真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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45:魏/平穏日誌②

85/落ち着きのない二人

 

 ……朝が来た。

 大して疲れが癒えない体で伸びをして、そのまま寝台の上の袁術を見やる。

 結局、落ち着いてはくれないままに泣き疲れて寝てしまった少女。

 その傍へと体をほぐしながら歩み寄り、頭をやさしく撫でる。

 

「いちち……! 椅子で寝ると、やっぱり関節によくないな……!」

 

 ミキベキと乾いた音が鳴る。

 寝てしまった袁術に寝台を提供して、自分も……とは思ったものの、目を覚ました時に余計に警戒されても困るってことで、机と椅子で寝ることになったんだが……体によくない。

 

「体操でもしてほぐしたいけど……はぁ」

 

 さすがにようやく寝てくれた子の傍で体操をするわけにもいかず、まずはと部屋を出て、厨房へ。

 乾いた喉を乾かすために水を貰い───ここどこ?

 

「………」

 

 …………おや?

 

「うわしまった! 蜀に居るつもりで歩いてた!」

 

 厨房とはまるで逆の場所に立っていることにたった今気がついた。

 どうやら頭が上手く動いていないらしい……なにせ寝不足。

 

「厨房はこっちだったな、はは、ははは……」

 

 蜀での暮らしが長く、しかもどこへ何歩歩けばいいのかも体に叩き込んだほどだ。

 知らずに蜀での動きをしていた自分が恥ずかしい。

 

(だ、誰にも見られてないよな?)

 

 視線をあちらこちらへ動かすと丁度中庭が見えた。

 そこには静かに鈴音を振る思春が居て……俺を見て、溜め息を吐いていた。

 あ……ウン、見られてたね、絶対。

 さらに言えばどうしてそうなったのかも見透かされている気がする。

 

「おはよー、思春」

 

 誤魔化すように言ってから、恥ずかしさのあまりに走り出した。

 通路を駆け、厨房に滑り込み、水を貰って喉を潤して。それから恥ずかしかろうが軋んだ体をどうにかしたくて、結局は中庭に戻って朝の体操。

 思春は……気を利かせてくれたのか、居なくなっていた。

 

「……考えてみれば、慣れたもんだよなぁ」

 

 思春が隣に居るのが当然みたいになっていた。

 部屋に戻ればいつも通りに思春と寝る、みたいになっていたくらいだ。

 それが今回は寝台を袁術に提供し、机に突っ伏して寝るってことになって……うーん、本当になんとかしてやらないとな。

 

「んっ、んっ……ん~っ……!」

 

 体操を終え、最後のしめに大きく伸びをした。

 体がグゴゴゴゴと伸びる感覚とともに、残っていた眠気が多少解消される。

 

「……よしっ、じゃあ今日も頑張りますかっ」

 

 久しぶりの魏での仕事に胸が躍って心が弾む……! やる気に漲る今の俺なら眠気にだって負けやしないっ! 帰ってこれた……帰ってきた! 今から俺は、国のために生き国のために死に、だがしかしせめてその場に居る時だけはその国のために尽力する修羅と化そう!

 あ、でもちゃんと華琳に復帰すること言っておかないとな。

 昨日はなんだかんだで騒ぐだけ騒いで解散になっちゃったし。

 

「警備隊のみんなにも謝らないとなぁ。これからはまた一緒にって言っておきながら、結局は呉、蜀って回ることになったんだ」

 

 我ながら要領が悪い。……我だから要領が悪いのか?

 あっはっはっは、まだ頭がちゃんと覚醒してないみたいだ。うまく回転しない。

 でも大丈夫! 努力と根性と腹筋でなんとかする!

 

(ただいま……ただいま魏の国よ!)

 

 荒ぶる魏国への愛を胸に駆け出した。

 恐らく華琳は俺なんかより早く起きて、俺なんかより難しいことを平然とこなしている。

 朝っぱらに乗り込んであーだこーだ言うのは迷惑かもしれないが、報告は大事だ。

 判断を仰ぎに行くわけじゃないから、大丈夫……だよな?

