それと前回の予告ではエピソードタイトルは「新戦力です!!」としていましたが、友人から他の方の作品と被っているとのことで変更いたしました。
学園艦は広い。とにかく広い。小振りな大洗学園とは言えど全長7000メートルを超えるこの舟の内部はさながら迷路も同じである。案内表示や館内地図など無ければ慣れない者などすぐに遭難してしまう。以前も武部沙織が後輩のウサギさんチームと戦車探しをしていて遭難してしまったことは大洗戦車道チームの面々にとって記憶に新しい。
現実世界においては太平洋戦争中全長263メートルの戦艦大和艦内において度々行方不明者や迷子が発生していたという記録も残っている。
さて、これだけ大きい艦ともなると管理整備するのも一苦労であるがこれは航海管理学科などの学生と運営の仕事である。今日も今日とて彼らは艦内深くで仕事にかかっていた。
「先輩、何か出そうですねぇ…。」
航海管理コースの2人の女子学生がそれぞれ懐中電灯片手に真っ暗な通路を前後に並んで歩いていく。こういう状況が苦手なのか後ろを進んでいた子が発言する。
「誰しもそう言うの。今まで私はお化けの類いなんて見たことも無いわ。」
そう言って先輩と言われた学生はスタスタと歩いていく。後ろの後輩は置いていかれることを恐れて必死に追尾する。
「ここね。」
先輩の方が懐中電灯で用意してきた艦内地図を照らして呟く。通路の先で少し広い空間に出た。それは艦の側部から荷物を搬入するための場所であるが今は使われていない。
「えっと…二番倉庫二番倉庫っと」
懐中電灯の光を四方に向けてみると扉がいくつか並んでいるのを確認してそちらに2人で向かう。程なく②と書かれた扉を見つけた。
「しっかしこんなところに備品なんか残ってるのかしらね?」
「と、とにかく始めましょうよぉ…。」
情けない声を出す後輩を尻目に鍵を開けて扉を開放し懐中電灯で中を照らす。電灯のスイッチがあるはずと左から右へと動かしていく。
「ん?」
彼女の懐中電灯で浮かび上がったのは…
「えっ?」
巨大な影だった。自動車を上回る大きさ、上部から突き出た棒状の物体、圧倒的な存在感。
「先輩、これ…。」
後輩も自らの懐中電灯の光をそれに当てる。小さな明かりの追加によってさらに鮮明となったその姿。
「…戦車だわ。」
間違いなくそれは戦車であった。
「戦車道とは乙女の嗜み、清く強き心を鍛え…」
同時刻、大洗女子学園のホールにて選択履修科目のオリエンテーションが行われていた。壇上中央には隊長の西住みほが立ち、脇にはチームメイトの秋山優花里が立って戦車道と大洗女子学園チームの昨年度の活躍をスライドを使って説明していた。
「こちらはプラウダ高校との準決勝の決着がついた瞬間です。Ⅲ号突撃砲がプラウダのフラッグ車であるT-34を雪中で待ち伏せて撃破。一方でこちらのフラッグ車である八九式中戦車はこのように中破されまさに紙一重の勝利でした。」
と言った具合に説明をしていく。ほぼ無名校の活躍と快挙に新入生達の反応はあるものは息を呑み、あるものは羨望のまなざしを壇上へと向ける。
「なお履修希望者のために、明日の午後からの訓練に見学席を設けますので皆さんどうぞよろしくお願いいたします。最後に西住隊長から一言。」
「み、皆で見に来て下さい!パンツァー・フォー!!」
多少震えながらも言い切ったみほ。やはり元来恥ずかしがりやなのである。
「…」
そして最前列端よりに新入生達の中でもとりわけ真剣な表情の生徒がいた。肩ほどの長さの黒髪に非常に整った顔立ち。体育座りの体勢で両腕を組み、一真に壇上に視線を向ける。
「…来て良かった。」
その小さな声は誰にも聞こえなかった。彼女の周囲では同級生達が思い思いの集まりとなって小声で話などしている。彼女はそんな中で1人であった。
「…」
再び無言で壇上を見つめる。
「?」
すると袖へはけようとしたみほが立ち止まった。それも件の新入生のいる辺りに顔を向けて。
「…」
「…」
ほんの1、2秒2人の視線が重なり、思わず両者会釈する。
「?西住殿?」
立ち止まったみほに声をかける優花里。その声で我にかえった慌ててみほが返す。
「あっ…何でもありません。」
それだけ言うと再び2人は袖に向かっていく。それを見上げていた彼女はポツリと呟いた。
「やっぱり来て良かった。」
そう言って満足そうな笑みを浮かべるのだった。彼女の名前は明日香澄(あすか・すみ)、あの日大洗女子学園の前で握りこぶしを作って気持ちを固めていた女の子である。彼女は地元ではない東京からわざわざ単身乗艦してきた新入生であった。
「まったく何やっとるか!!グラウンド一周追加!」
その日の午後、例によって戦車道履修生達は訓練に励んでいた。今彼女達は射撃訓練を行っており、各車用意された的を狙い停止射撃、行進間射撃を繰り返していた。
