真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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79:三国連合/賑やかにいきましょう②

 もぐもぐもぐもぐ……

 

「んんっ……この餡、イケる……!」

「こっちの餡もたまらないのです……!」

 

 祭りに向けて作ったという新作を口にしてみている。

 なんでも干し肉をほぐして玉葱等と一緒に炒め、上手く味付けをした新食感の肉まんなんだとか。ちなみにそれを食っているのがねねで、俺が食べているのは辛味をメインにしたピリ辛まんだ。

 肉まんのように肉は入っていないものの、柔らかい野菜の食感と、追って訪れるほどよい辛さと旨味がたまらない。素晴らしい餡だ。

 

「おばちゃーん、これの中身なにー? めっちゃ美味いやーん♪」

「ああ、そりゃあねぇ───」

「ふぅむ……饅頭も奥が深いな……。食べ物など腹に入れば同じだと思っていた」

「……もぐもぐ……」

「ちょっと恋、美味しいのはわかったから、もう少し落ち着いて食べなさいよ……ほら月、こっちも食べてみて。結構美味しいわよ」

「ありがとう詠ちゃん。じゃあ私のも」

「あ……う、うん、ありがと、月」

「ラブラブですな」

「うっさい」

 

 茶化してみたら赤い顔で睨まれた。

 ラブラブの意味はわかるのか。……いや、雰囲気でからかわれたって悟っただけか。

 とりあえずもぐもぐと食いまくっている恋の頭をぽむりと撫でると、「食べる時は?」と問いかける。するとどうだろう。結構な速度で食べていた恋の咀嚼速度がのんびりとした一定に変わり、味わって食べるようになった。

 

「うわ、なにこれ。あんた恋になにしたのよ」

「何もしてないって……なんで何かしたってこと前提で話を始めるんだよ。ただ、食べる時はきちんと噛んでって教えただけだよ」

「へぇえ……食べ物をあげればそれなりに言うこと聞いたのは確かだけど、その食べ物のことで言うことを聞くなんて、珍しいものを見た気分だわ……」

「そうなのか?」

 

 素直なもんじゃないか。

 言ってみたらこくこく頷いて実行してくれたし。

 そう言ってみると、なんだか不思議な生物を見るような目をした詠に見つめられた。

 え? なにこの視線。

 

「ま、まあいいや。おーい霞ー! こっちの饅頭の餡、ちょっとピリッとして酒に合いそうだぞー!」

「おー! こっちも大当たりやー! “外の饅頭いらんから中身の餡の作り方教えて”ゆーて、怒られとったとこー!」

「なんてこと言ってんの饅頭屋相手に! ご、ごめんおばちゃん!」

「あっはっは、かまいやしないよ隊長さん。祭りの時くらいは楽しんでいきましょ、ね?」

「……せやったらウチ、なんで怒られたん?」

「怒られないって思うほうがどうかしてるだろ!」

 

 ああもうこういうところほんと雪蓮と似てる!

 でもまあ雪蓮と違って反省はきちんとするから、それは本当にありがたい。

 好きなものに素直すぎるのも問題だよな。酒とか。

 

「なぁ華雄。霞って昔からああなのか? ああ、昔っていうのは知り合ってからとかそっちの意味で」

「いや。昔は戦と関羽のことばかりだったな。男の傍に居たがるなんてことは無かった」

「あっ、こらっ、ちょおっ!? なにいらんこと喋っとんねん!」

「いらんこと? んー……いらんことじゃないぞ? 俺は霞のこと、もっと知りたいし」

「ふぐっ……うぅう……一刀、その言い方ずるいわ……」

 

 正直な気持ちを語ってみれば、顔を赤くした霞が胸の前で人差し指同士を突き合わせる。

 どうにも照れているようで、ちらちらとこちらを見てくるんだが……そんな霞を見た華雄がすっぱりと言う。「うむ。こんな表情の霞は見たことがなかったな」と。

 

「だぁもううっさい華雄! ウチのことはもうええんやっちゅーねん!」

「そうか。ならば北郷、お前のことを聞かせてもらって構わないか?」

「え? 俺?」

「あ、そや。恋と華雄で話し合ぅとってん。一刀、結局華琳には“好き”言ぅてもろてへんやろ?」

「イ、イヤ、その話しはもうイイカラ。察するヨ。僕、察するンダ……我ガ名ハ“ショユウブツ”! 今後トモ、ヨロシク!」

 

 無意味に両腕を挙げて叫んでみた。

 みんな知ってるかい!? 所有物って凄いんだぜ!? 持ち主のもっとも傍に存在できるものなんだ! それがお気に入りなら尚良しッッ!! そう、飽きられない所有物であれ! 常に変化を続けるような……例えば履くごとに味が出るスニーカーのような男であれ! で、穴が空いたらポーンと捨てられるんですねちぃっくしょぉおーっ!!

