真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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86:三国連合/それぞれの夢が紡ぐ道へ③

 それからのことは流れるように進んだ。

 人が飛んだということで、見物人が中庭に集ったからと言ってしまえばそれまでだ。

 まあなんだ、ようするに。華雄のお陰で人のほぼが集まった。

 で、その華雄なんだが───

 

「刺さってるな」

「刺さってますねー……」

 

 刺さっていた。馬屋に敷くために用意してあったらしい大きな藁束に、頭から。

 刺さる瞬間の格好がイーグルダイブ型だったかまでは確認できなかったが、刺さっていた。

 まあそんなことは置いておくとして、冥琳、穏、もの珍しそうに尻をつつくのをやめてあげてください。

 気を失ってるのか、そんなことされても反応がないし……まあ、今は認識を変えることを努めよう。溜め息とともにわしゃりと自分の頭を撫でて、次の行動を……と思ったところで、俺に気づいて小走りに寄ってくる王様を見た。桃香だ。

 

「お兄さんっ」

「や、桃香。桃香も華雄を見に来たのか?」

「華雄さんというか、“騒がしいから釣られてきた”のほうが合ってるかも」

 

 あははと苦笑いを混ぜて言う。なるほど、野次馬根性ってところはどっちも変わらない。俺も絶対にそうしていただろうし。

 そう感じたからなのだろうか。改めて穏に尻をつつかれている華雄を見つつ、「騒がしくない日なんて無いなぁ」なんて、思わず口にしてしまう。桃香はそれに「楽しいよねー」とにっこり笑顔で返してくれた。

 そうなのだ。騒がしくて困るって意識は、まあ……仕事を邪魔されない限りはそうそうには感じない。日々は楽しく、賑やかであり、巻き込まれたとしても……思い返せば笑って済ませられることばかりだ。

 そんな日々が身近にあることが嬉しい。

 帰ってこれてよかったと、心から思える。

 

「あ、そうだ。お兄さん、今日これから、みんなで宴をしようって話になってるんだけど」

「昨日の今日でか? ……というか」

 

 夢を思い出した。

 ……さすがにああはなるまいが、心配ではある。

 けれど断る理由はなかったから、「あー……なにか手伝えることはあるか?」と訊ねた。

 

「うんっ、お兄さんは話が早くていいなー。愛紗ちゃんてば“昨日あれだけ騒いだでしょう!”とか言って怒るんだよー?」

「いや。それは愛紗が正しいだろ」

「むうっ……お兄さんまでそんなこと言うんだ。私たちもそろそろ帰らなきゃいけないから、お別れの宴がしたいなーって思っただけなのに」

「そりゃもちろん俺もそうしたい。だから手伝えることはあるか、って訊いたじゃないか」

「そうだけど……うん、じゃあいいかな。それでね、えっと。お兄さんには天の料理を作ってもらえると嬉しいかなーって」

「それはいいけど……材料の都合で、作れるのは限られるぞ?」

「あ、うん、いいのいいの。ただお兄さんが作ったものが───……あ、あはは! なんでもないよっ、うんっ、なんでもっ!」

「そ、そか? まあ、頼まれたなら全力でだな。みんなはもう動いてるのか?」

 

 ちらりと見ると、料理が上手い人の姿はこの中には見えない。

 既に厨房が戦場と化しているだろうことは想像に容易い。

 

「うん。料理が出来る人はね。私も手伝うーって言ったら、みんな一斉に“結構です”って……」

 

 胸の前で人差し指同士をつんつんと突き合わせながら、たぱーと涙を流す蜀王さまの図。

 それに「頑張って覚えて、見返してやればいいよ」と返して、頭を撫でた。

 するとすぐにほんわか笑顔で見上げてきた。……泣いた烏がもう笑った。

 

「じゃ、じゃあその一歩として、お兄さんの料理を手伝ってもいい、かな」

「だめだ」

 

 一言きっぱり言って歩き出し───捕まった。

 

「ちょ、こらっ! 離しなさいっ!」

「うぇえええ~っ、お兄さぁあ~ん! 私頑張るからぁっ、頑張って手伝うからぁ~っ!」

 

 某愛の一子相伝殺戮人間の真似をしてみたら、腰に抱き付いてまたまたたぱーと涙を流して懇願してくる王様が!

 引き剥がそうとしつつも話を聞いてみれば、他のみんなにもあっさり断られて、頼めるのが俺だけなんだとか…………いや、それはさっき聞いたし、そもそも俺の時だけ抱き付いてまで懇願する理由がわからん!

