真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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88:IF/もしも未来が過去ならば④

 人が集まるところには、よからぬことを考える者も当然現れる。

 都建築に参加してからしばらく経った頃、夜の番をしていた日のこと。

 遠くから何かが近付く音……言ってしまえば大人数が駆ける音が聞こえ、見てみれば…………遠くてよく見えない。

 

「賊だ。工夫を起こせ」

「! 賊ぅ!?」

 

 思春が教えてくれた言葉は、人を驚かすには十分な一言だった。

 しかし、そうしろというのなら素直に実行。

 緊急事態の中では経験者の指示に素直に従う。これ、大事。

 “でも”だの“だけど”は置いていかなきゃ行動が遅れるだけだ。

 なので氣を両手に凝縮させて、地面へ向けてどっかーん!!

 ……音にびっくりして、天幕から出てきた工夫たちに賊の襲撃を伝えた。

 

「なるほど、音で起こせば手間にはならん。次からはそうしよう」

「……俺が?」

「他にあるか?」

「ぎょ、御意」

 

 思春さんたら、どんどんと俺の扱いを覚えていって……正直ちょっと切ないです。

 だが頷こう。利用価値がある内は、って条件で魏に入った俺だから、自身の力を利用されて頷かないわけにはいかない。……嫌な意味での利用だったら素直に怒るけどね、さすがに。

 

「み、御遣い様! あっしらも戦いやす!」

「それはダメ! 優先させるべきは命で、次にこの都と資材だ! 賊は───すぅ……はぁ……全員叩きのめす!!」

 

 襲い掛かる敵を相手に、自分はどうする?

 殺す殺さない以前に、どうしたい?

 ……そんなの、殴ってやりたいに決まっている。

 人が懸命に働いてるってのにそれを横から奪って楽をしようなんて、許せるもんじゃないに決まってる。ただ、命まで奪うことはないと思うくらいだ。くらいだ、けど……一人だけ馬に跨り、誰よりも先にここへ辿り着こうとする敵は、刃物を手に下卑た笑いをこぼしているように見えた。

 その後ろからは、そいつの仲間であろう賊たちが走ってきている。

 命を奪い、その上資材までも奪おうというのだろう。

 

「………」

 

 それを見たら、すぅ、と自分の中から様々な問答が掻き消えた。

 甘い考えは大事だ。平和の中にはそれがなければ、ただの厳しく息苦しい世界になる。

 けど、だからってなんでも許していいわけじゃない。

 いい加減に現実を見ろ、現実を思い出せ。

 殺しに慣れたいわけじゃない。でも、自分がやらないからって相手のソレまでも許していいわけじゃない。

 平和の文字に甘えるな。

 相手が“人を殺せるモノ”を手に、殺す気で襲いかかってきたのなら、それはもう……戦なのだから。

 

「なぁ思春……御遣いとして、同盟の支柱として、俺は殺しや略奪を許すべきかな」

「許して、やつらがソレを止めるのか?」

「……だよな」

 

 答えなんて決まっているのだ。

 だから、もう考えるな。

 戦える者が、ここには俺と思春しかいなのなら……ここが、“返すために戦う時”だ。

 

「じいちゃん……力を振り翳す場所、俺が思ってた場面よりもひどいもんだった。でも……なんでなんだろうなぁ。やっと少し返せるかもしれないのに、ちっとも嬉しくないんだ……」

 

 持ち上げ、握り締めた拳を見下ろし、胸をノックした。

 

「悪いとは言わないぞ。お前らは……人の笑顔の前で、しちゃいけないことをした」

 

 心の中を殺気で満たす。

 敵だ。

 相手は敵だ。

 だから───今だけは。返すべきこの時だけは、せめて鬼になれ。

 

「───」

 

 弓を手に、矢を番える。

 標的は一番前を走る筋肉質の男。

 引き絞り、放った木の矢は───男の肩を、貫いた。

 

「…………あ───」

 

 ぎゃあ、と叫ぶ声。

 痛みと勢いに体を揺らし、落馬した男は後ろを走る賊たちの足元に消えていった。

 あの勢いでは大人数に踏まれただろうが……込み上げる罪悪感と言えばいいのだろうか、それを殺気で押し潰した。

 悪いと思うな。今は思うな。泣きたいくらいに辛いなら、全てが終わってからにしろ。

 俺はもう……戦場に立っているのだから。

 守るべきものを、背にして立っているのだから。

 