 あと腕痛い! 調子に乗って両腕なんて広げるんじゃなかった俺のバカ!

 

「一刀、最近おかしなったなぁ……」

「いや、おかしくないから。当然の反応だからっ。まあそんなことは置いておいて、うん。好きとか嫌いとかはもういいや。華琳が察しろっていうなら察することにするよ」

「へー……それでええん? 言われるままに納得~、て」

「ちょっと考えることがあってさ。好きだからって、求めすぎてたのかな~って。だから少し距離を置いてみようかなと思えるようになった。丁度都で暮らすって案も出てるわけだしさ」

 

 親離れならぬ華琳離れをしてみましょう。

 で、立派になったら改めて、その……かか華琳に子作りのことを話してみる、とか。

 それで断られたらまた努力しましょう。

 少なくとも“俺には”、随分と時間がありそうだから。

 

「都暮らしかぁ……都で暮らすのって一刀だけなん?」

「美羽と七乃と華雄は確定してるみたいだ。あとは……誰になるんだろ」

「おろろ、なんや、華雄も行くん?」

「いや……初耳だが」

「いやいやいやっ、ちゃんと話通してあるはずだぞ!? 忘れてるとかないか?」

「───…………」

 

 遠い目が、どことも知れぬ場所を眺めていた。

 うん……忘れてたんだな、きっと……。

 

「詠とか月はどうだ? そういう話を聞いたりとか」

「あぁその話? 桃香から聞いてはいたわよ? 知らない仲じゃないし、桃香が気を利かせてくれたんだろうけど」

「はい。丁度華雄さんはその時、他国の将と仕合をしていたと思いますけど……」

『あぁ……』

 

 全員の声が重なった。

 月と華雄だけが首を傾げ、それ以外が恋を除けば全員頷いていた。

 なるほど、忘れてたんじゃなくて耳に入ってなかったのか、と納得したが故だった。

 

「華雄は一つのことに夢中になると、周りの声なんて右から左やもんなぁ……」

「それはあんたもでしょーが」

「へ? ウチも? あっはっは、じょーだんキツイわ詠っち~♪」

「……自覚無いって幸せなことよね」

「まったくなのです」

「一刀ぉ……みんながイジメる……」

「いやごめん、まったく同じ意見だった」

「んなっ!? 一刀までっ!? ウ、ウチちゃんと話くらい聞いとるもん! 愛紗に見惚れてようと声かけられれば反応返せるくらい、ちゃんと聞いとるもん!」

「み、見惚れっ……へぅう……!」

 

 賑やかだ。

 むしろうるさいくらいに。

 だけど祭りの雰囲気には丁度いいらしく、周囲まで騒がしくなる。

 こういうのはノリなんだろうけど、ここまで賑やかだとノリとは関係無しに楽しみたくもなってくる。……そんな雰囲気に乗ってか乗らずか、霞が猫耳(幻覚)をピンと立て、この場に居るみんなに質問を投げた。

 

「あ。見惚れるで思い出した。みんなに訊こ思とったことがあるねんけど……なな、こん中で一刀のこと好きな奴、どんくらいおるん?」

『───《びしり》』

 

 …………空気が凍った。

 賑やかだった周囲までもが音を無くしたかのような幻覚が場を覆う。

 幻覚というからには幻の感覚なわけで、もちろん周囲は賑やかなままな筈なのだが……。

 

「……」

「恋!?」

「恋殿!?」

 

 無表情ながらに目は輝かせ、挙手する奉先さん。

 思わず驚く俺の横で、ねねまでもが驚いていた。

 

