真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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64:魏~三国連合/宴の前の騒がしさ④

109/賑やかさは平和の証。騒がしさは元気な証。喧嘩祭りは血気盛んな証

 

 早朝だというのに城下は賑やかだった。

 お祭り目前ということもあって、みんながみんな生き生きとしている。実際、お祭りっていうのは祭りそのものよりむしろ、準備期間こそが祭りだと思う。

 そんな賑やかさの中に立って、熱い溜め息を吐く者ひとり。俺である。

 

「はぁ~……賑やかだなぁ……」

「会合当日を思うと、兵たちが少々気の毒だな」

「………」

「? なんだ」

「いや。思春が兵の心配なんて、珍しいなーって」

「っ!」

 

 サッと、少し顔を赤くした思春に睨まれた。でも否定もせずに、睨んでくるだけだった。多少の自覚はあったのかなと思いながら、街を眺める。

 普段よりも行商人が多く、ここらでは見れない珍しいものを見せてくれたりした。つまりそういった行商人がたくさん居るのだ。

 当然興味が惹かれれば見てしまうわけで───

 

「おぉお……これはええもんやなぁ……!」

「へへっ、でしょう? 南蛮の森の奥で採れた伸縮性に優れた植物の蔓。それを丁寧に処理して作った紐ですわ。一本一本の強度もさることながら、それが束になって出来ていることもあって、そう簡単にゃあ切れません」

「おっちゃん、これなんぼ?」

「これは少々値が張りますが……へへっ、せっかくの祭りですからお勉強させていただきますぜ。……こんなもんでいかがでしょ」

「んん~……もうち~っとだけ負かられへん? お祭り気分でほら、な? どかーんと」

 

 …………で。

 あそこの絡繰好きは、行商人の前でなにを粘ってらっしゃるのでしょうか。

 というか……。

 

「自国の、しかも城下にやってきてる行商人に値切り交渉とか、何考えてるんだ……」

「今すぐやめさせますっ……!」

 

 隣に立っていた凪が拳を氣で輝かせ、赤い顔でのっしのっしと歩いていった。

 直後に響く悲鳴。

 大丈夫、俺は何も見なかった。

 寝不足で気が立っていたところに、自国で値引きする仲間の姿を見てカッとなっただけなのさ。涙ながらに引きずられてきた真桜がボロボロなのも、きっと寝惚けて幻覚を見てるんだ。そう、なにもなかった。

 

「自国に来てくれている行商相手に、その国の者が値切るなんてなにを考えている!」

「あ~ん、凪ぃ~、見逃してぇ~! 今ウチ手持ち少ないんよ~! ちょっと、ほんのちぃっとくらい値切ったってええや~ん!!」

「聞く耳持たんっ!」

 

 そしてズルズルと引きずられ、駐屯所がある方へと消えてゆく凪と真桜。

 「隊長~! 助けてーぇえっ!」と手を伸ばされるが、俺はニコリと笑って手を振った。すまん、さすがに今回のはフォロー出来ん。

 

「いいのか?」

「たまにはいいと思う」

 

 華雄が、真桜が連れて行かれた方向を眺めながら呟くが、スパッと返した。

 祭り前で人が多い中、ああいうことばっかりしていたらいろいろと危険だ。華琳に見つかったりしたら、なんて言われるか……想像しただけで怖い。

 

(ん……)

 

 そんな考えの途中、一瞬意識が飛びかける。寝不足はお肌の天敵とか言うが、お肌どころの騒ぎじゃない。しっかりしないと。

 頭を振って脳を揺らすように刺激してみるが、数瞬意識がハッキりするだけで、目が冴えたりすることは全然なかった。だはぁと溜め息が出る……そんな俺に、そういえばと声をかけるのは華雄。

 

「今日は何処をどう回るんだ?」

「ここの通りを重点的に。一番行商が多いから、トラブル……騒ぎが起こりやすそうだし。……って華雄? それについては祭さん達が来る前に決めておいただろ」

「む……? そ、そうだったか?」

 

 客が来る前に予定は決めておく。

 ここ最近、少し先まで予定がびっしりなのだ。

 この警邏だって、街を見歩いて、作業が捗っていない場所を見つけたら手伝うって仕事も混ざっている。それは俺自身がやりたいことだからべつに構わないんだが……この眠気が大変な状態で、果たしてこの北郷めがいかほどに役立つか。

 ……いやいや、文化祭の準備と思えば案外いけるもんだよな。

 脳も自在にコントロール出来れば、眠気なんて簡単に吹き飛ばせるんだろうなぁ。

 こう、エンドルフィンあたりがパパーッと。

 

(…………まずい、相当に頭が混乱してる)

 

 華琳たちが到着する前に、仮眠くらいとっておいたほうがよさそうだ。

 それはいいんだが───華琳たちがいつ戻ってくるかがわからないのが問題だな。

 流琉の予想が正しいとして、昨日で言う明日が今日であるなら、国境なんてとっくに越えてなきゃいけない。

 その報告は来てないんだし、これは今日明日に来るのは無理……かな?

