真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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83:三国連合/天下一品武道会第二回戦④

「さーてやってまいりました特別仕合! 成り行きで了承する羽目になった我らが種馬北郷一刀の命運やいかに!? それでは第二回戦特別仕合! 孫伯符選手! 対! 解説者北郷一刀! はっじめぇーいっ♪」

 

 なんか楽しそうな声で開始の合図を語る地和に続くように、銅鑼の音が響き渡る。

 同時に笑みのままの雪蓮が地を蹴り駆けてきて、まずは様子の一撃を。

 放たれた袈裟懸けの一撃をバックステップで躱して、次ぐ突きを左へ避ける。

 そのまま払いに移行するソレを下からゴッとカチ上げて、「えっ」と片手でバンザイのポーズで呆けた雪蓮へと容赦の無い横一閃を。

 

「わわっととっ!」

 

 しかしこれを、上体を仰け反らせることで躱された。……ので、無防備な足へと足払い。

 これを勘で察知したのか咄嗟に後ろへ下がる雪蓮───を、地面を蹴って追撃!

 

「え? えっ?」

 

 一閃! 躱される! 連閃! うわっ、弾かれた! だったら突きィ! 逸らされた!

 

「やっ、ちょ、一刀っ!?」

 

 雪蓮がああ構えたら袈裟斬りがくるから、それを逸らして突き、右に躱したらそのまま戻しが来て、左に躱したら離れるから───

 

「え、や、ちょっ、ひゃわっ!? わっとっ!? えっ!? えぇっ!?」

 

 攻撃攻撃攻撃攻撃! 考える隙を与えずに、ひたすら“勘”だけで動いてもらう!

 次、踏み込んできたら高い確率で、下から掬いあげる一撃が───来た!

 

「これに合わせてッ───おぉりゃぁああーっ!!」

「ひえっ!? きゃっ……うわわっ! あっぶなぁっ……! ちょっとかずっ……」

「きえぇええええええっ!!」

「ひやぁああああーっ!?」

 

 剣道の気合一閃。

 躱されても次の次の手を読んで、隙が出来るところまで追い詰める。

 雪蓮の勘は見事なほどに本能的に働いて、体をそこへ追いつかせるものだ。

 天賦って言えばいいんだろうか……神様ってやつはとんでもないものを雪蓮にもたらしたもんだ。でも、その天賦にだって穴がある。

 ようは勘を働かせて躱した先を追って、避けられない状況ってものを作ってやればいい。

 なにせ本能。どこまで行っても“人の本能”でしかないのなら、“人間が出来る回避以上の行動”は出来ないのだ。

 

「はっ! だっ! せいっ! はぁっ! しっ! せぇぁあありゃぁああああっ!!!」

 

 踏み込む! 離れない! 追い詰める!

 冷静にさせてしまうのは結構まずい! だから攻める! 攻めて焦らせる!

 出来ればあの、無言で襲いかかってくる雪蓮が出てくる前に!

 

「っ───“加速居合い”!」

「ぇゎちょ、ぃいっつぅっ!?」

 

 袈裟懸けの一撃を躱された直後、そのまま木刀を腰に構えて氣を解放。

 踏み込むのと同時に加速された居合で攻撃を仕掛けるが、咄嗟に構えられた武器で防がれてしまった。本当に咄嗟だったらしく、腕に相当響いようだが。

 

「えっ……なに今の! 前より全然速───」

「はぁあああああっ!!」

「やぁああっ!? ちょ、ちょっと待った一刀! 待ってってばーっ!!」

 

 聞く耳持たん!

 この北郷、他の誰にも経験不足でドタバタ逃げ腰状態だが、雪蓮の相手だけならば誰にも負けん! イメージとはいえ、その戦闘回数は十や二十じゃない!

 段々と自分の想像が勝ってしまいそうになれば、別の誰かに稽古をつけてもらって大敗を受け入れ、イメージをより強いものとして上書き、挑戦、敗北なんてことを何度も繰り返した今、“雪蓮相手の場合のみ”、多少は攻めに回れるのだ!

 

「このぉっ! 待てって言ってるでしょ! もう、ってうひゃあっ!?」

 

 突き出される剣にクロスカウンターばりの突きを繰り出す。

 しかしこれも首を逸らされて躱され、慌てて離れた雪蓮をさらに追う。

 

「あ、あはー……本当に私の相手ばっかりしてたみた───きゃんっ!? あ、あっぶな……!」

「散々負けて散々繰り返したよ! 報われたいから是非負けてくれ!」

「あははははっ、残念だけどそうはいかないわよっ、むしろ面白くなってきたからもっと続けよっ、ね、一刀っ♪」

 

 気の緩み───今!!

