「んで、恋ー? どうかしたん? 急に腕相撲に混ざってくるなんて、暇でもしてたん?」
「……、……一刀の負けは、恋が返す」
「負け? あー……そらあれか? 一刀がなにかしらで負けたら、恋が戦って勝てば……」
「負けと勝ちで、無しになる」
“我ながら名案”とでも言いたそうに、どこか誇らしげに頷く恋さん。
いやあの、恋さん? それは俺が返さないと意味がないのでは……? そう訊ねてみれば首をこてりと傾げ、「一刀は恋が守る。だから意味はある」ときっぱり言われた。
言葉の意味はよくわからないけど、ともかくすごい自信だった。
そんな自信を横で聞いていた霞が、引き攣った笑みをしながら俺の前へとやってきて、ポムと肩を叩きなすった。
「やったなぁ一刀っ、これで負けても負けやないでっ」
「全力で嬉しくないんだけど!?」
引き攣ったような困ったような、ともかく微妙な笑顔のままに、一度肩に置いた手を弾ませながらのお言葉だった。全力で嬉しくない。
しかしそんな反論に両腕を挙げて抗議するお方が一人。当然のごとく、ねねである。
「なんですとー!? おまえぇえっ! 恋殿がせっかく敵討ちをしてくれているというのにそれを嬉しくないなどとー!」
「そういう意味じゃなくて! 勝負を挑む身としては物凄く情けないだろそれ! 子供の喧嘩に親とか兄とか強い人を呼ぶようなもんだろ!」
「ふんっ、子供の喧嘩なんてどうせ一人をよってたかっていじめるものばかりなのです! なら助けてもらうことの何が恥なのですか! 情けないのは集団で一人をいじめるほうなのです!」
「あ、あー……あれは確かにひどいよなー……ってそうだけどそうじゃなくて!」
けど、そういえば……真名の話をした時に一度もらしたよな。
“ねねを苛め……”って。
うがーっと両腕を挙げたまま威嚇を続けるねねを、とりあえずは手招きで呼び寄せて、頭を撫でた。当然、「……急になんなのです?」とジト目で見られたが、返す言葉はもう決まっていた。
「……ん。じゃあねねが負けた時も、俺か恋が敵討ちをするな?」
「なっ……なぜおまえがねねのことで───」
「友達だから」
「むぐぅっ……!?」
ガキみたいにニカッと笑ってキッパリと言ってやる。ここでするのは余裕の笑顔でもやさしい笑顔でもだめなのだ。友達なのだから、気安いくらいが丁度いい。
むしろ“情けないだろ”と言った俺にちょっと待ったをかけたのはねねなんだから、こういう返され方も予想出来そうなものだが……あれ? こういう考えをする俺がおかしいのか?
まあもっとも、知識ではねねには勝てないだろうし、武力では恋には勝てない。そうなると俺がねねの代わりに勝てるものってなんなのかがとてもとても心配ではあるが……そういうのって理屈じゃないよな。友達のために何かしたいって思ったら、自分勝手でも突っ走るのは普通だ。きっと。多分。
フランチェスカじゃ男は存分に肩身が狭く、友達も少数だったのだ、そういう部分に理解が薄いのも察してやってほしい。あと、そういった青春っぽいのにちょっぴり憧れがあるのも。
「むむむ……それならおまえも恋殿が敵討ちをすることを、友達だから認めるのですね?」
「へ? あ」
人はそれを墓穴と言う。
しかし二言はなかったので、こっちを見ている恋も手で招くと、頭を撫でて苦笑した。
ほどほどにお願いしますと言いながら。
「なんや義兄弟の誓いみたいやな」
「……そうなると、北郷一刀が末弟なのです」
「男は一人なんだから長男だし、どう見てもねねの方が年下で妹だろ……末弟って言葉の意味はわからないでもないけどさ」
「なんですとーっ!? ねねのどこにおまえに劣る部分があるというのです! どう見ても勝り、姉らしいのです!」
「それゆーたら……身長と仕草と言動と行動とー……あと何ゆーてほしい?」
「ふむ……頼りなさか?」
「う、うるさいのです! ねねのどこを見て頼りないという言葉が出るですか!」
「どうしてそれを俺に言う!?」
べつに俺が言ったわけじゃないのに。
理不尽さを感じながらも宥め、さらにはみんなを促して移動を開始する。
嫌な予感が心を駆り立てるのだから、じっとなんてしていら───
「あっ……かずっ───~~……ほ、北郷~!」
「ヒィッ!?」
───れない、と。そそくさと退散しようとした先で、心配の種と遭遇してしまった。
名を翠。
蜀の南蛮平定美少女戦士さんのお姉さんでいらっしゃる。
そうだよなぁ……こういうタイミングだよなぁ、会いたくない人と遭遇するのって。
……あれ? それはそれとして、今“一刀”って言おうとして“北郷”って呼び直した?
ま、まあいいか。華佗と同じで、個人の呼びやすさっていうのもあるだろう。
それよりも……先手必勝!
