテーブルに腰掛けたペパロニ、店番を交代し同じく腰掛けたボンゴレは静かに次の言葉を待つ。
「大洗女子は俺達に教えてくれたんだ。本当に仲間同士助け合うことの大切さを。そしてそれに報いるためにベストを尽くすことを。」
その瞳には川を渡ろうとしてエンストしてしまったウサギさんチームを助けるみほ達の姿、そして黒森峰の重戦車エレファントやヤークトティーガーに敢然と戦いを挑むウサギさんチームの勇姿が浮かび上がる。
「越野は俺を引っ張ろうとしてくれた。だから今度は俺が追い付く番なんだ。そして俺が応援団をしてるのは大洗女子への恩返しだな。」
いつしか橋下団長が食べていたナポリタンが載った鉄板は空になっていた。
「ふぅ、いつになく話し込んじまったな…。」
「…ずっ…ぐすっ…。」
そこで何かを啜るような音がした。音の出所は…
「本当に…良い話っすねぇ…ひっぐ…えっぐ。」
アンツィオ期待の新ドゥーチェ・ペパロニであった。やはり彼女は純粋と言うのか正直者なのか涙もろいらしい。
「おいボンゴレ、鉄板ナポリタン追加だ…団長にご馳走してやれ…。」
「その前に鼻水拭け。」
そんな彼女に橋下団長はポケットティッシュを渡す。
「でもやけにすんなり応援団結成できましたよね。あの夏の一件(劇場版)からすぐに発足させて…。」
記憶を辿って親友カエサルから応援団発足の話題が出た頃を思い出すカルパッチョ。女子高生の応援団としてごつい男達が女子校に出入りするのはいささか問題があるのでは無かろうか…。
「ああ、角谷前会長に高級丸干しほしいも差し入れしたら即許可してもらえた。」
その返答にペパロニとカルパッチョ共に納得である。
「それじゃ大洗女子の勝利にカンパーイ!!」
そう言って6杯目の鉄板ナポリタンを片手で持ち上げた橋下団長は笑顔で再び食べ始めた。さっきまで泣いていたペパロニも、傍らに立つカルパッチョも、鉄板ナポリタンを運んできたボンゴレも思わずその食い意地と食べっぷりに笑顔になる。そんな彼らのいるアンツィオの屋台は今日もなかなか盛況だった。
今回は橋下団長とアンツィオメンバーの絡みでした。ちなみに今回登場した越野洋正なる人物はプロレスラーでありガルパン公式応援大使の蝶野正洋さんがモデルです。蝶野正洋、橋本真也、武藤敬二で闘魂三銃士であります。
そして同じく初登場オリジナルキャラのボンゴレ。彼女はまた登場する予定ですので後々キャラ紹介に掲載する予定です。
次の番外編ショートはみほ達を中心にして桐生刑事の登場する話にする予定です。ただ本編の方を優先しての執筆ですので掲載時期はなんとも言えないです。