真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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91:IF/低い視界で見るものは①

142/少年よ、大志を抱いて日々を踊れ

 

 -_-/───

 

 とある日。

 都の奥側に位置する屋敷の来客広間で、その声は漏れた。

 

「……もう一度報告しなさい、思春」

 

 声を発したのは覇王、曹孟徳。

 目を伏せ、少々呆れ顔のままに言葉を紡ぐが……内心は相当に動揺しており、“もう一度”と命じたのは自分の聞き違いであることを願った故だろう。

 命じられた思春は「は……」と返し、再度報告をする。

 

「通路の一角にて倒れる北郷一刀を発見。声を掛けてみましたが反応は無く、そのまま意識を失いました」

「ええ。それで?」

「以降は……───信じられぬのも理解出来ますが、目に映る通りです」

 

 言われた華琳はちらりと視線を動かす。

 その先には一人の男が居て、目が合うと妙な視線を向けられた。

 彼女は溜め息を吐くしかなく、そうしてから天井を見上げ、呟いた。

 

「どこまで退屈させない気なのよ、貴方は……」

 

 呟きが聞こえたその場に居た者は苦笑。

 一人、こてりと首を傾げる男はそののちに笑った。

 その姿は妙に小さく、服装は何処にでもあるような庶人服……を、短くまくって着せたもの。独特の跳ねたクセッ毛は明らかにその男特有のものであり、しかし“その男”だと認識するには…………そう、“あまりに小さかった”。

 

「なぁー、なんなんだよぅこんなところに連れて来て。ここ何処? お前ら誰だよー」

 

 ……北郷一刀ではあるソレは、子供になっていた。

 それに伴い記憶も当時のもの辺りにまで戻ってしまっているようで、彼女を彼女として認識していない。

 珍しそうに落ち着きなく動く視線はきらきらと輝いてはいるが、あとで不安に駆られて喚き散らかすのも想像に容易いと、華琳は溜め息を吐いた。

 

「説明したところで理解出来ないわよ。それよりも一刀」

「? なんでおれの名前知ってるんだ?」

 

 きょとんとする一刀をよそに、華琳は言葉を続ける。

 まず、自分自身が本当に北郷一刀なのかを訊ねるために。

 訊ねてみれば当然頷く少年。

 華琳は益々頭痛がするのを感じながらも、七乃が持ってきた薬と、それに付属されていたらしい書物を見る。

 

「……若返りの薬と成長の薬……さらには惚れ薬まで。どうしてこんなものが民の倉に存在しているのかと、いろいろと言いたいことはあるけれど……まあいいわ。ともかく、これを飲んだ所為で一刀は子供になったのね?」

「はい、恐らく。むしろそれしか理由が見つかりませんね」

「また厄介なものを飲んだものね……。まあ、数日で戻るとあるのだから、ほうっておいても勝手に戻るわよ。早く戻したいのであれば成長の薬を飲ませれば治る……のでしょうけれど、問題はその時の記憶ね」

「問題はそこなんですよねー……」

 

 ピンと立てた指をコメカミに押し当て、七乃は唸る。

 子供になった際に記憶が子供のものに戻るのなら、青年に戻っても記憶は青年のものになるだろう。

 ただし、記憶が子供の頃のものに戻るのと、大人の記憶になるのとでは意味が違う。

 子供から一気に大人になった場合、記憶の成長過程が存在しないことになる。

 つまり……大きなお子様の誕生という結果に繋がる可能性が高い。

 その場合、最悪元の一刀の記憶が上書きされてしまい、元に戻る可能性が消されてしまうわけで。しかしながら都の太守が居なくなったとなれば、都の機能に様々な問題が発生する。

 そこで華琳が取った行動は───

 

「はぁ……。早馬を出しなさい。しばらく私がここで政務を仕切るわ。許昌は秋蘭を主軸に、稟と風とで回転させなさい。それから春蘭と桂花には、私が居ない間につまらない諍いを起こせば罰を与えると伝えておくこと。以上よ」