 そりゃあ桃香には料理の基本とかも教えはしたから、以前よりも殺人コックの称号からは抜け出せているとは思う。思うが、それは思うだけであって実践とは違うのだ。

 ふと気づけばスクランブルエッグを炭にしてしまうような彼女だ……俺が料理の最中に目を離した隙に、料理になにをされるか……!

 

「……じゃあ約束」

「うんっ!」

 

 会話の流れが変わった途端に泣き止んだ。

 もうどうしてくれようか、泣いた女性というものは。

 

「指示無しでは勝手なことはしないこと。言われたことはきちんと守ること。絶対に、“こうすればもっとよくなるだろう”って思って、勝手なことはしないこと。……いいか?」

「……も、もちろん、だよ……?」

 

 おいこら、どうして視線を外した上にどもりましたか。どうして疑問系か。

 と、心の中では強くツッコんでも、口には出しません。

 約束してくれたならそれで良しだし。

 宴の中でなら、もっと砕けた認識変更が出来そうだし───よし、いっちょやりますか。

 

……。

 

 そうして、準備を始めた。

 厨房は既に戦場となっていて、俺はそこに紛れ込みつつ流琉に声をかけた。

 少し驚いた風情だった流琉だったけど、天の料理を作ることを伝えると、好奇心に目を輝かせていた。

 難しいものは作れない。

 しかしながら酒のツマミはお手の物のつもりだ。じいちゃんに叩き込まれたし。

 なので料理もツマミも作らせてもらい、桃香にもそういった手際を覚えてもらうため、手伝ってもらった。

 傍から見れば王様を顎で使う御遣い様だが、そんなつもりは俺にも桃香にもなかったし、これはこれで状況を楽しんでいたということもあり、俺達は終始笑顔だった。

 

  やがて、宴の席の用意も料理の準備も酒の用意も完了し───

 

 訪れた宴の席。

 華琳が言い放った「堅苦しいことは忘れ、思い思いに楽しみなさい」という言葉に、みんながみんな好き勝手に行動する。

 準備に時間がかかったこともあって、既に時間は夕刻。

 落ちてゆく陽に心の中で手を振りつつ、俺は各国の将ひとりひとりに声をかけ、自分の中の認識を変えていっていた。

 もちろん全部を変えるわけじゃなくて、変えるものなどきっと少しだけ。

 小さな歯車の向きを変えることで、大きな歯車をゆっくりと動かすようにしただけなのだろう。自分でもよくわかっていないそれでも、それはきっと……そう悪いことでもないように思えた。すごく、ものすごく今さらだとは思うけど。

 

「……うん」

 

 結論から言うと、夢の中のような出来事は起こらなかった。

 みんな騒ぐだけ騒いで、俺という存在に気がつくと笑いながら傍に寄り、無理矢理酒を奨めてくる。

 それを飲むだけでみんながやんやと騒ぎ、笑顔で俺を引っ張る。

 

「え、ちょっ……」

 

 用意された簡易舞台の上では数え役萬☆姉妹が元気に歌い……ながら酒を飲み、へべれけ状態で聞いたこともない歌を歌っている。

 みんなのペースが段々と異常になってきているのを感じた。

 何故だろう、って思っていたんだが……どうにも華琳が、自分が作っていた酒を全部解放したらしく、その中の“とっておき”がまた美味いというので……みんながガブ飲みを始めた、と……そういうことらしい。

 

「あっはははははは! 北郷! 北郷~! 美味いなぁこれぇ~!!」

「……あの。白蓮? 軽く性格変わってないか?」

「そんなことはない! ……そんなことないぞぅ~……?」

 

 改めて見渡してみれば、全員真っ赤なこの状態。

 何処へ視線を向けても顔を真っ赤にした人達ばかりで、その心を惑わすお酒を作った張本人である覇王さまは……桃香に襲われていた。

 見てやらないのがきっとやさしさだ。

 そう結論づけて、胸を触られている彼女から目を逸らした。

 

「………」

 

 逸らした先にも地獄絵図、というか……なんだか、苦いながらも笑ってしまう“常景”。振り返れば“常にある”と認識出来るほどに、当たり前な景色がそこにあった。

 集まれば騒ぎ、静かには出来ない人達。

 けれど、そんな騒ぎの中にいることが、てんで苦には感じない。

 苦笑が漏れても、笑えているうちはまだ楽しいのだと誰かが言った。

 俺の場合は……その、漏れる苦笑にさえ幸せを感じる時があるのだから、きっとまだまだ付き合っていけるのだろう。

 改めてそう思えた瞬間には、俺の心は決まっていた。

 

