真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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62:魏/技を編み出した人を尊敬した日②

 で……。

 

「げっほっ……! つぁっ……はぁ~っ……! け、結局っ……負ける、わけか……!」

「………」

 

 ───地面に倒れる俺と、立っている春蘭。

 ただし春蘭の手には七星餓狼はなく、彼女の足元に落ちていた。

 今出せる渾身だ。なんとかもう一度、手を痺れさせることくらいは出来たんだろう。

 理屈や技術で攻めてみたって“敵わない本物”っていうのは、やっぱり強いなぁ……。

 

「おい北郷」

「はっ……ん、んー……? なん、だぁ……っ……?」

「貴様は力をつけてどうしたいのだ? 強くなったところで、平和な世では持て余すだけだぞ」

 

 そう言いながら、痺れていようが構うものかと無理矢理動かして七星餓狼を拾う。

 そうしてから俺が倒れる横にどかりと座って、横を……春蘭の方を向いた俺の眼前の地面に七星餓狼を突き刺す。

 ……思わず「うひぃっ!?」て悲鳴が漏れた。勘弁してほしい。

 

「“強くなってどうする”かぁ……恩返しがしたいかな」

「恩返し?」

「そ。いっつも守ってもらってばっかりだったから、いつかほら、たとえば春蘭が体調不良を起こしたとして、そんな時くらいは守ってあげられる自分になりたい」

「何を言っている? わたしは体調不良になどならんぞ?」

 

 本気できょとんとした顔で返された。

 どこまで自分の健康状態を疑ってないんだこの人。

 

「まあ……うん。もしもの話だって。俺の“国に返したい”っていうのは、ほんとにいろんな意味が混ざってるからさ。そんな場面になっても何も返せない自分でいたくないっていうのが大きな理由」

「……? よくわからんが、そうか」

 

 体調不良じゃなくてもたとえばほら、その。身篭った時とか。

 そうなったらなったで、俺なんかよりも秋蘭が群れのリーダーが如き野生味を発揮しそうな気がしないでもない。

 強いだろうなぁ……“姉者には指一本触れさせん”とか言って、殺気でも怒気でもない、ただ只管に冷静な眼光に睨まれて、気づいたときには心臓に矢が立っていた……! とか。

 想像したら怖くなった。やめよう。

 

「しかしまあ、今日はよくやった方だがわたしには勝てんなっ、そんなことではよくわからんが返すものも返せんぞ」

「そんな嬉しそうに言うなよ……これでも頑張ってるんだから」

「……おおなるほど、あれはこういう時にこそ言うんだな?」

「……春蘭? なにが?」

「あ、あー……“結果を残せなければどれだけ頑張ったと言おうとも意味が無い”だっ!」

「………」

 

 ……刺さった。

 華琳からの受け売りなんだろうけど、物凄く刺さった。

 うう……もっともっと頑張らなきゃだめか……。いやそもそも不意を突いた行動以外で勝てる気がしないんだが。

 星も“隙を突くなどしないで勝てれば”だのどうのこうの言ってたけど、それをさせてくれないのがこの世界の武人だと、この北郷めは思うわけですよ。

 

「肝に銘じておくよ……。でも今は休みたいや……」

「そうか? よし、ならば華雄! 次は貴様だ!」

「フッ……望むところ!」

「休み無しかよ! 華雄も“望むところ!”じゃなくて! 春蘭、少しくらい休んだほうが───」

「んん? 多少手は痺れたが、こんなものどうということはないだろう」

 

 “何を言っているんだ”って顔できょとんとされた。

 え……? 俺……? 俺が間違ってるのか……? なんて思っているうちに、早速ぶつかり合う二人を見て途方に暮れる。広いね、世界。いやこの場合広いのか?

