真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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51:魏/静かな日(再)①

92/静かな日(再)

 

 静かな日、騒がしい日。

 そういった日常が幾度か流れ、何度目かに訪れた非番の日。

 朝っぱらから自室で軽いトレーニングを始め、体がナマりきらないようにほぐしていく。

 鍛錬が禁止されてからというもの、模擬戦に誘われることは数回あったが───張りきりすぎて、誘われての鍛錬すら禁止されたらどうしようと、思い切り出来ずにいた。

 

「…………すぅ…………はぁああ……」

 

 なので“ならば部屋の中ならば迷惑はかかるまい”と、こうして部屋の中で鍛錬をしているわけだ。

 袁術に暑苦しいと言われようが構いません。

 そんなことを自覚しないで鍛錬が出来るもんか。

 

「……ふぅ」

 

 あれから───鍛錬が禁止されるきっかけになった鍛錬の日から、雪蓮とのイメージとは何度か戦ってみている。

 結果は……大体は負けいる。

 なにがどう吉に転んで勝てたのかは未だに解らないものの、“大体は”というからには時折に勝てていたりする。余裕で勝つのは無理すぎるが。

 

(イメージ、弱くなってきてるかな)

 

 自分の中の想像の雪蓮が、自分の思い通りになってきてしまっているんじゃあ、と考えると、勝てて嬉しい反面、素直に喜べない。

 自分の感情に“面倒臭い奴だなぁ”とこぼすものの、実際にこぼれるものなんて苦笑ばかり。

 

「あれから雪蓮も遊びに来ないし……何かあったのかな───ってはいはい袁術、雪蓮の名前が出た途端に震え出さないの」

 

 鍛錬を終える。

 汗をタオルで拭うと最後に大きく伸びをして、改めて袁術に声をかけると、ここ最近じゃあ恒例になりはじめている袁術との散歩が始まる。

 脱HIKIKOMORIとはよく言ったものの、俺と一緒じゃなければ部屋の外に出ようとしないのだ、このお子様は。

 

「それで? 今日は何処に行くんだ?」

「うむ、楽しいところへ案内せよ」

 

 訊いてみれば、腰に手を当て、目を伏せてのふんぞり返りがそこにあった。

 俺はといえばそんな言葉に“了解”と返し、扉を開けて移動を開始。

 慌ててパタパタとついてくる袁術とともに、許昌での散歩を始めた。

 とはいえ城を出るよりもまずは朝食だと、厨房を目指す。

 静かな日の静かな時間、そう騒がしくもない通路を歩き、どこからか聞こえる鳥の声に耳を傾けながら、何を話すでもなく袁術と歩く。

 袁術はノリ気だったくせに、外に出ると周囲に注意を払ってばかりで静かなものだ。

 ……しかしまあ、中々ずぅっと静かにとはいかないもので、

 

「む」

「お?」

 

 部屋から出て少しで、華雄と遭遇。

 軽く挨拶をしてみると、これから朝餉を取るところらしい。

 せっかくならばと袁術を促して厨房へ。

 散歩前の栄養を摂取すると、特にやることも無いらしい華雄も加わっての散歩が再開。

 

「目的は特にないのか?」

「たまの非番だしね。のんびり出来ることのありがたさがこの歳で理解出来るようになるなんて、この世界に下りるまでは思ってもみなかったよ」

「……、……、~……!」

「袁術はなにをここまで怯えているんだ?」

「気にしないでやってくれ」

 

 華雄と話し、袁術が周囲を警戒しての、よくわからない散歩。

 それでも通路を抜け、街に下りると袁術の目は輝き、食べたばかりだというのに美味そうな匂いのする店の前へと駆けては俺に手を……振ってないな。手は突き上げて、“さっさとくるのじゃー!”的なことを言っている。

 俺はお前の財布じゃないぞーとツッコミは入れるものの、ねだられると弱いのはどうにも前から変わっていないらしい。反省。

 

「華雄も何か食べるか?」

「ふむ……では饅頭をいただこう」

 