「はっ───」

 

 思春が手に拳を合わせ、一礼して退室する姿を見送ると、華琳は再度一刀を見る。

 だぼだぼの服を着た少年。外見からすれば美羽ほどの幼い容姿だ。

 ソレが自分を物珍しそうに見ている。

 

「これが一刀ね……。子供の頃はやんちゃなものだろうけれど、“これ”はそれの塊みたいなものかしら」

「なぁ。ここ何処?」

「しかも遠慮なんてものがまるでない、と。まあ、予測出来る範疇ではあるわね」

「? なんだよ、教えてくれないのか?」

「ここは都。その場を纏める者が住む屋敷よ」

「?」

「……説明したところで理解出来ないでしょう?」

「うっ……わ、わかるぞ? わかってるよっ! なななに言ってんだよお前!」

「………はぁ。先が思い遣られるわ……」

 

 男版の春蘭を拾った気分だと頭を痛めた。

 しかしいつまでも頭を抱えていたところで始まらないのだ。

 地道に、まずは春蘭に言い聞かせる調子で言葉を並べてゆく。

 もちろん、春蘭に言い聞かせる場合はそのほぼが理解に結びつかないわけだが……

 

「えっ!? 俺今別の国に居るの!? すげー!」

「えっ?」

 

 あっさりと受け入れられた。

 子供の理解は、大人が思うよりも妙なところで加速しているものなのだ。

 なによりもまず“信じられないこと”が優先される、普通では在り得ないことに目を輝かせやすい、などが挙げられるが、そのほぼは大体が男側に備わる。

 

「他の人にめーれーしてたってことは、お前偉いんだよな! すげー!」

「な、え……?」

 

 その妙な理解力に、今度は華琳が慌てた。

 てっきり春蘭のように梃子摺るかと思っていたのに、と。

 

「で、お前ジョルジュだろ! 金髪で相手の名前がわからない時は、とりあえずジョルジュだってじいちゃんが言ってた!」

「───」

 

 とりあえず女性につける名前かそれがとツッコミそうになったが、大人の余裕を見せるために踏み止まった。というかジョルジュって誰? ジョルジュって何処?

 そんな華琳の戸惑いに、すっと横から割って入ったのは七乃だった。

 

「はいそうですよー? なんとここにおわす曹孟徳様は、この大陸を統べる王様なのです」

「王様!? おぉおお! すげー! ジョルジュすげー!」

「えぇそれはもうすごいんですからねっ? あとジョルジュじゃなくて、曹孟徳様です。あまり失礼のないようにお願いしますねー? 覇王とまで呼ばれる存在なんですよ」

「覇王! かっこいーなそれ! すげーじゃんジョルジュ!」

「………」

 

 きゃいきゃいと燥ぐ七乃と一刀。

 そんな二人をぽかんと見つめる華琳が小さく「手慣れたものね」と呟いた。

 ……ジョルジュは聞こえない方向で。

 

「お嬢様で慣れてますから。持ち上げることならお任せですっ」

 

 いつも通りに指を立ててのにっこり笑顔だった。

 なるほど、融通の利かなかった我が侭な頃から美羽と一緒に居るのだから、子供の相手など相当に手慣れていて当然か。

 溜め息を吐いている内にもとんとん拍子で話は進み、あっという間に現状を把握した一刀少年は華琳の前に跪いていた。

 この頃の子供は大体、ノリがいいものだ。

 

「知らなかったとはいえとんだ“ごぶれい”を、ジョルジュさま。俺は北郷一刀といいます。えっと、出来ることは剣道で、まだじいちゃん以外には負けてません」

「……七乃。あなたは教師を担当なさい」

「ええっ!?」

 

 そして、そんな一連の流れを見ていた華琳は随分とあっさり、七乃に仕事を与えた。

 安定した都には以前ほどの慌しい仕事は存在しない。

 ならばもし適役な仕事があるのなら、早いうちから仕込むべきだろう。

 そもそも蜀でも教師の仕事を担当したことはある筈だ。

 そういった考えを視線に込めて見つめてみれば、「ようやく少しは休めると思ったんですがね……」と漏らしつつも頷いた。

 覇王を前に随分と軽い行動ではあるものの、華琳は気にした風でもなくくすりと笑った。

 

