真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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74:三国連合/思いは食べ物にのせて②

 振る舞ったものをたいらげ、ご満悦で去っていくみんなを見送ってしばらく。

 みんなというのも、結局は夕餉を食べに来たみんなにも振る舞うことになったのだ。お陰でいろいろな意見をもらえた。“もっと甘いのがいいのだー!”とか“もっと辛いのは……”とか、なんというか偏った意見ばっかりだったが、もらえた。参考に出来るかは別として。

 ちびちびと使って完成させるはずだったのに、おかげで材料がすっからかんだ。

 しかし悲しみはてんで無く、むしろ喜びのほうが多いのだ。なにせ朱里や雛里、冥琳や穏をはじめとする軍師たちがお汁粉を口にすると、疲れた頭に甘さが染み入ったのか、しみじみと美味いと言ってくれたのだ。特に亞莎は目を輝かせて食べていた。いや、飲んでいたって言うべきか?

 やっぱり作ったなら美味いって言われたいもんな。

 

「ふぅ」

 

 すっかりと暗くなった今、自分自身でも試食してみたために腹はいっぱい。

 まだ食べている美羽を眺めつつ、後片付けを始めた。

 流琉も手伝うと言ってくれたが、今日は祭りの準備の手伝いをしていたそうだから俺が引き受けた。腕のことをしきりに気にしてたな……だがこの北郷、これしきで音を上げる男にあらず。

 片腕しか使えぬのなら片腕のプロとなるまでぞ!

 なにせ片腕でお汁粉さえ作れたのだから、片付けくらい……どうやって洗おう。

 

「オウ……」

 

 いきなり詰まった。

 知らず、外国人っぽく口をすぼめて切なく囁いてしまった。

 ちらりと見ても、残っているのは美羽だけ。

 いろんな人に囲まれてカチンコチンに固まっていたために食べる機会を逃した所為だ。

 今は幸せ笑顔でお汁粉を口に運んでいる。

 気になる七乃さんは華琳に呼ばれて、いろいろなものの引継ぎの最中だそうだ。

 ……その引継ぎが、俺の補佐に回ることっていうのが心配のタネではある。先に話しておいたものの、実際に補佐に回るとなると考えることもあるのだろう。七乃は少々微妙な顔つきで華琳の部屋へと向かった。

 

「まだ都も出来てないっていうのに、気が早いよな。……美羽ー、美味いかー?」

「んまいのじゃー!」

 

 少し温くなっているであろうお汁粉をくぴくぴと飲み、やっぱり笑顔を見せる美羽。

 ああまで真っ直ぐに喜ばれると、作ったこっちも嬉しいし和むもんだ。

 元気に返される言葉に気をよくして、片手でなんとか鍋等を洗ってゆく。

 素直に手伝ってもらえばよかったなと思う反面、そうすると美羽がのんびり食べられなかったんだろうなと確信を持つ俺も居る。……過保護だよなぁこれ。

 

「よっ……ほっ」

 

 考え事をしながらもなんとか洗い終えた鍋等の水を切り、布で磨いてゆく。

 “マテ、水気を氣で蒸発できないか?”って思いついてみれば、シュゴオと氣を解放。鍋がテコーンと輝いただけで、水気が蒸発することなんてなかった。

 予想はついたが、いいのだ。男は度胸。なんでも試してみるものさ。……コレ、言った人物はアレだけど、結構大事な言葉だと思うのだ。

 小さく苦笑をもらしながら、自分の手もなんとか拭うと美羽が座る卓へ。

 

「そういえば、最近は朝と夜以外は顔を合わせてないことが多いな」

「うみゅ? んむんむ……そうじゃの……。七乃と歌の練習をしてばかりじゃからの」

「練習、楽しいか?」

「うむっ、声を出すのは気持ちがいいのじゃ。七乃も、いずれは稼げるようになれると太鼓判を押しておる。主様も“たんれん”をして強くなるのじゃからの、妾も頑張ればもっともっと上手くなるのじゃっ」

「……そっか」

 

 言葉と一緒にエイオーと腕を元気に突き上げる。

 ほんとに、これがかつての袁術だっていうんだからすごいもんだ。

 聞いた話だけでもいい噂はなかったってくらいに我が侭で自分勝手。雪蓮も随分と苦労させられたらしいのに……実際にこうして話し合ってみれば、普通の女の子だ。

 

