真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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64:魏~三国連合/宴の前の騒がしさ①

108/料理は愛情。スパイスには空腹をどうぞ

 

 花火でも打ち上げたい気分の朝が来た。

 今日はそう、三国が集まり親睦を深める日、三国の会合! ……ではない。

 何故ってそんな、辿り着いた他国のみんなをいきなり祭りに招くなんて無茶だ。疲れた人には休息を。これ大事。それ以前に、大声で祭りを始めようと叫んではみたものの、用意はまだまだ完全じゃない。主に料理とか料理とか料理とか。

 そもそも他国の客はまだだ~れも到着していないのだ。

 なので、俺は凪と思春、警備隊のみんなとともに城門前に立ち、同盟国の到着を待っていた。国境を越えたことは、前に早馬で知らされている。大袈裟だとは思うだろうが、こういうのは迎える気持ちが大切だ。だからこそ通ったら報せてほしいと書を送り、その通りにしてもらった。

 今度暇が出来たら、国境の兵にアイスでもご馳走しよう。

 

「報せによれば、こっちに向かってるのは季衣と流琉、祭さんに紫苑に───朱里と雛里だったよな」

 

 言葉に合わせ、確認するように指折りで数える。

 どうして各国の王や将、みんな一緒の到着じゃないのかを考えたが、恐らくどころか確実に料理のことだろう。流琉が来てくれるだけで随分救われるし、紫苑は一児の母だから料理にも期待出来そうだ。朱里と雛里とは一緒に料理(饅頭だけど)を作ったこともあったし期待が持てる。となると祭さんは……ど、どうなんだろ? なんとなく豪快な料理を作ってくれそうな予感はするものの……うーん。

 ああいやいや、せっかく来てくれるっていうんだし、そもそも呉が安心して送ってくれる人物! 腕に自信があるに違いない!

 

(酒のつまみを作らせたら天下無双とか! ……本気でそうなんじゃないかって思ってしまった)

 

 あれ? それってもしかしなくても、紫苑も同じなんじゃあ……?

 

(……料理が酒のつまみだらけになったらどうしよ)

 

 これからのことを考えて、少し頭を痛めた。

 そうしている内に、遠くの景色に見える動く影。

 俺が凪や思春に「あれ、かな」と確認を求めると、「恐らくは」と返してくれる。

 いよいよ宴が始まる。

 料理方面がひどい有様だから、料理が出来る人が戻ってくれるのはある意味、英雄の降臨とも受け取れた。悪じゃなくヒーローの登場を心待ちにする子供達の気持ちがよくわかる。調子がいいよね、人間。

 一応街の料理屋に話を通してあるから、飛び抜けて美味しい料理ではなくても用意だけは出来る。問題なのはそれを華琳が認めるかどうかなわけで。だからこそ華琳が認める料理の腕を持つ者……流琉が居ないことは不安以外のなにものでもなかったのだ。

 

 各国の王や将に出す料理を頼むなんて話をした時の、料理店の面々の顔を俺はきっと忘れない。お偉いさんに出す料理ってだけでも緊張するっていうのに、そこにきて自国の知る人ぞ知る、味にうるさい曹孟徳さまが食べる料理を作るというのだ。下手を打てば店が潰れかねない。

 なので余計な一言かもしれないが、言葉を贈らせてもらった。

 “とにかくやたらと食べる人が何人か居るから、味付けはしっかりしながらも量を多めにしてほしい”と。相手にとっては質より量だって言われた気分になるだろうと、怒られること覚悟で言ったものの……誰もが一様に安堵の息を吐いていたのは記憶に新しい。むしろこちらが溜め息を吐いた。

 華琳の料理へのうるささも、もう少しなんとかならないかなぁ……と、まあ、それはそれとして。

 

「人を迎えるのって妙にドキドキするな……」

「わかる気もします」

 

 俺の言葉に返事をする凪は、どこか慣れた風だった。

 そりゃそうか、俺なんかよりもこういうのには慣れているはずだ。俺が居ない時なんかは、会合の度に各国の王や将をこうして迎えていたのだろうから。

 俺も早く慣れないといけないよな。よ、よし、どーんと構えてどーんと迎えよう。

 迎える時はなんて言おうか? え、ぇえええ遠路はるばるようこそイラ、イラララ……! ライラァーッ!! ……じゃなくて! 慣れよう!? 想像だけでテンパるなよ俺!

