真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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81:三国連合/つまりはいつも通りの日常である①

127/そしてやっぱりいつも通り

 

 視察をする。

 あちらこちらへ歩き、祭りのための準備の進み具合を調べてみては、前日ならもう終わってるべきなんじゃないかとツッコミたくなるのだが……それは文化祭でも言えることだな。

 ああいうのはギリギリまでみんなとねばるところに楽しみがあったりする。

 ……無断で夜通し教室に立てこもったりするのはいけないことだが、許可を得てでもしてみたいと思うヤツはこれで案外多いものだ。

 面倒くさがりなヤツでも、そういうものには積極的だったりするんだよな。

 祭りの準備は、面倒ながらも案外楽しい。そういうものを共有する相手が居れば、だが。

 俺の場合は及川くらいかなぁ。手放しで馬鹿馬鹿しくも付き合える相手っていったら。

 

「……ところでさ。今さらだけど華琳たちは何処行ったんだろな」

 

 五人で歩く中で、ふと思ったことを言ってみる。

 それぞれの仕事に戻ったんじゃないかっていうのが普通の考えだが、じゃあ視察に戻ったんだろうか。……結構歩いたわりに、まだ遭遇したりもしていないのに?

 

「呉王に言い負かされて自室に戻った~、っちゅーんは……ないな、華琳に限って」

「ないよなぁ、華琳に限って」

 

 漏らす苦笑もほどほどに歩き、真面目に一通りの視察を済ませても発見することはなかった。そうなる頃には準備も大分終わっており、ところどころで見る各国の将は、ある意味でハイなまま作業を続けていた。それを見て、「ええなぁああ……」としみじみ言う霞は、やっぱり祭りが好きなようであり……「手伝ってきたら?」と言ってみても、「仕事取るわけにもいかへんやろ……」と寂しそうに言っていた。

 視察の過程で翠と蒲公英とももう一度会った。

 なにか手伝えることはないかと試しに訊いてみても、自分たちももう終わる頃だからと断られる。仕事っていうのは探している時には見つからないものらしい。……俺は部屋に戻ればまだまだあるのにな。悲しいなぁ。

 

「霞、なんだったら俺の仕事の手伝い───」

「祭りと関係ないんやったらやりたない」

「だと思ったよ……」

 

 返事は予想できていたとも。だから寂しくなんてないぞ?

 

「まあ、今仕事を見つけても明日までに終わるものがあるかって言ったら……」

「そんなものはないのです」

「だよなぁ……」

 

 話し合ったり歩き回ったりで、もういい時間になっている頃だ。視察が終わってしまえば特にやることもなかったので、武舞台の端に座りながらの話も軽い勢いをつけていた。

 時計がないのって不便ではあるけど、空の在り方で大体の時間がわかってくるのがこう……時々だけど面白いと感じる。そんな感覚を、いつか天に戻っても使えるだろうかと考えてみて、きっとすぐに時計に頼るであろう自分が浮かんでくる。

 つくづく人って便利さに勝てない生き物だよな。

 

「はぁ~あ……結局最終日まで仕事三昧か……。自分からノッたとはいえ、相手がいないのに律儀に最後まで視察する俺って……」

「せやけど途中で抜けるのも嫌やったんやろ?」

「そうなんだよ。相手が華琳だし、途中でサボってたとか思われたらさ……まあ、それ以前に街の様子とかも見たかったっていうのが一番の理由だな」

「あっはっはぁ、一刀はよぉサボるのに、やり始めると徹底的やもんなぁ」

「ああほら、掃除は始めるまでが面倒だけど、始めたら徹底的にってやつと一緒だと思う」

 

 “どうせやり始めたなら”って思えるなら、まだ戦えるって気分で。

 せっかく動いたのに半端にするのってもったいないし。

 ……と、ここで今まで特に喋らずにいた華雄が、もじもじしながら口を開いた。

 

「あ、あぁ、その……ところでだが。そろそろ武器が出来ている頃では───」

「華雄~? 今日はもう諦めたほうがええで? 武器が気になるんはわかるけど、というかウチも一緒やけど、こればっかりはしゃーないわ」

「むうう……!」

 

