真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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76:三国連合/視察をしましょう②

-_-/想像

 

 蒼の空の下、覇王と、その姿を守る大剣と軍師の姿があった───!

 

「華琳様華琳様! 次は何処へ行きましょう!」

「うるさい! 馬鹿が伝染るから離れていなさいよ!」

「なんだとぅ!? 桂花こそ華琳様が溜め息を吐いているから離れろ!」

「ふふん? 自分が原因であることにすら気づけないなんて本当に馬鹿ね。あぁ、確認するまでもない馬鹿なのだから当然だったかしら」

「なんだと貴様ぁあああ! そういう貴様こそ頭ばかりで警護の役に立っていると思っているのか! ただ傍を歩くだけなら動物にだって出来る! ……あぁ、動物だからその耳がついたような被り物をいつも着ているのか」

「なっ……なんですってぇえええっ!!? 華琳様華琳様! この馬鹿が私を───!」

「華琳様! こんな動物の言うことなど聞く必要は!」

「華琳様!」

「華琳様ー!」

 

 ……。

 

 

 

 

-_-/一刀

 

 …………だめだな。うん。なにがとかそういう説明以前にいろいろだめだ。

 終始溜め息を吐いている華琳の姿が軽く浮かんだよ。

 

「いつ休むかどうかはべつとして、やっぱり妖だな」

 

 頷きながら、自然と言葉が出た。

 そんな俺を視線を真っ直ぐに受け止めながら、口の端をヒクリと歪めて僕を睨む覇王様。

 ───はうあ! なに本人の顔見ながら妖とか言ってんだ俺!

 

「へぇ……考えて、人の顔を見てから言う言葉がそれなの」

「ちょっと待てっ、ヘンな意味じゃなくてっ! あの春蘭と桂花にきちんと慕われてる時点で、俺にとっては十分物凄いことだって言ってるんだって!」

「……そういう意味では貴様も妖と変わらん気がするが」

「え? 思春、今なんて───」

「お兄ちゃんは化物なのだ」

「バケモノ!?」

 

 ショッ……ショックだ! 面と向かってバケモノ呼ばわりされた!

 しかもその原因にまるで心当たりがなく、それは一生解決されない気がする……教えてもらえるまでッッ!!

 ……などと奇妙にショックを受けていないで。

 

「バケモノ呼ばわりはその……原因を聞くのが怖いからスルーするとして。鈴々、駆けっこ大会は走るだけなのか?」

「ほんとは国同士で、代表を決めて走ろうかと思っていたのだ。お兄ちゃんの国の……えとー……なんだっけ。りれー?」

「あ、リレーか。それは確かに面白そうかも」

 

 各国ごとに代表を何人か選出、先に外壁を回りきったほうが勝ちとかなら、選手によっては相当盛り上がりそうだ。

 

「ふぅん……? それに関しては蜀が有利そうね」

「はは、たしかに……って、華琳はリレー、知ってるのか?」

「蜀の“教科書”で興味を引くものは読んだもの。せっかく訪れたのに、未知に目を通さないのはもったいないでしょう?」

 

 教科書。蜀でその名で呼ばれるのは学校での教本くらいだ。

 なるほど、あれを読んだのか。

 体育のことも書いてあったはずだから、そこから知ったんだろう。

 

「逆に呉は不利なのだ」

「そうね。足が速そうなのが明命くらいしか思い当たらないもの」

「………」

「あの。思春サン? どうしてそこで俺を睨むんですか?」

「もし“りれー”とやらをすることになったなら、貴様が呉のために駆けろ。不足を補うのも支柱の役目だろう」

「え……この腕でか? あー……そりゃ、華佗に頼めば一時的に痛みを止めてもらうことくらい出来るかもだけど、俺で力になれるか?」

「お兄ちゃんが出るなら、次こそ鈴々が勝つのだ!!」

「発案者はこう言っているけれど?」

「………」

 

 俺をキッと見上げる鈴々の目が“出るのだ~……大会に出るのだ~……”と語っていた。

 ここでノーと言ったらどうなるんだろうか。いや、そもそも怪我の所為で本調子なんて出せるもんか。痛み止めを鍼でしてもらったとして、だからって元気に振り回せるわけでもない。

