真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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なんでかこれだけ予約投稿が24日になってました。
なんでかっていうか間違えたんでしょうけど(^^;
いきなり②から見てしまうような事態になってしまってごめんなさい。



77:三国連合/好きと言われたくて①

123/いろいろな人の様々な解釈

 

 ……さて。

 立ちながら、目を見開いて気絶するという凄まじい偉業を成し遂げた華琳であったが、少しすると復活。偉業よばわりは大袈裟ではあるものの、珍しい状態を見せてくれたことには変わらず……───ああいや、そんなことはどうでもいいか。

 ともかく、逃げるように歩き出した華琳を追って移動を再開。

 ブンブンと手を振る鈴々に手を振り返したときには既に思春の姿はなく、また気配を消したのだろうと頬を掻きながら苦笑。

 華琳の横に並ぶと、何故かそっぽを向きつつ距離を取って歩く華琳サン。

 で、ソソッと近寄ると「!?」と過剰なまでに肩を弾かせ、また離れる。

 横顔は真っ赤なままだ。

 らしくない態度にポムと肩を叩いてみれば「ひゃあうっ!?」……これまたらしくない悲鳴。

 可愛いとも思える声を上げ、肩に置いた手を払ってジャザァッと勢いの良いステップで距離を取られてしまった。そんな全力の反応にこちらまで驚いてしまい、俺と華琳はまるで対立し、威嚇し合う猫のような心境で見詰め合った。

 え? なにこの状況。“ふかーっ!”とでも威嚇すればいいのか?

 それとも“ゴギャー!”と奇声を上げて襲い掛かればいいのか? ……襲い掛かったら首が飛ぶな。

 

「…………えーと……華琳?」

「……はっ!? …………こほんっ。……な、なにかしら?」

「………」

「………」

 

 え……えぇええ……? なんでここでこんな重苦しい空気に……?

 こんな状況じゃあ、なに言っても余計に場が重くなるって経験しかないのですが……?

 い、いや、難しく考えるな北郷かず(略)───臆せずにかかっていけ!

 

「ん、と。華琳が俺に、華琳が認めた人と子を作れって言いたいのはわかった。納得がいくかって言われれば難しいけど、正直に言えば……俺もみんながちゃんと、好きな人相手とそういうことをしてくれたらなとは思うよ」

「え、ええ」

「でもさ。じゃあ華琳はどうなんだ? 俺ばっかりに言うんじゃなくて、他の人ばかりに薦めるじゃなくてさ。華琳はその……子供とか、どうするんだ?」

「なっ───……わ、私は……」

「…………うん」

「………」

 

 距離を取りながらも俺の目を見ていた華琳の視線が、地面へと落ちた。顔は赤いまま。

 ……そうなのだ。

 華琳は人には薦めたりそうしなさいと言うが、自分の気持ちは口にしない。

 そりゃあ以前泣かせてしまった時には随分と言われたこともあるが、それはもっと傍に居ろってことであって、無理をするなってことであって……所有物として見られているだけなのかって誤解だってしそうになる。

 もちろん所有物ってだけで体を許したりはしないだろう。居なくなったことで泣いたりもしないし、それをうっかり告白してしまってテンパりもしない。自分は想われているんだって自覚していい理由にはなる。

 ただ、あまりにも他の人他の人と言われると……寂しいじゃないか。

 きっと好きでいてくれてるってわかっていても、何度だって聞きたいし届けたい。

 おっ……乙女のようだと笑わば笑え! それだけ好きだから、世界さえ飛び越えてでも会いたいって思ってたんだ! だから届ける! もう待つのはやめだ! 言う……言うぞ! そのための覚悟を……今、完了させる!

