真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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71:三国連合/氣の扱い方【基礎強化編】①

117/ガンバルマン

 

 ギッ……ギッ……ギッ……ギッ……!

 

「いっちにっ、さんっしっ……!」

 

 朝が来た。

 快晴の空から降りる陽の光にあてられながら隊舎から戻った俺は、きたる武道会に向けての鍛錬のため、中庭に来ていた。

 自室の寝台に比べると硬さを感じる隊舎の仮眠室は、なんというかこう……懐かしい香りがしたりするのだが、いかんせん体が痛くなることがある。そんな体を伸ばすように準備運動から始めているわけだが……屈伸運動がやけに気持ちいい。バッグを持ってきたこともあって、胴着にもきっちりと着替えての朝の運動。それだけでも気持ちのいいものであるわけだが。

 

「よっし! 準備運動終わり! 走るぞ~♪」

 

 華琳から鍛錬禁止が命じられてから数日。

 うずいていた体を思い切り動かせることもあって、妙なテンションのままに中庭の端の石段を登って外壁へ。そこで見張りをしていた兵に朝の挨拶をしてから早速走る───のだが。

 

「ほっ、とっ、あ、ぉおっ!? とわぁっ!?」

 

 一歩、二歩と加速した途端に足がもつれた。

 慌てて体勢を立て直して、その場で立ち止まる。

 

「…………あれ?」

 

 氣の調節が上手くいかない。

 いままで通りに足に氣を込めて走ろうとしたのだが、今まで通りに動いてくれない。

 

「い、いやいや……そりゃ華佗には持て余すだろうとか言われたぞ? でも一歩目からこれはないだろ……」

 

 普通持て余すとかって、少しは今まで通りに出来たのに、一定以上いくと暴走~とかさ、ほら…………ねぇ?

 

「………」

 

 両足に氣を送る。

 少しだけピリッとした痛みが足に走った。

 構わず続けると、胴着の間から輝きが漏れた。……不気味だった。

 

「うーん……凪の氣が炎みたいに赤いように、俺の氣は光る……のか?」

 

 でも剣道袴の間からモシャアアアアと漏れる光は不気味以外のなにものでもない。

 インテリアとかでこういうのがありそうだとか考えると余計だよ。

 体内からは出さないようにしような。じゃないと、相手に次の行動を当ててみてくださいって言ってるようなものだ。

 

「ともあれ、まずは一歩」

 

 不思議な金色の氣。

 攻守……天の御遣いとしての氣と、普通の北郷一刀としての氣が混ざり合ったもの。

 それが一緒になった金色の氣ときちんと付き合うのはこれが初めてなのだ。

 急に走らず、まずはゆっくり慣れよう。

 大丈夫、人間は順応できる生き物さ。

 

「二歩~……」

 

 そろりと歩く。

 というのも、氣の感覚と足自身の感覚がひどく一致しないのだ。

 足の感覚で持ち上げても氣が重りのようにずっしりと圧し掛かり、ならばと氣の感覚で持ち上げると足の感覚が追いつくより先に持ち上がる感じ。結果的に素早く動けるのだが、麻痺した足を地面に下ろしたみたいに心許ない。下ろして一瞬置いてから“足が下りた感触”が足に届くのだ。これは怖いとばかりに別の動かし方を探してみれば、今度は氣が先走って体があとから動く始末。

 普通に歩く分には問題ないのに、鍛錬となるとちぐはぐになる。

 

「怖っ……!」

 

 なので一歩一歩慎重に。

 できるだけ足と氣の感覚を同調させて、一歩二歩と歩く。

 事情を知らない人が見れば、足場がきちんとあるというのに綱渡りの練習をしている人のように見えることだろう。でも真剣なんですわかってください。

 

「……………」

 

 “歩く”なんて行為にここまで集中したのはどれくらいぶりか。

 もはや自分では思い出せもしない、初めて立った時や初めて歩いた時にも匹敵するのであろう集中。それを以って、一歩一歩を───

 

「あっ、お兄ちゃんなのだっ!」

「あ、兄ちゃん!」

 

 ───ぽてりと踏み出した時。

 見下ろす中庭の景色に、立ち木の下の俺のバッグ近くに立ち、俺へと手を振る小さな猛将さんたちから……元気な挨拶がありましたとさ。なんだろう。とっても嫌な予感がする。

 そんな予感を抱きながら、ズドドドドと石段を登ってくる二人……鈴々と季衣を見る。

 元気に駆け寄ってきた彼女らは、俺が胴着姿なのをきっちり確認するやお互いを睨み始め、「足の速さで勝負なのだー!」とか「お前なんかに負けるかー!」とか言い出す。そんな彼女らの前に立つ僕はといえば、「ほ、ほどほどにな……」と言った途端にがっしと両手を片手ずつに掴まれ……逃げ道を失いました。

 

(───否!)

