真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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①が抜けたまま②が投稿される事件が起こりました、申し訳ないです。
①を投稿しましたので、前へ戻っての閲覧をお願いします。
……いえですね? どうやら昨日を24日とまちがえたらしく、そのくせ②には23日と書いて予約投稿しやがりましたようでして、このたわけは。

というわけでそのー……すいませんでしたぁああ!


77:三国連合/好きと言われたくて②

「霞の意見に賛成。華琳、あなた極悪だわ」

「なっ……雪蓮、あなたまでっ……!」

「だってそうでしょー? なに? 好きって言って貰えて、あなたはなにも返さないの? 一刀に誰かとの子供を作れ~って言うばっかりで、あなた自身は一刀に何か言った?」

「なにか、って……なによ」

「だから。好きかどうか。どーせ華琳のことだから、言ってもらっても“察しなさい”で済ませてるんでしょ」

「ふぐっ!?」

 

 ……待ちなさい。

 じゃあなに? 一刀が顔を真っ赤にさせながら好きだ好きだと言っていたのは……私に好きだと言い返してもらいたかった……から、だとでもいうの……!?

 

「いいわよねー華琳は。受け取るばっかりで返さないんだもの。頑張りなさいだの励みなさいだの言ってれば、自分に夢中な相手は勝手に頑張るだけだ、って……春蘭や秋蘭、桂花のことで慣れすぎちゃってたんでしょ」

「う、なっ……」

「たま~に飴をあげれば相手は喜ぶものだって考え方を基盤にしちゃってるから、一刀がどれだけ頑張ろうとも華琳自身の気が向かなきゃ褒めもしない。華琳の性格だとやっぱり“あなたが好き~”なんて言わないだろうし、察しなさいって言うだけでしょ?」

「あっ……あぁああっあああああなたになにがっ……!」

「んー……あのね、華琳。そりゃ、一刀は以前は種馬とか言われてたかもしれないわよ? でもそれは以前の話で、一刀は一年間自分の世界で自分を鍛えてきたんでしょ? 誰でもない、魏のために。あなたのために。確かに戻って早々に呉に来ることになったんだから、華琳はそんなに受け入れる暇がなかったかもだけど……でもきっと、“同じ”じゃないのよ? 華琳」

「……なにがよ」

「一刀のこと。華琳ってばなんだかんだで、以前の一刀としてしかあの子のこと見てないでしょ。珍しい知識は持ってるけど頼りないところばかりで、いじめ甲斐がある~とかそんなところなんでしょ?」

「………」

「変わったところもちゃんと受け止めてあげなさいな」

「み……見てる、わよ。言われるまでもなく」

「そ? じゃあどうして、魏に生き魏に死ぬなんて考えを心に持っていた一刀に、“手を出してもいい”なんて言葉を投げることができたのかしら」

「っ!」

 

 カッと頭に血が上りそうになる。

 揚げ足を取るな、と言いたくなるのだが、それは正しくない気がしたから堪えた。

 

「所有物に愛を与えるのも持ち主の役目でしょ? なのに持ち主が、所有物が愛を欲しがってるところへ与えてあげられないどころか……まさか気持ちに気づけもしないなんて……」

「うっ……うるさい、わね……」

「ねぇ華琳。改めて訊きたいんだけど……その気になったら、いいのよね? 一刀と子供作っちゃっても」

「いいと言っているでしょう? 改めての確認なんて要らないわよ」

「じゃあ、華琳より先に一刀の子供、産んじゃっていいんだ」

「はうぐっ!!」

 

 ……猪口が歯に当たった。

 じわりとくる、血が出てるわけでもないのに広がる嫌な味が不快だ。

 ふるふると震えながら顔を背けて、唇をぶるぶると痙攣させて何かをこらえている雪蓮はもっと不快だ。

 

「ななな、なにを、言っている、のかし、ららら……? いぃいいいわよっ……? いいわよっ、好きにすればいいでしょう!?」

「子供の名前、“華琳”にしていい?」

「───……」

「う、うわー……華琳? 顔がすごいことになってるわよー……? あ、あはは、まぁ冗談だから。いいって言ったり怒ったり、忙しいわよねー覇王さまは」

「その覇王を平気でからかう隠居なんて、あなたくらいなものよっ、このばかっ!」

「うわっ、ちょっと華琳~!? ばかはないでしょ馬鹿は~っ!」

 

