真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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35:蜀/歪でも暖かなカタチ①

67/月下の心と饅頭のカタチ

 

 朝と昼の中間の、鳥が元気に鳴いたとある頃。

 

「麒麟、今日も元気にしてたかー?」

 

 朱里に頼まれた用事で、馬屋の前を通った。

 馬屋番の兵に軽く挨拶をしながら覗いてみたんだが、麒麟は俺を見ると返事を返すように小さく鳴いた。

 そんな反応を何度か見ているからだろう。人の言葉がわかるのかな、なんて思ったことは実は結構あったりする。

 許可を得てから麒麟に近づいて、その顔をひと撫で。

 麒麟も機嫌がいいのか、俺の顔や胸にごしごしと顔を擦りつけてくる。

 

「不思議だなぁ、他の馬はここまで懐いてくれないのに」

 

 好かれていて困ることはないものの、少しだけ不思議な気分だった。美以が言うところの匂いってやつのお陰なのか、他の馬も好意的ではあるんだが、麒麟はその上をいっている。

 本当に言葉が理解出来ているのか、はたまた心が読めるのか、願った行動を取ってくれたりするから本当に不思議だ。

 ……っとと、あんまりのんびりしていられないな、用事を済ませないと。

 

「じゃあな、麒麟。ちょっと用事を頼まれてるからさ。また今度、翠に許可をもらったら川に体洗いに行こうな?」

 

 じゃあなーと軽く手を振って歩くと、麒麟も軽く嘶きを返してくれた。

 まるで見送ってくれてるみたいだ……本当に不思議だ。もちろん、こんな反応をされて悪い気がするわけもない。

 

「ここでの生活も慣れたもんだよなぁ」

 

 一時はどうなることかと思った。けど、なんとかやっていけている。

 軽い安堵をこぼしながら、胸に抱えた頼まれたものを見下ろしてみれば、そこには学校用の教材。最初は教えるばかりだった俺も、今では学校でのことも手伝う側になっている。

 少し寂しくもあり、それ以上にこの世界の軍師さまの物覚えの良さに驚いていた。

 諸葛亮って本当にすごいね。“すごい軍師”って軽いイメージしかなかったけど、目の当たりにすると尊敬できる頭の回転を見せてくれた。いい意味でイメージを更新させてくれたよな、うん。

 ……あの、慌てるとはわはわ言うのも、同じ人物だとしても。

 

「ははっ」

 

 小さく笑って、小走りに急いだ。

 今日も学校だ。

 少しずつ生徒も増えているし、休める時間はあまりない。

 それでも自分が魏に戻るその日までに、やれることが残っているならやっておきたい。

 生徒も教師も安定を見せているし、そろそろ……だよな。

 

「よし、学校が終わったら桃香に報告しに行くか」

 

 そろそろ魏に戻ろうと思う、って。

 

……。

 

 授業は普通に行なわれた。俺はそんな様子を、遠くから眺めている。

 最近はこんな感じで見守ることを続けている。

 以前までは先生役のみんなの隣に立って見ていたんだが、自分が傍に居ない時のみんなの様子を見てみようと思ったから。

 けどこうして見ても、もう俺が隣で見守る必要もないくらいに、みんな普通にこなして───

 

「よしっ! あと十周だっ! みんなどんどん走れーっ!」

「え~っ!?」

「孟起せんせーひどいー!」

「さっきあと一周って言ったのにー!」

「言い返せるならまだ走れるだろー!? ほら、どんどん走れー!」

 

 こなして……

 

「あ、あ、あわ、あの、その……こ、ここっここで言うててて敵の存在とは……っ……」

「士元さまぁ……いったいいつになったら慣れてくれるんですかい……」

「あわわっ……ご、ごめんなしゃ……! うう……朱里ちゃん……一刀さぁ~ん……!」

 

 こなして……

 

「つまり。ここでメンマをより美味にするために必要な“加える手”は……」

「子龍先生よぉ……いい加減メンマ以外の話を……」

「はっはっは、何を言う。こうして教える側に立ったのであれば、教わる者に己の知識を与え、さらに高めていくことこそが先に立つ者の務め。未だあのメンマ丼を越す味を見つけていない私は未熟者もいいところだが、だからこそ、ともにメンマの道を極めんとしているのではないか」

「いや……あっしはべつにメンマ道を極めようとは……」

 

 ……うん。こなしてるんだけどこなしてない……。

 これで普通にこなしているっていうなら、あまりにも個性がありすぎる授業だ。

 翠……いくらなんでも走らせすぎ。うんと運動したあとのほうが意識が授業に向かうって、以前テレビで見た気もするが……果たしてついていけるんだろうか、それは。

 雛里……あがりすぎだよ……。俺が隣に居る時は、全然普通にやってたじゃないか……。

 そして趙雲さん……歴史の授業でメンマの歴史を教えないでください……。

 

「どうしよう……」

 

 思わず頭を抱えて項垂れそうになった。

 これは生徒に慣れてもらうしかない……のか?