「ほー、やっぱ自分に勝った相手には惹かれるモンがあるん?」

「ん……やさしい。いい匂いがする。動物(みんな)が好き。恋に勝った。あと……撫でられると気持ちいい」

「言わなくていい! そういうこと本人の前で言わなくていいから!」

「せやったら華琳が一刀に“好き”言わんでも平気とちゃうん?」

「………………もっ……もも求める好意と与えられる好意は違うというかなんというかっ」

「贅沢やなぁ……」

「まったくだよな……自覚してる」

 

 俺、とっても贅沢してます。

 元の世界ではむしろ、女の子に遠慮しながら生きてきたと言っても過言ではないんじゃないだろうか。……いや、剣道で不動さん相手に遠慮無しとかは、やったところで無意味だってことはよーく思い知ってる。剣道を抜けば……やっぱり大して変わらないな。

 

「んで? 恋の他にはおらんの? 一刀んこと好きなやつ」

「いや……霞さん? 寂しくなるからやめてくれたら嬉しいかな……」

「な~にゆーてんねん、この平和な世の下、好きな男の一人もおらんと退屈で死んでまうやろ。ウチはウチの知り合いがそんな、退屈で死にそうになるのいややもん」

「俺って退屈しのぎの道具かなんかか!?」 

「だってウチ、一刀と一緒やと楽しなるもん」

「う……そ、そうか……?」

 

 そんな真正面から言われるとさすがに照れる。

 

「言葉だけでころころと表情を変えるなど、扱いやすそうな男です」

「ほっとけ! 嬉しいんだからしょうがないだろ!」

「ふーん……? まあそうね。友達だとは思ってるけど、好きかどうかで言えば違うわね。いってもせいぜいで“大事な友達”どまりよ。そういう性格じゃない、こいつって」

「人を指差して“こいつ”言うな」

 

 ねねも詠も、俺の扱いが随分と適当である。

 しかしその中から感じられる俺相手だから言える言葉っていうのは、わかってしまうとこれが案外悪くないと思えてしまう。

 仲がいいから言える言葉って、結構あるもんな。

 感じられるものが無ければ、ただただ落ち込んでいただけであろう自分が想像に容易い。

 

「へぅう……その……私も好きではありますけど、それは大切なお友達としてでして……」

「ね、ねねは友達なだけなのです。別に大切だとかそんなことは考えていないのです」

「へー……やっぱ友達思とるのが多いんやなぁ……あ、華雄はどうなん?」

「鍛錬相手だ」

「……空気読もうな、かゆっち……」

「む? だめなのか?」

 

 いや、俺もそうだと思ってたから、別に不都合はないんだが。

 

「なー華雄~? 平和な世はそら平和でえーもんやけど、それだけやと退屈やでー? そこにきて好きな男がおるっちゅーのは、これで結構ええもんやねんで?」

「男にこれといった興味はないな。強いのならまだ考えなくもないが」

「よっしゃ一刀、負かしたり」

「片腕でどうしろと!?」

「いや~、華雄は絶対に男で化けるヤツや。一度好きになったら自分の全部をそこに置く感じでこう、な? 一刀の言うことならなんでも聞いて、一刀が言うんやったら知識も磨いて、一刀が願うんやったらより強ぉなろって、躍起になると思うねんけどなぁ……」

「………」

 

 言われて、華雄を見てみる。

 いまいち話の流れが掴めていないのか、顎に軽く握った手を当てて考え事をしている。

 

「……華雄が?」

 

 そんな様子を見てもピンとくるものは一切なく、つい逆に問い返してしまう。

 他のみんなもそうだったようで、視線は一斉に華雄へ。

 

「……ん? なんだ?」

 

 本人はといえば、きょとんとした顔で俺達を見渡す。そりゃそうだ。

 そこで霞がけらけら笑いながら説明してみれば、

 

「自分が誰かを好きになるなど想像が出来んな……そんなものは病の一種だろう?」

「おー♪ 恋の病っちゅーやつやなっ」

「その言葉、この世界でもあるもんなのか」

 

 予想の範疇ではあった言葉が返ってきた。

 俺だってこの世界で人を好きになるまでは、自分が誰かを……なんて想像もしていなかった。求められて受け入れて、そこに“恋”ってものがあったのかも確認できないうちに愛にまで至ったようなもんだ。

 ただしそれは間違いようもなく愛ではあり、デートなどをじっくりとする“恋”を完全にすっ飛ばしたものではあったわけで。それを言うなら三羽烏との関係が一番自然だったんだろうか。デートとはいかないまでも、昼食を一緒に摂ったり警邏で一緒に歩いたりしたって仲ではダントツだ。

 そんな関係を華雄に代えてイメージしてみるのだが───

 

 

 

-_-/イメージ

 

 ザムザムザムザム……!