 

「シィッ!!」

 

 足に籠めた氣を竜巻のように捻りながら一気に武器へと昇らせ、その過程で全身に加速。金色の輝きを放つ木刀を、雪蓮目掛けて容赦なく振るう。

 怪我の心配? まさか。ここまでやっても勝てないから、今まで散々苦労した。

 ……そして、例に漏れず、雪蓮は渾身の居合いを避けてみせた。

 体勢を獣のように低くし、そんな場所から見上げてくる彼女の目は、虎のように鋭く、いつかのように冷たかった。

 そんな彼女の頭へ、体勢的にも無理があるために力の乗らない一撃をこう……ぼごっ、と。

 

「ふきゅっ!?」

 

 力が乗らなくても、木刀だから痛い。

 そんな痛みの所為で虎の目から冷たさが引き、涙目で頭を押さえて俺を睨む雪蓮へと、再び突撃を開始する。

 

「え? えっ!? やっ───ちょっとー!?」

 

 避ける体を追いかけ追い詰め、反撃されればそれに合わせたカウンター。

 大抵は躱され、当たれば好機とばかりに突撃。

 それでも読み違えれば手痛い反撃を受け、ペースを崩されるのだが、そこからのカウンターも研究済みだ。なにせ攻められることの方が多かったわけだから、まずは反撃を成功させなければ攻めることが出来なかったのだ。イメージ相手なのに。

 俺の中の雪蓮は、強敵で油断ならない相手で、ここぞって時には正攻法ではこないってものだ。そして実際でもほぼそんな感じだ。

 だからこそ逆に安心して攻められる。

 攻められたってどんとこいだ! 伊達に各地でいろんな将たちに攻められ続けてたわけじゃない! 自慢にもならないけど、守りと避けなら結構得意だ!

 

「せいせいせいせいせいせいせぃいいいっ!!!」

「わったたったっとっ! あははっ、速い速いっ! いい調子よ一刀ぉおっひゃあっ!?」

 

 攻撃の中、微笑んだりして気を緩ませたところへ強撃を混ぜる。

 悲鳴をあげる割に、ほぼ避けられるのもイメージの通りだ。

 で、躱すと距離を取って楽しげな言葉を放つパターンがほぼなので、雪蓮のバックステップに合わせて足に籠めた氣を弾けさせ、一気に距離を詰める!

 

「あっはは、ほんとにやるじゃうひゃああっ!?」

 

 驚愕に染まる彼女へダイレクトアタック。避けられるもんなら避けてみやがれの居合い一閃だ。

 

「っ───このっ! ぅくぅっ!?」

 

 剣を盾にされた……でもそんな状態での着地が上手くいくはずもなく、雪蓮は軽くたたらを踏んだ。思わず「ぅゎやばっ……!」と漏らす彼女へ突撃をかける───と、横薙ぎで牽制されるから、走る予備動作だけ見せたあとに拍子を置いて一気に突撃!!

 

「えっ、あ、わっ、ちょっと、えええぇえっ!?」

 

 予想通りに牽制を行った雪蓮は、振ってしまったが最後戻せない剣に焦りを飛ばす。

 その隙に再び距離を詰めた俺を前に、振るってしまった右手ではなく左手を伸ばして俺を掴み、投げようとしてきた。伸ばされたために咄嗟に氣を込めて構えてしまった左腕をはっしと捕まれ───しかし、そんな彼女ににっこりと微笑みかけ、俺の手に意識が集中していた彼女の足をひょいと掬って、転倒してもらうことにする。

 

「くあっ!」

 

 しかし切り替えが早い。

 倒れたところに木刀を突きつけて寸止めで勝とうっていうのは、さすがに甘すぎた。

 尻餅ではなく無理矢理体を逸らせ、手を着いて身を翻してみせると、すかさず距離を取って体勢を───立て直す前にさらに突撃!

 

「も、もー! しつこい男は嫌われるわよ、一刀っ!」

「だったらどうしてさっきから顔が笑ってるんだよ!」

「楽しいからに決まってるじゃないっ!」

 

 様々な攻撃、動作に合わせ、用意した動作で対応。

 何度も追い詰めるのだが、追い詰めきった後の体勢がどうにも悪い。

 加速したあとの伸びきった体とか氣が散ってしまったあとだったりするものだから、

 

「きゃんっ!? ~……!!」

 

 こう、ぼこんと音は鳴るものの、弱い一撃ずつしか当てられない。

 まあその、一撃は一撃なわけだが、どうにもこう……なぁ。

 

「うぅ~っ……!! さっきから人の頭をぼこぼこぼこぼこ……!!」

「それはこっちのセリフだ! 勘だけでどこまで避けてみせるんだよ!」

「そんなのは勘に聞きなさいよぅー!」

「訊いたところで避けるだろうが!」

「当たり前でしょー!?」

 

