真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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 さあ! IFだよ! 今まで異常に、もとい以上に内容がアレだよ!
 とりあえず恋姫ブログであった小ネタを実際にやってみたり(祭さんが飲んだら子供になったアレとか、滅殺はわわジェットとか)、華琳と雪蓮が叩いてかぶってじゃんけんぽんしたり、黄の王ジェレマイアだったり、一刀が南蛮密林生活記があったりとか。
 大丈夫、きっと萌将伝で“水着のために兵を率いてモンハンチックに龍と戦う”っていう超展開よりは、普通の世界が待っていると思うの。

 あ、ちなみに凍傷は悪いクセとして、途中途中にシリアスを混ぜなきゃ死んじゃう病にかかっているので、無駄にそういうシーンが出てきます。
 でも基本はほのぼのとか馬鹿話が大好きです。


三国収束編
88:IF/もしも未来が過去ならば①


137/平和に慣れたその先で

 

 ゴロロロロロ……ゴシャッ。

 

「………」

 

 広い青空の下、城や街の外である草原にて。

 今……俺達は歴史を前に立っていた。

 歴史と言うには時代がいろいろとアレだとか細かなツッコミはいい。

 ともかく、この時代でも先の時代でも普通は作ろうとは思わないものを完成させた。

 本来ならば三国連合の際に発表するつもりだったそれは、出来上がってはいたが“これでは無理だ”と俺がダメ出しをして、さらに改良を加えたもの。

 その名も───

 

「どーや隊長ー! これが! これがウチの氣動自転車“片春屠(かたぱると)くん”や!!」

「カタパルトってお前……。なぁ。いっつも思うんだが、そういう名前はどこから来てるんだ?」

 

 「んーなんえーから」と俺の疑問なぞそっちのけで、乗り方の説明に入る真桜。

 俺も、もう包帯を取った手を軽く握ったり開いたりを繰り返し、話を聞いた。

 軽く握る分にはもう問題ない。いいことだ。

 

「この片春屠くん自身に、止まる手段はないっちゅーことをまず覚えといて」

「いきなり怖いなおい!! そういうのは普通最後に言わないか!? で、忠告聞かずにワクワクしていた俺がさっさと乗ってドカーンとかそういうオチで!」

「や、名前の由来もそういうところから来とんねん。おっきぃ声では言えんねやけどな? ほら。片春屠くんの“片”は、片道を突き進むって意味で、春は…………ほら、わかるやろ? で、あとは相手も自分も屠るって意味で」

「……つまり、これは突撃だけをして相手を屠る、あの将軍さまを思って作ったと」

「…………絶っっっ対に……名前の由来は内緒やで?」

「華琳とか秋蘭は気づきそうな気もする」

「よっしゃ名前変えよ!」

「しかし片春屠くんか。素晴らしい形だな片春屠くん。きっと雄々しくも華麗なる動きを見せてくれるんだろうな片春屠くん」

「連呼やめぇえ!! 今変えるすぐ変える! ちょっと待ったって隊長ぉお!!」

 

 真桜が屈み込み、コメカミに指をあて、横線のような目になってうんうんと唸り始めた。口はなんというか、栗のような形だ。

 

「………」

 

 ふむ。

 しかし見事なまでに二輪車だ。

 バイクとはいわないが、こう……ロードローラーをバイクに近くした感じだろうか。

 ひょいと跨ってみると、まず違和感。

 自転車では味わえないほどの重量感が得られた。

 一言で言うと“滅茶苦茶重い”。

 

「真桜、これって───」

「んあーっ! 隊長が片春屠くん片春屠くんいうから他の名前が浮かんでこんなってもうたやーん!!」

「それは(なす)り付けっていうんだ。考えた名前には責任を持とうな。俺は紹介された名前を口にしてただけだし」

「うぐぅっ……隊長のいけずー……」

「はいはいいけずですよー。それでさ、これってどう動かすんだ?」

「強ぉなったなー隊長……。前までは急に話振られればおたおたしとったのに」

「各国で散々と振り回されれば、そりゃあな……」

 

