124/鈍器殴打(ドンキオーダー)
すたすたと歩く。
背筋はピンと伸ばし、顔はキリッと。内面はズタボロで。
隣には霞。
途中でばったりと会って、なにやら声をかけてくれた。
どうにも俺と華琳の会話を聞いていたらしく、いろいろと話を振ってくれるのだが……さっき華琳と会った時も、今こうしている時も、なんというか状況を楽しんでいるようにしか見えないのですが……?
「……俺、華琳に嫌われてるのかなぁ」
「嫌いやったら嫌いゆーやろ、華琳なら」
「そうなんだけどさ」
好きと言ってもらいたいだけなんだ。
それだけであと10年は頑張れる気がする……ただそれだけの願いなのに。
「それより一刀~? これゆーのも何度目か忘れたけど、いろいろ偶然が重なったこともあるんやろーけど、恋に勝つなんてすごいや~ん♪」
「ほんと、偶然ばっかり重なった勝利だよな……なのにたまたまだって言うと恋が拗ねる」
「そら、自分をしっかり武人と認めとる相手に“偶然で勝ったんだ偶然で”なんてのは、侮辱以外のなにものでもないやろ。納得できんことはそらもちろんある。けど、それら含めていろんなもん抱えて武器を持つんが武人や。それを、武器持っといて負けたから言い訳て。そんなん自分が許されへんわ」
「ん……まあ、みんなほどじゃないにしろ、それはわかる」
そのへんのこともじーちゃんに教えられたし経験もある。
理由の様々があるにしろ、たとえば真剣を手に対峙したならどんな言い訳も死にしか繋がらない。鍛錬中だったからとかそういうのは、それこそ言い訳にしかならないわけで。
「霞はさ、やっぱりどうせなら強い男のほうがいいって思うか?」
「ウチ? そらそーや。もし一刀と会ぅてへんかったら、一生“好き”も知らずに死んどったんちゃう?」
「う……そ、そっか。じゃあ……子供が欲しいとか考えたりは?」
ようするに自分が好きだと言われた気がして、思わず言葉に詰まる。
しかし気を持ち直して質問を変えてみると、霞はけらけら笑いながら首を横に振った。
「戦えるんやったらそんでよかったし。子供おったら好き勝手に動けんくなりそーやもん」
「はは、なるほど。それは確かに霞っぽい」
「あっはっは、なんやそれ。ウチなんやからウチっぽいんは当たり前やん」
話しながら歩くと、霞の性格からかこちらも自然と頬が緩む。
そんな俺に気づき、ぐったり夢気分からココロが解放され始めているのを霞も感じたのか、彼女は俺の腕(折れてないほう)を掴むと人懐こそうな笑顔で前を歩き出した。
「元気出たみたいやし、このまま街にでも行かん?」
「行きません」
「えー? 行かへんのー? 行こー? なー? 一刀~」
「一応視察って仕事を預かってるんだからダメ」
笑顔でそんなこと言われても、どう見てもからかってるようにしか見えません。
霞って時々、雪蓮と行動が被るよな……酒好きだし、戦好きだし、女の子好きなところもあるし、猫みたいに気まぐれなところがあるし。ただ、雪蓮と違って常時そういうわけではなく、“雰囲気”の中に居ると随分と大人しくなる。
雪蓮はどうなんだろう、そういうの。
やっぱり“体が熱い”って言って襲ってくるのでしょうか。
「………」
にっこにこ笑顔で俺の手を引いている霞を見る。
元気に鼻歌を歌っているところを見ると、随分と上機嫌らしい。
これで酒とツマミでもあれば大満足ってくらいの上機嫌だ。
「で、本当に街に行くのか?」
「んや? べつに視察なら視察で構へんよ。ただ、こういう空気の中じゃ、じっとなんて出来へんからとりあえず歩いとるだけやもん」
「そっか」
前から好きなことには無茶を通す性格だった。
街の祭りに参加して暴れまわって怒られるなんてことをしてたくらいだ、こうしてここでボーっとしているなんて、それこそ性に合わないんだろう。
ただまあ、だというのに手伝いもせずに人の話を盗み聞いていたってことは、それを心配された結果として仕事を任されなかったのかもしれない。釘も刺されているのだろうし。
「霞は仕事とかないのか?」
「一刀がおらへん時、手伝っとる途中で我慢がでけへんよーなって、暴れもーてなぁ……以来、こういう祭りの時には周辺の見回りだけ任されとる……」
「……なるほど」
簡単に想像できてしまったら、もう頷くしかなかった。
……。
さて。
結局街にはいかず、霞と一緒に城内を見て回っていたのだが。
「おっ? 華雄」
「む?」
金剛爆斧を片手に通路をてこてこと歩く華雄を発見。
霞に呼ばれた彼女がこちらを見るが、あの……なんで斧持ち歩いてるんですか?
