「えっ……えぇえええっ!? こわっ……壊しちゃったんですか!?」
最初に聞こえたのはそんな言葉だった。
熱気と鎚を打つ音が聞こえるそこで、頭に布を巻いた青年がたまげていた。……そりゃそうだ。
「刃引きしてあるとはいえ、材質もそこまで変わらないはずなのに……」
「う……ご、ごめんな。困った持ち主に渡ったと諦めてもらうしか……」
「えー? なんで一刀が謝るん~?」
「キミたちが謝らないからですがなにか!?」
鍛冶場。
ごんごんと熱が吐き出される炉の傍で、汗水流して武具を鍛える人達の中、項垂れながらも状況を説明していた。
驚かれるのも当然ながら、項垂れるのも当然の状況である。
しかし話してみれば「材料費さえきちんと出してもらえるのなら」と頷いてくれる、快い青年。なんでも修行中らしく、腕を磨く機会が増えるのは望むところなんだとか。
「んんっ? つまりあれか? 修行中のあんたが作ったからあーも簡単に折れんぐっ!? むー! むーっ!」
「
「むぐぅうう……」
痛いところを突かれたのか、暴れていた霞ががっくりと動かなくなる。
そんなやりとりを見ていた華雄が「ほぅ……」と声を漏らし、顎に指を当てていた。
……ハテ? なにか感心するようなことしたっけ?
「でもいいなぁ鍛冶。男なら多分誰でも憧れるんじゃないだろうか」
「ぷはっ……そうなん? 一刀が鍛冶って…………たはっ、似合わんっ」
「いや、そんな吹き出されてもな。鍛冶はやり続けてこそ風格が現れるものというか。だから今の俺をそのまま鍛冶屋に見立てたって似合わないのは当然で、ほ、ほら、やり続ければ似合うかもしれないだろ? いやきっと似合うって!」
「や、そんな必死にならんでもええやろ」
「だ、だって自分の刀を自分で作るとかやってみたいだろ! そりゃ人殺しのためとかじゃないなら木刀でも十分だけど、作ってみたい気持ちは譲れません! 男だもの!!」
丹念に鍛って、磨いて、完成する俺だけの刀……!
それはどんなものも斬れて、どんなものよりもカッコイイ……!
そんなものに憧れるのは、武器が好きな男の浪漫だと思います。
……現実がそーじゃないってのには気づいてる。でも、そんな夢に浸るのも浪漫だろう。
「一刀、今の武器に不満でもあるん? 氣ぃ飛ばせてかっこええやん」
「いや、あれは別にあの木刀だから出せるってわけじゃなくてさ。まあ黒檀独特のあの深い黒は、渋さも含めてかなり素晴らしいとは思うけど」
「……何気に自慢していないか?」
「はは……馴染んだものだから、やっぱりね」
華雄に言われてまんざらでもない自分が居る。
武器はいいね。
コレクターになりたいわけじゃないが、こう……持っていると眺めていたくなる。
黒檀木刀だって値段はとんでもないものだし、バイトで溜めた金の……4ヶ月か5ヶ月分くらいの値段かな? 時給のいいところで働けばもっと早く稼げるだろうけど、そもそもバイトが出来るならの話だし。……日本刀に比べれば安いもんだ。それでも高いけど。
「んー……考えてみれば案外悪ぅないもんやな。もう敵を斬る必要がないんやったら、一刀みたく斬れんものを鍛えてもらうんも」
「斬れる刃が無かったら無かったで、文句言いそうだけど?」
「……えへへー♪」
言ってみれば、霞がにぱっと笑って右腕に抱き付いてくる。
何事!? と思うより先に、
「一刀、ウチと羅馬行ってくれるんやろ? せやったら斬れる武器なんて無くても“楽しい”を探せるやん」
「あ……そっか」
「むっ? なんや、もしかして忘れとったん?」
「まさか。忘れたことなんて無いって。それどころか華琳に許可を貰ってたところだよ。都暮らしに慣れたら代役を立てて、旅に出れるくらいの休暇が欲しいって」
「え───ほんまっ!?」
