真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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68:三国連合/謎は解明されないからこそ輝くことを知った日①

114/謎というものは、解明されると案外どうということもないものだったりする例

 

 しとしとと小さな雫が見慣れた風景を打つ音を聞く。

 本日は雨天。

 昨夜から降り始めた雨によって、本日の予定は大いに狂わされ───ることもなく。

 

「よしっ、壁の補強終了! 次に行こう!」

「応!」

「………」

 

 勢いもなく、ただ静かに降り続ける雨の下、今日も警備隊という名の雑用係が街をゆく。凪と真桜と沙和には別区画に走ってもらっているため、俺と一緒に居るのは華雄と思春だった。

 どうして雨の日にこんなことをやっているのかといえば……思い返したくもないんだが、昨夜起こった騒ぎが原因だったりする。

 

 

 

 

-_-/回想

 

 カロカロと墨が乾いた竹簡を巻き、山を構築する材料としてまたひとつ積み上げる。

 本日曇天。

 朝から続く少し湿った空気は、天に居た頃の何処か懐かしい空気を思い出させてくれる。

 天に居た頃は、雨が降る度にだるく思っていたというのに、今では少し楽しみではある。

 それというのも……アスファルトは無いものの、雨が降ったあとの空気はどの世界でもそう変わらないからだ。

 澄んでいると言えばいいのか、それとも匂いが似ていると言えばいいのか。

 そりゃあこの世界ほど落ち着いた空気は無かったのかもしれないが、緑に囲まれたプレハブ小屋で目覚めた雨天の朝なんて、窓を開ければこんな匂いに包まれたもんだ。

 だからだろう。雨の日は静かに天のことを思い出す。

 晴天も晴天でいいけど、たまにはこんな日があってもいい。そう思えるのだ。

 

「よし、っと」

 

 日が落ち、暗くなり始めている今日という日の今、散々騒いだデザートパーティーを昨日という過去にして、現在は蓮華とともに勉強中。王になったばかりの彼女と支柱になったばかりの俺とで、これからのこと勉強しているわけだ。

 

「ん、んー……? 朱里、ここなんだけど」

「はい、なんでしょう」

 

 先生は朱里。

 知力100の頭脳を生かし、質問をしてみればスパッと答える小さな先生だ。

 

「ああ、これはですね。元々この邑の周りには水が豊富でして、それを知らずに居た者が苔がびっしりと生えた山の壁を掘ったのが始まりでして───」

 

 どこそこの邑では良い作物が取れる理由とか、小さな邑のことまで事細かに教えてくれる。歴史込みで。 

 

「へええ……そういうのってやっぱり調べてわかるものなのか?」

「はい。何かあった時に備えて、知っておいて損をすることなんてありませんから。魏のことや呉のことも、きちんと許可を得てから見てもいいものだけを見せてもらったりしています」

 

 ほああ……感心するほど勉強家だ。

 読書が好きで、しかも物覚えがいいからこそ出来ることなんだろうな。

 俺もこの世界の歴史を知るのは、以前は別としても今では割りと好きだったりする。好んで読もうとは思わないが、こうして必要だからとどっしり腰を下ろして読むのは嫌いじゃない。

 そもそも三国志には割りと興味があったし、その知識だけなら及川よりはあった。

 ……もっとも、“この世界の知識”とソレとでは明らかな違いがあるわけだが。

 

(男だと思ってた英傑が女で、歴史はバラバラ。死ぬ筈の人が死ななくて、今も元気に笑ってる)

 

 一言で言ってしまえば不思議な世界。

 そんな世界にあって、孫策も周瑜も失わなかった国の王をちらりと見る。

 ……熱心に勉強をしている。

 ともに学ぼうと誘われたときは驚いたけど……熱心だなぁ。

 よし、俺も負けてられないな。

 気を引き締める意味も兼ねて、少し肩をほぐしながら姿勢を正す。

 机に向かい、気持ちも新たに筆を取ると……朱里が少し遠慮がちに声をかけてきた。

 

「あ、あのですね、一刀さん」

「ん? どうかしたか? 朱里ヒィ!?」

 

 机に向けていた視線を朱里に向ける───と、そこには恥ずかしそうに、かつ遠慮がちに突き出された一冊の書物。“朱里+書物=アハンなアレ”という方程式を瞬時に構築してしまった俺は、思わず悲鳴にも似た……いや、悲鳴をあげてしまった。

 だだだ大丈夫! 朱里だからってそんな書物とは限らないだろ!? 大体、見るときは絶対に雛里も一緒にって決めてるみたいだし! な!? そうだよな、朱里!

