真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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83:三国連合/天下一品武道会第二回戦③

「はぁあああっ!!」

「ほっ! とっ! なんとっ!」

 

 気合の入った愛紗とは違い、星は相変わらず飄々とした声。

 しかし攻撃は見事であり、速くて正確だ。

 それを弾いてそのまま攻撃に転じる愛紗も、俺から見れば十分に異常。

 どうしてあんな動きが出来るのやら……俺なんて毎度毎度、おっかなびっくりの対応ばっかりなのに。いいなぁ、あそこまで動けるようになりたい。

 でもこの筋肉様が成長してくれない。

 そうなると、もう氣を延々と高めていくしかないわけで。

 

「───! ……、……!!」

「……? ……、……、……、……!」

 

 段々と、ぶつかり合う音がうるさくて声が聞こえなくなってゆく。

 にも係わらず、愛紗が叫んで星が笑っているのはわかるんだから、付き合いで知る人の性格っていうのは面白い。

 

「ははは! どうしたどうした愛紗よっ! 前に見せた青龍逆鱗斬はもう使わんのかっ!」

「だだ黙れ黙れぇええっ!!」

 

 あ、聞こえた。と思ったら愛紗がからかわれて、顔を真っ赤にするような内容だった。

 あーあー……愛紗がどんどんと周りが見えなくなってきてる。

 そんな姿が、なんというかもどかしい。応援してやりたい。

 

「しかしこう、応援したいんだけど、したら公平にならないってのももどかしい」

「応援すればいいだろう。二人とも頑張れ、なら公平だ」

「それをすると別の方向から殺気が飛んできそうな気がしてさ……」

「そ、そうなのか?」

「というか、俺に応援されて嬉しいかな、二人とも。どっちかっていうと確実に桃香に応援されたほうが喜ぶだろ?」

 

 ひょいと軽く促せば、王の席で「二人ともがんばれー!」と笑顔で応援する桃香さん。

 華佗はそれを見て「なるほど」と頷く。

 

「だが、もし北郷がこのまま三国の父として劉備と関係を持ったなら、北郷も主ということになるだろう」

「……いや、それは愛紗にも言われたけどさ」

「そうか。本人に言われたなら、本人もまんざらでもないんじゃないか?」

「そんなもんかなぁ……。まあ、でも応援したい気持ちは一緒だし」

 

 うんと頷いて、マイクを通さずに言った。

 こう、口を両手で作ったメガホンで囲むように。

 

「愛紗ーっ! がんばれーっ!」

 

 一言……そう、一言だ。

 しかしその途端に愛紗の動きが変わり、動きが加速した。

 

「……見てわかるほどに動きが変わったな」

「……いいのか? こんなんで」

「応援されて張り切れないほど、将というのは耳が遠くないということだろう」

「そ、そんなもんなのか。じゃあ星にも……星ーっ! 負けるなーっ!」

 

 同じく一言。

 すると、星まで動きを変え、愛紗目掛けて突撃を仕掛けた。

 

「………」

「………」

「なぁ華佗」

「言うな。俺も同じ気持ちだ」

 

 周りからの視線が痛い……!

 何故か将のみんながこっちを凝視してらっしゃる……!

 なにより痛いのが、敗北なされた将のみなさまからの視線……!

 まるで、“なんで今回だけ応援するのさ”って感じで……おおぉお、胃が、胃が痛い!

 

「どうした愛紗よ、急に動きがよくなったではないか」

「星こそ、本気を出していなかったとでも言う気か?」

「鼓舞による兵の士気の向上があるよう、私とて一人の人間。応援されて悪い気はせぬよ」

「同感だ。なにより───」

「ふふっ……そう、なにより」

『一度でも手ほどきをした者に応援され、負けるわけにはいかん!!』

 

 速度があがる。

 めちゃくちゃに振るってるようにしか見えないのに、攻撃はあくまで正確。

 今度こそ攻撃だけに集中出来るほどの戦いではなく、互いに攻守織り交ぜの戦いに変わっていた。なのにその攻防の速いこと。

 どれもこれもが次の攻撃への複線であり、複線でありながら一撃必殺を狙っているのだからたまらない。弾く音も随分と大きくなり、肌を刺激していたピリピリとした緊張感は、胃をえぐるような覇気に変わっていた。とうとう内臓です。

