真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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71:三国連合/氣の扱い方【基礎強化編】③

 そして瞬殺であった。

 

「なんじゃなんじゃだらしのない。随分鍛えておると聞いて期待していたというのに」

 

 芝生に仰向けに倒れ、ぐったり状態の俺を見下ろす祭さん。

 いえ違うんですと言ったところできっと聞いてくれはしないだろう。

 

「強くなるどころか以前より弱くなっておるじゃろう、これは」

「いろいろと問題が出来ましてね……」

 

 それも昨夜。

 いやぁ……まさか一撃も避けられずにクリティカルヒットするとは思わなかった。

 本当に瞬殺だったよ、情けないことに。

 

「氣の状態が変わったんですよ……それを今、体に馴染ませるための鍛錬をしてるところです」

「ふむ…………おう、なるほど。確かに感じる氣が変わっとるな」

 

 言いつつ俺の手首を掴んで引っ張ると、まるで布をパンと伸ばし広げるように俺を振るい、ドトンッと芝生に立たせた。

 いきなりのことにカクンと足が崩れかかるが、慌てて体勢を立て直して瞼を瞬かせる。

 

(えっ……えぇえ……!? 片手で人を立たせるって…………えぇえええ……!?)

 

 何者ですかあなたは───……呉にその人ありと謳われた猛将でした。はい。

 

「北郷、氣が安定せんのはわかった。じゃが弓の方はどうなっておる」

「うぐっ」

 

 言われた言葉に返す言葉を失う。

 断じて言うが忘れていたわけではない。ないが、実力が伴わない。

 紫苑か秋蘭に習って弓を覚えるって約束だったのだが───結局のところ、てんで上手くなっていない。そのことを、出来るだけ穏やか~に説明して……みる、と……。

 

「ほう……? “儂の命令”を。こともあろうに儂の最後の命令を破ったと?」

 

 途端に周囲の温度が下がった! 気がする! こっ……これはちょっとどころかかなり危険なんじゃないか!? でもちょっと待とう!? 俺だって練習したよ! したのに、全然上手くならなかったんだって! そればっかりはなんというかその、こちらもいい加減才能問題なのではと頭を抱えたい状態でございまして! ───ということを必死に説明すると、祭さんは大きな溜め息を吐いた。

 

「向き不向きはそりゃああるじゃろうがな。どれ北郷。ひとつ射ってみい」

「射ってみいって……祭さん、その弓どこから出したのさ」

 

 背中に手を回した祭さんが、弓と矢を取り出してみせる。

 それを言ってしまえば、華琳や愛紗のほうがイリュージョニストって感じはするものの、タネも仕掛けもわからない人にしてみれば、どっちも謎なのは変わらない。本当にこの世界の住人は、いったいどこに武器を仕舞っておられるのか。弓ならまだしも、絶や青龍偃月刀は隠しきれないだろうに。

 

「……えーと」

 

 グイと押し渡された弓と矢を持ち、苦笑いを返す。

 射ってみいと言われても、果たして祭さんが満足する射を見せられるかどうか。

 ……───違う違うっ、見せられるかじゃなくて、今現在の自分の力を見せればいいんだっ! 妙な見栄は張らなくていいから、多少は積んだ経験の全てを今、この射に託す!

 

「───……」

 

 集中。

 体の中から射以外の意識を捨て去るつもりでまずは姿勢を正し、次に弓を手に矢を番え、離れた位置にある立ち木へと───

 

「シッ───!」

 

 ブンッ、と弦が揺れる音がする。

 矢を持つ手が戻されるのと同時に逸らした弓が、戻る弦の反動を持って矢を弾く。

 飛ぶ矢は真っ直ぐに立ち木へ。

 ドッ、と音を立て、文句のつけようもないくらいに立ち木の中心へと刺さっていた。

 

「……………」

「ほっ、なんじゃなんじゃ、口で言う割には中々やりおるではないかっ」

 

 後ろで祭さんが嬉しそうに言う中、俺の心は“ゲェーッ!”って言葉で満たされていた。何故って、こういう場面で大成功を治めると、後の鍛錬でも“ソレ”を望まれるからでございます。

 あ……ぁああもう……! なにもこんな時に的中めいた刺さり方を見せることないのに……! 

 

「いや祭さん? 今のは───」

「おう、言わずともわかっておるわ。たまたま上手くいっただけだとぬかすんじゃろう?」

「えっ……あ、うん。ぬかすけど、本当に本当だからね? 今までであんなに綺麗に当たったことなんて───」

「わかっとると言っとろうが、うだうだぬかすでないわ」

「だって祭さん絶対勘違いしてるでしょ!?」

 

 そりゃ刺さって嬉しいけど、素直に喜べない状況がとても悲しい!