 武器のことがよっぽど気にかかるようで、落ち着きがない。

 なんだかんだで霞や恋やねねが楽しむ中で一人だけ、ソワソワしたりしていた華雄だったんだが……やっぱり武器のことが気になっていたのか。

 

「やはりこうなったら私の金剛爆斧で……!」

「あほぉっ! ホンモンはアカン言うとるやろっ!」

「くぅっ……明日に控えた戦を前に、己の腕を磨くことすら出来ぬとは……!」

「どこの修行僧だよ」

 

 喋り方がどことなく武士っぽいこともあって、華雄への印象に“武者修行者”が追加されたのでとりあえずツッコミ。

 妙に女性らしくもじもじしてるなとか思ってたらこのザマです。

 やっぱり武に生きた者としてはこだわりがあるんだろうなぁ。

 霞だって飛龍偃月刀のことになると人が……変わってはいなかったものの、真桜との話し合いもヒートアップしてたしね。装飾ひとつをとってもこれじゃだめだあれがいいと……まあ、わからないでもないんだ。ただどうして俺は、そういう状況にばかり遭遇するのかなぁと時折に考える。

 気づいた時にはなにかしらに巻き込まれていて、後の処理の大体を任されるからたまったもんじゃない……って、サボってても怒られるだけで見逃されてたのは、そういう将たちのココロのフォローのため……とか?

 

(嬉しいやら悲しいやら……)

 

 サボらず真面目にしてたらどうなってたのかしらと、そう思わずにはいられなかった。

 そうして、世話話主体の話し合いや考え事が終わる頃には空もいい感じに暗さを帯びてきて、その場で解散というカタチになった。

 俺はといえば……やっぱり特にやることもなく、解散したままの姿勢で武舞台の脇に座っていた。

 部屋に戻れば仕事はあるとは言ったものの、今日は休みであったにも係わらず視察をしたから……まあ、いいよな。部屋に戻ったら絶対にやらなきゃいけないってわけでもないが、戻るって気分でもない。

 

「はぁ~あ……」

 

 結局華琳とはあれから一度も会えなかった。

 デートみたいな視察の筈がいろいろと食い違い、“察しなさい”で閉じられた。

 察しろとは言うけど、間違った察し方したら怒るくせに。

 好きって言うくらいいいじゃないか……想像できないけど、いいじゃないか。

 俺が軽く言いすぎなんだろか。あれでも結構恥ずかしさに堪えながら言ったんだけどな。

 

「……好きって言うのは控えようか。言葉の重みを大切にしないから、華琳も察しなさいなんて言葉で済ませるのかもしれないし」

 

 よし、そうしよう。

 とりあえずでも結論を出してみれば、少しだけ軽くなる重かった我がココロ。

 そんなささやかに安堵しつつ、立ち上がっ───たところで、

 

「あ、おっ兄っ様ぁ~~っ♪」

「へっ? あっ、かっ───北郷っ!?」

「あれ? 蒲公英に……翠?」

 

 蒲公英と翠が、丁度武舞台近くを通った。

 俺を発見するや天へと伸ばした手を振りながら駆けてくる蒲公英と、逆に顔を赤くして視線をあちらこちらへと飛ばす翠。

 さっきもそう感じたけど……翠の挙動が少しおかしい。

 俺、なにかしたっけ?

 あとまた“一刀”って言おうとして“北郷”って呼ばれたような……?

 

「二人とも、もう仕事は終わったのか?」

「えへへぇ~、ちょっと本気を出せばよゆーだよ」

「だったら抜け出さずに、さっさと終わらせてから遊べばよかったのに」

「お兄様ってばわかってないなぁ。遊びっていうのはその時その時が重要で、あとになったらべつに楽しくもなんともないってことばっかりなんだよ?」

「あ、いや、それはわかる。あれだよな。話の最中に意見しようとして、発言はあとにしてくださいって言われて、最後まで聞いてみたら……」

「もう意見できる流れじゃなかったー、ってねー?」

「ははっ、そうそうっ、それだっ」

 

 同じ考えを持っていたのが地味に嬉しくて、笑いながら頭上でウェーイと手を叩き合わせた。

 

「あれ? お姉様ー? なんでそんな離れたとこに立ってるの?」

「うえっ!? あ、いやっ、ちょっとそのっ……なななんでもないっ!」

「………」

「………」

 

 呼ばれてこちらを見た翠と目が合った……んだが、感心する速度で逸らされた。

 待て待て待て、今回ばっかりは、っていうか、今回も俺、なにもやってないよな?

