真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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73:三国連合/いきぬきのしかた②

 連れてこられたのは一つの部屋。各国の将が来るまでは空き部屋だった場所だ。

 どうやらここが詠と月の部屋らしい。

 ノックをしてから開かれたその先には月───ではなく、紫苑が居た。

 ……え? なんで?

 

「あら詠ちゃん、どうしたの?」

「ごめんなさい、このばかが何処かで服を切ったみたいで、もし手が空いてたら繕ってもらえたらって」

「あら……」

「え……えー……」

 

 てっきり詠か月が繕ってくれるのかと思っていたから、この状況は予想外もいいところだ。むしろ別の作業をしていたかもしれない紫苑に頼みに、ここまで歩いてくる詠も詠だ。

 というか……前は意識してなかったけど、詠って紫苑には敬語で話すんだな。

 

「俺、てっきり詠が縫ってくれるのかと……」

「なんでボクがあんたの服を繕わなきゃならないのよ」

「こんな細かいところにまで目が届く詠だからこそ」

「……んだから、いいでしょ」

「? え? 今なんて?」

「だ、だから。紫苑のほうが上手いんだから、そっちのほうがいいでしょ?」

「………」

 

 もしかして、裁縫が苦手? いや、出来ないとか?

 べつにおかしいことじゃないよな。天でなんて、出来ない子のほうが多かったくらいだ。いや、フランチェスカがそうだったっていうわけじゃなくてさ。

 

「言っとくけど、笑ったら蹴るわよ」

「笑わないって。むしろ天にも結構居たぞ? 裁縫出来ない女のこォッ!?」

 

 弁慶を蹴られた!? なんで!?

 

「いつ誰が“出来ない”って言ったのよ!」

「え……? で、出来るの……?」

「~っ!!」

「いたっ! いたいいたいっ!」

 

 同じところをガスガスと蹴られる。

 庇いに入ったら入ったで別のところを蹴られるから意味がない。

 

「とにかくっ! 紫苑なら完璧に繕えるんだから、きちんと直してもらってよね!」

「その言い方って、急に部屋に来られた紫苑が物凄く困る言い方じゃないか……?」

「まあまあ。わたくしは構いませんよ。それより詠ちゃん? 今、手は空いている?」

「へ? あ、うん……もう買い物も済ませたし、届けるところに届けたから……」

「うふふ……そう。それじゃあ詠ちゃん? 裁縫、教えてあげるから、やってみましょうか」

「え…………え、えぇええーっ!?」

 

 突然の裁縫伝授宣言! 詠は驚きのあまり声を高らかにした!

 そして後退ると、とすんと俺の胸に当たる後頭部!

 振り返ればいいのに、わざわざ仰ぐように俺を見る彼女の視線が俺の視線とぶつかった時、俺はにっこり笑顔で彼女の右肩をがっしりと捕まえた。

 

「ちょ、ちょっと! なんで掴───」

「まあまあ、息抜き息抜き」

「これはあんたの息抜きでしょ!? ボクはこれから月とのんびり───っ!」

「ああほら、裂けてるのを見つけてくれたんだし、どうせなら最後まで」

「理屈が通ってないにもほどがあるでしょそれ!」

「名目上の侍女さんでも、覚えておいて損はないわよ? いつか誰かと一緒になった時でもいいし、月ちゃんと一緒に何かを繕う時にも手伝えるし」

「あぅ……」

「はい決まり、じゃあ行こう」

「え、なっ! ちょっ……勝手に決め───うぁあああん月ぇえ~っ!!」

 

 にっこり笑顔の俺と紫苑に捕まった詠は、俺達に引きずられるままに裁縫教室へと飲み込まれた。女性二人の前で服を脱ぐのは気恥ずかしいものの、まあきちんとシャツも着てるし大丈夫だ。

 そんなわけで、裁縫教室の始まり始まり。

 

……。

 

 ちくちくちくちくちく……

 

「うう……地味な作業だわ……」

「で、ここを通してこうやって……はいっ! 東京タワー!」

「わー! みつかいさますごいすごーい!」

「わっはっはー! あやとりなんてよく覚えてたなって自分でも思う!」

 

 詠が紫苑に教わりながらちくちくと裁縫をする中で、俺は璃々ちゃんと縛った紐を使ってあやとりをしていた。もちろん片手では無理だから、璃々ちゃんに糸を持ってもらってである。