 

「……隊長。とりあえず肩の力を抜いてください」

「うぐっ……悪い……」

 

 傍から見ても挙動不審だったようで、凪が少し困った顔で言う。

 小さく謝ると、自分も最初はそうでしたと言ってくれて、ほんの少しだけ救われた気分になった。単純だなぁ俺……。

 けどそうだな、最初から完璧にこなすなんて……華琳なら平気でやりそうだ。

 こんな気持ちをわかってくれる王が居るとしたら、それはきっと桃香なんだろう。だって雪蓮の場合、全部冥琳に任せて酒飲むかどっかで遊んでそうだし。

 ……その遊びが、民との交流だってわかった時は随分と感心したもんだけど……どっちにしろ仕事サボってる事実は変わらないんだよな。ごめんなさい、人のこと言う前に、俺もサボらないよう努めます。

 

「ところで……待つのはいいんだけど、相手がこっちに気づいてからここまで辿り着く間の空気って、こう……なんだろ、えーと……ああ、うん。少しだけ気恥ずかしいよな」

「……よくわかります」

 

 口にしてみた言葉に、しみじみと頷く凪。

 「だよな」、なんて俺も頷いて、遠くからこちらへ向かう集団を待った。

 ええっと、まずはなんて言おうか。久しぶり? ようこそ? いやそれ以前に季衣あたりが一人で突っ込んできそうな気がする。ただいまーとか言って。

 もちろんそうしてきたら、こちらも迎えるだけなわけで……うーん。とか思っていると、予想通りに一人だけ砂塵を巻き上げ突撃してきた! 手を振って、春蘭の話では百里を軽く走るその足でズドドドドと!

 

「なんだかとっても嫌な予感が沸き出てきたんだけど……」

 

 このままだとあの勢いのままに抱きつかれて、耐え切れずに宙を舞って地面をバキベキゴロゴロズシャーと転がりすべることに……い、いやいや、まさかそんな、あのまま抱き付いてきたりとか……しないよね?

 そんな不安をよそに、その元気な姿が確認出来るほどに近付いてきた季衣は、より一層速度を上げ───“俺のみ”をしっかりと目で捉えて走ってくる。

 

(今こそ好機! 全軍討って出よ!)

(も、孟徳さ───死ぬよ!!)

 

 せめて防御体勢で行こう!? こっちからも突撃したら吹っ飛ばされるの俺だけだよ! でも避けたりしたら、せっかく元気に戻ってきた季衣を悲しませることになりかねない。こんなこと思う時点で俺ってやつは馬鹿なのだろう。

 ああもう馬鹿で結構! 大事な奴らが悲しそうにするくらいなら、一時の痛みがなんだ! どーんと構えてどーんと迎えるって決めたじゃないか!

 

「覚悟、完了───!!」

 

 胸をノックして大地をしっかりと踏みしめて構える!

 途端に凪と思春がささっと俺から離れて───ってあれちょっと!? それってあんまりなんじゃ───なんて思った直後に、衝突事故でも起こしたかのような衝撃が俺を襲った。どーんどころじゃない。“ドヴォッシャゲファア!!”って感じ。あ、ゲファアは俺の喉から勝手に出た悲鳴です。

 

(アア……空が青い……)

 

 見えたのは蒼空。

 それと、二本のエビ春巻……もとい、季衣の髪だった。

 

「くぅあ……っ!」

 

 しかしこのまま倒れては、客人を迎えるというのに砂まみれ。

 なんとか無理矢理体を捻って体勢を変えると、強引に地に足をつけて踏み止まった。

 

「おー、兄ちゃんすごいっ」

「げほっ……! す、凄さを見せなきゃっ……コケるような体当たりなんて……うぐっ……や、やめような、季衣……!」

 

 そう言いながら、胸に抱いた少女の頭を撫でるが、その時点で咳き込んだ。

 腹への衝撃が強すぎた。

 ううっ……少し酸っぱいものが込み上げてきた……。つか、いたっ……痛いっ……! ほんと痛い……!

