真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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72:三国連合/氣の扱い方【粉骨砕身編】①

118/ある意味きらきら輝くあなた

 

「───! ───!?」

 

 なにかが聞こえる。

 目の前の誰かが何かを言っている。

 もはや目の前の当てるべき存在が誰なのかも忘れるほどの集中の中、その声はどうしてか苛立ちに変わって……

 

「いっだぁあああああーっ!?」

 

 ……直後、脳天への痛みとなって俺を襲った。

 

「!? !?」

 

 訳も解らず両手で頭を押さえ、涙目になりつつ辺りを見渡す。

 というか……あれ?

 

「…………」

「あ、あー……あの、祭、さん?」

 

 むすっとした顔の祭さんが目の前におりました。

 どうしてか両手をぷらぷらと振るいながら、俺を睨んでおります。

 

「なんで俺、殴られたのでしょうか」

「やめいと言うのにやめんかったからじゃろうが! このばかもんがっ!」

「ええっ!? そうなの!?」

 

 言われた記憶がまったくございませんが!?

 そ……そんなに集中してたのか、俺……。

 そういえば途中から、目の前の人が祭さんだったことを忘れて……───殴られたあとに目の前に祭さんが居ることに驚いたくらいだった。

 これほど集中したのって……呉で氣を覚えようとした時や煩悩を殺そうとした時以来か? あの時も確か、話しかけてくれた穏に返事をしないどころか気づかなかったくらいの集中だった。

 それを攻撃を混ぜた鍛錬の中でやるなんて……大丈夫か、俺。

 

「そ、それはごめん。でも、なんでまた急にやめろなんて? 俺、まだ当ててないし……って、まさか当てられる見込みが全くないから中止!?」

「………」

「いたっ! いたたっ! ちょ、祭さんっ!? なんでっ!」

 

 続けざまに拳骨を三発頂いた。

 しかし本気のものではないらしく、その後すぐに溜め息を吐いて胸の下で腕を組んだ。

 

「北郷。拳を振るってみせい」

「拳? 氣で、でいいのかな」

 

 こくりと頷かれる。

 ならばと構えて、氣で操る感覚で拳を振るう。

 

「……おぉっ!?」

 

 すると、さっきよりもよっぽど早く体が動いてくれる。

 当然、何もない空中に腕が引っかかる感触は残っている。

 言ってしまえば攻守になる前の氣のほうがよっぽど早く動かせたが……それでも速くなってくれたって事実は、素直に俺を喜びへと連れ出してくれた。

 

「おおおっ! 動く! 動くっ!」

 

 拳を振るう。ヒュッ、ヒュッと素早く。

 以前の自分に届いていない悔しさとか、普通なら浮かぶ筈なんだろうけど、今の俺の中には感謝と喜びと驚きしかなかった。集中出来たのも、明命や祭さんが教えてくれたお陰だ。俺一人で自分が思う通りにやっていたところで、氣を無理に体の動きに合わせた速度しか出せなかったのだろうから。だから素直に言った。小さな子供が親戚の人にお小遣いをもらって燥ぐみたいに真っ直ぐに。

 

「ありがとう祭さんっ!」

「お? お、おう」

 

 なんか体が軽い! 拳もシュビッと出せる!

 なのに前の時のほうがスムーズだったって、ちょっとどうかしてる!

 少し前の自分を超人のように思えてしまうのも仕方ない……のか? いや、でも本当に仕方ないって。不思議な気分だもんこれ。

 自分が自分に憧れみたいな感情を抱くとは思わなかった。

 一応これも自惚れになるのでしょうか。

 今の自分には無いものを持っている前の自分。悔しさとかじゃなく、ただ素直に“自分では気づかなかったものの、実は凄かったんだな……”と感心しているわけで。

 

「……やれやれ。うちの連中もこれほど素直に感情を言葉に出来ればのう」

「? 感情って?」

「ふむ……まあ、いずれわかることじゃ、どんと構えて待っておればよい」

「どんと、って……」

 

 なんのことだか理解が追いつかなかった。

 ん、んん? うちの連中っていうのは呉のことだよな。

 呉のみんなが素直に感情を言葉に出来ない? ……出来てる気がするけど、それはつまり祭さんが知ってて俺が知らないことか。

 ……いいか。“どんと構えて待っておれ”って言うなら、どんと構えていればそれで。

 というわけで、再び興奮が舞い戻ってきた俺は、祭さんにさらなる鍛錬指導をお願いする。当の祭さんはその勢いに多少たじろぎを見せるが、やっぱり笑うと今度は……アレ?

