真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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───/───

 まるで公開されている映画を見ているようだと、その時はそう思った。
 自分は真っ白な世界で座っていて、白しかないその場で色の無い物語を見る。
 子供の頃から楽しいことが好きな白が居た。
 その白は自分の楽しいを優先することが好きで、いつも身勝手。
 自分が楽しければいいだなんて思いながら、我が物顔で好き勝手するものだから、友達と呼べる白は居なかった。
 幼馴染は居たようで、頭の中がガキ大将気質の白を仕方のない人だと苦笑していた。

 そんな白が、ある日を境に楽しいことを探すのを止めた。
 辛くて周りに手を伸ばしても、今までしてきたことのしっぺ返しか、周囲は白に冷たく。
 白は周囲の白から突き放され、馬鹿にされ、自業自得の孤独を味わった。
 それでも辛かったから手を伸ばしたある日、白は周囲の白に殴られた。
 殴られる理由が解らなかったが、痛かったから抵抗する。
 すると、より多くの白に囲まれ、殴られた。

 白は、抵抗はするが殴りかかりはしなかった。
 攻撃をしない白を、周囲は馬鹿にする。
 様々な罵倒が飛び、逃げようとすれば通せんぼをされ、突き飛ばされ、尻餅をつく。
 自分を見下ろす周囲の白を見上げ、見下ろされるのが嫌で立ち上がる。
 その時、一人の白がある言葉を言った。
 それで、今まで耐えていた白はその白を殴った。

 ───どれだけ馬鹿にされても譲れないものがある。
 自分が殴られるよりも守っていたかったものがあることを、白は初めて知った。
 知った時には目の前で年老いた白が背を向けて頭を下げていて、白は俯き、涙しながら拳を握っていた。

  ───いつか過ちを犯してしまい、許されたいと思うことがあったとする。

 無意識だろうと、忘れたはずだろうと、きっとそれはいつまでも胸にあって。
 ふとそれを思い出した時、どうしようもなく泣きたくなる。
 でも……その時。
 謝りたい相手が既に居なかったら、どうしたらいいんだろう。
 何に向かって謝ればいいんだろう。
 墓にさえもう向き合うことの出来ない白は、涙しながら生きていくことだけ許された。
 謝る言葉も誰も認めてはくれず、白はどの色とも本当にわかり合えないままに生きてゆく。

 そんな映画を見て、同情からだろうか。
 せめて白が、最後くらいは幸せであることを願った。
 他愛無い他者の人生。
 きっといいこともあり悪いこともあり、辛いながらも普通の幸せってものを得るのだ。
 それが物語ってものだろう。
 そう、ぼんやりと映画を見ていた。
 ……ただ、白が生きていくだけの映画を。



  誰にだって幸せは待っていると思う。

  それは大小様々で、幸せなんてものはきっと受け取り方次第だ。

  そんなことを何気なく、暢気に思ったことがあった。

  だから……その人生はきっと間違いだったんだと思ったんだ。

  楽しいって思える瞬間と、辛い時間とが釣り合っていなかった。

  瞬間と時間。

  言葉だけでも差がある、そんな白の物語。

  目が覚めて、白の夢から戻った時、視界が滲んでいることに気づく。



───最後まで見た映像には、滅びしかなかった。



89:IF/都暮らしの空の下①

138/なにをもってかんせいといいませうか

 

 “振り返れば時は過ぎ、懐かしきあの頃を思い出す”。

 言ってしまえばそう変わり映えのしない日々は流れ、三国の中心にとうとう都が完成。

 完成とは言っても“住める程度には出来た”というものであり、整えなければいけない部分はまだまだ存在した。それでもここまでで何ヶ月もかかり、それまでに鍛えた知識や経験は、これからの日々にきっと役立てることが…………出来るといいなぁ。

 

「都かぁ……さすがに三国が協力して作ると、とんでもないな」

 

 目の前に広がる光景にただただ驚く。

 魏だけで作ろうとしたら、完成はいつになったかわからない。

 手を繋ぐ第一歩として、支柱という都を完成させたようなものだ。

 そんな場所へと、今日は視察に来ているわけだが……その広さに驚くばかりだ。

 もちろん呆れるほど、というほどでもないんだが、それこそ三国中心……“国境”に出来たものであり、他の国に行くのならここを通ってくださいって街が出来た。

 ほら、えーと……FF11あたりのジュノとかそんな感じの。やはり呆れるほどの広さではないものの、それなりには広いのだ。

 