「……思春」

「ああ……ここからは私が、とは言わん。精々腹に力を籠めろ。吐いてもいい、泣き言も聞こう。だから……今は鬼になれ」

「……ああ。はは……思春は、俺にはやさしくないなぁ……」

「不満か?」

「……いや、ありがとう。……だから、終わったら思春の胸で泣いていい?」

「なっ……待て、それはっ───……貴様」

 

 軽い冗談を言ってから歯をギリッと食い縛り、胸を思い切り殴りつける。思春がじとりと睨んでくるが、その視線もすぐ敵に向けられる。

 冗談を言わないと自分が保てなくなりそうで怖かった。

 そんな恐怖を受け取ってくれたのか、思春はもうなにも言わなかった。

 

「………」

 

 腹には全力で力を籠め、握る得物は黒檀木刀。

 足に氣を。木刀に氣を。心には覚悟を。“敵”を潰す……覚悟を。

 果たして自分は本当に泣くだろうか。

 そんなことを考えてから、地面を蹴った。

 次いで思春も走り、敵へと挑む。

 

「ッ───おぉおおおおおおおっ!!!」

 

 遠慮はしない。

 木刀に籠めた氣を横薙ぎに放ち、まずは牽制。

 錬氣しながら敵の中に突っ込み、無遠慮に木刀を振るう。

 剣閃で吹き飛んだ前列を蹴り抜くように走り抜け、氣を籠めて硬質化した木刀が足の硬い部分……骨を殴る音を聞く。

 加速も剣閃も、氣を弾けさせた疾駆も思うさまに使った。

 せめて早く戦が終わるようにと。

 しかしながら注意を払わないわけじゃあない。

 振るわれた剣を避けて、勢いのままにたたらを踏みながら肉迫する相手の顔面に、木刀を握り締めた拳をぶちかます。

 鼻血を噴いて倒れる敵を踏み潰すように蹴り、それと同時に別の相手を殴りつける。

 こうまでしなければすぐにまた立ち上がる。

 動けなくなるくらいに痛めつけなければ、繰り返すだけだ。

 痛くなければ覚えない。

 だれが最初に言い出したかは知らないけど、もっともだ。

 

「ふっ! せいっ! だぁっ! はぁっ───くっ!!」

 

 足を強打する。

 足に痛打を入れれば逃げられない。ただそれだけの理由で、抵抗する気力を奪ってゆく。

 殺すつもりはない……その考えは甘いだろうかと自分に訊いてみる。

 ……心の中の自分は、苦笑するだけだ。

 だが、自分の想像の中のじいちゃんは、笑っていた。

 

「な、なんだこいつら……! たった二人なのに! この人数が怖くっ!? えぁっ……あ? あ、ひ、ひぎゃぁあああああっ!! あ、あっ、俺の、俺の足がぁあああっ!!」

 

 怖いに決まっている。

 ただ、覚悟があるだけだ。守りたいものがあるだけだ。そのために強くなってきた自分があるだけだ。

 だから、立ち向かわなければ嘘になる。

 これまでの自分が嘘になる。

 そうしたくないから、振るえる。怖いけど、立ち向かえる。

 骨を砕く音に心が震えるけど、それでも今は、守るもののために。

 

「く、くそっ! 誰だよ! 工夫と甘っちょろい御遣いしか居ないだなんて言ったのは! こ、こんなの聞いてねぇ! ちくしょうがぁああああっ!!」

 

 叫ぶ男が鈍器を振るう。

 それを左手で受け止め、衝撃を右手に装填。

 そのまま振りかぶり───

 

「へ───? あ、ひぁっ、ぶげぇえあああっ!?」

 

 木刀ではなく、拳で殴った。

 男の体が宙を舞う。

 比喩ではなく、夜の闇の中を裂いて飛んだ。

 ぐしゃり、という音を聞いて、敵がそちらへ振り向いた時、誰かが「ひぃ」と声をもらす……それからは早かった。悲鳴を上げて逃げ出す賊と、それを追う思春。

 そうだ、逃がしちゃいけないんだ。

 じゃなきゃ、また繰り返すだけだから。

 地の果てまでも追いすがり、全員を叩き伏せるつもりで───

 

「っ!」

 

 ならば、こちらが取る行動はひとつ。

 手段を選ばず無遠慮に、というのなら、これほど丁度いいものはない。

 身を翻すと天幕近くに置いてあった氣動自転車に跨り、そこに氣を籠めた。

 あとは……天でならば絶対にしてはいけないことをするだけだ。

 この世界でならば馬などでやるのだろうが、これは相当に危険だ。

 

「おぉおおおおっ!!」

 

