真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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82:三国連合/天下一品武道会第一回戦④

「それでは次の仕合です! 第八仕合! まずは青竜の方角! あなたが出ていいのか! いつでもどこでも勘で無茶する無邪気な元王様! 孫伯符選手ーっ!!」

「は~ぁ~い♪」

「対しまして白虎の方角! 馬のことなら彼女にお任せ! 焦って暴走照れると失言! 馬孟起選手! 入っ場っ!!」

「紹介がこれって……大勢の前で恥かかされてるだけじゃないか……?」

「さあさあ武力98同士の戦い! どうなるかはきっと立ち回り方次第! それでは第八仕合、はじめぇーいっ!!」

 

 ドワァアッシャァアアンと銅鑼が鳴り響く。

 駆けたのは雪蓮だけで、翠は槍を斜めに構えると停止。

 

「あら、なぁにぃっ!? まさか防ぐだけじゃ終わらないわよねぇっ!」

 

 初撃は雪蓮から。

 一撃目から相手を倒すつもりで振るわれたそれは、翠に触れるより先に弾かれる。

 

「わおっ」

 

 その槍捌きの速さに、雪蓮は嬉しそうににっこりと笑いながら距離を取る。

 しかし翠がそれを追うことはなく、再び同じ構えで身を鎮める。

 

「あれ? ちょっ───」

「しぃっ!」

「!?」

 

 そんな様子に雪蓮が調子を狂わされ、一歩踏み出した時だった。

 斜めだった槍が横真っ直ぐとなり、雪蓮目掛けて突き出された。

 しかしそれもまた勘か実力かで見切ったのか、スレスレで躱す。

 

「あっぶなぁ~……今のはさすがに驚いたわ……!」

「きちんと避けておいて、よく言う───なっ!」

 

 拍子を置いての連突。

 雪蓮はそれを避けたり弾いたり受け止めたりを繰り返す。

 時折に混ぜられる横薙ぎの一閃に関しても、まるで予測できていたかのように後方へと跳ぶことで回避。本当に、あの王様の勘はどうなってらっしゃるのか。

 

「せぃやぁっ!!」

「……っと。んふふ~? ざ~んねんっ♪」

 

 そのバックステップに合わせて突き出された槍も、雪蓮は身を捻ることで躱してみせる。……のだが、横に逸れただけなので、そのまま払いに移行された攻撃はまともにくらってた。

 

「いったぁー……っ! ちょっとー! 槍なら突きだけにしなさいよぅー!」

「無茶苦茶言うなっ!」

 

 ほんと無茶苦茶だ。

 けれどその一撃で雪蓮の様子は変わり、楽しむ構えから追い詰める構えへと変わった。

 それは虎が獲物を狙う様子にも似ていて、まるで、放たれる殺気が相手を包み逃がさないようにしているかのようだ。

 

「いいわね~、その速さ、その的確さ。ほんとはこの舞台で一刀と戦ってみたかったんだけど……ま、それは一刀が治ってからね」

「今戦ってる相手を置いて他のやつの話なんて、随分余裕なんだな」

「余裕ぶってなんかいないわ。これはただ───楽しみは多い方がいい、って話だもの!」

 

 雪蓮が詰める。

 殺気だだ漏れで、隠すこともせず。

 豹変したとさえ受け止められるほどの覇気と殺気を以って、翠目掛けて武器を振るう。

 翠はそれを、ひゅぅと息を吸い込むのと同時に捌く。

 振り下ろされれば長柄を利用して軌道を逸らし、突かれれば相手の獲物の長さを計算に入れた上で下がり、同時に槍を突き出す。

 それを躱されても当たっても次に取る行動は変わらず、舞台を蹴り弾いて前へと出た。

 攻守交代。

 流れるような立ち回りと、鋭く速い槍の一撃一撃が、雪蓮目掛けて放たれる。

 剣と槍ではどちらが強いか、なんてのはきっと槍だ。そう思っていたんだが、こうまで技の錬度が高いと中々難しい。

 

「あはははは! いい! すごくいいわ! うちは秀でた槍使いが居なかったから、こういう刺激ってとっても新鮮!!」

「うぇっ……!? 追い詰められてて笑うか普通!!」

「だって仕方ないじゃない、楽しいんだもん……ふふっ、あははははははは!!」

 

 あー……妙なスイッチ入った。

 雪蓮は笑い始めてからが怖くて、無口になってからは恐ろしい。

 無口になったら相手を仕留めることしか考えなくなるっぽいしなぁ。

 ……実際、その所為でひどい目に遭ったし。

 

「なぁあんたっ! 王なんかやってないで、将やってた方がよかったんじゃないかっ!?」

「あははっ!? むしろそうしてたわよっ!? 止める冥琳無視して突撃したりとかっ!」

「ほんっと滅茶苦茶だなぁ……!」

 