 

「そこのところも合わせて、桃香や朱里に話してみようか」

 

 案外“それも個性というものですよ”って言ってくれるかもしれない。

 ……そう、そうだよな。慣れればあれはあれでいい授業…………なんだろうか。

 そんな風にして、少々の不安を胸に残したまま、本日の授業が全て終了するまでの時間を過ごした。

 

……。

 

 そういったわけで、現在は執務室でうんうん唸っている桃香の前に居るわけだが……

 

「桃香~……?」

「ふえあっ!? だだだ大丈夫っ、寝てない、寝てないよっ!?」

「……また徹夜したのか」

「あぅ……」

 

 隈こそ出来ていないものの、ひどく眠たげな顔をしていた。

 朱里は何処か別の場所に行っているのか、ここに居るのは目の前の眠たげな王様だけのようだ。

 

「そんなに仕事溜まってなかった……よな? 昨日の時点で随分と減らしたはずなのに。なにかあったのか? 徹夜するくらいなら俺や七乃に言ってくれれば手伝ったぞ?」

「あ、ううん、私的なことだったし、さすがにそれで迷惑はかけられないから、うん」

「?」

 

 詳しくは話してくれないが、私的なことらしい。

 徹夜までしてすることなら大事なことなんだろう。

 となれば、心配はもちろんにしてもあんまりガミガミ言うのもお門違い……って……なんだろう。なんか今、物凄く“馴染んだもんだなぁ”って気分になった。

 蜀に来てからもう大分経つもんな、そりゃあ慣れるか。

 華琳がきっちりしていた分、雪蓮や桃香といった王を見るのは新鮮というか、落ち着けた。……その華琳様も、溜まった仕事を強引に片付けて自由時間を得たりとかしてたけど。

 懐かしいなぁ、そういえばあの時の華琳って徹夜で……徹夜───……徹夜?

 

「?」

 

 机を挟んで向かい側に立つ俺を、椅子に座った桃香が首を傾げながら見上げていた。

 まさか……いやぁ、まさかね?

 

「で、桃香。仕事を終わらせて空いた時間、何をしたいんだ?」

「えへへ~♪ 朱里ちゃんがお饅頭を作ってくれてるから、陽に当たりながらのんびり───はうぐっ!?」

「………」

 

 眠たげだからだろうか。

 目論見を簡単に喋ってしまった彼女は、慌てて口を閉ざしたがもう遅い。

 華琳さん……王っていうのは案外、何処かで似ているものなのでしょうか。

 

(あー……いや)

 

 雪蓮だったら徹夜なんてしないで堂々とサボるな。

 冥琳任せにしてサボる。絶対にだ。

 で、お酒飲んでるところを見つかって耳引っ張られて、何故か俺まで巻き込もうとして。

 こうして慣れた時だから言える言葉がある。“軍師って大変だ”。

 

「で。ここに朱里が居ないのは、そのピクニックるんるん気分を叶えるために厨房に居るからなのか」

「あ、あははー……ぴくにっくっていうのがなんなのかはわからないけどー……えっと……はぃい……」

 

 がっくりと項垂れる様は、悪さをしているところを見つかった子供のようだった。

 けどまぁ、あんまり無理しているようなら止めるところだが、徹夜してまで時間を取りたい気持ちはわからなくもない。

 ずぅっとここで仕事してるんだもんな、自由な時間くらい欲しくもなるさ。

 ……でもだ。

 

「今度からは俺や七乃じゃなくても、もっと他の人を頼ること。みんなで取り掛かったほうがすぐに終わるし、徹夜なんてしなくてもいいだろ?」

「ううん、さすがにそれは頼めないよ。だって、私の我が儘だもん」

「……だから。その我が儘で徹夜されるほうが、友達としてはよっぽど心配になるんだ。頼りなさい。頼みなさい。我が儘でいいから、言いたいことはきちんと言う。言ったからって全てが叶うわけじゃないけど、言わないでおいていざピクニックって時に、だ~れの都合も合わなかったら寂しいだろ?」

「うぐっ……う、うん……」

「そういうことはもっと大々的にやろう。あんまん……饅頭が少ないならみんなで作ればいいし、一人より二人のほうが楽しい。どうせならみんなも誘って、都合の合う時間をみんなで騒げば───」

「あ、ううんっ、違うの違うのっ! みんなとはまた今度一緒にやるから、今は……」

「?」

 

 ついついと胸の前で人差し指同士を合わせ、軽く俯きながらの上目遣いで俺を見上げる桃香さん。

 ハテ……?