 走り出す。

 向かう先には逃げる賊。

 その脇を一気に走り抜け、擦れ違うと同時に木刀を振るう。

 氣動自転車の勢いとともに振るわれたソレは賊を吹き飛ばし、近付くために思い切り氣を籠めていたこともあり、加減が上手く効かなかったために賊は派手に地面を転がる。

 が、それに一瞥をくれると次の賊へと走る。

 ……今、自分はどんな顔をしているのだろう。

 笑って……は、いないと思う。

 ただ、平和に慣れてしまった部分の自分は泣いているかもしれない。

 ……それを情けないとは、やっぱり思わない。

 平和の中でやさしくあろうとするのは間違いではないと思う。

 ただそれが、鍛えた力を振るうべき時にまで自分を弱くするのなら、その事実だけを情けないと思おう。

 

「せぁあああああっ───あ? あぁあああああっ!?」

 

 しかしながら、人にも時には誤算がある。俺の場合はしょっちゅうだが。

 賊に迫り、木刀を構えた先で、賊がヤケを起こして振り向いたのだ。

 走りながらだから、こう……ぐるっとターンをするように。

 で……俺はその場を走り、撃を落とそうとしていたわけで。

 

「へっ!? あ、キャーッ!?」

 

 バゴシャア、と。

 女性のような悲鳴をあげた賊が空を飛んだ。

 いわゆる轢き逃げアタックである。

 キュリキュリと錐揉みで飛び、広い大地の草が生えた場所へとドグシャアと落下。

 さすがにヤバイと感じたんだけど、賊は元気に起き上がり、なおも走ろうとする。

 すごい耐久力だ……というか、氣動自転車に纏わせていた氣が緩衝材になったのかもしれない。最初に大木に衝突して以来、どこかにぶつかってもいいようにと氣をクッション代わりに纏わせていたから。

 たださすがに落下ダメージはあったのか、それとも錐揉みの所為で脳が揺れたのか、起き上がりは元気だったものの、途中でぱたりと倒れた。

 

「………」

『………』

 

 俺、沈黙。

 ちらりと、立ち止まってこちらを呆然と見ている賊達に向き直ると、ビクゥッと肩を弾かせた。うん、気持ちはわかる。わかるけど……わかるからこそ覚えてほしい。

 華琳が目指し、皆が傷つきながら至ったこの平穏。

 それを穢さんとする輩には……御遣いと俺自身の名において、覚悟してもらう!!

 

「ひぃいっ! き、来たぁああっ!!」

「ひっ、ば、ばかっ、こっち来んじゃねぇ! 俺を巻き込むんじゃ───って、えぇ!? ななななんでこっちにっ……ひ、ひぎゃああごべぇ!?」

 

 逃げ出す者の中から、巻き込むんじゃねぇなんてぬかしたヤツを先に跳ね飛ばした。

 もはやヤケクソではあるが、悪行とはいえ同じなにかを目的としたことをしておいて、巻き込むななんて都合のいいことを言った事実にカチンと来たからだ。

 地面を転がったそいつの傍に氣動自転車を止め、木刀を突きつけて睨みつける。

 

「ふざけるなよお前……! っ───戦人の誇りを持てなんて言わないけどなぁっ! 仲間を大事に思えないヤツは賊ですらないぞ!!」

「は、は……!? なな、なにを言ってやがる……! お前らが勝手にそう呼んだだけじゃねぇか!」

「……仲間じゃなくて、危険になったら身代わりにしたいから一緒に居たとでも言うのか」

「……へっ、へへっ! てめぇにゃ───関係ねぇよっ!」

「───!」

 

 賊が、手をついた地面の砂利を握り、俺の顔目掛けて投げつけた。

 それは咄嗟に閉じた瞼や頬などに当たったが、直後にメキャリという音が響いた。

 次いで、悲鳴。

 

「……砂での目潰しは結構だけどさ。来るってわかってれば目を閉じて木刀振るえばいいだけなんだよ。あからさまに砂掻き集めてて、気づかないとでも思ったのか……?」

「い、ひ、ひっ、いぃ……!!」

 

 指に当たったのか、おかしな方向に曲がっている指を庇いながらズリズリと逃げる賊。

 顔は涙に塗れ、表情は怯えしかない。

 

「なんで……な、なななんで……! あ、あんた天の御遣いとかいうやつだろ!? ちょっと前に三国同盟の支柱になったとかいう……! そんなやつがなんで俺達を潰すんだよ! 同盟の証みてぇなヤツが人を傷つけていいと思ってんのか!?」

 

 男は助かりたいがために、思いつく限りの言葉を並べ、叫んでいる。

 俺はその言葉を男の目を見ながらしっかりと受け止めた上で、頷いてやった。

 