(本当に……あと何回覚悟を決めればいいんだろうなぁ……)

 

 覚悟覚悟と言いつつも、自分の中では心が固まっていなかった。

 覚悟は決めるもの。けれど、決めるべき覚悟が定めるべき場所に置かれていなかった。

 ……足りなかったのはきっと、その覚悟が自分が辿り着くべき目標の先にあるかどうか。

 それが今、ようやく置かれたなら……あとはもう、ゆっくりとでも目標に向かって歩けばいい。それがわかったから、こんなにもあっさりと心は決まったのだろう。

 

「ん……」

 

 料理を食べて、酒を飲んでみる。

 騒ぐみんなの中でそれをするだけのことが、とても幸福に感じた。

 頑張ろうと思う理由なんて、“こんなひと時を守るため”ってだけでもいいのだろう。

 もう二度と迷わない───そう言うのは簡単だ。

 覚悟を決めることだって、何度だってするべきだろう。

 人は一回の覚悟で最後まで突っ走れるほど強くはない。

 壁があるたび、心が怯えるたびに、何度も何度も自分を奮い立たせなきゃいけない。

 奮い立つ理由が他人のためって理由でも、それが“自分のため”にも繋がれば、きっと頑張り続けられるだろうから……そのための覚悟をまた、この場で。

 

「んっ」

 

 まあでも、細かいことは今は忘れよう。

 楽しむ場では思い切り楽しんでおけばいい。

 結論をそこに置いて、俺は駆け出した。

 二胡を持っていた七乃にそれを借りて、隣に居た美羽を掻っ攫って舞台へ。

 天和や地和、人和が驚いていたものの、ニカッと笑ってみせると笑い返された。

 あとは好き勝手にやるだけだ。

 へたくそな二胡を弾き、みんなに笑われながらも美羽と歌う。

 下手な演奏に「力が抜けるでしょー!?」なんて地和に怒られるけど、そんな地和も笑っていた。しかし格好よく歌う部分で音が外れてしまい、キメに入ろうとしていた地和が盛大にズッコケた。

 いやすまん、悪気はないんだが。

 

「~♪」

 

 けどまあ。

 どれだけやっても笑いは絶えず、天和も地和も人和も、いつしかこんなへたくそな演奏に合わせて歌ってくれていた。

 美羽もそれに合わせて歌い、俺はそんな歌い方に驚きながらも微笑んだ。

 自分を前に。───いつもならそればかりを誇張した歌い方をしていた美羽が、相手に合わせようと努力していることが嬉しかった。

 “仲良く、皆に話かけられるのは悪くないものじゃの”と言っていた彼女だ。

 きっとこれは、祭りの雰囲気に乗っかっての、少し不器用な第一歩。

 それでも相当な勇気が必要だったのだろう。少し、声が震えていた。

 頭を撫でて、頑張ったなって言いたくなったけど……それは、あとで七乃がするだろう。

 だから俺はへたくそな演奏を出来るだけ上手くしようと努力……すればするほどヘンテコになった。雪蓮と祭さんが笑い転げている。妙なツボに入ったらしい。

 

「……はぁ」

 

 演奏(?)が終われば、贈られる拍手。

 その拍手に手を振る数え役萬☆姉妹。

 そんな中で、美羽は「う、うむっ」と拳をぎゅっと握ると、舞台を降りて駆け出した。

 ……多分、これからやることは相当な勇気が要るもの。

 俺はそれを近くで見届けるべきかを考えて───違う選択をした。

 地和にマイクを借りて、歌を歌った。

 

「───、───!」

「……!? ……、っ……?」

 

 今日の日はさようなら。

 帰ってきて間もなくの宴の時にも歌った歌を。

 視線の先には穏やかな笑顔のみんなと、その先で……雪蓮に頭を下げる美羽。

 この時代で頭を下げる行為は結構なものだと聞いたことがあるが……それでも美羽はやった。宴の雰囲気に乗じてっていう、ちょっとだけずるいところもあるだろうが───そうでもしないと持てない勇気ってものがある。

