真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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64:魏~三国連合/宴の前の騒がしさ②

 そうこうしている内に城に着き、迎える王の代理として春蘭が祭さんや紫苑や料理人達を迎え、それが済めばひたすらに準備。

 準備といっても不安要素は料理だけで、後のことはほぼ滞り無く進んでいるはずだ。しかしながらやはり到着したばかりの人に、すぐに手伝ってもらうわけにはと遠慮した……のだが、むしろ来てくれたみんなは準備をしたくてうずうずしているようで、俺の心配に向けてあっさりと笑顔で返して準備を開始した。

 

「料理人って逞しいよなぁ……」

「はい。ですがそれも当然です。逞しくなければ、何人もの客を捌けません」

「ああ、なるほど。それは確かに逞しくないと無理だ」

 

 穏やかに笑みながら厨房の様子を眺める凪と、小さく頷いてから凪と同様に厨房の様子を見守る思春。俺も二人に(なら)って厨房の様子を見ることにした。

 そうしてじっくり眺めていると、料理人に混ざって料理をする祭さんと紫苑は、なんというか意外なくらい料理が上手かった。豪快ながらも繊細な祭さんと、穏やかさそのままに、けれど手際よく料理を作る紫苑。

 祭さんはポカーンと戸惑ったまま硬直する俺を見て、してやったりといった顔でにんまりと笑い、紫苑は普段通りの笑みでそのまま調理を続けた。

 出来上がってゆく料理は、どれも長く保存が出来るものばかりだ。

 保存───そう、保存。

 そっか、保存できるなら作ってもいいわけだし……寒剤とかも氷室に保存してあるから、そこを上手く利用してデザートでも多めに作っておこうか。朱里や雛里も、料理よりも菓子作りを担当しているみたいだし。

 

「よしっ、凪、思春、ちょっと手伝ってもらっていいか? あ、出来れば華雄も呼んで」

「手伝い、ですか。客人も迎えたわけですし、手は空いてますが」

「何をする気だ」

「うん。せめて一人一個ずつくらいは、デザートにプリンでも作ってみようかなって」

「……あれか」

「全員分となると、中々に大変なのでは?」

「大事なのは迎える心! お持て成しの心なんだから、なんとかなるって」

 

 そうなると牛乳を手に入れなきゃだから、足りない分は取りにいかなきゃいけない。それは少し面倒かなと、思った瞬間に面倒に打ち勝てるこの高揚感。やっぱり準備期間中のこのワクワクには、祭り中では味わえない何かがある。

 一人では面倒なだけかもしれないのに、みんなで何か一つのためにと走り始めると、これが案外止まりどころが見つからない。美羽と一緒に二胡と歌の練習もしなくちゃいけないのに、今はともかく動き回りたい心が強く、不安要素なんてあっさりと押し退け、気づけば俺は走り出していた。

 華琳がプリンやアイスを作るようになってからは、以前の邑から定期的に牛乳やらを仕入れるようになったため、牛乳はまだ蓄えてある。

 新鮮ではないものの、それは仕方の無いことだ。

 で、もちろんあの人数分作るとなれば、蓄えてあるものでは足りないと予想できる。

 だから、足りない分は取りにいかなきゃいけない。

 

「よし、あそこまでの距離と時間とを考えると……」

 

 行動は早かった。

 やってきてくれた他国のみんなが保存のきく料理を作る中、俺はあちこちに手配して材料を入手。華琳が既に独自のルートとばかりに仕入れを繰り返していてくれたお陰で、手配についてはあっさりと通り、現在は蓄えてあった材料を使ってのデザート作りが始まっていた。

 周囲からは温かそうなよい香りが漂ってくる中で、こちらは朱里と雛里とともにひたすらに甘いもの作りだ。……なんか場違いな気がしてならないものの、これはこれで大事だ。

 作るものはアイスにプリンといった定番もの。そして、他の氷菓子にも挑戦してみるつもりで向かった。しかしながら塩や醤油、味噌の匂いが強い厨房の一角で甘い匂いを漂わせれば、他の料理人たちも気になるというもので……気づけば祭さんや紫苑を含むほぼ全ての料理人がこちらをちらちらと見るようになり、手が空いた頃を見計らって覗きにきた。

 

「北郷、それはなんじゃ?」

「へ? あ、ああ祭さん、これはアイスだよ」

「あいす?」

 

 材料を冷やしながら混ぜる俺を見ての一言に、なんだかんだと集中していた俺は顔をあげて応える。聞き覚えのない名前に首を傾げるが、細かな理解は食べてみてからのお楽しみということで。

 