 

 諦めたらそこで終わり!

 ならば説得を───

 

「鈴々、季衣、あのさ───」

「お兄ちゃん、早速走るのだ!」

「え? あ、お、おう? えと、あのな?」

「むー! 兄ちゃんはボクの兄ちゃんだー!」

「え、ちょ、季衣? あの───」

「へへーんっ! よくわからないけど難しい話で三国のお兄ちゃんって決まったのだ! もう春巻きだけのお兄ちゃんじゃないもんねーっ!」

「こ、このー!」

「えっと……あのな、二人ともぉおっほぉおっ!!?」

 

 二人が走る。俺の手を掴んだまま。

 肩が抜けるんじゃないかってくらいのスタートダッシュに思わず奇妙な声が出るが、そんなことを言っている場合じゃない。倒れてしまえば西部劇であるような、縄で縛られて馬で引きずられるような状況に───! やっ……そりゃあもう霞にやられたことあるけどさ! やられて嬉しいものじゃあ断じてない!

 

「ふたっ! ふたりともっ! ちょっ、話聞いてっ! 俺今っ───キャーッ!?」

 

 角で二人が曲がる。

 石の床を蹴り弾き、半ば一歩一歩で浮いているような状況の中、遠心力ってものに振られた俺は見事に宙を浮く。なのに二人はそんな負荷も知ったこっちゃなしなままで走り続け、やがて速度という壁に足を後方に投げ出してしまった俺は、腹で地面を滑走することとなった。

 

 

  ガリガリガリガリギャアアアァァァァァァ……───

 

 

……。

 

 

 ……さて。馬ではなく人に引っ張られて滑走なんていう、普通じゃお目にかかれないような体験をしたこの北郷めでございますが、なおも競うように走る二人をなんとか止めることに成功。

 現在は中庭の芝生の上で正座をしている二人を前にこちらも正座し、説明をしているところである。

 

「うぅうう~っ……に、兄ちゃ~ん……これ、足がヘンな感じになる~……」

「だだだ、だらしないのだっ、りりり鈴々は平気なのだっ!」

「むっ! だったらボクも平気だもんねっ! お前なんか声が震えてるじゃないかっ!」

「そんなことないのだっ!」

「そんなことあるよーだっ!」

『うーっ!!』

 

 ほうっておいても元気な二人の額に、まずは痛くもない手刀を落とす。

 きょとんとしてこちらを見る二人をやんわりと叱り、隣同士で睨み合う状態から元の姿勢に戻ってもらう。

 

「と、いうわけで。今の俺は前みたいに走れないんだ」

「そんなの走ってれば直るのだ」

「そうかもしれないけど、走ってないからね? さっき確実に浮いてたからね? 俺」

「えー……? じゃあ走れないの?」

「それをさっき、なんとか慣れようとして歩いてたところだったんだが……」

 

 パワフルなお子さん二人に引っ張られて宙に浮き、地面を滑走しました。

 あれでどう慣れろと仰るか。

 

「慣れるまでに時間かかりそうだからさ、鈴々も季衣も、自分の好きなことをしててくれな? 情けない話だけど、今のままじゃ氣を込めて走ることも出来ない」

「だったら鈴々が手伝うのだっ! そんなの、うーんってやってばーんってやればすぐなのだっ!」

「………」

 

 ばーん、って音が、俺が壁かなんかに当たる音として脳内再生されました。

 “のろのろ歩くから出来ないのだ!”なんて言って散々引きずり回されて、どこかからご飯ですよーとか言われた途端に手を放された俺がどこぞの壁にばーん、って。

 

(どうしよう……)

 

 頭を抱えた。

 いや、申し出は嬉しいです。嬉しいんですが……いや、季衣もそんな張り合うみたいに手をあげなくていいからっ!