「主様こそ平気なのかの……? 腕を折られたと聞いた時は、妾……妾……」

「ああ、ははっ、折れてないって。ヒビが入っただけだから、折れるよりも治るのは早いはずだ。それに、傷は男の勲章ってね。少しくらい傷があるほうが男らしいさ」

「うみゅ……? そ、そうなのかの……?」

「…………骨の傷なんて、見ようがないんだけどな……ハハ……」

 

 けど痛みは覚えた。

 あんな感覚なんて二度とごめんだって意識があれば、もっともっと集中出来る。折れたことがあるのに注意が足りなかったといえばそれまでだが。

 そもそも恋の攻撃を片腕と俺の氣全部で受け止められるって考えがいけなかった。

 もっと氣の絶対量を増やさないと、いつか胴体がブチーンと千切れることになりかねないよなぁ……。

 

「お互い、もっと頑張らないとな、美羽」

「む? うむっ、皆に喜ばれるのもよいものなのじゃ。妾にかかれば皆笑顔なのだからの。もっともっと頑張って、皆を喜ばせてくれるのじゃー! うはーはははははーっ!」

 

 元気だなぁほんと。

 と、そうこう言っているうちに最後の一口を美羽が飲み込んだ時点でおやつタイムは終了。椀を受け取って片付けようとすると、「妾にどーんと任せてたも!」と、なんと自ら片づけを始める袁家の者!

 思わず“なん……だと……!?”と停止してしまったが、そういう考えは失礼だと思い直す。いい子になった。本当に。

 

「ところで主様? これはどうやって洗うのかの」

「………」

 

 漏れたのは苦笑。

 知ろうとしてくれたことへの笑みと、仕方ないなぁって意味でのソレは俺の顔を緩ませ、一つの食器に二人がかりで取り掛かるなんてことをしながら……美羽はお椀の洗い方を覚えた。

 

……。

 

 少しののちに二人で部屋に戻ると、鼻に届くのはいつもの自室の香り……ではなく、むわりと漂う獣臭。真っ暗な部屋に美羽の戸惑いの声が響くが、そういえば……恋が眠ったまま放置されていたのだ。

 うわー、嫌な予感しかしない。

 だってさ、今日のお汁粉パーティー(急遽開催)には恋の姿がなかったのだ。

 それ=ハラペコってことだろ?

 どうしよう……と思っているうちに目が慣れてくると、既に空間的に把握している部屋の間取りから見て右奥の寝台。その上の中空に赤く輝く瞳が……!!

 いや、それどころか寝台で横になっていたであろう動物達の目までもが開かれ、無意味に輝いて怖い! なんか某ゲームのイケニエ状況的な状況を思い出した! ラ、ラットフィーバー!

 

 コマンド:どうする?

 

1:ゲーム知識に従い、猫いらずをささげる……って相手に猫も居るんだよ!

 

2:水でよければと常備用竹筒を捧げる。

 

3:目に氣を集中させて、対抗して輝いてみる。

 

4:まずは灯りをつけよう。全てはそこからだ。

 

5:否! 自らの氣を発して、俺こそが闇夜に輝く金色の灯りとなろう!

 

 結論:4

 

 ……5はもうスルーしていいよな。きっと疲れてるんだよ、俺。

 

「………」

「主様?」

 

 いや、でもちょっぴり面白そう、なんて思ってないぞ?

 思ってないけど……ほら、その、思ったばっかりじゃないか。

 男は度胸、なんでも試してみるものだって。

 せっかく璃々ちゃんと遊ぶことで少しだけ童心を取り戻せたんだから、ここでまた無難に走るのはヨクナイ。

 なのでGOだ。

 

「ん……」

 

 暗い部屋に光が灯る。

 まるでホタルにでもなった気分な俺の体には、金色の氣。

 まさか自分が発光生命体になる日が来るとは思いもしなかったが、これって案外便利かも。暗い夜道は赤鼻のトナカイよりも役立てるかもしれない。とか思ってたら氣を発することで動物たちが好む匂いも溢れ出たのか、目を輝かせたままの猫や犬たちが俺のところへ集ってにゃーにゃーくぅんくぅんと鳴き出した。

 

「お、おぉおおっ!? こ、これはいったいどうしたことなのじゃ!? 主様が光って、動物たちが騒ぎだしたのじゃ! ……うみゅ? 光って……? …………ぬおゎああーっ!? ぬぬぬ主様が光っておるのじゃーっ!!」

 

 盛大に驚かれた! その声に反応した動物達も一層に騒ぎ出して、しかし恋が一言を放つとピタリと静まる。……あ、美羽までピタリと止まった。

 

「……一刀」

「ああ……うん……まあ」

 