 自分の分は買わず、二人に饅頭を一つずつ。

 歩きながら散歩を続け……

 

「お?」

「む?」

 

 秋蘭と遭遇。

 その横にはなにやら紙袋を手にした春蘭が。

 

「二人とも、今日は非番?」

「うむ。武官はこれで、案外暇でな。文官としての仕事も無いから、姉者の入用に付き合うことになった」

「そっか。で……春蘭、何持ってるの?」

「秘密だっ!」

 

 目を輝かせながらの言葉だった。

 なんというかこう……“ほんとは話して聞かせたい子供のような笑顔”、と言えばいいのか。そんな春蘭を見ている秋蘭は、なんだか幸せそうだ。

 せっかくだから訊き出してみようと一歩近づくと、それに合わせるように秋蘭が声をかけてくる。もしかして聞かれたくない話? だったら無理に聞かないほうがいいかもだけど。

 

「北郷、お前こそどうした? 華雄に袁術を連れて歩くなど珍しい」

「いつもの袁術との散歩に、華雄が加わったってだけだよ。出る気はいっぱいあるのに、連れ出してやらないと部屋の外に出ないからさ」

「そうか。ふふっ……愚痴のような言葉を吐き出す割には、楽しそうに見えるが?」

「はは……警邏目的じゃなく、“楽しむこと”を目的に街を歩くと、どうもね」

 

 答えは予想出来ていたのか、秋蘭は目を伏せて軽く頷くだけ。

 それから軽く話し、別れると、また散歩が始まる。

 こっちの通りは前に案内したから……今日は向こう側の通りで行こうか。

 今日の計画を軽く組み立ててみるけど、どうしても平穏に終わりそうに無いって結論に至るのは、今までの経験の賜物だと受け取っていいんだろうかなぁ。

 

……。

 

 街を行く。

 

「おー隊長~、女侍らせて、えー気分やろなぁ……」

「真桜か。仕事中か?」

「今ようやっと溜め込んどったもんが終わったとこや……しかもこれからまた警邏とか……はぁ。たいちょ、変わってくれん?」

「溜め込んでたお前が悪いだろ、それ。前にもそんなことやってたのに懲りないなぁ」

「隊長が消えた分、それらの仕事がウチらに回ってきたんやからしゃーないやん。ウチにはウチで、炉のこととか作っとるもんとかの報告が結構あって、大変なんよ……」

「消えたのはすまん。で、今何か作ってるのか?」

「へへー、それは秘密……秘密やで。綿菓子機も順調やし、溜めた仕事も終わった。あとはこっちのことに集中できるし……完成したら絶対にたまげんで、隊長……。むしろたまげてもらわんと苦労が報われんわ……」

「そ、そうなのか」

 

 途中、真桜と会って会話をして、別れると歩く。

 朝餉は食べたわりにあれこれ食べたいと言う袁術に、俺もまたあれこれと買ってあげて。

 華雄は饅頭のあとは特に食べたいと言うでもなく、許昌の街をのんびりと見て回っていた。

 

「おや、一刀殿」

「稟? 稟も非番か?」

「ああいえ、わたしは風と───」

「おおっ、稟ちゃんが早速、男に声をかけられているのですよ───なんだ、お兄さんですか」

「なんだってなんだ」

「いえいえー、少々稟ちゃんと話しながら歩いていたもので。稟ちゃんは一人で歩くのと二人で歩くのと、どちらが声をかけられるのかと。そうして離れていましたら、なんと早速声をかける殿方が。……まあ、お兄さんでしたけどねー」

「で、稟。風となにしてたんだ?」

「おおう、無視ですかー。お兄さんも随分と大胆になりましたねー」

「ええ───少々、華琳さまに命ぜられた事をしに」

「命じられた事?」

「はいー。まずはこの家の中を覗いてみてくださいー」

「……? 桂花じゃないか。子供たちを前にして、何を……って、もしかして」

「桂花ちゃんのやり方ではわかりづらいとの不満が届きまして、時折にこうして風たちが駆りだされることになったのですよ」

「その。彼女に任せると、やれあの将はああだ、その将はこうだと、民たちに妙な理解を持たれてしまうので」

「いや、うん。よーくわかった」

 