 なので矢を抜いてもとの位置に戻り、もう一度番えて放つ。

 もちろん手は抜かずにきちんと集中して、中てるつもりで。

 するとなんの冗談なのか、またスコーンと刺さる矢。

 

「…………」

「♪」

 

 ちらりと見れば、両手を腰に当ててにっこりの祭さんが居た。

 まるで“染め甲斐がありそうな腕に育ってくれたものぞ”って感じに。

 ていうか……えっ!? なんで刺さるの!? むしろ中たるの!? 今まで全然ダメだったのに! 偶然にしたってあまりにもひどい! こんな時にばかり運がある自分が恨めしい!

 ───いや、違う。発想の転換だ。

 これはもしかすると氣の変化のお陰で別の方向にも集中の幅がついたのかも……!

 淡い期待を胸に、矢を抜いて戻り、集中して発射。それはあらぬ方向へと飛んでいき、茂みにサクリと突っ込んだ。「まあ……そうだよな……」と落胆とともに祭さんへと向き直ってみれば、じとぉお……っとこちらを睨んでくる始末。

 ほっ……ほら見ろ! 最初に上手くいくとろくなことになりゃしない! ビギナーズラックなんて大嫌いだ! どうせならもっと別の場で起こってくれればよかったのに!

 

「北郷。氣だけで体を動かしてみせい」

「エ?」

 

 心の神にどちくしょーと叫んでいると、そんな悲しみとは別の方向であろう言葉が投げられる。ハテ、と思いながらも、今日のうちに随分と馴染ませた“つもり”の氣を以って、体を動かしてみる。

 するとやはり、氣だけが先行し、体が後から引っ張られるように動くなんていう奇妙な感覚で動く体。

 そのことを祭さんに言ってみれば、「ほう」と感心された。

 

「祭さん? なんでそんな、珍しいものを見たみたいな顔で……」

「実際に珍しいからじゃ。北郷よ。氣の動きを抑えて体の動きに合わせる必要はない。むしろ体の動きを、先走る氣へ追いつけるように鍛えていけ」

「……? 氣の動きに体を?」

 

 言われている意味が、自分の理解に届かない。

 というか、この体はどうにも成長してくれないそうなのですが。

 

「なにも言葉通りに体を鍛えろと言っておるわけではない。……むぅ……そうじゃな。たとえばほれ、糸で繰る玩具の人形があるとするじゃろう。今のお主がまさにそれじゃ」

「人形? ……え? 俺が?」

 

 人形……人形?

 俺…………ア、アイアムドール! いや待て、妙なところへ跳ぶんじゃない北郷一刀。

 

「人形って、どういう意味? ……はっ! まさか日々を魏のため華琳のためとか言ってたから、そういう意味で───」

「落ち着かんかばかもんが」

「ご、ごめんなさい」

 

 叱られてしまった。

 でも人形か。今の話のどこに人形っぽい要素が?

 まさか自分の体を自分の氣が操ってるから~って意味で───……そうかも。

 

「えと。つまり俺自身が俺自身を氣で操る人形使いって意味で?」

「おう。そしてお主はお主自身を扱いきれておらん。以前のお主のほうが、まだ扱えておったな」

 

 それでも氣に振り回されているようではあったが、と笑いながら言う。

 まるで出来の悪い息子を笑うような、仕方のないって感じの笑み。

 だからなのか、傍に来てわっしわっしと髪を掻き混ぜるように頭を撫でると、背中をバンと叩いてきてからもう一度笑う。

 

「氣の扱い方が振り出しに戻ったようなもんじゃ。ならば、妙な癖がつく前にまた叩き直してやればいい。どれ北郷、一丁もんでやる。かかってこい」

「えぇっ!? か、かかってこいって……」

 

 双方ともに素手ですがっ!? そんなゼスチャーをしてみても「構わん」と返ってくるだけだった。……うう、ええいもうどうにでもなれだっ!

