真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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68:三国連合/謎は解明されないからこそ輝くことを知った日②

 少しして、蓮華も朱里も戻っていった。

 自然と自室であるそこに残された俺は、部屋の中心で小さく息を吐く。

 ちらりと見れば、バッグの上に寝かされた竹刀袋。

 うずりと心惹かれるままに近付き、それを氣の篭らぬ手で持ち上げてみれば、スッと感じる、もはや体の一部とも受け取れる心地良い重み。

 自然と顔が緩むのを感じて、「マテ、俺はどこの鍛錬マニアだ」と気を取り戻す。

 

「……た、鍛錬じゃない、鍛錬じゃない~……振るだけ、ちょっと振るだけだから~……」

 

 竹刀袋の紐を解く。

 しゅるりと緩むソレとともに頬が緩み、それに気づくや頬を引き締め、深呼吸を繰り返してから……いざ、黒檀木刀を……! あ、やばい、振るおうと思っただけで顔が緩む……! い、いざ、いざ───! と、そんな時に、扉を叩く音。

 

「はいぃいーっ!?」

 

 ───突如聞こえたノックに素っ頓狂な声を出して、自分でも驚くほどの速度で紐をキュッと結んで竹刀袋をバッグの上に! そして氣を練って足音を殺して即座に机に座ってさぁカムイン!!

 

「む? のう主様? かむいんとはなんじゃ?」

 

 おそるおそる扉を開けて入ってきたのは美羽だった。

 もう夜だし、寝に来たのだろう。

 

「い、いやっ……“どうぞ入ってくれ”って意味……だといいなぁ」

 

 それだけ焦っていた証拠なのだろうが、どうしてそんなことを言ったのかがわからない。

 焦ったために乱れた呼吸を正して、ふぅと息を吐くのと同時に氣も鎮める。

 

「美羽、もう歌の練習は終わったのか?」

「うむっ、主様にも聞いてもらいたかったのじゃ。妾の美声を」

 

 芝居がかった動作で手を振り上げ、小さく「あ~♪」と喉を震わせる。

 なるほど、いい声だ。

 

「七乃は相変わらずか」

「主様が弾ければ、ここで練習出来るのにの」

「はは……ごめんな」

 

 宴で歌を披露して以降、美羽は七乃と一緒に歌の練習をしている。

 俺の演奏では練習にならないのが第一の理由と、前に張三姉妹と話したように老人の層を狙う算段でもある。

 自分で仕事が出来れば俺の役に立てるに違いないと、美羽も俄然やる気だ。

 ……そのやる気が空回りしなければいいけど、今は中々安定しているようだ。

 

「あのけーたい、とかいうのは使えぬのかの?」

「充電の残量が少なくなったところでこの曇天だからなぁ……もうちょっと晴れてくれればまた動かせるよ」

「陽の光で動くなど、面妖なものよの……」

 

 ねだられ、はいと渡した携帯電話を手にしてシゲシゲ見つめる。

 そのうちにパカッと開き、多少のバッテリーが残っているそれをいじくる。

 あまり滅茶苦茶押すなとは言ってあるから壊されることはないとは思うが……不安だ。

 

「……のう主様?」

「ん? どうした?」

「この中に誰ぞ入っておるのじゃ」

「へ?」

 

 見せてくる画面には、及川の姿。

 ……ああ、画像BOX開いたのか。

 

「それは写真っていって、あー……絵みたいなもんだよ」

「絵じゃと!? これは絵なのか!? ほぉおお……主様はすごいの……!」

「え? いや」

 

 言いながらもカチカチと適当に触る美羽。

 それはいつか、華琳がそうしていた様子を思い出させ、俺の中から“止める”という選択肢を無くさせた。止めたほうがいいんだろうけどさ。ああもう、華琳のことになるとどうしてこう……。

 

「ひょわっ!? わ、わわわ妾じゃ! 妾がおるのじゃ!」

 