「そ。俺、料理だと普通の味しか出せないから、だったら普通じゃない味を出せるもので勝負をかけてみようかなってさ」

「ふむ。勝負をかけるとはまた、穏やかではないな」

「喜ばせたら俺の勝ちってところで、自分の中で勝手に勝負にしてみた。ていうか、穏やかではないとか言うわりに楽しそうだね、祭さん」

 

 どうにも子供のように目を輝かせている祭さん。初めて見るものには案外弱いのかもしれない。なので味見出来る段階にまでいったものをどうぞと差し出し、一緒に覗いていた紫苑と、同じく菓子作りをしていた朱里や雛里にも味見をしてもらった。

 

「ほぉお……これは甘い」

「これは、子供なら目を輝かせて喜びそうね」

『……!』

 

 大人二人は意外な味を口に含み、驚きの表情を。そして朱里と雛里は紫苑が言うように目を輝かせていた。……子供ではないが、輝かせていた。しかしながら“美味しい”とは言っていないわけで、どうにもこう気になってしまったので……一応訊いてみる。

 

「どうかな、美味しいかな」

 

 祭さんや紫苑から見た今の俺がどういう様相だったのかはわからないものの、二人はどうしてか顔を見合わせて笑い、二人して人の頭を撫でたり肩をバムバムと叩いたりと……いや……な、なに? 俺なにかした?

 

「そうじゃのう……儂はもっとこう、濃い味付けがな……これでは酒には合わんじゃろう」

「是非とも酒から離れた考え方をお願いします。ていうかバニラエッセンスの代わりに酒が入ってるんだから、酒とは合うでしょ」

「こんなもん酒を入れた内にも入らんわ。もっと濃厚な酒の味がせねばな」

「それもうアイスじゃなくて牛乳混ぜて冷やした酒だよ!」

「ふふふっ……お酒が入っているのなら、逆に子供に食べさせる時は、もっとお酒を減らしたほうがいいかもしれませんね」

「あ……そっか、それはそうだ。じゃあお酒はもっと少なくしてと」

 

 いろいろと調節が難しそうだ。

 しかし料理ってのは面白い。

 工夫一つで完成品が随分と変わるんだから、やっていて飽きない。

 ただし工夫して成功する例は少なく、俺なんかは料理に余計な手を加えると不味くなる方だから困る。もっと上手く作れるようになりたいもんだ。

 苦笑を漏らしながら、次から次へとアイスやプリンを作ってゆく。

 その途中で他国でのことを秋蘭に報告しに行っていた流琉もやってきて、早速料理に取り掛かった。

 

「戻ってきたばっかりなのにごめんな」

「いえっ、逆に腕がなりますっ」

 

 おお、元気だ。

 疲れてるんじゃないかと思ったが、むしろ逆。

 自分が担当する厨房で仕事を始めていた他国の料理人に触発されたように、目に炎を燃やす勢いで調理を開始した。その手際は見事の一言で、あれよという間に料理が出来上がってゆく。

 きちんと保存のきくもので、温めればいつでも美味いものばかりだ。まあ、レンジがないからチンでOKってわけにもいかないんだが。

 

「相変わらず見事な手際じゃのう。これは儂も負けてられん」

「ええそうね。じゃあ一刀さん? 少し味見を頼めるかしら」

「え? 味見って……」

 

 ソッと自分の頬に手を当てながら、「はい、あーん」と匙子で掬った料理を俺に差し出す……えぇと、紫苑さん? 味見って、見るからにも嗅ぐからにも美味しそうなのですが、それは必要なことなのですか?

 いやまあ、差し出されたなら食べるけどさ。

 食べ……マテ。食べるのか? この“あーん”状態で? それ以前に差し出す前に俺に食べるかどうかを訊きません!? あ、訊かれたか。じゃあ返事を待ちません!?

 

「い、いや、食べるけど普通に食べさせて───」

「ふふふっ……ええ、だから食べさせますよ?」

「そうじゃなくて! 自分で食べるって意味で!」

 

 日本語ってややこしい! そして背後から言いようのない妙な気配が!

 後ろに居るのは凪と思春……振り向きたくない! なんだかとっても振り向きたくない!

 

「エ、エエトサァ!? そういえばこれだけ料理作ってて、他のみんなが到着する日まで保つの───ふぐっ!?」

 

 喋り途中に、口に料理が突っ込まれた。

 匙子ごとガリッと噛みそうになったが、なんとかつるりと口に含むことに成功した。……代わりに唇を少し噛んだが。

 するとどうだろう、やわらかな味が口に広がり、思わず“ほぉう……”と溜め息を吐いてしまった。もちろん不味いから吐いた溜め息ではなく、美味さへの溜め息だ。

 最初に主たる味が広がり、次に調味料の味、そして隠し味と続き、最後に鈍い鉄サビの味がした。もちろん俺の血の味だった。それは当然のように置いておくとして、これは美味しい。

 

「へぇえ……上手いだろうなとは思ってたけど、料理上手なんだな」

「種類はそれほど作れませんけど、これくらいなら」

 

 俺の言葉に気をよくしたのか、笑みながらの返事だった。

 ……べつに気をよくさせたくて出た言葉じゃなかったんだけどな……普通に、自然に、口からこぼれた感想だった。ええと、なんて喩えればいいだろうか……あー……は、母の味?