 待てよ? 華琳が国境の兵に“早馬で報せる必要はないわ”とか言ってたりしたら、それはそれで報告が来ないのも頷ける。言っていたらの話なんだが、一度そう思ってしまうと気になってしまうのが人間というもので。

 

「………」

 

 まあ、やることなんて一つだな。警邏を続けよう。

 考え事をしていた所為で捗りませんでしたなんて報告、それこそ華琳が許さない───なんて思っていた矢先に早速トラブルが起きたようで、誰かが何かを言い合う声が耳に届いた。その頃にはもう走り出している自分が居て、反射神経がどうとかよりも、日に日に揉め事を止めに入ろうとすることに躊躇が無くなっていく自分に少しだけ呆れた。

 人垣に突っ込んで悶着の原因を知り、それを治めればまた別のところで悶着。

 どれもこれもが祭り前で昂ぶった町人たちのじゃれ合いみたいなもので、それがそこかしこで起こるものだから、もう笑うしかないってくらいにあちらこちらへと駆け回った。俺が走り回っている様子を見て、町人も「今日もあの人は大変だなぁ」なんて笑ってらっしゃる。

 もちろんそのことに疲れも怒りも沸いてくることもなく、逆に俺も笑い返して駆けていた。だって、祭りで騒がないのはウソだ。だったら走り回らなきゃいけないのだとしても、それは楽しみのひとつでしかないのだ。だったらそう、笑うしかない。

 走り回るのは大変で、楽しみのひとつならほうっておけばいいと思うかもしれない。けれど、楽しみの中で“しなくてもいい怪我”をしてしまう人だって居るのだ。巻き込まれる人だって居る。そうならないために俺達が走って、笑顔で済ませられる“程度”に抑える。平和になった世界での“警邏の仕事”っていうのは、そういうことのためにあるんだと思う。

 

「はぁ……どこも似たようなことで揉めるんだな……」

「他国から来た行商までもが己の出し物で競い合うか。以前からは想像出来んな」

「競い合いまでならまだいいけどね。争いになる前に止めるのが俺達の仕事だ」

 

 あちらこちらを駆け回ることになっても、華雄も思春も文句のひとつもこぼさない。

 むしろ華雄なんかは小さな競い合いを前に感心しているくらいだ。

 乱世の頃で言えば、庶人や行商は人との争いを避けて保身ばかりを前提にしていた。賑やかではあっても、“本当の笑顔で騒いだりする様子”なんてものは、そうそう見られなかった気がする。あの頃から比べればいろいろな人が自分の感情を表に出すようになったということだ。

 もちろん騒ぎがないに越したことはないのだが、喧嘩というよりもじゃれ合っている現場に駆けつけるのは結構楽しいのだ。だから促す注意なんて、「いきすぎないように」ってことくらい。

 相手も迷惑をかけるつもりはないようで、笑いながら頷いてくれる。

 

「貴様が各国を回ったことも、無駄ではなかったようだな」

「はは、そうかも。少し恥ずかしいけど」

 

 騒いでいるのは呉や蜀から来た行商と魏に店を構える者。

 それらが自慢の賞品を武器に笑顔で騒いで、行き過ぎない程度の勝負をしている。

 どっちが売れるかはもちろんだが、どっちが客を笑顔に出来るか、なんてことも勝負のうちに入っているようで、売る商人も買っていく客も笑顔でいるなんて珍しいものがあちらこちらで見れた。

 

「駆けつけた先々で“俺に迷惑はかけない”みたいなことを言われるとは思わなかったよ」

「それだけ各国で信頼を得られたということだろう。それは将よりむしろ、庶人や商人相手のほうが厚いように感じるが」

 

 呉から来た行商は元より、蜀から来た商人にも顔見知りが多かったのだ。

 それ以外の商人だって、各国での俺の噂を聞いたらしくてやたらとフレンドリーだったり興味を持ってくれていたりで、再会を懐かしんでくれる人や、会えて光栄だ~なんて言う人まで現れる始末。

 各国で駆け回ったことがこんなところで生きてくるなんて、本当に世の中っていうのは何処で何が先に繋がる行動になるのかわからないものだ。

 