 で、適当に押しているうちに辿り着いたのか、自分の寝顔写真を見て盛大に驚いた。

 美羽は眠る自分の姿を初めて見たのか、ほおお……と食い入るよう見ている。

 ……そりゃそうか、この時代で寝てる自分を見ることなんて不可能だ。なるほどーと一人で納得しながら、興奮気味に様々な角度から自分の寝顔を見る美羽を眺める。

 楽しそうでなりよりだーと思う中、思春や華琳の寝顔は無視なのかと苦笑を漏らす。

 なにか感想があってもよさそうなのにな。

 

「主様は絵が達者なのじゃな」

「言いそびれたけど、それは絵であって絵じゃないっていうか……とりあえず描いたのは俺じゃない。その機械がやってくれるんだ」

「なんじゃとーっ!? お、おおお……! これはそんなに凄いものじゃったのか……!」

 

 小さな機械に改めて驚く美羽を微笑ましく眺めるが、それこそ改めて考えると凄いものだよな、携帯電話。当然のようにあるから興味って意識が薄れるけど、いったいどうしたらああいうものを創れるところまでいけるんだか。

 

「これがあればきっとなんでも出来るのじゃな!」

「出来ません」

「あの冷たいやつもきっと倒せるのじゃ!」

「冷たいやつ? ……あ」

 

 そういえば、結局アレの正体はわからず終いだったんだよな。

 なんなんだろうな、アレ。

 

「街は連日お祭り騒ぎ。問題を起こしてお祭りを中止にさせないためにって、みんなが注意してくれるのはいいんだけど……もしその冷たい女が街に現れたらって考えると、ちょっと笑えないよな」

「顔も見れなんだしの……」

 

 冷たい女がなんなのか。

 雨が降ったわけでもないのに冷たい体をしている……理由は外にずっと居た~とかで片付けられるんだろうけど、じゃあそこまで外に居る理由はって訊かれたら、適当な予想でしか語れない。

 大体、城にも入れる存在で夜に徘徊する人、しかも声をかけても返事もしない人なんて想像もつかな───……恋? いや待て、美羽が見つけた時にはまだ恋は到着してなかっただろ。

 じゃあ幽霊……触れたっていうしなぁ、じゃあ質量を持った霊!?

 ……少し冷静になろうな、俺。

 

「うーん……なぁ美羽」

「ほわ? なんじゃなんじゃっ? 妾に何か用かのっ」

 

 用事を向けられることが嬉しいのか、姿勢を正してまで俺に向き直る美羽さん。

 ……これがあの袁術だっていうんだから……何度見ても戸惑いを隠せない。

 っと、それよりもだ。

 

「今日、ちょっと待ち伏せしてみようと思うんだ。美羽はどうする?」

「まちぶせ? 何をじゃ?」

「もちろん、冷たい女」

「ひうっ!? ぬ、ぬぬぬ主様は正気なのかっ!? あのような得体の知れぬ者を待ち伏せるなどっ!」

「確かに得体は知れないけどさ、正体が解らないとずっと気になったままだろ? 街でも発見報告があるんだし、民の悩みの解決にも繋がる。せっかくの祭りなのに、そんな気分で騒いでちゃ気分も冷めるよ」

「うみゅううぅぅぅ……」

 

 へにょへにょとしぼんでいく。

 部屋に入った時の勢いは、既に何処にもないようだった。

 そんな美羽の頭を撫でて、大事な仕事を言い渡す。それはもちろん部屋を守ること。

 

「うみゅ……わかったのじゃ」

「いいか? 鍵をかけて、誰も入れないようにするんだぞ? で、誰かが来たらまず、合言葉は? って訊ねる」

「あ、合言葉……?」

「ああ。で、大体は答えられないか適当に答えるか、“遊んでいないで開けなさい”って怒るかのどれかだと思うから」

「…………最後が誰なのか、どうしてかわかるの……」

「はは、まあこれはまずないだろうから。合言葉の答えは……そうだな、“アフロと軍曹”……ほ、他のにしような。じゃあ……」

 

 美羽に耳を貸してと促して、そっと口にする。

 それを聞いて、こくこくと頷く美羽の顔は真剣そのものだ。

 

