知波単まさかのティーガー、ルノー撃破は観客にも大きなどよめきとなっていた。
「な、何ということでしょう!?あの知波単がティーガーを!!」
そんな観客席から少し離れた場所に用意されていた特別仕様の観戦スペースのテーブルに座していた赤毛の少女が目を見開き危うく右手にもったティーカップを落としそうになっていた。
「ローズヒップさん落ち着いて下さい。」
同じ席に座る橙色の髪を後頭部で纏めた少女が宥める。彼女達は神奈川県の聖グロリアーナ学園からやって来た戦車道の隊長オレンジペコと副隊長ローズヒップである。
「落ち着けるものではありません!突撃しか取り柄のないただの直進脳がまさかこんなにも!」
「ローズヒップさん、あまりご自分に返ってくるような言動はお控えになられた方がよろしいかと…。」
ローズヒップの知波単に対するあまりな言い様にオレンジペコは諌める様に発言して紅茶を一口飲む。実に御嬢様然とした佇まいは先代の隊長ダージリンから受け継がれてきたものだがローズヒップは対称的に非常に落ち着きに欠けている。
「知波単の立体戦法、侮れませんわね。」
そしてここにもう1人の人物の姿があった。青みがかった黒髪ロングヘアーに若干つり上がった瞳。そしてオレンジペコに負けず劣らぬ御嬢様然とした空気の持ち主。
「私達の主力たるルノーB1がこうもあっさりと…。」
そして少し悔しそうにカプチーノを飲んでいるのはフランス系の流れを組む聖グロと並ぶ御嬢様学校、マジノ女学院戦車道の隊長エクレール。昨年の大洗女子学園が初勝利をおさめ、全国大会では一回戦でアンツィオ高校と接戦を繰り広げた学校である。
「マジノ女学院としてはいかがですか?伝統的戦法を変えるとなると並大抵なことではないと考えますが。」
「確かに簡単なことではない、しかしやるだけの価値はあると言わせていただきますわ。」
ペコに対して精一杯の不敵な笑みを作って返すエクレール。それが今彼女にできる最大限の威圧であった。
マジノ女学院は優雅さでは聖グロには勝るとも劣らぬ存在である。しかし戦車道は強豪とは言えなかった。伝統を重んじて集団行動による浸透戦術、あるいは厚い装甲に頼った防御戦術にこだわり続けたためにここしばらくは白星を逃している。このままではいけないと昨年声をあげたのが現隊長エクレールだった。彼女達もまた知波単と同じく戦術転換を行っていたということだ。そして…
「電撃戦による強襲戦術、楽しみにしていますね。」
どこか共感をおぼえる様な表情を見せつつペコはテーブル上のお茶請けクッキーに手を伸ばす。知波単、マジノ、そして聖グロに共通するのは困った伝統であった。
「なかなかにやるな知波単学園。」
「今年はやはりどの学校も戦力を向上させていると見て良いですね。」
一方では観覧席の端にあるベンチで2人の少女がジュース片手に観戦していた。青髪を左側で留めた形のポニーテール姿の少女の知波単への称賛を隣に座ったショートの少女が返す。彼女達もまたこの試合での大洗の立ち回りを見に来ていた。
「プラウダ高校ではやはり大洗が一番の警戒対象ですか?」
「否定しません。しかし…。」
青髪の少女が強い意志を感じさせる瞳で隣のショートの少女を見る。彼女もそれに応えて目を向ける。
「プラウダの目標はあくまで優勝と黒森峰の撃破。一昨年の勝利がまぐれでは無いことを証明しなければ…。」
プラウダ高校戦車道の新隊員リーリャの言葉を受けた黒森峰女学園戦車道の3年生副隊長赤星小梅は強く頷いてスクリーンへと向き直り言葉を放った。
「我々も同じです。昨年敗北した大洗、そして一昨年の雪辱を晴らすべきプラウダ高校を必ずや撃ち破ります。」
「ドゥーチェ、大洗が…。」