そんな思いを霞が代弁してくれると、華雄は「ああこれか」と斧を見せる。
「武道会用の摸造だそうだ。今日渡されたから、感触を確かめている」
「おぉっ!? 出来とるん!? 何処で配っとる!?」
「や……霞? 配るってそんな、ティッシュじゃないんだから……」
「てっしゅ? なんやそれ」
うん……なんだろね。
遠い目をしつつも、斧が大量生産されて街中で配布される場面を想像してみた。
…………怖かった。
配布はないよな、配布は。じゃあ売るのならどうだろう。
(へいらっしゃい! 今日は金剛爆斧が安いよー! どうっ、そこの綺麗な奥さんっ!)
(あらいやだ、上手いんだからっ! じゃあ、三本くらいもらっちゃおうかしらっ!)
(へい毎度!)
…………怖いよ!
「ん? どうかしたか?」
「い、いや……なんでもない」
きょとんとした顔の華雄に訊かれれば、そう答えるしかない自分が居た。
妙な想像はやめよう。
「よっしゃ華雄! ウチも摸造武器とってくるわ! そんで模擬戦しよ!」
「フッ……望むところ!」
「いや、望むところじゃなくて」
視察はどうするんだーって言ったところで、走り去ってしまった霞に届くわけもなく。
俺はしばらく“雰囲気”の在り方についてを考えた。
「………」
「うん? なんだ?」
その先で、華雄が持つ“魏国製模造武器【金剛爆斧】”を見る。
片手で楽々と持っている。
筋肉が盛り上がっている様子もないし……「試しに持たせてくれ」と言ってみると、「模造だから別に構わんが……」と渡してくれ───
「おぶぉおおおおーっ!?」
重っ……重ォオオオ!!?
片手っ! 片手じゃ無理! どんな筋力してるの!?
つか、模造だからって重さまで一緒にすることになんの意味が!? もちろん手に馴染ませるためですよねわかってましたごめんなさい!
でもじゃあこれ持ってて筋肉が全然張らないってなんなんですか!? 筋肉の絶対量の問題!? ああもうこの世界の女性ってほんと怖い!
(でも好きなんだろう?)
(うるさいよもう!)
脳内で、悪魔じゃなくて天使が囁いた。
当然すぐにツッコんだが、顔が熱くなるのを止められない。
恥ずかしさと、まあその、筋力的なものの所為で。
「ふっ、くっ! くぅううおぉおおおお……!!」
なんとか落とさないように踏ん張るが、これはキツい。
なので氣を籠めると、ひょいと持ち上がるソレ。
……それは、改めて氣の凄さを知った瞬間だったわけで。そうなれば華雄の顔をきょとんと見たくもなるわけで。
「どうした?」
「いや……華雄って氣とか使ってるのか?」
「小細工は好かん。というか使えているのかよく解らん」
「───」
純粋筋力だこの人ォオーッ!!
(ば、馬鹿な……信じられん……! この細腕のどこにそれだけのパワーが……!)
と無駄に“龍の球物語”っぽく驚いてないで。
思わずまじまじと華雄の腕を見てしまい、つい触りたくなってしまう。
やっ! 断じてエロス的な意味じゃないぞ!?
「華雄」
「なんだ?」
「回りくどいことはなしだ───腕を触らせてくれ!」
「……? べつに構わんが」
「いいの!?」
あれぇ!? 断るとかあっさり言われると思ってたのに、なんか普通だ!
あ、いや、触らせてもらえるならそれでいい……のか?
まあ、そんなわけなんで金剛爆斧をハイと返して、それを受け取った右手の付け根……右腕をジッと見てから触らせてもらう。
…………う、ううむ……氣が流れている感じはしない。
無駄な贅肉はないものの、ゴツゴツもしてないし……ふにふにしてる。
しかしその下には確かに緊張した筋肉があり、結構ギッチリしている。
女の子ってもしかして、筋肉が目立たないように出来てるのか? それとも俺みたいに、目立たないほうの筋肉を育ててた……とか?