 ぴしゃりと動物達を鎮めてみせた恋だが、一言放つだけで空腹という名のバケモノが目覚めてしまったらしい。きゅぐ~るるるるるいと鳴る腹の音に、妙に罪悪感が。

 ……外はもう真っ暗だ。

 真っ暗だが……

 

「よし恋、ちょっと抜け出すか」

「……?」

 

 首を傾げられた。

 そんな恋においでおいでと手招きをすると、「そういえばなぜ呂布が主様の部屋におるのじゃ……?」と首を傾げる美羽とともに、三人で部屋を出た。

 何処に行くのかといえば……裏通り近くにある一つの店だったりする。

 通路を通り、兵と軽い挨拶をして、「またですか……ほどほどに頼みますよ」と苦笑されつつ街へ。そのまま詠と一緒に通った裏道を逆戻りしていくと、一軒の店。夜遅くでもやっているそこへ入ると、威勢よくアニキさんが挨拶してくれた。

 

「おおっ? なんだ、御遣いの兄ちゃんじゃねぇか」

「やっ、アニキさん。三人だけど、大丈夫?」

「へいよ。おいそこ、ちょっと詰めやがれ。……狭くて悪ぃが、それでいいなら」

「っへへ~、上等上等」

「へっへっへ」

 

 二人してニカッと笑い、きょとんとしている恋と美羽に手招き。

 詰めてくれた人に感謝しつつ座った先で適当に注文をして、食べ物が来るまでは適当に話をする。

 

「ぬぬぬ主様? こここここは……」

「会合準備中に見つけた場所で、男のたまり場。名前は特にないけど、俺達の間では“オヤジの店”で通ってる。ここを見つけたのがきっかけでアニキさんとも仲良くなれたんだ。店を出してるってこと自体はチビから聞いてて知ってたんだけどね」

 

 そう広くはない店。

 しかし、ここはなんていうか暖かい店だ。

 裏通りに近い場所ではあるのだが、表通りの人も裏通りの人も集まる。

 まあ、来るのは愚痴目当てのオヤジばかりなのだが。

 

「チビの店は閉めるの早ぇえからな。ま、俺達裏通り連中中心の店なんざ、こうして夜に集って騒ぐのが楽しみってもんだ。町人が寝る時にゃあ他も寝るってのが礼儀ってもんだろうが、裏には裏の娯楽が必要、ってな。まあ、なんだ。明るいうちより暗いところで集ったほうがおもしれぇんだよ」

「まあそういうこったなぁ、だっはっは!」

「よぉ御遣いのあんちゃんよぉ、まーた表のほうでなんかやらかしたそうじゃねぇか。なんでも家を壊して回ったとか?」

「あれは俺じゃないって……」

「お? そういやその腕どうしたんでぇ」

「はは……鍛錬でちょっとね」

「うへぇあ……あんちゃんもやるねぇ」

 

 軽口を叩いていればすぐに打ち解け、広がる笑い。

 その場に居るみんながあまりに豪快に笑うもんだから、美羽もぽかんとしていた。

 恋は……調理されている料理をじーっと見つめている。腹は鳴りっぱなしだ。

 

「恋。ちょっとモノを食べる時のコツを教えるから、教えた通りにしてみてくれ」

「?」

 

 やがて「あいよっ」と威勢のいいアニキさんの声とともに、料理が差し出される。

 即座に恋が一口で食べようとするが、そこに待ったをかける。

 

「? ? ……? ……?」

 

 ……うあ、俺と料理をめっちゃ見比べてる。

 ごちそうを前に“待て”を命じられ、唾液を垂れ流す犬のようだ。

 

「まず、一口分を口に含む。すぐに飲み込んじゃだめだぞ?」

「……? わかった」

 

 言うが早し。ぱくりと口に含むと、口に広がる味に目を輝かせた。

 よっぽど腹が減っていたらしい。

 

「で、一口につき50回噛み締める」

「…………、……?」

 

 ありゃ、首傾げた。

 

「はい噛んで噛んで。1、2、3」

「……、……?」

 

 よくわからないって顔をされた。でもきちんと噛んでくれてるのがなんだか嬉しい。

 

「数えながら50回って結構面倒なんだけど、そんなキミにはひと工夫。2回噛んで1を数えるんだ。い~ち、の間に二回噛む。すると25回で50回。不思議と一回ずつ噛んで数えてを繰り返すよりも早く感じる」

「……、……、……」

「お……そうそう、そんな感じ。で、50回噛んだら飲み込んで次の二口目」

「………」

 

