真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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82:三国連合/天下一品武道会第一回戦①

128/武闘舞踏不倒無逃

 

 ひょるるるるる…………どぉんがぁああああああああんっ!!

 

「ぉおわぁあああああっ!?」

「あ、あー……こらあかん……ちいっとばかし火薬の量間違えてもーた……」

 

 お祭り当日。

 静かな空に、大きな爆煙が広がった。

 もちろん花火代わりにするつもりだったのだが、そもそもが真桜が桔梗の豪天砲の弾薬を参考に作ったものだ。少しの匙加減で大爆発もするし、綺麗に爆発したりもしたのだろうが……今回は前者だった。

 空中への射出自体はいつかの部隊演習で使った“隊を分裂させるための射出型狼煙”を改良したもので済ませ、そこに弾薬を乗せて空へと飛ばした結果が、あの大爆発である。

 空気振動でかつてない感覚を肌で感じた俺達だったが、むしろその振動によって、祭りという名の戦を前にしたみんなは咆哮。特に春蘭や季衣や霞、鈴々や焔耶や猪々子、雪蓮やシャオや祭さんは気力充実とばかりに思い切り声を張り上げていた。

 

「あ、あのなぁ……事前にもうちょっと調べておくとかしとくべきだろ……」

「や、きちんとしたで? 同じ量で作ったもんが一日経ったら成長してた~みたいな状況なんよ、これ……」

「嫌な成長だなおい……」

 

 火薬に使った硝石等が乾燥とかの影響で変化したのかとか、細かなことを調べようとする真桜に抑えてもらい、これより三国連合による競い合い祭りを開催いたします。

 ちらりと見てみれば、武舞台の上の地和がマイク(妖術仕様)を使って司会をしている。

 

「宣誓っ! ちぃたちは各国の戦闘意欲に則り! 各国の戦術に沿った“正々堂々”で戦い続けることをここに誓いまぁああっす!」

『うぉおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!』

「ちぃと一緒に戦えるーっ!?」

『はわぁあああぁぁぁっ!!』

「羅馬に行きたいかーっ!!」

『ほわぁああああああーっ!!』

「えぶりばでぃせーい!!」

『地和ちゃん最高ーっ!!』

「らぶあんどぴーす!!」

『地和ちゃん最高ーっ!!』

 

 武舞台には当然観客席が用意されている。

 もちろん段差状になってるわけでもないから、後ろになればなるほど舞台の状況は解らないし見えなくもなるだろう。そこで地和の妖術なわけで。

 舞台上空を見れば、そこには大きく映し出された舞台の様子。

 妖術すげぇ。

 これって、地和が見ているものを映し出しているってことでいいんだろうか。

 ……あと、無理に英語っぽいこと言わなくていいぞ、地和。

 

「さぁ叫べ! 胸を熱くして楽しむことを楽しめー! 祭りとは楽しむことこそが全て! 楽しめない祭りになんの意味があろうかー!」

『おぉおおおおおおおっ!!』

「というわけで、いい感じに熱くなったところで解説者を紹介します。まずは魏にその噂ありと謳われた男! 知らぬ者はそうそう居ない! 魏の種馬こと北郷一刀だーっ!!」

「おいこらっ! もっとマシな二つ名とかないのかよ!!」

「あー聞こえません聞こえませーん」

 

 花火の打ち上げ場から戻ってくればこの扱い。

 これで本当に想われてるのかって、時々疑問に思える。

 今回も例に漏れずそんなことを考えつつ、解説者に用意された席へとストンと。

 そこには既に待っていた者が居て、

 

「次はさすらいの医者! 我に治せぬものは無し! 五斗米道継承者ぁっ!」

『違うっ! ゴッドヴェイドォォオオッ!! だっ!!』

 

 その人物は華佗だった。

 や、一緒に叫んでおいて、今さらではあるが。

 