どちらにしろ盛り上がるほどの大きさではないものの、その密度は凄まじい。
ぐっと押すように触ってみれば、まるで鉄板のような硬さの筋肉がそこにある。
なのに表面はふにふに……不思議だ。
「……もういいか?」
「へっ? あ、悪いっ」
真剣な顔でぺたぺたと触っていた自分に気づき、バッと離れる。
いやしかし……細いのに見事なもんだ。
筋肥大よりも筋力を重視した鍛錬を重ねてきたんだろうか。
「………」
「?」
じーっと見ていると、やっぱりきょとんとした顔で返された。
えーっと。もしかして華雄って、氣とか使えない人?
さっき触った時、他の武将にあるような力強い氣の巡りを感じなかった。
春蘭にも凪にもそういうのはあるのに……華雄からは全然。
(春蘭は内側で爆発させて攻撃の威力を高めるタイプ……だよな。もし放出とか覚えたらどうなるんだろ)
再び想像。
……氣が天を衝くのを見た気がした。
8番目の最後の幻想の、天を衝く氣を振り下ろす技を思い出した。
「重くない……んだよな?」
「こんなものは慣れだ」
「うわー……」
戦闘民族だ……戦闘民族が居る……!
これでもし氣の扱いとか覚えたら、相当化けるんじゃないでしょうか……!?
「華雄、ちょっといいか?」
言いつつ、もう一度触れる。
今度は腕ではなく、背中に回って肩を揉む感じで。
「な、なにをするっ」
「まーま、リラックスリラックス……じゃなかった、楽にして。少し試してみたいことがあるんだ」
「試してみたいこと……?」
「えーと。華雄を武人と見込んでのお願いだっ」
「ふむ。そう言われては引けん」
いいんだ……自分で言っておいて、なんつーかひどいやり方だなオイ。
……さてと。じゃあちょっと、いつか桃香にやったみたいに氣を探って~…………
(…………?)
華雄を包み込むように氣を放出。
呼吸のリズムまでを合わせて氣脈を探ってみるのだが、どうにも見つからない。
桃香にあったような氣の色すら見つけられず、言うなれば無色の空洞が続いている感じで……み、妙ぞ。こはいかなること? 普通、誰にだって氣はあるんじゃなかったっけ?
「………」
じゃああれだ。
空洞である氣脈に、無色化させた氣を送ってみて~…………あ。氣の反応が消えた。
「…………あれぇ?」
消えた、というか、送った瞬間に食われたような感覚。
試しにもう一度やってみるも、やっぱり蒸発するように無くなってしまった。
「む? なにやら急に活力が……」
首を傾げる俺に気づくこともなく、背中を向けたままの華雄がゴフォォゥンと斧を振る。
風を巻き込むように振るわれたソレは重苦しい音を出し、離れた場所にある草の数本をスパァンと切ってみせた。
『………』
沈黙。
え、えぇと……なに? まさかとは思うけど……華雄って練成された氣を常に戦に向けているタイプの人? いつでも戦闘体勢だから、氣が溜まることもなく常に消費されてる人?
ウワー……ほんと小細工嫌いだー……しかも無意識だってんだから筋金入りだよ。
(でも……なんかカッコイイ……!)
常に戦のみに氣を注いでいるって、日々是戦也って感じで……いや、血を見たいわけじゃなくてさ。超実戦流って名前が似合ってそうで素晴らしい。俺も祖父を師と仰いで教わってきた身だ。日々常に戦が出来る己であれとか言われたこともある。
それを無意識のレベルでやってみせてるんだから、眩しく見えるのも自分でわかる。
ただその───
「? なんだ」
氣を常に戦に使っている。しかも無意識に。
その消費量が練成の幅を超えた時、彼女はきっとポカをやらかすのだろう。
ほら、たとえば戦にしか目がいかなくなって、乗っちゃいけない挑発に乗るとか。一騎打ちになった時に前進しか考えられなくなって、張り切りすぎて氣が枯渇してズパーンと斬られてしまうとか。
「………」
試してみたい。
そう思った時、視界の先に飛龍偃月刀(多分レプリカ)を肩に担いだ笑顔の霞が。
「……これから霞と仕合をするんだよな?」
死合ではなく仕合。ここ大事。
「当然だ。同じ重量に作られたものとはいえ、手に馴染まなければ意味がない。それを試すためにも、模擬戦は必要だ」
「そっか。じゃあ───」
自分の中の氣を解放!