「当たり前だ。同盟の証だから全員にやさしくあれ? そんな甘い考えで柱が勤まるか。罪には罰を。そんな、子供でも教えられれば覚えることをお前達はやったんだ。裁かれる覚悟が無かったなんて言わせない」

「なっ……あ、あぁあああるわけねぇだろそんなもの! 俺達が! 俺が楽するために始めたのに、なんで裁かれる覚悟なんざ決めなきゃならねぇんだ!」

「そっか。じゃあ、これから俺はお前を叩き潰す。もう二度とこんなことをしたくなくなるまで、泣こうが叫ぼうが殴り続ける。いいよな? 俺がそうしたいから始めることだ。裁かれる覚悟なんて決めない」

「───! 冗談じゃねぇ! ふざけるな! な、ななななんだよそりゃあ!」

 

 男が叫ぶ。腰が抜けたのか、轢かれた拍子に体を痛めたのか、尻餅をついて逃げながら。

 

「ふざけんな。そんなのこっちのセリフだ。俺だっていい加減頭にきてるんだ。みんなが死に物狂いで戦ってようやく辿り着いた場所で、働きもせず改心もせずに人から盗んで楽をしようとすることばかり。それで邪魔されれば“ふざけるな”? 支柱だからやさしくあれ? ……王の夢の先を穢されて喜ぶ支柱が何処に居る!!」

「ひぃっ!!?」

 

 メキメキと腹の底で膨れ上がっていた氣を遠慮なく解放する。

 叫ぶ言葉に氣が混ざり、浴びせられた男は怒鳴られた犬のように身を震わせた。

 

「ああそうだ。確かに悩んださ。処罰された賊を思って、散々と悩んだ。でもあいつらがやったことは確かにやってはいけないことで、反省する気もなかったから処罰された。……大切なものを壊されて怒らないヤツは居ないよな。それが自分たちだけのものじゃなかったら当然だ」

 

 ギロリと睨む。

 男が、ジリジリと下がってゆく。

 

「この平和は確かに魏の天下にあるけど、もう魏だけのものってわけじゃない。この平和の先で自分の夢を改めて叶えようとしてる人達が居る。それをお前らは乱そうとしたんだ」

「だ……だったらなんだってんだよ」

「もう、この平和は魏の……華琳だけの“大切なもの”じゃないんだ。三国共通の大切なものを壊されそうになって、黙ってる支柱が居ると思うのか?」

「───あ……」

 

 俺に被害があるだけなら俺の意思で許せる。

 けど、様々な人の努力や死の先にあるこの平和を乱すっていうのなら、許す道理も庇う理由も一切ない。

 前の山賊はなんとかしてやりたいと思った……それは確かだけど、狙われたのが俺だけだったからだ。それ以前から商人が襲われた事実があろうが、殺したかどうかもわからないのならまだ許せるんじゃないかって希望を持った。

 でも……今回は自分の中で撃鉄がガチンと降りた。

 弾き出される弾丸は怒りとなって、丹田から氣を溢れさせる。

 

「だから遠慮はしない。我慢は得意だったけど───……っ……その我慢だってしてやるもんか……! 俺はもう、“返すべき国”の平和を守るためだったら! 鍛えてきた自分の全てを懸けて……! ~……“国の敵”を叩き伏せるっ! そう決めたんだ!! 決めたから───!」

「あ、ひっ───!?」

 

 歯を食い縛り、拳には氣を。

 振り抜く拳が尻餅をついたままの賊の顔面を捉え、持ち上げるようにして弾き飛ばした。

 

「っ……甘さだって、いくらだって噛み砕いて越えてやる……!!」

 

 人を殴る感触が心に痛みを走らせる。

 けれどそれを飲み込むと、思い出したように逃げ出す他の賊の後を追う。

 粗方は思春が叩きのめしてくれたようだが、それでも足の速いヤツってのは居る。

 そんなやつらを氣動自転車で追い、追い付くや叩きのめした。

 耳に届くのは悲鳴と、仲間に罪をなすり付けようと叫ぶ、必死な声ばかり。

 そんな、“言葉だけ”の、絆もなにもない輩を、ただひたすらに無力化していった。

 

……。

 

 全てが済み、呻き声をあげる賊たちを縄で縛ると、彼らを国境まで連行した。

 そこで彼らの処罰云々を頼むと、戻ってから作業を再開。

 呉側の関所だったけど……蓮華はどんな処罰を下すだろうか。

 そんなことを考えながら、さあ作業をと気分を切り替えた途端、足がかくんと力を無くし、自分の体がとさりと地面に座るのを……ぼうっと見送った。

 