 

……。

 

 

 そして、華琳の自室へ。

 相変わらずの整った部屋に通されると、嫌でもビッと伸びる背筋が少々くすぐったい。

 そんな中を進み、左手で頬杖を、右手に書類をと、見るだけだとつまらなそうにしている彼女に声をかけた。

 そう、かけたんだ。今日から仕事に復帰するよと。

 そうしたら……

 

「仕事? 無いわよ」

 

 ちらりと視線を向け、小さく一言。

 その一言は確かに小さな一言だったが、俺にとってはとても大きな一言であり、俺の思考回路を混乱させた。

 

「……エ? し、仕事がないって……」

「当たり前でしょう? 一刀、貴方自分がどれだけ魏を離れていたのかわかっているの?」

「───あ」

 

 しまった、冷静になればわかりそうなことだった。

 

「あ、あー……そうだった。俺、魏でどういうことが起こったかとか知らないし……」

「そういうことよ。まずはそれらを頭に叩き込んでから出直しなさい。纏めなければならないものも随分と残っているから、ついでにそれも片付けて頂戴」

「うえぇっ!? だ、誰かが代わりにやっといてくれたりとかはっ……!」

「迅速に解決する必要があるものだけは処理してあるわよ。だから、そういったものも自分の目で確かめて、きちんと処理しなさいと言っているの。……貴方が残した“めも”には様々なことが書いてあったわよ。これが天の知識かと感心するものも随分と。お陰でとても助けられたけれど……書き方が悪いわね。残したものすらきちんと整理されていない。肝心の“どうしてこうなるのか”というものが詳しく書かれていなかったの」

「うっ……そうだったか? 一応、渡す前に確認したんだが……」

「お陰で私しか正確に受け取れなかったのよ。片手間に桂花や稟や風に見せたところで、“どうしてこのような考えに向かうのか”を私に訊きに来る始末。特定の者しか受け取れないようなものを残されても困るのだけど?」

「………」

 

 それでも華琳には理解できたようだ。

 少し、ほんの少しだけ胸がキュンとした瞬間だった。

 

「それは、ごめん。でも華琳にはわかったんだろ?」

「……一刀の考えそうなことくらい想像がつくわよ」

「そっか」

 

 顔がニヤけていくのを止められない。

 そんな俺を見た華琳が睨んできたところで、なんとかニヤける顔を引き締めて頷く。

 対する華琳は書類を纏めると竹簡を手にし、カラカラと広げていく。

 

「じゃあ今日は書類整理に励むな。忙しいところ、悪かった」

「構わないわ。それよりも一刀」

「ん?」

 

 出て行こうと踵を返したところで呼び止められる。

 何事かと軽く身構えてしまうのは、正した姿勢の先に居る女性をよく知るが故だろうか。

 

「……どうしてわざわざ身構えるのかしら?」

 

 こんな小さな動作でさえ見破るお前だからだが。とは言わない。

 まあまあと軽く濁して先を促してみれば、訊ねられたのは袁術のこと。

 

「あー……大変だった……じゃないな、大変だ。怯えようが異常だよ」

「あらそう、一刀でも梃子摺るのね」

「軽く言ってくれるなよ……ストレスでどうにかなっちゃいそうだったぞ?」

「すと……?」

「精神的な疲労とか、そういうこと。心を許せる相手が居なくて、人が近づくだけで泣くほどだ」

「……そう。それで? どうにかなりそうなの?」

「ん……どうにかするよ。とりあえず今日は一日中、一緒に居てみるつもりだ」

 

 さすがにあのままだと、いつか精神がパンクする。

 今日一日で多少の警戒心を解いてくれればいいけど。

 

「そうだ。袁術って食事とかはどうしてたんだ? ストレスがひどいと食べ物が喉を通らないって聞くから、ちょっと心配だ」

「近づくと怯えるものだから、一刀の部屋の机の上に置いていくのよ。一応食べるわ。好き嫌いが多くて困るけれど」

 

 言い終えると同時に溜め息をこぼし、カロカロと丸めた竹簡を脇に積むと、改めて俺を見る。

 