 毎度毎度知らないところから謎のプレッシャーがかかって、心臓によろしくない。

 

「蒲公英……なにか知ってるか?」

「お姉様のこと? んー……そうだなぁ。お姉様が夜中こっそり、お兄様の名ま───」

「うわぁああああああーっ!! うわっ! うわぁああああーっ!! ばばば馬鹿っ! なに言い出してるんだよっ!!」

「うぉうっ!?」

 

 蒲公英の発言に気になることでもあったのか、離れた位置に立っていた翠がこれまた感心する速度で接近。叫ぶとともに蒲公英の口を塞いで荒い息を吐いた。

 

「……す、翠?」

「なんでもないっ! なんでもないからっ! ~っ……蒲公英ぉおお……!!」

「ぷはっ……やっぱりお兄様のことで悩んでたんだ。まあそうだよねー、じゃなきゃ、夜中寝台の上でお兄様の名前を呼ぶ練習なんてふむぐっ!?」

「だだだだから余計なこと言うなって言ってるだろぉっ!? あとなんでお前がそんなこと知ってるんだよ!!」

「むぐむぐ……ぷはっ、だって同じ部屋だし、眠れそうかなーと思ったらなんかぶつぶつ聞こえてくるし」

「○※★×◆▼~っ!! わわわ忘れろぉっ! 今すぐ忘れろぉおっ!!」

 

 やあ、なにやら背を向けられた状態でぼそぼそ話されて、けれど翠ばかりが叫んでいる。

 こんな時、話の輪に入れない僕はどうしたらいいのでしょうか。

 

「え~? 忘れるくらいなら、お姉様がちゃーんとお兄様の名前を呼べるように助けてあげたほうがいいんじゃない? お姉様ってばこういうことで心の準備してると、一生かかっても言えそうにないし」

「なっ……で、出来るに決まってるだろっ!? あたしをなんだと思って───」

「じゃあ言ってみて? お兄様の顔を見ながら、きちんと」

「ああいいさやってやる! ……!」

「あれ?」

 

 あ、あれ……? なんで睨まれる!?

 やっぱり俺がなにかしたのか!? そして自覚がなかっただけ!?

 

「かっ……かかっ、かっ……かっ……!」

「か? …………からし?」

「違うっ!」

「ごめんなさいっ!?」

 

 適当な答えを出してみたら怒鳴られた!

 わ、訳がわからない! 俺はどうしたらいいんですか!? 俺がなにをしたと!?

 

「かかかっ……か───!」

 

 キーワードは“か”か……。

 か、か……?

 カーボナディウムコイル……は違うよな絶対。

 この時代、この時期、ここで俺を見て言う必要があるもの……(睨み付きで)……?

 

(か……甲斐性無し!? ───時期関係ねぇ!!)

 

 ああしかしなんてこと……!

 確かにそれは面と向かって言い辛くて、しかも睨む原因にもなりそうでいて……!

 

「あ、あれ? お兄様? なんで両手両膝ついて震えてるの?」

「い、いや……なんでもない……」

 

 でも普通に考えて、急にここで言うようなことじゃないよなぁ。

 涙出そうになったけど、とりあえず立ち上がって翠を見た。

 相変わらず「か……かかっ……」と言っている。

 閣下? 案山子? カカオ……はないな。買い物に付き合ってくれー……って、それなら睨む必要はないわけで。

 

「か、かずっ───」

「───!」

 

 かず!? かずと言ったか今!

 かず……そうか“おかず”! 今日の夕餉のおかずを賭けて勝負をしようと! だからこそのあの睨みとこの迫力! …………まあ冗談だけどさ。

 かず、か。もしかして名前を呼ぼうとしてくれているとか?