 

「うむ。やはり警邏はいい。心が引き締まる」

「いや、一応デートのつもりなんだけど」

「出餌屠? なんだそれは」

 

 街の中をふたり、歩く。

 今日もいい天気。

 デートするにしても城下に下りればいいというのは、この世界ならではないだろうか。

 もちろん遠出するなら馬は必須になる。

 ……なんて考えていたのだが、華雄はこれを警邏だと思っているらしい。

 しっかりとデートだと言ったのに、右から左へだったようだ。

 

「さあ、これが終わったら兵たちの調練と自らの鍛錬だ」

 

 華雄は戦に対して真剣である。

 

「次の列! 突撃を仕掛けろ!」

 

 むしろ頭の中はパワーでいっぱいである。

 

「他に遅れを取るな! 呼吸を合わせていけ! 乱れた呼吸にではなく、整った呼吸に自らが合わせろ!」

 

 しかしながら……武力はあっても統率が少ないと思っていた彼女だが、これで案外部下には慕われていた。策には弱いが真正面からぶつかれば相当に強い隊を指揮している。

 

「我々に敵は無い! 我々は強者だ! ふははははは!!」

 

 ……さらにしかしながら、一度熱が入ると止めどころを見失う。

 熱暴走とでも言えばいいのか、突撃大好き人間になってしまい、真正面から以外の攻撃に滅法弱くなり───

 

「なん……だと……!?」

 

 あっさり負ける。

 それは指揮勝負での模擬戦を始めて、少ししたあとの出来事であった。

 

 

 

 

-_-/一刀

 

 結論。

 

『ないわ』

 

 声が揃った。

 今度はその言葉を向けられた霞がきょとんとする番だった。

 

「ない、て……なにが?」

「いやな、霞。華雄が人を好きになるって状況が思い浮かべられないって意味でだよ」

「だって華雄よ? 戦があればそれこそ人生って感じの。命令聞かずに挑発に乗って、門を開けて突撃仕掛けて戻ってこれないまま行方不明になった華雄よ?」

「ふっ! ぐっ! おううっ! ぐはぁっ!」

「や……詠っち? そのへんにしたって。何気に華雄が悲鳴あげとるから」

 

 そういえば反董卓連合の時、いろいろとやらかしてたんだったっけ。

 お陰で簡単に関門を越えられたわけだが……本人にしてみれば黒歴史だよなぁ。

 

「そもそも“好きになる”というのは、そこまで人を変えるものなのですか?」

「ん? ねねは恋のことになると人が変わるけど、それは違うのか?」

「違わないのです」

 

 あ。認めた。

 

「しかしねねの好きはそういった無粋なものではなく、尊敬や友愛からくるものなのです。だからというわけではないのですが、恋愛だのなんだのが人をそこまで変えるとは思えないです」

 

 目を伏せ、片方の口角を持ち上げてのフスーと吐く溜め息。

 うん、最初っから理解する気ゼロでの物言いだ。

 まあさ、うん。わかるんだ、それも。愛だの恋だのは経験してみなきゃ謎すぎる感情だ。

 恋をすっ飛ばして愛に至った俺からすれば、むしろ恋のほうが興味深く、ソワソワしていたりもするんだが……相手を抱くだけが愛じゃないもんな。紳士であれ、北郷一刀。今は弱くても、いつかは強い紳士になろう。勝てないとわかっていても立ち向かう勇気を持つ紳士になろう。でも、いつか勝てるようになってやると決意を見せる紳士になろう。

 

「そうね……って、ねぇ霞、そういうあんたはどうなのよ。その、こいつと寝たって聞いたけど」

「へぅっ!?」

「お~? なんやぁ賈駆っち、そっちのほうに興味津々かぁ~?」

「今さら賈駆っちなんて呼ぶんじゃないっ、人の目があること忘れないでよっ」

「あ、そやった」

 

 驚いて顔を真っ赤にさせた月には触れない方向で、複雑そうな詠と霞が話を進める。

 そっちの話になると巻き込まれるのは目に見えていたから、軽く離れて恋の傍へ。

 

「恋、食べてるか?」

「……ん」

 

 未だに饅頭を咀嚼していた恋の傍で、ひとまずは安堵。

 それにしても幾つ食うつもりなのか。

 いい加減にしてくれないと俺の巾着の残高が底をついてしまう……!

