真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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82:三国連合/天下一品武道会第一回戦③

「さぁて熱い友情を確かめ合ったところで! 第五仕合の選手入場! まずは青竜の方角! 背はちっこいけど速さが光る! 呉の隠密少女、周幼平選手!!」

「え……? あ、あの。速さって光るものなのでしょうか……?」

「対するは! 白虎の方角よりまたも力自慢が登場! これぞ大剣! でもこれってほんとに斬れるのかー!? 文醜選手っ、入場ーっ!!」

「っへへー、斬れるぜ~っ? まあぶっ潰すほうが多いけどなっ」

 

 呉より明命、蜀より猪々子。

 それぞれが武器を構え、開始の合図を待った。

 明命は体勢を低くし、背にある刀、魂切を構え。

 猪々子は両手で塊のような大剣、大剣のような塊を持ち、最初から斬り潰すつもりで力を溜めている。……つか、おーい猪々子さーん? 相手殺したら斬首だぞー?

 

「それでは第五仕合! はっじめーっ!!」

『っ!!』

 

 明命が走り、それに合わせて猪々子が一気に斬山刀を振るう。

 目測違わず、目に見える明命を姿を確実に捉えている。

 ……筈、だったのだが。

 

「へっ……? あれっ!? 消え、ひえいっ!?」

「降参してください。動けば斬ります」

「う……あ……ま、まいったぁ……」

 

 気配も殺気も全てを消したと思えば、斬山刀を潜り抜けて猪々子の背後へ。

 あとは背後から魂切を猪々子の喉元に当て、隠していた殺気をぞろりと剥き出しにすれば、最高の脅迫の完成である。

 うわー……あれって俺に教えてくれた、気配を消す方法……だよな?

 上手いもんだなぁ、相手が自分の氣に集中している時が狙い目っていってたし、これ以上ないってくらいのタイミングだったわけだ。

 

「な、なにがなんだかわからないうちに決着がついてしまいましたーっ! というか目の前に居たのに剣を止めて、文醜選手はいったいなにがしたかったのでしょうかーっ!」

「う、うるせ~……っ! 武人にしか解らないことってのがあるんだーっ!」

 

 背後からの、体に纏わりつくような殺気がよっぽど怖かったのか、猪々子の声はなんとなく震えていた。わかるなぁあ……!! あれ、怖いよなぁ……!! 明命じゃないけど、俺も思春によくやられるからよくわかる……本当によくわかるよ……!

 でも、武人にしかわからないっていうのはちょっと違うと思う。

 あの、目の前に居た筈なのに見失う感覚は、対峙した者にしかわからないのだろう。

 目の前でやってもらったっていうのに見失うなんて異常だ。なのにそれをやってみせるんだから、明命はすごい。

 

「あっという間の決着! 第五仕合は周泰選手の勝利です! みんなそろそろ疲れてきたー? いいえまだまだです! 第六仕合を開始します! 白虎の方角! ちっこい体に桁を外れた武の力! 張翼徳選手の入場だぁーっ!!」

「うおーっ! なのだーっ!!」

『うおぉおおーっ!!』

「対するは玄武の方角よりこの人! やっぱりちっこい体に桁を外れた武の力! 許仲康(ちゅうこう)選手の入場です!」

「あーっ! なんでお前が対戦相手なんだよちびっ子ーっ!」

「それは鈴々の台詞なのだ! この春巻き!」

「なんだとーっ!? やるかこのぉっ!」

「なんなのだぁっ! やるのかーっ!?」

「むぅうーっ!!」

「うぅうーっ!!」

 

 ……率直な言葉をこの場に。子供の喧嘩である。

 よりにもよってこの二人か……観客や壁とかに被害が及ばなきゃいいけど。

 季衣はただでさえ怒ると周りを見なくなるし……流琉と戦ってると、知らずのうちに周囲の景色が破壊されているほどだ。きっと今回も嫌な意味で期待を裏切らないのだろう。

 もちろん鈴々も、何かに夢中になると周りが見えなくなる方だ。

 ……少し離れてようかな。解説席移動させてでも。

 

「あーはいはい、喧嘩は戦いで白黒つけてくださいねー。それでは第六仕合! ちびっ子対決、張飛対許緒を始めまーすっ!!」

「応なのだ!」

「いっくぞぉーっ!!」

 

 銅鑼が鳴る。

 それとともに、まずは季衣が剣玉式武具である岩打武反魔を発射。

 モーニングスターと呼ぶには明らかに棘付き玉がデカイそれは、真っ直ぐに鈴々へ向かい飛んでゆき、

 

「へへーん、こんなもの食らわないの───だっ!!」

 

 対する鈴々は、なんとそれを蛇矛で打ち返してみせた。

 ……いや、ボールとか柔らかいものならわかるぞ? それをお前、ある意味鉄球を打ち返すって……力技でなんとかなるものなのか?