「むぅ……なるほど。こうまで信頼が厚いからこその“支柱”というものか」

「その信頼に応えられているかが結構難しいところだけどね」

 

 落ち着いている思春とは別に、華雄は俺が行商たちに気軽に声をかけられている状況を感心したように見ていた。そのやりとりの中から“支柱”って言葉の意味を考えているようで、俺が呼び止められて誰かと話をするたびに、なにやらうむうむと頷いている。

 支柱って言葉自体、どういったものになっていくのかを漠然としたものとしか受け取れなかった以前とは違い、こうした僅かな実感があると、“ああ……こういうものなんだな”って思える。

 偉いから名が知れるとかではなく、心安く身構える必要もないからこその信頼関係といえばいいのか。もちろん前提として、天の御遣いって名前が走っているってことにも効果があって、もし俺がただの庶人だったらこんな関係はきっと築けなかったのだ。

 

  本当に、どこで何が役立つのかなんてことはわからないものだ。

 

 利用価値から始まった天の御遣いって名前も、いつしか“支柱の支柱”になる程度には役立ってくれたことになる。いつか桃香と話したように、俺は俺として役立ちたいとは思うけれど、それはそれなのだ。

 俺って存在と御遣いって名前があって初めて“利用価値”って言葉が華琳の中に生まれ、俺は魏に拾われた。俺って存在だけではダメだったのなら、そもそもその時点で死んでいたのだから。

 そこのところは、結局会うことも知ることも出来なかった管輅って存在に感謝したい。

 

「…………ふぅっ……」

 

 走り回っては笑い、結局一度も喧嘩らしい喧嘩は起きないままに、お祭り前日のような騒がしい一日は過ぎようとしていた。

 今日中に来るかもと思っていたみんなは来なくて、妙に身構えていた俺の肩からも力が抜ける。それは思春や華雄、途中で合流した凪も同じようで、じゃあ今日はここまでで───と本気の本気で力を抜いたところで、

 

「北郷隊長ー! 国境から早馬が!」

「なんだってーっ!?」

 

 報せを受けたらしい警備隊の一人が駆けてきて教えてくれた。

 ……はい、徹夜待機決定。

 って、いやいや大丈夫、早馬が報せに来たからって今日来るわけじゃない。

 なら眠る時間は十分ある。

 雪蓮あたりが悪戯を考えて、“報せるのを遅らせて~”なんてことをさっきの早馬の兵に頼んでいて、実はもう近くまで来ている……なんてことがなければ。

 「さすがにそれはないよなぁ」なんて苦笑して、城に戻ろうとした俺へ向けて駆けてくる兵が。───ああ、なんだろうこの嫌な予感。いっそ彼を迎えず逃げてもいいですか? なんて思えてしまうくらいに嫌な予感が───

 

「ほ、北郷隊長! 見張りの兵が景色の先からこちらへ向かってくる灯りを見たと!」

「くぁっ───! あ───っ……!」

 

 思わず“あの馬鹿ぁああっ!”と叫びたくなるのを思春の手前、思い切り抑えて走り出した。というかその思春も頭が痛そうに眉間に皺を寄せながら、片手で頭を押さえていた。

 そんなわけで寝不足と疲れでだるい体に鞭打って走る。

 走って、門の先に立って、夜の景色の中で確かに揺れる火の軍を見て……思春とともに盛大に溜め息を吐いた。

 早馬に使われた国境の兵に、今度高い酒でも送ろう。一番迷惑被ったのは彼だろうから。

 

「なるほど敵襲か! ふふふ平和になった世に在って夜襲をかけるとは───!」

「違うから! というかなんで嬉しそうなんだよ!」

 

 灯火の進行に目を輝かせて、一歩を踏み出し金剛爆斧を振り上げる華雄さん。

 そんな彼女の一歩後ろで慌てて止めるも、確かに実際夜襲だったら大変だ───とは思うものの、だったらそもそも早馬の彼が無事でいられるはずもないわけで。

 暗くて見辛いものの、下火に照らされるようにしてぼんやりと見えるのは呉の旗だ。

 

「……思春」

「言うな……」

 

 俺よりも目が利く思春は既に見えていたのだろう。

 俺が全部言うより先に溜め息を吐き、それだけ言うと顔をしかめて目を伏せた。

 

「あ、あー……来てるのって呉のみんなだけか?」

「いえ、魏の旗も蜀の旗も確認しました。途中で合流したのでしょう」

「そ、そっか」

 

 思春の代わりに凪が応え、俺をちらりと見てくる。

 ああわかってる、夜も遅いけど、迎えの準備をしないと……いけないんだよなぁ……。

 