 冗談だ、と言う。

 けれどそれは“子供の名前を華琳にする”という部分だけであり、一刀との間に子供を作ることに対しての冗談は混ざっていない。

 ……私はそれを望んでいる筈だ。なのに面白くない。

 

「あからさまに不機嫌になったわねー……もう、お酒が不味くなるじゃないのよー」

「不機嫌にさせたのはあなたでしょう?」

「元を辿れば華琳の所為じゃない。一刀には察しなさいって言うばっかりで、自分は察しようとしなかったってことでしょ?」

「………」

 

 胸がちくりとした。

 でも、それはおかしい。

 私は私がしてきたことの分だけをきちんと得ていただけだ。

 産まれ、学び、力をつけ、立ち上がり、人を率い、旗を翳し、国を作り、天下を得た。

 その過程で得たものが天の御遣いであり、一刀だ。

 様々な日々をともに過ごし、手を伸ばして受け入れた。

 胡散臭い存在だったソレはいつの間にか大きなものとなり、天下を得た覇王を泣かせるなんてとんでもないことをしていった。

 

「………」

 

 察しなさいという言葉以外、どんな言葉が許されるだろう。

 私は王だ。

 王として立ち、王らに勝ち、覇王となった。

 自らが決めた道、覇道を進み、自分の願いを叶えたはずだ。

 それで私の願いは終わった筈じゃないか。

 これ以上なにを言える。どんな言葉が許される。

 欲望まみれの王になどなりたくない。

 私の宿願は叶ったのだから、あとは願う者が願いを叶える番だ。

 桃香が願う未来が叶えばいい。雪蓮が、蓮華が願う未来が叶えばいい。

 私はもう、こうして私が掴んだ天下が続けば文句はない。ない筈なのだ。

 それが“私の物語”なら、誰に文句を言われる筋合いもないのに───

 

(私の……)

 

 ───“一刀の物語”が、どうやらそれを許してくれないらしい。

 あの男が勝手に居なくなった時点で、あの男は私の物語から消えた。

 だから勝手に帰ってきたときは殴ってやろうかとかいろいろな思いが浮かんで……安心するとともに、近付けばまた消えるんじゃないかと、妙な恐怖を抱くようになった。

 他の人と子を成せ───そんなの、あなたって存在との繋がりを多くするために決まっているじゃない。どうしてそれがわからないのよ。

 もちろんそうと願う者の間にのみだ。目的が一致していないのなら、そんなものは拷問にしかならないだろう。だからこそ、そんな者たちの願いであなたを繋いでいられるなら、と。

 

(私は……)

 

 ずるい考えだ。姑息だし、だというのにそれに縋りたくなる自分が嫌になる。

 なのに言わなくても理解してほしい。そうしてくれたら、それはどれだけ───

 

(……そう。私の願いは叶ってしまっている。叶った途端に一刀が居なくなったのなら、誰かの願いの先で存在しているのかもしれない。“また会いましょう”なんて願いでもう一度降りたのだとしたら、そんなものはとっくに叶ってしまっているのだから……いつ消えてもおかしくないじゃない)

 

 だから今の一刀は別の誰かの願いの先に降りてきた……その方がいいのだ。

 また消えるなんてことは許さない。

 大体おかしいだろう。自分の意思とは関係なく勝手に飛ばされて、誰かの願いが叶えば勝手に消えるなんて。御遣いというのはみんなあんななのだろうか。

 

「雪蓮」

「んー? なにー?」

 

 私が思い悩んでいるの姿を肴に、目の前の女はクイッと猪口を呷っていた。

 ……一度本気で殴ってやろうかしら、この女。

 

「私が一刀に“好き”……いいえ、“愛しているわ”とでも言えば、一刀は満足すると思う?」

「思う? じゃなくて、満足するまで言ってあげればいいじゃない。それが一刀の願いなら、叶えられるのは華琳だけでしょ?」

「……そう。ならその言葉は、私が死ぬ直前まで言わないことにするわ」

「……え? ちょっ……華琳? どーしてそうなるのよ」

 