「スカッ、どこ狙って射ってんだ!グラウンド一周追加!!」
そんな彼女達へメガホンを使って檄を飛ばすのは短髪に四角い顔、どっしりとした筋肉質なTHE自衛官と言える教官補佐の太田功三等陸曹である。ようやく季節的に似合い出した黒シャツに迷彩ズボンという出で立ちの彼は霞目駐屯地で射撃のエースであり、こと射撃訓練での失敗に煩い。目立ったミスには容赦なくランニングを言い渡す。最初は1ミスごとに五周と言われたが現在は一周に下方修正された。
「良いかぁ?敵は常に動き回る。こちらはそれに対して臨機応変に撃ち込まねばならん!数で劣るなら腕で勝れ!!戦車とは『月月火水木金金』で学び培うものなのだ!敵を見つければ容赦するな!」
それが太田教官補佐の信条だった。当初は困惑を極める大洗女子であったが彼の真剣なに理解を深めてきていた。またペナルティーが課せられた生徒がいれば太田自らランニングに付き合うその姿に好感を抱くものさえいた。中でも特に…
「特訓こそ青春の花道!!根性がものを言う!!気合い入れてもう一撃!!」
「「「おーっ!!!」」」
車長磯辺典子の声にメンバーが応える。八九式中戦車を担当しているバレー部4人のアヒルさんチームは太田の熱血指導に最も共感しているらしい。
「ようし!次は小休止後隊列訓練だ!全員車輛庫前へ移動!!」
太田の指示に従って各車移動を開始。ちなみに本日参加しているのは八九式中戦車(アヒルさん)Ⅲ号突撃砲(カバさん)M3リー中戦車(ウサギさん)、三式中戦車(アリクイさん、カモさんの臨時混合編成)の4チーム。
Ⅳ号中戦車(あんこう)は車長と装填手、砲手が不在のため只今より参加、38tヘッツァー(カメさん)は乗員不在のため不参加、ポルシェティーガー(レオポンさん)は人員不足のため不参加。
「こちらです。」
西住みほ、秋山優花里は先ほどの航海管理コースの2人につれられて艦内深くに足を運んでいた。新たな戦車が発見されたとの連絡を受けた大洗女子学園戦車道チーム。今は一両でも多くの戦力を欲している彼らは直ちに現場へ向かった。
「ここは管理している我々も何年も放置していた区画で普段は入れません。たまたま備品を探しにきたところ発見しまして…。」
そう説明しながら一堂を二番倉庫へと案内して鍵を開きどうぞと手で促す。
「失礼します。」
「今電気を…。」
みほがまず入る、そして続いて案内してきた航海コースの2人組が入って電機のスイッチを入れる。
「こ、これは…」
それは確かに戦車であった。しかも今まで見つけてきた戦車に比べ保存状態が良好であると見た目にも思えた。森林迷彩模様に丸みを帯びた砲塔に片側に8つの転輪。この戦車は…
「センチネル…。オーストラリア製の巡航戦車!!しかも6ポンド砲搭載型です!」
続いて入ってきた優花里が興奮して言う。
「これなら戦力となりますよ!」
センチネル巡航戦車。鋳造による一体構造の車体をもつ最初の戦車 であり、オーストラリアで大量生産された唯一の戦車でイギリス以外で造られた数少ない巡航戦車。イギリスの巡航戦車クルセイダーを手本とした車輌である。本来は2ポンド砲を搭載した車輛であったが非力な2ポンド砲を6ポンド砲へと換装案が提出されている。しかし前線で6ポンド砲が大量に必要とされたため計画は設計等で終わってしまっていた。
「でもどうしてこんな所にあったんでしょう?それも6ポンド砲を搭載してるということは少なくとも戦後に手が加えられた車輛ということですし…。」
優花里が唸る。確かにその通りである。いつ?誰が?なぜここに?なぜ6ポンド砲なのか?疑問が多々生まれた。
「どこかしらに欠陥でもあるのかもしれませんがとにかく運び出しましょう。貴重な戦力ですし使えなければ転用することも出来ますから。」
ともかく使えるものなら使わなければ宝の持ち腐れである。みほはそう言うと機している回収班へと連絡すべく携帯を取り出した。
「おかしいですね…。」
生徒会室のテーブルの上に五十鈴華はいつくものファイルや資料を広げて困惑していた。
「見つかりませんか…。」
その華の様子に会長机に座る現大洗女子学園生徒会長が声をかける。
「はい、それらしき戦車が存在したという資料はあったんですが…試合に使ったとか整備を施した、主砲を換装した、どこから購入したというような資料がどこにもありません。」
華が調べを進めているのは本日発見されたセンチネル巡航戦車の資料である。しかし不思議なことにこれと言った資料が無いのである。
「しかし戦車はある…。ミステリーですねぇ。」
会長も両肘を机について顎を手にのせ考える。しかし答えは出ない。
「とりあえずそれは置いておきましょう。操縦系のマニュアルも無いのなら自分達で作成して下さい。コンピュータールームの使用許可を出します。戦車の登録等の書類は後でお渡ししますのでお願いします。」