 

「え……て、天の……知識───序?」

 

 突き出された書物にはそう書かれていた。

 「ひゃ、ひゃいっ」と返す朱里に続けて訊ねてみれば、なんでもこれは俺が学校で“基礎として教えていた知識”を纏めた……いわば教科書のようなものなのだという。試しに見せてもらえば、俺が教えるのよりもよっぽど効率のいいやり方で、基礎から応用までのことが書かれていた。

 

(じいちゃん……知力100ってすげぇ)

 

 わかり易いといっても答えがそのまま書いてあるわけでもなく、きちんと考えなきゃわからないもの。答えを知っているからこそ納得出来るわかり易さであり、つまりそのー……

 

(ふふ……儂に教えられるものなぞ、もはや何もないわ……)

 

 ……と、無駄に悟った老人っぽく言いたくなるほどの出来だった。

 普通に教科書として売れるレベルなんじゃないだろうか。

 

「ど、どどどどうでしょうかっ」

「や、どうって」

 

 それを俺に訊きますか。

 俺からしてみれば満点だってこれ。

 

「十分すぎるよ。これなら覚え易いし学びやすい」

「はわっ!? ほほほほんとですかっ!?」

「ん。むしろ売りに出してもいいくらい───……って、“序”?」

 

 “天の知識・序”……書物にはそう書かれていた。

 “序ってことは続きがあるのか?”……そう目で問うてみれば、どうしてか期待を込めた瞳を返された。まるで“それで終わりじゃないんですよねっ?”と、俺にこそ訊いているように。

 なるほど、確かに俺が学校に残した知識は小学校低学年で覚えるものばっかりだ。

 となれば、勉強熱心であればあるほど先が気になりもするんだろう。

 でもね、朱里さん。最初になにかためになることを教えられたからって、天のことならなんでも知ってるわけじゃないんだぞー……? そりゃ確かに勉強した。したけど、ほぼこの世界のためになること中心だったから、なんといえばいいか。

 学んだのは今まで手を出していなかった分野ばかりだったからなぁ。

 それらでいいなら喜んで教えられる……ん? 教え……あ、なんだ、それでいいんじゃないか。それはおかしいと感じれば、朱里や雛里、冥琳や穏、風や稟なら間違い無く言ってくれる。桂花は否定しかしないだろうから除外するとしても。

 

「じゃあ、それはおかしいって感じたら容赦なく言ってくれ。俺自身も図書館の本とか授業で習ったものだから、どこがどうおかしいのかには興味がある」

「ふぇっ? でででしゅがっ、そのっ」

「天の知識だからってなんでも正しいわけじゃないって。むしろ俺、そういう知識が否定されるところを見てみたくはある」

 

 俺が産まれた時から“それはそういうものだ”と決まっていた事柄。

 それが過去にまで遡った場所に居る人の知識で覆されるかもしれない。

 そういうのって、知識を残してくれた人には失礼かもだけど、楽しそうだ。

 

「……? 天の知識も完全ではない、ということ?」

 

 教科書に載っていた偉人の顔を思い出しながら、くすりと笑っていた俺へと言葉を放つ蓮華。考える必要もなく、完全ではない。

 

「確かに固定されて考えられてる物事が多すぎて忘れがちだけどさ。残された知識を使ってさらに考えるのが人間なら、知識を残してくれたのも同じ人間なんだよな。だから当然間違いもあるし、何度か過去の知識が新しい知識で覆された例もあるんだ」

「それは……ええ、それはどこでも一緒でしょう? 呉は歴史を重んじる場ではあるけど、冥琳や穏が否定した過去の知識なんてたくさんあるわ」

「だろうね……」

 

 あの二人が相手では、過去の偉人も形無しだ。

 それは華琳だって一緒だよな……孫子を綺麗に纏めたのも“曹操”だっていうしなぁ。

 

(孫子が成立する以前の“勝負は天運である”って意識なんて、この世界のみんなは軽々と覆しまくっていた気がするんだが……その時点で、成立させた知識なんて形無しだったのかもしれないよな……)

 