「ほんまほんま」
ぴょこんと出た猫耳(幻覚だろう)がハタハタと動き、きらきらと目を輝かせた霞が、腕に抱きついたまま俺を見上げる。
一瞬見せた不機嫌そうな顔もどこへやら、犬の尻尾があれば千切れそうなくらいに振っているであろう喜びを隠そうともせず、きゃいきゃいと燥いでいる。
それを横で見ていた華雄が口を開く。
「なんだ? 何処かへ旅に出るのか」
「羅馬を目指して、ちょっと」
「ほう……? ろうま……老馬、と書くのか?」
感心した声を漏らしつつ、折れた金剛爆斧の柄で地面に文字を書く。
それにズビシとツッコミを入れつつ、羅馬の字を書く。ついでに馬ではないことも伝えると、もう一度顎に手を当てて「ほう……」と納得する華雄。
まあ、馬って文字があるからわからなくもないけどさ。
ていうか、霞さん? こんなところで抱きつかれると、鍛冶場の人達が困ると思うのですが。いや、むしろ困ってる。先ほどの青年が「あ、あ~……」って言いながら頬を掻いて、その師匠らしいおやっさんが「ここは愛情を鍛える場所じゃありませんぜ」とニヤケ顔でからかってくる。
「っと、そうでした。北郷さま、このたびは三国の同盟の中心になられたとかで」
「様はやめてくださいお願いします」
「うぇっ!? ほ、北郷さまこそそんなっ、敬語なんてやめてください!」
「むぅ……じゃあそっちも様をやめてくれ。俺も敬語はやめるから」
「いや……しかしそれは」
困った様子でカリカリと頭を掻く。
そうしながらもちらちらと俺の顔を見ては、「うぅ……」と唸っていた。
「頼むよ、せめて様以外で」
「と、言われても……あの。北郷さまこそ、少しご自分の立場というものを考えたほうがいいのでは……あっ、無礼なことを───」
「……え? 俺ってそんなに偉いの?」
「一刀……」
「北郷……」
「え? な、なんだ? なんでそんな、疲れた顔で……」
呆れた声に視線を向けてみれば、霞も華雄も、目の前の青年も困った顔で溜め息を吐いていた。唯一、師匠っぽいおやっさんだけは笑っていたが。
「まあ、たとえそんなに偉くなってたとしても、権力なんて振り翳すつもりはないし……俺は国に返していきたいだけだから、身構えられるとかえってやりづらいとも思うんだ。三国にはそれぞれの国王が居るのに、それを結ぶ支柱まで怖い顔してたら、みんなちっとも休めないじゃないか」
「あー……♪ それって華琳が怖い顔しとるって言っとるんと同じ? な、同じ?」
「え゛っ!? あっ、いやっ!? コレハソノッ!? ちちち違う! 断じて違うぞ!?」
「せやなー、三国それぞれゆーとったし、三国の王の顔が怖いて───」
「違いますよ!? 違うからそんな人の弱みを掴んだ華琳みたいな顔やめて!?」
「ん、やめるー♪ やから昼奢ったって? それで忘れたる」
「…………ね? 俺の扱いなんてこんなもんだからさ……様とか、似合わないだろ……」
「あ、あはは……」
泣きそうな顔で巾着を開く俺を見て、青年は困った顔で笑っていた。
しかしそれでも真っ直ぐに俺の目を見て、苦笑のままでも言ってくれた。
「でもそれは、きっと北郷さまにしか出来ないことですよ」と。
「そうかな。俺じゃなくても支柱の仕事なんて誰にでも───」
「無理です」
「……そ、そう?」
きっぱり言われてしまった。
苦笑も混ぜたものだけど、目がマジでした。
「たとえば今噂の学校、という場所で見事な成績を修めた人が居たとして、今の北郷さまのように立ち回っていられると思いますか?」
「出来るだろ。むしろ俺よりも上手く」
「将のみなさんとも?」
「う゛っ」
またしても想像してみる。
……頭がキレて運動神経もよい、素晴らしく好青年でした。って、想像の第一段階で既に故人っぽくなってる!?