「心配ではあるんだな」

「城の中で餓死者なんて笑い話にもならないわ。妙な邪推はいいから、貴方はさっさと仕事をしなさい? それとも張り切るのは呉と蜀だけで、魏では精力だけに熱心な怠け者に戻るというの?」

「戻るとか言わないっ! 仕事はちゃんとするって! じゃなきゃ復帰報告なんてするもんかっ!」

「なら結構よ。せいぜい張り切りなさい、一刀」

「……りょーかい」

 

 結局のところ、どれくらいぶりに再会したって俺の扱いは変わらないんだなと理解した。

 まあそうだよな~……華琳だもんなぁ。

 最後にちらりと、新たな竹簡に手を伸ばす華琳を……ってあれ? その竹簡、さっき見てなかったか?

 

(…………気の所為か)

 

 なんだかそわそわしている気もする。

 指摘したらしたで否定されそうだし……ここで黙っていても邪魔になるしな。

 よしっ、じゃあ必要な書簡を揃えて自室に戻るかっ!

 

「俺が纏める必要がある書簡って、ここにはないよな? 隊舎の方か」

「凪に管理してもらっているから、そのことに関しては凪に訊きなさい」

「そっか」

 

 華琳も把握してるんだろうけど……忙しいんだろうな。

 踵を返そうとした時に、カタンと丸められた竹簡が積まれた。

 そして華琳に背中を向けた時には、その背中に強烈な視線。

 振り向いてみると、竹簡を見る華琳。

 

(?)

 

 気の所為か? 気の所為だな。

 

「じゃ、頑張ってくる」

 

 言い残して部屋を出る。

 後ろ手に扉を閉めるまで、ずぅっと視線を感じていた気がするんだが……特に何も言われたりはしなかった。

 

「気にしすぎかなぁ……」

 

 久しぶりの我が家(?)に興奮しているのかもしれない。

 歩き出そうとするが、“このまま残って華琳と話をしていたい”なんて欲に飲まれそうになり……なんとかそれを押し込めて歩き出す。

 復帰初日からサボるなんて、さすがに隊長職の名が泣く。

 もう散々泣いているとかいうツッコミは勘弁だ。

 

 

 

-_-/華琳

 

 カロ……カシャッ。

 

「…………」

 

 もう何度目になるかわからない竹簡を見下ろし、丸めて積んだ。

 喉が渇いている。

 水が欲しいが、部屋から出る気にはなれなかった。

 

「……~……ああ、もう……」

 

 顔が熱い。

 絶対に赤面している。

 何故? この曹孟徳が、一人の男を前にしただけでこんな無様な……。

 大体一刀も一刀だ。こんな朝早くから訊ねてきたかと思えば仕事の話で、こちらを気にかけもしない。言いたいこと訊きたいことを終えればさっさと出ていってしまった。

 私も私だ。出て行こうとするたびに呼び止めようとして、呼び止めたところで何を話すつもりだったのか。

 

「証は立てられたわ。それでいいじゃないのよ……」

 

 一刀は私のものだ。

 血を証に立て、それを吸った絶を私が所有している。

 けれど足りない。

 何が足りない?

 そんなものは決まっている。

 所有物なのに一番近くにソレが無い。

 けれどそこで“待って”の一言でも出してみなさい、私は一刀の仕事の邪魔をすることになる。

 私は雪蓮と桃香になんと言った?

 非道な王ならば討てと。私事を優先し、民を守る仕事を後に回す王は、王として然であるか? あるわけがない。

 

「戻ってきたらきたで、落ち着かないわね。どこまで人の在り方を乱せば気が済むのよ、あの男は」

 

 八つ当たりなのはよくわかっている。

 けれどこうして、私だけがもやもやしているのは不公平だ。

 大体なんなのよあの態度は。

 もっと一刀の方からせまって来れば、私ももっといい気分で……。

 

「……仕事が足らないわ」

 

 既に新規に出されたものなど処理しきってしまった。

 足らない、足らないのよ……! もっと意識を一刀から逸らせる何かが必要だわ……!