「なんてこった!?ティーガーが!」
応援用のスペースにて大洗の応援のためにやってきたアンツィオ高校一同は知波単の猛攻にショックを受けていた。ノリと勢いが一気に失われさっきまでの熱い声援が途絶えてしまった。しかし…。
「皆静まれぃ!!あれを見ろ!」
そんな中でも隊長ペパロニだけは意気高く少し離れた場所に陣取るグループを指差す。
「「「負けるな!!負けるな!!大洗!!進め!!進め!!大洗!!」」」
橋下団長率いる大洗公式応援団は声を張り上げ続けていた。さすがはプロレスラーの軍団だけあって体力、声量、気迫は凄まじかった。
「こっちも負けないで応援するっす!」
その姿を見たアンツィオ応援団も負けじとあるものは旗を振り、あるものはポンポンを手に応援を再開した。
「お前ら!!女子高生に負けるようじゃレスラー失格だ!声張り上げろぉ!!」
「「「おぉー!!」」」
いつしか応援スペースがノリと勢いをつけたアンツィオと大洗公式応援団との応援合戦の様相を呈していた。
「西隊長!!快挙であります!大洗の虎号戦車(ポルシェ・ティーガー)とB1号戦車を仕留めました。」
一式中戦車に乗る副隊長福田の報告にすぐさま西隊長から応答が来た。
『よしっ!!良くやった!!こちらは敵の新戦車を撃退した。情報にあった新隊員の乗ったセンチネルと思われる。』
サンビーチでの戦いはセンチネルが撃ち合いを諦めて後退した。さすがに車輌のスペックは上でも西相手にペンギンさんチームだけでは荷が重かったのだ。
「隊長!!このまま勢いに乗りましょう!」
「突撃命令を下さい!」
「知波単魂見せつけてやりましょうぞ!」
「一気に畳み掛けましょう!」
三式砲戦車で指揮するもう1人の副隊長玉田の進言に一式砲戦車の寺本、細見、九七式中戦車の池田が続く。
『ダメだ!』
西は強く返した。
『勢いがついたとは言えまだ敵は高火力を残している。突撃は待て!!』
例によって知波単学園の突撃癖がまた出てきた。昨年の大洗エキシビジョンマッチではこの突撃癖が切っ掛けで包囲作戦が瓦解、聖グロリアーナ・プラウダ連合に敗北を喫したのだ。
『まずは合流しよう。予定通りに南下して集合地点の森林地帯へ向かってくれ。先頭はホニ(三式砲戦車)、殿はチヘ(一式中戦車)で隊列を組むように。チハ(九七式中戦車)はホニの左右を守れ。』
三式砲戦車は戦車と言われているが分類上は自走砲や支援砲とされる。先代の一式や二式に火力、防御力に優れてはいるが上部正面装甲こそ30ミリ(25ミリとする資料もある)だが側面と背面の装甲は10~20ミリしかないのだ。
「了解であります!!」
「了解!!」
「了解!!」
その様子を遠くから双眼鏡で睨む人物がいた。
「こちらカメさんチーム、敵は荒れ地を離れて森林地帯へ向かう模様。」
カメさんチームの装填手兼通信手十兵衛こと柳乙十葉がヘッツァーの上に立って状況を西住隊長へと報告していた。
『了解しました。敵に見つからない様にカメさんチームも南下して敵の隊長車を奇襲、応援のアヒルさんチームと合流したら指揮下に入って下さい。』
「心得ました!」
「ではウサギさんチーム、出発します。」
「お願いします。危険な役目ですが…。」
みほの目の前でエンジンをアイドリングさせるM3リーの上から副隊長の澤梓が笑顔で返す。
「大丈夫です!必ず相手を引き連れて帰ります!」
その言葉を最後にウサギさんチームは西を目指して走り出した。Ⅲ号突撃砲の上に立つ同じ副隊長のエルヴィンは愛用の帽子を振って見送っていた。
「私たちは当初の予定通りに分散待機します。カバさんチームはここ、アリクイさんチームはここ、ペンギンさんチームはここです。」