 ただ待っているのもこう……緊張するのだ、紛らわす何かを探していたところへ、丁度璃々ちゃんが戻ってきた。あとはこんな調子なわけで。

 

「くうぅうっ……人がこれだけ苦労してるってのにあのばかちんこは……!」

「詠ちゃん? 噂で人の悪口を言うのはよくないわよ」

「うぐっ……そ、そりゃああいつが……噂ほど見境無しじゃないってのはわかってるけど。ボクだって、自分自身できちんと自覚して友達やってるんだから、勝手な言い分でひどいこと言いたくなんてないけど……それ以前にあいつが、自分のことに頓着なさすぎなのよ」

 

 素直な反応を返してくれる璃々ちゃんにつられるように、童心全開で騒ぐ。

 そう、息抜きっていうのはこういうものだ。

 大人で居なければいけない自分からの解放! これこそ! だってまだ学生だもの!

 仕事の仕方は覚えたけれど、体を動かすにしてももっと“遊びッッ!”て感じの動かし方をしたかったのだ! なので全力で燥ぐ。

 

「子供みたいに騒ぐくせに、真面目な時はばかみたいに真面目だし、妙に大人びてるところがあるなって思うのに───自分のことを後回しにするところなんて、ほんと桃香みたいで……見てて危なっかしいのよ、あいつ」

 

 走り回る。

 きゃいきゃい騒ぎながら追いかけっこをして、紫苑にぴしゃりと怒られると途端にしょんぼりして。しかしながらしばらくすると騒ぎ始めて、璃々ちゃんとともにぐるぐると回転する。

 やがて二人の遠心力とテンションが一つになった瞬間、俺は璃々ちゃんを片手で持ち上げ、璃々ちゃんは両腕を広げてキメポーズ。

 スケートやバレエでするような奇妙なポーズで、ビッシィイイと停止する僕らが居た。

 

『オウレイ!』

 

 なんとはなしに、決めていたキメゼリフも二人で言ってみた。

 ……はい、紫苑に怒られました。

 

「だからいっぱい傷つく前に、注意出来ることはしとかないと……ほら」

「……そうね。桃香さまはたくさん傷ついたから……」

「よぅし璃々ちゃん! 次はなにがしたい!?」

「お馬さーん!」

「よし来た! 隻腕の馬の馬力、とくと見せてくれる!!」

「やめましょうね?」

『はいやめます!』

 

 片腕と両足で地を駆ける修羅になってみようとしたら、紫苑に止められた。

 俺と璃々ちゃんは揃って姿勢を整えて、ビッと敬礼して宣言。

 笑顔がとっても怖かったです。

 しかしながら童心は治まらず、「静かにしてようね~」と小声で話し始めたのがきっかけで、小声で話し合う遊びに発展。いつか朱里と雛里ともやったような状況になった。

 

「はぁ……ほんと、大きな子供だわ」

「ふふっ……そう? わたくしはいいとは思うのだけれど……本当に、あそこまで璃々が懐く男の人も珍しいから」

「……まさか、あれを璃々の新しい親にとか考えてないですよね?」

「そうね……ふふふっ、わたくしはそれでもいいと思っているわよ? 知らない仲じゃないし、人の良さは折り紙つき。璃々も懐いているし、わたくしも嫌いではないから」

「うぁ……本気、なんだ……」

 

 ? なんかちらちらと視線を感じる。

 なのに振り向いてみれば、視線が合った先で「こっちみんなっ!」と舌を出す詠が。

 あらやだかわいい……じゃなくて。

 

「?」

 

 視線を感じたのに振り向いてみれば見るなと言われた。なるほど、気の所為か。

 

「みつかいさまみつかいさま、次はなに? なになにー?」

「次は、そうだなー……あ」

 

 ハタと思いついて、人差し指に氣を集中。

 体外放出して指先を輝かせると、それに驚いた璃々ちゃんへとそれを突き出す。

 

「天であった昔の作り話で、指に集めた光で怪我を治す~っていうのがあったんだ。友達ってことを確認するのにも使ってた……かな? つまり信頼の証」

「?? ……お指とお指をあわせるの?」

「そう」

 

 随分前に復刻版みたいなのを見たっきりだからなんとも言えないが、たしかそんなものだった気がする。

 そんなはっきりしないことでも璃々ちゃんは楽しそうに手を差し出すと、灯るように輝く人差し指の光に自分の指をちょんとくっつけてきた。

 

「……へへー♪」

「えへへー♪」

 

 そんななんでもないことで“にこー”と笑って、またきゃいきゃいと騒ぐ。

 で、また怒られる。

 

「……ほんとにあれでいいんですか……?」

「遊ぶ時には遊んで、真面目な時には真面目。感情をきちんと表に出せる人のほうが、出さない人よりも付き合いやすいものなの」

「それは……まあ、わかる気はしますけど」

 

 怒られついでにちらりと見れば、詠が難しそうな顔でこちらを睨んでいた。

 あれ? 俺、なにかしでかした?