右手に収束させてから無色に変換させると、ズキュウウウンと華雄の中へと流し込んだ!
途端に立ち眩みがするが、それよりも今はどんなふうになるのかを見届ける。とはいえ本当にふらふらするので、通路脇の柱に手をつくと、はふーと大きな息を吐いた。
───。
で、どうせならばと、二人は武道会の武舞台にやってきて向かい合っているわけだが。
「おおおおおおおっ!!」
「あ、あー……華雄? 華雄ー?」
「ふおおおおおおっ!!」
「華雄ー? 聞こえとるかー?」
「ほわあああああっ!!」
華雄が壊れた。
ここに向かってる最中にも練成した氣の悉くを流し込んでみたら、なにやら目をギラつかせて雄叫びをあげ始めた。
「はぁ……まあええわ。放たれとる気迫も十分。気合いも十分ときたら、やるっきゃないやろ」
霞が偃月刀を構える。
ドンと重心を落としたいつもの霞の構えだ。
対する華雄は斧を両手で持ち、同じくどっしりとした構え。
開戦を報せるのは俺の役目だ。
静かな呼吸をしながら睨み合う二人の間に立ち、スッと右腕を挙げる。
『ッ───!』
ギシリと空気が凍るのを感じる。
手を挙げた瞬間に覚悟など完了させたのか、模擬戦でしかないはずのコレが、まるで本当の戦場に立っているかのような寒気を感じさせる。
そんな空気に飲み込まれぬよう丹田に力を込めて、一気にこの手を───
「模擬戦闘! 一本勝負! 始めぇええい!!」
振り下ろす! ───と同時に二人が地面を蹴り弾き、正面からぶつかり合う!
「つわっ!?」
慌ててその場から離れるが、そうしている間にも連ねる撃は5を越えている。
あんな重い武器同士だっていうのに、振りも戻しも速すぎる。
本当に、この世界の女性はいろいろなところで普通じゃない。
「うぅぉおおおおおおっ!!」
「つあっ───!?」
大振りの一閃を霞が防ぐ。
完全に防いだように見えたそれはしかし、霞の足を地面から少しだけ浮かせた。
「おぉっほ! すんごい迫力やなぁ! 華雄とやってこんな冷や汗掻いたんは久しぶりや! もう慣れとったつもりやったけど、どこにそんな気合い隠しとったんや!」
「知らん! なにやら急にみなぎってきた!」
「急に!? 急にて、んなわけあるかいっ!!」
気迫と気迫のぶつけ合いは続く。
前へ前へと愚直に突っ込む華雄と、それを受け止めてなお笑い、力技を混ぜながらも上手く立ち回る霞。
レプリカの割りには飛び散る火花はホンモノで、それだけ本気でぶつかっているのだろうと俺でもわかるのだが……これってどうすれば終わりなんだ?
「ふんっ! ふんふんふんっ!!」
「っへへーんっ! そんな大振り当たるかいっ! そらっ、そこやっ!」
「甘い!」
「へあっ……!? うぅわ嘘やっ! 今までこれ避けられたことなかったのに!」
斧での大振りを避け、隙を穿っての霞の刺突。
大振り状態であり、達人同士の攻撃だ。俺が隙を狙ってやるのとでは明らかに速度が違うそれは、しかし華雄が傾けた斧の長柄によって逸らされた。
(あー……ごめん霞、それは俺が華雄相手に最初にやった攻撃だ)
あの時も華雄は即座に反応してみせて、俺の顔からオーバーマンマスクを剥がした。
相手が霞だっていうのにそれを冷静に行なって逸らすなんて、もしかして目で見るよりも華雄って冷静……?