「翠、まず落ち着いて聞いてくれ」
翠を見るや、バッと東屋の影に隠れた蒲公英を視界の隅で確認。
それに安堵しつつまずは話を……いや待て? 用件が違ったらどうする?
そもそも仕事だからって友達をこうして突き出すのは───……まあ当然か。
「あちらにおわすのが蒲公英さんです」
「へ?」
「うえぇえーっ!? お兄様が裏切ったぁあーっ!!」
サッと手で東屋の影を見るように促してみせると……よっぽど俺の行動が予想外だったのだろう。その先で蒲公英が叫んでいた。
すまない蒲公英……! 他国に来ての仕事をサボるキミの勇気は買うが、華琳に知れたら翠に怒られるどころの騒ぎじゃないんだ……! これもキミのため……わかってくれ……! ……冗談とか抜きにして、わりと本気で。
「あぁっ!? 蒲公英っ! お前こんなところに居たのかっ! 散々探したんだぞ!?」
「え、や、やぁ~、ちょっとだけ休憩を……」
「休憩なら昼餉食いながら十分しただろっ! ここは蜀とは違うんだから、こんなところでサボっていたことがバレたりでもしたら……!」
「……えーと。お姉様? 参考までに、たんぽぽってばどうなるのかな」
ただならぬ翠の態度に、さすがに危険さを感じ取った蒲公英が狼狽える。
むしろ蒲公英なら危険察知能力は高いと思うんだが……他国に来たことで興奮していたんだろうか。今さらながらに少ししゅんとしている。
「どうなるって、そりゃあ……」
「そうだなぁ……とりあえずお仕置きだよな」
「え゛っ?」
困った顔をしながらてこてこと近寄ってきた蒲公英に言ってやる。
こういう時に妙なやさしさはよくない。
むしろやさしさを含めたことを言っては、実際に罰を受ける時にショックがデカいし。
「あぁ、案外ちっこくて可愛いからって閨に呼ばれるかもしれへんなぁ」
「うえぇっ!?」
「で、春蘭や桂花に嫉妬されて、特に桂花にネチネチと恨まれて」
「落とし穴に落とされたり嫌がらせされたりして……他になにゆーてほしい?」
「あぅ……お、お姉様っ、たんぽぽ頑張るっ! 頑張るから戻ろっ! すぐ戻ろっ!」
「えっ? うわっ、お、おいっ! あたしは別の場所で仕事が───あぁああああーっ!?」
さっきのようにニコニコ笑顔で、指折りしながら今後の蒲公英さん予想図を口にしていた霞を前に、笑顔を引き攣らせた蒲公英がとった行動は……翠の手を引っ張り、走ることだった。
その速度は見直すほどに素晴らしく、彼女たちはあっという間に見えなくなった。
「なははははっ、まぁこんだけ脅しとけば、もうサボったりもでけへんやろ」
「だな。目の前にサボらなきゃいけない事情でもなければ、たぶん大丈夫だろ」
「おまえ、なかなかひどいやつですね……」
「“サボったなら怒られる”のが普通だって。相手はこっちが働いてるって思ってるから給金をくれるのに、その金額に見合った仕事をしてないなら、相手が怒るのは当然だろ……」
この世界、この時代では特に。
いや、俺が言えた義理じゃないのはよくわかってますよ? 常習犯だったし。それも、周りが“またですか”って半ば諦めてるくらいの。
……もちろん怒られてたし、仕事と給金の量が見合わなければ減らされたりもした。だって相手は華琳だもの。
「……というかさ。この祭りの準備って、きちんと手当て出るんだよな? ここ最近で俺のところに届く書簡竹簡って、都のための知識に関係するものばっかだからよくわかってないんだけど」
「出るのです。毎度祭りの時は、そういった作業がこれからの武官のためになればと、王が気を回してくれるのです」
「あ、そっか」
力仕事、多そうだもんな。
こういうのをきっかけにして、そういう仕事が出来るようになったほうがこれからは稼げるわけだ。争いもなくなったのなら、開墾、開拓、建築の機会は増えるんだから。
「……それでも仕事が回ってきぃひんモンは、どうしたらええんねやろなぁ……」
「それは───あー……仕事を貰うしかないだろ。もうしないから手伝わせてくれーって」
「んんー……やっぱりいっそ一刀がもらってくれん? それやったらウチ───」
「都に貯蔵した酒を飲みあさる毎日?」
「………」
「考えるなよ!!」
「あっははははは! や、けど一刀、ほんまに“酒”作ってくれとるそうやん。ウチ嬉しくて。一刀が作ってくれるんやったら、ウチもタダで飲み放題やもん」
「あのなぁ……料理屋が料理売らなきゃ材料を揃えられないように、酒作るのだってタダなわけじゃないんだぞ? 一生タダ酒なんて出来るもんか」
「旅しながら自分で揃えるっちゅーんはどうっ?」
「………」
「あっはは、なぁんやぁ~、一刀も考えとるや~ん♪」
「うぐっ……」
ちょっと、それもいいかもとか考えてしまった。
だって、それはとても楽しそうだって思えてしまったから。
「己の練磨を目的に旅をしながら、娯楽のための材料集めか。ふむ……」
「ねねが歩き疲れたら負ぶるですよ」
「……一刀は恋が守る」
……そして何故か行く気満々のみなさま。
華雄が特に怖い。キリッとしているように見えるが、目はギラギラで、興奮しているのか肩はうずうずと疼いていた。……誰も鍛錬の旅なんて言ってないんだけどな。
「えと……え? みんなもついてくる……とか?」
「しぶとく残っている盗賊山賊を屠りに行くのだろう? 私が出ずに誰が出る」
(……え? それを華雄が言うの?)