 それでも見ないわけにはいかないので見るのですが、一撃必殺を狙っているだけあって、一撃のたびに体が強張る。心の中なんて、一撃のたびに“うひぃ!”“ひぃえっ!”“あぶぅわぁああっ!”とか悲鳴を上げている。

 見ているだけでそれだけの迫力があるのだ。

 ちらりと見てみれば、わいわい騒いでいた観客は……めちゃくちゃ楽しんでいた。

 あ、あれぇ!? 俺だけ!? ソワソワしてるの俺だけ!?

 

「か、華佗? 俺、一撃がぶつかるたびに体が緊張するんだけど、俺だけ?」

「いや、それはお前が相手の視線に自分を置けるようになった証拠だ。“いめーじとれーにんぐ”といったか? それの延長だろう」

「うう、嬉しいやらツライやら」

 

 誰かと誰かの戦いを、自分と誰かの戦いに置き換えることが出来るってことか。

 でも俺にはそれほどの速さが出せないから、体が引き攣ってしまうと。なんかそういうことらしい。

 ……なるほど、“見ることもまた戦いだ”ということなのか。

 戦いで経験が積めるなら、見ることでも積めるということなのか。

 しかし、雑兵相手ならトントン拍子で敵を屠ってゆく猛将でも、達人同士では中々そうはいかない。それほど長い時間が経ったわけでもないのに、二人はみるみる息を荒げていった。

 

「おぉお!? これはいったいどうしたことかー! 両者とも息を荒げております! 第一回戦ほど時間は経過していないように思えますがー! 解説のお二人さん、これはいったい!?」

「ああ。並々ならない気迫同士がぶつかり合い続けているんだ。達人同士とはいえ……いや、達人同士だからこそ、緊張し続けなければ危険だ。その緊張こそが体に負担をかける。注意力は向上するが、集中していられる時間は限られるものだ」

「なるほどなるほど。それはつまり、誰かさんが応援したから両者ともに張り切って、その影響で疲れていると!」

「だから無理矢理俺を悪者にするのやめない!?」

「えー? べつに無理矢理じゃないし、ちぃは一刀のことだなんて一言も言ってないよ?」

「ぉおおおぉおっ!! そりゃそうだけど! そりゃそうだけどォォォッ!!」

 

 この状況で俺じゃないなら一体誰だって話になるでしょーが!

 つか、だったら俺を見ながら言うなよぅ!!

 

「ふふっ……息を乱すなど久しぶりだ。強くなったなぁ愛紗。初めて会った頃の愛紗ならば、勝っていたのは間違い無く私だろうに」

「……何故急に、未熟者の成長を見届けたような目で見る」

「はっはっは、いやなに、一度言ってみたかっただけだ。ところで愛紗よ。今さらだが武器を変える暇はなかったのか?」

「生憎と代えはなかった。名前までは知らんが、どこぞの馬鹿者二人とやらが、大会が始まる前に己の武器を破壊したらしくてな。その分、予備を作る時間が無かったそうだ」

「ほう。それはそれは」

 

 ああっ! 胃がッ! 胃が痛い!

 俺が折ったわけじゃないのに、胃が痛い! それは何故!?

 それは俺が華雄に氣を注入するなんて馬鹿をしたからです! ごめんなさい!