 

「あーっ! ボクの武器になにするんだよっ!」

「打ち易いところに投げる春巻きが悪いのだ!」

「なにをーっ!?」

「なんなのだーっ!!」

 

 ……改めて言おう。子供の喧嘩である。

 でも破壊力は子供のソレとは比べ物にならないので、大変危険です。

 

「だったら打てないくらい思い切り投げてやる! せやぁあーっ!!」

「春巻きの投げるものなんて軽いのだ! うりゃりゃりゃりゃーっ!!」

 

 ……で、トゲボールでの野球が始まった。

 ゴンギンガンギンと、投げては打たれる岩打武反魔を見て、これってどうすれば決着なんだろうかと呆然と考える。

 お前ら……これってそういう戦いじゃないだろ? とツッコんでやりたいのだが、困ったことに二人が真剣なのだ。これはもう見守ってるしか───

 

「あっ!」

 

 ないのでは、と思った矢先に、鈴々が岩打武反魔を打ち返しに失敗した。

 打点がズレたのだろう。妙なところを打ったらしく、シビレたらしい手をぷらぷらと揺らしている。

 

「やーい! 打ち返せなかった~!」

「むーっ! 散々打ち返したんだから鈴々の勝ちなのだ!」

「なんだとーっ!? そんな勝負じゃないじゃないか!」

「だったらどういう勝負なのだ!」

「どういうって───」

「………」

「………」

『うりゃああああああーっ!!』

 

 そしてようやく始まる、将としての戦い。

 岩打武反魔と蛇矛がぶつかり合い、今度こそ緊張する戦いが繰り広げられる。

 接近されれば投擲武器である岩打武反魔が不利かとも思われたが、あれだけの大きさだ。盾にもなるし鈍器としての威力も十分とくるので、季衣はそれを利用して器用に立ち回っている。

 

「てやぁああっ!!」

「にゃーっ!!」

 

 蛇矛と鉄球の戦い。

 矛相手に鉄球って……とも思うのだが、これがまた結構いい戦いをしている。

 何かの拍子で距離が離れれば、そのまま鉄球を放って攻撃。

 弾かれて接近されても、その攻撃を鎖で受け止めたり、剣玉で言うところの剣の部分で受け止めたりで捌いてみせている。

 もちろん“あの”張翼徳相手に、鎖や柄程度で受け止めきれるかといったら、当然普通は無理だ。…………まあ、受ける相手の腕力が普通なら。

 

「むーっ! しぶといのだ!」

「それはボクの台詞だろーっ!? いい加減にしろちびっ子!」

「鈴々ちびっ子じゃないのだ!!」

「だったらボクだって春巻きじゃないぞぉっ!?」

『むむーっ!!』

 

 激しい攻防。なのに、口から放たれるのは子供の喧嘩そのものだった。

 緊張感があるのかないのか…………あるんだ、うんある。目で見る分には、ソワソワしてならないほどに危なっかしい攻防だ。だって二人とも思い切り振るってるんだもん。あの中心に行ってみてくれって言われたら、たとえ華琳の命令でも嫌だぞ。今度は体が千切れるどころか細切れにされるイメージさえ浮かぶ。

 

「両選手、言葉は子供なのに激しい攻防! 近寄ろうものなら粉微塵にされそうです! 大きく成長しても同じことをしていたら、いつかは喧嘩じゃ済まないことにもなりそーです! ていうかそこまで喧嘩ばっかだったら一刀からも呆れられそうだけどね」

『!!』

 

 あ。止まった。

 地和の言葉にビタァと止まった二人が、何故かこっちをジッと見つめてくる。

 ……えーと。手、でも振ったほうがいいのだろうか……?