「というか華琳さま? いっそ華琳さまが育ててみてはどうです?」

「育てる? いきなり何を言い出すのよ。これは一刀よ?」

 

 これ、と言いつつ跪く一刀を指差す。

 普段ではやらない行為ではあるが、これで案外頭の中は混乱しているのだろう。

 華琳の行動に七乃も苦笑を漏らすが、「だからこそ」と続けた。

 

「子供だからこそ出来ることがあるんですよっ。ほら、例えば何も知らない内に自分に都合のいいことを刷り込んでおくとかっ」

「物凄い笑顔で恐ろしいことをさらりと言うわね……」

「手始めに“言われれば馬車馬の如く働く”ように条件反射的なことを刷り込んで───あれ? 普段とあまり変わらないと思った私はおかしいんでしょうか」

「……」

 

 「元の姿に戻ったら、出来るだけ仕事が減るよう配慮してあげようかしら……」普通にそんな言葉が口に出て、溜め息を吐いた。

 

 

 

 

【強くなりたい】

 

 子供の居る日常というものを考えたことがないわけではない。

 自分が女であることを嫌でも意識させられた日から、いつかはそんな日がと想像したことなど当然あった。

 しかしそれが、意識させた男の面倒を見るという形で思い知らされることになるなど、一体誰が予想できるだろうか。

 世に轟くどれほどの天才軍師であろうと、きっとそれは成立しないに違いない。

 

「いーやいーやせいやせいやチェストァチェストァァア!!」

「静かにしなさい」

「は、はいジョルジュさま!」

「だからジョルジュではないと何度言ったら……」

 

 北郷一刀の自室では、その北郷一刀自身が借りてきた猫状態になっていた。

 先ほどまでの元気も何処へやら、物珍しさよりも不安が上回ると、彼はあっさりその不安に負けた。結果として、一刀が愛用している黒檀木刀を見つけてそれを振り回していたわけだが……振り回すどころか、重さに体が持っていかれる始末だ。

 子供にはまだまだ重過ぎる代物であり、数回振るだけでゼェゼェと息を荒げていた。

 

「これがあの一刀に………………想像出来ないものね」

 

 子供の頃から力があるわけではない。

 そういう将がたまたま傍に居るからといって、近しい者が必ずそうなるわけではない。

 それを改めて知り、一刀が自分や魏という国のために努力した上で、結果として呂奉先にも勝てるほどに強くなったことを誇らしく思う。

 偶然の上での勝利だって構わない。

 そこに確かな努力があり、結果さえもがあったのなら、自分はそれを王としても女としても誇ろう。

 覇王と呼ばれた少女はそう思ってやさしく目を細め、笑った。

 そんな笑顔に軽く警戒心を解いた一刀が、おずおずと言う。

 

「ジョルジュさまっ、ジョルジュさまは世を統べる王様なんですよねっ? どれくらい強いんですかっ?」

 

 それは実に“男の子らしい”質問だった。

 “どんなことが出来る王”なのかよりも、“どれだけ強い王”なのか。

 この世界の子供がそうであるかは別としても、天で育った一刀にとってはそれが一番理解しやすい力関係というものだ。

 ……それはそれとして、質問された華琳としては実に微妙だ。

 即答で“あなたより強ければどうでも構わないでしょう”とでも言う筈だったが、見上げてくる少年の瞳はそれをするには残酷だと思えるくらいに輝いていた。

 そんな“些細”で小さな頃の春蘭を思いだしてしまった時点で、少年の瞳に期待を含ませる時間をたっぷりと与えてしまった。

 即断即決は大事ね、と改めて思った……とある日の出来事。

 こほんと咳払いをして彼女は言った。

 