「なんで一刀まで怒ってんのよ!」

「名前は大事だろ! 名前は正しく言うべきだ! 地和だって“ちーほう”じゃなくて“チワ”って言われたら嫌だろ!?」

「ああっ! 名は大事だ! そしてその方が格好いい!」

「そう! 格好いい!」

「……熱気にやられて暴走した解説者は無視しましょうね。では続けて大会規定をお報せします! 楽隊のみなさーん、盛り上がる音楽よろしくー!」

 

 楽隊が構えた楽器でもって音楽を奏でる。

 それは力強いもので、祭りの開始にはよく合っていた。

 そんな熱いBGMの中、俺と華佗は遠い目をしながらたった数秒前を振り返った。

 

「……なぁ北郷。俺は名前すら紹介されていないんだが」

「名前を呼ぶ前に、ゴッドヴェイドォオで話の腰折っちゃったからなぁ……」

 

 そう、華佗が名前の紹介すらされずに流されたのだ。

 しかしながら話は進み、規定が語られる。

 

「ひとーつ! 武道会において使用する武器は、刃を潰した模擬刀であること! 鈍器ばっかりを使ってる人は優勢この上ないですね! ひとーつ! 降参宣言、気絶、もしくは場外落下などで決着とす! ひとーつ! 戦うからには全力でいけ! ひとーつ! 嘘や策も武力であーる! 武略ってやつね! 戦場で“騙されて負けました”は言い訳にはならーん! ひとーつ! でも対戦者を殺めてしまった場合は打ち首とする! ひとーつ! 仕合が長時間続くようなら没収仕合とする! だから全力で戦え! 殺さない程度に殺す気でいけー! ひとーつ! 当然のことながら観客に被害が及ぶ行為も禁止とす! 被害が及んだら問答無用で敗北! ひとーつ! 文官の勝負において、知恵は武器だが直接攻撃は禁止とす! それがしたいなら武道会に参加しろー! ひとーつ! 種目ごとの最優秀者には既に用意してある各国からの褒美とともに、北郷一刀に好きなことを要求できる権利を得られるものとす! あ、でも死んでくださいとか消えてくださいは却下の方向で。……一人の軍師さんがあからさまに舌打ちをしましたが続けましょー!」

 

 おいちょっと? 猫耳フードさん?

 

「つか、俺になんでも要求できる権利ってなに!? 俺に断る権利は───」

「あるわけないでしょそんなの!」

「なんで俺が怒られてるんだよ! 普通怒るのこっちじゃない!?」

「ひとーつ! これを拒否した北郷一刀には、料理が苦手な者たちが作った料理の味見役をさせるものとす!」

「規定を捏造するなぁああっ! そんなの渡された書類には───あ、あれ?」

 

 用意された簡易解説席の上。

 そこにある書類に目を落とすと…………書いて……ある?

 

「ちなみにこれを考えたのは呉王さんで、各国の王がこれを認めてます」

「しぇぇええええええれぇえええええええん!!!!」

 

 ち、ちくしょうやられた!

 祭りだっていうのに華琳にちょっかい出してばっかりで、あんまり絡んでこないなと安心していたらこのザマだ!

 もう通っちゃったものは覆せないし、うだうだ言って大会の熱気を奪うわけにも! ぬううなんという周到な策! この北郷、まんまと騙されたわ! ……気づかなかっただけだね、うん。

 

「さあさ、解説者の一人が頭抱えて唸っているうちに進めちゃおう! えー、大会は三つに分けて行われます! まずは武! 武官の本領を発揮できる舞台! 言った通り、全力で戦うこと大前提ー! 嘘も武力と判断される今大会! 口でも全力を出して有利にことを運びましょう! 次に知! 文官が輝く舞台! 地味さはどうしてもでるだろーけどそこは盤面を見ながら、自分も次にどうするかを考えて緊張を盛り上げよーう!! 最後に総合! 武と知を合わせた様々で乗り切り、武、または知で遅れをとった点数を稼いじゃおう!」

『うおぉおおおーっ!!』

「総合にはそれぞれ、各国の将から提案されたもの! その中から選んだいくつかが競争内容となります! 練習することも許されなかったので、あくまで内容は公平であると信じましょう!」

