119/隻腕のあなた
学ぶ時間は定期的。
息抜きする時間も定期的……ではない。
覚えなければいけないことが多くて、教師という名の監視が居るからにはサボることなど出来る筈もなく───いやそもそもサボる気はないのだが、時々息抜きをしたくなるわけで。
しかしながら“たった今やるべきこと”を終わらせた上、この場に監視が居ないのならそれも可能になるのだ。サボるサボらないに限らず。
「……ふぅ。これでよし、と」
冥琳に出された宿題を終わらせる。
時刻は昼時だろうか。
朝から付きっ切りで教師役をしてくれた冥琳は、雪蓮に呼ばれて部屋にはいない。俺はといえば、一人でさらさらと動かしていた筆を、今ようやく置くことが出来たわけだ。
そんな苦労を終えたところで、喉の渇きに気づいて水を口に含む。もちろん茶器なんて気の利いたものは用意していないから、机の端に置いてある常備用の竹筒を取り出して。
厨房にあった、華琳がデザ-ト作りに使ったらしい寒剤を使って冷やしてあるから、通した喉が冷やされて心地良い。……べつに特別、気温が高いわけでもないんだが。
「んっく………ぷはっ……ふぅ」
それにしても静かだ。
鳥のさえずりが時折に届く程度で、騒音らしい騒音も無い。
聞こえる音が騒音であることに慣れている自分が恐ろしいが、今はそんなことはどうでもいい。そう、誰も居ないのだ。昨日からずっとついてきていた恋も居ないし……もしかしてこれは、息を抜くチャンスなのでは?
「とはいってもなぁ……」
左腕がこの状態ではやれることも限られる。
抜け出して城下に行くって手もあるにはあるが、戻ってきた冥琳に迷惑がかかってしまう。いっそ書き置きでも……結果は同じか。
そう諦めかけるも、やっぱり息抜きはしたいのだ。さてどうする。
監視が居ない上に宿題も終わらせて、一応の区切りをつけた今が好機なのだ。
「ん、んんっ……」
思考を回転させてみる。
こう見えても本気を出した俺はすごいのだ。伊達に及川との馬鹿みたいな付き合いを経験していない。なので、弾けろ俺の遊び心!
「………」
……。何も思いつかない!
「……まずい」
なんかもう仕事するのが当然みたいになってて、遊び心が働きづらくなっている。
そりゃあ国に返すためにいろいろ学んできたんだから、そうなるべきなんだろうけどさ。それだけしか出来ないのもまだまだ元気な一学生な自分にとってはショックなわけで。
むしろこういう時にこそ脳内孟徳さんに背中を押してもらいたいのだが。“今こそ好機、打って出よ!”とかさ。うん、必要な時にこそ全然浮かばない。俺の頭の中って案外適当みたいだ。
「たまには誰かにご馳走するためとか喜ばせるためとかじゃなく、純粋に自分の娯楽のための行動をとってみよう。それがいい」
言葉にして自分で確認、こくりと頷く。
よし、強く意識したところで行動開始だ。
「っと、やる前にちゃんと片付けないとな」
好き勝手に行動するのはいいけど、その所為で誰かに迷惑がかかるのは本意じゃない。
右腕で竹簡をカロカロと巻き、その右腕だけで持てる分だけ持つ。
宿題として纏めたものは机の上に置いておいて、冥琳に見てもらおう。
……やっぱり一応書き置きもしておこうか。ああくそ、せっかく抱えた竹簡、また下ろさないといけないのか。物事を思いつくタイミングって、どうしてこう自分の思い通りにはいかないのか。
「ちょっ……と、息~……抜~……き、し~て、き~ま~す、っと」
墨も竹簡ももったいないってことで、書き置き用にと用意した黒板にチョークを走らせる。相変わらずボキボキ折れるチョークだ。朱里が蜀から持ってきてくれたもので、一言書きたい時や例文を書く時などの役に立っている。立っているけど、チョークが折れやすすぎる。