「いや、ていうか……もしここに住むようになったら、アニキさんの店にはもう行けないのか?」

 

 ……夜の楽しみがひとつ消えるのか。

 くっ、これは中々に厳しい……じゃなくて。

 そうじゃないだろ俺、もっと頑張ろうって決めたじゃないか。

 でも息抜きは欲しいです。はい、間違いようのない心からの気持ちです。

 どうしても行きたくなったら片春屠くんの出番だな。

 

「こんにちはー! どうもー!」

 

 歩くと、あちこちに居る工夫さんたちが挨拶してくれる。

 俺もそれに返しながら歩く。…………後ろに思春を連れて。

 一緒に楽しく行きたいんだけど、声をかけても大した反応を見せてくれない。

 もっと打ち解けていこうって、昨日の夜に話し合ったのに…………あれ? 俺が一方的に話しただけで、特に返事をもらってないような…………あれぇ?

 

「おう一刀~! ───ひぅ!? じゃじゃじゃっじゃじゃじゃなくて御遣い様ー! ごごごごきげんうるわしゅー!?」

「いやいやおやっさん! 大丈夫だから! 一刀で大丈夫だから! ……思春もそんな、睨まないでくれよ頼むから……」

「……別に睨んでいない」

 

 挨拶がてら、手伝える仕事があれば手伝う。

 アレコレやっている内に工夫のみんなや、住む予定の人とは随分と打ち解け、一種の仕事仲間めいた関係が築かれている。砕けた言葉を使うことも多々あるものの、将の誰かと一緒の時はやっぱり口調は固くなるみんなと。

 ……ただ、まあ。工夫のおっちゃんと肩を組んで豪快に笑っていた時、気配を消していた思春がスッと気配を戻した時のおっちゃんたちの叫びは……思い出したら鼓膜が破れそうだ。

 あれ以来、おっちゃんはやたらと周囲を気にするようになってしまった。そりゃあね……突然近くに殺気満載の女性がヌゥっと現れれば、ホギャアアアとか叫びたくもなるよ。一種のトラウマだ。 

 

「さてと。…………思春、仕事していい?」

「工夫の手伝いではなく、視察ならばな」

「ぬぐっ……や、けどさ。今日はほら、“三日目”だし……」

「ああ。華琳様に視察に行きなさいと言われた日でもあるな」

「………」

「………」

「鍛錬がしたいんだって!」

「だめだ」

 

 即答だった。

 ……賊襲撃の事件が起きてから、自分の意識改革は始まっていた。

 やさしいだけの存在ではなく、きちんと“支える者”になろうと鍛錬の日々。

 政務をしながら氣を使い、警邏をしながら氣を使い、あらゆる場面で氣の鍛錬をした。

 ああ、そりゃもうこれでもかってくらいした。

 お陰で氣脈は随分と広がり、氣で体を動かすことにも随分と慣れた。

 賊を射って以来、弓矢の命中率も上がり、10発に一発は的に当たるようになった。

 後ろや地面や空に飛んでいた頃から比べれば素晴らしい進歩だ。

 ただ、困ったことに10発1中。

 最初に一発目が(あた)ると、見事なまでに9発外すなんてことがよくあった。

 過去形だからって今は大丈夫、なんてことはもちろんない。

 それどころか10発全部外すことさえあるくらいだ。

 思春が言うには、やはり“当てる気が足りない”だそうだ。

 

「じゃあ視察を早く終わらせよう。もちろん全力で真面目にやって」

 

 さて。

 そんな俺は現在、都の中心で親に小遣いをねだる子供のように思春と話している。

 お目付け役と言っても差支えなどないほどに、思春が俺の管理……もとい、監視をするようになったのはいつだろう。

 なんにでも思春の許可が要る、とまではいかないものの、これは結構辛い。

 賊の群れ(言い方悪いか?)と戦ったことが思春の口から華琳に伝わった際、この監視は絶対なものへと変貌した。前までは少し注意が飛ぶだけだったのに。

 “監視なんて嫌じゃー!”とばかりに氣を使い、全力で逃げ出した数分後、俺は目を朱く光らせた朱色の君に縛り上げられ、華琳の前にどさりと捨てられ、華琳にとてもとてもありがたいお説教を頂いた。