 

「おれっ……俺は華琳が好きだ! 所有物だからとか生きるためにはしょうがなくとかそういうのじゃなくて、一人の人間として、女性として、華琳を愛してる!」

「ひぃぅっ……!?」

 

 人々が作業し、汗水流す天下、大声での告白。

 眩暈がするほどの恥ずかしさが俺を襲うが、ちりちりと熱を持つ顔や跳ね上がる鼓動も無視したままで一気に放つ! 告白に対して小さな悲鳴をあげた華琳が可愛いとかそういうことも今は……、……イイ……! ───じゃなくて、今はいいっ!

 

「そんな華琳に他の人と子供を作れって言われればショックだって受けるし───その、それが最善でみんなのためであり俺のためにもなるなら受け入れるけど! そそそっ……それでも! それでも最初は華琳がいいんだよ! 魏のみんなのことが好きだ! 気の多いことだなんてことはわかってるよ! 勢いでってことも確かにあっただろうけど、みんなのことを愛しているのも本当だ! そこに他の国のみんなが混ざることになって、戸惑わないわけないだろ!? 言われるままに抱けるもんか!」

「か、一刀……?」

「望まれるままに受け入れて抱いてきたのは事実だし、そういう認識をされてるのもわかるよ! でもな、俺だってその、普通に誰かを好きになったりするし、抱いて受け入れなきゃ好きにならないってわけじゃないんだよ! なのに抱け抱けって……ええいもう! そうだよ! 好きだよ! みんな好きだ! 今さらなに言ったって男としての尊厳とかが取り戻せるもんかぁっ!!」

 

 なんか涙出てきた。

 結局なにが言いたいのかを見失い、ごっちゃごちゃになってしまった。

 魏のみんなが好きなのは曲げようのない事実だ。

 それは苦楽を共にし、乱世を駆け、一緒の時間を長く過ごしたから。

 じゃあもし他国のみんなともそういう経験をしたら? 好きになるのか? なんて訊ねられれば、俺は頷く他ないわけだ。今はまだ恋愛感情はない。が、これからもそんな感情が現れないとは限らない。

 部下だと思っていた凪たちを抱くことで受け入れたのと同じように……もし抱いてしまえば、同じく大切な人として受け入れるのと変わらない。つーか、部下として、で思い出したんだけど……真桜を受け入れた時は……相当特殊だったよな。なにせ絡繰の実験のついでに、だったし。

 

(……俺って……押しに弱い……んだろうなぁ。それも相当)

 

 難しく考えるな、って無理ですごめんなさい。

 だが! だが言いたいこと、伝えたいことは伝えよう!

 どんなにわかり合った関係だろうと、言葉にしなければ伝わらないことはあるんだ!

 

「だだだだからそのつまりっ! なにが言いたいかっていうと! いっ……~……嫌なんだよ! なんか俺ばっかり好きみたいで! 泣いたって言われても所有物を無くしたから泣いただけなのかとか妙な勘繰りも頭に浮かぶし、そうじゃないってわかってるのに不安になってもやもやして! 自分でも相当見苦しい男だなってわかってるけどっ! ……仕方ないだろ……っ……好きなんだよ……!」

「………」

 

 華琳がぽかんとした顔でこちらを見る。その顔はやっぱり赤く。

 でも、その喉が小さくコクリと動くと、目を伏せながら口を開いた。

 

「あ、あなたね……わ、わわ私がただ、所有物だからという理由で、かかかっかか体を許したとでも……ひうっ……こ、こほんっ! 言う、つもり、なのかしら……!?」

 

 言うつもり、という部分がひっくり返ったのか、“ひうっ”なんて可愛い声が出た。

 その恥ずかしさからか口の端は引き攣り、顔はさらに赤く。

 

「我が侭みたいなこととか女々しいことを言ってるのは承知の上だっ! 俺が聞きたいのはそういう言葉じゃなくてっ! そ、そのっ……! 華琳っ!」

「ひゃいっ!?」

 

 ……また可愛い声が出た。

 しかし距離をジリリと離されてしまった。

 なんだか滅茶苦茶警戒されてる。あの覇王さまに。

 

「す、好きだ!」

「ひうっ!? ……だ、だからなによっ! わかっているわよそんなこと!」

「やっ……だ、だから! 好きだ!」

「だからわかっていると言っているでしょう!?」

「うっ……そ、そうじゃなくて! ほらっ! ~っ……すす好きなんだよ!」

「わかってるわよ!」

 

 わかってるけどわかってない! ああもう本当にっ……! 人が恋する乙女みたいで恥ずかしいのを我慢してるってのにこの覇王さまはぁああ……!