 頭をぼこぼこ殴られ続けて、雪蓮は涙目である。

 いい加減、虎の目がちらほらと冷たくなったりならなかったりで、使い古した電球のごとく明滅を繰り返している感じだ。

 このままだといずれはあの雪蓮さんが出てきてしまう。

 なにかいい方法はないかと考えるも、とにかく当てて勝つしかないのだ。なのに当たらない。避けられまくるから、最後はボコッになるわけだ。

 

「根性!」

「ふきゃうっ!? ~っ……いっっ……たぁあーいっ!!」

 

 体勢も伸びきって、氣も散った状態だったが、無理矢理体を捻ることで微量な加速を完成させた。すると綺麗な音が鳴り、雪蓮が怒った。

 

「このこのこのこのこのぉおおおーっ!!」

「はっ! ほっ! とっ! はっ!」

 

 しかしながらこれもトレーニング済みであり、弾いて逸らして隙あらば反撃、攻守交替で突撃を再開。

 そう……あくまで雪蓮に。雪蓮にだけは有利に戦うことが出来る。

 他の人相手でここまで先読みしろなんてことは無理だ。

 その人の動きを見てイメージトレーニングをすれば、そりゃ出来ないこともない。

 でもそれには、呉に行ったあの日から今日までと同じくらいの鍛錬が必要だ。

 

「っ───ここっ!」

「予想通り!」

「えっ───!?」

 

 雪蓮の攻撃に追われ、それを避けながらの攻防。

 次に速度重視の突きが来ると確信を持って、その分だけの距離+勘による距離のプラスを考えた距離だけを下がる。

 そこで突きは届かずに止まり、雪蓮は本当の本気で唖然とした。

 隙ありとばかりに木刀を振るうが、唖然としながらもそれは避けられる。

 

「~…………はぁあああっ……!!」

 

 そろそろ暴れすぎで呼吸が辛かったこともあり、その時は追撃はしなかった。

 雪蓮は深呼吸をする俺を見て唖然としたままの表情で……次の瞬間、フッと笑うと……地を蹴り距離を詰め問答無用で一閃を放ってきた。

 それを避けて攻撃を返して、剣で逸らされるや足に氣を籠めて弾けさせ、肩でタックル。

 成功すると距離を取り、間を空けずに無言で疾駆してくる雪蓮を見て、あっちゃあ……と心の中で溜め息を吐いた。

 きっとさっきの一撃、当てられる自信があったんだろうな。

 でも予想通りと言ってまで避けられたことに、ならば、って感じで……とうとう、雪蓮さんの目が“狩る者”のそれに。

 あ、あー……どうしましょう。なにかいい手はないもんか。

 

「───……ええいっ!」

 

 男なら! やってやれだ!

 こうなりゃヤケだ、“読み”がどこまで通用するのか、真正面からぶつかってやる!!

 

「おぉおおおおおおっ!!」

「───!!」

 

 木刀にさらに氣を籠めて、雪蓮の攻撃に合わせて攻撃を繰り返す。

 突きが来ればカウンター。斬り上げが来れば下がり、袈裟斬りが来れば逸らし、横薙ぎがくれば上へカチ上げ、上段からそのまま振り下ろされれば横へ避けて反撃へ。

 

「はっ! ふっ! かっ! せいっ! ふっ! はぁっ!」

 

 一撃一撃の速度が段違いだ。

 お陰でこっちも加速を使わなきゃ間に合わず、関節に負担をかける有様になっている。

 つくづくこの世界の人のスタミナが羨ましく思うよ……こっちもう息荒げてるのに、雪蓮ってば無表情で攻撃乱舞だよ!

 

「いつっ!」

 

 剣が頬を掠める。

 刃引きしてあるとはいえ、肉くらい削ぐ力と重量が十分あるものだ。

 そこに恐怖を覚えるが、かといって敗北宣言なんてしたくない。

 散々と鍛錬と研究をしてきたからこそ、負けられないって意地があった。

 でもこのままじゃ、氣が尽きて俺が負けるだけだ。

 ならどうする───?

 

(どうするもこうするも……)

 

 現在の状況で勝てないなら、無茶でもなんでもやって、意地でも勝つ! それだけだ!

 まずは木刀に籠めた氣と体の氣を切り離して───一気に放つ!

