真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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87:三国連合~IF/ほのぼのとしたい④

136/ただ自然に身を委ねて

 

 時間は普通に流れる、という言葉を誰かが使った。

 普通という基準が誰のもので、どういった経ち方が普通なのかは誰も知らない。

 けれど、なにかに夢中になると時間が経つのが速いように、その逆もまた存在する。

 それを考えれば、普通がその中間に当たると考える。

 楽しくもなくつまらなくもない、確かに普通の時間を過ごせば、時間は普通なのだろう。

 

「んーと……ここは隊のやつらと話し合うとして……あー……もうちょっと人が居るな」

 

 そんな普通の中、考えることは山ほどある。

 一日中を部屋の中で過ごすことが多くなった日々は、退屈ではあるのだが、つまらないとまではいかない。

 都で過ごすことを考えれば、期待と不安を混ぜたような……そう、普通の時間だった。

 

「華琳ー、人材のことなんだけど───……って居ないし」

 

 日常は普通に流れてゆく。

 部屋を出ても、行くとしたら厨房か華琳の部屋か中庭ばかり。

 書類整理をしながらも氣の鍛錬は毎日行い、じわじわとではあるが強化されていっている……と思う。

 

「まあ、これは後回しにして別のことだな、よし」

 

 やることは山ほど。

 覚えることも山ほど。

 それが苦かと問われれば、普通だとしか答えられない。

 別の言葉を並べても、きっと辿り着く答えは変わらないだろうから。

 

「……………」

 

 集中しすぎるといろいろなものが遮断されるのは、呉に居た時とあまり変わらない。

 ふと気づくと夜になっており、誘いに行ったけど返事がなかったという声を結構耳にしたりする。さらに言えばその所為で食いっぱぐれてしまい、夜に城を抜け出して、アニキさんの店へ食べに行くこともしばしば。

 ツマミ騒動以来となる来訪だったんだが、アニキさんはニカッと笑いながら迎えてくれた。

 

「おっ、また来たなぁ?」

「いやははは……ごめん、空いてる?」

「おう、ちっと待ってな。おぅい、そこ詰められるだろ、詰めろ詰めろ」

「おぉお? おいおいおい、キツイぞぉ? ここ」

「うるせっ、どーせ男しか居ねぇんだから、男の親睦深めやがれ」

「ごめん、お邪魔しますっと」

「あー、いいってことよぉ! こうなりゃもう肩組んででも詰めてやらぁ! おうおう、御遣いのにーちゃん、こっち座れこっち!」

「てめぇはもうちっと酒くせぇのを直してから言いやがれ! こっちだー! 御遣いのにーちゃん!」

「んで? なに食うんだ?」

「あ、とりあえず酒」

「たっはっはっはっは! そうだよなぁ! まず酒だよなぁ! せっかく腹空かせてんだから、すぐ酔うためにも酒だぁなぁ!」

「なぁ~に言ってやがる! じっくり酔うのがいいんじゃねぇか! にーちゃんよぉ、まずメシにしろって。俺のつまみ少しやるからよぉ」

「そんな残りッカスで腹が膨れんのかぁ?」

「膨れてんのはてめぇの腹だけだろうが!」

「馬鹿言え! おめぇの連れよりゃ痩せてるよ!」

「てんめぇ妊婦に喧嘩売ってんのかぁ!? 俺のツレの前で同じこと言ってみろぃ!」

「それこそ馬鹿言え! 張り手一発で首が折れちまうだろ!!」

「だぁっはっはっは! ちげぇねぇや! ま、ま、これ食えにーちゃん!」

 

 町に出れば笑いがあって、その笑いの中で肩を組んで、酔って笑って、話して笑って。御遣い御遣い言いながらも、きちんと一人の飲み仲間として肩を組んでくれることが嬉しかった。

 