 

「この場合、広いのは武の世界ってことでいいのかな……」

 

 全然元気に剣を振るう春蘭を見るとさすがに少しショックだった。

 少し休めば動けるようにはなる。……なるけど、あそこまで休み無しっていうのは無理だよ。うん無理だ。

 

「はぁ……氣を練りながら休むかぁ」

 

 木刀に宿らせていた氣もいつの間にか散ってたし……なんにせよ、今は休憩したい。

 溜め息をひとつ、倒れたまま空を正面に捉えてから目を閉じた。

 眠れるようならこのまま寝るのいいかもしれない。心地いいとまではいかないものの、眠るには丁度いいだるさが体を包んでいるし。

 ……いや、汗拭かないと風邪引きそうだ、やめておこう。錬氣錬氣。

 

……。

 

 疲れた体に鞭打ちながらの錬氣も終わり、いつもの木の幹に背を預けながら、元気に撃を連ねる春蘭と華雄を眺める。

 見ている分には“ああ、あそこはこう動いたほうが”とか“えぇっ!? そこはこうじゃっ……”とか思うものの、実際向かい合ってみればそんなことを考える余裕は生まれてくれない。

 迫力に飲まれるっていうのはああいう時のことを言うんだろう。

 頑張ってはみても、乱世を潜り抜けた武人の迫力っていうのはそう簡単に飲まれずにいられるものではなく、気づけばこう来たらこう動くって意識を手放してしまっている。

 そのくせ小細工は思いつくからなんとか頑張り続けてみるのだが、結局はどこかでポカをやらかして……まあその、空を飛ぶ。

 春蘭と華雄の動きを頭に刻みながら自分が戦うイメージを展開してみるものの、最後はやっぱり負けてるんだよなぁ……上手くいかない。

 さて、まあそれはそれとして。

 

「体力、よく保つなぁ」

 

 休み始めてから結構経つというのに、まだまだ元気に武器を振り回す二人を見る。

 持久力には自信がついてきたつもりだったけど、それはあくまで走りの方のもの、なのかも。

 まだまだ武器を振るうために使う部位の鍛えが足りないみたいだ。……どこまで鍛えればあそこまで戦えるのかは別として。

 と、自分が守れるようになる日ってのはいつの話になるんだろうって、本気で思い始めていた時。視界の端に見えていた通路をテコテコと歩く姿を発見。

 羽織に袴、胸にはさらしっていう、相変わらず寒くないのかって姿で歩いている。

 ……なんか機嫌がいいっぽい。にんまりとしている……つつけば猫耳でも出しそうだ。

 原因は手に持っている徳利だろうか。その顔があんまりにも嬉しそうだったから、声をかけるなんていう無粋な真似はせずに見送ると、やがて霞は通路の先へ───はいかず、中庭に下りてきた。

 ハテ?と思っていると、俺が座っているのとは別の立ち木に腰掛けて、模擬戦を肴に酒を呑み始めるじゃないか。

 

(……なるほど、よーするにいい酒と肴があったからにんまりしていたと)

 

 静かに飲みたい日の他に、激しく飲みたい日もあるようだ。

 楽しんでるみたいだし、やっぱり声はかけなくていいな。

 俺のほうも、今はちょっと女性に傍に居られたくない理由もあるし。

 全力の全力、思いつく限りの悪あがきをした達成感や興奮、生命の危機を味わったからだろうか……アレが大変元気になってらっしゃいまして。胴着の多少のたるみで誤魔化してはいるものの、気づかれたらいろいろとマズイ。

 ああもう、錬氣しているうちにさっさと治まってくれればよかったのに……!

 なにを考えてらっしゃるのか、このある種の独立意思はぁああ……! こんな時こそ冷静になりましょうと構えたって治まりゃしないよもう……!

