真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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43:蜀~魏/一路、魏国へ②

82/そう来たら打ち切りのお報せフラグ

 

 翌日の許昌。

 特になんの歓迎もなく城までを通り、一足先に城へ走っていった兵により招集がかけられたのち───玉座の間に立ち、久しぶりに見た華琳に呉と蜀での出来事の報告。

 それが終わるや誰かに飛びつかれやしないかと不安だったんだが……全然そんなことはなく、その場で解散。

 意外なほどにあっさりとした報告を終え、俺は首を傾げながら、思春とともにかつての自分の部屋へと歩いていた。

 

(み、妙ぞ……こはいかなること……?)

 

 考えてもみたが、なにも思いつかない。

 えぇっとー……つまりそのー……俺、もしかして過剰なくらいに何かを期待してた?

 そして期待しすぎていた俺が、ただ恥ずかしいだけ?

 

「…………」

 

 考えてみたら恥ずかしくなった。

 よ、よし、よしよし、学んだよ俺。

 そうだよな、再会の挨拶は宴の時に済ませたんだから、今さらだよなぁ~、あはは、あはははは…………はぁ。

 

「……? どうした」

「イヤベツニナンデモナイヨ!? べべべつに恥ずかしくなんかないんだからねっ!?」

「表情に羞恥以外の一切がついていないが?」

「恥ずかしいです! なんかいろいろ期待してごめんなさい!」

 

 通路を進む、頭を抱えて悶える男が一人。

 だ、だって会いたいって思いはずっと胸にあったんだから、期待しちゃうじゃないか!

 ただ再会を喜び合う程度の会話でもよかったのに、報告以外なにもないなんて!

 

「俺……やっぱり五行山で孫悟空助けて天竺目指すよ……」

「目指してどうする」

「悟りを開きます」

 

 よく覚えていないが、偉い人が目指す場所なら悟りくらい開けそうな気がする。

 そしたら水中の魚を小突くくらい……! ……あ、無益な殺生や暴力は禁止されるか。

 

「はぁあ……妙なこと話してないで戻るか。というわけで、ここが俺の部屋」

 

 どうぞ~って促し、扉を開けた。

 すると懐かしの香りが───……漂ってこず、物凄い違和感を感じた。

 え……何この……え? ほんとなんだこれ。

 

『………』

 

 沈黙。

 部屋中に広がる、というか篭る、こう……なんというのか、女性特有の香りと、暴れたような跡。

 まるでいけないことの最中に誰かが来たから、慌てて逃げ出したような……あ、あれぇ?

 なんだこの、久しぶりの休日、または長い出張から家に帰ってきたというのに、休もうとしたら自室を好き勝手に荒らされていたお父さんのような心。

 

「えと……一応訊きたいんだけど……」

「ああ。私も貴様に言いたいことがある」

 

 互いに顔を見合わせ、溜め息。

 

『ここは、本当に貴様()の部屋か?』

 

 同時に出た質問に、互いに頭を痛めた。

 いや、位置的にはここで合っている。合っている筈なんだが……って、なんだあれ。

 寝台の上の布団が妙にこんもり……?

 

「………」

 

 思春が換気のために窓を開ける中、そっと寝台に近づいて……掛け布団をめくってみる。

 ……と、やたらと綺麗な服を着た、どこぞの金髪ちびっこさんを発見。

 心地良さそうにくーすーと寝息をたてていた。

 ……誓って言うが、髪をドクロの髪留めで結っていたりなどはしない。

 

「? どうし……うっ」

 

 窓際に居た思春が歩み寄り、ソレを見た。

 心地良さそうにと言えば聞こえはいいが、涎を垂らして寝るその姿はまるで子供。

 ……見た目的にも間違い無く子供なのだが……何がどうしてこうなった。

 

「おーい……袁術~……?」

 

 とにかく起こさなくてはと、頬をふにふにとつついて声をかけるが……おおっ、これは柔らかい! ……じゃなくて。

 う、うーん……魏に戻ってこれた所為か、どうもこう、テンションがおかしい。

 落ち着け俺。深呼吸深呼吸。

 とにかく起こそう。起こしてから事情を訊こう。

 訊いたら…………聞いてから考えよう。

 

「袁術~? 袁術、袁術~?」

「うみゅ……ななのぉ……今何時だと思っておるのじゃ……まだ真っ暗ではないか……」

「……目ぇ開く気すらないよこの子ったら」

 

 真っ暗なんてことはない。もっと目を開いてしっかりと見てほしい。

 

「ちゃんと心の目は開いておるわ……ばかものめ……」

「何処の仙人ですかあなたは」

 

 いっそ、くすぐったりとか───いや待て?

 確か七乃が……袁術が中々起きない時は、布団ごと寝台から叩き落とすのがいいって、付き人らしからぬことを言っていたような。

 

「よし。ではいざっ!」

 

 少し可哀相だが、お前の軍師様(?)推奨の起こし方だ!