 

「エト……」

「どうした、打ってこんか」

 

 ひょいと渡されたものをずしりと受け取った。

 それは、陽の光を受けてギシャアと鈍く輝くブツ。

 どう見てもHAMONO。剣でございました。

 

「刃引きはしてある……んだろうね、絶対に」

「当然じゃろう。でなければお主は遠慮せずに打ってこれんだろうからな」

 

 自分ってものを見透かされると、これが案外恥ずかしい。

 祭さんは知ってか知らずか笑顔のままに、模擬刀という名の剣を持つ右手とは別。空いた左手の人差し指でちょいちょいと“かかってこい”をアピールする。

 

「………」

 

 深呼吸。

 体に氣を巡らせて、剣にも………………あれ? 流れていかない。

 やっぱりあの黒檀木刀じゃないとしっくりこないなぁ……こういう状況にも慣れないといけないのに。いつでも木刀を手に出来てる保障なんてどこにもないんだから。

 

「じゃあ……行くよ」

「おう。確認は要らんからどんどん打ってこい。ただし、今度は儂も反撃をするぞ」

「いっ……!? ……、───すぅ、はぁ……! っ……応ッ!!」

 

 木と戦ってるわけじゃない。当然だ。

 だったら反撃が来るのも当然で、それに臆することなく走るのも当然!

 

「っ───おぉおおおおおおおっ!!」

 

 体ごと突っ込む。

 振るう一撃に力と呼べるほどのものは込めていない。

 速度だけのそれを、祭さんは一歩引いて軽く避けた。

 

「どうしたどうしたっ! 剣にまるで力がこもっておらんぞ!」

 

 次ぐ、戻しの一撃。

 それを下から跳ね除けるように弾かれ、剣が腕ごと頭上へ持ち上げられる。

 完全に無防備な状態になった途端に祭さんは次を構え、しかし構えが完成するより先にそうなるであろうことを予測して、予め足に収束させていた氣で地面を弾き、後ろへ跳ぶ。

 

「ほう? まずは様子見か?」

 

 生意気じゃのうと続けながらも、どこか楽しげだ。

 ……よし、勝とうとするんじゃなく、まずは学ぶ。学んで学んで、勝とうとするのはまたいつか。挑戦しようと思った時で十分だ。ただし、本気でぶつかる。片手で構える祭さんに、勝てないまでもせめて両手を使わせるつもりで。

 

(以前も軽く弾かれた俺の腕力じゃ、祭さんに押し勝つのは無理だ)

 

 成長していないっていうなら、筋力はあの頃のままだ。同じ手で勝つことはできない。

 じゃあどうするか。

 単純に威力を上げるなら、武器に氣を込めて叩くのが一番だ……けど、生憎とこの模擬刀じゃあ上手く氣を込められない。

 だったらやっぱり速度でいきつつ、振るう部分に氣を込めて、氣を筋肉の代わりにしてやるしかない。速度があがれば威力は上がる。ようは振るう速度をどこまで上げられるか否かなんだから。重みも硬さも武器に備わっている。問題ない。

 鍔迫り合いみたいなことになっても、使うのは結局氣。

 やれることをやりつくす。今はそれだけに集中しよう。

 

「よしっ!」

 

 再び踏み込む。

 振るう模擬刀が弾かれても相手からは目を逸らさず、予備動作のひとつさえ見逃さぬ覚悟を胸に、身を振るった。

 

「つわっ!?」

 

 振るわれる一撃をなんとか弾く。

 勢いに体を持っていかれそうになれば素直に従い、しかし下がった先まで一気に距離を縮められて背筋が凍った。すぐに弾かれた体勢のままの腕を振り戻そうとするが、やはり即座には動いてくれない。

 

「っ───だったらっ!」

 

 再び足に氣を収束させる。

 だが祭さんはその収束に気づき、ニヤリと笑うやもう一歩を踏み込んできて……って、やばっ!?