「しっかしまぁ今さらだけどよ、このにーちゃんが支柱ねぇ。まあ、そうなってくれるならありがてーやなぁ」

「ああ。大会見た時ゃちびるかと思ったね。あんな激しいの、今回が初めてだ」

「元譲さまだけは毎度毎度全力だったが、いつもはもっと礼儀正しい、落ち着いた戦いばっかりだったもんなぁ」

「え? そうなのか?」

「そーなのさ。あの場に居たやつなら間違い無く思うね。“戦なんて二度とやっちゃならない”ってな。その同盟がにーちゃんの肩に乗っかってるって考えりゃあ……遠慮ねぇ言い方をすれば、にーちゃんには期待してるんだよ、み~んなな」

「複雑だなぁ、それって」

 

 口ではそう言うが、望むところだった。

 自分の肩に戦云々が圧し掛かるのは怖い。だが、それは受け取り方の問題だ。

 戦なんてしなくても、もうみんなの願いが叶う現在があるのだ。わざわざする理由も無ければ、みんなも戦をしたいなんて言わないだろう。

 だから笑った。苦笑ではあったが、笑いながら話を続けた。

 

「つーかな、こんなのほほんとしてそうなヤツが、元とはいえ呉の王様に勝っちまったんだよなぁ……」

「御遣い兄ちゃん、おめぇ、もしかしてすげぇ男なのか?」

「だっはっは! アニキさんよぉ、すげぇかどうかなんて、種馬って時点でわかりそうなもんじゃねぇかぁ!」

『ああ、そうだったな』

「全員で納得!? みんなしてなんだよその生暖かい目!」

 

 いろいろツッコミたいところがあれば全力でツッコミを入れ、肩を組んで笑い合う。

 最近は将のみんなよりも、兵や民のみんなと騒ぐ時間の方が多くなっている気がする。

 気がするだけで、実際は違うけど……なんというか、色濃い時間を過ごしている気がするのだ。愛し合うとかじゃなくて、ええっと、なんて言えばいいのか。……そうか、悪友と燥ぐ感覚と似ているんだ。

 “城の中だからああしなきゃいけない”って考えから外れた、北郷一刀で居られる時間。男同士だから出来る会話に、緊張しなくてもいい空間で、男たちで馬鹿をする。

 この世界に来てからというもの、自分にはそういうものを得る時間が極端に少なかった。

 

「っかー! しっかし美味ぇなぁこの料理! にーちゃんとアニキさんが作ったんだっけか!?」

「チビとデブもな。へっへ、まぁ自慢の味だぁな」

 

 美味いと言われるのが嬉しかったのか、照れが混じった笑みを浮かべるアニキさん。

 美味いと言った男も言葉の通りに料理を口に運んでは、追うように酒を口に含んで笑っている。なんというか、自分たちが作った料理が笑みのきっかけになってくれるっていうのは、くすぐったいものだ。

 だからアニキさんもあんなに嬉しそうなんだろう。

 

「ひっひっひ、この調子で行きゃあもっと繁盛するんじゃねぇかぁ?」

「気持ち悪ぃ笑い方してんじゃねぇよ。俺ゃ繁盛する店で働くよりも、こうしておめぇらと騒げるくらいが丁度いいんだよ」

「アニキさん……あんた男だなぁ。よし、俺の娘をやろう」

「ばかやろ! なに言い出しやがるんだ! 産まれたばっかだって言ってただろうが!」

「だはははは! 言う割りにゃあ顔赤ぇぜぇ旦那ぁ!」

「かっ……! 黙って食え! この酔っ払いが!」

 

 そんな空間の中で一緒に笑っている。

 飲む酒はちびちびと。料理もじっくり味わいながら。

 こういう場所ってなんかいいなって毎度毎度思いながら、結局閉店までを過ごした。

 時間が経って解散して、部屋に戻っても騒いだ興奮で眠れなくて、やっぱり勉強をする。

 

「………」

 

 とっくに寝ていた美羽の頭をさらりと撫でてから机へ向かう。

 向かいながら氣の強化を少しずつ。

 なんだかんだやっているうちに机で寝てしまい、また朝を迎える。

 そんな日々の繰り返しに慣れていくと、少しずつ変化をつけていく。

 