 

「っ───せいっ!」

 

 持て余したままの氣を以って駆け、拳を振るう。

 だが軽く、まるで飛んできたハエを叩くかのようにパンッと軽く逸らされ、次の瞬間にはもう片方の手が俺の頭へとデシッと落ちていた。手刀である。

 

「前にも言ったじゃろうが……踏み込みが足りん」

 

 ぽかんとしているうちに突き飛ばされて、たたらを踏みながらも戻される。

 ……だったらとばかりにもう一度殴りかかるんだが、避けられ、はたかれ、逸らされ、躱され。どれだけ放っても当たらない攻撃に意識が散漫し始めたところへ、拳骨がゴヅンッと落とされた。

 

「いあぁあっだぁっ!?」

「心を乱すでないわ、ばかもん」

「くっは……っつ~っ……!!」

 

 まるでじいちゃんを相手にしているようなやりとりだと思う。

 けどまあ、とにかく。なんかもう意地でも一撃当てたくなってきた。

 集中は乱さずに、当てることだけを考えて……

 

「だぁあーっ!!」

 

 殴りかかる!

 一撃目! 避けられる! じゃあ次! これもだめ!

 だったら次! 次! 次次次次次次ぃいいーっ!!

 ……と、殴りかかり続け、また集中が乱れたところへゲンコツが落ちた。

 

「いあぁあっだぁあーーーーっ!!」

 

 こ、この人どうかしてる! いくら猛将だからってここまで避けますか!? なんて言い訳をどうしようもなく言いたくなるほどにお強くていらっしゃる。

 当の祭さんはやれやれって顔で俺を睨むし……。落胆はわかるけど、そんなあからさまに溜め息を吐かれるとちょっと悲しいです、祭さん。

 でもこの溜め息と視線は、どっちかっていうと落胆じゃなくて…………あ。

 

(そっか。じいちゃんがよくしていた目に似てるんだ)

 

 そういう時はきまって、俺が言われたことを出来ない時だったり───……あ。

 

(……そうだったァァァァ!! 単純に殴りかかる鍛錬じゃなくて、これって氣の鍛錬だ! つか祭さん言ってたじゃん! 先走る氣の動きに体を追いつかせるようにって!)

 

 なのにただ殴りかかってただけだよ俺!

 そりゃあ氣も使ってたけど、さっきまでみたいに体に合わせて振るってただけだ!

 じゃあ、拳骨の痛みが段々と増してきていた理由は……えと。そのぉおお……?

 

「どうした。打ってこんか」

 

 片手で指をゴキベキ鳴らして、言葉とは裏腹にいらいらしてらっしゃる猛将がおる。

 あのぉ……祭さん? 目的変わってません? もう俺に拳骨落とすことだけに変わってません? もう逸らすよりも殴ることが目的になってますよね? そこでゴキベキ鳴らす意味、ないですよね?

 

(……うう)

 

 困った師匠を二人持った気分だ。もちろんもう一人はじいちゃんだ。

 溜め息を吐いて、それから空気を思い切り吸った。

 

(ん……)

 

 ……氣が先走るなら、その気持ちばかりが走ってしまうような場所まで、自分ってものを持っていく。リハビリ中の患者みたいな意識だ。

 思うよりも難しいことだろうが、やるべきことを知っているだけまだやりやすい。

 

(どうなるかなんて二の次だ。まずはやってみる。それを受け止めてくれる人へ向かう。余計なことは……この際無しだ)

 

 氣を練成。

 丹田に力を込めて、氣を充実させると全身に行き渡らせる。

 動作は小さく、行動は大きく。

 地面を蹴り、いつかのように一気に間合いを詰め───って、やっぱり体が遅れる! ……が、どうした! 遅れてもいいから構わず行く!

 

「……ふむ」

 

 対する祭さんはようやく退屈そうな顔を緩ませ、しかしながら氣の籠もった拳も軽々と叩き落とす。それは蹴りだって同じで、振るえば振るうほど容易く落とされた。

 

「ほれほれどうしたっ、てんで遅くて欠伸が出るぞっ」

「~っ……だったらいっそ本当に欠伸してほしいよっ、まったくっ……!」

 

 それなら少しでも隙が出来るってもんなのに。

 

(いや、とにかく集中! 当てることに集中して、一歩遅れて動く体をその集中に辿り着かせる!)