 悪く思ってくれていいから、起きてくれっ!

 

「───せいやぁっ!」

 

 ズリャアッと布団を引っ張る!

 すると布団を引っつかんだままニャムニャムと妙な声を出していた袁術が、ずべしぃっと落下。ぴくぴくと痙攣したのちに……むくりと顔を起こした。

 落下の際、「きゃうっ!」と叫んでいたが……七乃? これ本当に大丈夫なのか?

 

「おはようございます、お嬢様」

「うみゅ……な、七乃か……?」

 

 白々しく声をかけてみるが、そこまで痛がる様子もない。え? もしかして慣れてるのか? ……すごいなそれは。っと、とりあえず質問には答えよう。

 ここで裏声でも使って“七乃ですよお嬢様”とか言うわけにもいかない。

 

「いや、残念ながら七乃じゃない」

「そうか……では妾はもう少し寝るのじゃ……」

 

 言って、もそもそと布団を抱くようにして、くるまり……ってこらこらこらっ、人が掴んでる布団にくるまってだなっ……!

 

「ぅくー……すー……」

「……寝ちゃったよ」

 

 立ったまま眠れるやつなんて居るんだな……あ、風とか普通に寝るか。

 

「……思春? これ───っとと、この子が、袁術なんだよな? 前にしっかり覚えたつもりだったけど、こんな姿を見せられると疑いたくなるっていうか」

「…………頭が痛いが、そうだと言っておこう」

 

 今さらな質問だが、こんな子がかつての大軍隊を率いていたって……世の中わからない。

 思わず“これ”とか言ってしまうほどに、無邪気な子供にしか見えないんだが。

 まあ、いい。とりあえずは抱きかかえて、布団で簀巻き状態にしてから寝台に転がした。

 あとは……

 

「………」

「……まあ、そうだな」

 

 じっと出入り口を見ていると、思春が頷いてみせた。

 

「雪蓮ー? 隠れてるつもりだろうけど、髪がばっちり見えてるぞー」

 

 声をかけてみると、びくりと髪が揺れた。

 開けっぱなしだった出入り口から、慌てて髪が隠されるが……意味ないだろ、おい。

 少しするとひょいと顔を覗かせてから、すたすたと部屋に入ってきた。

 

「……いつから気づいてたの?」

「まあ、なんとなく」

 

 充満していた匂いの中に、懐かしい呉の香りがした~とか言ったら、あらぬ誤解を生みそうだ。

 ていうかね、酒臭い。酒臭くて、けどいい匂いも混ざってる。

 キツイ酒の匂いじゃなく、ほのかに香るくらいだったから……しかもそれで呉の香りとくればって、そんなものだ。

 トドメとしていえば、髪が見えていた。位置が結構高い気がしたし、あの色なら雪蓮しかいないだろう。

 

「久しぶり……って言いたいところだけど、まさか本当にやってるとは……」

「あー、なによー。一刀が言ったんでしょー? だからこうしてわざわざ魏に来て、将を口説いてたのにー」

「ああ、うん、それはわかってるけど……で、そのこととこの部屋の荒れようと、あそこの袁術とみんなの態度、一から全部聞かせてもらえる? ようやく帰って来た部屋がこうまで荒らされてると、もう何処に何をぶつけたらいいのかわからなくてさ……」

 

 思い出深い場所が荒らされているとなれば、そりゃあ顔も引きつる。

 そんな俺を見てか、雪蓮が気まずそうに「あ、あはは……」と笑って、俺の顔を指で触れてにこやか笑顔にぐにっと変化させるが───

 

「人の顔を変えるより、状況の説明を求めます」

「わーん思春~、一刀が怖いー♪」

「笑顔で言うことじゃないだろそれっ!」

「あ、ところで腕はもう大丈夫なの?」

「~……お陰様で治るのに随分かかったけど、もう振り回しても平気だ」

「むー……いちいち細かいところつっつくわねぇ……」

「貴女はなにか、腕を折ることを細かいことで済ませる気か」

 

 ころころと表情を変える雪蓮は、以前とまるで変わっていなかった。

 元気そうでなによりだって言っていいのかどうなのか。

 

「思春も、変わりない?」

「はっ。この愚か者のお陰で、退屈だけはしておりません」

「そ? よかった」

「“愚か者”ってところにツッコもう!?」

 

 言ってはみるけど、雪蓮は思春の顔を見て本当に安堵していた。

 いろいろあったけど、望んで剥奪したわけじゃないもんな……何事もないところを見れば安心だってするだろう。

 

「で、袁術ちゃんのことだったわよね?」

「……ころころ話題を変えるの、やめないか……? ついていくだけで疲れるんだけど」

「あ、知りたくないの。ならいいけど」

「知りたいよっ! ああもう知りたいなぁ! いいから教えてくださいっ!」

「ん、素直な一刀って好きよ?」

 