 祭りの雰囲気の中でツケにしておいてとか絶対に言いたくないのですが!?

 

「恋、追加の注文はそこまでにしてもらっていいか? 生憎ともう財布の中身がさ」

「!」

「え……いや、別に俺が肉まん食べたいから言ってるわけじゃ……その……いただきます」

 

 差し出してくれたのに、ヘンに遠慮するのも難しく。

 今度こそ肉まんを頬張ると、もふもふと咀嚼する。

 ……うん美味い。饅頭はふっくらで中の餡の肉汁といったら溢れるようだ。

 なのに嫌味ったらしい油っぽさじゃなく、旨味をたっぷりと含んでいる。

 それが外の饅頭に染み込んでいって、そこを食べればまた違った味わいがある。

 などと思っていると、咀嚼の内は当然のごとく口から離していた肉まんを、恋がハムリと口にする。思わず「ホワッ!?」とおかしな悲鳴をあげると、もむもむと咀嚼しながら首を傾げる恋。

 ……手に持っている肉まんの面積が明らかに減っていた。

 

「あの……恋? もしかして食べちゃだめだった?」

「……大事な人とは分かち合うもの。桃香がそう言ってた」

「………」

「…………」

 

 俺を真っ直ぐに見つめる目が輝き、何か期待をこめていることに気づく。

 とりあえず……一口齧ると恋の口の傍まで肉まんを持っていく。

 すると、はむりと一口齧り、もぐもぐと咀嚼。

 

「………」

 

 試しに二口連続で食べてみると、恋が「!?」と大層なショックを受けた。そして首をふるふると横に振りながら俺の服を引っ張った。

 やだ……可愛い……! じゃなくて。

 

「わ、悪い悪い、分かち合い、だよな? ほら」

 

 すっともう一度差し出す。

 連続二口といっても多少齧った程度だから多少は残っている肉まん。

 それを、今度は恋が二口連続で食べる。

 

「………」

「………」

 

 奇妙な空気が生まれた。肉まんは減るばかりなのに。

 なんかもう間接キスがどうとかそういう問題も軽く越えた空気の中に居た。

 お互い見つめ合って一つのものを分け合って、ちょっとしたいたずらでキャッキャウフフ状態……これってあの伝説のバカップル状態というやつではございませんか?

 

「………」

「………」

 

 親愛感だよな、フツーに。

 しかしポムポムと頭を撫でてみれば、その手をワッシと掴まれ、頬擦りされる。

 ……親愛感ですよね?

 でもなんかこれって、犬や猫を撫でてる時の反応に似ててくすぐったい。

 たとえば頭撫でてると頭を押し付けてくる猫みたいに。たとえば指を舐めている最中に撫でようとすると、押さえつけてさらに舐めてくる犬のように。

 なんとなく反応が見たくなって、悪戯心全開で恋の唇をつんとつついてみる。

 ……と、かぷりと人差し指が食べられ、閉じられた口の中でぺろぺろと嘗め回されてオォオオッヒャァアーッ!?

 

「ちょわぁああととと!? 恋!? 恋っ! くすぐったいくすぐったい!」

「?」

 

 こてり、と首を傾げられた……直後、ゴリッと指が噛まれてギャアーッ!?

 

「いったぁーっ!? いや痛くしてくれって意味じゃなくてぇえ!!」

 

 生暖かな場の空気が俺の叫びで飛んでいった。

 それはいいんだが指が痛い。

 痛いと言えばすぐに放してくれるのだが、指が口から解放されることはなかった。

 

「………」

「?」

 

 指を銜えられた状態で首を傾げられた。

 やだ……可愛い……! ───だからそうじゃなくて!