 翠の深い溜め息がこちらまで聞こえそうなくらい、目に見えて翠が疲れているようだった。当然戦いで疲れたのではなく、会話で疲れたのだろう。

 

「ほらほらほらぁっ! お喋りはいいからもっと! もっとやりましょ!? あははははははははっ!!」

「うあー……周瑜の苦労が目に浮かぶよ……。んじゃ、いっちょ本気出すかっ!」

「ふふっ……確認なんていらないわよー? 奇襲があったほうが心が震えるもの。強さよりも怖さよりも、私はきっとあの瞬間の心の震えがほしいのね」

 

 翠の刺突の速度がさらにあがる。

 突き、戻しの繰り返しだが、その動作のどれもが速い。

 だってのに雪蓮は笑いながらそれを避ける。

 

「そんなことが出来るわけがないって思ってた相手からの、身が凍るような一撃……。勘が働かなかったら骨の一つでも奪われてたんじゃないかって思うと、今でも震えるのよねー♪」

「なにが言いたいのか知らないけど、へらへら笑ってると怪我するぞ!」

「っと。あぁ大丈夫大丈夫、笑ってるのはあくまでこの戦いを楽しんでるからだもの」

 

 翠の攻撃が段々と雪蓮の体を掠めるようになってくる。

 本気と言うだけあって一撃ずつ速度が上がり、雪蓮もそれに気づいたのか、やっぱりどんどんと顔が楽しげに緩んでいく。緩んでいるのに、体裁きは精度を上げるばかりであり、翠が速くなれば雪蓮もまた速くなった。

 突けば弾き、振るえば下がり、隙を穿てるのならば蹴りだろうが拳だろうが容赦無く使い、しかしそれらの体術も鋭く鍛錬されたもののようで、見苦しさなどカケラもないから困ったもので……

 

「せいっ! はっ! でやぁっ!!」

「あははははっ!? そうそう! もっと楽しみましょう!?」

 

 言葉のわりに押されていても、雪蓮はどこまでも楽しそうだ。

 むしろ押される状況を楽しんでいる。劣勢かと思えば、隙穿ちの一撃を大きく弾いてみせると、途端に反撃に移ることで今度は翠が押される。

 力の差が離れていないとなると、見ているこっちまでソワソワする。

 解説役なのに、ろくに喋ることも出来ないくらいに動作の一つ一つが速いのだ。

 

「せやぁっ!」

「つっ───けふ……っ!?」

 

 けれど、とうとうそこに一撃が加えられる。

 刺すのではなく払われた槍が、雪蓮の腹部を強打した。

 

「! もらったぁっ!」

 

 好機とばかりに一気に詰めにかかる翠。

 突き出される槍は、真っ直ぐに雪蓮の体へと───

 

「……、───なぁっ!?」

「………」

 

 ……当たる前に、一瞬で持ち上げられた雪蓮の左手で掴まれた。

 刃の部分ではなく、長柄の部分を。

 

「どっ……どういう反応速度してるんだよっ! このっ! 離せっ!」

「はぁ……今のは少しヒヤッとしたかも。でもやっぱり違うのよねー……私自身は当たるって思ってたのに、体が勝手に反応したお陰で助かったーとかいう、そんな危機を味わいたいのよ。わかる?」

「わ、わかるわけないだろっ! そんなのっ!」

 

 雪蓮が話し始めるまで、もしかするとまた“あの”雪蓮さんが出てきたのかと思った。

 出てきたというか、殺戮モードに切り替わったというか。

 けれど、溜め息とともに殺気を散らすと、雪蓮は翠の槍を手放してもう一度構えた。

 

「いいわ。手癖とか結構わかったし、ここからは……私も出来る限り本気を出すわ」

「出来る限り……? どういうことだよそれ」

「うーん……ほら。自分じゃ出せない本気ってあるでしょ? 私の場合は戦いに夢中になりすぎたり、血を浴びたりすると理性が飛んじゃうことがあってね? たぶんその時が私の本気だと思うのよ」

 

 にこー、といつも通りの笑顔でとんでもないことをぬかす、元呉王さまがいらっしゃる。

 「あなたは“守るもの”があったほうが、強くなれる方だと思うけど? それと似たようなものじゃない?」と、ついでみたいに言葉を足しながら。

 

「自分で自分の本気が出せないのかよ」

「あっはは、そりゃ無理よ。“本気”っていうのはね、願って出せる程度のものなんかじゃないのよ? きっかけがあって理性が外れて、ようやく全力が出せるんだから。……だから、戦うなら今出せる本気で来てくれると嬉しいかなー♪ もちろん私も応えるし」