 でも、見れば確かに歪んでいる青龍偃月刀。

 腕力でへしゃげ状態から戻したのか、形としては少し歪んでいる程度で済んでいる……つか、え? 腕力で直したの? あれを!? ……ち、違うよな? はは、まさかなぁ。

 

「しかし愛紗よ! こうして続けているのも悪くはないが、そろそろ観客も飽いてくる頃だろう!」

「ならば私の勝利で終わらせてもらう!」

「はっはっは、知っているか愛紗よ! 天では、先に自分の勝利だと確信を持ったものこそが負けるらしいぞ!」

「なにっ!?」

 

 うん。人はそれを敗北フラグとか死亡フラグって言う。

 あからさまに“勝った!”とか“終わったな……”とか思うと、それは大抵逆転されるわけで。岸辺露伴先生がプッツンした東方仗助相手に見せたのも、まさにソレと言えるだろう。

 でもこの場合は───

 

「愛紗よ、お主なら気づいているだろう。私が常に何処を狙って攻撃していたのかを」

「ふっ……無用な心配だ。逆に、そのような言葉こそが敗北を招く!」

「おっと、これは一本とられたかな」

「気にしたふうでもない顔で、よく言う!」

 

 愛紗が払いののちに突きを放つ。

 それを払いで弾き、次ぐ攻撃も払い続ける星。

 その防御も逸らしも攻撃も、全て一点に集中していることに初めて気づく。

 それは……青龍偃月刀の、歪んだ部分。

 霞との戦いでへしゃげたのを無理矢理直したものの、曲がった部分までは完全には直せない。星はそこを狙っていた。

 

「無駄なことを! 折れたところで棍として使うだけだ!」

「ほう、それは結構。愛着のある長さからの急な変動に、戸惑いを一切持たぬというのなら、お薦めしよう!」

 

 ニヤリと笑った星が、重心を下に下げての連撃を放つ。

 力の籠もった、しかし素早い連突が愛紗を襲い、防御のために偃月刀を構えれば、へしゃげた部分ばかりを狙い、ついに乾いた音を立て、青龍偃月刀が折れる。

 

「っ───くぅっ!」

 

 レプリカとはいえ、武人の魂とも言える武器を壊され、愛紗の顔は怒りに燃えた。

 そして言葉通りに棍として構え、振るうが───急に重さもリーチも変われば、達人とはいえ数合は戸惑うもの。

 その隙を突かれ、愛紗は長柄を上空へと勢い良く弾かれてしまい、無手となる。

 終わりだ……そう思った次の瞬間、愛紗は落下していた偃月刀の刃を蹴り上げ、駆ける動作とともに左手でキャッチ。秋蘭との戦いの時に星がやったように、その刃を星の首へと突きつけた。

 

「………」

「…………ふむ。なかなか良い戦いだった」

「ふふっ、そうだな。まさか、武器を壊されてまで足掻くという気持ちが私にあるとは」

「はっはっは、そのくらい勝利に貪欲でなければ、勝てる戦いも勝てん。さて愛紗よ」

「? なんだ?」

「すまんな」

「へ? 何ぷびゅっ!?」

 

 愛紗の頭に強い衝撃が走り、ぽてりと倒れた。“ごいんっ!”ってすごい音が鳴って。

 星の首に刃を突きつけ、彼女の勝ちと思われたこの勝負。

 ……弾き飛ばされ、宙を舞っていた長柄が愛紗の頭部を襲ったことで、決着となった。

 

「私に集中してくれるのは結構だが、落下地点まで誘われたことにも気づけないようでは、はっはっは、まだまだ甘いなぁ愛紗よ」

「えぇええーっ!? ちょっ、これは戦いとしてはいいのでしょうか解説のお二人さん!」

「問題ないなぁ」

「勝負ありを宣言されるまでは油断しない。もっと言えば、背を向け下がり切るまでは、その場は戦場であると意識しておくべき。それが武将というものだろう。関羽は“大会”ということで、気を緩ませていたのかもしれないな」

「な、なんだか納得いきませんが、あぁでも確かにとも思えるので強引に納得! 第三仕合は趙子龍選手の勝利です!!」

 

 落下地点を予測して、さらに愛紗が諦めずに刃を使うところまで予測してたのか……。

 ほんと、星っておっかない。

 

「さ、さあ気絶した関雲長選手が運ばれ、趙子龍選手が退場します! 続いての仕合は宣言通りにこの二人! 呂奉先選手! 対! 張翼徳選手ーっ!!」

「うおーっ! なのだーっ!」

「………!」

 

 ……ハテ。武舞台に上がってきた恋が何故か俺を見て、目を輝かせてらっしゃるのだが。

 なんかもうエサを待つ犬のように。

 尻尾があったら千切れんばかりに振っているに違いない。

 これは……アレか? もしかして応援を待っている?