 

「ともあれ、おかえりだな、季衣」

「えへへー、うんっ、ただいま兄ちゃんっ」

 

 元気に返す季衣をもう一度撫でて、こうなることが読めていたとばかりに道を空けていた警備隊に元の位置に戻ってと頼んで、それから自分も戻る。

 途端に思春に顔色が悪いと言われたが……腹にあんな突撃されれば悪くもなる。

 そんなやりとりをしている内に遠くにあった影も鮮明になり、懐かしい面々が到着を果たした。

 

「兄さま、ただいま帰りました」

「おかえり、流琉。ご苦労さま」

 

 まずは案内として歩く流琉に言葉を送り、すぐ後ろの祭さんに視線を移す。

 目が合うや穏やかに笑み、こちらへ歩み寄ってきた。……馬からは既に下りていて、警備隊が馬を預かって歩いてゆくのを見送った。

 同時に、季衣と流琉が春蘭と秋蘭に到着を報告してくると走っていくのを、これまた見送る。元気だ。

 

「おう北郷、久しぶりじゃのう」

「祭さんっ、久しぶりっ!」

 

 元気に挨拶をくれる祭さんに俺も笑顔で応えると、穏やかだった笑みがニカリといった笑みに変わり、バシバシと背中を叩かれゲッホゴホッ!? つ、強ッ! 相変わらず容赦無い!

 背中を庇いながら祭さんと向き合うようにして、痛みが治まるのを少し待った。祭さんは「なんじゃだらしのない」なんて言ってるけど、あんなにバシバシ叩かれて平気なのがおかしいんだと思いたい。

 

「うふふっ、相変わらずのようでなによりですね」

「けほっ……はは、紫苑こそ。長旅お疲れ様」

 

 祭さんの横で、紫苑が俺を見て頬に手を当てて微笑む。

 俺もそれに笑顔で返すと、その後ろに居る朱里と雛里と、将ではない人達に目を向ける。というか、誰もが見た顔だったから見ずにはいられなかった。なにせ、呉でも蜀でもお世話になった料理人の面々だったのだ。

 どうやら予想通りに料理が上手い人を送ってくれたようで、どたばたしてた最近を思うと心が救われる錯覚さえ覚える。……覚えるけど、大丈夫なんだろうか、自国の方は。

 

「はわわわわわかかかっかかか一刀しゃん! ほほほ本日もお日柄よくーっ!?」

「あわわ……わざわざのおでむかえ、たた、たたたたいへんありがたく……!」

「……ええと、とりあえず落ち着こうな、朱里、雛里」

 

 なにをテンパっておられるのか、蜀が誇る二大軍師様に顔を赤くしながらの挨拶をされた。なのに、落ち着きなさいとばかりに頭を撫でるとピタリと停止。……慌てた様子は一気に吹き飛び、ただただホヤーとした嬉しそうな顔がそこにあった。

 ……なんだろうか。俺の手には沈静作用でもあるのか?

 や、それは置いておくとしても、この二人まで先に来ちゃって本当に大丈夫なのか? ダメだって言うつもりはないけど、なにせ魏以上にドタバタ率の多い国だ。国から国へと移動するだけでもひと悶着もふた悶着もありそうなんだが……。

 そんな切ない気持ち(?)を伝えるかどうかを頭の中でなんとか纏めようとする俺へと、祭さんがやっぱりニヤリと……どこか嬉しそうな顔で見て言う。

 

「ほお? 随分と氣が鋭くなっておるのぅ。変わらず鍛錬は続けておるようじゃな」

 

 いや、顔どころか足から頭までじろじろと見られた。

 で、見たら見たでバシムバシムとまた背中を───って、だから痛っ! 痛いっ!