氣で包んだら強度も増すかしら。
試しにやってみるが、文字を書けずに“コキュキキィイ~!”と
「うひぃいいあああっ!!」
……発砲スチロール同士を強く擦り合わせたような音が鳴っただけだった。
無駄に鳥肌を立ててしまった。
「よ、よし、書き置きはこれでいいな。うん。ささささぁて、息抜き息抜き~……♪」
これからの息抜きを思い、努めて明るく出かける準備を。
無理矢理作った笑顔で、改めて竹簡を抱えて歩き出す。
……その歩は、第一関門の自室の扉によって阻まれた。
「明るく……明るく…………はぁあ」
竹簡を下ろしてから扉を開けて、三度竹簡を抱えて外に出ると、足でバタムと扉を閉めた。行儀の悪いことだが、見逃してほしい。
「お」
外に出てみると、遠くから微かに聞こえる鎚の音。
トンカントンカンと鳴る音に紛れ、工夫さんたちの楽しそうな声が聞こえた。
よく響く声だ。張り合うように叫び合ったりでもしているんだろうか。
もちろんここから見える位置には居ない。
とはいえ、音を聞くだけでももうすぐみんなが騒ぐ祭りが始まるんだなぁって思えて、意味もなく高鳴る胸がくすぐったい。
「一日に積む竹簡の数と倉の大きさって、きちんとバランス取れてるのかな」
そんな自分を自覚しているだけに、少し気恥ずかしさが走る。まったく関係のないことを呟いてみたりするのだが、本当に関係がなくって余計にくすぐったかった。
「~♪」
なのでうきうきする気分を隠すこともせずに歩くことにする。
恥ずかしさなんてそのうちに慣れるだろう。
むしろこんな時には高揚こそを楽しまなきゃ損ってもんだ。
大人になっても、いつも心に童心を。
遊び心を無くしたら、人間どんどんつまらなくなるだけだ~ってじいちゃんも言ってたし、それにはとことん同意見だ。
「や」
「ああ北郷様。いつものですね?」
「ごめん、よろしく」
祭りのことを考えながらだと倉に着くのも早い。
番をしていた兵に扉を開けてもらい、竹簡を預けると再び太陽の下へ。
「北郷様、毎回毎回これだけの量……頭が疲れませんか?」
「さすがに疲れるけど、望んだことだしね。それよりその“様”っていうのは……」
「いえいえいえっ、この三国の同盟の柱となる北郷様に様をつけず、いったい誰につけましょうか!」
「……華琳と将だけでいいと思うぞ」
「…………隊長殿は変わりませんねぇ」
「これでも十分変わったって。あと喋り方はそれでいいから」
「そうですか。では、今日もお疲れ様でしたっ」
「ありがと。じゃーなー」
来た時と同じように兵に挨拶をして歩き出すと、いよいよ息抜きの時間である。
さて何をしようか。街に下りて何か買い食いでも……あ。久しぶりに桃を食べ歩くのもいいな。肉まんでもいいし。って、食べものばっかりじゃないか。
「太陽の位置からして確かに昼時だし、そろそろなんだか───」
腹が、減った。
「……よしメシだ」
また誰にともなく頷く。
まずは腹ごしらえだ。そのあとに息抜き。
そのためには何を食うかを決めないとな。
厨房で作られたものを食べるのもそれはそれでいいし、手間もかからずありがたいことなのだが……ここは街の食べ物でいこう。息抜きも出来て腹も膨れる。一石二鳥だ。
……。
そんなわけで街である。
三国会合期間ってこともあり、街も結構な賑わいを見せている。
というのも、別の国の王や将を見てみたいと思いやってくる人や、三国で競う大会目当てでやってくる人が多く、そのための賑わいなのだ───と、朝に冥琳から聞いた。
「……んん、いける」
早速買った肉まんを頬張りつつ、てくてくと喧噪の中を歩いている。