 街を歩けば人に会うのは当然だが、案外将のみんなとも会ったりした。

 桂花も相変わらずらしく、耳を澄ましてみれば、やっぱり華琳をお題とした計算を子供たちに説く声が聞こえてきて……この一年、ずぅっとそれを通してきたのかと思うと、逆に感心した。

 

「あ、兄ちゃーんっ」

「…………なぁ華雄? 今日って将全員が非番……じゃないよな。稟も風も桂花も、仕事だったわけだし」

「うむ。大体、魏将の仕事の都合などをわたしが知るはずがないだろう」

「ごめん、それもそうだった。で、季衣、その格好からすると───」

「うんっ、お休みだよー♪ 今、流琉と一緒に春蘭さまと秋蘭さまを探してるんだけど、兄ちゃん知らない?」

「春蘭と秋蘭なら、こっちの通りに来る前の隣の通りで見かけたぞ。多分、城に戻ってると思う」

「あれ、そうなんだ。じゃあえっと……はいこれっ、あんがとねー兄ちゃーん!」

「え、あ、おーい! ……お、お礼に肉饅渡されたってなー……! ……行っちゃったよ。あ、あー……華雄、食べる?」

「むぅ……腹は空いてはいないんだが……」

「では妾に献上するがよいぞ?」

「……いい加減、腹壊すぞ」

「平気なのじゃっ、美味いものは、べ……べつ、ばら? と、七乃も言っておったしの!」

「それ、“甘いもの”の間違いだからな?」

 

 歩き、誰かと会い、話し、別れる。

 なんとなく周りにも注意を向けて、空を見上げては苦笑。

 

「そういえば華雄。今日、霞とは?」

「会っていないな。昨夜は部屋で飲み明かしたが、朝になると既に居なかった」

「酒もタダじゃないんだから、呑み過ぎないようにな……」

「酒がダメならハチミツをすすればよかろ?」

「……ハチミツもタダじゃないからな? けど、酒か……落ち着いて呑むなんてこと出来なかったから、久しぶりに……あ、丁度酒屋発見」

「のう一刀……? こんなところにハチミツが売っておるわけなかろ……?」

「や、蜂蜜じゃなくて酒を買うんだって。さってとー……おやっさーん、いい“黄酒”(ホワンチュウ)あるー?」

 

 なにに対しての苦笑かといえば、まあ……あれだ。

 “これ、警邏している時とあまり変わらないよな”、って意味での苦笑だった。

 それでも気分だけは違うつもりで散歩を続け、昼がくれば昼餉も取り───

 