 

「……貴様は変わらないな。鍛錬を好む男など、貴様くらいだ」

「あのー、思春さん? 呼び方が“お前”から“貴様”に戻ってるのですがー……」

「そうされたくなければ人に迷惑をかけるのはやめろ」

 

 いい加減疲れたとばかりに、俺の目を真っ直ぐに見ての溜め息。

 国のために生き、国に返すために頑張る意思はもちろんあるが……それ=俺の自由の全否定とは違うのですよ思春さん。

 

「人は娯楽があるから頑張れると思うけどなぁ。俺にとってのそれが、今は鍛錬ってだけなんだよ。こういうのってやる気がそっちに向いてるうちにある程度進んでおかないと、やる気が起きなくなるし」

「普段から十分氣の鍛錬をしているだろう。どういう神経をしている」

「いやいや机に齧り付きながらじゃ、氣で思い切り体を動かす鍛錬は出来ないだろ! 錬氣と瞑想ばっかり上手くなっても、苦手な放出系を鍛えられないと辛いんだよ!!」

 

 あれか!? 体から氣を放出して、それで鍛えろとでも!?

 ……そういえば以前、氣で発光したなぁ俺。

 じゃなくて、あんなのじゃ放出とは言えないだろ……。

 あれ? でも発光の要領で氣を放出すれば、放出系の鍛錬にもなるのか?

 よしやってみよう! 男なら迷わずGOだ! 俺はもう……迷わない! 迷うなら、やってしまおうホトトギス!

 さあ、迷惑にならないように空に目掛けて体から氣を放出!

 ……さて。体から光を放出する際、掛け声的ななにかは必要だろうか。

 ああうん、カラ元気の頃からいろいろとはっちゃけようとした反動というか、無駄なところにも力を入れようと……って、誰に言ってるんだ俺。

 で、掛け声だが。

 

1:ウォオオーォォォォーッ!!(不死英雄戦士)

 

2:エターナルッ! ネギッ! フィーバァーッ!(ジャック・ラカン)

 

3:霊体撃滅波!(小笠原エミ)

 

4:さらばだ、ブルマ、トランクス、そしてカカロットよ……(ベジータ)

 

5:ボディィイチェェエエーンジ!!(ギニュー)

 

 結論:…………1と3と4は危険だな。そして5、それは放出だけど攻撃じゃない。

 

「とりあえずジェノサイドクラッシュは浪漫だと思うんだ」

「なんの話だ」

 

 うん、なんだろう。

 頬を一度掻いたのち、キッと空を睨んで集中。

 体の奥から湧き出る光を一気に外へ出すつもりで、空へと放った。

 

「………」

「………」

 

 それは、モシュウというヘンテコな音を立てると霧のように消えた。

 ……試しとして少量を切り離して出したのが不味かったのだろうか。

 ならばと、今度は全力で錬氣集中。

 体が氣でミチミチと熱くなるのを感じるほどに氣脈に蓄積させてから、それを一気に体の前半身から空へと向けて……溜めて溜めて……こらえてこらえて……一気に放つ!!

 

「俺はつるはしよりもマトックが好きだぁーっ!!」

 

 解る人にしか解らない言葉を叫び、大空へと氣の塊を飛ばした。

 人型のそれはドンチュゥウウンと空を飛ぶ。

 それはまるで、恋との模擬戦で空を飛ばされた自分をシルエットとして見ているような気分であり、何故だか涙腺が……と思った途端にソレが空中でパーンと破裂した。

 

「………」

「………」

 

 思春が何故か無言で俺の肩をポムと叩いた。

 まるで“ああはなるなよ”と心配してくれているようで、今度こそ俺の涙腺は崩壊した。

 うん……気をつけよう……。

 

「というわけで鍛れ───」

「だめだ」

「即答!?」

 

 鍛錬とすら言わせてもらえなかった。

 

……。

 