うん美味い。
ふっくらと蒸かされた外側と、中の肉や野菜の餡が絶妙な食感を出している。こういうの好きだなシンプルで。肉まんの味って男の子だよな。……などと無駄にどこかのグルメの真似をしていないで、息抜きを堪能しよう。
でもほんと美味いな。なんていうかこう、心躍る美味さだ。
それが、“サボって買い食いをしている”って意識にくすぐられる懐かしさの所為なのかは判断しかねる。認めたいけど認めたら認めたで、見つかって捕まった時の言い訳が思い浮かばなそうだ。
「……これ食べたら素直に戻るかなぁ。見つかる前に戻れるのが理想か。あむっ、んぐんむ……んん~っ、頬がじぃんとくる美味さ、いいよなぁ」
「あぁあちょいとちょいとっ、隊長さんっ」
「むあ? っとと、んぐんぐっ…………ん、ふぅ。どうかした? おばちゃん」
肉まんを頬張りつつ、幸せ笑顔をしていたところへ急に声をかけられた。ちょっと恥ずかしい。
が、そんな恥ずかしさはさておき、何事かと見てみれば、おばちゃんが桃をひとつ突き出していた。
「おばちゃん、これって?」
「見ての通りさ。ちょいと熟れすぎちまっててねぇ。こんなもので悪いんだけど、捨てるのももったいない。隊長さん、よかったら食べないかい?」
なにやら懐かしい。呉でも饅頭屋のおふくろに桃を貰ったっけ。
……朱里と雛里を尾行てる時に。
あれから結構経ってるのに、未だに存在する桃のなんと逞しいことよ。……ああ、だから熟れすぎてるのか。
「そっか、じゃあ遠慮なく。ついでにもう二つ包んでもらえる?」
「そうかい? 貰ってもらった上に買ってもらって悪いねぇ。いい男だよっ、隊長さん」
「ははっ、どうも」
桃を包んでもらい、金を払って歩きだす。持つのに難儀したが、全く動かせないわけでもないので、桃2~3個程度ならまだ……ま、まあ、なんとか。
熟れすぎたと言われても、食べる分には困りはしない。なので早速食べると強烈な甘みが口内に広がり、唾液線が刺激される感覚が少しだけ心地良い。
うん、これもうまい。甘みの中にある微かな酸味が、味覚を軽く刺激してくれる。
などと頭の中で解説しているうちに貰った桃は食べ終えてしまい、袋に包まれている桃をちらりと見下ろした。今ここで食うべきか否かを考えるため。丁度二つだし、いつかみたいに朱里と雛里にあげようか? はたまた自分ひとりで食べてしまうか。
なんとなく二つ買ってしまったものの、買ったあとで“こんなにいらなかったかも”って思うこと、あるよね。
「んー……と」
誰か居ないかと探してみる。
しかしこういう時に限って誰も見つからなかったりするのだ。世の中って不思議だ。
見渡す限りに人が居るのに、定位置以外には見知った顔がないのもある意味新鮮。
ちらりと見れば、警備隊の兵が道案内や子供の相手をしていて微笑ましい。これで一年も前までは戦をしていたっていうんだから、世の中っていうのは変わるものだとつくづく思う。
そんな光景に一層に頬を緩ませていると、
「げっ」
「いきなり“げっ”はないだろ」
人ごみの中からひょこりと顔を出すメイド姿の娘。
確認をとるまでもなく、詠だった。
「買い物?」
「手伝うとか言ったら蹴るわよ」
「先読みした上にそれはひどいと思うんだが……」
「言いもするわよ。その腕で手伝いなんてさせたら、月に何を言われるかわかったもんじゃないし、そもそも無理されたってちっとも嬉しくないわ」
「む。そりゃそうだ。───っと、じゃあ無理をさせないって理由で、俺の荷物を受け取ってはくれませんか、詠ちゃん」
「詠ちゃん言うな! ていうかあんた、たまたま会ったボクに荷物持たせる気!?」
「ん。お礼は荷物の中身全部。月と食べてよ」