 ……いやいや、それはさすがにないか。

 呼び方も“北郷”に戻っちゃってるんだし、もっとべつのものだよな。

 そうだ、“かず”で考えるからヘンな勘違いしそうになるんだよ。

 ここは新たな考え方。

 か、かずっ……とか言ってるんだから、“かかず”と考えてもみるべきで…………

 

「……なぁ蒲公英。誰のライフが0なんだろうな」

「んえ? なんの話?」

 

 ああ、ライフが0なのは二作目のほうだった。いや、そうじゃなくて。

 この世界この時代でその人への話が出るわけがないだろ。

 じゃあ? …………やっぱり名前呼ぼうとしてくれてるんだろうか。

 自分が可愛いってことでさえ中々受け取ろうとしなかった翠だし、そういう部分に引っかかるなにかが人一倍あるとか。

 間違ってたら俺が恥掻くだけだし、それはそれで笑い話になるし。よし。

 

「そういえばさ、翠」

「ひうっ!? ななっ……なんだよっ!」

「いや、そんな怒るみたいに返事しなくても……あのさ、前から思ってたんだけど、料理を作る人の数と料理を食べる人の数と合わないのって、少し辛いと思わないか?」

「へ……? りょ、料理……?」

「えと、お兄様ー? あのね、今お姉様が───」

「なにに喩えてもそうだけど、なにかが数と合わないのは問題だよな」

「ま、まあ……そうは思うけど」

 

 急になんでこんな話になったのかわからないって顔で二人に見つめられる。

 戸惑いと疑問しか浮かんでいないそんな二人に、「じゃあ───」と続ける。

 

「その問題を解決できたら、結果はどうなるんだろ。翠、答えてみて?」

 

 わざとらしくウォッホンと咳払いをして、それが学校の授業の延長であるみたいに見せかける。予想通りに翠は授業の一環かなにかだと受け取ってくれたようで、

 

「“数と合う”、だろ? 急に何を言うかと思えば───」

「うん。じゃあその答えから“あう”を取ってみて」

「? ……数と?」

「あ」

「もう一度」

「な、なんなんだよ……数と、だろ?」

 

 蒲公英は答えの意味が解ったのか、「あ」と言ってからはニヤニヤしながら俺を見つめてきていた。そんなことに気づかないままに翠は「数と、数と」と口にして、

 

「ところで翠。さっき俺に向かって言おうとしてた言葉ってなに?」

「一刀。───かず…………★■※@▼●∀~っ!?」

 

 軽く誘導してみたらあっさりと出る答えに、さすがに少し恥ずかしくなった。

 だってさ、間違えてたら俺が恥掻くだけだったけど、まさか本当に俺の名前を呼ぼうとしてたなんて……う、うわ、顔がチリチリする……! 名前なんて呼ばれ慣れてる筈なのに、翠が言い辛そうにしていたのを知っているからか、妙にこう……じわじわと顔が熱くなっていくというか……!

 

「わおっ、お姉様ったら大胆っ!」

「ひぇっ、やっ、いやこれはちががががっ!!?」

「えと……俺の名前、言おうとしてくれてたんだ」

「ひぃうっ!? ちっ───」

「お姉様っ、素直素直っ」

「あう……~っ……そそそそうだよ悪いかっ! あたしが名前呼んだらまずいのかよ!」

「え? いや、嬉しいけど」

「■○※#☆@$~っ!?」

 

 怒り顔が一気に灼熱した。

 一歩二歩と後退り、自分で訊いてきたにも係わらず「う、うそだ……」とか言い出したりしている。いやちょっと待ちなさい、何故そうなりますか。

 

「翠?」

「あ、あたしに名前を呼ばれたくらいで嬉しいわけないだろ! 名前くらいで───」

「やー……お姉様? その名前くらいで顔を真っ赤にさせて、呼べなかったの誰?」

「はぅぐっ!? うぅううううるさいっ!! とにかくあたしは───」

「ん」

「…………………………」

 

 顔を真っ赤にし、視線を彷徨わせながらも叫ぼうとする彼女に、ハイと握手を求める。

 それだけで翠は取り乱した自分を落ち着かせ、ピタリと停止してからは顔だけを赤いままに、その手をきゅむと握ってきた。

 それがいつかしたことと同じ動作だったからだろう。

 可愛い、綺麗だって言葉に命を懸けるとまで言った俺を信じると言ってくれたときのように、翠は握った俺の手を握りながら、チラチラと俺の顔を見てくる。

 