「少なくともあなたよりは強いわね」

「む……お、俺だって強いんだぞ───ですよ? いくらジョルジュさまが覇王さまでも、俺が女になんか負けるはずが……うわっ! えっ? あ、や、ジョルジュさま?」

「そうね。その目で見なければ説得力に欠けるというのなら、存分に知りなさい。その目とその体とで」

「え、う、うわぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁ───…………」

 

 ───いい天気だった。

 外に出れば気持ちのいい日光浴が出来るくらい、暑いとまではいかないとある日。

 庭に連れ出された少年は、躾けをされるわからず屋のごとく容赦なくボコボコにされて転がった。

 

「う、うぅうう……」

 

 片手しか使わなかった華琳は鋭い目付きで一刀を見下ろす。

 祖父以外には負け知らずだった子供が祖父以外に負けた。

 その衝撃は計り知れず、しかも相手が女であることに強い衝撃を受けた一刀は、悔しそうに……しかしどこか現実を信じられない呆然した風情で華琳を見上げている。

 

「自分というものを知りなさい。強さに男も女も関係ないの。強い者が勝ち、弱い者が負ける。それだけのことよ」

「………」

「あなたは今、命を落とさずに自分の強さと“周りの強さ”を知ったわ。その上で負けないように生きるにはどうすればいいのかしら?」

「! つ、強くなる! なります! そしたらお前のことけちょんけちょんに───!」

「お前?」

「ひぃぅ!? ううぐっ……お前は俺のライバルにしてやる! ぜぇえーったい勝ってやるんだからな!」

「あら。てっきりもう二度と負けたくないとか言い出して、得物を捨てるかと思ったわ」

「うぅっ……そ、そんなことするもんか! 絶対に勝ってやる! 勝てたら負けじゃなくなるんだ! か、勝っ……うぁあああああん!! ジョルジュのばーかばーかぁああ!!」

「え? あ、ちょっ───」

 

 ふるふると震えながら叫んでいた一刀だったが、ついに泣いてしまうと走り出す。

 さすがに泣かれるとは思っていなかった華琳は、そうした動揺の隙を突かれて“追いかける”という選択肢を手放してしまった。

 しばらく呆然と立っていると、なんというか罪悪感めいたものがふつふつと。

 

「なんであれ勝ったというのに、どうしてこんな嫌な気分をしなければならないのよ……」

 

 子供相手に勝利もなにもと思いはしたものの、街で子供に勝ってもこんな気分にはならないだろう。問題なのはきっと、子供とはいえ自分が気に掛けている男性を自分が泣かせた、というところにあるのかもしれない。

 彼女がそれに気づくことは無かったが、しばらくはもやもやした妙な罪悪感を抱きながら、それほど多くもない仕事の再開をするために自室へと戻っていった。

 

……。

 

 その一方。

 初めての敗北、初めて知った女性の強さに驚愕し、泣いてしまった一刀は地を駆け、地理も無いままに何処かへ行こうとしていた。

 こういう時の子供の胸には目的地など必要無く、ただ走ることだけが必要だった。

 心に湧いたモヤを払拭するのは慰めよりも力いっぱいのなにか。

 単純だろうと、単純だからこそ効果はある。

 やがて走り疲れた彼が辿り着いた場所は、屋敷の庭から少し離れた程度の場所。

 知らない世界の外に出たのも初めてな子供が行ける場所など、ぐるぐる回っても近場くらいしか無かった。

 

「はっ……ぅ、ぐっ……ぐすっ……」

 

 泣かされた。

 泣いたというよりは、泣かされた。

 しかも女に。

 そういった意識がどんどんと少年を落ち込ませ、足が止まったら動けなくなっていた。

 悔しいと思うと同時に“情けない”と心が尖るが、明らかに手加減をされたことが“心の尖り”さえも折ってゆく。

 片手だ。

 片手の女に負けた。

 それも、こちらの攻撃をわざわざ待ってくれている存在に。

 

「~っ……!!」

 