「あ、あれ?」

 

 立とうとしても立てない。

 すぐに工夫や思春らが歩み寄ってくるが、苦笑しながらなんでもないと言うと、もう一度立とうと試みて……失敗する。

 そんな俺の腕を持ち上げ、グイと立たせてくれた思春が呆れた顔で言う。

 「戦には向かないな、貴様は」と。

 呆れ顔のくせに、その目はどこか“仕方のないヤツだ”といった色も混ざっていて、どう反応すればいいのか迷っているうちに工夫たちに囲まれた。

 

「すげぇ! すげぇや! 御遣い様ってなぁ戦も出来るのか!」

「大したもんだぁ! 俺んとこの倅と同じくらいだってのに!」

「え、や、そのっ、えぇっ!?」

 

 囲む速度は兵にでも欲しいくらいに素晴らしいものだった。

 あっという間の包囲、逃げ道の封鎖。

 これが出来れば敵が来ても怖くないんじゃ……と驚くくらい。

 まあそれはそれとして、自分が守って自分が感謝されるのになんて慣れていない俺は、四方からくる感謝の言葉に目が回る思いだった。

 え、えぇとほら、守りたくてやったのに、そうして当然のことに真剣に感謝されるとこう……あぁあああ顔が熱い! ちりちりする! 俺自身も覚悟を決めながら、理解するものを得ながら戦ってたから褒められたもんじゃないのに!

 救難信号を表情に載せて思春を見るが、“自分でなんとかしろ”とばかりにフイと顔を背けてしまう。おまけに「胸は貸さん」ときっぱりと仰った。

 ……いや、それは俺も忘れてたからいいんだが……───。

 

「………」

 

 恥ずかしいし照れるしだけど、手には人を殴った感触が残っている。

 奇妙な罪悪感が浮かぶ。

 やらなければいけないことをして、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。

 ただ、全てを救うことなんて出来ないと知っているのだから、これでよかったのだと頷いた。俺が俺の意思で守りたいと思う場所のため、国に返すために、練磨した力を振るった。

 そうであることなんて、じいちゃんに土下座する前に決めた筈じゃないか。

 迷うな、揺れるな。

 ゲームや漫画のように全てを守るなんてことは出来ないんだから。

 ならせめて、自分に出来る精一杯で国に返すことだけを考えて、笑いながら生きていけ。

 

「……よし! じゃあみんな! もう一休みしてから作業を───」

「御遣い様ぁ、そりゃ無理ですって!」

「興奮しすぎて眠れやせんって!」

「あ、ぅー……そりゃそうか。じゃあ無理にならない程度に作業再開ぃいっ!!」

『うぉおおおおおおーっ!!』

 

 工夫たちのテンションは凄かった。

 叫んでみれば叫び返して、拳を突き上げれば拳を突き上げ返す。

 まるで兵へ鼓舞でも飛ばしたかのような気分になったが、言った俺も舞い上がっていることに気づく。

 けれどそれを鎮めてしまうのはもったいないと感じて、その高揚を持ったままに作業を再開。

 複雑な気持ちをいよいよ“未来”に向けながら、鼓舞って大事だなぁと改めて思った。

 





 なして山賊が一刀が雪蓮に勝ったこと知っとるん? という話は、山賊が襲った商人から聞いたということで。
 小説内で書いてみたらやたらと説明くさくなってしまいました。
 なのでここで説明することに。
 しかし、うちの一刀くんは悩んでばっかりだなぁ。
 個人的には「切り替えたー!」とか言って躊躇無く相手を処罰とかは勘弁……いや、そうなると常識破壊のあのバカはどうなるのか。
 ともかく、二言目には殺すだの死ねだのは勘弁ということで。
 オリジナルならまだしも、余所様の主人公ならこうであってほしいって願望があります。
 でもいい加減前を向かせましょう。平和ボケはいかんとです。

 平和の中で起きる厄介ごとって辛いですよね。
 鍛錬してようが、心がぬるま湯に浸かりきっています。
 たとえ孫悟飯が鍛錬しながら大人になったとしても、油断はあったんじゃないかと思うのですよ。
 そんなお話。

 いやしかしこの恋姫という作品……真桜が居れば出来ないことなんてあんまりないんじゃないかなぁ。
 はい。この物語は作者の妄想と願望で出来ております。
 こうだったらいいなが実現出来るのって、自分の中だけですよね……悲しいことに。
 実現出来ても何処か違うのが余計に悲しい。

 では次回で。

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