 一緒に同じ距離の分、地を蹴り跳ぶ俺と祭さん。

 完全に合わされた動作の中、祭さんが模擬刀を振るう。

 しかしここで逆に笑ってみせると、この動作の中で戻し切ることが出来た模擬刀で祭さんの一撃を受け止めた。

 

「ほっ」

 

 当然、ギシィンと骨身に響くような衝撃が体に走るが、そんなものは痛撃を食らって動けなくなることに比べればどうってことない。

 意外だったのか、感心したような息を“ほっ”て言葉に込めた祭さん。

 そんな、力を抜くような声だったのにも関わらず、連撃は続いていた。

 

「ほれほれどうした北郷っ! 威勢がいいのは最初だけかっ!」

「いあっ! つっ! さっ……最初だけとかどうとか以前にっ! 打たせる気ないでしょ祭さんっ!」

「当たり前じゃろうが、敵に打ってくれと待つばかもんがどこにおるっ」

「さっき言ってたじゃない!」

 

 片手で振るわれる一撃。

 なのに、ごぎんと受け止めれば体ごと吹き飛ばされかける。

 本当に、この世界の武将っていうのは人の筋力とか軽く無視してらっしゃる。

 そんな一撃が、一瞬の判断ミスで防ぎ切れずに当たることも幾度か。

 当たった場所は激痛とともに痺れ、じくんじくんと断続的に痛覚を脳に送ってくる。

 それでも目は逸らさず、膝をつくこともせずに対峙した。

 膝をつくのは砕かれてからでいい。戦場で膝をつくのは死ぬってことと大して変わらない。……なら、膝をつくのは死んでからでいい。

 鍛錬で死ぬつもりはもちろんないが、それは覚悟の量の問題だ。

 

(───ぶつかる)

 

 もっともっと、自分が出せる本気を見てもらおう。

 強くなれる要素があるのなら、叩き潰した上で注意してくれる。

 自分の全力を受け止めてもらって、その上で注意されたことを俺も受け止めて、また強くなろう。───国にも、そしてみんなにも返していくために。

 

「覚悟、完了……!」

 

 弾かれ、滑った先で体勢を立て直し、覚悟とともに胸をノック。

 模擬刀を正眼に構え、とにかく全力を出し切ることを己に誓う。

 誓ったら、あとは突っ込むだけだった。

 

「───しぃいっ!」

 

 力むことで自然と出た声だけを掛け声にするように地面を蹴った。

 普段なら木刀にも流す分の氣も体の駆動の全てに託し、ただひたすらに動かし続けることだけをイメージする。

 相手の力に飲まれぬよう、心に籠めるはイメージの雪蓮に負けぬようにと鍛えた気迫。

 それを真っ直ぐに祭さんにぶつけると、祭さんは飲まれるどころか、うずりと身を震わせて撃を振るう。疾駆の先でそれを受け、逸らした瞬間には斬撃合戦は始まっていた。

 互いに引かぬと覚悟を刻み、弾かれても即座に戻し、間に合わぬのなら手で逸らしてみせ、無茶としか言いようがない……しかしあくまで“鍛錬”であるものを続けた。

 充実する氣が体内から滲み出て、僅かに輝きを見せたところで祭さんは驚きもしない。

 今はただ、目の前の相手……俺に集中してくれていることが嬉しい。

 もちろん背後から小石でも投げられれば、軽く叩き落して見せるんだろうが。

 

「たわけがっ! これほど動けるのなら最初からせんかっ!」

「だから上手く動かせなかったんだってば! それを動かすための鍛錬でしょーが!」

 

 普通に放ったつもりの言葉もまるで叫びのように放たれる。

 そうでもしなければ模擬刀が模擬刀を打つ音に掻き消されるってこともあるけど、注意をしてみたところでこの声量で出てしまうのだ。力んでいる証拠だろう。

 しかし今はその力みが気持ちよく、むしろ祭さん相手に力みを無くせば殴られそうな気がしてならないのは俺だけ?