い、いやいやさすがにそれは! 考え方が悪かったんだって! な!?
だから今度は冷静に~……朝起きて美羽と体操。食事を摂ったら勉強。警備隊の書簡整理。時間が空くと誰かしら部屋に突撃してきてその相手をして、華琳がデザートを作りなさいと言えば作って、材料が無くなれば駆けて、休憩時間が終われば勉強して、三日毎に鍛錬。へとへとになった夜は美羽が寝るまで話をして、寝てる最中も寝相の悪い美羽の蹴りで起こされて、時に深夜に忍び寄る猫耳フードの対処をしたりして、朝起きて体操。もちろんこれだけじゃなくて他にもいろいろとございますわけで。
あ、あれー……? なんでだろ。冷静に考えれば考えるほど、素晴らしい好青年が吐血して「もう無理ッス」って言ってる場面しか思い浮かばない。
「なにも夜逃げすることないだろ……」
「ん? 夜逃げってなに? 一刀がするん?」
「しない」
俺の想像は、好青年が目尻に溜まった涙を輝かせて振り返る姿で幕を下ろした。
なんでだろうなぁ……仕事は上手くやるのに、将のみんなとの付き合いで吐血するイメージばかりが浮かぶ。散々振り回されて、多少は上手くなったつもりの戦術を疲労……もとい、披露しても振り回されるばかりで、知力でも武力でも勝てずに心の芯をぼっきり折られる姿が…………なぁ、想像の中の好青年よ。ある程度のところで譲歩しておかないと、胃が死ぬよ……?
と、想像の中の好青年にやさしく言えるくらいにはなっている自分が、少し悲しい。
「あ、あー……その。誰にでもってのは無理だったかも」
「かも、と言えるものでもないと思うが」
「そういう華雄だったら出来るんじゃないか?」
「むう。鍛錬だけならば望むところだが……」
書簡整理等でダメそうだった。
と、話を模造の話に戻そうか。
「とりあえず資金さえ出せば作ってくれるんだよな?」
「はい、それはもちろん。無茶なものでもない限りはしっかりと働かせて頂きます」
青年はドンと叩いた胸を張ってみせるが、途端におやっさんに「十年早ぇえよ、若造が」と笑われていた。
……なんかいいなぁ、こういう関係。青年も苦笑してる。
「んー……と……使わないやつで、なにか代わりになるようなもの、ないかな」
「おう、そんだったらそこいらに転がってるやつでも使ってくんな、御遣いさんよ」
「そこいら? ……おお」
おやっさんに言われて視線を工房の奥に向けてみれば、ごろごろと転がっている(多分出来損ないの)武器たち。
一応断りを入れてから工房の奥へと進むと、さらなる熱が体を襲うが、それよりも武器のことで頭がいっぱいでした。腕にしがみ付いたままの霞もそうらしく、転がっている武器に近付くや早速手に取って、自分が扱いやすそうなものを物色し始めた。
「おっ、焔耶の鈍砕骨みたいな武器発見。……こっちは猪々子の斬山刀みたいなのか」
斬山刀(多分失敗作)を片手で握ってみる。
……しかし持ち上がらない。
ならばと氣を籠めるとようやく持ち上がる重さに、鍛冶職人の腕力や技術力を見直すこととなりました。と、それはそれとして。
「んー」
ちらりと霞を見る。
……さらし。前を開けた衣服。喧嘩っ早いところ。そして斬山刀。
これって某浪漫譚の斬左さんみたいになれるんじゃなかろうか。
「霞、ちょっとこれ持ってもらっていいか?」
「ん? ええよー」
疑問も抱かずに持ってくれた。
そして片手で軽く振り回すと、スチャッと肩に担いでみせる。
「で、これがどないしたん?」
「……いや、やっぱり結構似合うな、って」
斬馬刀だったらパーフェクトだった。なにがとは言わないが。
「おおっ? これって凪の閻王のレプリカか?」
んむんむと頷いていると、その視界の隅に篭手と具足を発見。
体術も浪漫だよなーと装着を試みるも、左手は包帯ぐるぐる巻き状態だから右手だけしか装備できない。しかもサイズが合わないからギチギチでとても痛いです。
(銀の手は消えない!)