「……あんたの相手してると調子が狂いそうだよ」

「そ? ただ楽しみましょって言ってるだけじゃない。私だって、あの感覚が一刀しか出せないものだ~なんて思ってないし、一刀じゃなきゃ駄目だってわけでもないんだから」

「へ? ……北郷なのか? あんたの心を震わせたのって」

「ええそう、一刀よ。あんまりにも危なかったから、防衛本能っていうのかしら。まあそれが働いちゃってね。危うく殺しそうになっちゃったわ」

 

 ……? やあ、なにやら「あはははは」って笑ってる。さっきまでの殺伐とした空気はなく、笑い話をするように。翠はかなり疲れてる様子だけど、雪蓮は楽しそうだ。ぼそぼそと話しているからこっちまでは聞こえないが、どんなことを話してるんだろうな。

 

「恋には気に入られるし、戦闘狂にも気に入られるし、あいつは本当にいろいろなところで苦労してるんだな……」

「あ、失礼ねー。そんな状態にならなきゃ殺すつもりなんて起きないわよ。それに、一刀にはその時から、頭の中の私と戦い続けるようにって感じのことを言ってあるんだから」

「……暇さえあれば鍛錬をしてたのは、あんたが原因か」

「あれ? 一刀ってば私に言われた~とか言ってなかったの?」

「鍛錬はあくまで自分の意思でやってたんだよ。だからその、男にしては見所があるかな、とか……その……」

 

 ……ハテ。なんだかどんどんと、ほがらかな空気が構築されていってるのだが。

 これ、武闘大会だよな? 何故にあそこだけ明るい雰囲気に?

 なんて思っていた矢先に両者はバッと距離を取ると、互いに深呼吸。

 両者ともに、一度“フッ……”と笑顔を見せると、地を蹴り衝突した。

 

「面白いわよねっ! これだけ広い視界、三国の中だっていうのにっ! 誰かが誰かを知らなくてもっ! 王や将を知っているのはわかるけど、一人の男を知ってるなんてっ!」

 

 一撃一撃に言葉を乗せるが如く、笑いながらの撃が続く。

 翠はそれを避け、いなし、時に反撃を放ちながらも、口角を持ち上げて笑む。

 笑いながらに、お互いがお互いの隙を狙って身を弾かせ、追い詰め追い詰められを繰り返していた。……つまり、中々に決着はつかない。もたもたしているなんてことは無く、武闘場の上では今も激しい打ち合いが展開されている。

 剣で槍とあそこまで戦えるのも凄いけど、懐に入られても打ち返す翠もすごい。

 そんな状況に息を飲みつつも、司会としては言わなければいけないことを言う地和には、さらに感心した。

 

「あー……えっと、これはどうしたものでしょー……実力が似通っているとなかなか決着がつきません。解説のお二方ー? これはどうした方が負け、とかはありますかー?」

「恐らくは孫策の言う通りだろう。実力が拮抗しているのなら、自分の潜在能力を引き出せた方にこそ勝機が訪れる。そしてそれは、守りたいものを守るために力を発揮する馬超ではなく、戦いたいからこそ戦う孫策に訪れる可能性が高い」

「うわー……」

 

 華佗の言葉に、地和は“そんな人が王やってて、よく笑顔の国を目指せたなぁ”って言うかのような微妙な表情を見せた。

 だよなぁ。俺もあの殺気をぶつけられた時は、正直そう思った。

 

「せいぃっ!」

「きゃんっ! うわ……あっぶなぁ~……! 今のは危なかったわ……!」

「危なかった、って……! どうかしてるだろあんた! 勘がいいからってここまで避けられたの初めてだぞ!?」

「んー……王の資質?」

「んなっ……!? 資質だけで避けられてたまるかぁっ!!」

 

 叫ぶや繰り出される刺突シトツしとつ!

 しかし雪蓮は「や~ん怒っちゃやだ~♪」なんて笑いながらも、これを避けたり逸らしたり時には掠ったり。

 ……口調は軽いけど、結構焦ってるっぽい。

 それでも口角がどうしても持ち上がるのは、相手が強敵だからなんだろうね。

 

「おぉっとぉ!? ここで馬孟起選手の猛攻! 絶え間なく突き出される槍に、さすがの孫伯符選手も防戦一方かー!?」

「なんか、考えて戦ってる時にああいうこと言われると、腹立つわよねー」

「へっ! 実際防戦一方じゃないかっ! このままあたしが───」

「楽しみに茶々入れられることほど、腹が立つことはないって言ってるのよ」

 

 突き出される、剣での刺突。

 防戦一方だった雪蓮からの反撃に、翠はしかし冷静にこれを弾く。

 その反動を利用して足を突き出し蹴りを放つが、雪蓮はその足を軽く避けるとさらに肉迫。体を一本で支えている足を強く蹴り弾くと、バランスを崩した翠へと覆い被さるようにして剣を構えた。

 

