……コトが治まったのはそれからしばらく後のこと。
治まったというからには終わっていて、とりあえず絡繰華琳様は見事に大破。
ようやく追いついた頃には、春蘭が涙をこぼしながら、壊れた絡繰の傍に立っていた。
で……問題なのが……
「どーすんだこれ……」
「どないしょ……」
壊れた街の修理……だよなぁ。
衣服や毛髪などはもう絡繰から剥いであって、顔は無惨にも潰されてるからこれが華琳似の絡繰だったと解る者は居ないだろうが……これはなぁ。
「せや、こないな時こそ園丁†無双のみなさんに───」
「やめとけ……それこそ華琳に大激怒される……」
「せやなぁ……───お? と、なると…………自分らでやるしかない、わけやな……」
「だよなぁ……」
ちょっと気が遠くなった。
久しぶりに走り回ることが出来たといっても、これはあんまりだ。
神よ、俺があんなことを望んだからこんな試練をよこしやがったのでしょうか。
謝りますので平穏を返してください。
「うだうだ落ち込んでても仕方ないか。怒られるのは確定なんだから、さっさと修繕作業に入ろう」
「えぇえ~っ? ね、寝て朝になってからにせぇへんの~っ?」
「誰の所為でこんなことになったと思ってるんだよっ!」
「隊長」
「作ったのが春蘭と真桜で氣を入れたのが俺! 三人の責任!」
「え~……? やけど隊長があんな氣ぃ込めな───おあっ? た、たいちょ?」
ごねる真桜の両肩に両手を置いて、息を吸って吐き、極上の笑みをあなたに。
「や・る・よ・な……!?」
「あ、や、ちょ、いたっ、いたたっ、たいちょ、いたいっ」
加えて言うなら手には不機嫌を具現化したかのような力が込められ、真桜の肩を圧迫した。何をやるのも、何を試してみるのもべつに構わないが、自分で言い出しておいて、逃げ道を塞いで手伝わせておいて、何かが起きれば逃げようとして、挙句に手伝いもしないのはいただけない。むしろいい加減、堪忍袋の緒が切れるわ。
力で解決しているみたいで嫌な気分にはなるが、だからといってこれは絶対に言葉じゃ納得しないパターンだ。
「うう……なんかあれやな……帰ってきてからの隊長は暴力的やな……」
「最初から言葉で受け取ってくれてれば、脅す必要もないってわかってくれよ頼むから」
出来れば脅しめいたことなんてしたくないんだからと続けて、ともあれ歩き出す。
修繕用の道具を隊舎から持ってこないといけない。
「んー……そらそうやけど、こう……妙なむず痒さっちゅうかなぁ……ほら。なんや知らんけど隊長のこと困らせたくなるんよ、最近」
「全力で“なんで”と問いたいんだが」
「自分でもよーわかられへんねよなぁ……あ、あれとちゃう? 構ってほしくて悪戯する子供みたいな」
「………」
その言葉にポムともう一度肩を叩き、目の前に広がる現実を見てもらった。
「……あー……悪戯のたびに街壊してたら、首がいくつあっても足らんわ……」
「だろ……?」
同時に出た溜め息が、まだ暗い空へと消えたわけで。
構って欲しかったら是非とも口で伝えてください。こんなことになるくらいなら全力で構うから。
そんなこんなで始まった作業は夜通し続き、直した先から春蘭が壊したりするのでこれが案外捗らなかったりする。
「強度はしっかりしているんだろうな」とか言って殴ったりするのだ。
ああもう、華琳様人形を作る時は恐ろしく集中するんだろうに……。
「うあぁあ~……隊長~……ウチもう眠い~……」
「それは俺も同じだけどな。真桜、朝からの仕事の都合は?」
「うっ…………や、休み……」
「よし。じゃあ頑張ろうな」
「あ~ん! こういう時って、なんでこう巡り合わせが悪いんやろなー!」
たぱーと涙を流し、しかし黙々と作業を続ける。
もはや口を動かしている暇があったら手を動かして、早く終わらせて休みたいという気持ちしかなかった。俺も、きっと真桜も。春蘭は……どうなんだろうか。
懸命に作業を続け、あれだけ騒いだのに民が起き出して来ないことに安堵しながらの作業……だったのだが、本当に神様ってのは冷たいお方でいらっしゃる。
「ん、んんー……んあっ!? 雨!? 雨降ってきよったで隊長!」
「神よ……」
空を見上げながら呆然とした。
いやいや、それこそそんなことをしている暇があるならだ。
しかし壊した場所と人手があまりにも見合わず、そうこうしているうちに朝が来て───