無駄にクワッとした顔(のつもり)で、脳内で叫んでみる。……もちろん、そんなことを叫んだところで、篭手が左手の代わりになるわけもなく。俺はがっくりと項垂れながら篭手と具足を元の位置に置いたのでした。
「んんー、たしかにこれで敵バッタバッタと吹き飛ばせたらおもろいやろなー♪」
「フッ……私ならばこの鈍砕骨だな」
「だと思った」
「やな」
「む? 何故だ?」
「いや、なんとなく」
「華雄が選ぶんやったらそれやろなーってな」
片手で、見るからに重いだろって鈍砕骨をモゴシャアと持ち上げる。
ああ、モゴシャアというのは地面に軽くめり込んでいたのを持ち上げたために鳴った音でございます。どんだけ重いんだ、あれ。
おやっさんも青年も目を見開いて硬直してる。
作ったはいいけど動かせなかったんだろうなあって予想が出来るくらいのモノだった。
なのにそれを片手で、だもんなぁ。
「なぁ霞。華雄って武力は高いんだよな……?」
「戦だけなら相当強い……んやけどなぁ。馬鹿正直に突っ込むことしか知らんし、無駄に誇り持っとるから引き際も見極められん。冷静さを手に入れるか一層の力があれば相当なもんなんやろーけどなぁ……あ、でもさっきのは素直に驚いたわ。いつもの前に突っ込んでくる戦い方やのに、華雄の……どう言えばええんやろ。氣……とも違うし……空気? ああ、空気やな。それに飲まれるみたいに、思うように動けんかった」
「へぇっ……!? 霞でもそういうことあるのかっ!?」
「人間やもん、そらあるて」
しかも相手が華雄だったのにか。
“張遼”の武力って95とか96で、華雄は92とか93だっけ?
その大体3くらいの差が、果たして俺の氣なんかで埋まったのかどうか。
「……目の前で軽く、あんな重そうなもの振り回してると、なんていうかそんな感じが全然しないな」
「ん……一刀はか弱い女の子のほうが好き?」
「好みがどうとかじゃなく、好きになったらその人が好きな人物像だな。自分が思い描いていた好きな人っていうのはアテにならないって、この世界で知ったよ」
気が多いと言えばそこまで。
節操無しと言われても仕方ないが、好きなのだ。それこそ仕方ない。
誰かに言われて嫌いになれるものでもないんだし。
「……北郷。一度訊いてみたかったのだが……」
「ん?」
華雄が鈍砕骨を片手で持ちながら、平然とした顔で問いかけてくる。
……あの。なんかソワソワするんでやめません? 武器置きましょうよ、一応。
「お前は様々な女に手を出したと聞くが───」
「ちょおっと待った華雄!」
「おおっ? なんだ、霞」
華雄の言葉を遮ってまで待ったをかける霞。
そんな彼女が真面目な顔でじろりと華雄を見ると、
「一刀は“手ぇ出した”んとちゃう。受け入れてくれただけや。誤解されやすいから言っとくわ。真面目に考えたら一刀から手ぇ出したことなんて、ほぼ無いと言っても許されるくらいや。大抵は迫られて受け入れるか、華琳に命令されるかやもん」
「……そうなのか?」
「まあ……実は」
そう。種馬とか言われている所為で周囲からの印象はアレだけど、俺自身から迫ったことは案外少ない。自分から向かうことが少ないくせに雰囲気には流されやすい……まあ、気の弱いことだ。
相手に恥を掻かせたくないって思うことや、なにより自分が相手のことが嫌いじゃないということもあり、受け入れ続けてきたが……相手が納得してなかったら、これってただの尻軽男だよなぁ……。
「ちゅーわけやから“手を出した”は心外や」
「ふむ、わかった。そういうわけでだ、北郷」
「へ? そういうわけって───」
「お前は様々な女を受け入れたと聞くが───」
「仕切り直し!? あ、いや、うん……続けて……」
「うむ」
こくりと頷く華雄を前に、俺と青年は頭を掻いた。