「ね? 外からの声が入ると、自分の闘い方に集中できないでしょ? 調子に乗らず、槍だけで闘ってたら……あなたの勝ちだったのに」

「っ……くそっ。まいった、あたしの負けだ」

 

 言葉と同時に、握っていた槍を手放した。

 その時点で翠の敗北は確かなものとなり、地和が勝者宣言を叫ぶと……第八仕合は終了した。

 

「くっそぉお……! 次やる時は絶対に勝ってやる……!」

「ええ。でも、次はこういう場じゃなくて、もっと静かな場所で死合ましょ?」

「へ? あ、ああ…………えっと。“仕合”……だよな?」

「ええ、“死合”よ?」

「………」

「………」

 

 決闘後のサワヤカな空気が流れるとか思っていたのは数秒前。

 現在はとてもそんな空気ではございません。なにあの困惑と笑顔の殺気。

 そんな二人になんとか戻ってもらうと、地和が片腕を突き上げて司会を続ける。

 

「さてさてお次はついに第一回戦の締め! まずは白虎の方角! 蜀といえばやっぱりこの人! 美髪公、関雲長選手っ! 入場ーーーっ!!」

「我が青龍偃月刀の前に敵など在らず!」

「続いて玄武の方角! 美髪に青龍あらば神速に飛竜あり! 魏に生きる姐御肌、張文遠選手! 入っ場っ!!」

「うぇえええーっ!!? ウ、ウチとっ、あいあい、あいしゃっしゃっ……!?」

 

 かたや、勇ましく偃月刀を構え。

 かたや、対戦相手を見て頬を染めておろおろ。

 あの……霞さん? なんですかその乙女チック入場。

 

「それでは第九仕合! はっじめ───」

「あぁあああああーっ!! たんまっ! ちょっとたんまぁっ! 待って! 待ったって!」

「んえ? あ、あのー、なに? これからちぃが大声で───」

「ここっ、こここ心のっ、準備を、やなっ……すーはーすはーすはーげっほごほげほっ!」

「………」

 

 咳き込む霞さん劇場。

 対戦者である愛紗はポカンとした表情でその様子を見つめ、

 

「いや……霞? 調子が悪いのであれば、仕合は───」

「それはアカン! やる! 絶対やるっ!」

 

 言った途端に遮られた。

 

「不戦敗なんて恥ずかしい真似できるかいっ! あ、け、けどもうちょい待ってな? はー、はー……大丈夫~……大丈夫や~…………よしっ! 十分や!」

「……えと。こほんっ、司会らしく司会らしくー……ん、よしっと。ほ、ほほほほんとに大丈夫ですかー? あー……だ、大丈夫ならいい、んですけど……それじゃあ第九仕合目っ!」

「あぁああでもちょっと待った! やっぱたんま!」

「なっ、なによっ! なんなのよっ!!」

 

 無理矢理やる気を出して、いざ高らかにといったところで再び待ったをかけられ、地和は結構苛立っているらしいが……もう少し我慢強くいきましょう。な? 司会者とか仲介者とか中間管理職とかって辛い立場なんだから。……一番辛いのは中間管理職だろうけどさ。趣味に走って仕事をサボる部下と怖い上司に囲まれるっていうのは、なんとも胃が痛くなる状況だ。まあ、俺もサボったりしてたけどさ。

 と、そこまで考えて苦笑していると、霞が地和のことをじっと見つめ、

 

「ウ、ウチ、髪とか、おかしないっ?」

 

 恋人に会いに行く女の子よろしく、ソワソワしながらそんなことを仰った。

 

「……あんた、これから闘うって意識、ちゃんとある……?」

 

 当然のツッコミが、地和の口から漏れていた。

 そこに敬意はなく、人としてのツッコミだけが存在していた。

 

「どこもおかしくないし、“心の準備”なんてものはしようとしてもしきれないものだって一刀が言ってたわよ。それじゃあ第九仕合開始! 銅鑼鳴らしてー!」

「ちょ待ぁああっ!? やっ! アカンッ! 待っ───」

 

 霞の懇願虚しく、“どわぁっしゃぁあああん!!”と響く音。

 それとともに霞の心配をしていた愛紗の表情は引き締まり……慌てていた霞の表情も豹変って言葉を使いたくなるほど、凛々しく引き締まった。

 

「……せやなぁ。心の準備なんてもん、銅鑼の音聞かされたら吹き飛ぶわ」

「ふふっ……良い目だ。では互いに───」

「応。全身全霊を以って───」

「いざっ!」

「尋常にぃっ!」

『勝負ッ!!』

 

 次の瞬間には、愛紗が凛々しく、霞が豪快に。

 フッと笑い、ニッと口角を持ち上げた二人が、疾駆とともに互いの偃月刀をぶつけ合った。

 


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