平和な幻想郷へ二度目の幻想入り 作:疾風迅雷の如く
「……う」
永琳に整形されて以来女声となった俺の声を聞いて目を覚ますがやはりそこにあったのはいつもと変わらない天井だった。
「夢か」
どうせならあれこそ現実であって欲しかった。いつもと変わらない殺伐な日常を繰り返す。その為にはまず生き残らなきゃいけない。俺の能力『銃とその弾丸を創造する程度の能力』を発動し、銃と弾丸を作る……わけではない。
確かにあれは便利だが強い銃を作る程疲れる。一撃必殺の黄金マグナムとマグナム弾を作ろうとしたら三日三晩寝てしまってアリスの着せ替え人形となった苦い思い出がある。まだ着せ替え人形になっただけマシと喜ぶべきだろう。あいつは魔法の森で死体を見つけたら蘇らせて文字どおり人形として操るからな。怖すぎだろ。眠っている間に殺されてアリスの人形となって戦い続けるなんて展開も十分にあった。
「外に出るか」
あれは所詮夢だったんだ。そう頭で切り替えると手紙を見つけた。
「何だこの手紙は?」
俺はそれを手に取り、中を見る。そこにはこう書かれていた。
【ハロー、永遠の17歳ゆかりんです♡】
ウザさ全開のこの文を見て破り捨てたくなったが我慢し、手紙の読み続けた。
【貴方の望む通り、この幻想郷に引っ越させたよん♪ サービスとして貴方が使っていた家もここに引っ越したので自由に使ってちょーだいな。だけど流石に近所の皆さんの意識まで弄れないから挨拶をして来なさいな。以上、ゆかりんからの手紙でした!】
ウザい! とにかくウザい! だがこのウザさが平和を表しているようで何よりだ。何せあそこは死と隣り合わせのようなところでウザいだの何だのと言っていられる状況ではない。このウザさに懐かしさすらも感じるくらいだ。
その懐かしさを感じながら外へ出るとそこは人里ではなく、紅魔館の目の前だった。
「近所ってここかよぉぉぉっ!?」
まさか確かに引っ越した先は人里だとは言ってないけれども! これはあんまりじゃねえか!? いきなり友好度が低い紅魔館から挨拶に行けっていうのか? くそっ、文字どおりの挨拶じゃなく、殴り込むという意味での挨拶になるのかよ!
いくら平和と主張しても奴らが殺さないとは限らないからな。フル装備で行かなきゃ最悪木乃伊にされてぶっ殺されそうだ。
「その前に博麗神社に行こう」
まだ幸いにも朝5時あたりなので飛んでいけば午後には人里の菓子も買えるだろ。
博麗神社でお祈りするのは抵抗があるが妖怪退治屋にはこれ以上ないほど縁起の良い場所なのでそこでお守りなり何なりと買っておけば少しはマシになる。
その少しでも頼ろうとするあたり、向こうの幻想郷に染まり切っているのかもな。
〜整形男の娘移動中〜
「到着!」
そして博麗神社に着くと俺は真っ先に賽銭箱に妖怪退治で一番稼いだ時の9割弱である42万1402円入れた。何でそんなに入れたかって?
もっとも俺も先輩も霊夢に頼らざるを得ないほどの相手はしない為一回もその賽銭箱を使うことはなかった。
しかし今回は相手が紅魔館全員だ。妖精メイドはともかく個人のレベルが高く、数も多い。
しかもその中には幻想郷トップクラスの実力者が二人もいるんだぞ!? そんな多人数相手に一人で立ち向かうのには無理がすぎるので霊夢に頼らざるを得ない。
「貴女ね! このお賽銭箱にお賽銭を入れてくれたのは!」
うわっ!? 何か霊夢が感激しながら俺の手を握ってブンブン上下に振り回している。おそらく霊夢に尻尾が付いていたなら尻尾も振りちぎれんばかりに振っているだろう。そのくらい霊夢は感激していた。
「そうですが、一体?」
「いや〜助かったわ! 貴女のおかげで貧乏生活ともおさらば出来るし、何よりもこのお賽銭には信仰心があるわ! 困ったことがあったら何でも言ってね!」
いや貧乏ってことはないだろ。俺のような妖怪退治屋や歩き巫女のようなフリーの奴らとは違い、博麗神社の巫女及び御子は幻想郷の国家公務員のような役割できちんと給料も貰えるから貧乏というよりもむしろ逆で裕福な方だ。
もしかしてこの幻想郷の博麗神社は自分で稼ぐようになっているのか?
「じゃあ早速」
とはいえそんなことは後で聞けば良い。俺は別のことを頼みに来たんだ。
「なになに?」
「近所に挨拶にし行きたいんだけれどもその場所が物騒なところだから一緒に着いて来てくれないか?」
「物騒? 人里にそんな場所あったかしら……?」
「あ〜なんか引っ越した先が紅魔館の近くでね。そこに挨拶しに行きたいんだよ」
「人里で言われる程物騒じゃないわよ? あんなお子様吸血鬼」
それだけ言える霊夢が頼もしい。それは平和な幻想郷でも俺が居た幻想郷でも変わらない。
「それでも不安なんだよ! あそこには時を止める従者がいたり、挙句には七曜の魔女もいるって話じゃないか。そんな物騒極まりないところに行ったら死ぬわ!」
少なくとも向こうの幻想郷ではこの二人がいるから紅魔館が勢力を保てていると言っても過言ではない。何せミイラ事件の実行犯と計画犯だ。危険と言うには十分だ。
「ああ、ロリコンに紫もやしね。滅多なことじゃ敵対なんてしないから大丈夫よ」
「……はい?」
ロリコンに紫もやし? 何だそれは?
「まあ、とにかく紅魔館に行って自分の目で確かめた方が早いわ」
霊夢が俺の体を抱き上げ、空を飛ぶ。
「え!? ちょっと、準備がまだ終わっていないんだけど!」
「心の準備なら行く間に出来るわ」
「心の準備じゃなくて菓子とかの準備なんだけどぉぉぉっ!」
「ビビり過ぎよ」
煩いわ! どうせ俺はビビりだよ! そうでもなきゃ死んでいるわ!
「こっちは客として行くのよ? もてなす側は向こうだから集りに行くくらいが丁度良いの」
集りに行くってどんだけ顔の皮分厚いんだよ。少しは遠慮しろよ。幻想郷や外のカラスですらそこまでじゃないぞ。
「それはわかったから降ろしてくれないか? 自分で飛べるから」
どうせどうこう言っても無理やり連れて行くんだろうし、腹括って紅魔館へ行こう。
「それじゃ私について行きなさい」
霊夢がそう言って俺をお姫様抱っこから降ろし、前へと進み、俺はそれに着いて行った。