「放出しながらすぐに錬氣…………くはぁっ……! 疲れるなぁこれ……!」

 

 今までやっていたことを一回り大きくしたものだ。

 勉強の量も増やして、鍛錬は思いっきりやって、休む時も思い切り休む。

 美羽の練習に付き合っていたら、少しずつではあるが二胡も弾けるようになってきた。

 それは本当に少しずつの進歩であり、通りかかった桂花に鼻で笑われるようなものだが、むしろその鼻での笑いを驚愕に変えてやるつもりで頑張った。

 しかしまあ、上達ってものは本当にジワジワとしか進めないものであり、驚く顔が見れるのはまだまだ先になりそうだ。

 

「……一刀。これはなにかしら?」

「え? なにって……ミルクきな粉?」

 

 もちろん料理も忘れていない。

 時折、華琳がなにかしらの刺激(新しいなにか)を欲しがるので、それを味覚でなんとか落ち着かせたりしている。ツマミの研究はこんなところでも役に立った。

 あれ以来、俺がオヤジの店に行く時には声をかけなさいと言われているのだが……よかったのかなぁこれ。いや、そりゃあ華琳と一緒に居られるのは嬉しい。でも、男同士でしか出来ない気兼ねない会話というものがあるわけで。

 それを言ってみれば華琳も一応納得はしてくれた。条件として、酒を飲む時には俺がツマミを作るというものを突きつけて。

 

「あら……甘いのね」

「っへへー」

「なによ。だらしのない顔をして」

「いや、だってさ。やっぱり自分が作ったもので誰かが喜んでくれたら嬉しいだろ?」

「……一刀。私は“甘い”と言っただけで、喜んだりは───」

「顔、緩んでるけど?」

「!!」

 

 あ。赤くなった。

 と、まあ日々はこんな感じだ。

 華琳が作った酒に俺が作ったツマミ。

 それを飲んで少し上機嫌になる華琳と、それを見て心穏やかになる俺。

 俺の方の“日本酒?”も今のところ順調だし、今回ばかりは成功しそうで嬉しい。

 今回の名前は北颪。“きたおろし”と読む。北の山風って意味だな。“颪”自体が北の風だから北颪って名前は少しヘンなんだけど、まあ気にしない。

 

「それより一刀。知識の補充は順調なのかしら」

「ああ。毎日毎日しっかりやってるよ。……罰のほうも、もちろん」

「ええ結構。ふふっ……」

「? いきなり笑ったりなんかして、どうかしたか?」

「素直に感心していたのよ。これが、入りたての頃は右も左もわからない、仕事といえばサボったり空回りばかりだった男とは思えないわ、とね」

「……感心か? それって」

 

 思わず苦笑しながら頬を掻いた。

 しかし彼女は“上機嫌です”って言葉を顔に貼り付けたような笑みを浮かべ、「素直にと言ったでしょう?」と言う。

 

「最初からなんでも出来る者など居ないとはいえ、いい拾いものをしたわ」

 

 や、拾いものって……まあ事実か。

 じゃあ俺は、華琳のその“いい拾い物”って認識を壊さないように頑張るか。

 華琳が素直な感心を向けてくれるのは、普通に嬉しいし。

 …………たとえ受け取る側が“素直な感心”には聞こえなくても。

 

「そか。それじゃ、もっと頑張ってみるよ」

 

 俺の言葉にくすくすと笑う。

 なにかツボにでも入ったんだろうかとは思うものの、いつも通りの言葉が返されると俺も笑った。

 なるほど、拾われた方としても、いい場所に拾われたもんだって思える。

 存在を張ってまで意思を貫いた甲斐があったってものだ。

 保身に入れば負けていたであろう戦の日々を思って、俺も笑う。

 これもまた、なるほどだ。

 拾った者の言葉なんて無視していれば負けていたであろう日を思えば、巡り合わせってものを笑いたくもなる。華琳も今、そんな心境なんだろう。

 幸いにして、“頑張ることが出来ること”が山ほどだ。

 やることに困ったらとりあえず書類整理。……それが、今の自分に出来ること。

 部屋に戻ればまだまだ“やること”が待っている。

 