 言っただろ!? 自分ばっかり好きみたいで嫌なんだってば!

 もやもやするんだってば!

 だだだだからっ! そういうのを察して、一言を言ってくれるだけでどれだけ……!

 言ってくれって言って返してもらうんじゃなくて、察してくれて言ってくれるだけで!

 贅沢を言えば察するより先に自然に言ってくれれば……ああもう乙女だよちくしょう!

 つーかもうだめ! 限界! 恥ずかしすぎて堪えられない!

 こんな弱い俺を許してください!

 

「う、うゎあああああん!! 華琳のばかーっ!!」

「え? あ、ちょ───一刀ぉっ!?」

 

 顔が真っ赤になっているだろうことを自覚しながら、羞恥に堪えられずに逃げ出した。

 華琳の戸惑いの声も右から左へ、どこか落ち着ける場所を目指して───!

 

 

 

 

-_-/華琳

 

 …………行ってしまった。

 なんだというのよ、まったく。

 

「いくら準備の所為で周りが騒がしいとはいえ、あんなにす……すす好きだ好きだ、って」

 

 胸が熱い。熱くて、ぼーっとする。

 けど……結局一刀はなにがしたかったのか。

 あの男が自分を好いているのは……その、わかり切っていることだ。

 それを幾度も叫ぶ理由があるのだろうか。

 けれど叫ぶだけ叫んだと思ったら走っていってしまう始末。

 何がしたかったのだろう。

 

「いや~……華琳、ありゃアカン、アカンわぁ……」

「霞?」

 

 と、考えているところへ、ひょこりと現れたのは霞。

 頭の後ろをカリカリと掻きながら、盛大に溜め息を吐いている。

 

「霞、それはどういう意味かしら?」

「どうもこうも、さすがに今回ばっかりは一刀が可哀相やってことや。そら泣いて逃げもするわ……」

「……なに? 私が悪いとでも───」

「悪い。極悪や」

「ごっ……!?」

 

 ご、極悪?

 なによ、私はただ普通に受け答えしただけじゃない。

 それが何故、極悪とまで言われなければならないのよ。

 

「非道な王とまでは言わへんけど、たった一言、一言があればなー……」

「一言……? 霞、それはなに? 言いなさい」

「や、そればっかりは言えん。よくある“自分で気づけなければ意味がない”ってやつや。男ばっかがこれ言われるの、まあ不公平や思とったしな。まあたまには華琳が悩む姿っちゅうのもええもんや」

「………」

「あっはっはっは、そない睨んでも教えたらへんも~ん。気づいた時、贅沢な悩みやったって悶えればええんや」

「贅沢……?」

 

 霞が笑っている。

 笑って、「じゃ、ウチは一刀慰めてくるわ~」と暢気に言って行ってしまう。

 ぽつんと残された私は、一刀と一緒にする筈だった視察を……溜め息を吐きながら、一人で再開することになった。

 

「……なによ」

 

 落ち着かない。

 大体私が何をしたというのよ。

 一刀が勝手に騒いで、勝手に走り去っただけじゃない。

 ……そりゃあ、まさか泣いて逃げられるとは思わなかったけれど。

 

「……はぁ。いいわ、視察を続けましょう」

 

 誰に言うでもなく呟いて歩き出す。

 さあ、次は───

 

……。

 

 一人、歩いて視察を続ける。

 見知った者たちが私の顔を見るなり挨拶をし、私もそれに応える。

 しかしその見知った者たちの誰もが、人の顔をじっと見ると「大丈夫ですか」といった言葉をかけてくる。なにが“大丈夫か”なのかは知らないが、べつになんでもないのだけれどね。

 

「はぁ」

 

 …………?