 

「ストラッシュ!」

 

 まずは雪蓮に向けて剣閃。

 それを、同じく氣を籠めて剣で斬り払い、散らせる雪蓮……目掛けてすぐに走らせた体で、氣を払った剣をさらに強打し体勢を無理矢理崩す。

 それが完了すると再び氣を籠めたタックルで雪蓮を飛ばし、無理矢理体勢を変えて地面に足を着き、走る俺へと剣を突き出す雪蓮に再びカウンターの突き。

 もはやくらうことは無いと、体を捻って軽々しく躱す雪蓮。

 

「けど───!」

 

 軽々と躱してみせたからこそ、そこに隙があった。見切った攻撃だからこそ余裕で躱してみせる───そんな相手だからこそ、冗談も混ぜずに本能で動かなくなったからこそ、こっちにもそこに付け入る余裕があった。

 そりゃそうだ、そのために見切らせたのだから(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ありったけ、受け取れぇえええっ!!」

 

 そんな彼女に持たれかかるように密着。

 グッと氣を籠めて螺旋加速をさせた、木刀を強く握ったままの右手を放ち、その腹部に氣が弾ける拳を文字通り炸裂させた。

 

「ぇはぁっ!? あ、っ……ぐぅ……!」

 

 密着状態から、振り抜くようにして武舞台の石畳へと殴り飛ばす。

 雪蓮はどう、と倒れたが、近づくと起き上がって、襲いかかってくるかもしれない。

 ……氣の全部を弾けさせたから、こっちにはもう余力無し。

 これで動かれたら無条件で俺の負けだ。

 

「けど、さすがに───」

「い、っつつ……!」

「ゲェエエーッ!?」

 

 かもしれないどころか上半身起こしたァアーッ!?

 や、どっ……どういう体してるんだよ! 全力っ……全力だぞ!?

 それをアナタ! “い、っつつ”って! “い、っつつ”で済ませるって!

 

「~っ……あぁ~っ、なんか目が覚めた感じ……」

 

 虎の目からは冷たさが消えていた。

 その代わり、“宿敵を得たり”っていう……よりは、“オモチャ見つけた!”って感じの子供の目で俺を見てらっしゃる。

 そんな調子でガバァッと勢いよく立───とうとすると、ポテリと尻餅をついた。

 

「………」

「………」

「あれ? ん───っしょ!」

 

 再度、勢いよく。……失敗。

 ゆっくり。……失敗。

 というか、これあれか?

 

「……なぁ雪蓮。もしかして……腰、抜けてる?」

「……~っ!!」

 

 うわっ、顔真っ赤になった! しかも女の子座りで涙目!

 両方の爪先をそれぞれ異なる外側へと向けた、お尻は床につけたままのあの座り方のまま、その足の間に掌を置いて立ち上がろうとしているのだが……上手くいかずに真っ赤。すっごい涙目で、真っ赤。真っ赤になって震えてらっしゃる。

 わあ……って、いやいやいや! やばい可愛いとか思ってる場合じゃなくて!

 この場合はどうなるんだ!? と地和を見てみれば、解説の華佗さんとなにかを話したのち、こちらへ戻ってきた。

 

「孫伯符選手。このまま立てないようならば、敗北というかたちになりますが、そのー」

「えぇっ!? ちょ、やだっ! 起きなさい! 起きなさいってば! 立ちなさいよこのー! う、うー! ねぇ一刀っ! 引っ張って引っ張ってっ!」

「いや、なんかもう是非そのまま負けてくれ」

「あ───、……~……!!」

 

 はい、と。氣がすっかり抜けてしまった木刀を雪蓮の首の傍で寸止めする。

 雪蓮は恨めしそうな目と、シャオのように膨らませた頬をそのままに、そっぽを向いた。

 その時点で地和は勝利者宣言をし……締まらない閉幕となったが、一応は俺の勝利というかたちで、第二回戦特別仕合は終了した。

 

「ぶー……」

「は、はは……そう拗ねるなよ、雪蓮。仕合じゃなくても、模擬戦闘とかならこれからいくらでも出来るんだからさ。ていうか立たれてたら俺の負けだったんだよ。俺、もう氣がすっからかんだし」

「じゃあもう引き分けってことでいいじゃないのよぅー……」

「それはちょっと違うからやだ」

 

 勝ちと引き分けなら、事情があろうが勝ちのほうが嬉しいのだ。現金なことだが、そういうものである。

 

「……ところでさ、地和。俺、勝ったからって次もやるとか、ないよな?」

「特別仕合だったんだから大丈夫じゃない? むしろ観客のみなさんが唖然としてるから、なんとかしてよもう」

「俺にどうしろと……」

 

 ともあれ、第二回戦は無事終了。

 その後、氣が無くなったことで血液の流れとかも変わり、腕の痛みが再発。

 激痛に襲われてしばらく動けなくなったのは、まあ……べつに言わなくてもいいことだろう……とは思うのだが、氣が無い所為で華佗の鍼も大して効かない始末で、氣が練れるまで額に汗しながらぜえぜえ言っていた。

 情けない限りである。


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