 ……しでかしてなきゃ怒られないよな、ごめんなさい。

 

「それじゃあなんですか? もしここで璃々が、あいつがお父さんだったらなーとか言ったら、すぐにでも?」

「……気になる?」

「うぇっ!? や、べ、べべべべつに気になってなんか!」

「うふふふふふふふ……♪」

「…………楽しんでません?」

「詠ちゃんは可愛いわね」

「言っておきますけどっ! あ、あいつはっ、ただの友達でっ……! そそそれ以上でもそれ以下でもないですからね!?」

「友達っていうのはわかるけど、本当に“ただの”友達?」

「……月を守るための盟友です」

「それだけ?」

「う……う、うーうー……! そりゃあっ……馬鹿正直だし実際ばかだし、自分のためとか言いながらも人のためになることを優先して動くし、そんなあいつを月は気に入ってるし、ぼぼぼボクだって嫌いじゃ───ってなに言わせるんですか!」

 

 ……で、段々と声が大きくなってきて丸聞こえなわけだが……。

 ようするに馬鹿って言われてるんだよな、俺……。

 

「みつかいさま、どうしたのー?」

「いや……現実って辛いなって……」

 

 腕がこんなだから思うことだが、何か出来ることはないだろうか。

 役に立たないと無能な支柱とか言われそうで怖い。

 支柱であることが仕事だとか言われたらそれまでだが、それってみんなに気に入られていれば誰にでも出来ることだもんなぁ……。むしろ俺じゃなくて華琳って柱でも十分だ。

 

(……あれ? 俺……支柱じゃなくてよくない……?)

 

 なんてことを考えてしまうが、すぐに溜め息とともに外へ逃がす。

 いろいろ考えなきゃいけないことばっかりで、そりゃあ詰まることもあるし失敗もある俺だ。最初からなんでも出来たわけじゃないし、教えられながら覚えてきたこともたくさん。一人で突っ走って誰かに迷惑かけることなんてそれこそ山ほどだろう。

 でも。やっぱり“でも”だ。みんなは俺が支柱でもいいって言ってくれたんだ。約一名は除くが、異論は出されなかったんだ。なのにやっぱり支柱やめるとか言うのは裏切り以外のなにものでもないよな。

 言われたことではあったが、きちんと自分で“なろう”って決めたんだ。お前にはもう無理だって言われるまでは、頑張ってみよう。もちろん、全力で。

 

「支柱……柱かぁ……《ぼそり》」

「はしらー? はしら……みつかいさま、だいこくばしらー♪」

「へ? 大黒……ははっ、そうだな。柱だ柱っ!」

「璃々しってるよー? だいこくばしらって、お父さんのことだよね?」

「おおっ、よく知ってるなぁ璃々ちゃん。かなり偏った知識だけど。学校で習ったのか?」

「うんっ! みつかいさまってみんなの、えっと……しちゅー? はしらなんだよね?」

「……うん」

 

 つい今まで思っていたことを訊かれ、頑張ろうと誓った矢先のこと。

 覚悟は胸にある。だから、うっすらと笑いながら確かに頷いた。

 ちなみに大黒柱っていうのはあくまで、建物の中央などに一番最初に立てる柱として伝えられる、建物をしっかりと支えるそれこそ“支柱”ってもの。人間関係でいうなら、家族や集った人をしっかりと纏める中心人物的な存在。父親が大黒柱っていうのはそういう認識から来ているらしい。父親がぐうたらで、母とか長男長女が頑張っている場合は、支え頭が大黒柱ってことになる。

 

「じゃあ“しちゅー”なみつかいさまは、みんなの“だんなさま”なんだーっ」

「へっ!?」

「いぎゃーっ!!」

「きゃっ……!? え、詠ちゃん、大丈夫っ!?」

 

 うっすらとした笑みが硬直に変わった瞬間、背後から聞こえる絶叫。

 何事かと振り向いてみれば、指に針を刺したままにたぱーと涙する詠と、それを抜き取り布を当てる紫苑が。

 

「ちょっ……大丈夫か!?」

「大丈夫じゃないわよっ!」

「とわぁっ!? ご、ごめんなさい!?」

 

 駆け寄った途端に怒られた!?