拡げた地図に印を書き込みつつみほは残る3チームのリーダーに指示する。
「心得た。」
「分かったにゃ~。」
「了解です。」
すぐにカエサル、ねこにゃー、澄の3人が返す。相手は大洗の街並みを把握している。こちらがゲリラ戦を仕掛けるべくまずは敵の突撃精神を刺激して浮き足立たせて誘い込むのがこのいらいら作戦の目的である。
『こちらカメさんチーム、敵車輌森の入り口にて待機。動きありません。』
『こちらアヒルさんチーム、敵隊長車を追跡中。ポイントKを間もなく通過。』
「カメさんチーム、動いて下さい!敵隊長車をアヒルさんと攻撃。撃破できなくても構いません。」
『了解!!』
『こちら西、森林地帯前にて敵と遭遇。カメ殿のヘッツァーだ。』
「西隊長!大丈夫でありますか!?」
『いまのところは…おっと、アヒル殿のチイ車も来たぞ。』
敵の増援の報告に玉田がマイクへと強く言う。
「西隊長!!すぐに向かいます!」
すぐに操縦手がエンジンをふかして動かせるようにする。
「アヒル殿はおそらく隊長車を追跡していたのだ。そこで撤退すると見せかけたヘッツァーに挟み撃ちを…。」
敵は2輌、八九式なら充分九七式チハでも倒せる。ヘッツァーの相手は自分が務めようと玉田は判断した。
「ホイ2号車とチヘはこの場にて待機、チハは我に続け!!隊長を救援に向かう!」
「もう一発アタック!!」
「喰らえ!!」
「なんの!おっと危ない!」
西隊長の車輌は八九式とヘッツァーの砲撃を巧みにかわす。さすがに隊長車の操縦手ともなるとかなりの腕前を持っている。操縦にクセのある日本戦車を意のままに動かして2対1という不利な状況で実によく立ち回っている。
「さすが西さん!あっさり白旗は上げないね!」
「レオポンさんとカモさんのかたきぃ~!」
典子と武蔵の言葉を聞きそれぞれのチームメイトはさらに発奮して西に挑む。
「もらった!」
そして一旦距離をとったアヒルさんチームの八九式中戦車が西をスコープに捉えた。間髪入れず気合いの言葉を口にして砲手の佐々木あけびが57ミリ砲を叩き込む。
ドンッ
「弾かれた!?」
だがその一撃は跳ね返された。驚くアヒルさんチームの一同。斜め前から当たったうえに砲の威力の低い八九式とは言えそこそこの距離から放たれた砲弾を正面装甲たった25ミリの九七式チハが跳ね返すなどありえない。
「西住隊長!!正面のアタックを弾かれました!西さんの車輌は九七式チハ改じゃありません!!」
典子はみほへ知波単の戦車がパワーアップしている事実を伝えた。
「九七式に似つつ八九式の砲撃を正面で跳ね返したとなるとおそらくは一式中戦車チヘですね!!」
持ち前のミリタリー知識から優花里が正解を導きだす。自前の戦車ノートを取り出した沙織が驚く。
「正面装甲50ミリ!?チハの2倍じゃん!!」
砲塔の正面装甲だけならばⅣ号にも匹敵する。
「しかもレオポンさんチームが遭遇した未知の戦車もいます。知波単は勝ちに来ていますね。」
華が改めて知波単の用意した戦力に舌を巻く。
「しかしこっちも負けるつもりは無い。」
操縦レバーを握り直した麻子がそう言うとみほが続いた。
「麻子さんの言う通りです。それに九七式より強力ではありますが主砲は47ミリで変わらず側面後面は薄いことは同じです。手数は少なくともまだこちらの方が戦力的には優勢です。」
マイクを通じて各チームへ敵の戦力の概要を改めて伝えてみほは最後に確認するように言った。
「各員、予定通り作戦を進めて下さい。」
いらいら作戦は着実に準備が進められつつあった。
「目標敵戦車!!当てられなくてもいい!西隊長から引き離せ!!」
