真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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84:三国連合/天下一品武道会準・決勝戦②

「あらら、すぐに挑発に乗っちゃうんだから。素直って言えばいいのかどうなのか……蓮華ってば不器用よねー」

「雪蓮だったらどうしてた?」

「私? 楽しんでたわよ最後まで。どうせ負けるにしてもなんにしても、強敵が目の前に居るなら戦いを楽しまなくちゃ」

「ウワー……」

 

 舞台では勝者宣言がなされ、蓮華と恋が退場していくところ。

 その際、俺を見て……どうしてか申し訳なさそうな顔をした蓮華。

 

「……気にすること、ないのになぁ」

 

 言葉は目で伝えられた。

 こんな結果で済まない。まだ自分は未熟だと。

 言わせてもらえるなら、俺達はべつに“次に会った時には三国無双になっていよう”なんて約束はしていない。そりゃあ、“敵がかの有名な呂布であるなら”と、最初から負けるものだと割り切るのはとても嫌なことだ。勝ちたいって思う。

 けど、思っただけで勝てるなら誰も苦労はしないのだ。

 むしろこの大会で一番食い下がることが出来たことに対して、胸を張るべきだ。

 相手がどれほどの者であったかは別としても、実力を出し切っての敗北なら当然だ。

 

「一刀が私に勝っちゃったんだもん、蓮華だって勝ちたくなるものじゃない?」

「だからさ、腰が抜けてなければ負けたの俺なんだってば」

「まあね。それでも勝ったのは事実じゃない。あの子の中には、“一刀が勝ったならわたしも”って考え方しかないのよ。相手が誰かなんて関係ないの」

「それが、あの申し訳なさそうな顔の原因?」

「そ。だって、一刀は恋に勝ったでしょ? なのに自分はって思えば、自分は一刀ほど頑張れなかったんだって落ち込むのも当然でしょ?」

「……なんというか、真面目だなぁ。あ、いや、いい意味でだけど」

「わかってるわよ」

 

 けらけら笑って、手をひらひらさせる雪蓮。

 なんかノリがおかしいなーと思って、ひょいと解説席の下を覗いてみると、席の影に酒を隠し持っていやがりました。

 

「没収」

「あ、あ、あ~っ、待って待って一刀っ、まだちょっと残ってるのー!」

「残ってるから没収するんだろうがっ!」

 

 酒、没収。

 そんなやり取りをしているうちに星と春蘭が武闘場に上がり、互いに武器を構える。

 二人の間に立つ地和がこほんと咳払いをすると、いざマイクを口の傍に持ち上げ、

 

「武器の使用以外、全てを認めます!」

『なにも出来んだろうそれは!!』

 

 星と春蘭にツッコまれていた。

 

「え? や、天では戦いの前にこれを言うんだって一刀が」

「言ってないからな!? そういう“お話”があるって言っただけだから!!」

 

 当然グラップラー刃牙であるが。

 ていうか俺が言ったことを間に受けたのなら、何故今になって言うのか。

 ……殺気とかに中てられて、いろいろヤバイのかもしれない。なんかそれなら納得だ。

 

「それでは気を取り直しまして! 準決勝第二仕合、はぁあぁあっじめぇーっ!!」

 

 いい加減銅鑼係の人疲れないかな、と思わなくもない今日。

 再び鳴らされた銅鑼の音に、二人の将が地を駆け、真正面からぶつかり合った。

 

「さて、夏侯惇よ。思ったのだが、最初から全力というからには、途中からは力を抜いてもいいということか?」

「んん? 最初から最後まで全力でいけば問題ないだろう?」

「ふむ、そうか。ではせいぜい足掻かせてもらおうか」

 

 ニヤリと笑う星。

 春蘭も笑い、腕力で星を押し退けると、己の武力を余すことなく披露する。

 薄く見える剣なのに、振るうと“ゴフォォオゥンッ!”と風を巻き込むことで、あくまで俺の中では“大剣”のカテゴリとしてとても有名である。

 七星餓狼という立派な名前がついたソレ(のレプリカ)が、遠慮無しに星へと振るわれる様は、星は平気な顔で避けるのに、見ているこっちはハラハラものだった。

 だって春蘭の攻撃だもの。

 その威力や迫力は、俺がもっとも身近とする恐怖だったものだ。

 だった、というか……今もそう変わってないよね。

 

「ああいいぞ、足掻けっ! お前が足掻けばそれを見る華琳さまもお喜びになるだろう!」

「……すまぬが、生憎と甚振(いたぶ)られることで相手を喜ばせる趣味はないのでな。全力で抗わせてもらおう。はっはっは、なに、甚振られる趣味はないが、相手を弄るのはそれほど嫌いではない」

 

 言いながらも攻撃は続いている。

 涼やかな言葉とは裏腹に、目が覚めるような突きは異様と思えるほど速く、さすがの春蘭も防戦になる。

 しかしそれも長くは続かせず、突きに合わせて振り上げた七星餓狼が龍牙を弾くと、そこから再び春蘭が猛攻を仕掛ける。

 ……うぅわぁ……なんとか目で追えはするんだけど、言葉にすると間に合わない。

 解説が要らない子状態だ。

 