「よくわからんが今日の私は絶対に負けない……そんな気がしてならない!」
「気がするだけかい!」
「気がするだけだ!」
だが、と。続けて口にした華雄が金剛爆斧を振るう。
霞はそれを両手で構えた飛龍偃月刀の柄で受ける。
先ほどまでならそれをいなして霞が反撃に出るパターンだったのだが、
「ふんっ!」
気合一閃。
ギュリィと金剛爆斧を握り締めた手。
その先の細い腕が、見た目でわかるくらいに隆起する。
それに気づいた時には霞は防御の姿勢のまま吹き飛ばされていて、そんな空中の霞と視線が合った。「え?」って、目が語っていた。
「お、おわわっ……!? っ~……とととっ……え? あれ? ウチ、今空飛んだ!?」
やがて着地した霞がパチクリと目を瞬かせるが、既に華雄は駆けている。
肉薄し、ハッとする霞へと振るわれる一撃は上から下へと振り下ろされる渾身。
咄嗟に飛龍偃月刀を寝かせて両手で構える霞だったが、
「我が一撃、一閃にして瀑布が如し!!」
水の一滴ではなく滝の一束であると放つ一撃が、霞が構え持つ飛龍偃月刀の柄を強打する。
耳を劈く轟音と、直後に耳の奥に響くキヒィンという音。
勢い余って武舞台を叩いた一撃はそのまま舞台に亀裂を生み、その上部……霞が構える飛龍偃月刀は、構えた彼女の手の中心でバックリと二つに両断されていた。
「フッ……武器破壊か。我が一撃もなかなかごべっ!?」
振り下ろした姿のままに目を伏せ、フッ……と静かに笑んでいた華雄の頭頂に、折れた飛龍偃月刀の刃の部分が叩き落された。……とても、いい音が鳴った。
「な、なにをする!」
「なにをするはこっちの台詞やこのだぁほっ!! どーしてくれんねんこの武器! 明日大会やってのに真っ二つて! お前どんだけ張り切れば模擬刀で模擬刀破壊出来んねん!」
「なにも考えずに渾身を振り下ろせばいぼふっ!?」
ボディだった。いわゆる腹パン。
「凛々しい顔で腹立つこと言いなやっ! そらなにかっ、ウチの飛龍偃月刀がヤワやっちゅーことか!」
「模造の耐久など知らん!」
「おーそーかい! せやったら今度はウチがその金剛爆斧を破壊したる!」
「フッ……お前には出来ないかもしれな痛っ!」
「出来るかどうかはウチが決めることやドあほっ!」
また飛龍偃月刀が華雄の頭に振り下ろされ、いい音が聞こえた。
それからはギャーギャーと騒ぎながらの攻防が始まり、もうなにを以って決着とするべきなのかがわからなくなってしまった俺は、ただ呆然としたのちに……てこてこと歩き、そこらへんで作業していた工夫に声をかけ、手伝いをした。
……。
……それからしばらく。
「うあーん! かぁあずとぉお~っ!!」
「へっ? 何ほわぁああーっ!?」
作業に夢中になり、汗水流しながらも笑顔になっていた俺へと、突然のタックル。
何事かと見てみれば、霞さんが俺の腕に抱き付いてきておりました。
「な、なんっ……どうした、霞……」
とりあえず冷静になろう。
スッと息を吸って丹田に力を籠めると、キリッと表情を戻して語りかける。
するとどうでしょう。霞が涙目になりながら俺に何かを見せてくるではありませんか。
その何かは……無惨に砕けた飛龍偃月刀でした。
ちらりと武舞台の上を見てみれば、砕けた斧を手にがっくりと項垂れる華雄の姿。
「あの……二人して武道会前日になに武器破壊してるの……?」
「か、華雄が悪いんよ!? ウチ悪ないもん!」
「どっちが悪いとかじゃなくて! 手に馴染ませるって話だったのに本気で破壊に走るからだろっ! あ、ぁあああもう! とにかく追加で作ってもらえるよう頼みにいこう!」
「あ、この際ホンモンでも───」
「祭りで凶器振り回すことは許しません!! いいから来る! ほらっ、華雄も!」
祭りの細かなところは一応、書類などに目を通すことで知ってはいる。
もっともそれはどこでなにをしているのか、程度のものであり、誰が何処で何をしているのかまでは知らない。
だから朱里が象棋部門担当だったことも知らなかったし、何処に行けばレプリカ製作をしているのかは知っていても、誰がやっているのかまでは知らなかった。
真桜だったりするのかなと考えながら、しょんぼりとしている二人を促して駆けた。