「う、うむ。答えられぬ者や間違った者は入れてはならぬのじゃな?」

「ああ。じゃあ、頼んだぞ?」

「うむっ! …………うむ? のう主様? よもやもう行く……のかの?」

「え? あー……」

 

 寝るにしては少しだけ早く、眠りについた人もまだ少なそうだ。とはいえ何もせずに待っているのも時間がもったいない気がする。

 仮眠を取るにしても起きれる自信が無いし、アラーム機能をつけて寝たところで、恐らく途中でバッテリー切れになる。

 

「美羽、ちょっといいか?」

「うみゅ? おお、これじゃな」

 

 美羽の手の中の携帯電話をひょいと取って見てみれば、いつの間にかバッテリーは切れていた。……アラーム作戦、する気もなかったけど却下状態。

 となれば、みんなが寝静まるあたりまでは……

 

「よし美羽、久しぶりに話でもするか」

「……怖い話は無しなのじゃ」

「もちろん。じゃあ着替えような」

「うむっ」

 

 美羽が着替えを始める中、俺は後ろを向いてこれからのことをメモに書いていく。

 とりあえず話をして美羽を寝かせて……服は制服のままでいいだろう。むしろこれじゃないと俺が不審者として見られそうだ。

 で、城を見て回ったら街にも行ってみて、と。

 

(報告があったのは街からだけで、城の中で見たのは美羽だけなんだよな)

 

 となると、街での発見例のほうが多いのだろう。

 なんだか予想がつく気もするが、だからって最初から疑うのは違う。

 現場を押さえた上で、実際にそうであったのならじっくり訊くとしよう。

 

……。

 

 ……。

 

「昔々あるところに、一人の少女が居ました」

「……? のう主様? 気になっておったのじゃがの、あるところ~とはどこじゃ?」

「天の何処かに存在すると言われる伝説の地、“アルト=コロ”だ。そこにはおじいさんやおばあさんはおろか、童話の元となる様々な人々が存在していると言われている」

「おお……そこは一つの国なのかの?」

「ああ。王様は裸の王様で、姫様は白雪姫を始めとした何人か。海には人魚姫という娘まで居るんだ」

「王様は随分と子沢山なのじゃの」

「俺も話しながらそう思ったよ……」

 

 もちろん作り話なのだから、遠慮もせずに誇張する。

 そうして話す世界が、少しずつ美羽の中で広がっていく。

 昔話は既に一つの世界となって構築され、国の名前はアルト=コロ。王は裸の王様で、娘や息子が王女や王子をやっていて、お菓子が動いたり人形が動いたり、隣国の悪い女王が毒入りりんごを手に悪巧みをしたりと忙しい。

 

「“あると=ころ”では、猫が靴を履いて戦うのか……! すごいのじゃあぁ……!」

 

 そして感心される長靴を履いた猫。

 あれ、ゲームにもなったりしたけど、話の内容って案外ひどかった……よな?

 童話は登場人物の一方の結末がやたらと無惨だったりするから、いくら悪いことをしたとしても冷静になると辛い部分がある。

 ともあれ、話を続ける。

 今日も思いつく限りの捻じ曲がった話を聞かせて、自分自身でもどこまで話が広がるのかを半ば楽しみにしながら、適当に繋ぎ合わせた話が夜中あたりまで続いた。

 そして……微かな話し声も人の気配も無くなった頃。

 

「くー……すー……」

 

 眠気に抗っていた美羽は静かに寝息を立てていた。

 冷たい女に気取られないために、燭台の火はとっくに消してある。

 そんな中での昔話は結構面白いもので、修学旅行などの夜を嫌でも思い出させた。

 

「よし……っと」

 

 静かに寝息を立てる美羽の頭をさらりと撫でて立ち上がる。

 一応木刀も手にして、気配を殺しながら外へ───って、あれ?