ほい、と桃が二つ入った袋を渡す。
素直に受け取ってくれた割りに、中身はしっかりと確認する彼女は結構しっかり者だ。
「桃……いいの?」
「いや、買ったはいいけどそんなに食えなくてさ。丁度、二人組の誰かを探してたんだ。押し付けるみたいで悪いんだけど」
「……まあ、丁度よかったといえば丁度よかったわ。桃、食べたいって思ってたし。ほんと、たまたまで偶然で奇遇ってだけだったわけだけど。せっかくだし捨てるのももったいないから仕方なくだけど食べてあげるわよ」
これまた随分と遠回しな……。
でも遠回しな分だけ、感謝の気持ちがあるのかなと勝手に思っておけば、こちらとしても少しは気持ちがいい。
「いや、こっちこそ助かった。というわけで片腕が空いた俺に何か手伝えることは?」
「ないわ」
「えー……あ、じゃあ護衛でも。城に戻るんだろ? そこまで道を開こう」
「だから、その腕で無理されてもボクが困るんだってば」
「……どうしてもダメ?」
「なんでそこで捨てられた子犬みたいな目をするのよ……ていうかあんた、今は周瑜と勉強中じゃなかったの? まさかサボり?」
「いや、ちょっと休憩中。根を詰めすぎても効率悪いし、息抜きがてらに街に出てみたんだけど───……見事に人だらけで、もう何から手を伸ばせばいいのやら」
「そこで丁度ボクが見つかっちゃったわけね……」
あの。言い方に何気にトゲがありますが?
「あんたはそれでいいの? 息抜きって言ってるのに誰かの手伝いなんて」
「うぐっ……それがさ、聞いてくれ詠ちゃん……」
「だから詠ちゃん言うなってば! なんで“ちゃん”つけるのよ!」
「いや……だって呼び捨てにするのってちょっと抵抗が。大事な友達だし、遠慮なくいきたいんだけど……そうだな、遠慮無用だ。じゃあ、詠」
「…………な、なによ」
「なにか手伝い───」
「ないわ」
「詠ちゃんひどい!」
「だから詠ちゃん言うな!」
ともあれ事情を話す。
真面目にといろいろ努力をしてきたお陰で、息抜きの仕方もパッと思い浮かばなくなってしまった自分と、今の状況を。
すると目の前のメイド服姿の彼女は長い長い溜め息をお吐きあそばれた。
「あんたどれだけ魏に尽くしたかったのよ……」
「そりゃ、恩の数だけ」
助けられたことや教えてもらったことや叱ってくれたこと、一緒に駆け抜けた時間の数や一緒に苦労した時間の数、愛しく思った時間の長さや愛した想いの分……それらを恩として纏めた分だけ役に立ちたいと思った。
それが今や三国の支柱状態である。
それだけ恩が大きかったって納得するべきなんだろうな、ここは。
「蜀に居た頃もだったけど、あんたの愛国心って異常よね……天のことはどうでもいいの?」
「どうでもよくはないよ。ただ、好きな時に好きに帰れるわけでもないし、これから先、一生帰れないかもしれない。なら、答えがわからないことを考え続けるよりも、自分に出来ることで役に立ちたいじゃないか。支柱だからってただ立ってるだけなら、それこそ切り取った木にだって出来るんだし」
だから動ける柱に俺はなる!
そんなつもりで意気込んではいるのだが、息抜きはやっぱりしたいのです。はい。
だからとすがるように目の前の彼女を見るのだが、やっぱり溜め息を吐かれた。
「それでもダメ。他をあたって。仕事がないわけじゃないけど、これはボクと月の仕事だから」
「うぐ……じゃあ無理だなぁ……」
残念だ。そりゃあ確かに息抜きしたいのに誰かの仕事を手伝ってちゃおかしくはあるものの、何もしないのは逆にソワソワして仕方が無い。……ハッ、そうだ。ならばもういっそ、工夫さんたちのところへ行って作業の手伝いを───!