 特別な味付けがされているわけでもないのに、こう……温度とは別の温かさがあるというか。とにかく美味しい。

 

「ふむ。ならば北郷、儂のも食べてみろ」

「え? いいの?」

「儂が食べろと言っておる。遠慮はいらん」

「ん、それじゃあ」

 

 紫苑からの一口で味見に抵抗が無くなった俺は、口に突っ込まれた匙子を使って祭さんが差し出した料理を軽く掬う。まずは匂いを楽しんでから……あ、これ美味いや。匂いだけでわかる。好きな分類の匂いだ。

 その流れでパクリと口に含んでみれば、なんとも味覚を刺激する味がじゅわっと一気に口内に広がり───う、うわっ! ご飯食べたい! これ滅茶苦茶ご飯食べたくなる味!

 

「……う、うまい……」

 

 だからだろう。

 ごくりと口の中の味を飲み込んだ途端、感想なんてものは勝手にこぼれていた。

 そんな俺を見た祭さんは、腰に手を当てながら満足そうに笑い、もっと食らえとばかりに俺に───

 

「って祭さん! これ会合用の食べ物でしょ!?」

「男子が細かいことを気にするでないわ。材料なら呉から沢山持ってきた。お主一人がどれだけ食おうが、そうそう揺らぐものか」

「揺らぐとかそういう問題じゃない気がするんだけど!?」

 

 言ってみても聞いてくれず、味見だった筈がどうしてかどんぶり飯まで用意された。

 そんな祭さんの行動を前に、どうしてか紫苑まで味見どころじゃない量の料理をドッカと卓に置いて、俺に座るように促す始末で。

 え……え? 今って食事時だったっけ……? そりゃあ腹はそこそこ減ってるけど、料理を作る筈がどうしてこんなことに……?

 

「ちなみに拒否は……」

「出来ん。作ったものがもったいなかろうが」

「……みんなで食べるって選択肢は」

「ええい、男ならばうだうだ言っておらんでガッと食べてみせい!」

「性別がどうとかって範疇を軽く越えてる量なんですけど!? あ、や、ちょっ、思春!? なんで無理矢理卓に座らせるんだ!? ……凪!? なんで料理を作り始めるんだ!?」

 

 テキパキと俺を卓に座らせる思春と、どうしてかキッと決意を込めた表情を見せて、料理を始める凪。逃げ出そう……とは思えない状況があれよという間に整ってしまい、さすがに唖然とした。

 座らされた卓の上、膝に握った両手を置いて肩を尖らせながら俯き考える。ただひたすらに、どうしてこうなったのでしょうかと。

 ちらりと祭さんや紫苑を見れば、ニコニコ笑顔でこちらを見ているだけだった。一方思春は俺の後ろに立ち、なんというかその……逃げ出せぬように門番をする鬼の如く、ひたすらに黙していた。怖いです思春さん。

 

(なんだろう……この、“この子は私の息子です”的な空気……)

 

 育ての親と産みの親とで喧嘩をして収拾がつかず、決定権を子供に託したかのような。

 

(……き、気の所為……だよな? 別に子供がどうとかって話じゃないし、ただ俺が美味いって言ったから振る舞ってくれてるだけで)

 

 さっきの弓の上手さに関することの延長では断じてないと信じたい。

 そして北郷よ、知りなさい。

 誰であろうと料理を振る舞ってくれるというのであれば、この時代……食いきらなくては食に対して失礼というもの。

 ならば何を戸惑う必要があろうか。

 俺はただ、材料に。そして作ってくれた人に感謝しながら食べきればいいだけなのだ。

 

(でも……さ、量に対しては戸惑っていいと思うんだ、俺)

 

 小さく自分の心に救いの手を差し伸べてみた。

 ……状況は一切変わらず、周囲の人の在り方も変わらない。

 代わりに小さく頭を抱え込みたくなるような状況な俺と、そんな悩みまくりな俺を、熱い溜め息を吐きながら見つめる二人の軍師さまだけが残された気分だった。

 

(いざ!)

 

 どうせ変わらないなら食らうまで!

 美味しいことに変わりはないのだから、腹が壊れようが食べきってみせる!

 それが男だ任侠だ!!


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