 明日完治するならまだしも、華佗には武道会参加は無理だって言われてるんだ。

 走ることだってそりゃあもちろん却下されるに決まってる。

 

「悪い、鈴々。腕がこの調子だから腕を振って走るなんて無理だよ」

「にゃ? だったら振らなきゃいいんじゃないのー? 明命みたいに背中の剣を掴んで走れば問題ないと思うのだ」

「思うよ? じゃなくて。その掴む手が動かせないんだってば。掴んで固定なんて無理」

 

 頭の後ろで手を組んで“にしし”と笑うちびっ子さんに、自分の状態を事細かに説明してやる。すると、「だったら鈴々が支えるのだっ!」と決意に燃える顔で言われた。

 

「出場するとしたら同じ競走相手でしょーが! なのに俺を支えてどーする!」

「怒ったのだ!」

「怒ってないっ!」

 

 ツッコんだだけである。

 言ってはみたがわかっていたようで、やっぱり頭の後ろで手を組みながら、にししと笑う。

 そんな鈴々の頭を溜め息を吐きながら撫でてやると、猫のように自分から顔を押し付けてきた。両手が使えるんだったら、頭と一緒に顎でも撫でてみたいもんだとか普通に考えてしまった俺は、いろいろと危ないですか?

 

「………」

「なによ」

 

 ちらりと華琳を見て、頭と顎を撫でる想像をしてみる。

 ……両手が吹き飛びそうだった。主に魏武の大剣さまの手によって。

 う、うーん、せっかくのデートなのに、想い人になにも出来ないヘタレさんの気持ちってこんなのなんだろうか。いや、ヘタレヘタレ言うけどこれでも結構考えてるんだぞ!? 一歩が踏み出せないだけで、ヘタレだって頑張ってるさ! でもそのために必要な勇気が、手を失う覚悟とか殴られる覚悟とか、曲刀を首に押し付けられる覚悟に勝らなきゃいけないのはいかがなものかなぁ!!

 

「いや、なんでもない」

 

 いろいろと頭の中で整理してからの返事。

 ちらりと見た先で華琳と目が合ったっていうことは、華琳も俺を見てたのかなーなんてことを考えてしまうが、なんていうか……ほんとどこの学生さんだって感じだよな。一緒に乱世を潜り抜けて、体まで重ねたのに、今さら視線が合っただけでも嬉しいとかもっと話をしたいとか……うう。

 まるで恋人になりたてのカップルじゃないか。

 いや、こんなふうに思ってるのは俺だけなのもだけどさ。

 

「ねーねーお兄ちゃん、腕が折れるのってどんな気分なのー?」

「容赦ないね鈴々……」

 

 そんな、どこか乙女チックな心境をあっさり破壊してくれたのが鈴々さんでした。

 ……いいんだけどね。

 

「折れてはいないけど、とにかくやたらと不便だ。動かせないし腕は痒くなるし、片手だけだと上手く出来ないことだって山ほどあるし」

 

 氣の鍛錬に支障が出ないのはいいことだ。氣を使うだけなら腕は要らない。

 ただ、木刀を構えるのにも右手一本だと心許ない。不安になる。

 常に左腕には氣を流してはいるものの、なかなか治るもんじゃない。

 時間が空く限り、華佗が診てはくれるんだが……実は俺が一日中氣を流すよりも、華佗の鍼の一撃のほうが治癒力が高かったりする。医者なんだから当然と言ってしまえばそれまでだが、かなりショックだ。

 そんな俺だが、華佗に氣の扱い方を教えてもらう約束を取り付けてある。

 いつからになるかは未定ではあるものの、それこそいつか華佗が言っていたように、医術のために自分の氣を役立てることを目指して覚えるのも悪くない。

 といっても、そうなると腰を落ち着けてから───都での暮らしが落ち着いてからってことになる。気の早い話でもあり、気の長い話でもある。

 でも……そうだな。医術を覚えて、霞と旅をしながら人を救うのも悪くない。

 都暮らしを始めたらそんなことが出来るのかって不安になるが、それまでに誰か代役を立てるのもいい。俺より優秀な人なんて、この世界には余るほど居るんだ。

 