 

「もしかして疲れすぎてたから、誰にも邪魔されず一人でのんびりと饅頭を食べたかったとか───!?」

「えぇっ!? ちちちちっち違う違うよ! どうしてそんなことになるのー!?」

「え? ち、違うのか?」

 

 甘いものは疲れにいいと聞いたことがあるし、俺はてっきり東屋でのんびりと風に吹かれながら、あんまんを食べていたいのかと……。

 

「あのね、お兄さん。最近朱里ちゃんや雛里ちゃんが、あんまりお兄さんと話せてないみたいだからね? そういう意味でこの……ぴくにくー、だっけ? をやりたいって思ったんだ」

「朱里と雛里が?」

 

 んん……? 結構話はしていると思うんだが。

 授業のこととか政務のこととか、書簡整理の位置とかでもお世話になってるし。

 

「結構話してる……ぞ? いい加減、朱里や雛里に訊いてばっかりなのもどうかとは思ってるくらいだ」

「あ、ううん、仕事のことじゃなくて、平時の時とか」

「平時、は…………」

 

 ……話してないな。

 

「え? じゃあ今回のことって桃香が立案者じゃないのか? 朱里や雛里がそうしたいから、桃香に話を持ち出して───“私的なこと”って言ってたから、てっきり桃香が言い出したのかとばっかり……」

「………」

「あの。なんでそこで目を逸らしますか?」

 

 立案者は桃香で間違いないらしい。

 

「けど……そっか。言われてみれば最近は仕事の話ばっかりで、世間話なんてものも出来てなかったかも」

「だよね、だよね? お仕事も大事だけど、ちゃんと息も抜かないとだめだよね? だからね? 今日はお兄さんと朱里ちゃんと雛里ちゃんと私とで、ぴくにくー!」

 

 と、元気に仰る桃香さん。

 桃香? もしかして自分はただ甘いものが食べたいだけだったりする?

 ……違うか。見るところは見ている桃香だ、そうじゃなきゃ、ピクニックしようなんて提案は出なかったはずだ。

 

(べつにピクニックじゃなくても話は出来ただろ、ってツッコミは無しの方向で)

 

 せっかくなら楽しまないと損だもんな。

 楽しめて美味しいなら、それはとても嬉しいことだ。

 

「じゃあちゃっちゃと終わらせて朱里を手伝いに行こうか。桃香、俺に出来る範囲を回して」

「え? や、それはだめだよ、これは私の仕事だもん」

「人のことを言えた義理じゃないけど、その“私の仕事”も朱里か雛里に手伝ってもらわなきゃあ、うんうん唸ってばっかりな人が見栄を張るんじゃありません。ほら、いいから回す」

「はうぐっ! ひ、人が気にしてることを……。お兄さんいじわるだよぅ……」

「意地悪で結構。いーから出しなさい」

「うぅ……」

 

 しぶしぶと、幾つかの書簡をこちらへ渡す桃香。

 ……幾つかって言っても、書簡は軽い山になっていたりする。

 えと……この量なに? てっきりこの山が終わった書簡だと思ってたのに……。

 え? 終わってるのってあっちの小さな山? あっちが残りじゃなくて?

 

(………もしかして、終わったのは昨日の分だけで、今日の分はてんで……?)

 

 徹夜していったいなにをしていたのでしょうか、この王様は。

 

「……見栄張るにしても、もっと出来るようになってからしような……。俺も、桃香も」

「うぅ……」

 

 軽く溜め息を吐いてから取り掛かった。

 桃香も自分で思っていたよりも進められなかったからなのか、ひどく申し訳なさそうにしょんぼりとした。

 そんな彼女の横まで歩き、くしゃくしゃと頭を撫でると、「頑張ろう」とエールを送って開始。

 いっそ朱里と一緒に書簡を滅ぼしてから、一緒に饅頭作ったほうが早かったんじゃなかろうかとツッコみそうになったが、それは言わないほうがいいだろうと心に決めて、作業を続けていった。

 

……。

 

 ……で、結局。

 

「くぅ……すぅ……」

「こうなるんだよなぁ……」

 

 桃香がオチてから数分。

 俺は彼女を執務室の奥の部屋の寝台に寝かせ、苦笑をもらした。

 こうなるとどれに手をつけていいかがわからなくなってしまうため、さすがにお手上げだ。

 国の重要機密が書簡に書かれているかを疑うのもどうかだが、だからといって適当に手を出していいものでもないわけで。

 と、そんな困った状況の中で感じる、軽い気配。

 執務室に戻ってみると、そこには授業後の反省会が終わったのか、幾つかの書物を持った雛里が。

 ……こういう状況は“渡りに船”で合ってただろうか。

 なんにせよ助かった、と……きょろきょろと執務室を見渡していた彼女の背中に声をかけた。

 

「雛里、丁度よかった」

「あわぁっ!? あわわわわわわわわわわ……!!」

 

 途端に肩を跳ね上がらせ、こちらを見ることもせずに出口へ向かう雛里───ってこらこらこらっ!