 だから───……雪蓮が苦笑と一緒に美羽の頭を撫でた瞬間、頬がどうしようもなく緩んでしまい、笑いながら歌う破目になった。

 言葉は聞こえない。

 でも、雪蓮に詰め寄る美羽を見れば、「まことか!? まことに許してくれるのか!?」みたいなことを言っているのが容易に想像できた。

 雪蓮も雪蓮で、「こんな場で謝られたら、許さないわけにはいかないでしょ」とか言っているのだろう。あの苦笑がいい証拠だ。

 

「~♪」

 

 いつまでも絶えることなく、友達でいよう。

 その想いを歌に乗せる。

 そんな中で、相当な不安と緊張を持っていたのか、美羽が泣き出して……それを雪蓮が抱き締めた。

 失ったものは取り戻せない。どうしようもないものは当然のようにあって、どうしてもそれが許せないと思うことだってたくさんある。

 でも、やっぱり誰かが言った。

 許せないんじゃなく、許さないだけなのだと。

 何かに贈る償いなんてし切れるものじゃないし、死んだ人は何も伝えてはくれない。

 結局は生きてる誰かが許してくれなければ誰も救われないし、許してもらっても犯した過去が消えるわけじゃない。

 ならせめて、そこから繋ぐなにかくらいは許してほしいと思うのだ。

 許し合って、手を繋ぎ合って、そこから作られるなにかを許してほしい。

 最初からそう出来ていれば、なんてみんなが思うことだ。

 けど、その時はお互いに譲れないものがあったから、そもそも戦なんてものが起きた。

 

「………」

 

 一度誰かが理想に届き、他を許したから今がある。

 手を取り合ったのは雪蓮と美羽だけではなく、一年前に三国が手を繋いだから今がある。

 そこから目指すものが全ての人にとっての笑顔になるかといえば、きっと否。

 でも……戦ばかりだった日々よりは、きっといいものなのだと……そう思う。

 そう思えるのだから、その先に向かうことを許してほしい。

 散っていった仲間や、それに泣いた家族のみんなに。

 

(俺達は、ここに辿り着けたよ)

 

 一緒に酒を飲んだ仲間の笑顔を思い出し、そう伝えた。

 伝えてからはただ歌った。

 歌いながら、自分が笑顔でいられたかまでは覚えていない。

 ただ、どうしようもなく胸を焦がす想いを届けたくて、声を高らかにして歌った。

 “今日の日はさようなら”ではなく、仲間に向けて歌う歌を。

 心に残る仲間の笑顔には、これからも頑張っていくことを歌で伝え。

 視界の先に居る仲間の笑顔には、これからもよろしくを歌で伝え。

 そして、それらの覚悟を自分に刻み伝えるために、胸にノックをして刻み込んだ。

 

「───はぁっ」

 

 やがて歌い終える。

 全力で、心を籠めて歌ったために、汗すら掻いた状況。

 しかしそんな疲れなど知ったことかと、お祭り好きの将らが舞台の上に上がってきて、一緒に歌い始めた。

 それがまた、全員が全員違う歌なもんだから、宴は一気に混沌と化すのだが……これからも歩く道は、そんな“めちゃくちゃ”なくらいが丁度いいと感じてしまった俺は、きっとこれからも笑って生きていけるのだろう。

 ……それがいつまで続くのかはわからない。

 以前華佗と話し合ったように、俺はこのままずっと成長しないのかもしれない。

 でも……たとえなにも成長しない、この格好のままにみんなを看取ることになっても。

 

「そうだよな───」

 

 いつまでだって歩いていこう。

 きちんと国に返せる日まで。

 いつか自分が守ってやれる時が来るまで。

 ……華琳を、看取る日がやってくるまで。

 大事なみんなが、笑顔で眠れるような世界を作ってゆこう。

 ともに死ぬことが出来るかはわからないけれど、笑ってはいられるであろうこの世界で。

 

 

 ───彼女と。彼女の今までの覇道と、これからのみんなで歩む覇道ともに。

 

 




 深夜テンションで編集していた所為か、予約投稿の時間がカオスな状態で保存されていました。
 そして86話の①が消滅していたあの絶望感……。
 ハーメルン様、自動保存機能をつけてくださり、心の底からありがとうございます。

 さて、次回からIF扱いのお話となります。
 こうだったらなが無駄に詰め込まれたお話だとか、恋姫ブログで小ネタとしてあったものを凍傷風に書いたものなどがありますが、今まで通り何気なく目に通すだけで充分です。
 ではでは、少しでも楽しんでいただけたなら……。

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