 

「いっ、いろいろとっ、揉めっ、事はっ、あったけっ、どっ! 一応……ていうか返事くらい普通にさせてって!」

「頑丈になっているかを調べておるんじゃろうが。ふむふむ……氣は鋭くはなっておるが、体の方はそうでもないのう」

「え? ……祭さんまで」

 

 祭さんに言われた言葉に少し焦りを感じる。

 なにせ、先日街角で偶然出会った、町人の具合を見ていた華佗にも同じことを言われたからだ。“鍛錬しているわりに、氣が研ぎ澄まされるばかりで筋力はそう変わっていない”って。ぜえぜえ言いながら鍛錬している身としては、相当にショックだった。

 筋力は鍛えても無駄だから氣だけでなんとかしろって言われたようなもんだよ、これ。

 

「華佗にも同じこと言われたんだけど……おかしいなぁ」

「呉に居た頃と同じ鍛錬をしているのか? ……おう興覇、お主の目から見てどうじゃ」

「呉に居た頃よりも鍛錬の質自体は上がっています。が、瞬発力の向上は見られるものの、それが筋力向上によるものかと言われれば否です」

「あの……思春? 恥ずかしいから即答で人の個人情報を喋らないで……」

 

 祭さんの質問に目を伏せながらペラペラと喋る思春にツッコミ。

 隣で凪も止めようとしてくれていたんだが、止める前に言い切ってしまった。

 神様……この世界に、俺のプライベートなんてものは存在しないのでしょうか。

 そりゃ、自分の時間を軽く潰すくらいで誰かが笑ってくれるならとは思うけどさ。

 

「弓の方はどう? あれから上達したのかしら」

「ヴッ……」

 

 とほーと溜め息を吐きそうになったところへと、紫苑からの追い討ちが突き刺さった。

 そうなのだ。

 氣ばかりが上達して、他の技術のなんと向上せぬことよってくらいに、俺ってやつは技術的ななにかが成長しなかった。

 いや、もちろん蜀に居た頃よりは上達してるぞ? なんだかんだで秋蘭は教えてくれるし、俺だって時間が取れれば練習する。……そうすれば必ず上達するなら、まだ救いはあったんだよなぁ。

 才能問題にするのはまだまだ早いだろうが、こうまで上達しないとヘコムよ……。

 

「なんじゃ、まだもたもたしておったのか。ならば、その多少の上達を儂の技で塗り替えてくれよう」

「それは見逃せないわね。わたくしも弓術ならば譲れないものを持っているから」

「んん? なんじゃ紫苑、儂と張り合おうという気か」

「……あれ?」

 

 弓のことになるや、急速に場の空気が低下していった。

 これから楽しい準備期間が待っているというのに、何故こんなことに───とか考えてる暇があったら止めよう!

 

「あぁほら二人とも! 今は俺の弓のことよりも祭りの準備をさ! ほらっ!」

「……というかじゃな、北郷。招かれる筈の儂らが何故に用意をすることになったんじゃ」

「え? 何故にって。今回の会合ってそういうものなんじゃないのか? 祭りに招かれるっていうよりは、みんなで祭りをするって……」

 

 てっきりそうだと思ってたから、招かれる人物にも疑問を持たずにこうして待ってた。

 だからそのー……え? ち、違うのか!? 違うなら相当に恥ずかしいんだが!?

 

「もう……祭さん? そんなに一刀さんを苛めては可哀相よ」

「はっはっは、北郷、そう慌てるでない。準備のことについては話を聞いておる」

「へ……?」

「ちょいと突けば不安になるところも変わらずか。もっとうだうだと悩まずにズバっと答えられるようになれ。それが男子というものじゃろう」

「………」

 

 いや……だってそんな、来訪したお客さんにいきなりからかわれるだなんて、誰が予測するのさ。

 どうやらからかわれたらしい俺は、少しだけそんなことを考えながら、「あれはあのお方の癖のようなものだ」と、気にするなとばかりに肩を叩いてくれる思春と、「案内を続けましょう」と、何処か遠い目で俺を促してくれる凪とともに、歩き出した。