-_-/一刀
で、現在に至るわけだ。
途中から蓋を差しながらの作業になったために、進んではいるけどもたもたとした速度での修繕は続く。
無言で参加してくれた華雄や思春には感謝してもしきれない。
そして当然、華琳からは激怒が待っていたわけで。
本当に馬鹿なことをした。
「ごめんな、華雄、思春。こっちが勝手にやって勝手に壊したのに」
「貴様の周囲で騒ぎが起きるのは、もはや呉に居た時からわかっていることだ」
「ソ、ソウデスネ」
思えば思春との付き合いも長いなぁなんて今さらなことを思いつつ、熱心に作業を続ける華雄に習って作業を続ける。
壊れた部分に木材をあてがい、釘を打ち込む。
単純なものの、これが結構な重労働で、しかしながら“これも鍛錬”なんて思うと面白くも感じたりする。単純だな、なんて自分を笑いながら、やっぱり作業は続いた。
「うーん……もうちょっと衝撃に対する耐性もつけといたほうがいいかな」
「壁にか?」
「いや、俺自身の話。鎚打ってるとさ、結構振動が来るだろ? そういうのを受け続けても手を痺れさせて武器を落とす~なんてことがないように」
言ってはみたものの、それって人体の構造上可能なのだろうか。
俺の場合、手が痺れても氣で無理矢理落とさないようにしてるからなぁ。
「………」
考えるのをやめて鎚を振るう。
あちこちで聞こえるトントンカンカンと釘を打つ音を耳に、賑わい始めた街を横目に。
ただ、その賑わいも雨の下では晴天の時ほどではない。
「はぁ……もはや将が街のどこかを壊してしまうのが当然みたいになってるのが悲しい」
「……今さらだな」
「ああ、今さらだな」
何気なく呟いたことに、思春も華雄もあっさりと頷く。
乱世の頃を思えば、あの凪だって悪を働いたものを捕まえるために、氣弾をブッ放してどこぞの店の看板とか破壊していたのだ。改めて言うほどのことでもないのかもしれない……と納得してしまう自分も少し悲しかった。
だってさ、民がさ……「おや、またですか」とか気軽に声をかけてくるんだよ。悲しくもなるだろ……?
「もし仕事が別にあったら、そっちを優先させてくれな。こういう単純作業なら、俺一人でも頑張れるから」
「そして風邪を引くんだな?」
「いや、引きたいなんてこれっぽっちも思ってないからな?」
思春の呆れた視線が俺を射抜く。
蜀で風邪を引いてしまった例がある手前、大丈夫なんて断言は出来ないのが情けない。
……よし、だったらそんな過去を払拭するためにも気合いを入れて───!
(なんて意気込むと絶対に風邪を引くから、適度に頑張ろう)
各国を歩く中で、少しは世の歩き方というのを学んだと思いたい。
そんなわけで作業は続く。
雨は時折に激しくもなり静かにもなり、急に吹いた突風に蓋を吹き飛ばされながらも作業を続行。そんなド根性劇場を面白がってやってきた鈴々や猪々子も混ぜて、なんかもう濡れても構うかとばかりの修繕作業が続いた。
こうなると子供の意地をぶつけたような状況だ。
「なんかこうちまちましてても面倒だなー……よし、斗詩を呼んで金光鉄槌でどかーんと」
「壁がまた壊れるだろ!! 釘を打つどころじゃないよそれ!」
「突撃! 粉砕! 勝利なのだ!」
「突撃はいいけど粉砕はダメ! ていうかこの状況で、いったいなにに勝ちたいんだよ!」
「よくわからないけどとりあえず負けるのは嫌なのだ」
「………」
似たような理由で絡繰華琳様に氣を送り込んだ自分では、もはやなにも返せなかった。
そうなれば作業をするしかなく、コロコロと気分を変える空の下、いつの間にか賑やかになった修繕作業は……終わりを告げた。
ハッと気づいてみれば結構な数の将。工夫に頼むわけでもなく、あくまで罰としての作業だったものの、各国の将たちがなんのかんのと手伝ってくれたらしい。
「かえって工夫の仕事を奪っちゃったんじゃないか」と呟く中で、いつの間にか傍に居た冥琳が「それは違う」と……独り言を拾った。
「冥琳? 違うって……」
「頻繁にやるのなら奪うことにもなるが、民の仕事を知るのも上に立つものの務めだ。私たちは……少なくとも私は、北郷。お前にはそういう部分で期待をしている点もある」
期待? ……ああ、支柱としてのか。
警備隊として街を見たり、各国に回って民と接触したりをしていたことが多いからこその期待……そういう意味でいいんだよな?