 どうして? そんなもの、考えるまでもない。

 “誰の願い”で一刀がここに降りたのかがわからないのなら、もしやすればそれは“一刀自身の願い”で降りた可能性だってあるのだ。ならばそれを叶えてやるわけにはいかない。いかないから、絶対に言ってなんてやらない。満足するまでなんて言ってやらない。やらないから───

 

「…………あ」

「───」

 

 とぼとぼと、霞とともに中庭へと入ってきた一刀を見つけた。

 一刀も私を見つけると、“あ”と声を漏らす。

 私は……彼の真似をするように胸をトンとノックすると、溜め息を吐き捨てて東屋をあとにし、そのまま一刀の前までの距離を歩いた。

 

「……んで? 答えは見つかったんか、大将」

 

 まるで真桜のように、私を大将と呼ぶ霞を軽く一瞥。

 答えは見つかった。

 見つかったが、言うつもりも叶えてやるつもりもない。

 だから私は一刀の胸倉を掴んで無理矢理引っ張り、屈ませると……その驚いた顔へと自らの顔を近づけ、唇に唇を押し付けた。

 

「んむぅっ───!?」

「んなっ……ちょっ……華琳!? おま、なにしとんねん!」

 

 霞が突然のことに驚きに怒りを混ぜたような声を出すが、知ったことではない。

 そう、言わない代わりに態度で示してやろうじゃないか。

 

「私は誰の物語にも力を貸して、誰の物語も終わらせない。皆が物語を歩める舞台は私の物語が作り上げたわ。だから……あなたは皆の物語の中をともに歩み続けなさい。ずっと───私の傍で」

 

 唇を放すと、戸惑い見開かれる目を見つめながら言う。

 状況を把握してきたのか、段々と赤くなっていく顔が可笑しい。

 

「あ……か、華琳。俺……俺は───」

 

 真っ赤になる顔。

 けれど彼は目を逸らすこともなく、真っ直ぐに私を見たままにもう一度あの言葉を言う。

 “好きだ”と。

 そんな、言われる度に鼓動が跳ねる言葉を真っ直ぐに受け取りながら、しかし私は言うのだ。“お前はどうなんだ?”と目で訴えられようとも、フッと笑って。

 

「察しなさい」

 

 途端にがっくりする一刀の胸倉を放し、笑った。

 霞は「わかってて言っとるやろ……」と目を伏せて溜め息を吐いている。

 もちろん、わかった上での答えだ。

 言われる前に気づけなかったのは落ち度だろうが、それでも。

 相手が望む言葉を言ってやらないのなんて、もうずっと前から春蘭や桂花相手にはしてきたことだ。今さらどうということもない。

 大体、好きだの愛だので表せる程度の感情ならば、私は泣かずに済んだ筈だ。ならば言葉にしても陳腐なものにしかならないこれは、言葉になどするべきではない。それでいいじゃない。

 胸がスッとした。

 一刀はおろおろとするだけだけれど、もういっそ悩ませ続けてあげ───

 

「かーりーん? あんまり意地悪すると、一刀に嫌いだ~って言われるわよ~?」

「!?」

 

 ───スッとした胸に、鋭い刃が突き刺さった気分だった。

 東屋から言葉を投げる雪蓮は───勢いよく振り向いた私がよほど滑稽に見えたのだろう。くつくつと笑いながら、徳利を揺らしていた。

 ……本当に、一刀といい雪蓮といい、人の調子というものを崩すのが好きらしい。一刀の場合は自覚がないから性質が悪いし、雪蓮はわかっていてやるのだから別の意味で性質が悪い。

 まったく、本当に───

 

「い、いや! よっぽどのことがない限り、俺が華琳を嫌いになることなんてない!」

「ひうっ!?」

 

 ───本当に性質が悪い。

 雪蓮のからかいの言葉に真剣な表情で返す一刀の表情を、思わずまじまじと見てしまう。霞はそんな一刀のきっぱりとした態度に嬉しそうに笑い、「よー言った!」と笑いながら一刀の背中をばしばしと叩いている。

 痛がる一刀の顔も赤ければ、それを見る私の顔はじんじんと痛かった。

 ……恐らく真っ赤なのだろう。

 そんな私を見て笑い転げている隠居王……ええもう、本当にどうしてくれようかしら。

 