 

「早く仕事を片付けなさい一刀……! そうしたら……!」

 

 そうしたら。

 この行き場の無い気持ちのぶつけどころが、ようやく出来るのだから。

 

「……はぁ……することが無くなったわ。まったく、何を望んでこんなに……」

 

 来る案件来る案件、最善を最速で選び、決定を下す。

 空いた時間は当然のように別の仕事を片付け、いつでも手を空けることが出来るようにと準備をしてきた。それがどういった準備なのかといえば……口にするだけ無駄なことだ。

 

「蜀に乗り込めば、呆れるほどに仕事があるのでしょうけど……」

 

 笑顔の蜀王の姿を思い浮かべ、口角を持ち上げた。

 立てていた頬杖を、竹簡をいじっていた手と一緒に持ち上げ、少し伸びをする。

 

「退屈は敵ね。少し歩きましょう」

 

 顔の熱が引いたのを確認してから、誰にともなく呟き歩く。

 部屋を出てからはほぼ一直線に厨房へ入り、茶器を手にして。

 向かった先は…………あの男が居なかった間もほぼ毎日訪れていた部屋だった。

 どうせまた散らかされているのだろうから、美羽を追い出してからは掃除だ。

 一刀が既に書簡を持って戻っていたなら、茶を注げと命令でもしよう。

 不味かったら当然、美味くなるまで淹れさせる。

 

(……所有物の部屋を掃除する王なんて、誰にも見せられないわね)

 

 そういえば、雪蓮に見つかってしまった時は大笑いされた。

 あれは屈辱以外のなにものでもなかったが……今はそんなことはどうでもいい。

 まずはノックをして、中の反応を伺う。

 反応は……無しだ。寝ていたりするのかしら。

 けれど鍵はかかっていないようなので、遠慮も無しに中へと入った。

 

 

 

-_-/一刀

 

 ……意思の弱い自分をどうかお許しください。

 そんな、誰に向かって言ったわけでもない懺悔が、心の中で轟いた。

 あとはノック。反応を伺い、返事が無いことを確認すると少しだけ中を覗いてみる。

 

「華琳~……?」

 

 もしかしたら寝ているのかもと思ったが、朝なのにまた寝ることもないよな。

 予想通りに、覗いた部屋の中は(もぬけ)の殻。

 せっかくだから華琳と一緒にと思ったんだけどな……何処行ったんだろ。

 

「……ふむぅ」

 

 袁術と一日一緒に居てみると言っておきながら、書簡を持ってここに立つ自分が(むな)しくなる。誰も居ないとなれば余計だ。

 

「ここでこうしていても仕方ない。部屋に戻るか」

 

 いかんいかん、華琳もどこかの視察に出たのかもしれない。気を引き締めよう。こんな入れ違いの場面を見られてみろ、呆れ果てた溜め息から始まる説教が延々と……!

 

「ていうか……袁術のことほったらかしでわくわく気分でここまで来たりして……。自分ばっかり華琳のこと思ってるみたいで恥ずかしいな……」

 

 うん、よし、仕事を頑張ろう。

 っとそうだ、袁術。あれだけ泣いてたんだから、起きたら喉が渇いてる筈だ。

 厨房に行って茶器……は渋いか。“袁術は蜂蜜が好き”って話を昨日思い出したばっかりだが、昨日の今日でいきなり蜂蜜で気を引くのか? いやいや、喉を潤してやるだけだって。でも潤すだけなら水でもいいしな。

 

「水でいいか」

 

 いざ厨房へ。

 急ぐでもなく通路を歩いて、景色を懐かしみながら進む。

 

(はぁ~……魏だ……。当然のことだけど、魏だなぁ……)

 

 帰ってこれたんだなぁ本当に。

 

「…………はっ! たはは……景色を見てる筈が、華琳ばっか探してる」

 

 本当に、まるで恋する乙女だ。

 落ち着こうな、仕事だ仕事。

 

「ふふふん、ふふふん、ふふ・ふふふふふん♪ ふふふん、ふふふん・ふん、ふふふふふん♪……ん?」

 

 再び魏を歩ける喜びを鼻歌に託していたら、模擬戦(?)をする霞と華雄を発見。

 中庭でガンゴシャガンゴシャと得物を振るい、ぶつけあっていた。

 そういえば霞が模擬戦してるところってあんまり見なかったよな。

 ……ちょっとくらい寄り道してもいいかな?