「華琳」

「なに? まさかやっぱり駆けっこをしたいとか言い出す気? それとも武道会かしら」

「や、そうじゃなくて。都暮らしに慣れたら、しばらく休暇が欲しいんだ。あ、もちろん都が出来てもいない今に言うことじゃないことはわかってる。でも、口約束でも先に了解が欲しいかなって」

「たとえ口約束だろうと、私が破りたくもないとわかってて言っているのだとしたら、随分と気の早い仕掛けね」

 

 何故か、どこか嬉しそうな顔でフッと笑って言う。

 いつもの顎を少し上げて人を斜に見る姿勢のまま。華琳ってこの姿勢好きだよな……でも、見下したような視線として受け取れないのは慣れですか?

 

「支柱にはなったけどさ、たぶんそれって必ずしも俺がそこに居なきゃいけないってものでもないと思うんだ。今はそう思ってくれてたとしても、先のことはわからないし。慣れる頃には俺がやる仕事なんて片手間で出来る人材が出来てるんじゃないか?」

「ええそうね。“仕事だけなら”あなたじゃなくても出来る者が居るわ。売るほどにね」

「うぐっ……容赦ないな、ほんと」

「言わなきゃわからない馬鹿には、それこそ言ってやらなきゃわからないでしょう? あなたね、いちいち自分を低く見すぎよ。少しは自分に自信を持ったらどう?」

「自信? ……自分に?」

 

 自分を指差して言ってみるが、そんなことは無茶ってもんだ。

 確かに何度か考えたことだ。胸を張って、自分の責任で自分の道を歩こうって。

 しかしながら世の中そう上手くはいかない。

 失敗すれば誰でも落ち込むように、自信だってどんどんと落ち込んでいくものだ。

 ……さらにしかしながら、そんな上手くいかない世の中でも何処かには抜け道が転がっているものでありまして。たとえそれが“自信を持つ”ってものに繋がらなくても、自分を低く見ないようにするってことは出来るのでしょう。

 

「自信は難しいから、とりあえず自分を低く見ない努力をしようと思う。で、俺ってどこらへんが低いんだ?」

「庶人相手にへらへらしているところや、腰が低いところだな」

「思春さん!? それってただの付き合いなんですが!?」

 

 そんなことも許されないんですかこの世界は!

 きっ……近所付き合いの“き”の字も許されない勢いだぞ!?

 

「それもだけれど、自分を軽く見ていると言っているの。どうせ、自分の代わりなどいくらでも居ると思ってるんでしょう?」

「む……まあ」

 

 正直、乱世を抜けてしまえば“天の御遣い”って名前にさほどの価値はない。

 俺が俺に出来ることを、って探し回っているのはその所為っていうのもあるだろう。

 みんなに会いたくて戻りたいと願って、会えたらそれで終わりってわけでもない。

 ただ……その。みんなの傍に居る男は自分でありたいとは思ってる。

 独占欲が強いんだ、結局。

 うううむむ、だめだ。難しく考えないようにって構えれば構えるほど、深みにハマっていく。どうしたらいいんだろう。もうなにもかも受け入れてしまえばいいのか?

 

「華琳。俺、難しく考えすぎだよな?」

「……今さらなに?」

「今さら!? ……い、いや、再確認したかっただけだから……うん。よしっ! じゃあもうなんでもズバッと決められる俺でいよう!」

「そう? なら早く子種を求める者に注ぎなさい」

「断る! 痛い! ギャアーッ!!」

 

 力いっぱい否定したら再び弁慶が泣かされた!

 思わず両手で弁慶を庇うようにすると、左腕にズキーンと走る激痛!

 

「お兄ちゃんが痙攣してるのだ! それ、なんて遊びなのだっ!?」

「真剣に痛がってるんですが!?」

「痛いのは繋がっている証拠だ。呂奉先を相手に命があっただけ、まだ良かっただろう」

「……両腕で来られた時は、胴体が千切れる未来が脳裏にチラついたよ」

 

 命拾いました。本当に。

 と、それはそれとして。

 

「と、ところでその……かかかっかかか華琳は、その……」

「?」

 

 痛みに涙を浮かべ、蹲りながら華琳を見上げる。

 胸を張って、下から見ると踏ん反り返っているようにも見える姿勢の華琳は、体勢を少しも変えないままに俺を見下ろしている。

 そんな彼女に俺は……エ、エート。

 

(コッ……コココッコココ子種トカ、欲シクハナイノデスカ?)