隊長車の救援に向かった玉田副隊長率いる部隊が隊長車の周囲を囲むように動き回る八九式とヘッツァーを牽制すべく砲撃を開始する。
ズンッズンッと言う空気を震わす音と共に土煙が上がり大洗の2輌が敵の襲来を知り一気に離脱にかかる。
「敵襲!!カメさんチーム、一時退却!」
「敵に背を向けるは武士の恥なれどここは作戦を優先すべし!!」
磯辺典子の指示に従って新カメさんチームが退却に移る。
「玉田!!」
「西隊長!!お助けに参りました!」
味方の登場に西と隊長車の一同が息をつく。優秀な隊員が振り分けられている隊長車といえども2対1は苦しかった。
「敵を追撃!逃がすな!」
ただちに玉田が追撃すべく砲撃を行うが…
「玉田、深追いするな。一旦後退しよう。」
「…了解。」
敵の砲撃が途絶えたところでヘッツァーと八九式は停止した。
「磯辺先輩、敵の追撃が止まりました。」
「よしっ、反転180度!!もう一回いくよ!こちらアヒルさんチーム、ウサギさんチーム応答願います。」
武蔵からの報告を受けてウサギさんチームと通信を行う。
『こちらウサギさんチーム、間もなく合流できます。』
すぐさま梓から返事が来る。この間に2輌は反転する。
「了解。西住隊長、こちら敵を追跡します。」
『わかりました。敵はおそらく森林地帯で潜伏すると思われます。充分注意して下さい。』
「西住隊長、遠目ですが敵の戦車を撮影しました。動画で送信しますので確認してみて下さい。」
逃げる際に応援に来た敵戦車の撮影を典子は試みていた。
「うーん…三式砲戦車かな?」
「遠目だからなんとも言えませんが、固定砲塔の日本戦車となるとその可能性が高いですね。」
不鮮明ながらもなんとか自前の戦車知識にみほと優花里が当てはめる。
「三式砲戦車…分類上は自走砲の類いね。」
戦車データを纏めたノートをめくって沙織が発言する。ネット上の写真をケータイで送ってみたところ典子と武蔵からこれだろうと返信も来た。
「38口径の75ミリ砲を備えてます。アリクイさんチームと同じですね。」
「正面を除けば装甲はチハ並みだね。」
「そもそも車台はチハの流用ですからね。」
優花里と沙織の談義を聞き流しつつみほは各車へ敵の情報を伝えていく。
「主砲が脅威ですが固定砲塔ですから動きが制限されます。相手の動きを見極めつつ立ち回りましょう。」
「榴弾撃てぇ!!」
典子の指示のもと八九式の主砲から57ミリ榴弾が発射された。
「発射!!」
「主砲、副砲撃てぇ!!」
続いてヘッツァーとM3リーの2門の75ミリ砲と37ミリ副砲が発射される。目標は知波単の潜む森である。ただし敵を狙ったものではなく適当な射撃である。数発撃っては機銃掃射して去り反転、また数発撃っては機銃掃射を繰り返す。
「隊長、反撃しましょう!」
「敵に一方的になぶられているなど耐えられません!!」
潜んでいる方としてはこれではたまったものではない。いつ発見され撃ち込まれるかと思えば気も休まらないのだ。何よりも彼女達の突撃癖が顔を覗かせ始めていた。玉田、細見の進言がそれを示していた。
「待て!!ここが辛抱のしどころだ!」
西は落ち着くように指示を出す。敵の陽動や誘引戦術であればノコノコと出ていったが最後だからだ。
「しかしもはや我慢の限界!ここは勢いに乗る場面であります!」
玉田は耐えきれずついに前進し始めた。
「おい玉田!!勝手な行動は…」
西が引き留めようとする矢先、玉田に続いて池田、名倉、浜田の九七式3輌も森の出口へと向かった。
「皆戻れ!!一旦下がって作戦を…」
西の声は彼女たちに届かなかった。
「来た来た!」
「よし!反転退却!!」
「「「「「逃げろ~!」」」」」
武蔵が敵の登場に色めき立ち、典子がメンバーに指示する。ウサギさんチームの一同は紗希以外のメンバーが声を揃えて退却にうつる。