 にこにこ笑顔で鼻をつつかれた。

 ……もういちいちツッコミ入れるのはやめよう、雪蓮相手じゃ疲れるだけだ。

 

「まああれよ。自分用に用意された部屋が気に入らないって、勝手にあちこちに入り始めたのがきっかけなの。で、たまたまこの部屋に潜り込んで、誰かさんがせっせと掃除してる所為でぴっかぴかなここが気に入ったのを皮切りに、次第に入り浸るようになってね」

「………」

 

 誰かさんって誰だろう。

 凪? …………凪かなぁ。

 

「で、いい匂いがするとかで布団も使い出すし、かといって綺麗に畳むわけでもなく食べ散らかしたり蜂蜜だらけにするしで、とうとう気づかれてね。それ以来、なにかっていうとこの部屋の取り合いみたいなことをしてるの」

「……誰と?」

「さあ? そこまでは教えられないかなー」

「つまりあれか? このぐちゃぐちゃな状態は、ついさっきまで袁術を誰かが追い掛け回していたから……?」

「うんそう」

 

 こくりと頷く呉王さま。

 ていうかあのー、貴女いったいどれだけの頻度でここに来てたんですか?

 ずぅっと居たかのようにいろいろ知ってそうなんですが?

 

「じゃあ、何やらやたらとみんなが素っ気無いのは、袁術をどう捕まえるかを考えてたとかそういう───」

「ああ、あれ? あれは魏のみんなに一刀の手紙の内容を話して聞かせたからよ?」

「───」

 

 …………アレ?

 えっと、支柱になりたいって……書いたんだよな?

 べつに素っ気無くされるようなことを書いた覚えは……。

 

「え、えぇえ……!? なんで……!? それって繋がるのか!? だ、だって俺、支柱になりたいって書いたんだぞ!? 俺はそんなふうになりたいんだけど、華琳はどう思うって! それがどうして!?」

「………」

 

 疑問が渦巻く中、雪蓮が自分を指差した。

 ハテ? 雪蓮が何かしでかした? いや、そういう意味じゃないよな?

 

「わからない?」

「ちょっと待って。え、あー……雪蓮に関係していること……?」

 

 考えてみる。

 考えてみるが…………答えは出ない。

 予想でいいから適当に言ってみようか……?

 

「え、っと……んん……? 雪蓮が魏将のみんなを説得に回っているのと、俺の“支柱になりたい”って手紙とで、俺が本気で“三国の父になりたがっている”とか思われたとか───あはは、まさかなぁ」

「一刀って時々すごいわねー……これだけで解っちゃうんだ」

「はは……ハァーッ!?」

 

 え……え、今、今……なんと……!?

 

「……そうなのか!? 本当に!?」

「だって普通そう思うでしょ? 私も一刀が欲しい~って将全員に持ちかけてるところに、一刀からの手紙で三国の父になりたい~なんて報せが届けば」

「支柱!! 父じゃなくて支柱!! ここ大事! ね!?」

「いーじゃないもう父で。まあそんなことは関係なしに華琳は……って、これはいいわね。これも教えたらつまらないし、華琳に怒られそうだし。それより一刀? 約束は守れてる?」

「やっ………………はぁああ……本当にころころと……。鍛錬は欠かさずやってるよ。でも、まだ雪蓮のイメージには一度も勝ててない」

「あらら、一刀の中の私って最強? それとも一刀、ちっとも強くなってないとか?」

「強さに自覚が現れるのって、随分後だと思うぞ? 俺なんてまだまだだ」

 

 不意打ち、くすぐり、氣での吸収等をやらないとちっとも勝てないしなぁ……とほほ。

 でも出来ることなら声を大にして言いたい。この時代の女性の強さがおかしいんだと。

 

「思春、どうなの?」

「いや……聞いてよ俺の話……」

「多少の上達は見られますが、立ち回りの危うさは少しも改善されておりません」

「はうぐっ!」

 

 す、少しもっ……!? 少しもなのか、思春……!

 これでも頑張って……いや、頑張っても結果が無ければ駄目っていうのは、どの社会でも同じなのでしょうね……。

 

「へー……一刀、その調子で頑張ってね。私はちょっと用事が出来ちゃって、戻らないといけないから。手合わせはまた今度ねー!」

「へ? え、いやちょっ……話聞いてたのかー!? 少しも改善されてないって───! あ、あー……行っちゃったよ……」

 

 相変わらず自由な王さまだ。

 それにしても用事? ……って、蜀からの民の話かな?

 そっか、もう出発したのか。それとも着いたのか……どちらにせよ、何事もなく交流が深まるといいな。

 

「…………で……結局俺はどうすればいいんだ?」

「私に訊くな」

 

 ごもっともだ。

 まずは誤解から解くか? それとも袁術を覚醒させるか……いいや、まず華琳に会いに行こう。全てはそこからだ。

 


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