 

 

 

-_-/華琳

 

 ……来ないわね。

 

「何処で何をしているのかしら、あの男は……」

 

 一刀の部屋の椅子に座り、茶器は机の上に乗せたまま、ただ冷える時を待っていた。

 せっかく熱いお湯を用意させてもこれでは意味がない。

 ……まあ、熱すぎてはお茶の風味も無駄になるのだけれど。

 

「丁度いいのは今なのよ……さっさと戻ってきなさいよ、もう……」

 

 いらいらする。

 もやもやする。

 これを解消させたくて歩いたのに、どうして私は歩いた先でもやもやしているのか。

 ちらりと視線を動かしてみれば、一刀の布団にくるまってくーすー寝ている美羽。

 あの子が荒らすようになってから、この部屋からは一刀の匂いが消えた。

 それに気づいた時は随分ときつく注意をしたのだけれど……懲りない者も居るものだ。

 注意をして追放したところで、悪戯をしに戻ってきたと言っていた雪蓮の言葉も、あながち嘘ではなかったようだ。

 

「はぁ……このままじゃ埒が空かないわ」

 

 椅子から立ち上がって部屋を出る。

 何処かでサボっているようなら耳を引っ張ってでも連れ戻す。

 もう待つのはうんざりだ。恋する乙女なんて冗談じゃない。

 私は欲しいものは必ず手に入れるのだ。それは既に所有物であるものだって変わらない。

 邪魔をしなければいいのよ、茶を一緒に飲むくらいで邪魔になる程度の集中力なら、それは一刀が悪いのだから。

 

 

 

-_-/一刀

 

 笑顔で手を振る霞に別れを告げ、すっかり堪能した模擬戦を思い返しながら歩く。

 いやぁー凄かったなぁ……急に勢いづいた霞もそうだし、それに対抗する華雄も。

 よくあんな攻撃を防いだり返したり出来るもんだ。

 俺なんか、避けたり氣で受け止めたりしなきゃ、まず無理だ。

 

「いいものも見れたし、仕事に集中出来そうだ~♪」

 

 見ていた場所の所為で少し遠回りになったけど、どっちにしても部屋には着くんだし気にしない気にしない。

 そんなわけで辿り着いた自室の扉をゆっくりと開け、中の様子を見ながら入る。

 

「袁術~? 起きてるか~? ……あ、まだ寝てるな」

 

 誰も居ないのに口の前に人差し指を構え、し~……と声を小さくする自分が居た。

 そんな些細なことにくっくと笑みをこぼしながら───はうあ! 水貰うの忘れた!

 

「仕方ないな、書簡置いたら厨房に……おおっ?」

 

 どういうことか机の上に茶器が!? しかもお湯付き!?

 私はあまりの出来事に大変驚きました。

 

「誰かが気を利かせてくれたのか? ……うわ、お湯も適温じゃないか」

 

 今淹れるのが丁度いい。

 丁度器も二つだし、お湯がぬるくなる前に淹れちゃうか。

 

「こういう時はじいちゃんに習ってよかったな~って思うよな~」

 

 俺じゃあ白蓮みたいに天の味(普通の味)は出せないけど、あくまでこっちの普通なら出せる。白蓮のそこらへんの腕はどうかしてる。いい意味で。

 

「……はは、気持ち良さそうに眠ってら。いいよなー、のんびり眠れるって」

 

 多少の口調崩れも気にしない気にしない。

 美味しいお茶を作るなら、作法よりも茶を楽しむ心ってね。

 そうこうしているうちに、器二つに注いだ茶の片方を飲む。

 

「……ん、いい出来」

 

 満足いく出来に笑いながら、まだ起きない袁術を再び見やる。

 寝ている時は怖がったりはしないのになぁ……ストレスが続くと魘されたりとかもあるらしく、心配になってそっと覗いてみるが、そこまでひどくはないことにとりあえず安心した。

 

「うーん……でもいくら美味く淹れられても、袁術がお茶が苦手だったら意味ないよな」

 

 やっぱりここは水だろうか。

 ……だな。よし、ちょっと行ってもらってこよう。


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