 視察が終わると、都に集まったみんなと一緒に食事を摂る。

 まだ店らしい店も、カタチとしては存在しているものの、開店はしていないので炊き出しめいたものになる。

 それらをみんなで笑いながら摂ると、自分たちはこんな風に過ごしてみたいって……夢を語るように話し合う。

 俺はといえば、そんなみんなの声を聞きながら、頭の中で纏めていく。

 民の声は大事なものだ。

 それは王が聞こうと思っても軽く聞けるものじゃない。

 だから聞けるときにはきちんと聞いて、それを纏めたものを華琳に届ける。

 ただ……今まではそれでよかったけど、これからはその声を俺自身がなんとかしなきゃいけなくなるんだよな。

 

(……いやいや。一人でなんでも出来るなんて思うなよ、北郷一刀。誰かに頼ることを恥だなんて思うな、覚えるな)

 

 一人でなんでも出来るようになることを目指さないわけじゃない。

 ただ、“頼れる時は頼るべき”を忘れないことを覚えておく。

 なんでも自分でやろうとする存在は、確かに格好いいかもしれないけど……それって孤独だと思う。自分より上手く何かを出来る人が居るなら、それはその人に任せるべきだって言葉がある。それは確かにそうだ。

 けど、自分一人だけがなんでも出来たら、誰も手伝う必要がない。

 俺は……そんなのは嫌だと思う。一緒に覚えて一緒に笑って生きていたい。

 

  ───需要と供給。

 

 やっぱり、これってすごく大事だ。

 商売でも人間関係でも。

 

「思春、食べてる?」

「ああ。普通だな。いつまで経っても、貴様の料理は普通だな……」

「いや、そんなしみじみ言われても。うーん……」

 

 料理の上達も考えてみようか。

 天の料理ばかりで驚かすんじゃなくて、この地での料理で驚かせられるように。

 ……うん、なんかいいなそれ。珍しさで華琳に驚いてもらうよりも、なんか嬉しい。

 そのためには流琉に料理を教えてもらって…………あー……教えてもらうために許昌と都とを往復する……のか? ……料理の道は険しいな。

 

(……ハテ?)

 

 都に来てくださるメンバーの中に…………料理がお得意なお方、いらっしゃったかしら?

 

(………えぇっ……と…………───普通ってステキだよね!)

 

 もう考えないことにした。

 

……。

 

 都が出来てからは、積極的に都に泊まることが多くなった。

 許昌での仕事(書簡整理など)を都に持ち込み、それが終わると積み上げ、纏まったら許昌へと片春屠くんで運ぶ。

 そういえばこれが出来てからというもの、馬に乗ってない。

 

(馬かぁ……麒麟は元気かな)

 

 夜、寝台に寝転がりながら、一頭の馬を思う。

 隣にはいつかのように思春。

 随分と一緒に寝ない日が続いたものの、なんというかあっさりと二人で寝ることが決まった都での日々。

 久しぶりだとなんか抵抗が……と言った俺に、思春はあっさりと「そうか」とだけ言って寝た。うん、もしかして俺って既に男として見られてない?

 などと思いつつ、なんとなく俺には背を向けて寝ている思春の顔を覗こうとするのだが、

 

「いつまで起きている、さっさと寝ろ」

 

 そうしようとしたのがバレたのか、未遂で止められた。

 どういう察知能力をしてるんだろうかこの人は。

 

(………)

 

 そういえばと、携帯をソッと取り出す。

 で、きちんと思春がこちらへ背中を向けていることを確認しつつ、画像一覧を。

 最初に映っている自分と及川の画像に苦笑を漏らしつつ、後側にある写真を見て笑む。

 思春の珍しい寝顔の写真だ。

 しかしながらバレるといろいろと危険なので、さっさと次の写真に移る。

 

「……ん」

 

 なんだかんだで写真が増えている。

 中でも華琳のものが多いのは、まあなんというか……アレだよな。

 

(及川かぁ……一緒に飛ばされたりしたら、毎日退屈だけはしなかっただろうな)

 

 今でももちろん退屈はないが、最初の頃なんて挫けそうになることが多かった。

 それを思えば、あの元気な男が隣に居るだけで、随分と救われたんじゃないかと思うのだ。もちろん、やかましさと女の子の話によって。

 モテはするけど特定の彼女はいないという、なんとも不思議なやつだった。

 

「……寝るか」

 

 及川の笑顔を思い出しつつ、寝ることにした。

 その日見た夢は、プレハブの及川の部屋でゲームをやるという妙に懐かしいものだった。


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