 

「兄ちゃん……もしかして嫌……? 迷惑かな……」

「へっ? あ、いやっ、そういうんじゃなくてなっ!?」

「だったら決まりなのだっ!」

「うえぇっ!? いやっ、そういう意味でもなくてだなっ! やっ、ちょっ、やめっ……引っ張っ───おぉおあぁあーっ!?」

 

 鈴々が立ち上がろうとする動作と一緒に、俺の手首をわっしと掴んで一気に地面を蹴る!

 その速度は凄まじく、やはりスタートダッシュから弾丸の如きスピードを見せ、だがしかし足が痺れていたらしい彼女は足の違和感に襲われてあっさり転倒。

 

 ……これは、小さな猛将の勢いの分だけ引っ張られた俺だけが宙を飛び、大地に舞い降りた伝説を綴った物語である。

 

……。

 

 ぴくぴくぴく……。

 

「……とにかく。まずはゆっくり始めるから、無理矢理引っ張らないように。いいな?」

「う、ううううん……わわ、わかったよ、兄ちゃん……」

 

 ちらりと俺の背後の芝生に倒れ、痙攣する鈴々を見て頷く季衣。

 ええはい、くすぐり地獄に遭ってもらった。足が痺れてる所為で逃げられなかった彼女に、俺は容赦無くくすぐりと足をつつくという地獄を味わってもらった。地味ながら、相当効いたことだろう。

 こういう時はきちんと罰を与えなければ学びません。

 

「ん……」

 

 そんなわけで立ち上がり、走れないんじゃ意味が無いってことで中庭で歩行練習。

 氣を足に収束させると歩き始めるんだが、やはり感覚がおかしい。

 

「よっ、ほっ……」

 

 むう。のっそりのっそりとしか歩けないもんだから、少し横着して引きずるように歩いてみる。……氣で動かすってイメージが無い分、結構楽だった。

 

「………」

「?」

 

 正座から足をくずした季衣が、足を庇いつつ俺を見る。

 鈴々は変わらずぐったりとしていたが、そんな二人に笑いかけ、思いついたことをやってみた。引きずる、って意味で思い出したアレ───ムーンウォークである。

 

「おおおおっ!? 兄ちゃんなにそれ!」

「歩いてるのに後ろに下がってるのだ!」

 

 好評だった。

 ぐったりしていた鈴々が活力を無理矢理得て、飛び起きるほどに。

 ……いいか。このまま座りっぱなしじゃ二人も楽しくないだろうし、どうせ歩く練習からしか出来ないんだから楽しみながら慣れていこう。

 

……。

 

 二人にコツを教えてしばらく。

 ようやく歩く速度が少し増してきたかなというところで明命が登場。

 元気に手を振る彼女に手を振り返すと、奇妙な動きをする季衣と鈴々を見てきょとんと首を傾げた。

 

「あの。一刀様? あれはいったい……」

「特殊な歩き方の練習。退屈だろうから教えたんだけど、意外なほどに熱中してる」

 

 真剣な顔でムーンウォークに取り組む二人は、我こそが先に会得するのだといった気迫をずっと保ったままで挑戦を続けている。

 

「はあ……では一刀様も?」

「あ、いや、俺は普通に歩く練習だよ。氣の使い方をまた一から勉強してるんだ」

「氣の……」

「そ。困ったことに、以前の感覚だと上手く扱えない状態になっててさ」

「………」

「明命?」

 

 じいっと俺を見てくる。

 俺、というか俺の胸の部分。そこらは丁度華佗に鍼を落とされたところで───え? もしかしてなにかある?

 

「そういえば、一刀様から感じる気配が変わってます」

「え……そうなのか? 自分じゃわからないんだけど……」

 

 手の平を見てみたところで、当然のことながらなんにもわかりません。

 収束させれば輝くだけだ。それは確かに変化だろうが、収束させなきゃ見えないんじゃあ明命が見ているものと自分のものは違う。

 

「はい。どのように、と言われると少し説明しづらいのですが」

「へえ……」

 

 わかるもんなんだな、そういうのって。

 っと、せっかくだし少し訊いてみようか。明命だったらこんな状態の時の上手い体の動かし方とか知ってるかもしれない。なんだかんだで、“気配”の扱い方の師匠だもんな。

 