 え、ええいもうどうにでもなれっ!

 

「れっ……恋ーっ! がんばれーっ!!」

「! ……~……───!!」

 

 あ、目が爛々。そわそわしだして───ヒィ!? なんか可愛らしい愛犬が、急に狂犬に変わるほどの空気の変化が! そんな空気のまま鈴々をキッと見つめて…なにあれ! 最初は輝く瞳がさらに輝いて可愛かったのに……! これはアレですか!? 恋ってば本気になった!?

 あぁあああこういう場合はどうしたら……! ハッ!? 鈴々も応援して、中和を!

 

「鈴々ーっ! がんばれーっ!」

「おーなのだーっ!」

 

 鈴々が腕を上げて応援に応える。

 すると、何故か恋の体から余計にモシャアアと殺気めいたものが……!

 ホワイなに!? アレなに!? なんであんなに敵を見るような目をしてらっしゃるの!? さっきまでは、あくまで対戦相手を見る目だった筈なのに! それがあんな……あんなまるで、主人が他の犬を可愛がる様に怒る、甘えんぼなお犬様のように!

 

「さっさと始めるのだ!」

「え、え~……? なんか空気が重くて、ちぃ一刻も早くここから逃げたいんだけど……」

「いいから始めるのだっ!」

 

 舞台ではそんな空気を物ともせず、戦いたくてうずうずしている鈴々が蛇矛をブンブン振りつつ地和を促していた。いや、むしろこんな空気の中だからこそなのか?

 ちらりと見れば、この舞台を見守る将のほとんどが、戦ってるわけでもないのに険しい顔をしている。

 

「それじゃあえっと……第四仕合! はっじめぇーっ!!」

 

 ドワァッシャァアンッ! ───銅鑼が鳴り、それを合図に───赤が走った。

 

「うにゃあああーっ!?」

 

 ……へ? あ、合図……合図に……って、ウワー、鈴々が飛んでるー……じゃなくて!

 えぇ!? 恋から仕掛けた!? ていうか恋が自分から突っ込んだ!?

 どっちかと言うまでもなく、ほぼが相手を迎える姿勢の恋が!?

 そりゃあ真桜の時も突っ込んだけど、相手が鈴々なら流石に慎重になると思ったのに! ……いや、真桜が弱いからとかそういう意味じゃなくてな?

 

「にゃっ! ───っ……んんーっ! ぎぎぎっ……うにゃあっ!?」

 

 …………。

 

『………』

 

 観客が静まり返った。

 その観客には当然、王も将も俺も含まれているわけで……吹き飛ばされながらも武舞台に蛇矛を下ろし、吹き飛ぶ体を摩擦で止めようとしていた鈴々だったんだが……止まる暇も無いまま、場外の壁に激突していた。

 ……ウワー……人ってあんなに飛ぶんダー……。

 

「え、え? あ、じょ、じょーがいっ! 張翼徳選手、場外です!」

 

 一瞬だった……な。

 うん、一瞬だった。

 実力が離れてる云々じゃなくて、確かに吹き飛ばして場外っていうのは一番効率がいい。

 相手が本気を出す前や構える前なら余計だ。

 いや、あの距離で一気に接近するとか、あの恋が突撃するとか、普通考えないって。

 そんなものにどうやって備えろっていうのさ。

 ……地和が勝者宣言している舞台では、やっぱり恋が期待を籠めた輝く瞳で俺を見てた。

 笑顔で軽く手を振ってみれば、嬉しそうな顔(やっぱり無表情に近いが)でこくこくと頷き、控え室へと戻っていった。背中をしこたま打ち付けたらしい鈴々も、桔梗に助け起こされて戻っていく。

 

「………」

 

 鈴々には悪いが、素直に思った。俺の時に……あれ、やられなくてよかった、と。

 