 

(しまった)

 

 美羽が寝てたら鍵も閉められないし合言葉も意味が無い。

 そんなことに今さら気がついて、自分も大分緊張していたんだなぁと、さらに今さら自覚する。

 ……大丈夫か? まあ、俺の部屋に侵入するヤツなんて早々居ないだろうし、居たとしても籠にナマモノをたくさん詰めたどこぞの軍師様くらいだろう。

 こくりと自分を安心させるために頷いてから歩く。

 扉を開けて、まずは通路の先の見張りの兵に軽く声をかけてと。

 

「北郷隊長? どちらへ?」

「眠れなくてさ、ちょっと散歩がてらに体を動かしに」

「ああ、それで木刀を。お気をつけて。その、あまり大きな騒ぎを起こさないでくれると助かります」

「いや、ははっ……それはもちろん」

 

 お互いに苦笑してから別れ、通路の先へ。

 なんだかんだとみんなに振り回される俺を知っているからこその苦笑。

 で、騒ぎを起こせば迷惑被るのは兵だって同じであり、俺が振り回される事態でも迷惑のいくつかを被っているだろう。

 それでも苦笑で済ませられるのは、好きで振り回されているわけじゃないからとわかっているから……なのだろうか。

 

(違うか)

 

 なんだかんだで、友達感覚に近いのだろう。

 顔を合わせればお互い愚痴ることもあるし笑うこともある。

 サボって買い食いすることだって───…………

 

「………」

 

 いつかそうして一緒に笑っていた兵のことを思い出す。

 あの日買い食いした桃が美味しかった。美味しければ美味しいほど、桃を見るたびに思い出す。

 

(……俺、少しは前より国のために生きることが出来てるかな)

 

 もはや話すことも出来ない彼を思い、心の中で呟いた。

 返事なんて当然ないけど、自分の思い出の中のあいつは最後まで笑顔だったから、俺も笑って歩くことにした。

 

……。

 

 城を歩き回っても不審なものなど何も無い。

 美羽が見たという場所に行ったところで何も無く、巡回している兵を何人か見つけるだけだ。

 そんなみんなと軽く挨拶をしながら擦れ違い、やがて城の見回りを終える。

 

(会おうと思って会えるものでもないよな、やっぱり)

 

 溜め息ひとつ、ならばと街へ向かおうとするも───さすがに門番である兵に止められる。外に体を動かしに~なんて言い訳が通るわけもなく。

 

「ほら、裏通りの壁、壊れてる部分があっただろ? その視察に……」

「こんな夜にですか?」

「夜だからこそだよ。誰かが穴を広げたりしてるかもしれないだろ?」

「む……」

 

 咄嗟だったけど、思い出したことを口にする。

 壁をどうするかってことは話し合ったことがあったし、穴のことはむしろ兵の方が知っているくらいだろう。

 

「わかりました。北郷様にはいろいろとお世話になっておりますし。ただ、危険なことは避けていただきたい」

「当たり前だって。俺だってそんな、自分から危険に飛び込むようなこと、したくもない」

「では今回のことは?」

「……視察ってことで」

「……はぁ」

 

 やっぱり苦笑で見送られた。

 結局兵もわかっているのだろう、木刀持って外に出る理由なんて、ここ最近ではそれくらいしか理由が追いつかない。

 兵の中にも冷たい女を見た者は居るのだろう。

 ただ、それを上に報告するのはどうかと見送った……か?

 

(なんにせよ、これで見つけられるのが一番だな)

 

 見つけた先でどうするのかは、正直自分でもよくわかっていない。

 会って話をするのか、それとも話すら出来ない存在なのか。

 そもそも発見することが出来るのか否か。

 ともあれこうして、静かで誰も居ない街までやってきたわけだが。

 警邏で見慣れているはずの景色も、こうまで人が居ないと不思議と別の場所のように思えてしまう。

 

(今日は真桜が夜間警備長だったよな)

 

 屯所に居るのか、それとも見回りをしているのか。

 問題らしい問題もないのか、今のところは静かなものだ……って。

 

「………」

 

 こしこしと目をこする。

 で、改めて前方を見る。

 …………なんか、ぎっしょんぎっしょんと歩いてる物体を確認した。

 

「…………アレ?」

 

 え? あの……えぇっ!?

 あれって……あれぇ!?


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