 

 …………言えるか!!

 いやっ、でもっ、一番最初は華琳がいいなって気持ちはホンモノでして!

 相当最低なこと思ってる自覚はあるんだけど、それでもやっぱりこういう気持ちは!

 

(でも……華琳って“他の人と”って推すばっかりで、自分はあんまり……むしろ全然)

 

 …………俺、一人で空回りしてるのかな。

 や、でも抱き締めた時、嫌がられなかったし……さっきから“でも”ばっかだな俺。

 いやいや北郷一刀よ、悩むより突っ走れだ。もう迷うな。

 悩むことは大事だ。そりゃ大事だ。しかしよく考えた上で出た答えはすぐに口にする。そんな勇気を持ちなさい。

 

「かか華琳! 華琳はそのっ……こここっここっ……子供っ! 欲しくないのカッ!?」

 

 顔がちりちりと熱を持つのを自覚しながら一気に言った! 言ってしまった!

 だがもう後には引けぬし退けぬし引かぬし退かぬ!! 幸運を(ラック)! 勇気を(プラック)

 ……と、いっぱいいっぱいになりながら見上げる華琳さまは、硬直したままでございまして……しかしその顔がみるみる赤くなっていき、俺を見下ろしていた目がキッと鋭くなると、どこから取り出したのかもわからない絶を俺目掛けて振るってオワァアーッ!?

 

「くぅおっ!」

「!?」

 

 咄嗟に伸ばした氣を纏わせた右手で、絶の刃ではない長柄の部分を押さえる。

 顔を逸らしていたからいいものの、あのまま動かなかったらサックリ行ってました……よね? つか、手が痛い。押さえた手の骨に柄がゴインとぶつかって、痺れてる。

 氣で勢いも威力も吸収、咄嗟に地面に逃がしたはいいけど、お陰で少し地面が少しヘコんだ。どんだけ力込めて振るったんですか、華琳さん。

 

「あの……華琳? 今わりと本気で殺しにきた……?」

「あ、かっ……ずっ……あなっ……あなたっ……一刀が妙なことを言うからよ!!」

「おおうっ!?」

「ここっ子供!? 子供と言ったの!? 私に!? 私との!?」

「や、ちょ……華琳? 落ち着こう? な、なんか目がぐるぐる回ってるぞー……?」

「うぅううううるさいわね落ち着いてるわよ!! ちょっと黙ってなさい!」

「はい黙ります!」

「それでどうなの!? 言ったの!? ~……なんとか言いなさいよ!」

「どうしろと!?」

 

 顔をこれ以上ないってくらい赤くした華琳は、もはや何を言っているのか。

 落ち着きなくあちらこちらに視線を彷徨わせるのだが、絶だけは俺の首に添えられたままでございまして。

 

「にゃ? お兄ちゃん、子供がほしいの?」

「ほほほ欲しいか欲しくないかでいえば欲しいカナッ!? もちろんそうなる前に、俺ももっといろいろなことが出来るようにならなきゃって思うケドサッ!? 学んでいる途中だってのにそれは気が早いだろとは思うし、きっと手も回らないんだろうけど───好きな人との間にカタチが出来るのは、それだけで嬉しいかなって」

「っ!? ───、……~……」

「うわっ!?」

「にゃー!? 華琳が真っ赤になったのだ!」

「か、華琳さま!?」

 

 絶をヒタヒタと俺の首筋に押し付けていた華琳の顔が、爆発するくらいの勢いでより赤くなった。目は潤み、涙が滲み、絶を持つ手はカタカタと震えてイタッ! 痛い! ちょ、軽く切れてる! 切れてます華琳さん!

 華琳!? ちょ……か、……? ……あの、華琳さん?

 

「か……華琳?」

「………」

「……華琳?」

「………」

「華琳? 華琳さーん?」

「───……」

「…………立ったまま気絶してる……」

 

 しかも目を見開いたままだった。なんか渦巻き状に見えるのは気の所為ですか?


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