『おぉおおおおおおおーっ!!』

「それでは開幕、宣誓、規定通達を終わります! よーっしそれじゃあ気合入れていくんだから、声を大にしていくわよーっ!? 三国総合主催! 三合一治天下一品武叡祭(さんごういっちてんかいっぴんぶえいさい)! はっじめぇええーっ!!」

『ほわぁあああーっ!! ほわっ! ほわぁああああーっ!!』

 

 観客である兵や民、大会には出ない武官文官が叫ぶ。

 腕がこのザマで何も出来ないなら、せめて俺も一緒に叫びたかったが……今叫んだら大変なことになるもんな。

 司会者および解説者には、小さな水晶がくっついたマイクが渡されている。

 だから叫んだりすればその音が拡大拡散状態となり、鼓膜を(つんざ)くのは想像に容易い。

 現に先ほど、雪蓮の名前を叫んだ時は……地和だけじゃなく、いろんな人達に睨まれました。はい。

 

「それでは早速武道会一回戦目! 組み合わせはこの二人! まず一人目! その武、もはや語る必要無し! 三国無双、呂奉先だぁーっ!!」

「………」

 

 名を呼ばれ、武舞台の奥の控え室という名の建物から現れたのは、まさかの恋。

 案外、勝負にならないから出ないと思ってたのに……。

 

「対する相手は……ていうかそもそも誰が当たっても散々な結果になりそ……」

「そういうこと言わないっ!」

「ああもうわかってるってば。それじゃ気を取り直して。対するは! ……あ、ちなみに組み合わせはきちんと本人たちによるくじ引きで行なわれているので、誰と当たっても本人の運以外を恨むことは出来ませんからね? もちろん誰と戦うことになっているのかは、本人たちにも知らせていません! 名前を呼ばれたらすぐに出てきましょう! はい! というわけで対するは李曼成選手ー!」

 

 ……わあ。

 奥のほうから「いやぁああーっ!?」って泣き声が聞こえた。

 つーか参加してたのか、真桜……。

 

「さーあもういろいろと覚悟して、ちゃきちゃき出てきちゃってくださーい!? 出てこないんだったら不戦敗になりますよー!? そんなことになったら敵前逃亡とみなされ、我らが覇王様になにをされるかっ!」

 

 地和がそんな想像に容易いことを言った矢先、武舞台の出入り口の奥から慌てて出てくる真桜さん。螺旋槍をしっかと握り、ズチャッと恋の前に立つその顔は───! …………たぱーと流れる涙で濡れていた。

 

「さてさてそれじゃあ対戦者が揃ったところで! 銅鑼係さーん!? お願いねー! ───第一仕合! はじめぇえええーぃっ!!」

 

 ゴワァーンッ!! ……地和の掛け声とともに銅鑼が強打され、場を揺るがす音の衝撃が響く。と同時に真桜は螺旋槍に氣を込めて高速回転させ、恋は───

 

「最初から……っ……全力───!!」

「え? うえぇっ!?」

 

 結構な距離を離れていたにも係わらず、地面を蹴り弾くとたった一歩で間合いを詰め、片腕で振るう模造方天画戟が螺旋槍ごと真桜を吹き飛ばした。

 慌てて螺旋槍を盾にしたのがよかったのか、吹き飛んだ真桜はそれはもう豪快に場外に吹き飛んだが、まあその……一命は取り留めた。壁に盛大に激突して、目を回して気絶してるし、模造螺旋槍は無惨な姿だが。

 

「……地和、司会司会」

「…………うぇっ!? あっ、こ、これは驚きだーっ! あまりの出来事に呆然としてしまいましたっ! 一撃! 僅か一撃! それも開始からほんの僅かな時間しか経っていませんっ! しかしこれが仕合! これこそが仕合! 第一仕合、呂奉先選手の勝利ですっ!」

『……………』

 

 呆然と固まっていた地和に声をかけて、地和も勝利者宣言をしたのだが……観客は固まったままだ。そりゃそうだ、いくらなんでも圧倒的すぎる。

 

(さ、さすが武力100……武器を破壊してなお相手を吹き飛ばすって……)

 

 月と詠が介抱してくれている真桜をちらりと見る。むしろその傍に無惨に転がるカタマリを。

 