自分が賊まがいのことをして捕まったことなど、既に忘れてしまったのだろうか。
……いや、そういうことに協力してくれるのは大変ありがたいが。
「都の主が外に出るほどに暇になるなら、きっと恋殿もねねも退屈しているのです。だから仕方ないので暇潰しに付き合ってあげるのです」
「ん……一緒に居ないと守れない。だから、一緒」
「あー……恋ー? 一刀のことはウチが守るし、気ぃ使わんでもええんやで?」
ふるふると首が横に振られる。
「や、けどな、恋?」
同じやり取りが幾度か続いた。
「………」
「………」
「……一刀、ウチが知らん間に恋に手ぇ出したりしたん?」
「してないぞ!? いきなりなにを言い出すんだよ!!」
そりゃ俺もおかしいなって思うくらいに、最近の恋は俺と一緒に居たがるなとは思うけどさ! でも誓って言おう! なにもしていない!
落ち着いているように見せてはいるが、こっちはいつだって自分の中の獣と戦っているんだってば! ……押さえ切れずに華琳に告白とかしたけどさ。
「はー……あの恋がなぁ……
「……?」
言われた恋は、こてりと首を傾げるだけだ。
恋にとってはそれだけ重要なことだったんだろうか。
“一対一”で、偶然とは言え“自分が負ける”ということが。
俺にしてみれば本当に偶然で、一歩判断を間違えていれば飛んでいたであろう胴体を思うと身が凍る感覚しか沸いてこない。三国無双に勝てた喜びよりもむしろ、あるのは恐怖と戸惑いばっかりなのだ。
だってなぁ……事実とはいえ、女の子に私が守るって言われるのはちょっと寂しい。
この世界では、そんなことをどれだけ言おうが無駄だっていうのはもうわかってるけどさ、そうならないために鍛えたつもりが全然だった事実には、やっぱりごめんなさいと謝りたくなるのだ。
(もっと鍛えないとなぁ……)
肉体の成長は望めない。望めないから氣を高めて支える方法を選んだ。
肉体と違って、氣は毎日でも鍛えられるのはありがたいんだが……こればっかりはどういう鍛え方が自分に合っているのかを正確に掴みきれていない。
氣に関しての先生たちは無理をせずと仰るが、その“無理をせず”が自分にとってはもどかしくてたまらないのだ。……あるよな、そういう時って。今すぐ結果や成果が欲しいなんて、我が侭なことだっていうのはわかってるのに、どうしてもそれを止められない。
桃香に偉そうなことなんて言えないよ、ほんと。
「……とりあえず、話もここらへんにして歩こうか。いい加減視察の続きをしないと」
「んあ? あ、そかそか。せやったらウチも」
「いや待て。視察の前に、武器が出来ているかを見に───」
『そんなすぐに出来るかぁっ!!』
「む、むぅ……そうか……?」
歩き出した俺と霞に待ったをかける華雄に、二人してツッコミ。
ほんと武のことになるといろいろと抜ける人のようだ、華雄は。
そんな俺達の様子にやれやれといった感じに溜め息を吐くねねが、恋の手を引っ張ってこちらへと歩み寄るのを確認すると、連れ立って歩いた。
いい具合に分割できる部分がなかったのでこんな感じに。
いえ、そうしないと一話が5000文字、次が一万とか非常にバランスの悪い結果になったもので。
関係ないけどようやく花騎士で総合力が70になりました。
最近エノテラさんが可愛いです。
なんでか結月ゆかりを思い出すんだよなぁ……なんでだろ。
ここのところ虹が頻繁に出て、「あれ? 僕死ぬ?」 ってちょっと不吉に思うくらい虹。
でも例の如く被ったり被らなかったり。エノテラさんがダブってほっこりしたのは良し。
しかしカトレアさんはもう強化画面に“最大強化”と書かれてしまうほどに限界なわけでして。
えーと……虹色メダル、ありがとうございました。
あとはヒガンバナさん(世界花の巫女)が強化限界ですね。開花を待つばかりです。
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どうでもよくないから一言。
ミスミソウのあのパンツはなんとかなりませんか運営さん。