 え……俺、なにかした? どうしてか涙を滲ませた目で睨まれてるんだが……。

 そして怒られてみて思い出したんだが……そろそろ気分転換とか息抜きとか、そういうこと言っていられる時間じゃなくなってないか? 自室で腕を組んでコメカミ様を躍動なさっておられる冥琳が頭に浮かぶんだが。

 今何時……って言ってもわかるわけないか。

 肉まん食べて桃食べて、詠と話して詠の護衛で街を歩き回って、それからこうして裁縫を横目で見つつ璃々ちゃんと遊んで…………うわぁ、随分時間が経ってるだろ、これ。

 

(む)

 

 でもそんな焦りと心配する心は別だ。

 怒られはしたし睨まれてもいるが、ここは何を言われようとも無視で押し切る。

 

「え……あ、ちょっと!?」

 

 詠の目の前まで歩いて、紫苑が布を当てている指をそっと手に取り、定番といえば定番なわけだが───口に含み、傷口を舐めた。

 

「!?」

 

 刹那、詠はピキーンと硬直してしまう。

 そんな硬直を利用するようで悪いが、口に含んで舐めている傷へと氣を流して、傷口を治そうと試みる。冥琳の時や自分の時と似たようなものだ。相手の波長と合わせるように、攻守のうちの守りの方の氣を上手く操って、早く治りますようにと願った。

 しかしこれが、攻守が一緒くたになる前よりも扱いづらい。

 ならばと集中して、口内に少しずつ広がってゆく鉄分の味を感じながらも、

 

「うわわわわわぁああーっ!!」

「とわっ!?」

 

 なんとか癒そうとしたところで押し退けられ、体勢を低くしていたこともあって、その場に尻餅をついてしまった。

 

「なななっななな……! 急になにすんのよっ!」

「へ? なにって……治療?」

 

 まさかそんなことを訊かれるとは思ってもみなかったので、首を傾げながら返した。

 あ、もしかしていきなりやったのを怒ってるのか?

 

「えっとな、人の唾液には殺菌効果があって……」

 

 立ち上がりながら説明。

 もう一度詠の手を取ると、紫苑に借りた布で唾液を丁寧に拭う。その際、常備用竹筒の水を少し使って布を濡らした上でだ。全部飲まなくてよかった。まさか、いつかの明命の怪我に続いて詠の傷口に使う日が来るとは。

 そんなことを懐かしく思いながらの手当て……なのだが、詠が椅子に座りながら蹴りをかましてきた。だがしかし、無駄に見切って避けてみた。……おお、意外なところで修行の成果が……現れたと喜んだところで改めて蹴られた。油断って怖い。

 

「いたた……でも、空気に触れた唾液にはそれほど効果が望めないどころか、細菌を増やす結果になるから、口に含んで舐めるんだ。舐めたら洗って拭く。これ大事」

 

 弁慶の泣き所を綺麗に蹴られ、蹲りたい気持ちを抑えながら説明。

 だから嫌がることはないんだぞーと言ってみるのだが、「だったらべつにあんたの唾液じゃなくてもいいじゃない……」とカウンターをくらった。……言われてみればそうだった。

 

「まあ……いやらしい意味でやったんじゃないってことだけはわかったわよ。……その。け、蹴ったこと、謝るわ。悪かったわね……」

「いや、こっちも説明も無しにいきなりだったから。以前、それで翠にも怒られたんだった。ごめん」

「うあ……他のやつにもこんなこと平気でやってるんだ……」

「だって、痛そうにしてるのにほっとけないだろ?」

「ねー♪」

「なー♪」

 

 会話の最中に横からにっこり笑顔を除かせる璃々ちゃんとともに、首を傾げながらにっこりと笑って言う。そうしながらも、詠の傷口に濡れた布を当てながら氣を流す。単純に流すんじゃなくて、覆うように。

 早く治りますようになんて願っても、早く治ったりはしないんだろうけど願う。

 するとどうでしょう。サッと布をどけてみた先には、赤い小さな点の傷口はあるものの、血が出てこない綺麗な指先がありました。

 

「え……もう止まってる……?」

「おお……」

 