 おお落ち着きなさい北郷一刀。誰に対してでもこんな調子だから種馬などと呼ばれるのです。紳士への目標はどうしましたか。もっと凛々しく生きなさい。

 

「……、……、人ぉお~……!」

 

 心の中のむず痒さが溢れ出しそうになった瞬間、恋の口から指を抜き取ると、自分の両の頬を叩いてから右頬を自分で殴り、掌に人の字を書いて飲み込んだ。

 すると、スゥウと引いてゆく顔の熱。ただし腕は大激痛。涙が止まらん助けてください。

 いろいろな感情が渦巻いているのも確かだし、きっと友達以上に思っている相手も居る。亞莎に対して抱いた気持ちと同じく、それはきっと友情ってだけで答え切れるものじゃあないのだろう。

 でも、焦ることはもうやめたのだ、のんびりいけばいい。

 

「ほい、恋」

「ん……、ん、む……」

 

 差し出した残りの肉まんを頬張り、咀嚼する恋を見て微笑みを浮かべる。

 頬を叩く際に持ったままだったから少し形が崩れていたが、恋は気にせず食べていた。

 微笑んでいた。この時の俺は、それもう本当に、暖かい気持ちで微笑んでいたのだが。

 

「フフフ……聞いたぞ北郷よ。男を好きになった女は、なんでも通常の三倍の力を発揮できるそうではないかっ! 故に勝負だ! 武器を取れ!」

「なんで!?」

 

 その笑みが裸足で逃げるくらいの出来事が、突如として起こった。

 何故だか高揚した華雄が俺の傍まで来て、一気にそんなことを言い放ったのだ。

 

「すっ……好きになるのと勝負との関連性の説明を求める!」

「む? 前に言ったが? 私は自分より弱い者には興味がない。お前が勝てばお前の子供でもなんでも産んでやる」

「前に言ったが、って前は子供の話なんてしませんでしたよね!?」

「いや。以前より気になっていたことはあるにはあるのだ。手負いの獣は何をするかわからないというが、真に恐ろしい獣とは子を守らんとする獣の親だ。常々、あの力は何処から出てくるのかと不思議だったが……」

 

 そこまで言うと、ちらりと霞の顔を見たのちに頷く。

 

「……男を好きになった女は強くなる。その意味の末を知れば、それも頷けるというものだろう?」

「そんなオットコマエな顔で言われても!」

 

 妙な納得の仕方してる!

 霞の説明の賜物なんだろうけど、嫌な理解の仕方の所為で逆にこっちの説得が難しそう!

 

「ええいもうやってやらぁーっ!! 片腕だけどこの北郷一刀、逃げも隠れもせん!」

「へぅう!? か、一刀さんっ、無理をしては───」

「……月。魏に生きたこの北郷が唱えます。この手の人相手には、どれだけ口で言っても無駄です」

「え、え? えぇっ?」

「月ごめん、こればっかりはそいつの意見に賛成だわ……」

「詠ちゃん!?」

 

 そう。春蘭に説得が通じないように。一つのことに夢中になりすぎるあまり、氣弾で看板破壊をしてしまった凪のように。一度コレと決めた人には何を言っても無駄なのだ。

 なので武舞台で勝負じゃー! ってことになり、行動範囲は再び城内へと戻り───

 

「壊された舞台の修繕がまだですのでお引取りください」

 

 ───あっという間に追い返された。

 

「……あれ?」

 

 み、妙ぞ……こは───いやいや疑問を抱くよりもどうしようかだよ。

 とりあえず工夫のおやっさんが怒ってたのは間違い無いな。うん。

 そんなわけで武舞台の傍でどうしたものかと悩んでいる。

 一応は俺だけで“使ってもいいか”を訊ねに来たわけだが、あっさり却下だ。

 ならば他のところで───と考えて中庭が浮かんだわけだが、華琳に視察の続きをしていろと言われているというのに、“仕合のために戻ってきました”なんて言えるはずもない。

 ……よし! とりあえず急いで戻ってみんなと意見交換だ!

 そうと決まればそれこそ急ごう! みんなが肉まん頬張って待っている!