 

「………」

 

 いやいや冷静に冷静に。

 なにか楽しいことを考えよう。これ以上興奮してはいけませんよ北郷一刀。

 楽しいこと……あ、夢のことを考える~とかでもいいよな。

 そういえば最近見た夢は───

 

「………」

 

 ───思い出した途端に、いうことを聞かなかったマイサンが治まりを見せた。

 ありがとう貂蝉、キミのことは必要な時には思い出す程度に忘れない。

 いや待て。それは“ありがとう”ってレベルじゃない。

 けど人はこうして知恵をつけていくのですねと、妙な知識を得たつもりになって空を仰いだ。大変な時は貂蝉を思い出そう。いろいろ間違っている気がするが、それはきっと支柱の道に繋がっている。そう勝手に思っておくことにして、呼ぶんじゃなく自分から霞が座る木の下へと歩いた。

 今日もいい天気。ただ座っているだけなのももったいない。そう思ったら、人の戦いを見ながら酒を呑むのも悪くないと思った。

 

 ……そう。

 思っただけだったんだが……。

 

「あのー……霞さん? どうして俺、木刀構えさせられてるのカナ」

 

 訊ねる俺の目の先には、偃月刀を構える霞さん。

 一応重いだけのレプリカだが、知っての通りこの時代の猛者な皆さまの手にかかれば、どんな鈍器だって凶悪な武器です。

 

「んー? なんでって、そらウチと仕合うために決まっとるやん」

 

 あと、鈍器でも速度さえ乗せれば案外なんでも斬ってみせるのが、この世界の猛将というものです。

 ……あれ? 今度こそ死ぬ?

 

「いやいやいやいや酒は!? さっきの上機嫌は何処に行った!?」

「上機嫌やからこうして得物構えとるんや~ん♪ ほら、なっ? はよやろ一刀っ!」

「う、うううっ……! 乳酸が勝手にエネルギーになる体が欲しいよぅ!」

 

 “どういうわけか”もなにもなく、戦いを見て酒を呑んだらじっとしていられなくなった霞に誘われるまま、いつの間にか霞と向かい合っていた。

 そして叫ぶ言葉は人体への挑戦と言ってもいいようなワケのわからない言葉であり、一言でいうなら“何故こんな事に……俺は間違っていたのか?”的ななにかな状況だった。

 誰か僕に乳酸をエネルギーに変えるクエン酸をください。

 

「やるからには全力で……! 覚悟、完了!!」

「よっしゃいくで一刀ぉっ!」

「来いっ! 霞ぁああっ!!」

 

 しかしながら一度覚悟を決めて構えてしまえば引くことはせず、地面を蹴ってぶつかり合う。錬氣が済んでいたこともあり、正面から全力で。

 筋肉は脱力させながら、氣で体を動かすなんて無茶を試したりもして居合いの精度や加速の精度の向上を図ってみるも、いつかじいちゃんが言っていたのと同じだ。

 秒とかからず納刀することは難しく、いくら手を鞘代わりにしたところで“戻す動作”は隙になる。ただでさえ相手は武人なんだから、自ら隙を作る動作は命取りってやつだった。

 ならば納刀も加速させてととことん工夫を重ねて、これでもかというほど打ち合った。

 

「おぉおお! 一刀それなにっ!? なになにっ!? 木刀光っとるよ!?」

「ただの小細工だ!」

 

 氣を二種類持っているだけで、武人ではない自分が出来る限りを尽くす。思いつく限りをとにかく詰め込むという意味で、総じて小細工と呼んではいるものの、あんまりいい印象じゃないよなぁこの呼び方。

 そんなことを小さく考えながら、春蘭にもやったように加速居合いや錬氣集中をしながら、木刀での攻防を続ける。威力は増すものの、やったあとに隙だらけになりすぎるのはどうかなぁ。

 轟音を高鳴らせ、守りの構えを取っていた霞を、その守りごと体勢を崩してやることに成功───したまではよかったが、木刀に全ての氣を込めてしまっているために、加速によって振り切られた木刀はそう簡単には戻せない。

 そうこうともたついているうちに霞が先に体勢を戻してしまい、あっさりと敗北を味わってしまう。……上手くいかないものである。

 

「うわー……まさか守りが弾かれるとは思わんかったわ……。威力だけは一級やな」

「……“威力だけ”はなぁ~……」

 