「明命、ちょっと時間あるか?」

「? はい、お昼まではお祭りの準備を手伝うので、あまり多くは取れませんが」

 

 訊ねると笑顔で応えてくれた。

 そんな彼女に現在に至るまでの経緯を説明し、真面目に聞いてくれることに人の温かさを感じつつ───

 

「……ふぅ……」

 

 ───現在に至る。

 “ではこれでっ”と言って駆けていった明命に感謝を投げ、“いえいえですっ、お役に立てたのならっ”とやはり元気に駆けていく姿を見送ってしばらく。

 ようするにあれだ。

 今は体が、突然合わさった二つの氣に戸惑っている状態なので、それを慣らしてやる必要があるのだと思う、だそうだ。

 なるほど。確かにそれはそうだ。

 一番効果的なのはやはり基本。自分が苦に感じない程度の日常的な行動を、氣とともにやってみるのがいいと思いますです、とのことなので。

 

「ふっ……くぅう……」

 

 ストレッチをやっている。

 体の柔らかさは必要なことで、鍛錬出来ない日でもやっていたことだから、ある意味で日常的だ。歩くことはしないのかと言われれば、まあ……赤子だって立つための筋肉が出来てから立ち上がる。そのための地盤作りみたいなものだ。

 

「伸ばした部分にもきちんと氣が籠るように~……はぁああ……! すぅうう……!」

 

 息を吐ききってから吸う。

 肺には新鮮な酸素だけを取り入れて、残らないように。

 すると小さな運動でも体が刺激されて、汗が出てくる感覚。

 そんな感覚とともに体中を氣で満たしてやると、体がさらに熱を持つ。

 

「よっ……───っと」

 

 “筋肉がつかないのなら鍛錬も無駄じゃないか?”と言われれば、そりゃあ不安にはなる。が、いいのだ。それならそれで。氣がきちんと養われてるなら、それをきちんと扱えるようにするための鍛錬を。

 考え方によってはいつもと大して変わらないんだ。筋肉の代わりに氣を使ってるようなものなんだから。だから運動をすればするほど、氣で体を動かす方法に慣れてくる。そういった意味では、今やっているのも前にやっているのも、そう変わりはない。

 

「───ふっ!」

 

 柔軟が終われば木刀を手にして振るう。

 しかし一振り目でいきなりすっぽ抜けてしまい、頭上の空へと舞ったそれを小さな悲鳴とともにキャッチ。……危なかった。壊れたりしたらシャレにならない。

 

「…………歩こうか」

 

 歩く前に木刀を振るう赤子が何処におるか。

 じいちゃんならそう言いそうだなぁなんて思いつつ、木刀をしまって歩き出した。

 




「うおおおおおおおおおお!!」

 ……と。
 とりあえず師範出来るくらいには直ったと思われます。
 とりあえず初期化
 不具合発生
 初期化
 DVDドライブ動かない!
 キーボード認識しない!
 キーボ買ってくる
 一瞬認識したけどダメ
 説明書見ると、手順通りにしないと故障の恐れもあります
 やべェェェェ! 手順守るの忘れてたァァァァ!!
 それから手順通りにやり直してもやっぱり認識しない
 スクリーンキーボードさんでちくちくと作業
 結局認識しなかったのでまた初期化
 どのUSBもキーボだけ認識しないので、USBハブを買ってくる
 なんかこれつけて、そこにキーボのUSBつけたら前の使いやすいキーボも買ってきたキーボも絶賛認識中。金返せぇえええ!!

 そんな、時間と金の無駄の果てに帰ってまいりました。
 結局フリーズなんてしまいまま、現在快適にPCライフが送れています。
 やっぱり余計なデータがトラブルを起こしてたんでしょうかね。
 
 初期化したPC、起動速い! ステキ!
 立ち上がりまでがこんなに早いの久しぶりですよもう!
 なので重いバックアップデータ等は外付けHDDに入れっぱなしで、小説などに使うデータだけPCに移してやってます。
 辞書データはもちろん出力して取ってありますとも! これ忘れたらシャレになりません。登録した1000文字以上が無駄になります。98時代から愛用している辞書データなので、これ無くなったらキミだけの堕落スイッチが押されます。

 というわけで張り切って更新していきましょう。
 ……僕の張り切りと現実の時間が一致するかって言ったら全然なんですがね。

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