 なんでもやってみるもんだ。

 そりゃあ針で刺した傷って血が止まりやすくはあるし、冷やしたお陰で傷口が多少は狭くなったことも関係しているんだろうけど、ともかく止まった。

 横でホッと息を吐く紫苑に、なんとなく苦笑を送って布を返す。濡らしちゃってごめんなさいときちんと謝った上で。

 

「圧迫したら血が出るだろうから、針仕事はまた今度にしたほうがいいかも」

「ええそうね。それじゃあ詠ちゃん、また今度、時間が取れたらいつでも訪ねて頂戴ね」

「うぅ……こんな筈じゃなかったのに……」

「ごめんね詠お姉ちゃん……璃々がおかしなこと言っちゃったからだよね……」

「あ、璃々はべつにいいのよ、おかしなことって言っても、反応するほうが悪いんだし」

「うふふ、それだけ意識してるってことでいいのかしら」

「だっ……だからそんなんじゃっ!」

 

 大黒柱かぁ……支柱って言葉から、まさかそんな話になるとは思わなかったな。

 っと、それよりも時間!

 

「う、あっ……わ、悪いっ! なんか今、直感というかサボ……ゴニョゴニョで養われた危機察知能力が働いたっていうか!」

 

 戻らないとまずい!

 なんだか背筋を伝う冷たい感触が、実際になにかあるわけでもないのにヒタリヒタリと這い上がってくる! これはあれだ! 春蘭の手料理を目の前にドンと置かれて、“食え。食わなければ斬る”と脅される時のような感覚ッ!! ……自分で思っててなんだけど、とてもひどい拷問だ。食うけど。

 しかし走り出そうとした俺の腰に、きゅっと抱きつくなにか。

 見下ろせば璃々ちゃんが居た。

 

「璃々ちゃん? あの、俺行かないと」

「服ー、忘れてるよみつかいさまー」

「へ? あ」

 

 ちらりと見れば、にっこりと笑いながら制服をはいと持ち上げてみせてくれる紫苑が。

 慌てて受け取ろうとするとにっこり笑顔のままに「落ち着いて」と言われ……

 

「うえっ!? あ、ああああのっ、紫苑っ!? じぶっ……自分で着れるからっ! ていうか、渡してくれれば走りながらでもっ!」

「ふふふっ、いいのですよ」

 

 後ろを向かされて、なんでかごそごそと着させられるハメに。

 持ち上げられた制服に腕を通すと皺を整えてくれて、正面に回ってきた彼女が服の前を整えてくれる。もちろん左腕は御覧の有り様状態だから、制服が落ちないように首の部分あたりを整えるだけで終わったわけだが───なんというかこう、手馴れた手つきだ。

 

「はい、もう動いても構いませんよ」

「うぅうっ……!」

 

 やばい……これ、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 まともに紫苑の顔見れない。というか口周りを手で押さえてないと、どうしようもなく緩む顔が見られてしまう。天での新婚さんは、こんな温かさとか顔が緩むひと時を毎日味わっているのだろうか。

 

(………)

 

 真っ先に脳裏に浮かんだのが、華琳が妻になった自分だった。

 で、華琳が甲斐甲斐しく俺に背広を着させてくれて───…………

 

(ないな)

 

 うん、あまりに現実離れしすぎてて、逆に冷静になれた。

 そうなると顔のニヤケも“ビッタァ!”と止まってくれて、同時に……服を着させてくれた紫苑の前で別の誰かの妄想をする失礼さ加減に、さすがに申し訳なさを感じた。

 

「えと……なんかごめん」

「? 構いませんから」

 

 素直に謝ってみたが、服の着付けに関しての感謝的ななにかとして受け取られたらしく、普通に受け流された。流れからしてそりゃそうだ。

 改めてもう一度ごめんと言うと、部屋を出て走り出した。




 ノートPCを購入、先日届いてからアップデートの嵐で時間かかりまくりんぐでしょぉって感じでようやく更新です。
 再起動に次ぐ再起動の中、過去に録画しておいた孤独のグルメシーズン6を時短プレイで見てニヤニヤ。
 今までデスクトップPCを47型TVに繋いで使っていたため、ノートPCになった途端にTVが空いたので、自由にアニメやドラマを見れる喜び。
 孤独のグルメをBGMに編集作業……集中できません。
 そっかそっかー、この頃はまだ「バイトをするならタウンワァ~ク♪」ってWANIMA編やってたのか。などと懐かしみつつ。

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