 一口一口を大事に食べさせてみる。

 どうにも恋は大食いすぎるきらいがあるので、そこに変化をつけるべく咀嚼回数UPを計画した。アニキさんは大食いのために店を開いてるんじゃないし、儲けよりも今を生きるオヤジたちの愚痴を発散させようって部分の方が大きい。

 そんなアニキさんの料理だ。がつがつ食べさせるのはアニキさんに悪い。

 恋は確かに噛んで飲み込むが、咀嚼回数が少ないと思うのだ。

 咀嚼回数が増えれば満腹中枢も刺激されまくるはず。

 そこを突いて、じっくりと食べる喜びを知ってもらおうじゃないか。

 

「ふぅううぐぐぐ……ぬ、主様ぁあ~……顎が、あごが疲れるのじゃぁあ~……」

 

 ……そしてこちらの少女には、もっと強い娘になってもらおう。

 意思とかって意味じゃなくて、普通に筋力的な意味で。

 

「美羽~? 顎をよく動かしてモノを噛むとな、頭が刺激されて脳の働きを助けるんだぞ? それに顎周りの筋肉や頬の筋肉を育てておけば、将来頬がたるみすぎることもないんだ」

「むっ! 心配せずとも妾はたるんだりなぞせぬのじゃっ!」

「おっとと、そりゃあいけねぇなぁ嬢ちゃん。若いうちの努力は文字通り、若いうちにしか出来ねぇんだぜぇ? うちのかかぁなんてもうたるみまくりよぉ。昔は整ってたのによ……とほほ」

「う、うみゅ……? そうなのか……?」

 

 くわっと気迫を込めて反論した美羽だったが、隣のオヤジにしみじみと言われるや早速たじろいでいた。

 

「ああ。御遣いのあんちゃんが言う方法でどう変わるのかは俺にゃあわからん。だが、やって損するようなことじゃねぇんだろうさ。なにせ、あんちゃん自身が前と比べて随分と警備隊長らしくなってるんだからなぁ」

「……つまり前は全然だったってことね」

「だっはっはっは! そりゃああっちこっちでサボったり立ち食いしたりしてりゃあ、そう見られてもしょうがねぇでしょうよぉ!」

「うぐっ……返す言葉もない」

「ほおお……今の主様からは考えられぬの……」

 

 意思の向く方向が、以前とは違うからなぁ。

 漠然とした意思の下、魏の天下を目指していた頃とは違い、今はただひたすらに国に返すために。

 その思いも各地を回るうちに、回った数だけ返したい思いが増えてしまった。

 ……これって返し切れるんだろうか。

 というかね、キミタチ。人の過去のことで盛り上がるのはそのへんにしてくれません?

 サボリ癖があったのは認めるから、それ以上美羽にかっこ悪いこと吹き込まないで。

 

「しかし嬢ちゃんよく噛むねぇ。顎疲れないかい?」

「……平気」

「へへっ、そうかいそうかい。じゃ、次だ」

 

 アニキさんが新しい料理を出す。

 最初の皿は既にカラだ。結構な量があったにも関わらず、しっかり50回噛んでこの速度とは。恋……おそろしいコッ!

 

「恋、いつもよりよく噛んで食う食事はどうだ?」

「…………周りの音がよく聞こえる」

「そかそか」

 

 今まで周りの音はよく聞こえなかったのか?

 食べるのに夢中だっただけか、なるほど。

 でも同じ味を噛み続けることで、周りに意識を向ける余裕が出来たと。

 

「美羽、初めてくるこういう場所はどうだ?」

「ものすごい男臭なのじゃ……」

「お、男臭か……」

 

 言われてみれば恋と美羽以外に女なんて居ない。

 だからこそのこの男臭さ。しかし、あえて言おう。だからいいのだと。

 

「だっははははは! よぉおめェら、この嬢ちゃんが臭ぇってよぉ!」

「はっははは違ぇねぇ! けどなぁ嬢ちゃん、慣れてくりゃあこれが仲間の臭いなのさ! この臭いを嗅ぎながらだからこそ、遠慮なく話せるってもんだな! なぁ!」

「おうその通りだぁ!」

 

 一度誰かが声を上げれば別の誰かも声高く。

 そんな調子で騒げる場所がここ、ヒゲのアニキのお店だ。

 愚痴をこぼし合うのも励まし合うのもこういう場だからいい。

 なんだかんだで、男ってのは見栄っ張りなのだ。だから女が居ると弱くなれない。なれないんだったら、こうして騒いで発散するしかないのだ。もちろん愚痴の代わりになるのだから、生半可な騒ぎじゃ済まない。