 そんな凪の顔を見たら……凪も散々からかわれたりしたんだろうなと、自然に理解してしまった。思春も祭さんには振り回された経験があるらしく、ここに……奇妙な一体感が生まれ、俺と凪と思春は同時に溜め息を吐いた。

 

「ん、よしっ」

 

 しかしながらいつまでもそのままというわけにもいかない。

 気を取り直して、話しながら城までを案内した。

 むしろ門の前で馬から下りること自体が想定外だった。馬を連れて行った警備隊の連中だって困惑していたくらいだし。街の門から城までは結構あるのに……それでも他国のみんなは嫌な顔ひとつせず、料理のことについてを元気に語ってくれた。……主に俺に。

 

「隊長は……他国で随分と人脈を広げていたのですね」

「学校の知識提供だけじゃなくて、他のことに関しての知識提供やボランティアもしてたから」

 

 ひっきりなしに話を振られる俺を、妙に感心した様子の凪にそう返す。

 ボランティアで多かったものの中には料理店の手伝いなんてものもあり、そうやって出来た人脈が今こうやって役に立つ日が来ている。そんなことに、顔を小さく緩めだ。

 

「なるほど、呉では策殿に引っ張られてではあったが、蜀では自ら走っておったか」

「ええ、ふふっ……噂とはまるで違うから、別人かと思ったくらいよ」

「悩んでいる時の顔なんてとくに素敵なものでした」

「う、うん……だよね、朱里ちゃん」

「? 朱里に雛里、なんか言った?」

「はわっ!? いぃいいえいえなんでもないでしゅっ!」

「な、なんでもない、ですぅ……!」

「……?」

 

 悩みがどうとか聞こえた気がしたんだが……少し早口っぽくて聞き取れなかった。

 首を軽く傾げていると、隣を歩く祭さんが笑いながら言う。

 

「かっかっか、そうした行動が自ずと出来るならば、策殿に振り回された日々もそう無駄ではなかったか」

「いや祭さん? あれが無駄だったら俺、なんのために呉に行ったかわからないよ」

 

 こういった話がしたかったから門前で降りるなんてことをしたのだろうか。

 祭さんと紫苑、朱里と雛里は笑顔のままに他国での俺のことを語り、凪がそんな話に夢中になり、思春が二人で居た時の俺のことを、祭さんに問われるままに喋って───ってちょっと待て!? なんで俺の話になってるんだ!?

 

「い、今は会合の話をするべきでしょ! 俺の話はいいから、もっとこれからの準備のことを話そうって!」

「なんじゃつまらん。城に着くまでは好きに語ってもいいじゃろが」

「拗ねた顔で可愛く言ってもダメっ! 凪もそんな、俺のことを教えられたからって教え返さなくていいから……!」

「い、いえ自分はその……」

「うふふ、そんなに照れなくてもいいのに」

「街の中で自分のことを笑いながら話されれば誰だって照れるよ!!」

 

 いつかのように紫苑に頭を撫でられ、驚きながらも返す。

 気恥ずかしさで妙に声が大きくなったときには時既に遅く、他国の客を一目見ようと出てきた町人達の前で、客に向かって大声を張り上げてしまった俺の完成だ。……なのに紫苑に頭を撫でられ続け、祭さんには笑いながら背中をバシーンと叩かれ、朱里と雛里に励まされ、凪と思春には小さな溜め息を吐かれる俺を見て、町人たちは“なんだいつものことか”って感じに何事もなかったように、他国のみんなを迎える言葉を元気に放っていた。

 ……俺の魏での扱いってこんなもんですか? ……こんなもんでしょうね。考えてみると、いつもとあまり変わらなかった。

 魏での騒ぎでもほぼ巻き込まれて騒いでの連続だ、そりゃあ町人だって慣れる。

 加えて他国でも手伝いやらなにやらをしていたって話はみんな知っているのだ。他国でも相変わらずだったのだと、逆に暖かな目で見送られてしまった。

 ……これ、喜んでいいのかなぁ……。


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