(あの時、衝撃吸収してすぐに返さなかったら、俺も左腕どころか全身がああなってたんだよなぁ……硬いからこそ、へしゃげるだけで済んだんであって、人体のような柔らかいものが三国無双の一撃を受ければ……)

 

 背筋が凍る思いが再来した。

 そんな俺の心内など知らんのだろう、恋は戟を両手で胸に抱くような格好でこちらをちらちらと見てくる。……エ、エェト、ナンデショウ。褒めてあげればよいのでせうか。

 あれが先ほど、人間を武器ごと吹き飛ばして見せた人なわけですが、このギャップはどうしたことか。なにやら見つめられると頭を撫でなくてはいけない義務感に駆られるような……!

 

「さーさーそれでは次にいっちゃおう!」

 

 と、よくわからない衝動に誘われるままに走り出しそうになる俺だったが、地和の言葉に自分を止めることが出来た。そうそう、解説者が持ち場を離れちゃいけないだろ。つーか今の戦いに関しての解説を要求されなかったんですが……ああ、まあうん、すごい速さで近付いてすごい力で吹き飛ばした、としか言いようがないもんなぁ。むしろ槍を回転させることしか出来なかった真桜の傷に、塩を塗るような行為にしかならないだろうし。

 

「第二仕合! 武力90対武力87の戦い! まずは頭の中まで戦でいっぱい! 華雄選手だぁーっ!!」

「我が斧に断てぬもの無しッッ!」

「あ、ちなみに。自分を負かした男の嫁になるそうなので、自分に自信のある人は是非とも挑戦してみよう! ───対するは! 蜀に立つ耳年増! ちっちゃな体に大きな欲望! 馬伯瞻(はくせん)選手だぁーっ!!」

「なんかたんぽぽの紹介ひどくない!?」

「でもあんたの従姉さん、あちらで腕を組みながらうんうん頷いてるけど?」

「ちょっとお姉様ー!?」

 

 観客がドッと沸く。

 そんな愉快劇場を前に、蒲公英は顔を真っ赤にしたまま、手に持つ槍……影閃を構えた。

 一方の華雄は、たぶんホヤホヤ(出来たて)の斧を嬉しそうな顔でルフォンと振り回し、その石突きで武舞台を叩く。門番が門前で通せんぼするかのような威圧感ある構えだ。

 でも顔は緩んでる。武器が出来たのが、間に合ったのがそんなに嬉しいのか、華雄。

 

「では始めましょう! 第二仕合! はっじめーっ!!」

 

 高鳴る銅鑼。

 同時に駆けたのは華雄。

 蒲公英はそれを受け止めるつもりなのか重心を低く構え、接近とともに振り下ろされた爆斧の一撃を……斜に構えた槍で地面へと逸らし、その構えをそのまま攻撃へと転ずる。

 

「えいやぁっ!」

「甘い!」

「えっ? ふわぁっ!!」

 

 しかしながら、華雄はその蒲公英の攻撃に斧を端を乗せるとともに斧を振り上げ、それをそのまま攻撃に転じさせる。が、咄嗟に後方へと足を弾かせることでそれを避けてみせる蒲公英。

 

「うわー……そんな重そうなの持ってるくせに、戻しが早いって……これだから脳筋は」

「フッ、脳筋がどうした。己が鍛えたものを見せ付けてなにが(あく)か! 何が武か! 一点を極めんとすること即ち武の昇華! 文を犠牲にした結果がそれだというのなら、私は武こそを誇り、文に対する侮辱など切り捨てよう!!」

 

 言って、金剛爆斧を振るう華雄の目つきは鋭いまま。

 怒りがあるわけではなく、ただただ戦を楽しむ者の目をしている。

 

「聞きましたでしょーかみなさん! 武を誇れるなら馬鹿でいいという華雄選手の言葉! 素晴らしいと言っていいのか判断に悩みますが、強ければそれでいいのだという構え方はきっと素晴らしい!」