 立っている霞を、倒れながら見上げる俺の図。

 言われるまでもなくわかってはいるものの、これがまた上手くいかない。

 木刀が当たった瞬間に氣を戻してみる? いや、それはなかなか難しい。

 じゃあ木刀に込める氣をもうちょっと抑えるとか……いやいや、そうすると加速の流れが上手くいかない。

 せっかく編み出してみても持ち腐れじゃあ意味が無いよな、うーん……。

 

「ん、よしっ!」

 

 跳ね起きて早速構える。

 木刀に蓄積された氣を体に戻して、加速の工程から木刀への蓄積までを一気にやってみてからハイここで氣を戻「ウギャワオエァアアァァァーッ!?」───そうとした途端、関節に物凄い負担がかかって絶叫。 

 考えてみれば散々な加速で存分に早くなった肩から先だ。それを無理に戻そうとすれば、いつか華雄にやってみせた疲れを蓄積させるアレの負担が一気に襲いかかるようなもので……!

 

「っ……! ~っ……っ……っ……!!」

 

 あ、だめ、痛すぎて言葉に出来ない。

 A案、“氣を無理矢理戻して体勢を立て直す”は却下で。

 

「あほぉっ! いきなりなにやっとんねん! なにやりたかったんか知らんけど、体壊すようなことしとるんやったら承知せぇへんで!?」

「~っ……ふぐっ……い、いやっ……ぐすっ……! 今のはちょっとした失敗で……」

 

 お……おぉお~……痛かったぁあ~……!! 腕もげるかと思った……! あまりの痛さに素で涙が出たよ……!

 と、腕をさすりながら本気で思う。

 ああでも、腕は痛かったけど本気で心配してくれる霞にありがとうを。

 まるで自分のことみたいに怒ってくれた。

 

「ふっ……ふっ……ふぅうう……!!」

 

 徐々に引く痛みに安堵して、屈めていた体を起こす。

 そうしてからまた木刀を構えると、もういっそ戻そうとしないで回転してみたらどうかというB案を実行。

 

「振り切る速度に逆らわず、そのまま回転!」

 

 それはあたかも“某・龍の閃き”の二撃目が如く。

 加速した体を、木刀の遠心力に乗せてギュルリと回転! ……隙だらけだった。

 痛みもなく勢いを殺せたけど、これじゃあなぁ。霞の時みたいに相手が受け止めてくれたなら弾けるだろうけど、避けられたら死になさいって言っているようなもんだ。

 確実に当たる状況じゃなければ是非とも出したくない……自分でやっておきながら、なんとも穴だらけな技だった。

 そんな俺を見て首を傾げた霞が、酒を杯に注ぎながら訊ねてくる。

 

「なぁ一刀? さっきから何しとるん?」

「え? いやほら、霞も言ったろ? “威力だけは”って。だからさ、なんとか威力だけじゃなくて隙も無くせないかなって」

 

 言いながらあーでもないこうでもないと構えから氣の移動に至るまで、いろいろと工夫してみる。木刀に行った氣を、今度はそこから足の爪先に至るまで加速させて戻してみるとか? そうすれば回転してから正面向く時間も短縮出来たりとか……いやいやむしろ回転しながら軽く跳躍して……いや待て、その場合だと相手の武器を弾いても追撃出来ない。

 むむむ、これは難しい。

 あ、じゃあ弾いて戻せない木刀の代わりに蹴りを放ってみるとか。

 丁度いい遠心力がついてるから、威力にも期待できるかも。体勢がちょっとアレだけど。

 ……躱されたら素直に倒れるだけだろうな。

 だったらもう木刀を振り切るのと一緒に剣閃でも出してしまおうか。

 そしたら弾くのと一緒に相手を吹き飛ばせて、で、俺は氣が枯渇して動けなくなると。

 ……ダメだこれ。

 

「うー……こりゃ難しい。頭の中じゃあもっと上手くいく筈だったんだけどな」

 