「後方欺瞞射撃用意!!」
さらなる指示を典子から指揮を引き継いだ副隊長の沢梓が下す。M3の37ミリ副砲が後方を向き八九式の後方機銃が火を吹く。
「無理して当てるよりも慌ててる感を敵に与えて下さい。」
「「了解!!」」
「敵はまともに照準できていないぞ!一気に距離を詰めろ!」
玉田の指示に各隊員色めき立つ。現在我慢しきれなかった玉田と僚機のチハ改が3輌。4対3であるうえに敵の背後を突いている。実に有利な展開だ。
「知波単道とは突撃にあり!!撃て撃てぇ!!」
「敵さんはのって来てるよ!皆、あと少しだから頑張って!」
梓の檄に紗希以外の4人が応える。M3、八九式、ヘッツァーは敵の追撃を受けつつ大洗の街に突入することに成功した。
「西住隊長!敵はチハ3輌、ホニ1輌です。街までの到着まで約5分。」
『了解です。こちらは既に配置完了しました。街へ入ったらウサギさんは私達アンコウ、カメさんはカバさん、アヒルさんはアリクイさんとの連絡を密にして展開して下さい。』
すぐさまみほからそれぞれへ指示が与えられる。新履修生を含む大洗女子学園戦車道一同のチームワークが試される時だ。
「間もなく目標地点です。アヒルさん、カメさん、用意は良いですか?」
「いつでも行けるよ!」
「こちらも同じく」
梓の問いに応える典子と武蔵。
「目標地点確認!!転進用意!!」
目指す先は大通りの交差点。更なる梓の言葉に彼女を除く12人が息をのむ。
「「「散開!!」」」
突如玉田達が追いかけていた3輌は交差点で3方向へと別れた。M3は直進、ヘッツァーは右折、八九式は左折した。
「玉田副隊長!!」
「浜田は右折、池田は左折、名倉は私に着いてこい!」
『カバさんチーム、こちらカメ、目標地点まで間もなくです、攻撃準備願います。』
「来たぞ。砲弾装填、砲撃準備良いか?」
「装填よし!」
「いつでも撃てるぞ!」
すぐさまカエサルと左衛門佐から準備完了の返事を受けてエルヴィンはカメさんチームへ通信を送る。
「武蔵、こちら準備良いぞ!」
『了解!!』
チハに追われるカメさんチームのヘッツァーは旧倉庫街へと逃げてきていた。これまで数発砲撃されているが操縦手シャルルの特訓の賜物か直撃は免れている。
「目標倉庫前目視確認!!」
目標地点を捉えた武蔵が次なる指示を出す。
「急停車!!」
急激にスピードを落とすヘッツァー。そして…
「全速後退!!」
すぐさまバックを開始した。
「うわぁ!!」
思わぬ展開に追跡していた浜田のチハは思わず停止する。そして
「喰らえっ!!」
ドカッ
ヘッツァーの全速後退による体当たりでチハは完全に前進できなくなった。
参考
38t・ヘッツァー改
重量15.75トン
九七式中戦車新砲塔チハ
重量15.8トン
そして…
「先輩、お願いします!」
武蔵の言葉に応えるかのように衝突した2輌とは違うエンジン音が響き始めた。
「おりょう、発進!!左衛門佐、頼むぞ!」
「行くぜよ!!」
「承知!!南無八幡大菩薩!!」
倉庫内に隠れていたカバさんチームのⅢ号突撃砲がエルヴィンの号令一下閉じられた木製扉を破壊して飛び出し相手をスコープに捉えた。
「撃てぇ!!」
エルヴィンの号令に75ミリ砲が吠えた。
同じ頃
「くそぅ!!」
池田が指揮するチハは八九式を追撃していた。
「しっかり狙え!!当たれば一発でしとめられる!」
鼓舞するように言い放つ池田だが敵はいりくんだ道を右へ左へと駆け回る。小柄な八九式ならではの芸当にチハは追いかけるのがやっとだ。
「アリクイさんチーム、準備は良い?」
『いつでもOKだにゃ』