「だから大声でそういうこと言うなって言ってるだろー!? 誰も馬鹿でいいとか言ってないだろーが!」

「えー? ちぃにはそうとしか聞こえなかったけど? じゃあ一刀はどう聞こえたのよ」

「え? 俺? ……普通に“武こそが我が誇り”ってことだろ?」

「でもそれって文に関することは聞かないってことじゃない。つまり馬鹿───」

「はいちょっと待った。……司会者さん。魏武の大剣様の前で同じことが言えますか?」

「……あ……なんかすごく納得できた。あと言えない」

 

 言ったら“なんだとぅ!?”から始まる言った覚えのない言葉を放ちつつ、襲い掛かられるであろう未来が容易に想像できる。

 でも脳筋だって一方を極めんとした結果なんだから、それでいいんだと思うぞ?

 どっちも中途半端で何も出来ないよりかはよっぽどさ。

 前にこの世界に降りた俺がそうだったんだ、説得力は満点さ! ……悲しいけど。

 でも、広く浅くも悪くない。人を支えるって意味で、これほど頼りになる人はそうそう居ないぞぅ? 多才って素晴らしいことさ。

 

「さあさあそんなことを言っている間に、舞台の上では激しい攻防が繰り広げられております! 素早く動く馬岱選手に対し、豪快に動く華雄選手! この戦い方をどう見ますか、華佗のおじさま!」

「ああ。一言で武とは言っても、その在り方は様々だ。力任せだけでは、相手に振り回されるままに終わることもよくある。馬岱は相手の動きをよく見て立ち回っているようだが、華雄もまたよく見ている。そして俺はまだおじさんじゃない」

 

 華佗の言う通り、蒲公英も華雄も相手の動きに相当に注意して動いている。

 特に華雄だ。

 第三者として見るからこそわかるが、蒲公英が細かな動きの一つ一つで攻撃を誘っても、それに乗らずにどんと構えている。逆に蒲公英のほうがしびれを切らして攻撃に転じるのだが、そこを突かれて慌てて防ぐ、といったことがたった今起こった。

 

「馬岱は大勢に見られていることを意識しすぎている。この大歓声が自分に向けられているのだと考えれば、それもわからないでもないが……冷静にならなければ押し切られ、負けるだけだろう」

「あ……なるほど、蒲公英らしいかも」

 

 いいところを見せようと張り切るのは悪いことじゃないだろうが、そういう時ってポカをやらかしやすいんだよな。というか……俺が出たとしたら、もっと緊張してダメダメだっただろうなぁ。

 蒲公英の場合、自分の鍛錬を人に見せようとはしないイメージがある。影で努力して実力だけ表でって感じだな。だから大勢の前での力の誇示には慣れていないのかもしれない。

 

「うぅうっ……あの脳筋みたいに、誘えば簡単に引っかかると思ってたのにっ……!」

「フフフハハッ! 私をそんじょそこらの脳筋と同列に見るとは愚かなっ!」

 

 でも、華雄もあれで、結構流されやすいというか……冷静じゃないんだよなぁ。勢いづくと止まらないというか、自分が勝っている状況になると勝つことしか頭に入らなくなる。

 案外泥仕合になるのかと心配してしまう状況の中、それでも二人の攻防は素早く、そして力強いままに続く。一撃が一撃を弾く音はよく響き、そんな音が高鳴る度に観客は沸き、息を飲む。

 それは当然の反応だろう。

 兵は何度か見たことがあるだろうが、民がそれを見るのは基本的に初めてだ。

 むしろ兵であっても、こうしてまじまじと将同士の対決を見ることなど稀だ。

 今までの会合の中、どんなことがあったのかは詳しいところまでは知らないが、どちらにしろ何度も見れるほど安いものじゃない。

 今も華雄の剛撃が蒲公英の槍を強く弾いた。それだけで、見ている側にも緊張が走る。

 

「ふわぁっ!? ~っ……っつぅう……!」

「ふははっ! どうした! 動きが鈍くなってきているぞっ!」

「そう見せてるだけだってばっ! このっ!」

 

 縦の一撃を防ぐ蒲公英は、その威力に歯を食い縛って耐えていた。

 返す一撃は容易く逸らされ、再び一撃を返されては焦りを顔に浮かべてゆく。

 