 とはいえ、少しでもスルースキルを発揮できるのは、相手が真桜だからだろう。

 凪や沙和にも言えるだろうが、他となると中々に難しい。

 これも慣れだろう。

 なんだかんだで真桜や沙和や凪とは付き合いが長い。

 

「んじゃ、説明始めよか。まず跨り方はそれでええ。次にそこの……そうや、そこを握って───」

 

 姿勢は自転車やバイクと変わらないらしい。

 ロードローラーを自転車に変えたようなものではあるが、タイヤ……というかローラー部分の幅が広いので、両足をつかなくても倒れることはない。

 もっともこれと一緒に倒れたりしたら、片方の足が確実に潰れるだろう。転倒事故は絶対に起こせないシロモノだ。

 

「ん、そんでええ。で、氣を送る」

「ん……」

 

 バイクに跨りハンドルのグリップを握るようにして、ゆっくりと氣を纏わせる。

 ハンドル部分に真桜の螺旋槍が回転する仕組みにもなる絡繰が組み込まれているらしく、そこに氣を送ることで車輪が回る……そういう仕組みなんだそうだ。

 少し氣を埋め込んでみれば、ずず……と車輪が回り、氣動自転車が前に進む。

 

「お、おお……!」

 

 感激……!

 自分が係わったものが成功の一歩を踏み締めんとする瞬間、俺と真桜は顔を見合わせた。

 もちろん笑顔で。

 そんな喜びを前に、俺の心はどうしようもなく弾んでしまい、つい送る氣の加減を誤った。

 あとの出来事なんてものは、まあ……誤ったという言葉の通りだった。

 

 

   ギャアアアアアア…………!!

 

 

         どっかぁーん……!!

 

 

……。

 

 派手に吹っ飛んだ俺と樹木。

 片春屠くんの名は伊達ではなく、衝突した樹木をいとも容易く破壊して見せた片春屠くんは、操縦主である俺が空を跳ぶことで停止した。

 どうやら氣が無いと満足に動くシロモノではないようで、多少の斜面でもどっしりと動かないようだ。そして風になった俺は地面を“バキベキゴロゴロズシャーアーッ!”と派手に転がり滑ったわけだが。

 

「真桜……プロテクター作って……お願い……」

「や……ちゅーか……よく無事やったなぁ隊長……」

「ふふっ……春の名を真名に持つ者の突撃には慣れてるからな……」

 

 のちに彼女は言う。

 “あん時の隊長の目は、ある一部だけ悟りを開いた者の目やった”と。

 それはそれとして、痛む体を引きずりつつも、片春屠くんの無事に驚愕する。

 

「傷すらついてないぞおい……」

「そらそうや。隊長の氣で包まれるからそれが緩衝材になるし、素材も半端なもんは使ってへんもん。ま、その分金はかかったけど」

 

 なるほど。貰った給料のほとんどを真桜に預けたのは間違いではなかったか。

 ……前借りもしちゃったから、しばらくはただ働きだよちくしょう。

 追加で「あとはぶつかっても対象が壊れんよう、氣の調整をするんは隊長の役目や」と言っている真桜の顔は、実に生き生きとしている。

 

「で、ようするに止まるには氣を抑えればいいんだよな?」

「おっ、一発でわかるなんて、隊長も氣ぃっちゅうもんがわかってきとるやん」

「そりゃ、毎日使ってればね」

 

 樹木を破壊したままのそれに跨り、氣を解放。

 すると前に進むそれを、ぐっとハンドルを捻り、方向転換する。

 

「おお……曲がる曲がる。名前の由来の通り、曲がれなかったらどうしようかと」

「や、さすがにそれやったったら職人の名折れやろ」

「そりゃそうだ。名の通りに完成させるのも、ある意味では職人業とも言えるけど……さすがになぁ」

「なー……」

 