「しかし、慣れない作業を急にするものではないな。肩に響く」
あ。そういえばここに居るってことは、冥琳も作業を手伝ってくれていたってことか。
軍師が鎚を打つ姿……想像してみたけど貴重だ。しかもそれがあの“周瑜”とくる。
「なんだったら鍛錬が許可されたら一緒にやる?」
「ああ、それもいいかもしれん。こちらにも暇を持て余して酒ばかり飲んで居る馬鹿者が居るのでな。そいつを引っ張って付き合わせるとしよう」
それが誰なのかを瞬時に理解してしまうあたり、彼女の勘の鋭さは理解出来ずとも、彼女の行動自体はわかりやすい。
「で、その誰かさんは───……ごめん、やっぱりいい」
「ああ。あれの勘は想像の外を行くが、行動自体はわかりやすい。問うまでもないだろう」
どうせ何処かで酒を飲むか騒いでいるんだろう。
出る溜め息は笑顔で。
苦笑ととれるそれも、すぐに笑いに変わり、くっくと肩を震わす冥琳とともに笑った。
雨もすっかりと止み、晴れた空を見上げてみる。
綺麗な青がそこにはあり、ようやく本来の許昌の賑わいを見せる街の中で、俺は───
「さて。随分と汗を掻いてしまったな。雨で衣服もびしょ濡れだ」
「あ、っと。華琳がお風呂の手配してくれてる筈だから、先に入っちゃって。俺は点検してから行くから」
「精が出るな。手伝いたいところだが、お言葉に甘えよう」
くすりと笑み、冥琳が歩いてゆく。
話を聞いていたらしい他のみんなも立ち上がり、俺はそれを見送りながらも歩き───作業が終わっても一緒に作業をしていた将と、壁の強度についてを話し合っていたみんなに声をかけて、それと一緒に点検を済ませる。
「あ゛~……なんとか穏便に済んでよかったわー……。華琳さまにバレた時は心臓飛び出るか思たもん……」
「散々と人の所為にしようとしておいて、よく飛び出るだけの心臓を持っていられるよな、お前……」
体内にしっかりと根を張って、ちょっとやそっとじゃ飛び出なさそうだ。
そんな俺の言葉に真桜はにししと笑い、「済んだことやしもうえーやん」と言う。
……まあ、箇所は多かったものの本当の意味での“破壊”じゃなかったことに感謝だ。
家とかを完膚なきまでに破壊されてたら、さすがに怒られる程度じゃ済まなかった。
「ほら、そんなことよりも風呂。ちゃんと温まってこい」
「おー。あ、なんやったら隊長も一緒に入るー?」
「他国のみんなも居るのにそんなこと出来るか。いーから行ってこい」
またしてもにししと笑いながら言う真桜に、溜め息と一緒に言葉を返す。
しかしハッと気づいてみれば、その言葉が明らかにおかしいことを自覚する。
顔に熱が篭るのを感じながら訂正しようとした時にはもう遅い。
「おーなるほどなるほど、他国の将がおらへんかったら一緒に入りたかったと。最近大人し思とったのに、やっぱ隊長やなー」
「い、いや違っ! …………はぁああ……」
一瞬、違わないのかもとか考えてしまった。
やっぱりいろいろと溜まっているのだろうか。
「お? 隊長ー? どこいくんー?」
「……久しぶりに川。昼以降の仕事にはちゃんと間に合わせるから」
少し精神統一が必要だ。
鍛錬とは別に、川になったつもりで氣を鎮めよう。
もちろん、点検が終わってから。
歩きながら振り返り、城へ向かおうとする真桜に手を振ってからまた歩く。
(さて……今日は魚を掴めるくらいまでいけるかな)
そんなことを考えながら点検を済ませ、部屋にバッグを取りに行ってから向かった。
……ちなみに。
雨の所為で川が増水していることに気づいたのは、川に辿り着いてからだった。
氣を静かな川の流れと同調させようと思っていた俺にとって、その荒々しさは今の自分を見ているようで……少しだけヘコんだ。
ある日、僕の中の脳内ジョースター卿が囁いたんだ。
なにジョジョ? 時間がない?
それは時間がないと思い込んでいるからだよ。
逆に考えるんだ。
睡眠時間なんて最初からなかったんだと考えるんだ。
アー! ナルホドー!!
というわけで、良い分割ラインがなかったために妙な文字数に。
いえ、この話自体が2万5千とか分割しづらい字数な上、お話の中でも分割しやすい部分がなかったもので。
よぅし予約投稿セットイン! ラジャービュー!
いってきまーす! ははははは! 眠い! 眠いよムーミン!