 ……ともあれ、連撃は続く。

 手が痺れれば氣で感覚を繋いで強く握り、握った模擬刀で幾度も幾度も撃を連ねる。

 さっき使った加速のイメージは、あくまで扱いきれる程度の速度まで。

 戻せなくなるほどの速度は出さず、そう。あくまで“速度を加える”イメージ。一撃を躱されればそれまでなんていう速度は出さない。出せば負けることが想像に容易いからだ。

 

「随分と保つようになったな。これだけやって、息を乱さんとは面白い」

「ははっ……汗は出しても息は乱さないようにって、ずっと鍛えてきたからね……!」

 

 行動で出る息の乱れはそこまででもない。

 ただ、打っていくたびに増えていく祭さんからの……覇気、といえばいいのだろうか。ともかくそれが、俺を俺の気迫ごと飲み込もうとしている。

 それがただ、その、信じられないのでちょっと怖い。

 そりゃあ相手は歴史に記されるほどの猛将だろうけど、こっちの気迫ごと、って。

 しかもそれが一気に飲み込むんじゃなくてジワジワくるもんだから、気迫を保っているこっちとしてはヘビにジワジワと飲み込まれるカエルのような心境だ。

 だからって降参するのは絶対に嫌だから、こうして挑戦を続けている。

 

(しっかし……ほんとどんな筋力だよ)

 

 片手で振るっているにも関わらず、一度もこれだと言えるほどに当てられた撃は無い。

 掠る程度にまではいけたものの、いけたらいけたで祭さんが嬉しそうな顔で襲いかかってくるんです。はい、滅茶苦茶怖かったです。

 

(この人は本当に……)

 

 どれだけ、人の……国の成長ってものを願っているのか。

 掠るって程度の成長でもあんなに喜んでくれる人を、じいちゃんを含めてでも俺は知らない。だから対峙する自分も、よせばいいのにこのままじゃ終われないって突っ込んでしまう。

 でも……いくら猛将といえど、片手で武器を振り回すのには限度がある。

 俺に気をつかって軽めの模擬刀を用意してくれたんだろうけど、それでも片手で振るい続ければ……そうだ、たとえば木の棒でだって、疲労は蓄積するのだ。

 

「くっく、なんじゃ北郷。片手では不服か?」

 

 そんな俺の視線に気づいたのか、祭さんがにやりと笑う───と同時に勢いよく振るわれた剣で弾かれ、距離を無理矢理取らされた。

 

「なるほど、確かに強くなっておる。策殿が楽しみにしておるだけはあるが」

「……まだまだだって言うんでしょ?」

「おう、当然よ。それしきで満足されては張り合いがない。もっと強くなり、鍛錬でもなんででも人を楽しませる者であれ、北郷」

「───もちろん」

 

 ニッと笑って、胸をノックしながら返した。

 それを見た祭さんは少しきょとんとしながらもやはり笑い、片手で持っていたそれを両手で構えた。……当然、俺はぎょっとした。

 

「それでよい。男ならば多少は無茶な夢だろうと、真っ直ぐに追い続ける日々こそが華。やりもせずに出来ないだのなんだのと言う者や、ちぃとばかりやってみただけで己の全てを悟った気でやめるような者にはなるでないぞ」

 

 それを、俺と同じ構えまで持っていく。

 ……正眼の構え。

 この時代にそういった構えがあるかどうかは別にしても、来る一撃がどういうものかという予想は容易くついた。

 恐らく最速。

 余計な小細工なんてしない、最短最速での一撃。

 

(───)

 