「………」

「華琳?」

 

 呼ばれ、ちらりともう一度一刀を見る。

 目が合って、逸らしそうになるが……王はこんなことでは挫けない。

 なにを考えているんだと自分で自分を鼻で笑いたくなるけれど、乱世の頃、人と目を合わせて自ら逸らしたことなどない私だ。それを私から逸らす? 在り得ないことだわ。……無自覚でもなければ。

 悔しいことだが、一刀と目を合わせた際には逸らしてしまったことがある。

 身分が低い時でも妙に偉ぶった相手とでも逸らしたことなどなかったというのに、私はこの男相手に目を逸らしたことがある。それはとても悔しいことだ。大体、私が力を得てからは相手のほうこそが目を逸らすことが多くなったっていうのに、どうしてこの男は人の視線を受けても苦笑で済ませられるのよ。おかしいでしょう?

 なので、自分の中にある全てを以って思い切り睨みつけてみた。

 するとびくぅと肩が跳ねる。

 そう、そうよ、それが普通の反応……なのに、どうして目を逸らさないのかしらね、このばかは。

 どうでもいい時や何かを誤魔化したい時、やましいことをした時はすぐに逸らすくせに。

 

「かかか華琳サン? どっ……ど~して……睨むの、かな……?」

 

 震える声が返される。

 口も引き攣っていて、瞳も揺れているのだが……逸らさない。

 逸らさないことで自分が負けているような気がして、意地でも逸らさせたくなる。

 

「華琳? どないしたん、一刀のこと睨んで」

「なんでもないわ」

「や、なんでもないて。言う時くらいこっち向きや」

「悪いわね、逸らしたら負けなのよ」

「…………にらめっこ、っちゅーやつ? 時々、華琳がわからんくなるわ……けどわかった! わからんけどわかった! よっしゃ一刀、笑かしたれ!」

「ええっ!? これってそういう話だったっけ!?」

 

 言いながらも視線を外さない一刀が、じっと私の目を覗いてくる。

 その口が「ににに睨めっこ……? あれ……? 俺、嫌いにならないとかそういうこと言ってたはずだよな……?」と情けない語調で言葉を紡ぐ。と、語調は情けなかったというのに……溜め息のあとにトンと胸をノックすると、急に真面目な顔になった。

 その変化を真正面から見てしまった瞬間、顔に熱が籠もるのを実感させられてしまった。

 心に隙が出来てしまったのだ。慌てて心にもう一度覇気をと身構えた……ら、もう遅かった。真剣な顔だった筈の一刀の顔が、一刀自らの手で歪められた。

 

「ぷふっ!?」

「はい華琳の負けー」

「なぁっ!?」

 

 小さく吹き出し、思わず逸らしてしまった視線の先で霞が呆れた顔で言った。

 

「ちょっと一刀っ! なにを急にそんなっ!」

 

 負けを宣言されたことでカッとなって向き直る。

 手でぐにょりと歪めらた顔がまだそこにはあり、また吹き出しそうになるのをなんとかこらえる。

 

「え……え? 睨めっこなんだろ? なら笑わさないと」

「………」

 

 時々この男がわからなくなる。

 いえ、わかってはいるのだけれど、その範疇から飛び出ることがある、と言えばいいのか。

 天で一年、己を磨いて……戻ってくるなり他国で学び、随分と成長したのだなと思えば子供っぽい部分がてんで抜けていなかったり。それを全て合わせたのが一刀なのだと言えばそれまでだとしても……少しは大人になってくれないものかしら、この男は。

 などと思っていると、急に後ろから抱きつかれる。体重を乗せるように、私をすっぽりと包むように。

 

「あははははっ、どうどう華琳っ、誰かの前で負けた感想っ♪ 聞かせて聞かせて~?」

「雪蓮っ!? ちょっ……放しなさいっ!」

 

 後頭部を襲う柔らかな感触。

 無遠慮に押し付けられるそれの圧力と柔らかさに、めらりと黒い炎が燃え上がる。

 ……決めたわ。八つ当たりがどうとか言われてもいい、とりあえずこの脂肪で鬱憤を晴らしましょう。

 