 

「で? いつまでも喧嘩する女のことってどう思うの?」

「戦いの最中なのに、正面からそういうこと訊かない」

「にーちゃーん! 今このちびっ子倒すから、ボクのこと応援してねー!」

「お兄ちゃーん! 今この春巻きを倒すから、鈴々のこと応援するのだ!」

「お前べつに兄ちゃんと関係ないだろーっ!? それに兄ちゃんはボクの兄ちゃんなんだから、お兄ちゃんなんて呼ぶなー!」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだからお兄ちゃんなのだ! べつに春巻きに許してもらわなくても鈴々にとってお兄ちゃんならお兄ちゃんなのだ!」

「なにをーっ!?」

「なんなのだーっ!?」

「……ああもう」

 

 喧嘩がヒートアップした。

 もう武器捨てて取っ組み合いの喧嘩になっても、誰も違和感を覚えないくらいの子供の喧嘩である。あくまで口では。

 

「このこのこのこのーっ!!」

「うりゃりゃりゃりゃーっ!!」

 

 鉄球と蛇矛がぶつかり合う。

 弾いては弾きの猛攻同士が何度も衝突して、しかし二人とも意地があるのか、決して引こうとしない───はずだったのだが。季衣が投げた鉄球を鈴々が投げ掛けの内に左手で押さえ、右手に持った蛇矛を振るうという攻撃に移った。けれどそれは、鉄球を放した季衣の両手で構えられた鎖で防がれ、逆に隙を見せてしまうことになる。

 

「でやぁっ!」

「んぐぅっ!?」

 

 蛇矛を防いだままに繰り出した蹴りが鈴々の腹部を直撃。

 たまらずお腹を庇いながら下がる鈴々目掛け、今度はしっかりと構えて勢いをつけた季衣の手から、岩さえ軽々と破壊する岩打武反魔が投擲される。

 さすがに打ち返すために構える暇もなく、鈴々は両手で構えた蛇矛でそれを受け止めてみせるのだが、蹴りが埋まった場所が悪かったのか、足に力が入っていない。

 踏ん張ることも出来ず、武闘場を滑り、膝をつくことになった。

 

「へへんっ、どー……だっ!?」

 

 しかしそれでは終わらない。

 季衣が得意げに胸を張りながら岩打武反魔を引き戻した途端だ。

 鈴々が歯を食い縛り、地面を蹴り弾いて間合いを詰めにかかった。

 

「あっ、このっ!」

 

 引き戻される鉄球と、鈴々が駆ける速度はほぼ同じ。

 どれだけ速く走ればそこまで……とも思うが、そうだよな。この子らは十里くらい軽く走れる将だった。

 

「これでもっ……くらうのだぁあああああっ!!」

「っ───!」

 

 季衣の手に鉄球が納まるのとほぼ同時に、体を捻るように蛇矛を構えた鈴々が、走りながらにそれを振るう。

 当然季衣は手に納まったそれを盾にし、見事に攻撃を受け止めてみせたのだが───盾が鉄球であり、視界を塞いでしまったことが災いした。

 

「そんな単調な攻撃がいつまでも───えっ?」

 

 鉄球をどかしてみても、視界の先に鈴々は居ない。

 攻撃と同時に跳躍し、鉄球を打ちつけることで季衣の意識をそちらに集中させ……季衣がそれこそ“防ぐこと”に意識を集中させている間に、鈴々は季衣の背後に着地。

 その音に気づいた時にはもう遅い。

 鈴々は一気に間合いを詰め………まあその、なんだ。季衣を押し倒して……くすぐった。

 

「わひゃひゃひゃひゃひゃ!? うひゃっ! ちょっ! なななにすんだーっ!!」

「鈴々がお兄ちゃんに負けた時、こうされたのだ! だから同じことしたら簡単に捕まえられたのだ! さすがお兄ちゃんなのだ!」

 

 エェェエッ!!? ちょ、鈴々!? そういうことをこんな大勢の前でだなっ……!