「え? あれっ? うそっ! 暴れ出したお姉様が止まった!?」

「なだっ───だだ誰がいつ暴れたんだよ!」

「だってお姉様といえば恥ずかしがり始めたら自分の意見なんて変えずに誤解したまま逃げることなんて日常茶飯事ってくらいなのがお姉様なのに!」

「一息でどれだけおかしなこと言うんだよっ! 大体あたしは逃げ出したりなんかしてないだろ!」

「あ……でも俺、前は殴られたあとに逃げられたよな……?」

「はぐぅっ!?」

 

 人の事情は複雑にござる。服を引っ張り催促する蒲公英に、その時のことを軽く話してみせると、しゅんと落ち込みながら「あの時はその……悪かった」と謝ってくれる。

 そんな彼女に大丈夫だからと返しながらそんなことを思った。

 

「お姉様ぁ……さすがに学校のこととかを伝えにきてくれた人を殴るのはないよ……」

「しょ、しょうがないだろっ!? あの時は一刀がおかしなこと言うからっ!」

「あ、普通に名前で呼んだ。やっぱりお姉様に足りないのはその場の勢いなのかなぁ」

「え……───~っ!?」

「それで、お兄様? お姉様になんて言ったの? 殴って逃げるくらいだし、もしかしてとても口に出せないあんなことやそんなことを───」

「ん? ああ、“よろしく、翠”って言っただけだぞ?」

「───」

 

 ニヤニヤしていた蒲公英さんの顔が、ぴしりと引き攣った。

 そして身を正したのちに「暴力的な姉でごめんなさい……」と、遠い目をされたままに謝られた。

 

「いや、もう気にしてないから」

「お姉様……」

「うぁぅ…………ご、ごめん…………」

 

 あの時は痛いっていうよりも驚きのほうが大きかったし、そんな痛みもすっかりと消えている。謝ってもらえればそれで十分だし、謝られなくても気にはしてなかったからそれはそれでいいんだが。

 

「じゃあ、気を取り直して。二人はもう仕事は片付いたんだよな?」

「うん。お兄様こそこんなところでなにやってるの?」

「ちょっといろいろな決意を胸に秘めていたところ」

「決意? ……国中の女の人を手篭めにするとか?」

「そんな決意するかぁっ!! ……はぁっ……───その、“好き”とかそういう言葉を口にするのを控えようってさ」

 

 普段からあまり言うほうではなかったつもりだ。

 だからといって、そういう雰囲気の中でも口にする数を減らそうかと思った。

 きっと俺の言葉には重みが足りないんだ。

 華琳や雪蓮、祭さんや紫苑や桔梗の言葉には重みがある。

 これから都に立つ自分の言葉が重さもなにもないままじゃ、きっとこの先よろしくない。

 だから俺は───重い男になってみたい! ……太るとかじゃなくてね?

 

「えー……? 好きって言ってもらえないんじゃ、そういう雰囲気になっても嬉しくないんじゃないかなぁ」

「や、俺も言われれば嬉しいし、言ってもらえたら嬉しいんだろうなって思ってたんだけどな? なのに華琳は言ってくれないからなぁ……きっと俺の“好き”って言葉が軽いって感じるから返してくれないのかなって」

「お兄様の好きは軽いの?」

「か、軽くないっ! ~……つもり、なんだけどな……。でも……実際問題として、複数の人を愛した者としましては、軽いんじゃないかと言われれば何も言い返せないわけでして……」

「真剣じゃなかったとか───……は、あはは……? お、お兄様ぁ……? 目がとっても怖いよ……?」

「っとと、ごめん。言われてもしょうがないかもだけど、出来れば冗談でも……真剣じゃないとか言うのはやめてくれ」

 

 苦笑を漏らすが、困ったことに言われても当然なんだよなぁ……。

 他の人から見れば、一人だけを愛せない優柔不断男だし。

 いくら本人同士が真剣だっていっても、それをどう受け取るかは周囲次第だもんなぁ。

 

「んと、じゃあお姉様のこと好き?」

「好きだぞ? 大事な友達だ」

「じゃあたんぽぽのことは?」

「もちろん」

 

 訊かれたことに、当然だとばかりに頷いて返す。

 しかし蒲公英は「む~……」と不満そうに俺を見て、「“もちろん”じゃなくて、ちゃんと言ってよぅ」と口を尖らせた。

 ……なんかシャオの相手してるみたいだ。

 