「ごめんみんな、疲れてるだろうけど、迎える準備をしよう……」

「……すまん」

「思春が悪いんじゃないって。むしろあの中の冥琳の心労の量こそが心配だよ……」

 

 驚くくらいに素直に謝る思春に驚きながらもそう返す。

 あの人数で早馬並みに行進するのは無理があるし、情報操作なんてする意味がまずない。

 それでも“面白そうだからやる”というのが呉の王様なのだ。

 それに振り回されるみんなにこそ、お疲れ様を本気で唱えたい。

 

「あの……隊長? 急いだ結果としてこうなった、というのは考えられないのですか?」

「華琳だったら普通に、明るいうちに到着するように調節するって。そもそも驚かすために早馬を使ったりはしない」

「あ……そうですね……なるほど……」

 

 凪にあっさりと納得される呉王が居た。

 俺が居なかった一年の間、いろいろと理解に繋がる出来事があったんだろう。それさえも容易に想像出来るんだから、雪蓮って人間はきっと、何処に居ようと自由奔放だったんだろう。

 

「あまり時間が過ぎるのも問題だし、用意した料理的には良かったといえば良かったんだけどな……そうは思えても、この釈然としない気持ちはなんだろうなぁ」

「温かくはありませんが、どれも冷めても美味しいものや、冷めたほうが美味しいものを用意しましたからね」

 

 あえて釈然としない気持ちには触れずに返してくれる凪だけど、ちらりと見たその表情だけで十分返事になっていた。

 

「じゃあみんな、眠いだろうけどもうひと頑張り、いいかな」

「はっ!」

「応っ!」

「わかった」

 

 凪と華雄が元気に、思春がどこか申し訳無さそうに返事をする。

 それを聞いてからの行動は早く、出迎えの準備をするように警備隊に指示。城への通達を頼んで、俺もまた走る。

 さすがに今から徹夜で騒ぐわけでもないだろうし、部屋の準備───は出来てるけど最終確認と、風呂の準備に宴とは別の食事の準備と、あとは───

 

……。

 

 そうしてドタバタしたままに魏王と呉王と蜀王、それらの将を迎えた。

 玉座の間に集うは魏呉蜀の将、そして王が三人。

 夜ということもあって、出来るだけ静かに───

 

「お兄ちゃんなのだっ!」

「あーっ、一刀~っ♪」

「兄ぃ! 兄にゃー!」

 

 ───いけるわけがなかった。

 鈴々の突撃を皮切りにシャオが駆け美以が駆け、静かに行なわれて静かに終わる筈だった到着歓迎はあっさりと“騒ぎ”という名前に食われてしまった。

 突撃と言ったからには“元気にしてたか~”なんて手を振る程度で済む筈もなく。季衣がそうしたようにそれこそ突撃され、再び腹に痛撃を受けてなお踏み止まった───ところへ、シャオが背中から抱きつき、驚いた瞬間に腕に抱きつくやゴリリと噛み付く美以……ってぎゃだぁああっだだだだぁーッ!!

 

「こ、こらこらっ……! 今はこういうことしてる場合じゃっ……!」

 

 痛みを我慢しながら小声で伝えるが、三人はきょとんとした顔で俺を見るだけ。

 そしてそれ以外の人は、じとりと何故か俺を見てきて……

 

「……一刀」

「アノ……華琳サン? 俺別ニ何モシテイナインデスガ……?」

 

 久しぶりにじろりと睨まれると、背中につつーと流れる嫌な汗。

 しかし誤解だと唱えたい。

 だってそろそろ眠気がピークで、騒ぐ元気もない。……なんてのはあくまでさっきまでの話で、嫌な汗が噴き出るのと一緒に眠気は吹き飛んでしまったから言い訳には使えそうになかった。

 なので、もう俺の反応など知ったことではないとばかりに腹に背中に腕に抱き付いてきている三人をよそに、必死に言い訳を考えるわけだが……どうしてだろうなぁ、時間がかかればかかるほど、華琳からモシャアと景色を歪ませかねない殺気が放たれているように感じるのは……!

 

「いいじゃない華琳、堅苦しい挨拶なんて終わらせて好き勝手やりましょ? むしろ休み無しで今から騒いでもいいくらいよ」

 

 言い訳を考える必要なんてきっとなかった俺を救う言葉が雪蓮から放たれる。

 途端に救われた気持ちになってホッとしたが、そんなあからさまが華琳のひと睨みで奥に引っ込んだ。あの……俺、なにかした?