 時には兵まで混ざって騒ぐような場所。ある意味いろんな男たちに守られた男達の聖域。

 

「しかしおめぇ、くせぇなぁ。体ぁちゃんと拭いてるかぁ?」

「おめぇに言われたかねぇよぉ。俺ゃこれでも綺麗好きだっての」

「あーそーかい。御遣いのあんちゃんは……なんか動物くせぇなぁ」

「猫か犬でも飼ってるのか?」

「臭いの発生源は俺じゃなくてそっち」

「?」

 

 ちょいちょいと指差して見せると、指差された恋がもぐもぐと咀嚼をしながら首を傾げる。……そのついでに何故か指差し返された。

 

「む」

 

 せっかくなので璃々ちゃんともやったように指を輝かせ、指と指を合わせてみる。

 …………うん、やってみただけだから特に意味はない。

 しかし恋はそんな意味のなさがなんだか気に入ったようで、料理をもぐもぐと咀嚼しながらも輝く指先をつんつんと突いてくる。

 猫が、差し出した指先に鼻をつけてくる時みたいで面白い。

 

「おおお……これは美味いの。アニキとやら、これはなんじゃ?」

「いや、べつに俺の名前はアニキってわけじゃねぇんだけどな……」

 

 その脇では美羽が出された料理に舌鼓を打ち、アニキさんに料理のことを問うている。

 真正面からぶつけられる無邪気さに調子を崩されながらも、しっかりと説明をするアニキさんも手馴れたものだ。案外世話好きな人なのだろう。

 なんだかんだで、今日美羽や恋をここに連れて来たのは正解だった。

 HIKIKOMORIになって以来、自分から積極的に他人に声をかけるようなことをしなかった美羽が、自分からアニキさんに声をかけたのだ。これはきっと大きな一歩だ。

 その理由が料理の美味しさに釣られてでも構わない。娘の成長を目にした親の心境とは、きっとこんな感じのものなのだろう。

 

「うむうむっ、美味かったのじゃ。ここまでのものを馳走してくれたのなら、なにぞ返すものがなくてはの。……おおそうじゃっ、妾が今ここで歌ってくれるのじゃ」

「歌? なんでぇ嬢ちゃん、歌なんて歌えるのかい」

「現在練習中。でも上手いよ」

「うむ、主様に恥をかかせるようなことはせぬ。妾の美声を存分に聞くがよかろ」

「はっはっは、嬢ちゃんみてぇな娘っこの歌が、ここに馴染むかねぇ」

「な~に言ってやがる、俺の娘の歌ならここにだって絶対ぇ馴染むぜぇ?」

「そりゃあいいや、だったら今度連れてこい。この嬢ちゃんと一緒に歌わせてみようじゃねぇか」

「いや……連れてくるとなると、あいつがよぉ……」

「だははははは! 相変わらず尻に敷かれてんのかい!」

 

 男たちの話は温かい。

 混ざるだけでも落ち着いて、気づけば顔を緩ませ、声を高くして笑っている。

 そんな中で美羽の歌は開始され、確かな綺麗な声におやっさんやアニキさんは『ほぉお……』と息を吐く。せっかくなので手拍子を開始してみれば、そのリズムに合わせてやんややんやと手拍子を開始するおやっさんたち。

 誰かが手拍子を始めればあっさりと広がる手拍子祭り。

 まるで酔っ払ったウチのじいちゃんが何人も居るみたいだ。

 けど……いい大人のノリなんてものは、こんなくらいが丁度いいんだと思う。

 俺、まだ学生だけどね。鍛錬の合間にじいちゃんに酌するのも少なくなかった。だから、こんな空間はもう慣れっこだ。祭さんや桔梗や紫苑の酔ったノリにはついていけそうもないが。

 ……うん、本当に今日、ここに来てよかった。

 美羽が自分から誰かに感謝し、歌まで歌っている。

 恋もじっくりと食べることを覚えてくれたし、これで───これで…………

 

「と、ところで嬢ちゃん? いったいどんだけ食うつもりで……」

「………?」

 

 ……これで大食らいも治るかな、なんて思っていた俺へバカヤローを唱えたい。

 結局予想を遥かに越える量を時間をかけて咀嚼し、完食。ちょっとした夜食会になるはずだったその日、結構な金額が俺の巾着から消えることとなった。

 いや……落ち込んでない、落ち込んでないぞ?

 これは大きな一歩だったに違いないんだから……そうだよな、自分……。


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