「言っとくけど、工夫の仕事を手伝ったりしたらあんたの大将に言いつけるわよ」
「…………ハイ」
あっさりと希望を打ち砕かれた。
ふふ、さすがよな、軍師賈駆……よもやこの北郷の一手先をこうも容易く見破るとは。
「それじゃ、適当に息抜きを探しつつ……見つからなかったら素直に戻るよ」
「見つけるもなにも、適当にお茶を飲んで休んどけばいいじゃない」
「いや、それがさ……体動かしてないと落ち着かなくて……」
「……蜀に居る間に鈴々や猪々子の筋肉馬鹿でも伝染ったの?」
「それはさすがに二人に失礼だろ……というわけで何か適当な提案、ないかな。特に思い浮かばないから、それを全力で実行してみようと思うんだ」
「はぁあ……」
厄介なヤツに捕まったとばかりに、また溜め息を吐かれた。
いや、違うんだよ詠。俺だってこんなふうにむずむずしてなければ探したりなんかしない。大人しく部屋でお茶をすすってたほうがのんびり出来たろうさ。でも俺のこの衝動はほら……いろいろ我慢するためのものであって、のんびりしていたら頭の中がいろいろとモヤモヤでして。
だからって誰かにそれをぶつけるのもやっぱり何かが違うって思うし、そもそも支柱になったばかりでそんなことやらかしたら、これまたいろいろと言い逃れが出来ないことが増えるわけで。……と、そんな微妙な顔色を俺の表情から受け取ったのか、また溜め息を吐いて歩き出す。
「詠? あのー……」
「服。破けてるところがあるからついてきなさいよ。そんな格好で歩かれたら、こんなやつを支柱にした王たちの人格が疑われるわ」
「へ? あ」
ちらりと見てみれば、確かにわかり辛い場所が破けていた。
破けたというよりは軽く裂けているって程度。言われなきゃ気づかないレベルだ。
「へぇえ……よく気づいたなぁこんなの」
「……ふ、ふん、当然でしょ? 嫌々ながらでも長いんだから、侍女生活」
つんとそっぽを向きつつ前を歩く彼女を追う。
しかし人がごったがえす中を歩くのは結構難しいらしく、別の誰かの影から歩いてきた人とぶつかりそうになることが何度もあった。
「っ、このっ……ちゃんと前見て歩きなさいよね……っ……もうっ……」
それでも前へ。
なるほど、背が低いって理由もあるだろうけど、今の時期は余計だ。
みんな祭り騒ぎに目を持っていかれていて、注意して歩く人のほうが少ないくらいだ。警備隊のみんなも頑張ってくれているが、この数だ。捌き切れていない。
だったらと近寄って肩を叩くと、不機嫌そうに振り向いた彼女へと自分の胸を叩いて笑んで見せた。
「……なに? まさか人垣を掻き分けて進むとでも───」
「いや、こっちこっち。こういう時には大体人が少ない道っていうのがあるんだ」
経験者は語りますと付け加えつつ、歯を見せてにししと笑って歩く。
はぐれないようにと、彼女の手を握って。
「ちょ、ちょっと」
「いーからいーから」
道をゆく。
脇道を逸れて区画ごとの建物の間をジグザグに通り、裏通りを抜ける途中で会ったアニキさんに笑いながら「おつかれー」と言い合って、最後に脇道を通り抜けるとハイ城の前。
「………」
「はい。これが少し時間はかかるけど、人にはぶつからないで済む方法」
「これでも隊長さんですから」と無意味に胸を張ってみせると、ぽかんとしていた詠が突然吹きだし、「その威張り方、朱里みたいだわ」って言って笑った。
「あ、でも誰かと一緒の時だけでお願い。今はアニキさんが目を光らせてくれてるからいいけど、裏通りとかはどうしても……さ」
「言われるまでもないわ。それより服やぶけたままで注意されると、なんだかこっちまでだらしないような気がしてくるから、早く来なさいよ」
「それを言うなよぅ……」
一応、自覚あるんだから。