「あ、一刀~!」

「一刀も昼、ここで食べるの? だったらちぃたちと───」

「言っとくが、奢らないぞ?」

「……一刀さん、いつもそうだからって、さすがにそれはないと思う」

「そーだよー、今日はちゃ~んと自分たちのお金で食べるって決めたんだもん」

「そっか、悪い」

「なんだったら今日は、ちぃたちが奢ってあげてもいいわよ?」

「……………………今日ってエイプリルフールだったっけ?」

「えい……なに?」

「エイプリルフール。天で言う、嘘をついていい日のことだよ」

「あー、一刀ひどーい! せっかく奢ってあげるって言ってるのにー!」

「ああいや、すまん。普段から聞き慣れない言葉だったからつい……でも、いいのか?」

「っへへー、たまにはどーんと食べさせてあげるわよっ! じゃ、一刀はちぃの隣ね?」

「だめだよちーちゃん、一刀はわたしの隣に座るんだから」

「どっちも隣に座ればいいでしょ。わたしはいいから、どうぞ」

「あ、じゃあこうしよ? ちーちゃんとれんほーちゃんは一刀の隣。で、わたしは一刀の膝の上」

「ちょっと待ていっ、どうしてそうなるっ」

「そ、そうじゃそうじゃ、大体一刀の膝には妾が座るのじゃっ」

『…………一刀……』

「いやいやいやいやっ! なんだその“またこの男は……”って目! 別に俺なにもしてないぞ!? ただ袁術が気に入ったとかで、いつの間に膝の上にだなっ……!」

「じゃあちぃも気に入ったから座るっ!」

「いつ誰が座らせて気に入らせたんだよっ!!」

「今から気に入るわよっ! 文句ないでしょそれで!」

「……理屈的には間違っていないわ」

「理屈ではそうかもだけどね!? ……ど、どうした? 急に黙って赤くなられると、困るんだけど」

「……じゃあ、その。あれ、の時になら膝の上に乗っかったから……っ!」

「人和!? それこういう場で言うことじゃないと思うんだが!? ってこらこら地和! 引っ張るなっ! 俺はただ静かに食べっ……あ、あーっ!!」

「……むぅ……どうでもいいが、早く済ませてほしいんだが」

 

 可愛らしくないた華雄の腹のお陰で、その後の食事は穏やかに……済むわけもなく。

 終始を騒がしく過ぎた昼餉は、張三姉妹と別れることで終了。

 引き続き散歩をしながら、“奢りで食べる料理は美味いなぁと思う暇も無かった……”なんて他愛の無い話をする。

 他愛はないが、いろいろこもっている気がするのはこの際忘れよう。

 

「何事もないのが一番だけど、何事もなさすぎると退屈だな……」

「そうじゃのぉ……」

「うむ……お前の周りはなんだかんだと騒がしいから、これほど静かなのも珍しいな」

「人を騒ぎの台風の目みたいに言わないでくれ」

 

 やがて街の案内も終わりに近づく。

 服屋できゃいきゃい騒ぐ袁術に対して、特に目を輝かせるでもない華雄。

 そんな彼女に服を見立ててみるも、これといった関心がないのか、試着すらしなかった。

 そうした時間が過ぎて、また夕日が空を染めていく。

 途中途中では騒がしかった散歩。

 静かな日っていうのはどんでん返しが仕掛けられた舞台みたいに、あっさりと姿を変えるものだと思っていたが……その日は本当に何も起こらずに終了した。

 

 

───……なんてふうに終わっていればよかったんだが。

 

 

 散歩を終えて部屋に戻ると一息。

 袁術はお目当ての蜂蜜水を手に目を輝かせていた。

 あれが飲みたいがために散歩に出たようなものだ。まったく、げに恐ろしきは人の食い意地か。

 

「ん、んー……あぁ……なんというかこう……足りない」

 

 体がナマらないようにと適度に動かしてはいるが、元々があの鍛錬だ。

 動かし方が全然足らない。

 もっとこう……体を思う様ブン回すくらいの運動がしたくなる。

 

「足りない? なにがだ」

「なにって鍛錬───って華雄!? あ、あれ!? なんで俺の部屋に!?」

「いや……なんでと言われてもな……。ただお前と袁術とで始めた散歩なら、そこについていくくらいしか思いつかなかった」

「………」

 

 知らない人にだって普通についていっちゃいそうな理論だった。

 そりゃあ、じゃあ今日はここまで、なんてことは一言も言ってなかったけどさ。

 途中でそれっぽいやりとりはしたから、てっきり途中で別れたものかと。

 

「でも、この部屋でやることなんて無いだろ?」

「ふむ……うん?」

 

 顎に手を当て、思案する仕草を見せていた華雄が、俺のバッグと竹刀袋を発見。

 興味があるのか近づくと、一度俺を見る。

 

「手荒に扱ったりしないなら」

「当然だ」

 

 武人だからかどうなのか、武器に対しては敬意を払うような姿勢で、竹刀袋から木刀を抜き取る。それを手に軽く構え、「ふむ」と言って俺に渡す。

 

「ん?」

「ただの木剣にしか見えんのだが……どうしてこれで模擬刀とぶつかり合い、傷ひとつ無くいられる?」

「ああ、氣を纏わせてるんだ。こう……───んっ」

 