 

 振るっても振るっても、まるで見えない泥沼に体を押さえつけられているかのように、上手く動いてくれない体にもどかしさを感じる。いっそこの泥沼ごと振るえたならと思うほどにもどかしい。

 ……いつか、夢の中に居る自分が何かと闘っている、なんてものを見たことがある。

 その時もこんなふうに体が動かず、イライラが募って思い切る振るうと……その動作で自分自身が起きる、なんてことを体験した。面白い夢の中だと、どうにも体ってやつも反応してしまうらしい。そんなことを思ったいつかが、天ではあった。

 ……そんな夢も、ここ最近では見ていない。現実が楽しすぎるからなのか、見る余裕もないからなのか、夢を見られないほど体が疲れているのか。

 

「───! ふっ!」

「ほっ?」

 

 攻撃ばかりに意識が行っている中、振るわれた足払いに目を向けることなく足で押さえる。当てることを考えろ。その他の行動が邪魔でしかないなら、それを阻もうとする相手の行動も邪魔でしかない。

 泥沼は夢だ。

 視界に映らないものに惑わされるよりも、目に見える相手に届くことを考えろ。

 

「───」

 

 足払いを防がれたのが驚きなのか嬉しいのか、祭さんはニッと笑むと再び避けや払いに集中する。一歩遅れて出る行動は当たらないまま。ならば遅れるという奇妙な現象を利用した行動をとも考えたが、それじゃあ意味がないのを思い出す。

 そう。やることは一つ。氣に体を追いつかせて───当てる。ただそれだけだ。

 じゃあ体は成長しないのにどうやって追いつかせる?

 ……そんなもの、先走る氣ってやつで完全に自分ってものを操ってやればいい。動くのは自分。動かすのも自分。氣って糸で自分を操って、先走る糸の先へと突っ走る!

 

「はっ! だっ! せいっ! ふっ! くっ! しぃっ!」

「わっはっは、おうおう、さすがに体力だけは無駄についておるな。三日毎の鍛錬は変わらずにやっておったか」

「いろいろと問題もあったけどねっ!」

 

 体が成長しなくても、氣を満たした状態で動かし続けた体には氣脈がみっしりと通っている。お陰で体を動かすことも随分と綺麗に出来るようになったし、筋力をそこまで使わないから乳酸が発生するのも遅い。

 だが、今はともかく体で使える部分はとことん使う。

 そうしても全てを避けられ、当たりそうになればぺしんと逸らされ、一向に当てることが出来ない。ならばと躍起になって、一層に氣が走る位置にまで意識を連れて行こうとするのだが───思うだけで届くのなら、人生苦労などしないのですとばかりに進展しない。

 

(歩けるようになった……早歩きも出来る。走れるようになったし、今はこうして拳も振るえる。少しずつ操ることにも慣れてきてるんだろうけど、まだ足りない……!)

 

 拳を振るう。振るう振るう振るう。

 もはや弾かれるのが当然、避けられて当然の状況ともなれば、相手の安全などは頭から消える。暴力のために力は振るわないなんて考えも無い、ただ当てることに集中した頭は、少しずつだが遠慮って枷を壊してゆく。

 届け届けとばかりに振るう拳は相変わらず叩かれ、逸らされる。

 突きも、手刀も、肘打ちや裏拳はもちろん、蹴りにいたっては逸らされると同時に蹴りの勢いを利用され、くるりと後ろを向かされて背中をどすっと蹴られる始末。

 

「ふっ! はっ! はぁああ……っ!!」

「お、おっ、おおっ?」

 

 重く、熱い息を吐きながらも放つ連撃は止まらない。

 自分の体力……この場合、操る氣の自由が続く限りに振るい続けるつもりで、体を動かし続けている。そう思えば、走る時にも体力を使うというよりは氣で体を動かしていたことは正解だった。

 

(速く───)

 

 普通の速度じゃ逸らされる。

 余計なことはいらない、当てることだけを考えろ。

 

(もっと速く───)

 

 速く? ならば加速を使うか?

 

(もっと───)

 

 行使。───逸らされる。

 しかし目に見えて驚いた顔をしていた。

 少し嬉しい。と、調子づいてもう一度放ってみれば、逸らすのと同時に頭に手刀を……割りと本気で落とされた。

 

(それでも、まだ───)

 

 早くではなく速く。

 以前よりもよっぽど満たされるのが早い輝く氣を用い、だらしのない体を加速にて無理矢理動かし、一呼吸で連ねること六撃。

 そのどれもが躱され逸らされ叩かれ弾かれ避けられ───最後に再び逸らされた。

 ならばとより速く、速く、速く───!

 そう、余計なことなど考えない。

 なんだかさっきから拳骨の数が減ったな、なんてことは考えず、ただひたすらに当てることだけを───!

 




 恋姫と全然関係ないけど、かめはめ波繋がりで。

 凍傷は地球防衛軍な後半ドラゴンボールよりも、摩訶不思議アドベンチャーなドラゴンボールの方が好きです。
 レッドリボン軍編はわくわくしたなぁ……懐かしい。
 今はドラゴンボールをめぐる冒険らしい冒険なんてせず、趣味:修行なのがちょっぴり悲しいですよ僕。

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