「……一応、これで第二回戦は終わりか」

「いや。まだだろう?」

「エ? ……ア」

 

 そうだった。まだ……まだ“俺”が残っていた。

 ちらりと見れば、既に王に用意された座席になどいらっしゃらない雪蓮さま。

 視線を戻せば、武舞台の上でにこにこ笑顔で俺を手招きする雪蓮さま。

 

「北郷。腕は平気か?」

「痺れてきた。頼んでいいか?」

「よし」

 

 準備万端な雪蓮を見ながら、華佗に鍼を落としてもらう。

 痺れ始めた腕に活力が戻ると、感覚を確かめながら木刀を手に、舞台へ。

 

「おぉ!? なんだ、あの妙なにぃちゃんもやんのか!」

「ばかっ! ありゃあ魏の警備隊長様だよ! 知らねぇのかい!」

「なにっ!? 警備隊長ってあの、噂の種馬のっ……!?」

「種馬? 休憩知らずの鍛錬の鬼じゃなかったか?」

「んん? 俺はメンマがどうとかと聞いたが……」

「いや、三国の父がどうとか」

「まあでも───」

『勝てねぇだろ、絶対』

 

 満場一致のようだった。

 ええみなさん、僕もその意見に賛成です。

 賛成ですが───

 

「んっふふ~♪ やっとちゃんと戦えるわね、一刀」

「まさかこんな形で戦うことになるとは、思いもよらなかったよ……ていうか、さ。本当にここでやるのか? で、できればそのー……もっと静かなところでとか……」

「あら。緊張してるの?」

「するよっ! 普通するだろっ! この視線の多い中で緊張するなとか無理だろ!」

 

 授業参観中、親に見られてるかもって緊張感よりも性質悪いわ!

 いっそこのまま逃げ出したいくらいだよ!

 

「まあ一刀がどうあれ、今日こそは戦ってもらうけどね。さ、一刀。準備はいい? 氣は充実してる? 痛いところとかない? 動きづらい服じゃない?」

「胃がさっきから痛いよ。あとは…………よ、っと」

 

 フランチェスカの制服の上を脱ぎ、腰に縛り付ける。着たままだと腕を上げた時に肩が突っ張るからな、これ。

 

「よしっ、準備OKだっ!」

「いつものあれは?」

「いつもの? ……ああ。ちょっと待ってくれ」

 

 わぁわあと騒ぐ観客を見つめる。

 ぐるっと視線を巡らせ、その数に驚きつつも。

 しかし何度も繰り返した深呼吸でその不安を拭い去り、静かに雪蓮へと視線を戻しながら言葉にした。この不安が自分の行動を止めたりしませんようにと。

 ───観客なんて知らない。

 観客は居ない。

 ここに居るのは俺と雪蓮だけ……そう思え。

 

「覚悟───完了」

 

 胸をノックし刻み込む。

 深く集中して自分に催眠術をかけるように言い聞かせた。

 俺の相手は雪蓮。雪蓮にだけ集中しろ。他のことは見えなくなるくらいがいい。

 じゃないと緊張で仕合どころじゃない。

 

「すぅ……はぁ…………んっ!」

 

 自分の全てを向ける相手を雪蓮に。

 そして、今まで戦ってきた彼女のイメージの全てを思い出し、対応できるだけのパターンに対応できる自分を強くイメージ。

 足りない分は根性だ。正直、あれから立ち回り方と氣しか磨けていない。

 経験は積めたには積めたけど、筋肉増加が望めない分はなんとか根性で乗り越えるしかない。……根性論はちょっと苦手な部分はあるものの、根性がなければ何事もあと一歩が為しきれないのは確かなのだ。

 人よ。根性に溜め息を吐いてしまう人よ。それを吐いてしまう前に、その一歩先を目指してみよう。まずはその根性がなければ辿り着けない場所っていうのが、自分の中には眠っているものだから。

 

(……ふ……ぅ……)

 

 深く深く深呼吸。

 いざ……勝てるかどうかは横に置いての、挑戦するための戦へ……!


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