 この時代の人ってすごい。

 改めて思うこと───でもないか。ことあるごとに思い知らされてることじゃないか。

 

「確かに知識はたくさんあるんだけどさ。その知識も積み重なりすぎると、根底を覆すのが難しいんだ。えぇっと、べつに難しい理屈が必要ってことじゃなくてさ」

「えっと……知識自身ではなく、その知識を正であると思った人に理解させるのが、ですか?」

「そう、それ───って、朱里……」

「え? はわっ!? ち、違いましたかっ!?」

 

 そうじゃなくて……いきなりわかるのもどうかと思う。

 話が早くていいけどさ。

 

「いや、合ってる。そうなんだ。知識で書物に訂正を言い放つのは楽だよ。知識が無くても乱丁本を探せば誰にだって出来るし。でもそういう意味じゃなくて……」

「かつてはその書物に知識を貰い、学んだとしても、その途中で矛盾があることに気づく。そういうことでしょう? 穏が言っていたわ」

「うん」

 

 信じているものほど壊れやすい。

 ただ、間違いであることを、自分が間違ったことを学んでいたことを否定したいからこそ、それが間違いであることこそを否定する。

 最近覚えたばかりのことが間違いだと気づいて、学び直すならまだいいんだ。

 それが自分の生きる糧であり意味だった場合は、それこそ命懸けで否定に走るだろう。

 天の国……俺の時代では、命懸けでとは言わないまでも、負けず嫌いが多いから否定をし続ける。本当は間違いだってわかっているのに、そうではないと否定したがる。

 そんなのは俺だって同じで、俺がこの世界でやってきたことが無意味だ、なんて言われたら否定を続けるだろう。それが間違っているかどうかなんてのは誰にだってわからないのかもしれないが、もし間違いだなんて言われたら……

 

(……命、懸けられるのかな)

 

 胸に手を当てて訊いてみた。

 返事は、“命懸けなんて言葉はその時に使え”だった。

 そりゃそっか。

 

「一刀は……その、どう? 固定された考え方に囚われたりしていない?」

「俺? 俺は───」

 

 考えてみる。

 言った本人である蓮華も同じく考える様子を見せ、小さく頭を振る。

 俺は…………俺も、頭を振った。

 

「天とここ、行ったり来たりをしてみるとさ、いろいろと考えさせられるんだ。何が合っていて何が間違っているのか。答えは自分の中にある~なんて言葉がよく天では使われるんだけど、実際そうなんだ。答えを出すのは自分だ。散々と華琳に相談持ちかけてる俺が言えることじゃないけどさ、自分がこれだって決めて歩かなきゃ、それはただ人の所為にして生きてるだけなんだもんな」

「自分で…………、人の所為に……」

「………」

 

 言葉を探してみる。

 自分はどんなことをこの世界と天とで学び、どんな言葉を胸に刻んできたのかを。

 刻んだ覚悟の分だけ、探せる言葉がきっとあると、胸に手を当てて。

 “俺の答え”は───

 

「固定された考えももちろんある。それは譲れない俺の芯だ。固定されないものは───まだ学んでいる途中のたくさんのこと……かな」

 

 言ってしまえばまだまだヒヨッコ。

 俺がこれから生きていく中で学ぶことなんて、今の俺の中にある知識の倍を数えたって足りやしないし、これからも増えていくのだ。

 ここで“これはこうであるべきだ”なんて思わず、学べることはいくらでも学ぼう。

 ……って、そうか。だから華琳も“どれだけでも、何度だって”って。

 

(……ほんと、敵わない)

 

 “俺よりも俺のことを知っているんじゃなかろうか”とか普通に思わせる人だ。

 たまに、そんな人が自分を所有物とか言う意味を疑問に感じてしまう。

 感じてしまうだけで、好きなことには変わりがないのだから、その“たまに”がやるせなく感じることがあるわけでして。

 

(………)

 

 軽く華琳の顔を思い浮かべてみた。

 呆れる顔、訝しむ顔、怒った顔に見下す顔…………普通の顔。

 なんで普通の顔が後になってから出るのかは、恐らく目にした頻度によるのだろう。

 で、驚いた顔に照れた顔……その、痛がる顔に、………………涙した顔。

 一番最後に胸にずきりとくるのが思い浮かんだ。

 そりゃそうだ、言葉で泣かせたのなんてあれが初めてだ。

 試しにやったとはいえ、あれは罪悪感が異常だった。

 