 反動のこととか考えなさすぎだった。

 まさか泣くほど痛い結果になるとは……。

 

「ん……霞、今日これから用事とかあるか?」

「ウチ? んや、昼までで終わった。やからこうして酒持って肴探しててん」

「あ、なるほど」

 

 仕事があろうがそこに酒があれば手を出しそう、と考えてしまったのは黙っておこう。

 けどそっか、用事がないなら……。

 

「じゃあこれから鍛錬に付き合ってもらっていいか? いろいろと工夫したいものがいっぱいあってさ」

「おー! やるやるっ! 一刀と戦っとると退屈せぇへんもん! ま、贅沢ゆーたらもちっと強なってほしいけど」

「ははっ、だから、これからするのが“もちっと強くなるため”の鍛錬だろ?」

「おお、そういえばそやったな。じゃ、やろやろー!」

 

 言うや、なみなみと杯に注いだ酒をぐいっと呷って、下ろす動作と一緒に流れるように杯を投げ……たら割れるので、いそいそと木の幹に置いてから改めて構えた。……あ、ちょっと顔赤くなってる。酒の所為だけじゃないよな、うん。

 

「いいか?」

「ふふーん、いつでも───やっ!!」

 

 にっこり笑顔で言うや、地を蹴り飛龍偃月刀を振るってくる。

 範囲は“下がっても直撃”───なら詰める!

 思考も半端に決断して前へと踏み出す。同時に下から上へと弧を描く木刀が飛龍偃月刀の軌道を逸らし、えっ、と戸惑う霞の顔が勢いのままに眼前に。

 ぶつかるわけにもいかず、俺はそのまま霞を抱き止めると仕切り直しを要求した。

 霞自身、こうも軽く逸らされるなんて思っていなかったんだろう。ぽかーんとしつつもどこか赤らめた表情で、仕切り直しのために距離をとっていた。

 俺もちゃんとしないと。

 勢いを付けすぎて、逸らしたはいいけど次に繋ぐ手を思い付けなかった。

 注意することをもう一度纏めて、仕切り直そう。

 注意すること、気になったことは───

 

(…………いい匂いで、柔らかかった)

 

 ───じゃなくて! ああもう落ち着け俺ぇえっ! 煩悩退散っ!

 どーしてこういうのって我慢するって決めた途端に気になりまくるんだよもぉおおっ!!

 “でもちょっとくらいなら”禁止! 今は鍛錬に集中だ!

 

「しぃっ!」

「ほっ!」

 

 キッと睨み、地面を蹴り弾いて疾駆。

 霞は“いつでも”を謳った通り、いくぞとも言わずに襲いかかっても完全に反応してみせた。

 しかも俺がさっきやったように、こちらの撃の軌道を逸らしてくる。

 ならばと木刀が逸らされた方向───霞の左側へと自ら跳ぶことで、絡め取られかけた木刀を引っ込めることに成功する。───も、そんな俺を横目に見た霞は笑い、木刀を引っ込めた俺へとそのままの体勢で横突きを仕掛けてくる。

 着地したばかり、引っ込めたばかりと、状況的に言えば悪条件しか揃っていないこの状況で、左手に氣を全力で集中。腹を打とうとする刃引きされたソレに手を添えることで無理矢理逸らし、“なんとか逸らせた……!”と確認した時にはl一瞬引っ込められた偃月刀がもう一度俺へと襲いかかってきていた。

 

(だから速いって!)