「か、解説者のお二人さーん! 観客のみなさんとちぃにもわかるように、この戦いの解説を要求したいんですけどー!?」

『無理だ』

「えー!? じゃあ元呉王さんか張飛でもいいからー!」

「無理ね」

「即答!?」

「どどーんて斬ってどかーんって受けてどっかーん! なのだ!」

「……えー……説明しようとしてくれた心意気だけは受け取れました! はい、もう見守るしかありません!」

 

 正直、それが一番いいだろう。

 解説席でのやり取りの間も春蘭と星はぶつかり合い、本気で互いの武器を振るい続けている。蓮華と華雄の時も思ったが、いくら刃引きしてあるとはいえ、突きはとても危険だと思うんだけどなぁ。正眼からの突きの時なんか、結構ヒヤっとしたし。

 達人はそこらへんを見切れるものなんだろう。俺じゃあ無理だな。俺がする突き程度なら、あっさり躱される確信があるのが情けないが。現に雪蓮には避けられたしさ、これはちょっと仕方ない。

 

「おのれちょこまかとっ!」

「どんな剛撃も当たらなければどうということもない。受け止めてみせ、己が力量を見せ付けるよりも勝てばいいのだからな」

「なにをぅ!? 貴様、わたしに勝てるつもりか!」

「そうは言っておらんが、だからといって負けるのもつまらん。なので負けん」

「つまらんから負けたくないだとぉ!?」

「うむ。ほれ、お主の考え方も似たようなものだろう? お主は曹操が好きだから力を見てもらいたい。私は負けるのが嫌だから勝ちたい。はっはっは、変わらん変わらん」

「ん、んん……? 似ているか……? 言われてみれば似ているような───」

「いや、冗談だ」

「なにぃ!? 貴様ぁあっ!!」

「はっはっはっはっは!」

 

 からかわれてるなぁ春蘭。

 顔を赤くして突撃のみをする鬼神様になっている。

 その攻撃全部を紙一重で避けている星……からかうようなことは言っても、星自身は春蘭の動きに物凄く集中しているみたいだ。じゃなきゃあんなに避けられるわけがない。

 むしろからかってるのは、春蘭の攻撃をわかり易く直線的にするため……か?

 

「おお、荒々しい攻撃だ。触れれば私のか弱い体など、一撃で壊れてしまいそうだ」

「ふはははは! そうだ! 貴様など一撃で叩きのめしてやろう!」

「ほう。さすが魏武の大剣、大きく出る。では一撃でだめなら私の勝ちでいいかな? ……おっと、その一撃では私は倒せんぞ」

「な、なにっ!?」

「それっ! 隙ありだ!」

「ほわっ!? ~っ……貴様あぁっ!!」

 

 春蘭の攻撃を避けながらの……舌戦と言えばいいのか?

 その最中、一瞬停止しかけた春蘭へと遠慮無く突きを放つ星。

 とても、自分に素直な戦い方だ。あそこできちんと防ぐ春蘭も春蘭だよなぁ……どんな反応速度してるんだ。

 

「はっはっは、そんな直線だけの攻撃など当たらん当たらん。もっとほれ、考えて攻撃してみたらどうだ」

「ふん! そんなものは必要ない! 叩き潰せば同じだ!」

「ほほう? 叩き潰すと言うからには、武器を振り上げてからの攻撃しかせんのだな?」

「? なぜだ?」

「下からの振り上げで、ものが潰れるか?」

「全力で叩き込めば壁で潰れるだろう。ふふんっ、そんなことも知らんのかっ」

「殺せば斬首だが」

「大丈夫だ! 殺さん程度に叩き潰す!」

 

 怖い話をしながら、弧と点が斬り結ぶ。

 斬りと突き、払いや蹴りが繰り返される中、星は春蘭をからかいまくり、時には天然返答カウンターをくらい、戸惑いの隙を突かれたりしているが……それでも“受け止めること”はせず、全てを躱したり逸らしたりを繰り返していた。

 

「やれやれ……お主のしつこさは尊敬に値するな。いい加減に疲れてもいいだろうに」

「ふはは、そういう貴様は息が上がり始めているなっ。愛紗との戦いはそれほどまでに疲れたか!」

「いやいや、こうして防戦一方になりがちなのは、なにも望まぬものというわけでもない」

「なんだ? 負け惜しみか?」

「ふむ。負けを惜しむのは当然だが、べつにそういう意味でもない。疲れているのならいるなりに、出来ることがあると言っておるのだよ」

 

 剛撃を逸らしながら、フッと笑う星。

 そんな彼女に対し、春蘭は変わらずの勢いで攻撃を繰り返す。

 しかしやがてその攻撃が逸らされる回数が減り、空振りばかりをするようになると、さすがに春蘭の顔に疑問が浮かんできた。

 

「貴様またちょろちょろと!」

「だから言ったろうに。直線だけの攻撃では当たらんと。悪いが、お主の動きをよ~く観察させてもらった」

「なにぃ……!? ちょっと見ただけで私の攻撃を見切ったとでも言うのか!」

「完全ではないがな。うむ、北郷殿の戦い方は無茶はあるものの、参考になる部分も多い。あのような戦い方を見せられては、“見切り”というものを追ってみるのも悪くはないと思ってしまう」

「ふんっ、見切りがどうのこうの。そんなものは私が違う動きをすれば済むことではないかっ」

 

 春蘭さん、腰に手を当ててのどや顔の一言。

 ……いや、春蘭? 戦いではほぼ突撃型のあなたに、そんなことが出来る……とは思うけど、きっと長続きしないぞー……?