「? か、一刀? 急に頭を振ってどうしたの?」

「い、いや、ひどい罪悪感がっ……!」

 

 正面きって覇王を泣かせたのなんて俺くらいだろう。

 あの事実は絶対に口外せず、墓まで持っていくと今誓おう。

 バレれば桂花や春蘭秋蘭に殺されるとかそういう理由ではなく、俺個人の秘密として。

 

「つ、続きしよう続きっ! あぁもう俺今すっごい勉強したいなぁーははははは!!」

「あ、あのー……一刀さん?」

 

 人間、秘密だと認識すると、妙に重いものを背負った気持ちになります。

 でもこれが重荷だとは思いたくない。なので胸をノック。

 華琳と、彼女の武器である絶に染み付いた己の血を思い、胸に刻んだ。 

 すると不思議なくらいに動揺が治まる。

 

「……ん。じゃあ朱里、授業のことで気になること、言ってみて。答えられる範囲で天の勉強のこと、教えていくから」

「はわっ、は、はいっ」

 

 治まったのなら勉強勉強。

 頭を整理して、朱里から投げ掛けられる質問に出来るだけ答えて、自分自身の勉強も進めてゆく。

 一気にいろいろな刺激が頭に叩き込まれるが、なんとか無理矢理押し込めるように。

 

(聖徳太子ってすごい)

 

 ───そんな感想も過去においやって、やがてとっぷりと夜。

 勉強も随分と進んだものの、休憩を混ぜたとはいえ少し体が強張っていた。

 そんな体をぐぅっと伸ばしてみると、硬くなっていた体が気持ちよくリラックスするのを感じる。

 

(……鍛錬したいな)

 

 結局まだお許しは出ていない。

 華琳が戻るまで禁止ってことになってたけど、じゃあ今すぐやってもいいのかといったらそういうことでもないのだ。

 そりゃあ柔軟運動くらいはやっている。氣の鍛錬だけはしっかりと。やらなきゃ身体が固まるからやっているが、やるとこう……自然と体が“いつでもこいっ!”といった感じに構えてしまうわけで。

 構えている体に“今日はやらないんだよ……”と告げても、一年を鍛錬で過ごし、この世界に戻ってからもあちこちで鍛錬付けになった体は、そんな言葉を聞きやしない。

 

(だからこう、疼くっていうか)

 

 激しい運動がしたい。

 何日か続いている、疲れを知らない日々ではこの体はもうダメなのだ。

 たまには発散してやらないと、体も心もまいってしまう。

 

(……なにか起こらないかなぁ。こう、体を動かすことが自然と許可されるようなこと)

 

 …………。

 願っても起こるものじゃないし、そもそも不謹慎だった。




 夢の国を~、探す君の名を~♪
 封神演義が再アニメ化ですって! ダンケ! ダンケ!

 いや~……前のはひどかったからなぁ。
 当時は原作(?)無視して真面目路線で突っ込むアニメが妙に多かったような。
 ハーメルンのバイオリン弾きもひどかったし。
 アニメなのに画面が動かず、音と声だけで進める場面とか、「アニメの意味ねぇ!」と純粋にツッコんだものです。
 アニメ化を喜ぶのは、その漫画や小説が好きだからであり、勝手にアレンジが加わってまったく別ものになったものを見たいからじゃないんですよね、あくまで個人的にはですけど。
 当時はそんな感じで、どうして変えちゃうのかなぁとか思っていたもんですが、成長してからのある日、俺妹のアニメを見るに到り、ああ……こんな感じで原作とは違うアニメって作られるのかなぁとか、京介氏の土下座回を見て思いました。

 成長してから裏切られたアニメは……あ、幼き日のヤシガニを屠るアニメは笑うしかなかったです。
 で、アニメですが……夢喰いメリーはアニメから入ったクチですが、原作との違いにポカンとしたクチでもあります。
 あれは是非とも原作通りに作ってほしかった。
 いい意味で裏切られたものの代表は、瀬戸の花嫁ですかね。あれは本当に楽しいアニメでした。

 え? キャベツ? 知らない子ですね。

 ちなみに、けよりなはPC版だとか移植版だとかその他もろもろ買ってプレイするほど、妙にハマったゲームでした。エ? アニメ化? シテナインジャナイデスカ?

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