なんかこう……長くなりそうだなぁと思いながら。
……。
……さて、話も長くなりそうなので、再び武舞台に戻ってきてから話をしていた俺達。
その話も終わり、今は鈍砕骨を片手で持ちつつ舞台に立たせながら、顎に指を当て頷く華雄を前にしていた。
「なるほど。半端な気持ちで受け入れたわけではないと。色恋はよくはわからんが、霞とは知らん仲ではない。探るような真似をしてすまなかったな」
「華雄……あんた……!」
「きちんと知っておかなければ、霞がお前を壊しかねないからな」
「うぉおい!? そっちかいっ!!」
鋭いツッコミであった。
「? 他になにかあるのか?」
「かっ……一刀を壊そうなんて考えるやつこそをウチが壊したるわ! っちゅーか華雄! この話の流れでどーしてウチが一刀壊すことになるんや!」
「お前は大事にしているものほど壊すだろう」
「うぐっ……す、好きでそうしとるんとちゃうもん……」
胸の前でつんつんと人差し指同士を合わせ、拗ねた顔をする霞。
そういえば以前それっぽい話で、飛龍偃月刀の装飾の部分がどうので真桜と言い争いしてたっけ……。
「そ、それよりもやっ! そないなこと訊いてどーするつもりなん、華雄」
「ふむ。それなんだが……偶然とはいえ恋に打ち勝った北郷だ。その力を認め、腕が治ったら再戦願いたい。だが霞に壊され続けては治るものも治らな───」
「やからなんでウチが一刀壊すんやっちゅーねん!!」
「いや、正直私も戸惑っている。あの霞が男相手に抱きついたり笑ったり。思わずお前は誰だと言いたくなってしまった」
「…………そんな変わった? ウチ……」
「月に詠、恋や音々音、誰に訊いたところで頷くだろうな」
「うぅう……! ああぁもうええ! 構え、華雄!」
「応!!」
顔を赤くした霞が斬山刀を。
ニヤリと笑った華雄が鈍砕骨を構える。
……ていうかさ、二人とも? もうその武器、刃引きがどうとか関係ないよね?
当たればグシャリとかグチャリの世界だよね?
「一刀! 合図!」
「あ、あーの、二人とも? せめて武器を軽いなにかに───」
「一刀!! 合図!!」
「うぅっ……あーもうわかったよう! ちくしょー支柱がなんだー! 結局みんな俺の言うこと全然聞いてくれないじゃないかー!」
それでも切れない絆……プライスレス。
“言うことを聞く=支柱の影響力”じゃないってのは当然だから、べつに本気で怒っても悲しんでもいない。ただずっとそんな調子でいられても困るから、抗議はきちんとしなきゃいけない。
「鈍器戦闘! 一本勝負! 始めぇえい!!」
『っ───!!』
「ヒィ!?」
合図のために振り上げた手が下りるや否や、二人は同時に疾駆して同時に武器を振るう。
直後に寺の鐘の端でも思い切り叩いたような音がこの場に響く。
片や、リーチは長いが振るえばそれだけ体が持って行かれそうな、相手の顔を見飽きればファイナリティブラストを放てそうな鈍器大剣の霞。
片や、リーチはそれほどでもないが、当たりさえすれば一撃で致命傷を与えられそうな、どこぞのスモウって名前の処刑者が持ってそうなハンマーが二つついたような大金棒の華雄。
見るからに“ああ、ありゃ無理だ、重すぎる”って鈍器を振るうっていうんだから、ちょっと腕力とかどうなってるのって感じではある。
思うさまにそれらをぶつけ合い、鈍器で激しい楽曲を奏でるように幾度も鈍い音が響く。
「ふんっ! でぇい! せいやぁっ!」
「フッ! おぉっ! うぉおおっ!!」
重さの所為もあってか、振る時に自然と出る声も気合の入ったものになっている。
重苦しく風を切ってはゴドンガゴンと響く音。
もちろん音を鳴らしたくて武器目掛けて振るっているのではなく、互いに相手を狙った結果とそれを防ぐために振るう結果が武器との衝突なだけ。