「ところで華琳。氣の強引拡張の許可を───」

「だめね」

 

 上機嫌なのをいいことに、さらりと言ってみたら断られた。

 ……やっぱり地道にいくしかないか。

 辛かろうが、手っ取り早く氣脈の広げ方を知るとダメだなぁ、横着したくなる。

 あれが横着と言えるほどに楽であったなら、禁止もされなかったんだろうが。

 断られることは想定内だったから、俺は笑いながら厨房をあとにした。

 さて。

 都のために覚えることも随分と読んできた。

 もちろんまだまだ覚えることはあるが、その都で自分がやってみたいことをやるのも悪くない。この時代に天の知識を組み込みすぎれば未来がどうなるのかなんて、まあ想像に容易いというか……あまりしたくはないものの、技術が先走らない程度にやっていこうと思う。

 

「じいちゃんが言ってたなぁ……過ぎた技術は自分の首しか絞めないって」

 

 大陸は自然が多い。

 そんな世界で人が生き易い条件ばかりを増やせば、人は見る間に増えるだろう。

 建物が増えて、自然が削られて、いつかこの“当然になった空気”も濁るのかもしれない。そして自分は、その変化にも気づけないくらいにその空気に慣れてしまうのかもしれない。それは……なんだか嫌だって思った。

 

「栄えるばかりが未来のためじゃない……よな」

 

 自分勝手だけど、知識を提供するかどうかはその場で生きる者に委ねるべきだ。

 俺は……この時代の“流れ”に身を委ねてみようと思う。

 邪魔にならず、しかし栄えすぎない程度の知識を提供して。

 いつまで生きるのか、もしや果てはないのかもしれないこの体で。

 

「ははっ……さて、仕事仕事っ」

 

 苦笑をこぼして歩く。

 さて。

 国に返すための一歩をまた積み重ねますか。

 受け入れられるかはわからないが、出来ることをやったと……せいぜい胸くらいは張れるように。




 夜のお楽しみの回。
 いえ、性的な意味ではなく。むしろアニキ回。結構アニキさん好きなんですよ。
 だから萌将伝でまた悪役やってる時にはもう黒いものがモシャアア……と……。
 しかしアレですね。改めて、恋姫の世界はほんと、何が存在して何が無いのかがわからない。
 味噌は普通ならこの時代には無いが豆板醤などはある。
 酒が作れるなら味噌もOK。というか64で既に出してます。香りだけですが。
 ここでの味噌は、一刀が消える前に華琳に渡したメモに製造方法があった~などで保管してください。

 えー、はい、さて、87話をお送りします、凍傷です。
 大掃除の季節ですね。仕事場でも家でも。いやぁ、指が割れます。掃除の時はゴム手袋したほうがいいですね。蒸れて乾燥してアカギレにならんようにも気をつけないとですが。

 と、こんな感じで、小説の内容は山も大してないものが続くと思います。
 平穏ほのぼのを書きたかった……! という思いをぶつけているだけな気もしますが、続きます。
 IFらしさはどうしたとツッコまれればそこまでですが、多少非常識へ向かうかもしれないので。“恋姫ではそれくらい常識だ”って言われたら焦るほかないです。
 自分の中での恋姫はシリアス、日常、超展開で構築されているものなので、そこから外れることはあまりないかもですが。
 もしもこんなことが起きたなら。結局はそこです。
 相変わらず作者の妄想を書いたものとなるでしょうが、のんびりお付き合いください。
 飽きたらそこまででいいんです。暇潰しの役に立てたなら最強さ。なにが最強なのかは気にしないでください。
 では、また次回で。

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