 

「あっ! おっ兄っさまぁ~っ♪」

「はう!?」

 

 と、走り出した途端に声をかけられるタイミングの悪い俺。

 何処から!? と見渡してみれば、武舞台ではなく別のほうから軽い足取りで駆けてくる蒲公英が。

 

「蒲公英か。どうかした? 俺に何か用があったり───」

「えへへぇ、用はなかったけど見かけたから。お兄様は? 片腕なのに懲りずに手伝い探してるとか?」

「懲りずにとか言わない。……懲りてないけど。武舞台でちょっと確認したいことがあったから来ただけで、実はまだ視察中なんだ」

「そうなんだ……あ、ねぇお兄様? 一回、一回でいいから歌を歌ってくれないかなぁ。ここのところ準備とか鍛錬とかで疲れちゃっててさー」

「いや、俺急いでて……」

「だめ……?」

「いや……」

「お兄様ぁ……」

「………」

 

 上目遣いに懇願される。

 ぬ、ぬう、なんだというのだこの断り辛さ……!

 やっぱり急いでるからと言って駆け出せばいいだろうに、そうすると彼女の準備などへの頑張りを否定することになりそうな、このもやもやとした感情……!

 

「うぅ……じゃあ、どんな歌でもいいのか?」

「いいのっ!? やった!」

「待て待てっ、どんな歌でも! これが条件!」

「いいよいいよっ! 聞かせて聞かせて~っ?」

 

 悲しそうな顔が一気に元気一杯になった。

 ……神様。やっぱり女の子って怖いです。

 

「では───すぅ……はぁ……!」

 

 しかし歌う。

 短く、しかし実際に天にはある長さの歌を、そのまま歌うのではなく改良を加えて。

 15秒もあればきっと歌い終えるであろうそれを、今───!

 

  タイトル【長州力】

  作詞:エ○テー&北郷一刀

  曲調:エ○テー

  歌 :北郷一刀

 

「長州力~、みんな大好き~♪ 長州力~、僕も好き~♪ スコォ~ピオォ~ン~デスロォックゥウ~ッ♪ 長ぉお~ゥ州ぅうう~ゥりっきぃい~っ♪」

 

 …………。

 

「それじゃあな蒲公英! 俺急ぐか離せぇーっ!!」

 

 ちゃんと歌ったのに、ズビシと構えた腕が掴まれた。お別れの言葉を即座に解放への願いに変えられるくらい、ものすごい勢いで捕まった。

 何故? どうして!? ……考えてみたら何故もくそもない気がしてくるから不思議だ。

 

「歌ったろ!? ちゃんと歌ったじゃないか!」

「え~っ? あんなの歌じゃないよ~っ!」

「歌だよちゃんと! 消○力の少年に謝れ! ……あ、いや、この場合謝るの俺か!? とにかく人を待たせてるからこれ以上はダメだって!」

「待たせてるって、誰を?」

「月に詠に華雄に霞に、恋にねねだっ! 待たせるといろいろまずいってわかるだろ!?」

「うーっ……でも一曲、元気の出る歌を歌ってくれるだけでいいからさぁ、ね? お兄様ぁあ~っ」

「……長州力~、みんな大」

「それはもういいから!」

「なんで!?」

 

 少し巻き舌風に歌ってみれば、途端に却下された。

 少ない時間で歌えるものを即興で作ってみればこれである。

 

「あー……蒲公英はこれから仕事の続きか?」

「え? あ、もう交代の時間が来たから、ご飯食べて次の仕事に移るってくらいかな。まだ余裕があるから、お兄様が歌ってくれたらな~とか思ってたら丁度見つけたから」

 

 にひひ~と笑う少女は、どうあっても俺を逃がすつもりはなさそうでした。

 ならばもう面倒だとばかりに頷き、掴まれた腕をそのままに歩き出す。

 

「あ、あれ? お兄様?」

「メシ、一緒に食おう。歌は歩きながらだ」

「あ、そっか。そうすればどっちも時間に余裕が出来るね」

「そゆこと。というわけで───長州力~♪ み」

「それはもういいってば!」

「そ、そうですか」

 

 いや……どうせ15秒程度で終わるんだから、最後まで歌わせてくれてもいいだろ……?

 とまあそんなわけで、祭り前日の騒ぎの中を歩き、歌いながら街を目指した。


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