 

「逃げない逃げないっ! べつに驚かせたわけじゃないだろっ!?」

「ふぇ……?」

 

 呼び止める声に、ようやく振り向いた彼女の目が俺を捉える。

 と、長い長い安堵の息とともに、跳ね上がった肩が下りていく。

 うん……こんななのに、戦場に立つとキリッとなる……んだよな? 軍師ってすごいんだなあ……いろいろな意味で。

 あ、(ウチ)にも変わった軍師は居たか。華琳命でマゾっけのある軍師とか、鼻血を噴いて倒れる軍師とか、腹話術を使う軍師とか……あれ? むしろ魏の方がいろいろとおかしい……?

 

「………」

 

 呉って……すごくバランスの取れた国だったんだなぁ……。

 冥琳って弱点らしい弱点が見つからないし、亞莎は一つのことに集中すると、それしか考えられなくなるところがあるくらいでバランスがいいし、穏は……本に近づかせなきゃ頼もしいし。

 

(なんだろう……冥琳が物凄く偉い人に思えてきた……歴史云々は別にして)

 

 何度だってそう思える状況がここにはあった。

 ともあれ、わざとらしい咳払いを一つ、現状を雛里に話していく。

 この状態でピクニックは無理……むしろ時間的に夜になるから、ピクニックじゃなく誰かの部屋でのんびりお茶にしようと。

 そのためにはまず、この書簡をなんとかしなきゃいけないから、雛里に頼んで手をつけていい書簡の選別をしてもらう。

 あとはひたすらに整理。ひたすらに執務。ひたすらに確認。

 桃香じゃなければできないことは仕方ないから残すとして、仕事が終わったばかりの雛里に謝りながらも手伝ってもらい、手早く済ませると───次は朱里の手伝いをしに厨房へ。

 徹夜のお姫様は全部終わるまで寝ててもらうとして、書簡の確認を終えた雛里と一緒に腕まくりをして饅頭作りに励んだ。

 

「え、っと……こうか?」

「あ、いえ、もう少しやさしく……」

「む、むむむ……」

 

 饅頭作りなんて初めての経験。ごま団子なら亞莎と作ったが……饅頭は饅頭で難しい。

 生地に餡子詰めて丸めて蒸すだけだー、なんて軽く考えていた俺よ、さようなら。

 簡単だと思ってやってみればとんでもない、生地作り一つをとっても中々大変で、孔明大先生の指導の下、学びながらの調理(?)が続く。

 捏ねて伸ばして千切って丸めて伸ばして詰めて丸めて整えて。

 餡子を入れすぎると形が歪になり、少なければ生地が余りすぎてぼったりとした饅頭になる。手助けになると思っていたのに、饅頭製作ってものがこんなにも大変だと改めて思い知らされた。

 そういえば亞莎と作ったごま団子も、散々失敗したんだもんなぁ……。

 

「入れる量が難しいなっ……って、あぁああ入れすぎた……!」

 

 大丈夫だろうと思ってみても、丸めてみるまでわからないもので……丸めてみたら包みきれなかったり包めすぎたりと安定しない。

 そんな自分に頭を痛めながらちらりと視線をずらしてみれば、にこにこ笑顔で楽しく調理をする朱里と雛里が。

 ……おわかりいただけただろうか。この二人の姿が、普段はわあわ言っている二人だということを……。むしろ今、はわあわ言ってるのって俺だけな気がする。

 

(団子作りには多少は慣れたつもりだったのに……)

 

 思うように上手くいかないのが世の中っていうのは、どの世界でも言えることなんだろうな。気を取り直して頑張ろう。




 ドーモ、別のSSに集中してて、こちらが疎かになっていた凍傷です。
 いえ、そっちの方もまだ終わってないんですけどね、pixivで終わったらこちらに載せようかと。
 えー……無駄話をひとつ。
 花騎士でアネモネさん(☆6)がセレクションガチャに入ってまして、よっしゃーいと諭吉さんと、それまで溜めていた石をクラッシュ。
 結果、モモさん一人にシンビさん3人。あとは見事に爆死ーシ。
 虹ってどうしてこうも出ないのか……! ていうか11連やっても銀鉢で止まるのが多すぎる気が……。
 というわけで、あとは日々の一日一発ガチャに願いを込めて。
 

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