 

「なんとーっ! 我らが魏の種馬は、他国の将を押し倒した挙句、くすぐって負かせたそうです! 平和的なのか大人げないのか! そこのところどうなのよ一刀!」

「だからわざわざ大声で言うなぁあああっ!!」

「おぉっと否定しません! これは後ほどきっちりと吐いてもらう必要がありそうです!」

「えぇえええっ!? ちょっと待て俺が何をしたぁあっ!!」

「他国の女を押し倒した」

「その事実だけを強調するのやめよう!? 武力行使が怖かった時期があって、平和的にって考えた結果だったんだって! あと人を指差しながらキッパリ言うな!」

 

 とか言い合っているうちに、くすぐられすぎた季衣がとうとうギブアップ宣言。

 子供の喧嘩で始まった戦いは、子供の喧嘩のままに幕を下ろしてしまったわけで……。

 

「おぉおっとそうこう言っている間に許緒選手降参です! またしても! 夏侯淵選手に続き、またしても一刀が教えた悪い知恵によって魏の精鋭が……!」

「なんかもう無理矢理俺が悪いように言ってないか!?」

「なるほど、武を用いずに平和的に相手を無力化……北郷らしい決着だな」

「華佗さん!? なんか今“俺らしい”って言われても、負けて悔しがってる季衣を見ると、心がとても痛いんですが!? あぁあああごめんな季衣! 俺が妙なこと鈴々に教えたからっ!」

 

 なんだかとても居た堪れない気持ちにさせられました。

 俺……解説者な筈なのに、なんでだろう……。

 

「さてさて残酷の決着ではありましたが、時間は待ってはくれません! 退場する両者に惜しみない拍手を! そして次なる仕合、第七仕合は───」

 

 ただ単に俺の困った顔が見たかっただけなのか、地和はそのまま司会を続ける。

 楽しそうでいいなぁくそう。いや、俺も楽しいけどさ。祭り自体は。

 なのに座って解説をするだけで、どんどんと立場が危うくなっていってるのは、本当になんでなんだろうなぁ……。

 

「青竜の方角! 現在の呉を急に背負わされた若き王! でっかいお尻と大きなお胸は血筋か!? 血筋なのかー!? 孫仲謀選手の入場!!」

「くぅっ……! これから戦う者の紹介がそれかっ! 立場というものを考えろっ!」

「ちぃには司会として場を盛り上げる使命があるのよっ! 続きまして白虎の方角! 普通だけれど広く浅く! 武器までもが普通の剣! 公孫伯珪選手!」

「ふ、普通のなにが悪いんだー! 広く浅くは悪いことじゃないぞー!?」

「もっともですが、一点を極めた人には一生勝てないという結論が未来で待ってます! さぁそれでは始めましょう! 第七仕合、はっじめーっ!!」

 

 銅鑼が鳴り、二人が駆ける。

 白蓮はまだなにか言いたげだったが、蓮華から向けられた覇気に表情を引き締め、正面からぶつかってゆく。その戦い方は、裂帛の気合こそはないものの、広く浅くの言葉通りに様々な立ち回り方を身に付けた、バランスのいい戦い方だった。

 力で来るのならこれをいなし、速さでくるのならしっかりと確実に防ぎ、相手が防ぐのならばそれを崩すように攻める。一廉の将から見れば“光るもの”こそないのだろうが、俺から見ればその戦い方は“綺麗”だった。

 ああいうのを極められた人が、きっと俺の世界では“達人”などと呼ばれるのだろう。

 ……もちろん、相手にそれが通用するレベルなら。

 

「見切った! はぁあああああっ!!」

「ぅえっ……!?」

 

 蓮華の動きを見て、次は速さでと構えた白蓮だったが───そこを突かれ、剣を弾き上げられてしまう。直後に喉に剣を突きつけられ、勝敗は決した。

 

「けっちゃぁあーくっ! 器用に立ち回っていた公孫選手でしたが、一瞬を突かれて敗北! 解説席のお二方! 今のをどう見ますか!? 力技!?」

「いや。今のは公孫賛が力を抜いた一瞬を突いて、孫権が攻めに入った結果だ。相手が自分の何処を見て、どう構えれば力を籠め、力を抜き、速さでくるのか。それを見極めなければ出来なかったであろう、見事な技だ」

「おぉおおお! なんだかわからないけど凄いぞ王様! というわけでこの第七仕合は孫仲謀選手の勝利です!」

『はわぁあああーっ!!』

 

 勝利宣言とともに会場が沸く。

 そんな怒号にも似た騒がしさの中で、俺は隣の華佗と一緒に、退場してゆく白蓮を見送る。

 

「でも、白蓮も随分と上手く立ち回ったよな。素直に驚いた」

「ああ。広く浅く。もしそれを広く深くに昇華できていたのなら、この戦い……どちらに転がったかわからない」

 

 自分の実力を出しきり、見切られるまではむしろ優勢に見えたほどだ。

 そんな彼女に惜しみない拍手を。

 


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