 

 それをもう一度左手で弾き、弾き所が悪かったために多少切れた手を庇うこともせずに後ろへ低く跳躍。即座に追ってくる霞を前に、着地するより先に左手から全身に逃がした氣でもって応戦開始。

 突きを払い、横薙ぎを後方へ跳ぶことで避け、繰り出した突きが逸らされ、踏み込みと同時に振るわれた大振りの足払いを跳躍で躱す。跳躍からの落下と同時に仕掛けた、体重を乗せた振り下ろしが斜に構えられた飛龍偃月刀の柄を滑り、ならば武器ごと押し退けようと着地と同時に込めた力を利用され、位置を入れ替えられた。

 たたらを踏みかけた俺へと容赦無く振るわれるは剛撃。それを地面に向けて低く跳ぶことで避け───なんて格好よくいわず、むしろ逃げ、その過程で地面に手を付き思い切り氣を弾けさせることで跳び、両の足で着地してからは再び疾駆と衝突。

 

(錬氣も慣れた。体も大分動くようになったし、柔らかくなった。足りないのは氣の動かし方だ……!)

 

 そうしなければ大怪我を負うって状況を利用しての集中力は、自分で言うのもなんだけど相当なものだった。

 だからこそここで、出来るだけイメージを掴んでおく。

 願った場所に瞬時に氣を送る。

 ソレくらいの“小細工”が出来ないと、いつまで経っても最後は結局負けてしまう。

 だから出来る努力は出来るうちに───!!

 

「くっ……おぉおおおおおおっ!!」

 

 回転を上げる。

 危なっかしく攻撃を避けたり逸らしたりを続けると、霞もどんどんと面白がって回転を上げていく。俺がどこまでいけるのかを楽しんでいるのだろう。

 それは俺も知りたいところだから望むところ……なんだが、つっ……次に行くのが早っ……!? ちょっ……待っ……! ───否! 生ける……もとい、行けるところまで行く!!

 

「ふんぎぃっ!! ~……っつぁあ~っ……!!」

「おーっ!? これも弾くかっ! ならこれで───どないやっ!」

 

 危ないところを寸でで弾く……と言えば格好はいいが、こんなもの、夢中で振るった柄がたまたま弾いてくれただけだ。

 次が来る……いや、もう来てる! 弾く……どうやって!? 避ける……間に合わない! 後ろにっ! いやっ! 前にっ! けどっ!

 

(自分を信じるなら───前!!)

 

 一歩を踏み出す。

 意思っていう信号が間に合ったのはそれだけ。

 木刀を構えるって反応は間に合わず、俺は振るわれる偃月刀に自ら跳び込んだ。

 刃引きされてあるとはいえ、この人達ってばそんな鈍器でもモノ切ってくるから、刃の部分に当たるのは本当にまずいのだ。

 だから、それだけだ。

 斬られることは確実に回避できたが───……あー、なんだ、ほら。空が蒼かった。打ったのがボールだったらきっとホームランだったね。

 感想はほんとそれだけ。

 大地に受け止められるまでに今回のことを軽く纏めようと試みたが、強い衝撃と「げぺうっ!?」というヘンテコな悲鳴で中断された。その“ヘンテコ”の部分が自分の声だと気づいたのは、頭を抱えて転がり回る自分が、痛みから解放されたあとだった。

 すぐに慌てた様子で霞が駆け寄ってくれたけど、さすがに頭から落下はまずく、しばらく立てないでいた

 霞さん曰く、「あんまりにもついてくるもんやから、最後加減忘れた……」だそうだ。

 この時代の人は、夢中になったら人をホームランできるらしい。

 そりゃあ結構空飛ばされてるけどさ……勘弁してほしかった。




一度タイミングを逃しちゃうと、言えなくなっちゃうことってありますね。
そこで踏み出せるか出せないかなら、立ち上がる時は今なのだ的精神で。

なのでいまさらですが、虚和さん、両生金魚さん、真夜蒼さん、誤字報告ありがとうございました。
いえ、これでもチェックはしてるんですよ?
毎度毎度、書くよりもチェックに時間を取られてるんじゃってくらいに。
しかしどうにも上手くいかず、取りこぼしがあるようで。
いっつも不思議な文章にお付き合いいただきありがとうございます。
かつて誤字無しを一話だけでも完成させよう……! と意気込みましたが、とうとう一度も成功しなかった経験があるだけに、もっとこう……上手くできないものかなぁ。


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