「おーっとこれはどうしたことかーっ! 見る間に馬岱選手の動きが鈍くなっていっています! 解説者の華佗さん、これはいったい!?」

「ああ……上手いな。相手の攻撃に合わせ、その攻撃を己の剛撃で弾く。そうすることで避けることを許さず、確実に相手の手を痺れさせていっている。己が振れば馬岱はただ避けるだけだが、相手の攻撃に合わせれば避けるもなにもない。だがこれは相当な反射神経と腕力が無ければ出来ないことだ」

「おおお……実は凄かったんですね華雄選手!」

「実は、とか言わない」

 

 汜水関では愛紗と当たってなければまだ……とも思うし、そもそも普通に強いって。

 むしろ数多のゲームに出てくる華雄は、おかしなくらい強いほうだろう。

 いや、ゲームは関係ないけどさ。

 

「ふっ!」

「うあっ!?」

 

 華雄が詰める。

 蒲公英は下がりながらも一撃を受け止め、しかしその一撃こそが影閃を握る手を痺れさせ、体勢をも崩させる。

 だが足までが痺れたわけでもないと、蒲公英はさらに距離を取るが……すぐ後ろは既に場外すれすれ。そのことに気づき、反射で自分の足元を見下ろしてしまった瞬間だった。

 華雄が地を蹴り、一気に間合いを殺し、放つは横薙ぎの一閃。

 右にも左にも避けられず、受け止めれば落ち、堪えようとしたところで痺れた腕でどこまで保つか。そう考えた頃には───

 

「待ってましたぁっ!」

「なにっ!?」

 

 蒲公英は攻撃を受け止めるのでも左右に避けるのでもなく、地面に槍を突き立て、それを台にするように自分の体を宙に逃がした。

 当然、振り切られた爆斧がその槍の柄を撃ちつけるが、その頃には蒲公英の体は場外の傍から離れている。

 さらに言えば、入れ替わるように場外間際で焦りを見せる華雄目掛け、着地と同時に一気に詰めに入った。といっても突き落とすだけで勝負はつくのだが───

 

「甘い!」

「ふえっ……!?」

 

 トドメとばかりに突き出した影閃。

 しかし華雄はそれを振り向きざまに手で掴み、握った柄に渾身を込めて……なんと片手で蒲公英ごと持ち上げてみせたのだ。

 

「う、えっ!? えぇええええええっ!!? うわっ! わぁああっ! ちょっと待っ」

「っ───せぇええええいっ!!」

「ひぃやぁあああああああああっ!? けぴゅうっ!?」

 

 そのままの勢いで、場外へと蒲公英を叩きつけた。

 途端に、大地が揺れんほどの大歓声。

 

「すンごぉおおおいっ! 武器と武器との勝負かと思いきや、まさかのそれこそ“武”の勝利! 相手の武器を掴んで投げ飛ばすなんて普通は思いつきませんが、確かにこれぞ武! 第二仕合、華雄選手の勝利です!!」

『はわぁあああああああああああああーっ!!』

 

 割れんばかりの歓声の中、華雄はフッと笑い、その歓声に応えている。

 観客たちにしても、“華雄の負けかな”と思った矢先のアレだ。声もあげたくなる。

 

「解説者のお二人さん、今の戦いをどう見ますかっ?」

「武の勝利だな」

「武の勝利……だよなぁ」

「はいっ、まったく参考になりませんが、ちぃもそうとしか言えないのでこれにて終了! 勝者の華雄さん、なにか一言!」

「フッ……我が斧に開けぬ道は無し!」

「や、それなら斧で勝ちなさいよ……というわけで第二仕合しゅーりょーっ! ちゃっちゃと次にいっちゃいましょう!」

『うおぉおおおおおおおおおーっ!!!』

 

 武の勝利で終わった第二仕合。

 勝者は控え室へ、敗者は……失神してるのか、運ばれていった。

 そりゃ、あの位置から地面へ、顔面からびったぁーんだもんな、失神くらいする。

 


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