 突撃前進しか出来ないんじゃあ、どこにも向かえないし方向転換させるには重過ぎる。

 まあ、なにはともあれ一つの目的が達成されたわけだ。

 あとはどれほどの速度が出るかとか、氣を送らなくなったらどれほどの速さで走行速度が落ちるのか。それを確かめておかないとな。

 急にビタァッと止まられたら、また俺が空を跳ぶことになりそうだし……。

 

「よし! 真桜、後ろに乗ってくれ!」

「おお! 道連れやな! ってお断りするわ!」

「物騒なこと言わない! 作ったなら信じよう!?」

 

 漫才みたいなことをしながらも、真桜はにししと笑って後ろに跨る。

 その際、俺の体に腕を回して抱き付くわけだが……皆まで言わない。

 背中がこう……いや、言わない。

 

「ん……最近ご無沙汰やし、これが終わったあとでも、どや?」

「ハハハ、ナニヲオッシャルエッセンシャル。もはや俺は我慢の男! 欲望の波などとっくに手懐けていられたらいいなぁ!」

「……隊長、途中から希望的ななにかになっとるでー……」

「ほっといてくれ! 俺はもういっぱいいっぱいなんだよ!!」

 

 だが大丈夫。まだ藤巻十三にはなっていない!

 あれをやらかしてしまったら、一緒に寝ている美羽にもう顔向けできないし!

 そんな考えを頭から追い出すべき、「ちゃんと掴まってろよ」と真桜に告げて走り出す。

 まずはゆっくり、徐々に速く。

 広大な平野を走り、速度調整を感覚で覚える。

 

「面白いなこれ……氣の加減ひとつで随分と細かく速度を変えられる」

 

 自転車のギアとか顔負けだな。

 もっとも、氣をずぅっと使うわけだから長距離すぎるとバテる。

 錬氣が出来て、最大量が多い人用だ……けど、案外鍛錬に向いている。

 

「よしっ、思い切り氣を籠めてみるから、しっかり掴まっておけよ真桜!」

「お、お……おおっ? なんや隊長、急に口調が男らしく───」

「男は乗り物で変わるんだ!」

 

 未知との邂逅、様々な興奮を前に燃えない男は頭脳派だけで良し!

 そんなあなたは突っ込んだ男に向けて“たわけが”とだけ言ってやってくれ!

 そして俺は───そんな馬鹿で痛い! じゃなくて居たい!

 

「全速前進っ! うぉおおおおおーっ!!」

「ほわぁああっ!!? ちょ、強っ! 速ぁぁっ!? ちょちょちょちょぉおお待ってぇ隊長ぉおっ!! 自分で作っといてなんやけど馬より速いなんて予想外───うひゃあああああーっ!?」

 

 手に氣を籠めて、今出せる全速力を。

 平野を一気に駆け抜け、体を傾けて曲がったりをして、しかし遠心力で吹き飛ばされそうになりながらも無理矢理にしがみついて速度を堪能する。倒れないようにローラー部分が平らであるため、傾けたところで曲がれるわけではないが、まあ気分だ。

 しばらくすると真桜も慣れたのか、笑いながら様々な動作のチェックに励んでいた。

 おお……これはいい気分転換になる。

 しかも相当速いし氣の消費も少ないとくる。

 こうなるとアレの開発も夢ではないのでは? と思ってしまう。

 

「なぁ真桜ー! これなら案外空だって飛べるかもしれないぞー!」

「空ー!? これで空は無理やろー!」

「あー! だからー! これは地面を駆けるもので、空はプロペラで飛ぶんだー!」

「ぷろぺらー!?」

 

 走りながらで、風がバババババッと衣服を揺らす速度の中、叫びながらの会話。

 そう……この技術があれば、人は空を飛べるかもしれない。

 前にも言ったが、その気になれば空だってというのはあながち虚言にはならないかもしれないのだ。

 プロペラ付きのリュックみたいなのを背負って、ロケットベルトのようにシュゴーと。(*ロケットベルトについては、参考としてパイロットウィングスをどうぞ)

 たしかなにかのCMで、ロケットベルトを背負った誰かが空を飛んでいくってのがあったなぁ、なんてことを思い出しながら、空への思いを膨らませた。

 さすがに考え事をしながらだと危ないので、速度は緩めた状態で。

 