「いたぁあたたたたたっ!? ちょっ!? いたいいたい! なにするのよー!」

 

 抓ってやれば、飛びのいて胸を庇いながらの恨みがましい視線を投げてくる。

 そんな反応が自分に余裕を取り戻させてくれて、私はフッと笑みながら彼女のもとへと歩いた。

 

「え、えーと……華琳? 顔は笑ってるのに、目が笑ってないわよ~……?」

「八つ当たりはみっともないことね。ええ、自覚しているわ。けれど、たまにはそういうのも平和的でいいんじゃないかしらと私は思うの。だから……心ゆくまで戦いましょう? 思えば私はあなたと戦っていなかったのだから」

「……その戦いが、血生臭くないのは少し残念だけど。いいわねーそれ。あ、大丈夫よ平気平気っ。八つ当たりとか気にしないでいいから。だって───私も賛成だもの、その戦い」

「………」

「………」

 

 笑顔で対立。

 景色が歪んで見えるのは気の所為ね。

 

「……なぁ霞。あれって止めたほうが───」

「おーうええぞー! やったれ華琳ー!」

「霞さん!? 応援してる場合じゃないと思うんですが!? あ、あぁああっ……思春!? 思春! たすけてぇええっ!!」

「庶人の私にこの状況をどう治めろと言うのだ貴様は。行くなら貴様が行け、三国の支柱」

「こんな時だけ頼られても嬉しくないよ!?」

 

 一歩一歩距離を詰める。

 その過程、勝負方法は既に私と雪蓮の中で出来上がっていた。

 というよりむしろ、私が雪蓮の胸を抓った時点で。

 とはいえ……

 

「一刀。あなたは視察を続けなさい」

「へ? や、だって」

「……いいから行きなさいと言っているのよっ!」

「ヒィッ!? わ、わかったからそんな、殺気込めて睨むなよっ!」

 

 雪蓮へ向けているものを一刀に向けて睨んでみれば、渋々ながらに納得し、歩いてゆく。

 それに霞がついていき、思春は残ったようだった。

 

「……じゃ、始めましょうか? 覇王さま」

「ええ。楽しい宴にしましょう? あぁ思春? これから起こることはただの。た・だ・の、王と元王のじゃれあいだから。難しく考えることはないわよ?」

「そうねー、こんなことで妙な勘繰りされて同盟が崩れても困るし。いーい、思春。これはただの、た・だ・の、じゃれあいだから。そうね、女同士が相手の胸を掴んできゃっきゃうふふしているだけ。わかった?」

「……つまり、見て見ぬ振りをしろと?」

「あっはは、違うわよー? ありのままを見て、これは胸を触っていただけだ~って認識すればいいの。簡単よ? ね? 華琳」

「いたっ! ~……ええ、そうね……! そう認識するだけでいいわ……!」

「いたぁっ!? ちょ、ちょっとは加減しないさいよね華琳……! ただでさえ華琳は抓る部分が少ないんだから……!」

「───ええそうね。無駄に脂肪ばかりのあなたの胸は、とても……ええ、とてもとても抓りやすいわ……!!」

「いたぁーったたたたた!! こ、このーっ!!」

 

 ある晴れた日。

 中庭で、王と元王が胸を抓り合う。

 ……その光景を決して客観視したくはないと思ったのは、あの思春が心底呆れた……いいえ、“ありえないものを見ていると”いった顔をしていたことを考えれば当然の意識だった。

 後にして思うのだろう。もっと他にやり方というものがあっただろう、と。

 けれど王として、元王相手にしていいことなど、血生臭いもの以外ではないといけない。

 そうなれば、傍から見ても安心できるようなものではなくてはいけないのだ。

 ……その結果がこれ、というのは…………考えないようにしましょう。

 

「大体あなたはっ───!」

「なによー! 元はと言えば華琳が素直じゃないから───!」

 

 まあ、なんだろう。

 一言で片付けるのなら、無様の一言なのでしょうね。

 それでも、どこぞのばかが言ったのだ。四六時中、王である必要はないのだと。

 本当にそうなのだとするなら……時折には、こんなこともいいでしょう? いい鬱憤晴らしにもなることだし。


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