 

「大した休みも無しに夜に着くことになったのは貴女が原因で。早馬まで、驚かす材料にしてまでの行進で疲れているというのに。休みも無しに騒げというの?」

「うん、そう」

 

 にっこり笑顔での頷きだった。そしてやっぱり雪蓮が考えたドッキリだったらしい。

 ドッキリというか迷惑行為以外の何物でもない気もするけど。

 

「疲れてるほうが逆に自然体で騒げるものでしょ? 遠慮なんてつまらないし、騒げる期間中に騒ぐべきよ」

「………」

 

 あ。華琳が溜め息吐いた。

 恐らくここまで来る間にも、いろいろと笑顔で無茶を押し通されたんだろう。

 ちらりと見てみれば、冥琳も疲れた顔で俯いていた。

 

「はぁ……桃香はどう?」

「あ、うん。えっと、私も雪蓮さんに賛成かな。楽しい時間は長いほうがいいと思うし」

「………」

 

 玉座に座った彼女が、軽く頭を痛めた瞬間だった。

 そんな彼女を段差の下で見上げつつ、鈴々とシャオと美以を丁寧に引き剥がすが、再び突撃されて項垂れた。剥がしてだめなら受け入れろだ。頭を撫でてみれば満面の笑みで迎えられ、代わりに華琳に睨まれた。

 そうした状況にいっそ泣きたくなっていると、美以とは逆に腕……左腕に新たな感触。

 見てみれば、おどおどしながら抱き付いている美羽。

 抱きつかれて気づいたが、おどおどどころか物凄い速度で震えていた。

 そんな彼女の視線の先には、にっこり笑顔の雪蓮さん。

 ああうん、今ならわかるよ美羽。苦手なものって、誰にでもあるよなぁ……。

 

「まあ、いいわ。こうして集まるのもこれが初めてというわけでもないのだから。一刀、流琉、宴の用意は整っている?」

「ああえと、そうだな。仕上げをすればほぼ。料理は冷めても美味しいものを用意したし」

「はい。熱いほうが美味しいものの下ごしらえも出来ていますから、あとはすぐに作れます」

「結構。ならば料理の出来る者はすぐに仕上げに入り、手が空いている者は席の準備を手伝って頂戴」

「えー? ちょっと華琳~、客に席の準備を手伝わせるつもりー?」

 

 華琳の指示に頷き、行動を開始する俺と流琉を他所に、雪蓮は不服そうにそんなことを言う。しかしながら華琳もまた、笑顔でありながら口をヒクつかせながら返した。

 

「あのねぇ雪蓮? 誰のお陰でこんな夜遅くに、皆が疲れながら到着することになったと思っているの?」

「冥琳」

「雪蓮姉さま! 仮にも王が躊躇も無しに人の所為にするとは何事ですか!」

「ひゃうっ!? ちょ、蓮華、落ち着いて……!」

 

 そんな即答に即座に反応したのは蓮華で、驚く雪蓮に詰め寄って「大体姉さまは……!」と日頃の素行の悪さを将や王らの前で叫びなさった。焦りながらそれを止めようとする雪蓮だったが、冥琳に耳を引っ張られて小さな悲鳴を上げ、あとはまあ……見ないでおくのがやさしさなのかもしれない。

 俺は流琉に頷きかけると行動に出て、玉座の間をあとにした。……鈴々、シャオ、美以、美羽に抱きつかれたまま。

 ああもう……早くもいろいろと心配になってきた。大丈夫なんだろうか、この会合。

 なんて思いながらもどうやら俺自身も楽しみではあるようで、流琉に指摘されて初めて、自分が笑んでいることに気づいた。

 

(……そうだな。祭りなんて騒がしくてなんぼだろう)

 

 そして、こうして最後の追い込みをドタバタとするからこその準備だ。

 だったら笑わない理由なんてきっと無い。ならばと笑い、くっついている四人と隣を駆ける流琉、後を追って走ってきた季衣とともに、祭り当日の前の最終準備に追われる学生のように、焦りながらも燥いだ。

 性格上、焦っているのは俺と流琉だけだった気もするけど、視線がぶつかれば笑ってしまうんだから……否定しようもなく、これから始まる祭りってものを準備している今も、俺達は楽しんでいた。




 親~衛~隊~は~、洗い残しし~ない~♪
 これにて魏編終了、次回からは三国連合編です。
 それからIF、IF2と続いて外史終端編で終了となります。
 た、たぶん……300話以内には終わると思う……ヨ?
 あ……でも64部で170話いっちゃってるなら……ゴッ、500話以内には! たぶん!

■追記:本編は既に完結しているので、のんびり待ってやってください。
    “なろう”では一話が1万5千~3万文字でやっているので、それを分割してこちらに移しております。
    そのため、移したあとが何話になるかがわからないだけなので。

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