 木刀を手に、氣を流し込む。

 最初の頃に比べると、随分と慣れたもんだ。

 祭さんに教えてもらって、無理矢理絶対量を広げて死にかけたのも……い、いい思い出……だよな? 今なら笑い話に出来るけど、あの感覚は出来ればもう味わいたくないなぁ。

 ともかく、本当に薄く、ぼんやりとした膜をまとった木刀がここに。

 これをもっと凝縮させて振るうと、アバンストラッシュみたいなものが出せて、俺が倒れます。ええ、どうせまだ氣の放出や弓術は下の下ですよ。

 意識がどっちに向いたか程度で技量が上がれば苦労しないよな、ほんと。

 

「こんなもので刃に対抗できるのか?」

「今のところは刃相手でも弾けてるし、振るえば椅子にヒビを入れられるくらいは確認してるかな。べつにそうしたかったわけじゃなくても」

 

 そういえばあの椅子、どうなったのかな。

 取り替えたんだとしたら悪いことをした。

 作ってくれた方へ、今さらながら謝ろう。ごめんなさい。

 

「集中してないといけないから、あまり焦りすぎると文字通り氣が散ってだめなんだけど」

 

 それ=木刀破壊に繋がるから、なんとも怖い。

 この世界ならまだしも、日本円で弁償して返すならしばらく働かなきゃならない。

 ……って……そういえば、鍛錬は何度かやらせてもらったものの、そういう時に限ってどうしてか華雄は居なかったよな。

 誰かの用事に付き合ってて居なかったりだのなんだの。

 模擬戦とか好きそうだから、率先して現れると思ってたのに。

 

「あ、ところで───」

 

 ふと、軽い疑問が頭の中をよぎる。

 なので思いそのままに口を開いた矢先、ダンドンドンッ! と豪快なノック。

 知る限り、こんなノックをするのは……

 

「春蘭か? 鍵はかかってないぞー」

 

 言ってみると、確認を取ったっていうのにぶち破らんとするような開けかたをし、現れたのはやっぱり春蘭。

 何故かぜーぜーと息を荒げ……って、なに、その格好。

 

「……春蘭?」

「かずっ……いや、北郷! わたしはっ……わたしは……!」

 

 春蘭だ。春蘭だよな。春蘭なんだけど…………格好がおかしかった。

 うん、一言で言うなら…………ごめん、表せる言葉がどうにも思いつかない。

 そんな春蘭が、動揺していたからかどうなのか、一刀、と俺を呼びそうになりながら───しかし華雄らを視界に入れるや言い改める。

 そんな状態でも溜めに溜め、やがて言い放たれた言葉が……!

 

「わたしはっ……道化にすらなれない愚か者だぁああーっ!!」

 

 ……これだった。

 言った本人は頭を抱え、崩れ落ちるように床に座り込むや、床をどすんどすんと殴り始めた。指の方ではなく、こう……なんだ、ハンマーって言えばいいのか? の部分で。

 

「…………道化?」

 

 何がそんなにショックだったのか、ビワーと泣き出す春蘭を前に動揺を隠せない。隠す必要もないんだが、冷静ではいたいと思う気持ちはとっくに裸足で逃げていた。

 そのくせ、道化って言葉に反応した頭は、あっさりと答えを引っ張り出して……

 

「……もしかして、戦が終わる前に言ってたアレか? つか酒くさっ!」

 

 傍に跪いて声をかければ、ツンと鼻を刺激する香り……どれほど飲んだんだいったい。

 そしてなんだってこの赤い人は、酒を飲むと人のところに突っ込んでくるのかっ!

 

「え、えーと……なんだ? もしかしてほんとに道化になってみたのか? むしろ道化になるって、どんなことしたんだよ」

「それが解らんから桂花に訊いた……」

「その時点でアウトだろっ!」

「うぅ、うぅううう……!」

 

 どうしてよりにもよって桂花に……。

 風あたりに訊いておけば、まだ救いはあったろうに……。


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