見ているほうこそ心臓に悪い模擬戦闘を前に、俺はハラハラするしかない。
「う、うわ……本気で火花が散ってる……! 音がもう武器と武器の衝突って感じじゃないし、そもそも振る速度が人間的じゃないって……!」
俺が振ったって、音で表すなら“ブンッ……ドゴンッ”程度だよきっと。
でも目の前の剣舞……もとい、鈍舞は、“ヒュゴドガァン!”って感じの速度だ。
あんなに重いのに普段の武器とそう変わらない速度で振るっている。
俺ももっと氣を扱えるようになれば、あんなふうになれるのかしら。
木刀でならばまあ……加速を使えばあそこまでいける……かな? いや、さすがにあの鈍器相手に立ち回るのは怖すぎる。焔耶相手にやったことはあるけれど、鈍器が自分の近くを通り過ぎるのってそれだけでも怖いんだ。
そんなことを思ってしまうと、なんだか火花がこちらまで飛んできそうな気がした。なのでもう少し離れてみる。
「っつぅう~~っ……さすがによぉ響くわ……!」
「ふっはっはっはっはっは! なるほど! 当たれば敵を潰せるのなら、これほど高率のいい武器はないな!」
で、離れた直後に華雄さん暴走。
鈍砕骨を頭上に掲げ、両手でゴファンゴフォンと回転させ始めた。
そして遠心力が乗りに乗ったところで一気に振りかぶり、霞目掛けて疾駆!
霞もそれを見てニヤリと笑むと、手を庇うフリをして捻っていた体を一気に戻し、斬山刀の刃を武舞台に閊えさせると、それを閊え棒代わりにして渾身を振るう。まるで居合いの要領のように地面から解き放たれた鈍の刃は、華雄が振り下ろす鈍へと向かい、本日最大の激突音を奏でると……双方ともに砕けた。
「嘘でしょう!?」
思わず目を疑い叫んだが、現実として鈍のカタマリがドッガゴッシャと武舞台に落ちていっている。二人は至近距離でキリッとした顔で見詰め合って…………少しののち、手を庇って震えだした。
あ、あー……あんなのをあんな速度でぶつけ合うから……。
苦笑しながら二人に近付いて、引き分けを宣言。
すると二人から“まだやれる”と抗議が飛ぶが、武器がないでしょーがとツッコむと、二人してしゅんとしてしまった。
「うーわー……」
で、俺が見下ろす武舞台には、無惨に砕かれた鈍二つ。
一欠けらだけでも結構な重さのソレなのだが、二人は戦う時以外はほぼ片手で振り回していた。
……少しifを想像してみる。
たとえば全員を受け入れた未来。軽いもつれから喧嘩になる僕ら。
そしてとある拍子に首を絞められる僕。……飛び散る鮮血空飛ぶ生首。
(ヒィッ!?)
怖っ! 怖い怖い! でも腕力や握力があるってそういうことですよね!?
さすがにおふざけでそんなことにはならないだろうけど、それはとっても怖いです!
「ていうかさ、二人とも。せっかく代車───もとい、代えの武器をもらったのに、早速壊してどーするんだよ……」
「あ……」
「む……」
砕け散った瓦礫を見て、霞も華雄も困り果てた顔をした。
そして少しののち、その目が俺へと向けられる。
俺……便利屋でもなんでもないんだけどなぁ……。
ちなみに。華雄は三国志シリーズでは知力の最低値が三国志6の24であり、最高値が三国志13の62とされているっぽい。38も揺れ幅があるってすごい。
いい加減無萌伝書かんと……と自分で番外を読み直している凍傷です。
平行して終わっていない恋姫ゲームもやってみたりしているので、作業が難航しておりますが、生きております。
朝起きて、PC起動、他者様の更新チェック、小説編集、仕事、休憩、仕事、夜帰宅、PC起動、ビリーズブートキャンプへようこそ!or走る、風呂、ぐったり。
雨が降ってたらビリー、晴れてたら走る感じ。
運動とかせずにPCに向かいっぱなしになっていると、段々と気分が滅入ってきますね。
運動、大事。