会長がそう言うと華は「はい。」と応えてテーブルの上に広げていたファイルや資料の束を手早く片付けて出ていった。
一方で再びグラウンド。小休止を終えて戦車隊は次なる
「X陣形から逆V陣形へ展開、同時に後進へ。」
監視用の櫓の上から背の高いボブカットの女性がグラウンドの戦車隊を見下ろしつつ隊列訓練の指示を出す。陸上自衛隊の迷彩戦闘服を着込んでいる彼女は太田と同じく教官補佐として着任した筑波さつき二等陸曹である。彼女は羽村葵教官が選んだ操縦手で霞目駐屯地でもピカイチの腕前を持っていた。
「後進しつつ砲塔を90度右旋回、只今より10秒後に停車して待機。」
その指示に忠実に従う大洗戦車隊。もともと結束力の高いチームだけに隊列運動はお手のものであった。そしてこの間にもどってきたみほ、優花里、華の3人が合流する。
「どうだ?」
停車指示を出したところでさつきは後ろから声をかけられた。
「羽村二尉、滞りなく順調です。」
上がって来た上官に敬礼し報告する。葵もまた敬礼で返す。ちなみに彼は太田と同じく黒シャツに戦闘服の迷彩ズボンである。
「よし、それじゃ次の項目に移ってくれ。」
「はっ!!」
葵の指示に答えるとさつきは通信機のマイクを手に取った。
「これより森林フィールドコースの行軍訓練に移る。あんこうチームを先頭に各車一列縦隊へ。準備でき次第移動開始!!」
指示を飛ばすとすぐに戦車達は隊列を整えて進み始めた。そこでさつきは葵の背後に誰かいることに気付いた。
「羽村教官、その子は?」
葵の後ろについてきていたのは大洗女子学園の生徒であった。さつきにはおぼえの無い顔であるため戦車道履修者ではない。
「グラウンドの様子を盗み見ていたからしょっぴいてきた。」
笑顔で紹介する葵。女子生徒は少しうつむき気味になる。
「すいません…見学は明日だったのは分かってたんですが…どうしても見たくて。ごめんなさい!」
彼女は身体を深く曲げて謝った。
「まぁ何か邪魔をしたわけではないし…俺は別に構わない
が。筑波君はどうかな?」
「私も同意見です。」
2人の言葉に彼女は顔を上げる。
「えっ…それじゃあ…」
「見学して良いよってこと。」
さつきがウィンクして言うと彼女は一気に笑顔になった。
「ありがとうございます!」
先程よりも心持ち深めにお辞儀をする女子生徒。ここで葵は問いかけた。
「ところで君、名前は?」
「はい!明日香澄です」
その名前を聴いた葵が首をかしげる。
「明日香?」
そして顎に左手をあてて少し考えると…。
「思い出した!君は明日香耕作の妹さんだ!」
「えっ!お兄ちゃんを知ってるんですか!?」
思いもよらない言葉に澄が驚く。
「やっぱり。俺とお兄さんは同じ高校の同級生だ。どこかで見たような気がしていたんだ。どことなく耕作と同じような雰囲気だからだ。」
明日香耕作、葵の高校時代の友人で高校剣道で全国大会個人優勝もしたほどの男だった。現在は剣道の選手として、道場の師範代として活躍している。
「君とは何度か会ったこともあるな。しかし世間とは本当に狭いものなんだな。」
そう言ったところで通信機から声が聞こえた。
『こちらあんこうチーム、森林フィールドコースの予定地点Cに到着しました。』
すぐさまさつきがマイクで指示を出す。
「よろしい、では通常周回コースを回りフィールド内にて模擬戦を行う。戦車前進!!」
『了解!!パンツァー・フォー!!』
そこで通信は終わった。スピーカーから流れてきた声を聴いた澄は葵に訊ねる。
「き、教官!今の声は西住隊長ですか!?」
「ああそうだ。この後は模擬戦をするからしっかりと見ておきなさい。」
そう返すと彼は予備の双眼鏡を渡す。受け取った澄は嬉々としてそれを構えて森林フィールドを見る。そんな姿を葵とさつきの2人は実に微笑ましげに見ているのだった。
今回登場したオリジナルキャラ明日香澄。この兄というのが自分が以前違うサイトにて登場さてた羽村葵の友人でして今回それを踏襲してます。しかしストーリー上は特に問題ありません。
そして教官補佐の太田功と筑波さつき。太田はもちろん機動警察パトレイバーの登場人物太田功巡査です。今回はゲーム版での教官代理と時をモデルにしてます。筑波さつきは全くのオリジナルキャラクターです。今後多少掘り下げていくつもりであります。次回は教官補佐最後の1人を登場させる予定です。
それと華は生徒会長ではありません。プロットが今度の新作を考慮していなかったためであります。
さらに、新登場のセンチネル巡航戦車については次回か次々回に話したいと思います。
次回予告
センチネルを加えた大洗女子学園戦車隊。しかし今度は整備の人員不足に。迫る新一年生を迎えての第一回目の授業は…。
次回第3話「走り出します!」