 

「ほう? では夏侯惇殿は、これからどういった動きを見せてくれるのかな?」

「貴様を捻り潰す!」

「………」

 

 星に“苦労しておられるな……”といった顔で見つめられた。

 ……ありがとう。少しでもわかってもらえるなら、その少しだけでも報われた。

 

「貴様は随分、北郷がどうのと言っているようだが、北郷に出来て私に出来んはずがない!」

「む? それはどういう───」

「おおおおおおおっ!!」

 

 春蘭が、胸の前に持ち上げた右手に剣を縦に構え、そこに左手を添える姿勢───いわゆる蜻蛉(とんぼ)の型を取り、腹の底から声を振り絞る。

 それだけでも珍しい光景なのに、なんとその剣に紫色の薄い光が篭り始め、ついには赤い光が溢れて、って……えぇえええーっ!?

 

「ふははははは! たしか“すとらっしゅ”とかいったか! くらえぇえっ!!」

 

 そして、そんな光を星に向けて放ってみせる!

 構えが大振りすぎて、星にはあっさり避けられたけど…………え、えぇええ……!?

 

「こ、これは驚いたな……! よもや、そんな技を隠していたとは……!」

「? 隠す? なんのことだ? やってみたら出来ただけだぞ?」

『はぐぅっ!!』

 

 春蘭の言葉に、仕合を見ていた俺と、離れた位置に居た凪は心にダメージを負った。

 やってみたら出来た、って……! これが、これが才能ってやつなのか!?

 しかも自分の氣から切り離さずに放ったはずなのに、全然ケロリとしてらっしゃる!

 あの人何者!? 氣の塊!?

 

「それより貴様もかかってこい! 貴様が見切ったというのなら、私も見切ってやろう!」

「……いや。実に見事な“すとらっしゅ”だ。あんなものを放てるお主に近付けば、たちまち連打の餌食となろう。ここは慎重に攻めさせてもらう。あんなものを雨のように放たれては、攻める手立てが無さそうだ」

「……そ、そうか? そんなに私の“すとらっしゅ”は凄かったか!」

 

 あ。

 いや春蘭!? 乗せられちゃダメ! その人絶対に春蘭の氣の枯渇を狙ってる!

 

「いいだろう! では貴様は私の、私のすとらっしゅの餌食にしてやろう!」

 

 そしていつの間にかストラッシュが春蘭の技に!?

 普通に剣閃って言えばよかった! アバン先生ごめんなさい!

 

「って違う! 待った春蘭! 待ったぁああっ!! お前の氣でそんなの連発したら!」

「うん? 心配せんでも貴様と私では鍛え方や潜り抜けた死線の時点で違う! 貴様のように氣の枯渇などするものかっ!」

「そうじゃなくてぇえっ! あっ……あぁあーっ!!」

 

 ……それからの出来事を、わたくし北郷一刀は悪夢と述べましょう。

 赤い閃光のような七星餓狼から剣閃を放ちまくる春蘭と、それを避けまくる星。

 二人はそれでよかったのだろうが、春蘭が放ち、星が避ける度に飛んでくる剣閃は、解説者である俺や華佗、一緒に見ていた雪蓮や鈴々を襲い、離れた位置で見ていた将や王を襲う結果となり、俺達は剣閃が直撃して弾け飛ぶ壁や解説席から逃げ出しつつ、悲鳴を上げて逃げ回っている地和を救出したり観客を避難させたり、ともかく必死で、文字通り必死で行動した。

 目の前を剣閃が横切り、すぐ横の壁が爆発した時は、正直死ぬかと思った。

 ていうかあと一歩早かったら死んでた。

 なんとか止めようにも死線、もとい視線の先には剣閃台風。

 もはやデタラメに放たれまくる剣閃の嵐を前に、俺はこの世の終わりを悟る他……いや、ある。まだ方法があった。

 そう思い出した俺の……そう、力無く座り込むだけだった俺の目の前の石畳に、ザシッと踏み出される足。俺は、この足をよく知っていた。

 その人はツカツカと剣閃の嵐の中をものともせずに歩く。

 まるでこれは自分には当たらないと確信しているかのように。

 やがてある程度まで近付くと、一言だけ呟いてみせた。

 

「春蘭」

 

 それだけ。

 恐怖や焦りが一瞬で冷えて醒めるような一言で、騒ぎも剣閃も終わった。

 ……視線の先には、硬直している春蘭。

 そして、恐らくは背に阿修羅(顔は怒り)の幻影を背負っているであろう、きっと冷たい笑顔な我らが魏王にして覇王である───

 

「失格」

 

 ───華琳さまは、春蘭にトドメを刺した。


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