「やー……けどこんだけの速度が出せるんやったら、各国への送り迎えとか楽でええわ」

「一人くらいしか乗せられないけどな。重要人物との会談だけなら、これで迎えに行くのもありだなって思うよ」

「そん時に駆り出されるんは隊長やろけどな」

「? 凪のほうがいいんじゃないか? 丁寧だし、迎えられたほうも嬉しいだろ」

「あー、あかん。凪はそら氣ぃは上手く使えるよって、進むだけならええねんけどな。絡繰の操作っちゅうもんがどうにも下手なんよ。複雑な絡繰の篭を凪に渡して、絡繰の説明させる場面、想像してみぃ」

「………」

 

 なんというか、あたふたしながら絡繰を爆発させている姿が浮かんだ。

 うん、氣はいいんだ。でも絡繰となると……なるほど。

 

「実際にはどうなんだ? やっぱり苦手なのか?」

「絡繰夏侯惇将軍を壊されて以来、触らせるんが怖なっとる」

「なるほど」

 

 ようするに真桜の苦手意識か……わかるようなわからんような。

 むしろ真面目に働いてれば、あの時も壊されるようなことはなかったろうに。

 

「やー、けど気持ちええなぁ。暑い日が来たら、これで遠乗りってのも悪くないわ。あ、もちろん使うんは隊長な?」

「仮にも隊長って人をなんだと……」

 

 言いながらちらりと後ろを見てみると、なんというか凄く嬉しそうな真桜と目が合った。なにやら異常なほどご機嫌らしい。

 まあ、作った絡繰が予想以上に速かったり性能よかったりして、馬よりも速いし気持ちいいとくれば、気分もよくなるか。

 

「このまま国境まで行ってみるか?」

「や、どんだけこれが速くてもそら無理やろ」

「仕事サボらなきゃいけなくなるよな。……ん、よし。今度誰かが他国に行かなきゃいけなくなった時は、これで送り迎えを───」

「気に入ってくれたんは嬉しいけど、隊長がそれやったらウチが大将にいろいろ言われんねんけど」

「じゃああれだ。華琳が他国に行きたいって言った時に」

「あー、なるほどなー……それやったら大将自身のことやからな~んも問題あらへん」

 

 歯を見せるくらいににんまり顔の真桜が、きししと笑う。

 や、声からしてそんな笑い方をしてるんだろうなって想像だが、その表情が簡単に想像出来てしまうんだから仕方ない。

 そんな想像も苦笑と一緒に散らして、氣動自転車を許昌前に着けると一息。

 降りて体をぐいっと伸ばしながら、ふと気になったことを真桜に訊いてみた。

 

「と、ところで真桜っ、これには武器はないのかっ? ほら、山賊撃退用のドリルとかっ」

「や~……隊長? そんな少年みたいな顔でなにゆーとるん……」

「───はっ!? …………あ、いや、べべべつに暴力のためとかじゃなくてだな? えぇと……あー……そ、そうっ、やっぱり乗り物にはそういうのがあったりするのかなーって!」

 

 氣で動く乗り物を見てしまった。

 その時、きっと俺の中の“常識の壁のひとつ”がパリンと割れたんだと思う。

 じゃなきゃいきなり“武器はないのか”はない。自分でもそう思う。しかもその事実にツッコまれるまで気づけなかったというバカっぷり。

 

「あんなぁ隊長、んーなん心配せんでも、全速力出されたらまず捕まえることさえ出来へんよ」

「春蘭あたりなら出来そうじゃないか!」

「いつから春蘭様は山賊に───! ………………あ、や、やー……」

 

 口ごもる気持ちもわからないでもない。

 だって山賊が将をやっているような気質なんだもの。

 

「……片付けるか」

「せやな……」

 

 最後はなんだかしんみりムードで片春屠くんを片付けた。

 人の印象って、やっぱり大事だよなー……と、二人して空を見上げながら言った、とあるよく晴れた日の出来事。


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