「大事な友達だ」

「うん。それもだけど、もう片方も」

「え? あ、ああ、好きだ……ぞ?」

「疑問系じゃなくてもっとはっきり! ちゃんと目を見てっ!」

「むっ……す、好きだぞっ」

「もー、友達に好きって言うのに、お兄様がそんなに恥ずかしがっててどうするのー? ほらほらぁ、もっともっとはっきり言おうよー」

「…………ええいくそっ! ……俺は! 翠のことも! 蒲公英のことも! 大好きだぁあーっ!!」

 

 二人の顔を交互に見たのち、はっきりと、怯むことなく言ってみせた。

 その大声は辺りに響き渡るほどのもので、話しているうちに工夫たちが帰っていたことを確認したあとでなくては、とてもとても出来ないことだったわけで。

 だからそのー……ポムと後ろから肩を叩かれて、振り向いた先に彼女が居た時には………正直、生きた心地がしなかった。

 

「それは初耳ね」

「キャーッ!?」

 

 魏王曹操である。

 無言のままに肩を叩いて振り向かせるなんて、普段では決してやらないことをおやりあそばれた我らが覇王は、口の端をヒクつかせながら背筋も凍るような笑みを僕にくれました。

 

「友達だと聞いていたつもりだったけれど、いつからそこまでの仲になったのかしら?」

「かっ……華琳……っ……!? いつから……!」

「そうね。あなたが“ええいくそっ”と表情を引き締めたところあたりからかしら」

「いやぁああーっ!?」

 

 なんでまたこういうタイミングで!!

 というか普通こういう場面って、漫画とかだと困ったタイミングで声を聞いて誤解して逃げ出したりとか、そういうのじゃないの!? それを、話を聞いた上で自分から問い詰めにいくってどれだけラブロマンスから離れてるんだこの状況!!

 ああもう頭が混乱してる! こんな不意打ちってありですか!?

 つか、もしかして蒲公英のやつ、後ろに華琳が居るのをわかってて言ったのか!? いやいやそもそも俺、叫ぶ前に辺りを見渡したんですが!? ……はっ!? ……ま、まさか……あの華琳が、俺の言葉を聞くためにわざわざ背後で気配殺してたとでも……いうのだろうか。

 

「ア、アノー、つかぬことをお訊きしますが。俺が周りの確認をした時は───」

「ここに居たわよ」

「え? …………見えなかった痛い!!」

 

 弁慶が泣いた。

 それは衝撃を受けた右足にシビレが入るような、とても感動的な蹴りだった。

 

「で? 一刀。あなたはこの二人が好きなの?」

「まず言っておくことがあるけど、現時点では友達として、だからな? もっとはっきり言ってくれって蒲公英が言うから叫んだんであって……」

「………」

 

 ジトリと睨んでくるが、嘘は言ってないからそのジト目を真っ直ぐに見つめ返した。

 それで納得してくれたのか、溜め息を吐きながらも「まあいいわ、良いことだもの」と言う。良いこと? ……ああ、支柱の話か。

 

「うわー……♪ お兄様って本当に魏のみんなが好きなんだねー」

 

 と、そんな珍しくも堂々とした俺の態度をそれこそ珍しく感じたのか、蒲公英が感心と驚きが混ざったような顔でそんなことを言う……が、もちろん否定する意味なんてないから、ハッキリキッパリ胸を張って返す。

 

「ああ。大好きだ」

「っ……」

 

 蒲公英の目を見ながらの言葉に視界の隅の華琳が少し肩を弾かせたように見えたが、視線を向けてみてもさっきのまま。……気の所為か。

 

「わおっ、お兄様が言い澱みもなしではっきり言った!」

「へぇ~……ははっ、普段からそれくらい、はっきりと物事を言えるようになったほうがいいんじゃないか?」

『それ、お姉様()にだけは言われたくない』

「なっ、なんでだよっ!」

 

 ともあれ視察も終わり、今日という日もそう長くも続かず終わる。

 気になって「ところで、華琳は今まで何処に居たんだ?」と訊いてみると、きちんと雪蓮との用事が済んだあとは視察を続けていたんだとか。

 ……会わなかったのはただの運の悪さだったことを知り、巡り合わせというものを少し恨んだ瞬間だった。


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