 今まで保っていた緊張や気迫、様々なものに氷で出来た杭を打ち込まれる気分だ。

 吐き気さえする濃密な気迫で包まれ、乱さんとしていた呼吸が乱れる。

 原因は、鷲掴みにでもされたみたいに強張りを続ける心臓の鼓動。

 ……上手く呼吸が出来ない。

 だが相手は呼吸が出来るようになるまでのんびり待ってくれるはずもない。

 “これは成長への選別じゃ”とばかりに、殺気は感じさせないくせに気迫だけで人を怯ませる猛将が地を蹴る。

 その音で心臓がドクンと跳ね。───瞬間、ゴヒュウと肺に送り込まれる酸素がようやく状況に追いつかせてくれる。

 祭さんはもう目の前。

 普通に防ごうとしても間に合わない。

 ならばと氣が、体が取った行動は───訪れるであろう、恐らくは本気の一撃に対抗出来る一撃を導き出した結果だったのだろう、もう使うまいと思っていた加速だった。

 一気に爪先にまで収束された氣が、今度は関節を加速させながら、足から右腕までの距離を駆け上がる。

 祭さんに当てるためではなく、振るわれる剣を弾くための加速の一撃。それを、両手持ちではなく片手持ちにしたことに、戸惑うこともなく振るわれる祭さんの一撃へ。

 

「っ───!」

 

 しかしやはり、今までのイメージ通りにやっても届かない。

 一手遅れて動く体は、これで良しとイメージしたタイミングにさえ届かない。

 弾くための一撃は、振るわれた剣に合わせることも───

 

「───っ……つあっ!」

「ぬっ!?」

 

 いや。だったら可能性を作ればいい。

 軌道が重ならないなら、間に合わないなら、自分の身を引かせてでも合わせる!

 氣の全てが右腕に集う中、加速の勢いに体が持っていかれないようにと踏ん張っている足で地面を蹴る。“成長しないからなんだというのだ”とばかりに……成長しなくても、この世界に来るまで鍛えた体を以って、自分を後ろへと飛ばした。

 ……そうだ。

 この世界で学んだことが全てじゃない。氣が使えない状態でもいつかを思い、鍛えた体が確かにある。それを信じてやらないのは、あの一年を自分で馬鹿にするようなもんじゃないか!

 

(と、どっ……けぇええええええっ!!!)

 

 身を捻る。

 既に身を砕かんとしている鈍という名の刃へと、身をよじり、強引に届かせ、強引に引き離すため。

 無理な行動の所為で体に軋むような負担がかかるが、負担程度でこの一撃を防げるなら全然安いっ!!

 

「い、っぎあっ!!」

「!?」

 

 ───結果は、なんとか届いた程度。

 祭さんの一撃は左腕にめり込み、左腕だけではとどまらずに肋骨まで衝撃を(とう)すほどの激痛を残してみせ。だがその模擬刀自体は、加速させた模擬刀の渾身を以って頭上へと弾いてみせた。

 当たる前に弾ければよかったんだが、それは……言いたくもないが、贅沢ってもんだろう。腕を砕かれなかっただけまだマシだ。振るうのがもっと遅かったらと思うと、寒気しか走らない。

 でも、これで。

 

「っ……ぎっ……だぁあああああっ!!」

 

 両腕を、剣ごと頭上に弾かれた祭さんが俺を見る。

 左腕は激痛のあまりにだらりと下がっているが、右手で模擬刀を持ったままに振りかぶる俺を。

 今度こそ。蹴りが来ても弾く。距離を取られても追う。

 だからこの一撃を、受け止めてもらおう。

 ───あなたへの、感謝を込めて。

 

「ちぃっ!」

 

 以前のように蹴りが来る。

 それを、痺れている左腕を盾にすることで押さえながら、強引に前へ出る。

 祭さんの顔が“しくじった”といった、苦虫を噛んだような顔になる。

 その頃には踏み込みも終え、この一撃を───

 

「ほえっ?」

 

 ───当てるだけ、だったのだが。

 踏ん張った足から力が抜けて、そのままバランスを崩す。

 そして気づく。

 そういえば氣を右手に収束させたままだったと。

 なのに、つい咄嗟に氣で足を引っ張るイメージを働かせたもんだから、氣っていう引っ張る力がない足は糸の無い人形のように力を無くし、蹴りのために片足をあげたままだった祭さんを巻き込んで……見事に転倒した。


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