 少年の心に火が灯る。

 それは怒りと悔しさを糧にメラメラと燃え盛り、彼にこの世界での目標というものを持たせた。

 

「見てろジョルジュ……! ぜったいにけちょんけちょんにしてやるんだからな……!」

 

 父や母に“女の子にはやさしく、弱い者には手を差し伸べろ”と言われたことがある。

 けれどそれは“戦以外”での話だ。

 戦いとなれば、ライバルにやさしくする奴なんていない。それはライバルに対する侮辱だ。ライバルは常にお互いを高め合う存在でなければいけないのだ。そう漫画に書いてあった。ゲラゲラ笑い合って仲良くする存在をライバルだなんて認めない。

 こうすることがきっかけで正義ではなく悪だと言われるのなら、悪でいいと思える。

 

「強くなればいいんだよな、よしっ! じゃあ…………」

 

 きょろきょろと辺りを見渡す。

 が、見知ったものがほぼない視界に、油断して涙腺が緩みそうになる。

 それをなんとか我慢すると、丁度傍を通りかかった見覚えある顔の手を掴んだ。

 

「? ……ああ、貴様か。こんな場所でどうした」

 

 急に手を掴まれ、見下ろしたのは思春。

 早馬の伝令を走らせ、その報告にと戻るところだった。

 悪意を感じなかったためにすんなりと手を掴ませたが、手を掴む行為に悪意はなくとも、面倒事が起こるという予感がするのはどうしてなのか。

 思春は嫌な予感を頭に浮かべつつも、普段通りの対応で少年の言葉に耳を傾け───

 

「ねーちゃん強いか!? ジョルジュより強いか!? 強かったら俺を鍛えてくれ!」

「………」

 

 ジョルジュ? と首を傾げた。

 耳を傾けてみて早速後悔……というほど大袈裟なものではないが、困惑は当然だ。

 しかしながら難しい顔もせずに一度だけ目を閉じる。

 思考して、目を開くと訊ねる。

 質問するのは一度だけだ。

 

「強くなりたいか。弱音を吐くよりも自分の弱さが悔しく思えるほど、弱い自分を変えたいか」

「変えたい! ジョルジュに勝てるんだったらなんでもやるよ! あ……でも、卑怯なことで勝ちたくない」

「卑怯卑劣を持ち出さずに勝ちたい? 貴様の勝利への渇望はその程度のものなのか」

「ゲームやってるのに殴って気絶させて、その隙に勝ったって嬉しくないのと同じだよ。俺は俺がちゃんと強くなって、実力でジョルジュに勝ちたいんだ」

「…………ところで訊くが。じょるじゅとは誰だ? 私の知る限り、そんな人物はこの都には居なかった筈だが」

「え? なに言ってんだよ。ほら、髪の毛がキンピカで、背なんか他の人よりちっこくとて、えーと……頭の横にトルネードな髪の毛がぴょこんとついた……」

「とるね……?」

「ほ、ほらっ! ぐるぐる巻きの髪の毛の、鎌を持った死神みたいな女だよ!」

「───」

 

 思春は、彼女にしては珍しく思考が停止するのを感じた。

 しかし持ち前の冷静さを無理矢理押し出し、復活に成功する……のだが、同時に気が遠くなるのを感じた。

 “ジョルジュ=華琳様”。

 その方程式が出来てしまうと、自分はこの大陸の覇王を倒す手伝いをしなければならないことになり……いや、もちろん謀反どころか戦を起こしたいわけでもないし、子供の戯言と言ってしまえば片付くのだが……

 

「……!」

「………」

 

 強い意志を以って自分を見上げる少年の目は、何かをやり遂げんとする蓮華の目によく似ていた。そして、彼女を少年に重ねてしまった時点で、その顔が悲しみに歪むのを見る勇気が彼女に湧き出すことはない。

 それに、まあ。

 結局は子供の戯言なのだと、試すつもりで軽く引き受けた。

 どうせすぐに音を上げる。

 子供の意思力など、辛さの前ではもろいものだ。

 

  ……そう、思っていたのだが。

 


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