 ふと意識してみると、何かの拍子に溜め息を吐いている自分に気づく。

 何をそんなに気にしているのか……なんて、考えるまでもないわね。

 

(ばか。一人で何処に行ったのよ、まったく……)

 

 せっかく時間を作ったのに。

 さすがに徹夜なんてことはしていないけれど、無理を通して終わらせたものだってたくさんある。この時期にそれがどれだけ大変かなんてこと、きっとあのばかは少しも理解していないのだ。

 好きだ好きだと好きなだけ言ったかと思えば勝手に居なくなって。

 

(………)

 

 少し眠い。

 徹夜こそしなかったけれど、睡眠時間は大分削った。

 いっそどこかで眠ってしまおうか。

 皆が祭りのための準備で手抜きをするだなんて思えない。

 ならば一人で確認作業などせず、どこか適当な場所で───……

 

「はぁ~い、かり~ん♪」

 

 ぶつぶつと頭の中をごちゃごちゃにしながら歩いていると、その歩はいつの間にか中庭へと至っていた。声がしたほうへと視線を向けたことでようやく気づいた事実に、自分の注意力の不足に溜め息が出る。

 東屋でひらひらと手を振りながら酒を飲む隠居王は、付き合いなさいとばかりに徳利まで振るう。……少しむしゃくしゃしている。酒を飲むのもいいかもしれない。

 そんな考えが働いたら、立ち止まる理由も拒む理由もどこにもなかった。

 

「祭りは明日だっていうのに、辛気臭い顔してるわね~……はい、華琳の分」

「好き勝手言ってくれるわね、まったく」

 

 卓を挟んだ彼女の正面に座り、差し出された猪口に注がれた酒を喉に通す。

 少しの熱が喉を通り、自然と溜め息を吐かせた。

 

「で、どうしたの? 一刀にでも嫌われた?」

「……本当、好き勝手言ってくれるわね」

「あれ~? 前みたいに鼻で笑わないの?」

「………」

「あっははは、冗談よ、冗談。でもその反応ってことは、なにかありはしたわけね」

「べつに。なんでもないわよ」

 

 ふんと視線を逸らすと、雪蓮の前にある徳利をひったくり、猪口に注いで飲んだ。

 ……喉を通った熱さが胸の傍を通り、もやもやを加速させる。

 

「………」

「………」

「ねぇ」

「んー? なにー?」

 

 どこか上機嫌で、卓に肘を立てて徳利を摘むように揺らす雪蓮。

 コレに話していいものかどうかは悩みどころだけれど、このままではこのもやもやとした不快感はついて回るだろう。

 せっかく作った時間がそんなものに飲み込まれるのはごめんだ。

 なので……言った。

 一刀が取った行動や、私が感じたものを簡潔に。

 すると、目の前の元呉王は盛大に笑ってくれた。

 絶でも突きつけてくれようかと思ったが、どうにも私を笑ったのではなく……

 

「あはははは! あっは! あははははは!! か、可愛いわね一刀ってば!」

 

 ……一刀を笑っていたらしい。

 良い酒の肴を得たとばかりに徳利を傾け、猪口を口に運ぶ雪蓮は上機嫌だ。

 しかし私の気持ちはてんで晴れやしない。

 

「あはははは……まあまあ~、睨まないでよ華琳~♪」

「事情がわかるのなら話してもらえるかしら。人に笑われて黙っている趣味はないわ」

「だって一刀が」

「雪蓮」

「あーもー、はいはいわかったわよぅ。なんだかなー、人が困ってる時は余裕の顔で眺めているだけのくせに」

 

 ぶー、と口を尖らせて、その尖らせた口で猪口の酒をすする。

 嚥下すると酒くさい息を無遠慮に吐き出して、赤い顔で私の目をジロリと見つめてきた。

 


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