ねこにゃーからの返事を受けた典子が右手の握り拳を左手の手のひらに打ち付ける。
「よしっ!!根性でいくよ!!」
「「「はいっ!!キャプテン!!」」」
典子、あけび、妙子、忍のバレー部一同気合いの雄叫びが車内に響いた。
「ももがー、建子、ここ一番だにゃー。」
三式中戦車車長のねこにゃーの言葉に2人のチームメイトが返す。
「まかせるもも!!」
「ねこにゃー先輩、射撃はお任せあれ。」
昨年より引き続き操縦担当のももがーからの気合いのこもった返答とぴよたんに代わって砲手兼装填手となった新履修生早川建子(はやかわ・たてこ)の自信満々な応答にねこにゃーは眼鏡の奥で目を光らせ続けた。
「頼んだでありますぞ!」
「よし、この道なら大通りへ出るしかない。」
何度目かの威嚇射撃の末に池田は八九式を一本道へと追い込んだ。ここは途中に交差する道はなく大通りへと出るしかない。しかも大通りへと出ても左折すれば通行止めの下水工事現場に行き当たる。つまり敵は右折するしか手がない。事前にフィールドワークしていた甲斐があったと言うものだ。
「大通りへと出たらただちに右砲戦用意!!」
相手の速度を予想して素早く計算して角度を調節する。突撃主体だった知波単とはいえ個々の戦闘レベルは高い。日々猛訓練の賜物であった。
「仕留めるぞ!」
気合いを入れる池田だが彼女は八九式が思い通りに逃げているのではなく自分達が誘われていることに気づけていなかった。
「必殺!!エックス攻撃!!」
「ここだもも!!」
典子の発言と共に八九式が目的の交差点を通り抜けた直後、右手から一瞬遅れて待機していた三式が走り込んだ。
「何っ!?」
「ファイヤー!!」
三式の主砲が九七式の正面に炸裂、スピードがガクッと落ちて白旗をあげた。
「初撃破!!この者ストーカー犯人。」
などと言って喜ぶ建子。ねこにゃーとももがーもガッツポーズを決める。
大洗女子学園新履修生の1人早川建子、黒のショートヘアーに授業中以外は必ずカウボーイのようなテンガロンハットを被り白いスカーフを首に巻き、時おりサングラスを着用しているという奇抜なスタイルを好む。そんな彼女の特技は動体視力。速読やフラッシュ暗算などは朝飯前。行進間射撃では1年どころか華や左衛門佐に勝るとも劣らない腕前を持っている。本人のキャラクターがかなり濃いためアリクイさんチームへと割り振られすぐにメンバーとも馴染んでいるのもチームワークとして重要であった。
『知波単学園、九七式中戦車2輌行動不能!!』
立て続けに撃破された知波単勢。
「おのれぇ!!立て続けにやられるとは!」
「玉田副隊長!!一旦退きますか!?」
僚機の名倉から質問される。ここは一旦下がって味方と合流すべきだと玉田も判断した。
「そうだな!その前に奴だけでも仕留めるぞ!!」
しかしそこは知波単学園、やられてばかりではどうにもおさまらない。
「名倉は後方を警戒!!万一の場合は全速力で離脱するぞ!」
「玉田!!一旦退け!!ここは合流すべきだ!」
玉田達を追う西は、福田、寺本と共に潜伏していた森林地帯から街へ向かっていた。立て続けの撃破を受けて戦力を集中し体勢を建て直そうと判断したのだが。
『西隊長!!ここは1輌でも仕留めねば知波単の名折れ!!』
「市街地にある程度知識があるとしてもそこは敵の領域だ!とにかく追撃を中止して…」
『突撃!!』
玉田の耳に西の声は届かなかった。
続く
次回決着とライバル達との再会、そして今年の抽選会です。
次回「決着、そしてライバル達です!」
新キャラの早川建子は某特撮ヒーローの主人公の名前を拝借しました。
そしてエックス攻撃とはバレーを題材にしたスポ根ドラマ「サインはV」に登場する主人公チームの必殺技です。